今更嫌いになれないこと知ってるくせに26

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 口もして、という可愛いおねだりに否を返すわけもなく、その唇を塞ぎながらとうとうベッドに押し倒す。軽いキスを繰り返しながらもさすがにこれ以上はと自制していたのに、相手からぺろりと唇を舐められ誘われ、結局最後は深く口付けてしまった。とは言ってもなるべく相手の性感を煽るような真似はせず、深く触れ合うことが目的だった。
 けっこうな長さで繰り返すキスの合間に様子をうかがう相手が、少しづつ満たされて表情が緩んでとろけていくのが可愛らしい。やがて呆けたようにぼんやりとして、触れ合う舌の反応が随分と鈍くなったところで、もっと続けるかと問いかける。
 言葉は出ないようだったが緩く首を振って否定されので、頷いてその隣に寝転んだ。それを視線で追ってくる甥っ子は、首だけこちらを向いて見つめてくる。
 なので仰向けにはならずに横向きになって、顔だけは向かい合うようにした。肩を引き起こし甥っ子も横向きに変えてしまっても良かったが、触れたらまた抱きしめてしまいそうだったからだ。
「なん、か……」
「どうした?」
 舌っ足らずに吐き出されてくる声に、優しく先を促した。
「嘘、みたいで。夢、じゃないよね?」
 恋人になれたって思っていいのと不安げに尋ねられて苦笑する。
「お前に、覚悟が出来るなら。と言っても多分、お前はとっくに覚悟決めてそうだけど」
「覚悟って?」
「親に、というかお前の立場でだと両親と祖父母か。もし知られた場合、どうなると思ってる?」
 最悪お前も俺も家族捨てる事になるぞと続けたら、びっくりしたように目を瞠るから、こちもびっくりしてしまう。
「そういう事、全然考えたことなかった?」
「えっと……じーちゃんとばーちゃんに関してなら大丈夫。じゃないかなぁ……」
 躊躇いがちではあるが、その発言から不安はほとんど感じられなかった。彼にはなんらかの確信があるようだ。
「なんで?」
「いやだって、俺がにーちゃん大好きなの知ってるもん。てか応援してくれてたし」
「は? いやいやいや、ちょっと待てよ。応援? んなバカな話信じられるか」
「え、だってにーちゃんとこの側の大学なら生活費援助してくれるとか、めちゃくちゃ応援されてない?」
「いやいや、それ恋愛的な好きってわかってないだろ。俺たちが恋人として付き合う事になった、なんて言っても生活費援助の話がそのままとは限らないぞ」
 ちゃんとわかってると思うけどと、やはり躊躇いがちに返されて、再度なんでそう思うのかと問いかける。
「それはさ、俺、ばーちゃんに、にーちゃんのお嫁さんになりたいって言った事あるから?」
「いつ!?」
「にーちゃんが大学生の頃」
「なんだ。あんま脅かすなよ。小学生の話なんてそこまで本気にしてないだろ。お前が俺に懐きまくってたのは事実だし、俺が居なくなって寂しいんだくらいにしか思わなかったんじゃないか?」
「あー、うん、それ言ったとき、もう中学生なってた。あと、料理習うとき、押しかけ花嫁する気なのって笑われたから、そのつもりって言っちゃった」
「ちょっ、……」
 予想外の話に若干気持ちが付いていけずに言葉が詰まった。その時の母の返答について尋ねる声は、若干震えていたかもしれない。
「で、母さんはなんて?」
「じゃあしっかり覚えなさいって言って簡単なの色々教えてくれたよ。実際にーちゃんも、食べてすぐわかるレベルの作れてたろ?」
 確かにそうだ。しかしそれは本当に応援と思ってしまって良いのだろうか?
 そう思ったところで、先ほどの義兄との会話も、そういえばやけにスムーズに進んだ事を思い出す。
 どこまで知ってるか尋ねた時に、大好きな君に振られたようだと言っていたセリフを、聞いた瞬間は懐いていた叔父にキツく拒絶された的な意味で言っているのだろうと思っていた。けれどその後の流れを考えたら、あれはやはり恋愛的な意味で使われたものだったんだろう。
 義兄を嫌ってないと必死に言い募ったくらいで、義兄を恋愛的意味合いで好いていたと気づかれたのも、自分と甥との問題が恋愛的なものという認識があったからだと思った方が納得がいく。
 更に言うなら、甥っ子と逃げずに向き合うための、最後の勇気を与えてくれたのも義兄だった。好きだから逃げたのではなく、好きになってしまわないよう突き放して逃げた。その結果が今なのだと言って、少しばかり泣いてしまった後の事だ。
 出来たらそれ教えてあげてと、義兄は酷く優しい声で言った。親子二代で苦しめてごめんとも、もう一人で背負わなくていいからとも言われた。
 きっちり全部見せて話し合ったら、二人共が幸せになれる道も見つかるかもしれないよと言った義兄は、その後親馬鹿なんだけどと前置いて、うちの息子は結構いい男に育ってると思うんだよねと笑った。
 まだまだ子供に思えるかもしれないけど、君の不安や葛藤を受け止められるくらいの度量はあるんじゃないかな、なんてことを誇らしげに言われてなければ、冷たい視線の甥っ子とここまでしっかり対峙できなかったかもしれない。

続きました→

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに25

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 焦って思わず立ち上がったものの、泣いている甥っ子を抱きしめ慰めるなどという行為が、果たして自分に許されるのか。ベッドに腰掛ける甥の傍らにまで近寄ったものの、触れることが出来ないまま立ち尽くした。
 甥っ子の涙はボロボロと流れ落ち、時折苦しげにしゃくりあげている。
「悪い、また、傷つけた。本当に、ごめん」
 何がここまで甥っ子を泣かすことになったのか、正直いまひとつわかっていなかった。けれどどうしていいかわからなくて、オロオロと謝罪を繰り返す。
 そんな中、嗚咽と共に甥っ子が、途切れ途切れに言葉を紡いでいく。しゃくりあげながらの言葉は聞き取りにくく、腰を落として膝立ちになり、やや下方から覗き込む形で甥っ子の口元に耳を寄せた。
 いわく、仕返しなど考えておらず、ただ好きだから抱かれたい。両想いでするセックスに期待して何が悪い。ということらしい。
「いやだって、お前、こんな俺のこといい加減嫌になってるだろ?」
 あまりにビックリして問いかければ、真っ赤な目で睨まれた。
「嫌いだって繰り返し言えば嫌いになれるなら、こんなに苦しんでない。にーちゃんだって父さんのこと引きずりまくってたくせに。気持ち受け入れてもらえないからって、今更嫌いになんてなれないこと、にーちゃんだって知ってるだろ」
 やはり途切れ途切れに、必死に絞りだすようにしてそう告げると、その後は耐え切れないと言った様子でわんわんと声を上げて泣き出してしまう。
 こんな風に泣かれるのは二度目だ。あの夜は嫌いだと言われまくってそれなりに凹んで居て気づかなかったのか、それとも下から見上げるこの体勢のせいなのか。泣きじゃくる顔に、幼いころの面影がかなり色濃く見えている。昔も泣きじゃくって居る時には、視線を合わせるために屈んで、俯く相手を下から覗き込んで相手をしていた。
 昔はどうやって慰めていただろう?
 思い出しながら伸ばした手で頭を撫でる。触れた瞬間だけビクリと肩が跳ねたけれど、前回同様、その手を拒まれることはないようだ。
 そのまま若干引き寄せるように抱きしめて、トントンと背中を叩いて宥めながら、マイッタなと思う。考えてみたら、昔甥っ子が泣きじゃくっていた時の理由には、自分の非がほとんどない。いたずらをして叱られたとか、ワガママを通そうとして叱られたとか、要するに、甥っ子がごめんなさいと言って泣くことがほとんどだった。
 今回ごめんなさいをしているのは自分のほうで、昔とは真逆の立場に必死で掛ける言葉を探す。残念ながら過去はまったく参考にならなかった。
 しかし現状、何を言っても傷つけてばかりの結果しか出ておらず、その事実を認識しただけで気持ちが沈む。臆病になる。
 なのに腕の中の甥っ子は、やはりこの前の夜と同じように、おずおずと擦り寄って肩口に額を押し当ててくる。今回は嫌いだという言葉はなく、聞こえてくるのはただしゃくりあげる時の苦しげな呼気だけだった。
「好きだよ。お前が好きだ」
 ふと、これが今の彼に出来る精一杯の甘えなのかと思ったら、なんだか酷くいじらしくて、言葉はするりとこぼれ落ちた。しかも短いながらも、俺も、などと泣き声に混じって返されれば、愛しさがあふれてたまらなくなる。
「うん。泣かせてばっかりでとっくに嫌われてる、現在進行形でもっと嫌いになってるだろう、って思ってたけど、そう思い込むことが既に俺の独りよがりだったよな」
 ごめんなと言ったら、肩口に置かれた頭がフルフルと振られて、小さな謝罪が耳に届いた。
「いっぱい嫌いって言ったの、俺の方だから……」
 どうやらこちらが嫌われたと思うのは仕方がないという事らしい。
「それ言ったら、お前にあれ言わせたのだって俺だろうが」
 辛いことをたくさん言わせたことを謝れば、甥っ子が小さく笑う気配がして、部屋の空気がふわりと和んだ。
「にーちゃんずっと謝りっぱなし」
「あー……まぁ、謝って済む話でもないってのはわかってるけど、それ以外どうしていいかわかんないんだって」
「じゃあもっといっぱい好きって言ってよ。ごめんって言われるより、今はそっちが嬉しいよ?」
「好きだよ。凄く、好きだ。あーもう、お前ほんっと可愛いんだけどっ」
 言いながらギュウギュウに抱きしめてやったら、腕の中で楽しげな笑いが起こる。やっと顔を上げた甥っ子は、目元も鼻の頭も真っ赤なままだったから、衝動的にそこへ何度も口付けた。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに24

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 想いがあることなど告げないほうが、彼にとっては良かったのだろうか?
 そう考えて不安に気持ちが揺れる中、甥っ子の発する声が淡々と響く。
「もしそれが本当だったとして、だからそっちの大学受けろってなら、いくらなんでもそんなの勝手すぎる」
 確かに本当に勝手なことを言っているとは思う。けれどその言葉には訂正を入れて置きたかった。
「本気で言ってるし、勝手なのも承知してる。でも、だからこっちの大学受けろとまでは言ってないだろ」
「そっちの大学受けろって言いに来たくせに」
「お前が本当に行きたい大学を狙えと思ってるだけで、親の気持ちを汲んでこっちの大学を候補に入れただけで、本当は遠い方の国立に魅力感じてるってなら、そっち狙えと思ってるよ。問題は大学の場所じゃない」
 じゃあ何、という質問には、お前が俺みたいにならないことだと返す。
「にーちゃんみたいにって、俺も逃げ癖が付いて臆病者になるって?」
「お前は俺よりしっかりしてるから、ただ逃げるのとは少し違うかもしれないけど。それでもお前、遠くの大学行ったら俺がやってたみたいに、実家にはほとんど寄り付かなくするもりじゃないのか?」
 少しだけ動揺の色が見えたから、多分、当たっているんだろう。
「現実に今、お前は受験勉強を笠に着て部屋引きこもってるだろ。でもそれ本当の理由は、義兄さんと顔を合わせるのが辛くてなんだろ? 俺が、お前と義兄さんが似てるって言ったせいで。それを理由にお前を拒んだせいで」
 どうすればいいかと聞いたら、どうすればって何がと聞き返された。
「今更お前を好きだと言ったって、すぐには信じられないかもしれないし、それで傷つけた過去が変わるわけでもない。俺のこと嫌いだって何度も繰り返してたよな。それを今更、もう一度好きになってくれと言ってるわけでもない。そんなこと、言えるわけがない」
 甥っ子は何か言いたげに一瞬口を開きかけたが、言葉はないまま結局また口を閉ざしたので、そのまま続けることにする。
「でも、少しでもお前の気持ちが晴れるような何かがあるなら、言ってみて欲しい。俺に出来る償いがあるなら、出来るだけのことはしたいと思う。正直、自分の気持ちからもお前の気持ちからも逃げるのをやめたいって気持ちはあっても、どうするのが正解なのかわからないんだよ。あまりにずっと、逃げることばかりが当たり前の生き方だったから……」
 年上ぶって兄ちゃんなんて呼んでもらっても、実際はこんなにも情けない大人でゴメンと言ったら、それを肯定するかのように呆れた様子の溜息を吐かれた。
 逃げ出したくて、せめて俯きたくて、それを必死で耐えながら眉間を寄せる渋い顔の甥っ子を見つめる。彼の言葉を待っている。
「あのさ、にーちゃんの好きって気持ち、試してもいい?」
「それは、いいけど……」
「いいけど、何?」
 思わず躊躇えば、疑惑の視線が突き刺さった。出来るだけの償いはすると言った直後でこれだから、往生際の悪さに自分でも辟易するが、けれどなんでもするとまでは言っていない。
「いやだってお前、好きなら抱けとか言い出しそうで」
「なんだ。結局さ、俺の希望なんて、叶えてくれる気ないんだろ?」
 やっぱりそれかと思うと溜息がこぼれかけたが、そんな立場ではないとなんとか飲み込んだ。
「年齢的にそういうの興味あるのはわかるけど、こんな形で抱かれるんで、お前、本当に後悔しないわけ? というかそれはどういう心理からなの?」
「どういう心理って?」
「だってそれ、好きだから抱いて、なんて可愛い感情で言ってるわけじゃないよな? あの日、お前を最後まで抱いてやらなかった仕返しで、無理にでも抱かせてやろうとか思ってるのかなと」
 ギュッと唇を噛みしめるしぐさに、やはり図星なのかと思う。
「そんなのに自分の体使うなよと思うし、もっと自分を大事にしろって言ったろ。それにお前を好きって認めた以上、嫌がる俺にムリヤリって展開にはならないからな。下心満載でお前に触れるし、持てるテク総動員でお前を誑し込むかもよ? そういう警戒心少しは持てよ」
 仕返しになんかならないと言えば、噛みしめる唇が小さく震えだす。そして両目にぶわりと盛り上がっていく涙に焦った。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに23

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 凄いなと思わず零した本音に、甥っ子は少し嫌そうに片眉を持ち上げながら、何が? と問いただしてくる。
「俺が18の時には、そこまで色々考えられなかったから。逃げることしか思いつかなくて、ただひたすら逃げて、ちゃんと失恋もしないまま適当な相手と体の関係だけ覚えて、気持ち引きずってるから結局誰とも恋人関係が続かなくて、年だけ食って恋愛事そのものからだんだん縁遠くなって、ますます体だけの相手としか関係できなくなってる」
 ひどい告白の内容に、さすがに甥っ子も驚いた様子で、軽く目を瞠っていた。
「俺も、逃げる前に義兄さんに告白して、ちゃんと振られておけば良かったのかも知れない。そこで逃げたからすっかり逃げぐせが付いて、さっきも姉さんに、昔はそこまで臆病者じゃなかったハズだって言われたよ」
「それさ、変わりたいって気持ち、あるの?」
「あるよ。あるから、来たんだよ」
「父さんに告白する気?」
「違っ、あ、いや、結果的には似たようなことはしたけど、」
「は? 告白したの!?」
 随分と驚いた様子の大きな声に、言葉は途中で遮られてしまった。
「し、してない。告白はしてない」
「じゃあ似たような何したわけ?」
 もともと義兄との間であったことは甥っ子にも話すつもりでいたので、まずは簡単に、待ち伏せしていた義兄に連れられ、半ばむりやり近所を散歩してきた事情を話す。
「義兄さんはさ、俺が義兄さんを嫌ってるから、似てるお前を嫌ってると思ってたっぽいんだよな。それを否定してたら、俺が大学行ってからほとんどこっち戻らない理由が、義兄さんを好きだったからだってバレちゃった。嫌いだから戻らないわけじゃなくて、その逆で逃げてたんだって話」
「それで父さんはなんて? 振られたの?」
「振られるとかって話にはなりようがないな。今もまだ好きで居るのか聞かれたけど、それはすぐに否定したし。実際に会って話したら、気持ちはとっくに終わってるんだって、実感できたから」
「終わってんの?」
「うん。ちゃんと終わってる。それを確かめることすら怖くて、今まで近寄らずにいたんだよ」
「臆病者だから?」
「そう」
 否定なんて出来るはずもなく肯定すれば、甥っ子は言葉を探す様子で暫く沈黙した。なんとなく話しかけられる雰囲気ではなく、結局甥っ子の次の言葉を待ってしまう。
「あのさ、まさかと思うけど、にーちゃん実は俺を好きで、だから逃げて拒絶してたとか……ある?」
「それ、義兄さんにも聞かれたな」
 義兄とのやり取りを思い出しつつ思わず苦笑してしまったが、甥っ子はそれどころではないと言いたげに答えを急かした。
「で、なんて答えたの?」
「義兄さんには、似てるけど全然違うって返したよ」
「どういう事?」
「お前がダメな理由なんて、お前にはもう散々言ってる。お前が俺の甥っ子で、義兄さんの息子だからだ。好きになったらダメな相手だって、お前を可愛いとか愛しいとか思うたびに何度も繰り返して思ってた。それでも結局どんどん惹かれてくから、どうしようもなく怖くて、お前傷つけてでもお前と離れたかった」
 本当にごめんと言ってみるものの、それに対する応えはない。やはりまた何かを考えているようで、今度は先程よりも更に長く待たされた。
「変わるつもりがあって、ここに来たって、さっき言ったよね?」
「ああ」
「逃げるの止めるって事はさ、それって要するに、俺を好きって認めるって事じゃないの?」
 その後、もちろん恋愛的な意味でだよ、という補足が続く。
「そうだな」
「俺を好きなの?」
「うん、好きだ。とっくに手遅れで好きになってる」
 なんで今更と呟くように吐き出して、一度ギュッと固く目を閉じた後、甥っ子は数回深呼吸を繰り返す。それからゆっくりと開かれた目は、また冷たく鋭い光を灯していた。
 あまりに身勝手過ぎる言い分で、また彼を傷つけてしまったのだろう。しかしそれなら、いったいどうすれば良かったのか。
 今更だという彼の気持ちも、痛いほどにわかる気がした。気持ちを切り替えて勉学に励んでいたのは明白なのに、その気持ちを大きく乱すだろう事を言ってしまった。
 逃げずに向き合うというのは、本当になんて難しいんだろう。逃げないことと、相手を思いやることは、きっと両立出来るはずだ。それが出来ないのはやはり、今まで逃げることしかしてこなかった自分の未熟さなのだと思った。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに22

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 ベッドからの甥っ子の視線は、なんだか監視されているようで居心地が悪い。そんな中、それでもなんとか食べきると、それを待っていたとばかりに甥っ子が口を開いた。
「それで? 関係大有りってことは、わざわざここまで、俺に自宅から通える大学に行けって説得しに来たわけ?」
 余計なお世話すぎだよと吐き捨てる声は心底嫌そうだったが、それに怯んでいる場合ではない。
「というかまず、お前俺に嘘ついてたろ」
「嘘って?」
「うちのそばの大学でも良いって言われてたんだろ。むしろそっち推奨気味だったらしいじゃないか」
「それが何? もし言ってたら何か変わってたの? 近くに住むなら恋人になる気があった、とか言い出す気じゃないよね?」
 淡々とした口調で問われて言葉に詰まってしまった。もし最初から言われていたら、あの時甥っ子の想いを受け入れたのかといえば、やはりそれはまったくの別問題だ。遠距離であることが問題なわけじゃない。
「だいたいさ、にーちゃん俺に興味ないよね。行きたい大学も、学部も、何を学びたいと思ってるかとか、どんな仕事に就きたいと思ってるかとか、一度だって聞かれてない」
 口調は淡々としたままだが、見つめてくる視線は鋭く冷たかった。そこにあるのは深い怒りか悲しみか。もしくはもっと別の感情なのか、その声音と表情からは読み取れなかった。
 わかっているのは、その言葉の通り、一度だって自分が彼にそれらを尋ねなかったという事実だけだ。興味がなかったというよりは、突然現れた男が成長した甥であることも、その男が大学受験を控えた身であることも、その受験生と何故か一緒に暮らしていることにも、今ひとつ現実味がなかったという方が正しい気もするが、そんなものはただの言い訳でしかないこともわかっている。
 あんな形で追い出して、彼を酷く傷つけた事は重々承知していた。しかし負わせた傷の大きさを目の当たりにすれば、どう償えるのか検討もつかないと思う。
 同居生活中、こんなに鋭く冷たい視線を浴びる事は一度たりともなかった。義兄に抱かれる夢を見た日の朝、押し倒されて無理矢理に弄られた時でさえ、怒りも悲しみも自嘲もその顔の上にちゃんと乗っていたのに。家を出て行く間際だって、泣きそうな笑顔を残していったのに。
 彼から表情を奪ったのもきっと自分なのだろう。罪悪感と後悔と。冷たい視線を浴びながら、身が震える気がした。
 それでも、もうこれ以上逃げては行けないという気持ちから、目をそらすことは出来ない。なのに掛けられる言葉も持ってはいなかった。
 結局黙ったまま見つめることしか出来ない自分に、甥っ子は焦れた様子で溜息を吐き出した。
「押しかけて一緒に暮らしてみて、かなり意識されてると思ったし、このまま押せば落ちそうとかも思ったりしたけど、にーちゃん好きなの父さんだったとか誤解もいいとこだし、結局一回きりの思い出すらくれなかったよな。あんなに拒絶しといて、なのにそっちの大学狙えとか言う気なの? 正気で? 俺に毎日泣き暮らせっての? 俺達が一緒に暮らせばいいって案も聞いてるなら、家からと爺ちゃんちからの援助で、もっと広い家に住みたいとかって下心でもあったりする?」
「そんなんじゃない。そんな下心ない。だってお前、こっちの大学、悪く無いって思ったんじゃないのか? 行きたいと思った大学を、俺のせいで候補から外すなんてさせたくない」
「その大学へ通うメリットと、にーちゃんのそばで暮らすデメリット考えたら、どう考えてもデメリットがでかいんだからしょうがないだろ。失恋引きずって大学生活ままならないとか困るから」
 それに、と甥っ子は言葉を続ける。
「父さんの顔見るたびに色々と思い出して辛くなるのに、このまま家から通える大学を狙うのだって無理。というか元々家から通える大学に行く気はあんまりなかったから、実質、にーちゃんが俺を受け入れてくれるかどうかだけが問題だったわけ」
 最初っからずっと一貫して、それだけが目的で押しかけ生活を続けていたのだと彼は言う。
「大学生活は最低でも4年あるのに、近くで生活しながらずっと気持ちを隠し続けるなんて無理だし、失恋して気まずいまま生活を続けるのも辛すぎる。もし振られるとしたら今が一番いい時期だと思って実行した。結果予想以上にダメージ食らったけど、でもこんなダメージ、入学後に受けてたらもっと取り返しつかない。辛い気持ちもあるけど、でも後が無くなって勉強にも身が入ってるから結果オーライだよ」
 苦笑顔はやはり辛そうだったけれど、それが本心からの言葉だという事は、しっかりと伝わってきた。
「急に進路変更したみたいに思ってるのかもしれないけど、元々にーちゃんが俺に落ちなかったらそうしようと思ってた案に切り替えただけだから。親は遠方行かせたくないみたいだけど、でももう諦めてもらうしかないよね」
 だから気にしないでと、こんな場面でさえ、こちらを気遣う言葉をくれる。先程までの鋭く冷たい視線も緩んで、辛そうな苦笑顔は変わらないはずなのに、そこに彼の優しさが滲んでいた。
 大人びているのか懐がでかいのか、10も年下の高校生が、とてつもなく格好良い男に見えてしまう。それと同時に、自分との違いをまざまざと見せつけられる気がした。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに21

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 汗だくになって戻ったら、玄関先で待ち構えていた姉に、義兄と二人、夏の昼時に1時間近くも散歩なんてバカじゃないのと怒られた。義兄が姉をなだめつつも追加でお叱りを受けている間に、先にシャワーを借りて汗を流す。
 取り敢えずで借りたラフな短パンとTシャツでリビングに戻れば、入れ替わりで義兄が汗を流しに行った。
 キッチンの姉に喉が渇いたと言えば、勝手に飲んでと麦茶のボトルとグラスが渡される。姉は本日の昼食を作っているようで、どうやら昼メシは冷やし中華らしい。
 一応形だけ何か手伝うかと声をかけたが断られ、しかしなんとなくその場にとどまったまま、麦茶を飲みつつ出来上がりを待ってしまった。
 義兄は姉に何かを伝えただろうか?
 何か聞いたかと問えば良いのかも知れないが、ヤブヘビになっても嫌だなと言う気持ちから躊躇ってしまう。やがて盛り付けを終えた姉は、ようやくこちらをしっかりと振り向き、呆れ混じりの苦笑を見せた。
 あんたって昔はそんなに臆病者じゃなかったハズなのにねとため息混じりに告げると、仲直りできたとしか聞いてないわよと、やはり呆れた口調で続ける。そもそも喧嘩してたのも初耳だけど根掘り葉掘り聞かれたくないから逃げてたんだろうし、過ぎたことを今更どうこう言う気もないからこれから先のことを考えてと言いながら、姉は大きめのお盆に冷やし中華2皿と空のグラス1つを置いて差し出してくる。
 意味がわからずそのお盆を見つめてしまえば、甥っ子の部屋に持っていくようにと言われた。そういえば最近は部屋に引きこもって勉強しているという話だったか。というよりも、どうやら義兄と顔を合わせることを避けているらしい。
 理由はわかりきっている。ひしひしと負い目を感じながら、手の中のグラスをお盆の上に置いた。2つのグラスになみなみと麦茶を注いでから、じゃあ行ってくると言ってそのお盆を受け取り甥の部屋へと向かう。
 姉の家に上がること自体が10年ぶりくらいだけれど、何も言われていない以上、甥の部屋の場所も変わっていないんだろう。迷うことなく辿り着いた部屋のドアを叩けば、少ししてドアがそっと開かれる。
「手ぇ塞がってっからもっと開けて」
「えっ? ってかええっ!?」
 あんまり驚いているから、どうやら何も聞いていなかったようだ。肩でドアを押すようにして部屋に入り込んでも、甥っ子は呆然とこちらを見ているだけだった。
「これどこ置けばいい?」
 勉強机の上は参考書やノート類が広げられているし、まさか床に下ろすわけにも行かず、お盆を持ったまま問いかける。
「何しに来たんだよ」
 ようやく最初の驚きが収まったようで、甥の発した声は不審げで、苛立ちを抑えている様子が窺えた。
「進路、変えたいんだって?」
「進路を変えるわけじゃない。希望大学を変えただけ」
「あー、うん。だからそれ。随分遠くの大学らしいな」
「にーちゃんに関係ない」
「関係おおありだよ。それでこっち戻ってるんだから」
「なんでだよっ」
「それよりこれどーすんの。昼メシ。このままこれ持って突っ立ったまま話しろって?」
 参考書の上に置いても良いのかと聞いたら、軽い舌打ちの後でテーブル出すよと返された。引っ張りだされてきた折りたたみ式のローテーブルは、自宅のよりも更に一回り小さくて、二人分の冷やし中華の皿と麦茶のグラスを置いたらほぼいっぱいだ。
 そんな小さなテーブルを挟むように向い合って座れば、慣れない距離の近さになんだか落ち着かない。それは相手も同じようで、頂きますと小さく呟くように告げた後は無言のまま、勢い良く皿の中身をかっこんでいく。
「そんな慌てて食べなくても……」
 鋭い視線に一瞥されて、言葉は尻すぼみになって最後は小さな溜息を漏らす。
 結局、こちらが半分ほどを食べた辺りで、皿をカラにした甥っ子は立ち上がってさっさと距離を置いた。しかも、こちらの背後の勉強机へ向かうのではなく、正面に位置するベッドに腰掛けてこちらをジッと見ている。

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