弟は何かを企んでいる12

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 まぁいいか、と思ってしまったのが多分伝わって、嬉しそうな笑顔が近づいてくる。チュッと唇を吸われて、大好きと囁かれて、俺も好きだと返せば、相手を包む甘やかな気配が濃くなった。
「ね、しっかり捕まって。声、気をつける努力だけ、して」
 ちょっとくらいなら声出ちゃっていいし、辛かったら俺の事噛んでもいいよ。と促されて、ギュッと抱きつく腕に力を込めながら相手の肩の辺りに口元を押し付けてやる。噛むかはともかく、自力で口を閉じるよりは楽そうだと思ったからだけど、相手の服に口を押し付けたせいで香った匂いにクラリと脳内が揺れる気がした。
 ベッドのシーツや枕カバーや致す時に用意されるタオル類も、同じ洗剤が使われているのだから当然なんだけど、こんな場所でこんな体勢なのに、ベッドの中にいるときと同じ香りに包まれて、脳内が錯覚を起こしている。
 これはちょっとまずいかも、と思ったけれど、それを訴えるより早くもう片足を抱え上げられて、ええっと焦ると同時に深くまで挿入されてしまって頭の中が白く爆ぜた。
「ふううううっっ」
「痛っ」
 声を出したらまずいという気持ちだけはなんとか働いて、噛むつもりなんかなかったのに、必死で眼の前の肉に齧り付いて衝撃をやり過ごす。体が勝手に震えて、というよりは内側がキュウキュウと相手のペニスを絞るのを止められなくて、つまりは、多分、イッてしまった。しかももしかしなくても、射精はしてない気がする。
 朝もあまり出なかったけれど、そのせいもあって日中に追加の射精はさせられなかったのに。だから出ないほど出し切ってるってこともないと思うのに。朝以上に、出た感覚が殆どなかった。
「もしかして、イッた?」
 笑うみたいな囁きが耳にとろりと流れ込んできて、必死に頷いて見せれば、動かないからちょっと顔上げてよとお願いされてしまう。見せたくない気持ちと、見て欲しい気持ちとが少しだけ競り合って、でもすぐに、見て欲しい気持ちが勝ってしまって顔を上げる。
 酷い顔をしてる自覚はあるけれど、それを酷い顔だと指摘されないことはわかっていた。というよりは、可愛くて仕方がないと思われて、相手の興奮が増すことを、知ってしまっている。
「ん、ふふ、トロトロの顔、かわいいな。奥、挿れられただけでイッちゃうのなんて、初めてだろ?」
 すげぇ嬉しいと笑う相手の顔だって、かなりトロトロに脂下がっているから、嬉しいのはこっちも一緒と思ってしまう。
「なぁ、奥、めちゃくちゃ感じてるっぽいけど、このまま優しくトントンして、いい?」
 射精なしでイッちゃうかもで怖いかと聞かれて、イッたのはわかっててもトコロテンしたと思われてるらしいと気づく。
 射精を伴わない絶頂でイキッぱなしになるのはどうしたって怖さがあって、奥で感じられるようになってきても、しつこく奥ばかりを優しく捏ねられるのは避けていた。そうそう何度も抱き潰されるわけにはいかない、抱き潰すわけにはいかない、という双方の思惑が一致していて、だからこそ、一度は経験したのにずっと二度目に踏み込めない。という状態は、間違いなくここにも影響していた。
 射精なしでイキッぱなしになれば、また奥が開く可能性だって高いのはわかっている。でもそこにすら、躊躇ってしまって到達できていなかった。
 このおためし同棲みたいな期間でそこを超えるつもりでいたし、もう一度抱き潰されようともしていたのだから、こちらとしてはもっとされたいのが正直な気持ちだ。
 優しくとんとん捏ねられて、イキっぱなしにして欲しいし、それで奥が開いたら奥まで来て欲しいとも思う。でも、抱き潰す気がないなら、何度も射精なしの絶頂をさせる気はないんだろうな、とも思ってしまう。
 イキッぱなしになるも怖いけど、今はそれよりも、そうなれないまま終わられるのが怖い。体の負担を考えてここまでにしとこうか、って、優しい気遣いで引かれてしまうのが怖い。
 弟が思うよりもずっと、既に体はエロエロに変えられているし、それを持て余している。
「怖いなら無理しなくていーよ。大丈夫。いつも通り、って言うには状況違いすぎるけど、ちゃんと一緒に気持ちよくなれるし、するからさ」
 じわっと目に涙がたまり始めると同時に、弟が安心してというようにそう口にしたけれど。
「ち、ちがっ、ちがう、されたい、してっ」
 やっぱり期待する気持ちのほうが強くて、慌ててして欲しいと縋ってしまった。
「それ、本気で言ってる?」
「ん、本気。されたい。したい。けど」
「けど?」
「ばしょ、ベッドが良い。し、出来ればその先まで、されたい」
 お願い抱き潰して、と、とうとう口に出してしまえば、やはり随分と驚かせてしまったらしい。

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弟は何かを企んでいる11

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 解すと言うよりはローションの滑りを足しながら柔らかさを確かめられた後、早々に片足を抱え上げられ挿入された。準備済みで出かけるのが初めてなので当然だけど、脱いでから挿入までがこんなに早いのは初めてで、なのにとっくに焦れていた体はあっさり快感に引きずり込まれてしまう。
「ん、ぁっ」
「ヤバいね。既に顔トロトロ」
 かぁわいいと甘ったるく耳元で囁かれる声にさえ、快感が呼び起こされて肌が粟立った。
「ぁ、ぁっ、だ、ってぇ」
「だって準備万端で、ずっと挿れてもらうの待ってたんだもんな」
 締め付け凄いねと言いながらも、その抵抗をものともせずにぬるぬると浅くペニスを出し入れされて、気持ちがいいのに全然足りないと思う。お腹の奥がキュンと疼いて、息があがっていく。
「あ、あっ、それ、おまえ、がっ、準備する、からぁ」
「でも感じちゃうとこ弄んなかったじゃん」
「も、全部、きもちぃ、から無理ぃ」
 お前に指を挿れられたらそれだけで感じちゃうんだと、そんな体になってしまったんだと、半泣きで訴えれば弟は嬉しそうに笑いながら、知ってる、と言った。
「兄貴の体、毎日俺に愛されまくって、俺にされることは全部気持ぃって、覚えたんだもんな」
 前よりずっとエッチな体になったよねと、やっぱり嬉しそうに笑う顔はどこか獰猛だ。
「ううっ、なに、言って」
「うんとエッチになった体持て余して、兄貴っから、俺に抱かれに来てくれたら良いなぁ、みたいな?」
「おまっ、えっ、ちょっ」
 なんだそれ。聞いてない。てか最近こんなのばっかりだ。
「なんてな。まぁ、そんな都合よくエロエロな体になるとも思ってないから、兄貴がしてって来てくれたら俺はいつでも歓迎する、ってのだけ覚えててよ」
「ばぁか、も、ほんと、ばかぁ」
「知ってる」
「知ってない!」
 わかってないと憤っても、与えられる快感に思考がぐずついて、うまく言葉にできない。
「あ、あっ、あ、も、やだぁ」
「何が嫌?」
 どっか辛いかと聞かれたけど、そこは正直に、全部キモチィと返してやれば、おかしそうに肩を揺すりながら、素直なのかぁいいねと言って、じゃあもっと気持ちよくなろっかと、ぐっと深めに突いてくる。
「あぅんんっっ」
 玄関だから声は控えないと、というのを忘れてなかったので、必死に声を噛んだ。
「ごめんごめん。でもめっちゃいい顔してる」
 声我慢きつい? と聞かれて、まだ耐えられると首を横に振ったけれど、しんどくなったら部屋に移動しようなと言ってくれたのは、正直ホッとする。
「あと、やっぱ奥、すごいね」
 ぎゅんぎゅん絡みついてきて、もっとって強請られてるみたいだった、と言われて、実際ねだってるんだよ、と思ってしまう。だって奥を突かれたのは一度きりで、今はまた浅い場所ばかりをゆるゆると前後されていて、お腹の奥の疼きは酷くなる一方だ。
「は、はぁ、あ、も、もっとぉ」
「ん? 奥?」
「ん、うん」
 して、とねだってしまえば、その前に何が嫌なのか教えてと返されて、一瞬意味がわからなかった。
「いや?」
「今さっき、もうやだぁ、って」
 言ったろと言われて、そういえば言ったかもと思う。
「で、何が嫌なの?」
 快感で思考が蕩けてるのがわかっているのか、それとも答えるまではお預けなのか、動きを止めて待たれてしまう。仕方なく、その直前、何が嫌だと思ったのかを考える。
「ん……だって、お前が、そうなって、って言ったら、なっちゃう、から」
「ああ、俺が兄貴から抱かれに来てって言ったから、エッチになった体、持て余すようになっちゃうってこと?」
「そう」
「まぁそれも、ちょっと狙ってるとこある、かな。だから言ってみたわけだし」
 だって好きな子には奉仕的なんだもんな、と続けた後、兄貴は本当に俺に甘いよねと嬉しそうに笑う。それだけ大好きなんだって、ちゃんと、伝わっている。
「で、でも、えっちなからだ、持て余すのは、困る」
「だいじょぶだいじょぶ。そんな簡単にエロエロな体にはならないとも言ったじゃん。エロい気分になった時には、ちゃんと俺のとこ来てね、ってだけだって。それに、もし持て余しそうなら持て余す前においでよ」
 それで問題ないだろと、甘い声になだめられる。
 全然問題なくないけど、でもまぁいいか、と思ってしまうあたり、本当にちょろくて甘い。でもそれもやっぱり、大好きが伝わってるならまぁいいか、と思ってしまう。

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弟は何かを企んでいる10

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 今までのデートは駅周辺ばかりだったし、親にもご近所にもバレたくなくて、自宅近辺を一緒に歩くことすら避け気味だったから、人の少ない住宅街を並んで歩くだけでも新鮮だった。
 更に言うなら、出かける時はまだ明るかったけれど、夕飯を食べて買い物をした帰りはしっかり暗くなっていたから、人気が全く無かった道では手を繋いだりもした。だけじゃなく、触れるだけだったけれどキスまでした。
 ねぇ、と甘やかに呼ばれた次の瞬間には荷物を持たない方の手を取られていて、どうしたと振り向いた時には相手の顔が寄っていた。弟は、いつかこういうのもやりたかったんだよねと満足そうに笑いながら、掴んだ手を恋人繋ぎに変えて歩き出すから、俺も、と短く応えてその手を握り返した。
 いくら弟が人目を殆ど気にしないとは言っても、外でここまではっきり恋人として触れられたことはない。弟ほどには気にせずにいられない、こちらを気遣ってくれていたんだろう。
 まぁ、ふとした瞬間に耳元に口を寄せてきて、可愛いだとか好きだよとか囁いてくることはあったし、一緒に食事をするだけでもその後を期待して気持ちを昂らせてしまうのだから、傍から見たら充分すぎるくらい男同士でイチャついて見えるのかもだけど。でも、ここまであからさまに触れ合うことは、なかった。
 そんなデートをして、期待しないわけがない。しかも玄関エッチが確定していて、出かける前に準備までしているのだ。下着を汚さないようにローションはかなり控えたけど、お腹の中を洗って、けっこうしっかり解してある。
 もっと言うなら、事前に準備をして出かけるデートは初めてなのに、今のこの状況で、弟が黙ってこちらに準備を任せてくれるはずがない。つまり、弟に指を突っ込まれたら気持ちよくして貰えるって覚えてしまった体が、実質お預け状態でもあった。
 出かける前の準備でしかないんだから、今回は自分でするし、したいし、お前にされたら感じちゃうからヤダって言ったのに。感じるとこ弄ったりしないからの言葉に押し切られたのを、少しばかり後悔している。
 めちゃくちゃ興奮してんね、と嬉しそうに指摘されたのは、マンションに戻ってきた直後のことだ。明るさがグッと増したせいで、帰路の途中で相当気持ちを昂らせたことに、気づいたんだろう。
「ここで言うな、バカっ」
 ここはまだエントランスを抜けただけの共用廊下なのに。さすがにもう手は放していたが、辺りに人の気配がないせいかそこそこの声量だったから、小声でそう罵って足早に部屋へと向かった。
 照れ隠しと早く触れ合いたい焦燥がメインで、本気で機嫌を悪くしたわけじゃないとわかっているんだろう。弟は慌てることなく、むしろ笑いを噛み殺す気配を滲ませながら、それでも遅れることなく着いてきた。
 鍵を開けている最中から肩を抱かれて、ドアを開くと同時に玄関に雪崩れこんで、触れるだけじゃないキスをする。
 口の中のキモチイイところを舌先で擽られて、絡めた舌を吸われて、あっさり腰が砕けて座り込みそうになるのを、弟の逞しい腕が支えてくれる。けれど力の抜けた手からは持っていた買い物袋が落ちてしまって、その音でお互いちょっと冷静になった。
「ごめ、落とした」
「そっち割れ物入ってないから平気。でもとりあえず、靴、脱ごっか」
 うん、と頷いて、モタモタと靴を脱いでいる間に、弟がささっと落とした荷物を拾って、自分の荷物と合わせて廊下の端に置いてくれる。そのあとカチャリと小さな音が響いて、どうやら今になってやっと鍵を締めたらしい。
「もしかして、お前も結構、余裕ない?」
 聞けば、当たり前だろと、呆れと憤慨の滲む声が返された。
「兄貴がデート楽しんでくれて、エロいこともすげぇ期待してて、こんな可愛いことになってんのに、余裕なんかあるわけない」
 嬉しいな、と思ったままを口に出せば、兄貴ってそういうとこあるよねと苦笑される。
「俺が余裕なくしてがっつくの見るの、好き?」
「お前、言うほど余裕なくしてがっついたことってないと思うけど。ただ、情熱的に求められるのは、好きだよ。余裕持って、じっくりトロトロに愛されるのも、好きだけど」
 知ってる、と嬉しさがあふれるみたいな笑みを零しながら、弟の手が靴箱の上に用意していたローションボトルへと伸びて行く。
「じゃあ、急かして悪いけど、余裕ないし自分でズボン脱いでくれる?」
 わかったと頷いて下着ごと脱ぎ去るその間に、弟はローションを手のひらに垂らして捏ねている。
「上は?」
「そのままでいーよ」
 そっちのが玄関で盛ってるって感じで興奮する、という意見には賛成だ。
「わかった」
「あ、ちょっと待って」
 立ってするときはいつも、慣らす段階から壁に手をついて相手に背を向けるのに、ストップがかかって動きを止めた。
「今日は前からしたい」
「えっ?」
「風呂場だと裸だし、万が一滑ったりで危ないかなって思ってたとこあるけど、服着てれば背中壁に押し付けても擦れて痛くなったり防げそうだし、向かい合ってしてみよ」
 やったことない体位に戸惑うとこも、キモチクなっても玄関だからって必死に声噛む顔も、全部見たい。らしい。
「風呂場で声我慢して貰った時も凄ぇいい反応してたし、あのとき、顔見れないの残念だなって思ってたんだよな」
 こんなに早く次の機会があって嬉しいと言われて、初日の風呂場で口を塞がれながら抱かれたことを思い出す。中がめちゃくちゃうねって弟のペニスに絡みついたことを、覚えている。

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弟は何かを企んでいる9

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 休みが始まってから今日で4日目になる。
 昼食を前に、思わずはぁあと大きなため息を吐いてしまえば、テレビに向かって横並びで座っている弟の視線が横顔に刺さった。
「んなエロいため息吐いて、どうかした?」
 エロいため息、と指摘されてギクリとする。
 ついさっきまでベッドの上で気持ちよく喘いでいて、本日の一発目だって出しているというのに。しかも連日出しまくってるせいで、量も少なかったし色も随分薄くて、ザーメン生成追いついてないなって笑われたのに。
 そんなにやってて、まだ、物足りなさを持て余してるだなんて。
「ちょっと一旦エロいことするの止めてみる?」
「えっ? なんで?」
 エロいって指摘からなんでそうなる? という驚きに、思わず振り向きまじまじと見つめてしまったが、相手はどこか気まずそうな顔をしている。
「調子乗ってやりまくってるせいで、いい加減疲れたよな、って思って」
 やり疲れてる感じがエロくてすげぇ唆るけど、と少し茶化すみたいに告げた後。
「でも連日抱くのなんて初めてだし、毎日結構な数イってるもんな。さっきも朝なのに薄いのしか出なかったじゃん?」
 無理させたい訳じゃないからさ、と続く声は酷く優しい。
 優しいのに、優しいから、その優しさが胸に痛い。
 だって、この物足りなさにはやっぱり全然気付いてないんだと、気遣われる嬉しさより先に落胆してしまった。
「無理なんてしてないよ。だってお前、かなり加減してくれてるから。こんな毎日やってても、特に体にダメージ来てる感じ、ない」
「なら、良かった。あ、じゃあ、デートでもする?」
「えっ!?」
「体辛くないなら、外、出るのもありかなって。ずっと家に引きこもりっぱなしってのも、体に悪そうだし。あと、そろそろ一旦買い出しには行きたいんだよな」
 食材だいぶ尽きてきたしと言われて、そりゃそうだよなと思う。
 いっぱい食うからと冷蔵庫はかなり大きなものを購入していたが、初日の夜から毎食弟がしっかり用意しているのだから、1週間も食材が持つはずがない。むしろよく4日目の昼まで保ってるなと思うべきなのかも知れない。
 常備菜とかも色々教わったとか言ってたし、自炊修行の成果が凄い。
「買い出し……」
「さすがにラブホ行こ、とかは思わないっつーか、家でやりたいのは譲れねぇけど。でも飯食いに行くのとかは全然有りだな。一緒にスーパー行くのも、一緒に暮らしてる実感湧いて、俺は絶対楽しいと思うんだけど」
 兄貴は? と聞かれて、全然有りだしきっと楽しいと返せば、だろ、と嬉しそうに笑う。
「でもデートなんかしたら、俺、間違いなく抱かれたくなるよ?」
 デートだけして抱いてくれないとか、狙った焦らしプレイだとしてもお断りしたい。というか、エロいこと一旦中止をどうにか中止させたい下心満載でもある。
 あんなにやってて物足りない、を申告するのはさすがに躊躇ってしまうが、デートするならちゃんと抱いて、なら言いやすい。
「兄貴が体しんどくないなら、俺としては大歓迎だけど」
 本当にやり過ぎてない? 大丈夫? と確認されてしまうくらい、疲れた顔を見せているんだろうか。と考えて、多分違うな、と思う。
 物足りなさを抱えてしまう葛藤というか、若干気落ちしてるのを、やり疲れと思われているんだろう。
「体はホント、平気だから」
「あ、じゃあ、玄関でヤルのも、やってみる?」
 有りなんだろ、と言われて、確かにそう言ったけど、と思う。でもそのあと、真夏の玄関暑いからな、と考えを翻したことは、そういや言ってなかった。
「けど、玄関、エアコン効いてないんだよな」
「あー、まぁ、夜だし、保冷バッグと保冷剤でなんとか」
「保冷バッグ???」
「あ、暑いって、兄貴の話か」
「え、じゃあ、お前は何の話してんの?」
「買って来る食材の話」
 冷蔵庫しまってから改めて玄関行ってやりましょうとか、そんなの意味ねぇだろ。と言われてしまえば、確かにと頷くしかない。
「兄貴が暑いってのも、まぁ、夜だし。熱中症とかヤバそうって思ったら、ちゃんと途中で場所変えるからさ」
 そんな場所で興奮が増すのは自分の方、という認識があるから、取り敢えずやってみようと相手の方が乗り気なのは、正直言ってホッとする。

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弟は何かを企んでいる8

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 抱かれる前にお腹の中を空っぽにして洗う、という部分も、この生活でかなり曖昧になってしまったと思う。なんせ、気づいたらベッドの上で喘いでいるのだ。その時に抱かれるまでするか、指だけで終わってしまうかは弟の気分次第なところがあって、もちろん、こちらが焦れて頼めば最後までしてくれるけど、毎回こちらが頼むまで抱いてくれないってわけでもない。
 想う相手に求められたら嬉しいのはお互い様だろうから、焦らされてると感じたら欲しいと口に出すのを躊躇うことはしないし、こちらばかりに欲しがらせない配慮もちゃんとされている。だからそこに不満はないんだけど。
 でもまだきっと、この先がある。
 あからさまに感度が上がったことも、抱かれる前にしっかり体の中を洗わなくてもキモチイイに集中できるようになってしまったと言うか、そこまで気にしなくなってしまったことも、間違いなく、弟の狙い通りだろう。
 別にそれがダメだとか嫌だとかってわけじゃなくて、こうなりたいとかこうしたいとか、もっと言語化して伝えてくれてもいいのに、とは思う。だって、こっちは自分のベッドでしたいとか、家の中でエロいことがしたい、程度にしか聞いてなかった。
 まぁ無理なのかな、って気もしてるけど。だってあいつ、脳筋だし。
 基本的には欲望に忠実で、そのための努力や労力を惜しむことがないけど、効率とかは多分あんまり考えてないし、色々実践してみて効果があったらラッキーくらいの感覚派っぽい感じがする。でもって、実は結構気が長い。
 この先があることは知っていて、それを狙っているのは確実で、でも、このお試し同棲みたいな一週間であれもこれもとは思ってない可能性は高かった。いずれは一緒に住む前提だから、一緒に住むようになってからでも全然遅くないとか思ってるかも知れない。
 だから問題は、多少無茶をしてでもさっさとその先へ辿り着きたいと考えてしまう、自分自身にあるんだろう。
 相手はこっちの体を相当気遣ってくれているのに。キモチイイは充分以上に貰っているのに。可愛いだとか好きだとか、何度もしつこいくらいに繰り返して、心もちゃんと満たしてくれるのに。
 でも、だって、その先の快感を知ってしまっている。怖いくらいに気持ちよくて、何度も頭の中が白く爆ぜて、泣きたいくらいに幸せで満たされたあの時間を忘れられない。
 犠牲は確かに大きくて、相手は絶対、無茶をさせたと思っているけど。翌日の、起き上がれないこちらを前に慌てまくったことも、しょぼくれきった顔も、忘れてないけど。
 だから、もう一度したいとか言えないんだろうなって、わからないわけじゃない。でも言えないだけで、したい気持ちは間違いなくあると思う。
 だって、奥を突かれて痛いよりキモチイイ感じに体が変わってきたことを、めちゃくちゃ嬉しそうにしてたし。もっと奥に入りたいのかな、って動きをされたことだってあった。
 正直言えば、あの時は体が勝手に開いて、何がどうなってそんな深くまで入ってこれたのか、自分でもよくわかってないし、弟も多分わかってないんだろう。だからこっちの体の負担を考えながら色々試して、二度目が起こるのを待っている……のかも知れない。というか多分、そう。
 こっちだってその二度目を待ってるんだけど。ちょっとくらい無茶されてもいいって思ってるんだけど。なんてのは思いつきもしなくて、しかも、無茶していいからって直球でねだったら多分嫌な顔をするんだろう。もっと自分の体大事にして、って怒られそうだ。
 いやまぁ、直球でしてってねだるのなんてかなりハードルが高いから、実際にそんなことを口に出来る可能性はかなり低いけども。
 だって、いくら恋人になったからって、弟にこの関係を終える気が全く無いからって、あんな風に感じる体になる抵抗感はどうしたってある。もう知ってしまってるのに、あの快感を当たり前に求めるようになったらと考えるのは怖かった。もう一度を期待するくせに、不安や恐怖はしっかり抱えている。
 この膠着状態が見えているのは間違いなく自分だけだ。そして多分、自分から動かないとこの休みのうちに進展するのは難しい。
 弟みたいにもっと気長に、いつかはもう一度、とか思えれば良いんだけど。でも感度を上げたり、抱かれる前の処理を曖昧にしたり、なんてのが弟の狙いに入ってるとか思ってなくて、抱き潰される気満々で来てしまったというか、要するに、めちゃくちゃ期待してた反動が身の内に燻っている。
 だって、この休み中にもう一度、ああなれるんだろうって思ってた。
 なのに初っ端から抱き潰さない宣言をされてしまった上に、体の負担がどうとかで指でばっかり弄られて、合間合間にちゃんと気持ち良く満たされるようなセックスもしてるはずなのに、足りないって思ってしまう。
 3週間、オナニーすらしなくても平気な体だったはずなのに。なんでこんなことになってんだろうと思わずにいられなかった。

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弟は何かを企んでいる7

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 弟に抱かれるようになった初期から、突っ込まれるこちらの体の負担を考えて欲しいと散々訴えたし、過去の交際で色々あったようで、弟自身にもセックス時に相手を気遣い加減するという機能が備わっていたので、弟の体力と精力に合わせて無茶をされた事はない。
 事後の体に思いっきり影響が出たのは恋人になって最初のセックスくらいだけど、タガが外れて求めまくったのはこっち、という認識だし、意識が飛ぶほどイッて、事実抱き潰されて終わらざるを得なかっただけで、弟にはまだまだ余裕があったのもわかっている。翌日の惨事と翌々日の仕事を休んだ事実があるので、その後のセックスでも、一度に数回イカされるようにはなったけれど、それでもかなり気遣われながら抱かれていた。
 つまり、いつでもセックス可能という状態で一週間も一緒に過ごしたら、さすがに弟が満足行くまで相手が出来るはずだ、とは思っていた。前半ならちょっとくらい無茶をされてもいいって思ってたし、それこそまた抱き潰されるのも全然有りだったんだけど。抱き潰さないけど数日掛けて抱き潰すのと同じかそれ以上にイッて貰う宣言はあったから、加減はするけどやりまくるつもりはある、と思ってたんだけど。
 いやまぁ、寝るか食べるかエロいことするか、以外がほぼない状態で一日を過ごしてる時点で、やりまくってると言えないこともないのか。でも思った以上にイチャイチャの比重が高いと言うか、突っ込まれて揺すられて気持ちよくなる今まで通りのセックスが少ないと言うか、抱かれているよりも弄られて気持ちよくなってる時間が明らかに多くて、なんかちょっと、想定してたのとは違う感じで日々が過ぎていく。
 弟が借りた部屋は大きめのリビングに部屋が一つの1LDKだけれど、ワンルーム+予備部屋的な使い方をしていると言うか、大きなベッドがリビングにドンと置かれている。ベッドとテレビの間にローテーブルが置かれていて、ようはベッドがソファ代わりにもなるというか、ベッドでゴロゴロしながらテレビも見れるというか、つまりはリビングだけで生活が出来る状態になっている。
 出来れば合流後に自分の部屋というか、持ち帰りで仕事をする場合に集中できる場所が欲しいとは言ったけど、まさかこんな状態になってるとは思ってなかった。それぞれ部屋が持てるように、もうちょっと援助してもいいから2LDK借りればという提案は、一緒に寝るつもりなのにそれぞれ部屋持つ理由がない、って言われて、それで納得してはいたんだけど。1LDKなら、必要なときは寝室にこもって作業して、って意味かと思っていた。
 弟的には、部屋の方はベッドを入れたらそれだけでいっぱいいっぱいになってしまうし、そもそも寝室だけ分ける意味がわからない、らしい。なので現在その部屋は、弟の筋トレグッズだけが置かれた筋トレルーム扱いだ。
 寝室という境目がないせいで、気づいたらベッド上で喘いでいる、という状況がしばしば起こっている。弟に抱き抱えられながらテレビを見ていたら、悪戯な手があちこち撫で擦ってきて、いつの間にかテレビそっちのけで感じる方に夢中になっている、ってやつだ。他にも、食後のお茶をしてたはずが、目があってキスをして、どちらかが舌を伸ばせばあっさり深いキスになって、ムラっと来たらすぐ近くにベッドがある。そんなのもう、あとはそっちに流れる以外ない。
 なんかおかしい、と思うのは、ベッドの上で喘ぐ頻度は多いのに、抱かれるまで至らないどころか、弟がイカずに終わってしまうことも多いところだ。もちろん、相互オナニー的に互いに吐き出して終わる時もあるけど、弟だけがイッて終わることはない。まぁ、それは主に、こちらがその気にならないってことがないせいなんだけど。
 たいがいこっちが先にその気になっているから、弟だけがムラっとなって、取り敢えず手とか口で処理して、なんて状況にならないのは仕方がない。でもお尻の中を指で搔き回しておいて、突っ込まずに終わるってどういうこと?
 いや、一応理由は聞いてる。指とちんぽじゃ体に掛かる負担が違うだろ、らしい。つまり、抱き潰す気はないけどいっぱいイッてもらう、を実践するとこうなる、ってことのようだ。ついでのように、兄貴はもうちょい頻繁に出す癖付けたほうがいいよ、とかなんとか言われた気もするけど。
 実際、イカされまくってる割に体の負担は少ないと思う。あと、突っ込まれた時の感度が明らかに違ってきてる気もする。
 結構ひっきりなしに体の感度があがった状態にあるせいと、指だけじゃちょっと物足りないというか、イッてるのに実質焦らされている状態になってて、ちゃんと抱いて貰えてるっていう充足感がプラスされるからだろう。

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