サーカス8話 調教再開

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 二度と逃げ出せないような、声の漏れない防音設備の整った部屋を用意して欲しい。その要求に、オーナーは簡単に応じてくれた。
 ビリーはもちろん、ガイに逃げ出す意思がないこともわかっている。それでもそれを求めたのは、セージの目から逃れたいからだった。
 ガイが今後の調教に激しく抵抗する可能性も高かったし、あまりに騒がれては、さして壁の厚くないビリーの部屋ではやはり都合が悪い。ビリーはガイを、新しく用意された部屋へと連れ出した。
「ここが、お前の新しい部屋だ」
「ワイの、部屋……」
 見上げる視線が、さすがに不安で揺れている。それはそうだろう。薄暗い石造りの部屋の中にあるのは、小さな机と簡素な椅子。壁の一部には、何本もの鎖がぶら下がっているのが見える。
 ベッドは当然用意されていないが、カーペットなどという洒落たもののないこの部屋の床に布団を敷くのでは、夜は相当冷え込みそうだった。
 どちらかというと、館の部屋に似ている。窓からさす明かりがある分、多少はましと言えるだろうか。
「残りの調教は、ここでする。お前がどんなに泣いても喚いても、声が外に漏れる心配はないから安心するんだな」
 血の気が失せた表情で、それでもガイは頷いて見せた。
「わかった。ほいで、ワイは、何をしたらええの?」
 返す言葉は、とうに覚悟はできていたとでも言うように、サラリと零れ落ちてくる。こういうところが、セージはもちろんの事、ビリーすら心揺すられる要因となるのだろう。潔くて、頭がいい。
「まずは、自分で身体の中を洗って来い。自分一人で、抱かれるための準備が出来るようになるんだ」
「自分、で……」
「そうだ。やり方はわかっているだろう?」
「ほな、行ってくる」
 ガイはホッと息をつくと、部屋の隅に造られたシャワールームへと足を向けた。
 お前はホント、物わかりが良くて助かるよ。掛けようかと思った声を、ビリーはなんとか飲み込んで、部屋に唯一の椅子に腰掛けた。
 あの日、ガイが体内に注入された薬を洗い流す行為を、ひたすら嫌がって暴れた理由。身体を無理矢理に拓かれる痛みに耐えることは出来ても、排泄を強いる屈辱的な行為で感じてしまう自分を、ビリーには知られたくなかったのだろう。
 あの時ビリーは薬のせいだと思ったが、それだけではなかったことを、館でのガイの様子を問い合わせて知った。あまりの嫌がりように、確かめないわけにはいかなかったのだ。
 開放感のもたらす快感。苦痛だけの日々の中、ガイの身体がガイの意思に反して、それを身につけたのだと言うことは容易に想像できる。けれど、さしておかしな反応ではないのだと言って聞かせるよりも、ビリーは気付かなかった振りをする道を選んだ。
 ただガイが、自分自身が感じると言う行為全てに嫌悪を示すとしたら……
 それはガイが準備を終えて戻ってきたときに明らかになるだろう。たとえ泣かれたとしても、調教の手を緩めるつもりも、そんなものに絆されない覚悟も決めたビリーだったが、やはり出来ることならあの日のような涙は見たくないと願ってしまう。
 ビリーはジッと、シャワールームの扉を見つめ続けていた。
 
 
 シャワールームから出てきたガイを壁際へと呼んだビリーは、まずはその首に首輪を嵌めた。
「ペットらしくていいだろう?」
 お前の態度次第では、鎖に繋がれた生活をさせる。と脅しをかけながら、ビリーは続いてガイの両手首に皮製の手枷を巻き付けた。そうしてから、壁から下がる鎖を繋いで、かかとが少し浮く程度に吊り下げる。
「何を、する気やの……?」
 困惑気味のガイに、ビリーは小さく笑って見せる。
「そんなに脅えなくていい。おとなしくしていれば、痛いことは何もしない。ただ、激しく動かれると、俺が疲れるからな」
 痛い思いをさせないというのは、約束してやれる。それが、ガイにとって救いになるとは限らないが。それでもガイはビリーの言葉を信じたようで、ほんの少し微笑み返しながら。
「ワイのこと、抱くわけとちゃうの?」
 自分へと向けられた笑顔にも、その口から吐き出された言葉にも、ビリーは軽い衝撃を覚えた。
「抱かれたいのか?」
 反対に問い返す。問い返されるとは思っていなかったのか、ガイは考えるように口を噤む。
「まぁ、今抱いたとしても、お前は痛みくらいしか感じないだろうからな」
 答えを待たずにそう告げたビリーは、ガイの左足にも同じように拘束用の皮ベルトを取りつけた。鎖を繋いで持ち上げれば、ガイは右の足先だけが身体を支える、心許ない姿勢となる。
 ビリーの前で裸体を晒すことにはさすがに慣れてしまったガイも、恥ずかしそうに頬を染めた。それでも、ビリーの次の行動を待つように、口を閉ざしている。そうして強制的に開かせた足の間に、ビリーは潤滑剤を垂らした右手を差し込んだ。
「ビリー!?」
 さすがに慌てたような声が上がる。
「酷くはしないと言っただろう? イイ思いがしたかったら、身体の力を抜いておけ」
 声を掛けながら、ゆっくりと指を一本埋め込んだ。潤滑剤の助けを借りて入り込む指に、ガイの肌が粟立っていく。
「ああぁ……っ!」
 堪え切れずに零れる声から甘さを引き出すように、ビリーは慎重にガイの中を探る。それにはさして時間は必要なかった。
「イヤ、ぁ……」
 苦しげな吐息とあふれ落ちる甘い声。いやいやと頭をふる仕草によって、額に掛かる前髪が揺れている。この状況では、そんな些細な髪の動きにすら快感を誘発されるようで、ガイの体は小刻みに震え、彼の体内に沈む人差し指を締めつけた。
「こういう時は『イヤ』じゃなくて『イイ』だ。自分の体が本当に嫌がっているのか、喜んでいるのか、わからなくはないだろう?」
 まだ、追いつめるには早い。強い刺激になりすぎないようにと注意しながら、優しく。熱く絡みついて来る、ガイの体の奥を探る指先をそっと動かした。
「はぁあ、ああァ…」
 歓喜の声に混じって、ジャラジャラと金属の擦れる音が混じる。与え続けた快楽によって、唯一の支えである右足の膝もがくがくと小刻みに震えていた。
 与えられることに慣れていない身体に、途切れることのない快楽を与え続ける。それもまた、一種の責め苦であることはわかっている。それでも、ガイにはこれを、快楽として認識してもらわなければならなかった。
「まだ、わからないか?」
 ガイにならこの一言で、要求されていることがなんなのかわかるだろう。もちろん、ビリーが望む言葉を口にするまで、この責め苦が続くのだと言うことも。
「あ、あぁん……ん、イ、イ……」
 小さな刺激を与えれば、いくぶん声を落とした甘い吐息。その後、恥ずかしそうに頬を赤く染めて、唇を噛み締めた。
「イかせて欲しいか?」
 彼の体の限界を感じて、優しく問う。
「………………イかせて」
 しばらく逡巡した後の小さな呟き。やはりこれも、言えなければ終わらないのだと理解しているのだろう。
「よく言えたな。ご褒美に、気が遠くなるほどイイ思いをさせてやろう」
 ビリーは言いながら、張り詰めた欲望に唇を寄せた。上目づかいに様子をうかがえば、驚いたように目を見張るのが見える。
「や、イヤゃ、ぁ、ああ…ビリー!! やめっ、ビリー!」
 口の中に含んだ途端に、激しい抗議の声があがり、金属の擦れ合う音が大きく響いた。さすがにこれは、ガイの中の予測を大きく超える行為だったらしい。
 そんな抵抗にかまうことなく吸い上げる。埋めたままの指先で少し強めの刺激を与えれば、一際大きな嬌声を響かせてガイの身体が痙攣し、案の定そのまま意識を手放してしまった。
 首輪以外の拘束具を取り外してやったビリーは、そっと布団の上へとガイを運び降ろす。疲れを滲ませながら目を閉じるガイの、額に掛かる髪をそっと掻き上げる。
 何度も優しく髪を梳いてやってから、最後に軽いキスを一つ。涙の流れた後を残す頬へと落として、ビリーは部屋から出て行った。

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サーカス7話 絵本

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 椅子に腰掛けたビリーは、ガイをジッと観察する。
 部屋の隅に置かれた布団周辺がガイのためのスペースだが、そのわずかな空間に、最近増えたのは何冊もの絵本。それらを持ち込んだのはセージだ。
 ガイは字が読めない。ということにもビリーは全く気付いて居なかった。というよりも、そんなことはビリーにとってはどうでもいいことだった。
 相変わらず口での奉仕は続けさせていたが、身体の傷が癒えるまでは次の調教へは進めないし、無理をさせるつもりもない。というのを、あまりにガイの様子を心配するセージに話して聞かせた結果、それなら傷が治るまでの間ガイに文字を教えたいとセージに頼まれた。
 好きにすればいいと答えたのは、多少はガイにも楽しみが必要かも知れないと思ったからだ。
 ビリーの仕事はガイの調教をすることだけではなかったし、当然、ガイを部屋に一人で居させる時間も多かった。その間、ガイが何をして過ごしているのかなどもあまり興味がなかったのだが、考えて見れば、やる事もなくただ時が過ぎるのを待つ以外の事が出来るような場所ではない。文字を覚えて本が読めるようになれば、随分と気がまぎれるだろう。
 もともと学ぶ事に積極的なのか、セージの持ち込む本が面白いのか、やはり暇を持て余していたのか。あっという間に文字を覚えたガイは、それからというもの、ほとんどの時間を本を開いて過ごすようになった。
 呼べばすぐに本を閉じるし、前のように口での奉仕を嫌がる素振りもない。といよりも、前よりも随分積極的に奉仕するようになった。さっさと終わらせて本を読みに戻りたいのかと思うと、複雑な気分ではあったが、理由がなんであれガイの変化はビリーにとっても都合が良い。
 そう。都合が良いはずだった。
 元々ガイが部屋で何をしてようと、自分の邪魔さえしなければ構わなかったし。セージが部屋に出入りする頻度があがる程度のことを、許容できないほど狭量ではないつもりだし。
 なのに、この言いようのない胸の重さはなんだろう?
 ビリーは本へと視線を落とすガイの真剣な表情を見つめながら、そう自問自答を繰り返す。そんな中、コンコンと扉を叩く音が部屋に響いた。
 その音を聞きつけて顔をあげたガイは、自分を見ていたらしいビリーの視線に驚き、戸惑いの表情を滲ませる。それには気付かない振りで、ビリーは顎をしゃくって見せた。頷き、ガイは立ち上がるとセージを迎えるためにドアを開く。
「やあ、ガイ」
「いらっしゃい」
 毎度変わらぬセージの笑顔に、返すガイの微笑み。それも大分見慣れてきたなとビリーは思う。
「ビリーも、おじゃまします」
「ああ」
「珍しいお茶の葉を頂いてね。一緒に飲もうと思って、持ってきたんだ」
 いいよね? と、拒否を許さない笑みを見せながら問われれば、ビリーも渋々了承を告げる。和やかなティータイムなどというものを、この部屋で、ガイを含めた3人で、過ごしたいなどとはカケラも思っていなくても。
 ただ、ビリーが望んでいないことに気付いている筈のセージが、何を考えてこんなことをするのか知っていて、拒否しきれない自分自身に。ビリーは胸の内で溜め息を吐き出すだけだ。
「ほな、湯わかさな」
「よろしく、ガイ。自分の分もちゃんと淹れておいでね」
 お茶の準備を始めるガイに声を掛けてやってから、セージはビリーの正面に置かれた椅子に腰掛けた。それと同時に机の上に置かれた本に、ビリーの視線が注がれる。絵本と呼べる厚さではないソレ。
「絵本じゃすぐに読み終わっちゃうみたいだからね」
 ビリーの視線に気付いたセージが、そう説明をくれた。
「何度も楽しげに読み返してるみたいだけどな」
「うん。それも知ってるけど」
 ビリーは本を手に取ると、ザッと中へ目を通す。
「読めるのか?」
 いくら児童向けの本であっても、数日前まで字の読めなかった子供が理解できるのだろうか?
「綴りを見て発音できれば、意味はだいたいわかる筈だよ。そこまで難しい単語は入ってないと思うし」
「ま、アイツは喜ぶだろ」
 どうせ、知らない単語はお前が教えてやるんだろうし。そう続けながらパタリと本を閉じた所で、お茶を淹れたガイが戻ってきた。
 元々その程度の雑用はビリーが何も言わずとも、教えずとも出来ていたガイだが、セージが出入りするようになってから、淹れるお茶の味が良くなった。ということにも、気付いてしまった。
 まったく、嫌になる。セージから新しい本を受け取り嬉しそうに頬を紅潮させるガイを横目に、ビリーはこっそりと溜め息を吐き出してカップの中の液体を揺らした。
 いい加減、この気持ちの正体を、認めてしまうべきだろうか?

>> 認める

>> 認めない

 

 

 

 

 

 

 
 
<認める>

 相手は仕事道具でしかないはずの子供で、だから、極力ガイ自身へ感心を持たないように気をつけていたのに。セージへと見せる笑顔に気持ちが揺らいでしまう、これは、嫉妬。
 バカバカしい話だ。セージのように優しさで接してやれたらいいのに。なんて感情は、邪魔でしかない。憎まれることはあったとしても、ガイが自分へ笑い掛ける事などないというのも、ビリーは充分承知していた。
 別にそれでもいいと思っているが、ただ、目の前で繰り広げられる穏やかな光景は、色々な気持ちを鈍らせてしまうので困る。
 セージの思う壺だと、ビリーは胸の内で呟いた。
 そろそろガイの傷も癒えるが、調教を再開する際には、極力セージを遠ざけるべきだろう。ガイには文句など言わせはしないが、セージの方は簡単には了承しないかもしれない。
 さっそく本を開いて、一緒になって読み進めている二人を眺めながら、ビリーはどうするべきかを考えていた。

>> 次へ

 

 

 

 

 

 

 

 
<認めない>

「バカバカしい」
 洩らした呟きに、二人がビリーを窺い見る。
「どうしたの?」
「お前がどんなにガイを気にかけてやって、こんな風に、俺との仲を取り持つような時間を作ったとしても。俺にとってこいつは、仕事道具でしかないってことだ」
「仕事、道具……?」
「そうだろう? 俺は、こいつを従順な性の奴隷にしたてあげるのが仕事。その対象でしかない相手と、笑ってお茶を飲もうなんてのが、バカバカしくないわけがない」
 その言葉に、セージは怒りを、ガイは悲しげな微笑を。それぞれ顔に浮かばせる。
 ビリーはそんな二人を残して席を立った。
「明日から、再開するからな」
「ビリー……」
「ガイの傷が癒えるまで。そういう約束だったな、セージ」
「それは、僕を、出入り禁止にするって意味?」
「こいつが俺に抱かれて喘ぐ姿が見たいってなら、好きにしろ」
 言い捨てて、ビリーは部屋のドアへと向かって歩く。
「どこ、行くん?」
 戸惑い気味に声を掛けてきたのはガイだった。一度チラリと振り返り、すぐにまたドアへと顔を向けて。
「今日だけは、お前を自由にしてやるよ」
 その言葉の意味を、どんな風に理解しようとかまわないと思った。
 セージの手を借りて、今度こそ逃げ出すのもいいだろう。セージにはきっと、伝わっている。
 背後で閉まるドアの音に促され、ビリーはその場を後にした。

 

 

 ビリーが戻った時、そこに二人の姿はなかった。
 行ったのだ。酷くホッとしている自分に気付いて、ビリーは小さく笑う。
 セージのことだから、きっとガイを守りきるだろう。年相応の子供らしい笑顔だって、セージが相手なら見せるかもしれない。
「さて、俺はオーナーのお叱りを受けに行ってくるかな」
 手にする筈だった報酬がなくなってしまうのは惜しいが、セージが出て行った今、ビリーまで解雇したりはしないだろう。
 柔らかな笑顔を見せる友人と、きっと愛しさを感じ始めていた子供と。失くした寂しさもあったけれど、二人の幸せを願える自分にビリーは満足していた。

< セージエンド2 >

 
 
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サーカス6話 クスリの排泄

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 コンコンと部屋の扉が叩かれる。
「入ってこい」
 机の上の写真を握りつぶしたビリーは、それをゴミ箱に放りこんでから入室の許可を与えた。
 ゆっくりと扉を押し開いたのは、セージではなくガイ自身だった。
 前と変わらない、何か強い意思を秘める瞳。だから同じように、ビリーもガイを前と変わらぬ冷たい視線で射抜く。
「ここに帰って来るということが、どういうことか。分かってるんだろうな?」
 その視線をしっかりと受け止めながら、ガイは黙って頷いた。
「服をすべて脱いで、こっちへ来い」
 一瞬のためらいさえ許さない口調に、ガイはおとなしく服に手をかけていくが、その様子を見ていたセージは驚きに目を見張った。
「ビリー……?」
「セージ、席を外してくれ」
「でもビリー、ガイは戻ってきたばかりでまだ身体に傷が残ってる状態なんだよ。もし、これ以上ガイを傷つけるようなことをするつもりなら、僕はガイを自分の部屋へ連れていく」
「今のお前に、そんなことをする権利はないだろう?」
「なくても、放っておけない」
 セージは服を脱いでいくガイの腕をとってその行為をやめさせる。けれどガイは、セージを見上げながらゆっくりと首を横に振る。
「ええねん。こうなることはわかっとったし。それでも、ここに、帰って来たんやから」
 だから平気やと、ガイはほんの少しだけ微笑んでみせた。それを見たビリーは、わずかに眉を寄せる。ガイの笑顔など、初めてだったからだ。
「セージ……おおきに。また、会えるとええな」
「会えるよ。会いに、来るから」
 目尻に涙をためたセージは優しく微笑んで、ガイの額に小さなキスを一つ落とした。擽ったそうに身を竦ませたガイは、それでも一瞬、瞳の中に嬉しさを滲ませる。
 ビリーはその一瞬を見逃したりはしなかった。
「セージ」
 呼んだ名前は、やはり咎めるような響きだった。
「出ていくよ。でも、本当に……」
 何かを言いかけて、けれど。
「君を、信じてるよ。ビリー」
 ビリーにも同じように優しい笑みを向けて、セージは部屋を出て行った。
「チッ」
 扉の閉まる音にまぎれてビリーがもらした舌打ちは、ガイの耳には届かなかった。
 
 
 口内に放たれたものをむせることなく飲み下したガイは、ホッとして肩の力を抜いた。
「イイコだ、ガイ」
 その言葉に驚いて、ガイは顔をあげる。ビリーがそんな風に言葉の上だけでもガイを褒めたのは初めてだった。
 一瞬見せた期待に応えてやったほうが良いのか、ビリーも瞬時に考える。けれど結局、そんなのは自分に似合わないだろうと結論付けた。
 セージのように優しく微笑んでなんてやれない。
「ずいぶん上手くなったもんだ」
 作りやすいのは、蔑むような表情。ガイの瞳の中、明らかに落胆の色が見て取れる。
「他にも色々教わってきたんだろう?」
 先ほどセージに見せた微笑が脳裏に過ぎったが、意識的に掻き消した。
「ココで、相手を喜ばす術も、仕込まれて来たのか?」
 ビリーはガイを引き寄せると、言いながらその場所へと指を這わす。
 ガイの身体がピクリと震えた。仕込むという言葉が当てはまるほど、丁寧に扱われてはいなかっただろう。ビリーが確かめたいのは、むしろ傷の具合だった。
「言え」
 震える唇から言葉は生めず、ガイは辛うじて首を縦に振る。
「なら、次はココで楽しませて貰おうか?」
「ぅっ……」
 指先を潜り込ませれば、息を詰めて身体を強張らせる。
「力は抜いておけ」
 一応そう声を掛けながらも、緊張したままのガイに構わず、ゆっくりと奥を探っていく。指に触れる違和感に、すぐにビリーは眉を寄せた。
「……んっ、ふぅ……」
 小刻みに震えるガイの体と、こぼれ出す熱い吐息に、確信を持つ。
 ビリーはガイの体の中を探っていた指を引き抜くと、ガイの腕を掴んで立ちあがった。うるんだ瞳から、今にも溢れてしまいそうな涙は見なかったことにして、顔を背けたビリーはそのまま引きずるようにガイを部屋の隅に造られたシャワールームへと引っ張って行く。
「この、バカが……」
 焦りが滲み出た強い口調に、ガイの身体が怯えて竦む。
 バカなのは俺か……
 そんな自嘲めいた思いを抱えながら、ビリーは狭いシャワールームにガイを押し込んだ。戸惑うガイを放置したまま、フックに掛かったシャワーを手に取ると、ヘッドを外してからお湯の温度と流出量を調節する。
「壁に手をつけて、ケツをこっちに向けるんだ」
「何、する気やの……」
 震える声にようやくガイの顔をまっすぐに見つめれば、そこにあったのはいつも見せる強気の瞳ではなかった。本気で、怯えていた。
「入れられた薬を洗い流すに決まってんだろ」
「い、嫌や!」
「そのままにしてたら、気が狂うぞ?」
 子供相手に使うような物ではない媚薬。それがたっぷりとガイの腸内に注がれていた。
 館ではこんなことまでが日常なのだろうかと一瞬考え、さすがにそれは否定する。ただ、この酷く扱いにくい子供を今後も調教していかなければならないビリーに対する心遣いだというのなら、余計なお世話もいい所だ。
「それでも、ええ」
「お前が良くても、俺が困るんだ」
「お願いや……中、洗うんは、堪忍して……」
 すっと視線を逸らせたガイから、細く吐き出されてくる声は、やはり震えている。『お願い』などという言葉をガイの口から聞く日がくるとは思わなかった。
 目の前で震える小さな身体を、優しく抱きしめてやりたい衝動がビリーを襲う。そう出来ない代わりに、ビリーは努めて柔らかな口調で尋ねた。
「残念だが、わかった……と言ってやれる状況じゃない。しかし、何がそんなに嫌なんだ?」
 館に居る間、経験した相手の数だけ、身体の中を洗うという行為も繰り返されていたはずだ。毎回この調子で嫌がっていたとは思えないし、そんなことは許されないだろう。
 ガイはキュッと唇を噛んで、答える事を拒んでいる。
「言えないならそれでもいいが、とにかく薬を洗い流すから背中を向けろ」
 フルフルと首を横に振るガイに、ビリーは溜め息を一つ吐き出した。
 やはり、力尽くでやるしかないのか。諦めて伸ばした手を、ガイの手が力なく払う。当然、そんなものはたいした障害にはならなかった。
 入り口にビリーが立ち塞がっている状況のシャワールームに逃げ場などない。ビリーは無言のままガイの身体を捕らえると、後ろを向かせて腰を抱えあげる。
 チョロチョロと流しっぱなしになっていたシャワーホースを掴んで、その先を入り口へと押し当てた。
「やっ! 嫌や!!」
 逃れようと暴れる身体を、ビリーは強い力で押さえつける。ガイの嫌がる声だけが大きく響く中、ビリーは頃合いを見計らって、一度目の排泄を促した。ビリーの服の裾を強く握り締めて、ガイは必死で頭を振る。
「何我慢してるんだ。いいから出せ」
「やぁ……ぁぁ……」
 トロリとした薄紅色の薬と湯が混ざり合って流れ出し、排水溝へと吸い込まれていく。ぐったりと力の抜けた身体がズルズルと崩れて行くのを、ビリーは慌てて支えてやった。
「しっかりしろ。まだ終わっちゃいないんだぞ」
「も、堪忍や……」
 こぼれる涙を隠すように、ガイは腕を上げて目元を隠す。
 ビリーは腕の中の身体を抱えなおすと、確認するようにガイの中へと指を埋めた。先ほどの排泄で緩んだ入り口は、こぼれ出た薬の滑りもあって、やすやすとビリーの指を受け入れる。
「あっ、あっ、なにを……?」
 ガイの身体が大きく弾む。
「湯で洗われるのが嫌なら、指で掻き出してやる」
「そんなん、あっ、ああん」
 溢れてしまう嬌声に、ガイの顔が羞恥で赤く染まった。
「感じるのは薬のせいで、おかしな事じゃない。イきたければイってもいい」
 幼い身体でありながらも、明らかに快楽を示し始めたガイに、ビリーはそう声を掛ける。しかしやはり、ガイは困ったように首をふるだけだった。
 それでもだんだんと、先ほどのように、ただ嫌がってもがくのとは少し違った反応に変わって行く。
「どうした?」
 あふれ出る嬌声すら枯れて、苦しそうに短く息を吐き出し始めたガイの顔を覗きこんだビリーは、その泣き顔に思わず息を飲んだ。顔中を涙で濡らしたガイは、どうやら自分の中に湧きあがる快楽の波を持て余しているらしい。
 他人のモノを口に含んでイかせることも覚えたくせに、自分の精を吐き出す術をまだ知らないのだ。気付いて苦笑を洩らしたビリーは、ガイの幼い性器へもう片方の空いた指先を伸ばした。
「……ぃ」
 力の入らない身体を捻って、それでも逃げようとするガイの零した呟きは『怖い』。
「大丈夫だ。心配するな」
 言いながら、涙の滲む目元へ、頬へ、優しく唇を押し当てる。そうしながら、手の中のモノをイかせる目的でゆっくりと扱いていく。
「あっ、ああっ……」
 ビクビクと身体を震わせてガイは意識を手放してしまったが、その手を汚すモノはない。
 そこまで子供だったのだと思い知らされるようで、胸の中に広がる罪悪感。それを振り払うように、ガイの身体を軽く洗ってやったビリーは、柔らかなタオルにその身体を包んで抱き上げた。

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サーカス5話 引き止める

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「待て、セージ」
 ビリーは背中を向けたセージを呼び止める。
「ガイを館に置いてるのは俺の意思だ。定期的な連絡も貰ってる。お前が心配する必要なんてない」
「なぜ、そんなことを……?」
「二度と、逃げ出そうなんて気を起こさないようにするためさ」
「それは、君が、オーナーのためにその子供を調教してるから?」
 ビリーは深い溜め息を一つ吐き出した。そういう噂が出ている事は知っていたし、だからなんだとも思っていた。そんなものは与えられた仕事をこなしているだけのビリーには関係がない。
 その噂がオーナーにとって不利になるようなら、オーナー自身が手を打つだろう。他人に、子供を相手にそういうことが出来る男なのだと思われようが、いずれ遠くない日にこの場所から去る予定でいるビリーにとってはどうでもいいことだった。
 それは相手がセージであっても同じ。
「そうだ。と言ったら、どうするつもりだ。それを知っても、お前に何かができるわけじゃないだろ?」
「事情がわかれば、何かしら助ける事だって出来るかもしれないじゃないか」
「俺が動くのは金のためだけだ。それはお前も知ってるだろ」
 誰かの助けなど、カケラも必要ではない。半ば強制的だったにしろ、自分の意思で選んだ仕事だからだ。
 今度は、そんなビリーの気持ちを汲み取ったセージが、溜め息を吐き出す番だった。
「君が、その件で僕に手を出させないと言うことは、知ってる」
 セージはビリーがこのサーカスに在籍する理由を知る数少ない人間の一人だった。けれど、金銭的に余裕があるセージからの援助話を、ビリーはきっぱりと断っている。
「お前のは施しに近い。この場所で、誰かに借りを作りたくはないだけだ」
「仕事と割り切れば、女性の相手をする事も、子供を調教することも、躊躇わない男のくせに」
「金を積まれても、俺には男の相手をする気はないと言ったろ」
 それは嘘だ。現にガイは男だし、抱く側であるなら相手が男だろうが女だろうが大差ない。
 ただ、今目の前にいるこの男と、金銭を絡めたセックスをしたくない。その程度には、友人としてセージを受け入れていた。
 ビリーは口にも態度にもそれを表すことはなかったが、セージも薄々わかっているようで、その件に関して深く口を挟んでくることはない。
「君の事情はわかったよ。でも、その子供の事は? 本当に、調教なんてこと、しなきゃならないわけ? ましてや、館で働かせるなんて……」
「俺がやらなきゃ、他の誰かがやるだけさ。アイツはオーナーの友人に消えない程の深い傷を残したらしいしな。館に置いてる事をオーナーが知らないわけないが、何も言ってこないぜ?」
 セージは何かを悩むように眉を寄せる。
「しゃべり過ぎたな。でも、お前の出る幕じゃないってのはわかったろ」
 言外に出て行って欲しいと言う気持ちを込めたビリーに、セージは小さく頷いてから背中を向ける。
「余計な心配はするなよ」
「君の、仕事の邪魔をしない程度にしておくよ」
 部屋を出て行くセージの背中に向かってつい言葉を重ねたビリーに、振り返ったセージはそう言って小さく笑った。
 
 
 椅子に腰掛けたビリーは、机の上に乗った一枚の写真を睨み付けていた。
 仕事の邪魔はしない。そう言って出て行ったセージが持ち込んだその写真は、ガイが館でどのような扱いを受けているかを明白に物語るものだった。
「だから、様子を見に行けって言ったんだ」
 驚きの表情を隠し切れなかったビリーを、セージは呆れを含ませた声で咎めた。
「傷は残すなと、言っておいたんだがな……」
「残るほどの傷じゃないそうだ。どこまで本当かは知らないけど」
「アイツ、どこまで強情なんだか」
「それは、君に問題があるんだと思うけどね。僕には、結構素直だったよ」
 再度驚きで眼を見張ったビリーに、セージは少しだけ楽しげな笑顔を見せる。
「君のそんな顔、初めて見たな」
「会ったのか?」
「会ったよ。客として、ね」
 その時のことを思い出しているのか、セージは笑顔をしまって眉を寄せる。ビリーには、セージがガイと何を話し、何をしたのか、尋ねることが出来なかった。
 次の言葉を待っている様子のビリーに、セージは渋い顔のままで続ける。
「ガイに会って、僕は言った。ビリーの所へ帰れって」
「頷かなかったろう」
 ビリーは思わず自嘲の笑みを浮かべてしまう。
 逃げ出した事を反省し、調教される生活を受け入れるなら、ビリーの元に返してやる。その話は管理をしている男の口から、ガイへと伝わっているはずだ。それでも戻ってこないのは、ガイにその意思がないからとしか言いようがない。
 セージにわざわざ知らせはしなかったが、1週間しても戻らないようなら無理矢理にでも連れ戻すつもりでいた。待っててやれるのはそれが限度。このまま放置していては、仕事がいつまでたっても終わらないからだ。
「頷かなかったよ。というよりも、とても潔い子供で、かなりビックリした。君は、なんでガイがあんな場所に居続けるのか、その理由を考えた事があるかい?」
「俺に調教されるのが嫌なんだろうさ」
 見知らぬ男に犯されたり、ムチで叩かれるような目にあうよりも。
 さすがにそれを言葉にするのは躊躇われて、ビリーは口を閉じる。
「違うね。彼は自分が選んだ道の結果を、潔く享受してるだけだ」
「結果を、享受してる……?」
「そう。逃げ出すことを選んだのは彼自身だから、見つかって捕まった結果がソレなら、納得できるって」
「だから耐えてるだけだって言うのか!?」
「潔くて、とても頭がいい。あの年でもう、自分の意思で自分の生きる道を選び取ってる自覚がある」
「頭がいい、ってのは俺も認めるよ」
 その言葉に、セージはまるで自分が褒められてでもいるような、嬉しそうな微笑みを浮かべて見せた。
「だから僕は、彼を買い取る事にした。君の仕事の邪魔をする覚悟で、ね」
「買い取るって……オーナーから、とか言いだす気じゃないだろうな」
「そこ以外から買い取れる場所があるなら、教えて欲しいくらいだ」
 笑うセージに、ビリーは冗談だろうと呟く。
「本気だったし、ガイにも言ったよ。君はこんな場所に居るべきじゃないから、僕が出してあげるって」
「それで、アイツは、なんて……?」
「ビックリした顔をして、それから暫く悩んで、ありがとうございますって丁寧に頭を下げたよ」
 でもね、とセージは続けた。
「君の所に戻る事に、決めたって」
「ちょっと待て。なんだそれは」
「元々は借金の形として連れて来られたらしいね。返せるあてがないらしいってのも、だから実質オーナーの持ち物として扱われることも、君がそのオーナーからの指示で動いてるんだって事も、理解、してた」
「そう、なのか……?」
「そうだよ」
 知らなかったのか、とはセージは聞かなかった。まるで、連れて来られた経緯もガイが何を考えているかも、ビリーの興味の範囲外だと知っているかのようだ。
「余計な事教えやがって、って思ってる?」
「少し、な」
 本当は少しどころじゃなかったけれど、ビリーにはそう答えるのが精一杯だった。
 子供を調教する。ということにまったく抵抗がないわけじゃない。情が湧いてしまうような可能性は極力避けて通りたかった。
「ごめんね。でも、聞かせるつもりで、来たから」
 もういいとセージを遮る事も出来たけれど、ビリーはそうしなかった。
「君にとってこれが仕事である事も、彼と深い部分で関わりたくない気持ちも、僕にだってまったくわかってないわけじゃないけど。それでももう少し、彼自身を見てあげて欲しい」
「一度会っただけで、ずいぶん入れ込んだもんだな」
「そうさせる魅力が、彼にはあるからね」
 そんなセージの気持ちを理解出来そうな自分をごまかすように、ビリーはバカバカしいと言って笑った。
「けど、お前に礼を言う必要はありそうだ。自分の意思で戻ってくるんだ、多少は扱いやすくなってることだろうぜ」
 セージの目に失望に似た悲しみがやどる。
「君があまりにも酷い扱いを続けるようなら、僕は本気で、彼をオーナーから買い取るつもりでいるから」
 それだけは覚えておいて。
 そう告げた時のセージの強い瞳を思い出して、ビリーは机の上に注いでいた視線を天上へと向け瞼をおろした。
 もうすぐそのセージが、ガイを館から引き取りこの部屋へ連れてくる。何もわざわざ、セージが出向く必要などないにも関わらず、だ。
 これから先、どの程度関わってくる気でいるのか掴めないから余計に面倒だった。
 邪魔をするなと切り捨ててもいいが、セージが本気だというのなら、それも通用しない可能性がある。地位や人気が同じなら、自由に動かせる金を多く持つ者が有利だと知っているからだ。特にこの、サーカスの敷地内では。

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サーカス4話 セージ

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 ガイが逃げ出してから数日。ビリーの元を深刻な表情で訪れたのは、金の髪と女性的で美しい容貌を持つ、このサーカス団でビリーとほぼ同じ程度の人気を集める青年だった。
「どうした、セージ。お前がわざわざ俺の部屋を尋ねるのは珍しいな」
「君に、確かめたい事があって」
「なんだ?」
「オーナーから預かった子供を、館に置いてるって、本当なの?」
 そのセリフにビリーは一瞬だけ眉をよせたが、努めて冷静を装いながら言葉を紡ぐ。
「どこから聞いてきた噂か知らないが、セージには関係ないだろう?」
「否定、しないんだね」
 小さく響いたのはビリーが舌打ちする音だ。
「余計な事に首をつっこむなよ。お前は関わらないほうがいい世界の話だ」
 どこぞの貴族出身という噂のセージは、当然ながら、ビリーと違って金のためにこのサーカス団にいるわけではない。いくら団員の中では比較的親しくしている相手だとしても、華やかな舞台が似合う彼には、こんな、子供を性の奴隷として調教しているなどという話を聞かせたいとは思わなかった。
「君はいつもそうだ」
 告げるセージの声は、多少の不満を含んで響いた。
「僕が何も知らないお坊ちゃんだと思っているんだろう?」
「事実、そうだろ?」
 ビリーは小さく笑う。愛されて育った者特有のまっすぐな優しさが、言葉や態度の端々から窺える。そんな部分に救われている部分もあり、また、妬ましくもあった。
 ビリーのそんな気持ちを知らぬまま、セージは小さく息を吐く。
「君が子供を館で働かせてると言うのが本当で、君に彼の様子を見に行く気がないなら、僕が会いに行こうと思う」
「なんだって?」
「君が事情を話してくれるなんて、最初から思ってなかったよ。本当は、それを言いに来ただけなんだ」

>> セージを行かせる

>> 引き止める

 

 

 

 

 

 

 

 

 
<セージを行かせる>

 セージを呼び止めるために開きかけた口を、結局は閉じてしまったビリーは、部屋を出て行くセージの背中を無言のまま見送った。
 セージが館まで出向いたとして、オーナーからの預かり物であることも、現在の世話役がビリーであることもわかっているガイをすんなりセージの手に渡すはずがない。
 けれどその考えが甘かったことをビリーが知るのは、意外に早かった。
 
 翌日、オーナーに呼ばれたビリーが部屋を訪れると、そこにはセージに連れられたガイの姿があった。ビリーの姿に、ガイは一瞬怯えた顔を見せる。
「大丈夫だよ、ガイ。心配しなくていい」
 そんなガイを庇う様にして、セージが優しく告げる。
「せやけど……」
「大丈夫。僕を信じて?」
 ニコリと微笑んで見せるセージに釣られたのか、ガイも薄く微笑んで見せた。
 ビリーは思わず眉を寄せる。ガイの笑顔など、初めてだったからだ。
「さて、メンバーが揃った所で、話を進めていいかな?」
 ガイに向いていたビリーの意識を、オーナーの一言が引き戻す。
「君達を呼んだ理由はそこの子供の所有権についてなんだけどね」
「ガイは、僕が引き取ります」
 強い意思の滲む声で、真っ先にセージが答えた。
「と、セージが言うんだけど、ビリーはそれでもいいかな?」
「何故、俺に聞くんですか?」
 現在ガイの所有者はオーナーであって、ビリーはただ金を積まれてガイを調教しているだけにすぎないのだから、所有権のやりとりなど二人の間で行えば良いようなものだ。
「それは君の仕事が一つ減ることになるからだよ」
 このサーカスを出て行きたいんだろう?
 そう続いた言葉に、ビリーはゆっくりと首を振った。
「いずれはそのつもりですが、今回の仕事は元々予定外のものですから」
「なら、君がどこまで仕事を遂行したのか、報告を聞かせて貰えるかな?」
「必要、ですか?」
「ぜひ、聞きたいね」
 横に立つセージとガイにチラリと視線を投げた後、ビリーはオーナーの意地の悪い質問に淡々と答えていく。
「俺自身が教えたのはキスと口での奉仕までで、ガイ自らが進んで行えるのはキスまででした。館でムリヤリ身体を開かれる痛みは経験済みの筈ですが、そこでの快楽は知らないでしょう。後は、本人に確認してください」
 さすがに、告げた後のセージとガイの表情を確かめる真似は出来そうになく、ビリーはまっすぐにオーナーを見つめ続ける。
「ガイ。ビリーの言葉に間違いはないか答えられるか?」
「オーナー!」
「セージは黙って。まだ、ガイは君の物じゃないんだからね」
「……間違い、あれへん」
 はっきりとした声だった。思わず振り向いたビリーの目には、震える拳をギュッと握り締めるガイと、それを労わるようにガイの肩を優しく抱いたセージの姿だった。
「少しは、素直になったってことかな。じゃあ、ついでに、僕の友人に傷をつけた謝罪も出来るかい?」
 土下座して謝れたら許してあげると、楽しげに笑うオーナーに、ガイはキュッと唇を噛んだ。それから、ゆっくりと床に膝をついていく。
「すみませんでした!」
 やけくそ気味に、ガイの悔しげな謝罪の声が部屋に響いた。
「そこまでされちゃ仕方ないね」
 呆れたような、けれどどこか満足げな声でオーナーは続ける。
「僕の気は済んだから、ガイはセージにあげることにするよ。元々断りきれずに引き取った子だし、君が責任を持ってくれるならこっちとしても助かるし。だから、君が用意したお金はビリーに払ってやってくれるかい?」
「ビリーに……?」
「そう。君のせいで仕事を一つ失くしたわけだしね」
「わかりました」
 頷き了承を告げたセージは厚みのある封筒をビリーへと差し出した。
 中身はガイを引き取るために用意した金だろう。

>> 受け取る

>> 断る

 

 

 

 

 

 

 

 

 
<受け取る>

 封筒の中には、最初にオーナーがビリーに提示した金額とほぼ同等の紙幣が入っていた。
 その場でオーナーに退団を申し出たビリーは、残念がるセージと、ホッとした表情を見せるガイに複雑な気持ちを抱えながら、一足先に部屋を後にする。
 私物などほどんどないに等しい部屋を簡単に片付けて、ビリーは小さな荷物一つを手に、住み慣れたサーカスを背に街中へと歩き出した。

< 一人で去るエンド1 >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
<断る>

 差し出された封筒は魅力的だったが、仕事をこなしたわけでもないのにそれを受け取れる神経は、さすがのビリーも持ち合わせてはいなかった。
「その金はガイのために使ってやればいい」
 そう告げたビリーに、セージは酷く嬉しそうに笑って見せた。
 
 その日から、セージの隣には大概、ガイの姿を見かけるようになった。
 最初は戸惑いの表情を見せていたガイも、セージと共に暮らすうち、いつしか明るい笑顔を見せるようにまでなっていたが、それでもやはり、ビリーの前では怯えの混じる表情を滲ませる。あの日、オーナー室で二人を見た時からわかっていた未来だった。
 胸の中の苛立ちは何だろう?
 ガイの隣で、ガイの笑顔を見つめているのは自分だったかも知れないと、チラリとでも思っているのだろうか?
 ビリーはそんな自問に首を振る。仕事の道具程度にしかガイを見ていなかった自分が、一体何を思えるというのか。
 ここでの仕事は割が良いのが魅力だけれど、そろそろ次の仕事を探す時期なのかもしれない。部屋の窓越しに、セージの隣で楽しげに笑うガイを見つめつつ、ビリーはそんなことを考えた。

< セージエンド1 >

 
 
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サーカス3話 引き取る

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 ビリーは軽く首を振ると、男に連れて帰る旨を告げて、懐から札束を取り出した。
「足りるか?」
「充分過ぎる程で」
 男は嬉しそうな醜い笑みで答えると、小さな鍵を一つ差し出した。どうやら、ガイの首に掛かった首輪の鍵なのだろう。
 案内を断ったビリーは、教えられたままにガイの居る部屋へと向かう。
 部屋の鍵は掛かっていなかった。薄暗い部屋の中に差し込んだ光に、顔をあげたガイが目を細めて見せる。
「いい格好だな」
「……ビリー……?」
 入り口に立つ男の姿を認めて、ガイの表情が驚きに変わる。
「何しに、来たんや。逃げ出そうとして捕まったワイを、笑いに来たんか? それとも、アンタが、ワイの最初の客になるとでもいうんやないやろな」
 捕まった後何を吹き込まれたのやら、ガイはビリーが迎えに来たなどと、チラリとも考えていないらしい。
「客、な。それもいいかもしれないな」
 ガイへと近寄ったビリーは、ガイの小さな顎を片手で掴むと、殴られ腫れた頬を確かめる。
「痛ッ……」
 小さな悲鳴が漏れた。
「随分暴れたらしいな。バカなヤツだ」
「ビリーには、関係あれへん」
「何言ってるんだ。お前は俺のペットだと言ったろう?」
 その言葉に、ガイはなんとも複雑な顔をしてみせる。
「ワイ、逃げたんやで?」
「そうだな。しかも、俺に断りなく余計な傷まで作った。帰ったら当然、罰を受けてもらおう」
「かえ、る……?」
「嫌そうだな。本気でここに残って、客でも取ってみるか?」
 ビリーは薄く笑いながら告げる。当然、ガイがそれを肯定するなどカケラも思っていなかった。
「ワイは、帰らへん」
 けれどきっぱりと告げられたセリフに、今度はビリーが驚きに目を見張る。
「ここで客を取るって事が、どういうことか、わかってるのか?」
「わかっとる。けど、ビリーんトコ戻るくらいやったら、力尽くでどうこうされるほうがまだマシや」
「力尽くのが、マシだって……?」
 黙ったまま軽く頷く振動を、顎に当てたままの手の平に感じたビリーは、鎖に繋がれたままのガイを、冷たいコンクリートの上に敷かれた薄布の上に押し倒した。
「お前の言う力尽くがどんなものか、わからせてやるよ」
「ビリー!?」
 とっさに、抗うように胸を押すガイの腕を取り、ビリーはその顔を覗きこむ。
「お前の最初の客になってやるって言ってんだ。力尽くでいいってなら、抵抗した分だけ余計に痛い思いをする覚悟をしとけ」
 その言葉に、ガイは身体の力を少し抜いた。どうやら本気で、ビリーを自分の客として迎える事に決めたらしい。
 そんなガイに、ビリーの胸に苦い想いが湧きあがる。ガイが謝り、帰って罰を受ける事を了承するならすぐにでも止めてやるつもりだった。こんな状況の方がまだマシだと言うほどに嫌われているとは思わなかった。
 ビリーは突きつけられた現実を受け入れるために、一度だけ目を閉じる。
 
 ビリーはガイの纏う薄い布を剥きあげると、大きく足を開かせた。小さく震えながらも、ガイは何も言わずにビリーの次の行動をただ見守っている。
 いずれはゆっくりと、快楽と共に広げてやるつもりだった最奥の場所へ、ビリーは乾いた指先を押し当てる。グイと力を込めても、当然、すんなり入って行くはずがない。
「わかってるか? ここに、お前が口に含むのすら持て余す俺のアレを突っ込むんだぜ?」
 痛みに身を竦ませるガイに、ビリーは冷たく言い放つ。血の気の失せた表情で、それでもガイは小さく、好きにすればいいと返した。
「本当に、強情だな。今ならまだ、謝れば許してやってもいい」
 これが最後のつもりで告げたビリーに、ガイは薄く笑って見せた。
「ビリーんとこ、帰りたないねん」
「そうか。なら、仕方ないな」
 溜め息を飲み込んで、代わりにガイの腰を高く抱え上げる。部屋の中を、堪え切れずに漏れるガイの悲鳴が満たした。
 
 部屋の外には、先ほどの男が立っていた。ビリーは黙ったまま、使う事のなかった首輪の鍵を返す。
「よろしいんで?」
「本人が、ここに居たいって言うからな」
「では、先ほどのお金はお返ししなければなりませんかね?」
「いや……取って置け。随分傷つけたから、客を取れるようになるまで暫くかかるだろう」
 男はニコリと笑って、わかりましたと答えた。
「では、傷が治るまで次の客は取らせないよう手配しておきましょう」
「ああ、そうしてくれ」
「今後も彼のことをお知らせしますか?」
「それは必要ない。後は、オーナーが決めることだ」
 今後、ガイの世話を任されるのが誰になるかはわからないが、それがビリーでないことだけは確かだった。こうなってしまった以上、仕方がないだろう。
 ビリー自身にすら、オーナーからどんな罰が下されるかわからない。ビリーは重い気持ちのまま自分の部屋へと戻って行った。

 

 

 

 目の前のモニタには、ガイが複数の男に犯されている画像が映し出されている。部屋の様子からすると、あのままあの薄暗い部屋で客を取り続けているのだろう。
 苦しそうに眉を寄せているのがわかるが、ビリーに出来るのは画面からそっと視線を外す事ぐらいだった。
「呼んだ理由は、わかってるだろう?」
「ええ」
「残念だよ。君なら、ガイを立派な奴隷に仕立ててくれると思ってたんだけどね」
「申し訳ありません」
 頭を下げたビリーの目の前に、オーナーは用意していた札束を差し出した。
「なんですか?」
「君への報酬。といっても、失敗には違いないから、最初の額には届かないけどね」
「頂けません」
「なぜ? 君の欲しがってる額には足りてるハズだけど?」
 ニコリと笑って見せるオーナーを、ビリーは訳がわからないままにただ見つめていた。
「あの生意気な子供が、僕の前で素直に身体を開いて見せたら楽しいだろうと思ってたけど、これはこれで、あの子らしい人生選択でもあるかなと思ってね。こんな苦しみを受けても、自分自身の心を変えられるよりはいいらしい」
「ガイが、そう言ったんですか?」
 その問いに、オーナーが答えを返すことはなかった。
「君は君に与えられた仕事に対する報酬を黙って受け取ればいい。まぁ、一種の口止め料と退職金代わりとでも思ってくれればいいよ」
 さよなら、かな?
 そう続いた言葉に、ビリーは黙って目の前の札束に手を伸ばす。確かに、最初に提示された額よりは少ないものの、ビリーが必要としているだけの額はあるだろう。
「今まで、お世話になりました」
 告げて、ビリーはオーナー室を後にした。

< 逃亡エンド >

 
 
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