可愛いが好きで何が悪い10

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 結局、迷子センターへ到着する前に、2人の親は見つかった。見つけたのは自分ではなく連れの男で、改めて、本当に特殊な目を持っているのだなと思う。
 花火大会が終わった後で人が減っていたのが良かった面もあるとは思うが、焦った様子で辺りを見回し何事か呼びかけている女性と保護した迷子の繋がりを、顔で判断できるのは素直に凄い。
「ありがとうヒーロー!」
 満面の笑みでお礼を言って去っていくのを、同じように満面の笑みで手を振り見送った男に、素直に凄いと思った気持ちのまま口を開く。
「お前の目、こんな形で役に立つと思ってなかったわ」
「それは俺自身がかなり驚いてる。でもお前でも気付けるようになるんじゃない?」
「いや俺は顔の特徴で血の繋がりなんてわかんないけど。俺、自分が今も姉貴と似てるなんて、全然思えないし」
「じゃなくて。不安で泣きそうになってる子供が目に入るんだから、子供探して必死になってる親にも気づけるんじゃないの? って意味」
 彼には子を探す親がかなり目立って見えたらしい。それを疑問に思った後、顔も似てる気がするしもしかしてと、手を引く迷子に確かめたら当たりだっただけだそうだ。
「あー……どうだろな。親が見つかるかもとか考えたことないし、探したこともなかったし」
 迷子を見つけたら保護して、スタッフや警備員などに託すか自分で迷子センターに連れていけばいい。というのを馬鹿の一つ覚えのように守っていて、それ以外のことを考えたことがない。迷子と簡単な会話を交わすことはしても、一緒になって親を探そうなんて展開になることはなかった。
 というかそんなの正直、無駄でしかないと思っている。ついでに言うなら、迷子を連れ回すというリスクもある。お前こそが連れ去り目的じゃないのかと疑われたらたまらないので、まっすぐに迷子センターを目指すのが正解なはずだ。
 その途中で親が見つかった今回は、彼の目があった以上に、きっと運が良かった。
「ああ、でも、迷子を見つけるってことは、視線が下向きってことでもあるのかも?」
「なんだそれ」
「さっきもちょっと言ったけど、俺、今日、ここで何人かバイト先に来たお客さん見かけてるんだよね。でもそれに気づくのって、その人達の顔が目に入ってるって意味じゃん? で、俺がこの人混みの中、あの人みたことあるな〜って思ったの、全員大人なんだよ。でもお前はこういう人混みの中で、迷子の子供が目につくんだろ? それって、視線が下に向かいがちだからじゃない?」
「ああ、なるほど」
 そんな風に考えたことはなかった。
「って考えたら、俺と2人で迷子保護するのってかなり完璧な布陣じゃない? またどっか祭り探して遊びに行っちゃう?」
 あちこちのお祭り行って、お前が迷子見つけて俺がその親見つけるの。などと浮かれた調子で話しているが、迷子の保護は目につくから仕方なく行っているだけで、率先して迷子を探して歩いたことはない。
 あと今日はたまたま運が良かっただけで、親探しなど、やはり積極的にやるものではないという気持ちが強い。
「やだよ。面倒くさい」
「ええ、俺今日めっちゃ感動したんだけど!? ありがとうヒーローって言って貰ったんだけど!!」
 初めての迷子保護にプラスして、親を見つけてしまうという幸運が重なって、興奮しすぎている気がする。
「ありがとうって言われたいから迷子探しとか、ヒーロー気取りたいなら一人で勝手にやってくれ」
「お前が居なかったら迷子と出会えないじゃん」
「そういう目的で誘われるのは初めてだけど、正直面倒以外の何物でもないな。お前とは二度と一緒に人混みには出かけないことにする。あと一応親切心で言っておくけど、迷子連れてウロウロしてたらお前が通報案件だぞ。運良く迷子見つけても、親探しなんてやめて迷子センター連れてっとけ」
「ちょ、待って待って。忠告はありがたく聞いとくけど、色々極端すぎるだろ。あとどっちかっていったら、また迷子見つけたいってより、また一緒に遊びに行きたい、って部分がメインだったんだけど。バイト代出たら俺も年パス買おうかなって思ってんのに、迷子のいそうな人混みデートがNGになったら夢の国デートもできなくない!?」
「デート言うなよ。てかそれ、ナンパ断る口実になるってだけだろ」
 さっきみたいに。と思い出してしまって、小さなため息がこぼれ出た。
 友人というポジションで大学では彼の顔の広さをありがたく利用しているのだから、多少はこちらも利用されてやるべきなのかもしれないが、彼目当ての女子の反感を買いたくはなかった。
「違いますけど。本気でデート誘ってますけど。今日のこれも、俺は割と本気で、初恋の子と初めてのお出掛けってウキウキだったし」
 しかし少しムッとした様子で反論されてしまい、否定されたということだけはわかったが、いまいち意味がわからない。
「何いってんだお前」
「俺、言ったじゃん。お前見てるとドキドキするし、どっちかが女の子なら良かったなって思っちゃうんだって」
「いやでも、だったら俺も、どっちかが女子でもお前と付き合うとかないって言ったろ」
「でもそれ、俺が美形だから気苦労が、みたいな話だったじゃん。俺のこと嫌いとかじゃないじゃん。てか声かけられて愛想振りまくのを恋人って立場で見るのはキツイとか言ってたから、はっきりきっぱりデート中だからってお断りしたのに。あれでもアウトなら、どう断るのが正解だったの?」
 どう断るのが正解だったのか……と考えかけて、そうじゃないと頭を振った。
「いやいやいや。正解も何も、どっちかが女の子ならって前提どこ行った?」
 2人とも男な部分は変わりようがないのだから、恋人になんかならないし、デートだってしない。それで終わる話じゃないのか。
 相手が口を閉じてしまったので、無言のまま駅へと続く道を歩いた。けれど暫く歩いていたら、そっと服の裾を引かれて足を止める。
「なんだよ?」
「俺、お前が男ってわかってても、多分、間違いなく、惚れてる」
「は?」
「どっちかが女の子じゃなくても、お前と付き合いたいって思ってる」
 だってお前は俺のヒーローなんだと、途方にくれた顔でそんなことを言われても困ってしまう。
「そんなのいきなり言われても……」
「うん、ゴメン。俺もまだ混乱してる、から、……ほんと、ゴメン。今の、忘れて、いい」
 忘れていいなんて言われても忘れられそうになかったけれど、わかったと返す以外に何も言えなかった。

続きました→

 
 
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可愛いが好きで何が悪い9

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 連続していくつもの花火が上がったあと、終了のアナウンスが流れてくる。別に急いではいないし少し人が引けるのを待つかと話しあっていたら、女性二人組に声を掛けられた。
 どうやらこちらの会話が聞こえていたようで、急いでないならどこかでお茶でも的なお誘いだ。逆ナンって本当にあるんだなぁという気持ちの中に、でもきっと彼はこんなの慣れっこなんだろうなぁという気持ちがある。
 どうせ彼女らの目的は彼だろうから、対応は任せたというつもりでチラッと隣の男に視線を流す。わかってると言わんばかりに一つ頷いた相手が、こちらの肩に腕を回しながらグッと頭を寄せてくる。
「ゴメン、俺たち今デート中だから」
 なんで寄ってくるんだと思った矢先にそんな言葉が耳の近くで発されて、とっさに真横にある相手の頭に自らの頭を打ち付けた。
「痛って!」
 ガンと鈍い音がして相手が痛みに声を上げたが、もちろんこちらだって相応の衝撃を受けている。ただ、そんな痛みはとりあえず後回しだ。
「ちょ、何言ってんだお前」
「いやいやいやそんな照れなくても」
「照れてるとかじゃなくて、断るにしてももっとマシな言い訳あったろ」
 てっきり、下半身がだらしないと言われたのが悔しいから、暫く女の子のお誘いは受けるつもりが無い的な話をするんだと思っていた。
「えー、だって、さっきデート否定しなかったじゃん。お姉様方からのデート費用カンパ受け取ったじゃん」
「バイト代だろ、あんなの」
「え、酷い。俺はデートって信じてたのに」
 大げさに嘆いて見せる姿が数時間前のファミレスでのやり取りを思い出させる。なんだかとても演技っぽい。
 ただそれを指摘はしなかった。というよりは、彼とのやりとりがどうでも良くなった。
「わりぃ、見つけた。ちょっと行ってくる」
「え、え、ちょっ」
 置いてかないでよの声を無視して、目的の場所へと急ぐ。といってもそう距離はなかったので、あっという間に迷子らしき兄妹の元へ辿り着いた。
「迷子か?」
「だったらなんだよ」
 声をかければ兄らしき少年が背中に妹を庇うようにして睨んでくる。
「そう警戒すんな。迷子センターまで連れてってやるだけだ」
 相手の警戒が少しでも解けるようにと、しっかりと腰を落として相手を軽く見上げた。
「迷子センター……」
「それとも迷子になったときはどうするか、親と既に決めてるか? 待ち合わせ場所とか」
 聞けば首を横に振る。
「なら闇雲に探すより、迷子センターで待ってる方がいいと思うぞ」
「そうそう。このお兄ちゃん迷子ハンターだから安心して送ってもらうといいよ」
 すっと隣に人がしゃがむ気配がして、追いかけてきたらしい連れの男が話に割り込んでくる。
「なんだ来たのか」
「置いてくなんて酷いよね。俺にもヒーローやらせてって言ったのに」
「ヒーローなの?」
 反応したのは兄の背中に庇われていた幼女だった。ちょこっと顔を覗かせながらも視線は隣の男に釘付けだ。
「うーん、どっちかというと、ヒーローになりたい男、かなぁ。ね、俺に助けられて、俺をヒーローにしてくれる?」
「する! したい!」
 イケメンのにっこり笑顔に陥落する幼女というものを目の当たりにしてしまい、内心複雑ではあったが、妹を守らなければと気張る少年相手に少々手こずるかとも思っていたので、妹をその気にさせてくれたのはありがたい。
「ね、おにーちゃん、いいでしょ?」
「マジかよ。てか本当に信じていいんだな? って、おいっ」
 兄の方は未だ警戒気味だけれど、妹はすっかり警戒を解いていて、兄の背から出て隣の男に駆け寄っている。これはちょっとお兄ちゃんに同情しそうだ。
「なんだあいつ」
「ごめんな。ヒーローになれそうで浮かれるだけだから、あんまり気にしないでやってくれると嬉しい。妹ちゃんに変なことは絶対させないから」
「本当だな?」
「ああ。約束する」
「わかった。信じる」
 兄の方の了承も取れたので、立ち上がって手を差し出した。
「はぐれないように、お兄ちゃんは俺と手ぇ繋いどこう」
「え、でも……」
「妹ちゃんもこいつと手ぇ繋いで歩くから。2人のすぐ後ろ歩いてれば、見失わないし、こいつが変なことしそうになってもすぐ止められるし、安心だろ?」
「ねぇ、さっきっから俺に対する発言が酷くない? 変なことって何? 俺、そんなヤバい男じゃないんだけど?」
「それはいいから。てかお前、迷子センター、迷わず行けるよな? 俺たちが後ろ歩いて見張ってても大丈夫だよな?」
「それは任せて!」
 力強く頷いた後、同じように立ち上がって幼女へ手を差し出す。幼女は嬉しそうに、すぐさまその手を取った。
 2人が手を繋いで歩き出すそのすぐ後ろを、こちらは渋々と握られた手を引き付いていく。

続きました→

 
 
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可愛いが好きで何が悪い8

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 待ち合わせたのが昼過ぎだったので、開放されたのは既に夕方だったが、それでもまだ本日一番の目的である花火大会までには時間がある。なので予定していた観光先の中から近そうな寺院を2つほど経由してから、花火大会の会場へと向かった。
 到着後、まず確認するのはトイレと警備本部の場所だ。救護本部や迷子センターが警備本部の近くに設置されているはずなので、どちらかというとその2つの確認であるが、こんなのは混雑する祭りやらに参加するなら基本だと思う。
 ただ、連れの男はそれだけでなにやら感動しているらしい。
「さすが迷子ホイホイ」
 言い出したのは姉だったか母だったか。無駄に正義感が強い子供だったので、連れ去り男に飛び蹴り事件以外にも、小さな頃は何度かトラブルを巻き起こしている。
 さすがにある程度育ってからは、保護して迷子センターに届ければいいことを学んで、問題を起こすことはなくなった。
「ヤメロ。てか泣きそうになってる子供がいたら気になるの、仕方ないだろ」
 人混みの中、不安そうな顔で必死にうろつく子供がいたら、どうしたって目につくのだ。
 いっそ大声で泣いてしまえば、周りももっと気づくと思うのだけれど。でも今まで見かけた迷子の子は、大概泣くのを堪えてうろついている。
「それに気づくのがやっぱ普通じゃないっていうか、視野が広い? んだと思うんだよな」
 俺の目のことは言えないと思うと続いたので、全然違うだろと返しておく。
「ちょっと特殊な目、って意味では近いものがあるって」
「てことはやっぱ自分の目が普通じゃないって自覚あるわけ?」
「人の顔をよく覚えてる方、って自覚はあるよ。顔の特徴から血の繋がり感じるのも割りと得意」
 彼がバイトする浜辺と今夜花火大会が行われる浜辺はそこまで離れていないせいもあってか、既に何人か、バイト先に訪れたことのある客を見かけていると言うから驚きだ。
「まぁ、初恋の子が育った先がこうでも、ああ初恋のあの子だぁって顔見るたびにドキドキしちゃうのはちょっと問題かなぁって気もしてるけど」
「それってやっぱ本気なわけ? てか顔見るたびにドキドキしてるとか初耳なんだけど」
 育った先としてこちらの顔を指す手を払い除けながら、なんだそれと思いつつ問い返す。
「顔見るたびには言い過ぎだけど、でもまぁ、あの子なんだなぁって思う瞬間は結構あって、どっちか女の子なら良かったのになって考えちゃうことも多いよね」
「今のお前にドレスが似合っても付き合わないからな」
 言ってから、ファミレスでの会話を引きずってるなと苦笑する。姉とその友人らのせいで、男同士でも初恋相手同士のロマンスが発生する可能性をまず考えてしまった。
「てかどっちか女の子でもお前と付き合うとか多分ない」
「は? えっ? なんでぇ????」
 本気で驚かれてしまったが、いやだって、男だろうと女だろうとこの容姿ならモテまくるのは必至だし、経験人数が多そうなところもちょっと嫌だ。自分の性格的にワンチャンだって狙わないと思うし、恋人なんてもっとない。考えられない。
「あ、まさか下半身がだらしないから……?」
 わざわざ言わなかったのに、自分で気づいてしまったらしい。
「まぁそれもなくはないけど、お前みたいな目立つ美形と付き合ったら気が休まらない気がする」
「恋人には一途だけど!? 浮気なんてしないよ??」
「お前自身はそうだとしても、あちこちで声かけられて愛想振りまくの見せられるの、恋人って立場ならキツそう。まぁ、俺は多分そう感じるってだけで、モテる恋人が自慢になる女子も居ると思うから、お前はそういう子を好きになるといいと思う」
 などと話しているうちに、とうとう花火大会が始まるらしい。どうやら開始前に迷子と遭遇することはなさそうで少しホッとする。
 今日は2人で来ているし、迷子を見つけたら花火大会そっちのけで一緒についてきそうな相手だけれど、大人数で遊びに来ている場で迷子を保護してしまうと、その場で自分だけが離脱ということも起こりがちだ。泣きそうな子供を前にして嫌な顔をされることは少ないが、せっかくの誘いを途中離脱しがちな奴は誘いにくいというのもわかるし、過去にはそれで疎遠になった友人も居ないわけではない。
 実は今日の花火大会も、最初は来る気なんてなかった。でも、迷子ホイホイでもいいどころか、一緒に行ったら俺もヒーロー気分を味わえる可能性があるってことじゃない!? なんて、若干楽しみそうなメッセージを送ってこられて承諾した。

続きました→

 
 
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可愛いが好きで何が悪い7

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 結局、観光予定地のファミレスで姉の友人たちが合流するのを待ち、そこで数時間ほど過ごした。予定はかなり狂ったが、昼間の観光が一番の目的ではなかったのと、やはり姉同伴で会話に聞き耳をたてられたり茶々を入れられたりレポートを書かれたりは遠慮したい。ついでに言うなら、自分は何度も訪れたことのある場所だからそこまで観光に対する熱量がない。
 彼も特に観光への思い入れはないようで、むしろ姉の友人たちを交えたお茶会のほうが魅力的らしい。正直それもどうなんだと、内心若干引いた。
 半ば強制的につきあわされた先日の海での1件は未だ記憶に新しく、彼女らの興味の対象が自分ではなくても、結構精神的に疲れたというのに。興味の対象ど真ん中が、自らその輪の中に入っていこうというコミュ力には脱帽する。
 ただ、観光より女性とお茶する方が楽しいよね、的な安易な発想とはどうやら違ったようだ。
 すっかり友人ポジションではあるが、こちらの都合で学科内ではあまり親しげにしていないというか、連れ立って行動することが殆どないせいで、他者を交えて会話をした経験がほぼない。そのせいで、姉の友人らが、王子が友達と話すプライベートに興味があるように、彼自身、2人きりでは話題にも登らないような話が出来るかもという期待だか興味だかがあったらしい。
 姉とのやり取りを楽しげに見ていたのも、普段は見せない姿が面白かった、というのが大きかったようだ。
 確かに、こちらの趣味を隠す必要が一切ない姉と、そんな姉から色々筒抜けだろう姉の友人たち相手なら、会話の幅は間違いなく広がるだろうけれど。でも彼に対してそういった興味が一切なかったので、正直言えば驚いた。というか、やっと出会えた初恋相手の子として、妙に意識されているらしくてビックリだ。
 可愛らしいふわふわドレスやそれが似合うプリンセスが好きだろうが、初恋相手がめちゃかわのリトルプリンセスだろうが、恋愛対象としてそういう女性を求めているわけではない自分と、可能なら初恋相手の女の子とお付き合いしたかったと嘆く相手とでは、「初恋相手」に対する気持ちがどうやら大きく違うらしい。
 いやまぁ、どこまで本気かはわからないけど。演技というか、そういうテイでってだけな気がしないこともない。
 そして、姉が既に彼の初恋相手が誰であるかを知っていたように、姉の友人たちにもそれは周知されていた。ついでに言うなら、幼少期のドレス写真まであれこれと見られた後だった。しかも、彼に渡していないどころか見せてすらいない過去のドレス写真が、彼のスマホに増えてもいた。
 犯人はもちろん姉だ。姉とその友人のスマホには、代わりに彼の写真が何枚か譲られたらしい。その中に、こちらの初恋相手のリトルプリンセスが入ってないのが解せないが、一応、その写真も見てはいるそうで、こちらの初恋相手が彼だということもどうやら既に知られている。
 どうせ彼女らの目的は彼だしと、半ば他人事のように同席していたはずが、初恋相手同士のロマンスを期待するかのような会話に引きずり込まれて戸惑った。
 王子がバイト先では見せないような、友人との気安いやりとりや、うっかり漏らすプライベート情報が目当てなんじゃなかったのか。とも思ったが、周りの反応を見るに、どうやらそういうネタで楽しく遊んでいるだけっぽい。
 まぁ、王子の今までの女性関係を突くより、既に男だと判明している初恋相手ネタのが弄りやすいんだろうことはわかる。なんせ、下半身がだらしないと言われたのがショックだから夏のバイト中は女の子と遊ぶ気はないと、女性の誘いを断る口実にも使われているくらい、過去の女性関係になにやらありそうな匂わせがされているのだ。
 ただし、なんとなく理解はできるものの、そのネタに便乗して彼女らを喜ばせてやるかは別問題だ。双方ともにドレスを着ていたせいで互いに初恋相手と認定したが、どちらもしっかり男として成長しているのに、初恋相手同士のロマンスなど発生してたまるか。
 もう一度ドレスで着飾ったら、やっぱりこの子がいい。なんてことが起こるはずがない。
「てかそれもう、女装させて笑いものにしたい的なの、透けて見えてるんですけど」
「まぁ、あんたは昔があれだし、今も似合わない可能性が高いけど。でも王子の目にはちゃんと初恋の彼女が成長した姿に映るかも知れないでしょ?」
 姉の目から見ても、あの写真はないらしい。主にカメラの前での決めポーズがよろしくないとのことで、その意見には賛成だ。
「あと、変なポーズ取らないで黙って座ってたら、ワンチャン可愛いもあるかも知れないわよ。王子だって、惚れた子の写真写りが残念だっただけで、変なポーズ決めてるあんたに惚れたわけじゃないんだろうし」
「ねぇわ」
 その意見には賛同できないと、即座に否定を返す。というか飛び蹴りかました少女に惚れたんだから、変なポーズ決めてる子に惚れたようなものだと思うんだけど。あと、あの写真を見て躊躇いなく、勇ましいポーズ取ってるのが可愛いって言ってたぞ。
 なんて指摘はもちろんしない。
「でもほら、王子は普通に似合いそうだし、うっかり惚れ直すかもしれないじゃない?」
 姉の友人の一人に言われて、思わずマジマジと対面に座っている彼を見てしまったが、ニコリとわざとらしく微笑まれたので、こちらもわざとらしく眉を寄せて見せた。
「ないっすね」
「わー、もう、ほんと、連れないなぁ」
 言って大げさに嘆いて見せる辺り、もう全てが胡散臭いとしか言いようがない。というかもう、こんなのは彼女らを楽しませるパフォーマンスでしかないので、下手に同意してその方向で盛り上がられる方が後々絶対に面倒くさいのだ。
 今でも似合いそうなどと言ったら、本当に彼のためのドレスを用意しかねない。
 そんなこんなで、あれこれおもちゃにされつつ数時間。開放された時には相当ぐったり疲れていたが、憧れの王子とバイトのついでや隙間時間じゃなくたっぷり話せて満足したらしい姉たちから、この後のデート用と言って結構な額のお小遣いを渡されたので、この数時間はバイトだったと思うことにした。

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明日更新します〜(雑記)

本来なら今日が更新日ですが、朝からちょっとバタバタしててすっかり忘れ、用意できませんでした。
夜に書く時間が取れそうにないので、今日の分は明日更新します。

 
 
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可愛いが好きで何が悪い6

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 送られてきた写真には姉の他にもう一人女性が写っていたし、当然姉の友人も居るだろうとは思っていたが、その人数は思っていたより多かった。姉を含めて5人もの女性の中に、男は自分だけという状況に逃げ帰ろうかと思ったが、もちろんそんなことが許されるはずもない。
 ただすぐに、彼女らの目的は当然自分ではなく、すっかり王子扱いの彼でしかないことを思い知る。
 バイト先だという海の家に顔を出した瞬間から、周りのテンションが一気に上ったからだ。友人である自分への、客に対するものより数段気安い態度がお気に召したらしい。
 どうやら、自分が訪れることで、普段は聞けない話なども聞けるかも的な下心で集まったようだ。ますます馬鹿らしくはなったが、施設利用料や飲食代などは全部彼女らが負担してくれると言うので諦めて一日付き合った。
 なお、本当の狙いは休憩時間などでもっとプライベートな会話を聞けないかと思っていたようだが、その日はすこぶる天気が良かったせいで彼女らの目論見は半分以上外れたと思う。つまり、めちゃくちゃ賑わっていたのもあって、彼はろくな休憩時間が貰えなかった。
 せっかく久々に会ったんだろうから、仕事が終わるまで待って食事でも一緒にと誘えという訴えもあったが、さすがにそこまで付き合う気はない。彼の方も察していたのか、相手からもそんな誘いはなかった。
 帰り際、リベンジを目論む姉とその友人たちとには、二度と付き合わないと宣言しておく。
 5人ものお姉様がたに囲まれてハーレム気分が味わえたでしょう、などとも言われたが、自分なんてほぼほぼ眼中になかったのもわかっている。あそこまであからさまな王子狙いを見せておいて何を言うと鼻で笑って、切り捨てた。
 でもまぁ油断はできないと思ったとおりに、こちらに戻る前から約束していて彼が事前に休みを申請していたその日、当たり前みたいな顔をして姉が付いてこようとする。彼がその日に休みを貰っているという情報は姉も既に握っていたようで、一緒に遊びに行くんでしょと言い当てられてしまった。
「そうだけど、だからってついて来ようとすんのおかしいだろ!」
「ちょっとくらいいいじゃない。お金ならだすよ?」
 あんたの分も王子の分もとまで言い出すので、無茶を言っている自覚は多分あるんだろうとは思う。
「そういう問題じゃ。ってか、またあの4人も合流する気じゃないだろうな」
「するする。てか少しでいいから私達とお茶する時間作ってよ〜」
「ヤダって言ったろ。狙うなとは言わないけど、そういうのは俺抜きでやれってば」
「それはそれとして、やっぱバイト以外での顔も見ておきたいファン心理的なの、あるでしょ?」
「いや知らねぇって。てか待ち合わせに遅れるからもう行く。マジついてくんなよ」
 言い捨てて家を飛び出したが、こちらの言う事など聞きやしないでついてくる。最寄りの駅前というわかりやすい待ち合わせ場所にしてしまったのもあって、結局、相手の前に姉同伴で姿を見せる羽目になってしまった。
 こちらの姿を見て少し驚いたような顔を見せたのは一瞬で、すぐに状況は理解したんだろう。
「ちょっと予想はしてたけど、本当にお姉さんと一緒にくるとは思ってなかった」
 不満があるような顔ではないが、でも姉の前だから気を遣っている可能性もある。
「ごめん」
「まぁ来ちゃったものを追い返すのは可愛そうだし、いいけど」
「受け入れんなよ。お前が邪魔って言ったら帰るかもだぞ」
「それはほら、俺のキャラじゃないっていうか、ね」
「さすが王子!」
 にこっと姉に笑いかけるもんだから、姉がすっかり舞い上がって勝ち誇る。
「このあとどうする? お姉さん一緒で、コースは予定通り?」
「あー、」
「ねぇ、私だけなら、一日一緒に居ても良かったりする?」
 友人らが合流するらしいと言いかけたところで、姉が先に割り込んでくる。
「は? 合流するんじゃないのかよ。私らとお茶する時間作れって言ってたのは?」
「そうだけど、まだどこでとか決めてないし。2人に一緒していいなら、あとでレポート書いて提出すれば多分許される、はず」
「レポート……」
 彼とのプライベートな会話をレポート形式で纏めて友人らに配布する気だろうか。
「まさかと思うけど、レコーダーとか忍ばせてないよな? え、マジ?」
 姉の持つカバンを指さしたら焦った様子を見せたので、本気で引いた。
「てかキモい。だせ。預かる」
 姉のカバンに手を伸ばす自分と、取られまいと逃げる姉とを止めたのは、もちろんその場に居たもう一人だ。しかもなんだか楽しげに。
「笑うなよ」
「いやだって、羨ましくて」
「え、羨ましい? どこが?」
「一緒に海来たのもちょっと驚いたけど、仲いいよなぁって思って」
「あー、まぁ、俺の趣味否定しないどころかむしろ協力的だし。というか俺の趣味に影響与えた一人だしなぁ」
「ああ、そういえば聞いたかも。てかお前はお姉さんみたいに可愛い服着たいとかないの?」
 姉は今日もふわっとした感じの可愛い寄りなワンピースを着ている。夏の海通いですっかり日焼けしたことを気にしてか、せっかく「可愛い」服と言ってもらったのに、なんだか少し恥ずかしそうだ。
「俺が着てどうすんだよ。てか園児でもあの似合わなさだったんだぞ。キモいわ」
「似合うかと着たいかは別じゃない? あと、メイクとか立ち居振る舞いでだいぶ変わるものじゃない?」
「んー、姉貴と違って、俺は別に自分が可愛くなりたいわけじゃないしなぁ。ひらひらドレスとそれが似合うプリンセスが好きってだけで」
「なんだ、そうなのか」
「なんでそこでお前がちょっとがっかりするわけ?」
「そんなの、今のあんたに女装してみて欲しいからでしょ」
 プライベートな会話を盗み聞いてほくそ笑んでるのかと思いきや、姉が口を挟んでくる。しかもその内容が酷い。
「なんでだよ!」
「初恋相手の少女があんただったって聞いてるけど」
「聞いてんのかよ! てかこいつの目、絶対おかしいから!」
「ええ、ホント酷いな」
「てかなんか注目集まってきて辛いんだけど。もうやだ。早く移動したい」
 ただでさえ目立つ男とさえない男が、気合の入った可愛い服を着た女性一人を挟んで何やら言い合っている状況だということに気づいて、いたたまれなくなる。
「取り敢えず電車には乗ろうか。お姉さんの友達呼んでお茶するか、そのまま3人で観光するかは電車の中で決めよう」
 彼と違ってこちらは人の視線に晒されることになど慣れていないと気づいてくれたらしい。本気ですぐにでもこの場を離れたかったので、その提案には即座に頷いた。

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