君の口から「好き」って聞きたい2(終)

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 うじうじと後ろ向きな思考に囚われる中、相手から週末の誘いがかかった。場所はめちゃ混みの学食で、今日は向かい合っての席が取れなかったから、横並びで食べている。
「明日って、なんか用事入ってるか?」
「いや、特にはないけど」
「じゃあちょっと付き合って欲しいとこあるんだけど」
「いいよ。買い物? カラオケとか映画とか?」
 これがデートのお誘いならいいのに。でもここは学食だし、恋人になる前のやり取りと何ら変わらないし、きっと期待するだけ無駄だ。そう、思ったのに。
「いや、俺んち」
「は?」
「俺の家、お前、来る気ある?」
「え、え、なんで?」
「なんではこっちのセリフだわ」
 言ってからぐっと顔を寄せてくるから、どうしたってドキドキしてしまう。
「お前、俺と付き合ってる自覚、やっぱないんじゃねぇの」
 耳元でそっと囁かれた言葉に、ああ俺たちってちゃんと付き合ってるんだと、それだけでかなり嬉しくなる。いやまぁ、恋人ごっこ疑惑はまったく晴れてないんだけども。
「それはこっちのセリフですぅ。てかいきなり家に誘うとかある? え、体目当て?」
 相手の顔は寄せられたままなので、こちらも小声で囁き返した。
 だって恋人っぽいやり取りなにもないのに、いきなりセックスとかハードル高すぎない?
「おまっ、ばか、何言ってんだ」
「何言ってるも何も、恋人の家に誘われるってそういうことじゃないの。てかお友達としてはお邪魔したことないんだから、余計に、そういうの意識して当然じゃない?」
 学校を挟んで逆方向にそれなりの距離を通学しているせいで、仲が良い友人でしかなかった時に、互いの家を訪れたことはない。
「あー、一応ちゃんと、意識はしてくれてんのか」
 じゃあ別の場所でもいいかとあっさり翻された上、話は終わりとばかりに相手の顔が離れていくから、慌てて待ったをかけた。
「待って待って」
「なんだよ」
 待ったはかけたが相手の顔は戻ってこなくて、挫けそうになる気持ちと戦いながらも口を開く。
「お前んち、行きたい」
 行ったことがなくて、見たことがない相手の部屋に、興味のある無しで言えばそりゃあるに決まってる。
「おいこらっ」
 呆れるような声だけど、でも怒ってはいない。苦笑するみたいな顔は優しいから、経験的に、このまま押せばOKされるとわかってしまう。
「だってお前の部屋、興味あるもん。ただ、いきなり、……はハードル高いってだけで」
 顔が離れてしまったし、学食でセックスと言葉に出すのもさすがに躊躇われてしまったけれど、相手にはちゃんと通じたようだ。
「そんなんこっちも一緒だっつーの。だいたい、どっちがどっちとかも決まってねぇし」
「どっちがどっちって?」
「だぁからぁ……や、いいわ。続きは明日な」
「え、なに、めっちゃ気になる」
 食い下がったけれど教えては貰えなくて、再度、本当に俺んちでいいのかと聞かれたから、いいよと返した。
 いきなりセックスって展開はないらしいから、そう警戒する必要もないんだろうし。と思うと、逆になんだか残念な気がしてしまうあたり、我ながら我儘なことを考えている自覚はあるんだけど。
 ああ、でも、恋人の部屋で2人きり、って状況になったら、少しは関係が進展したりするのかも?
 その可能性に気づいたのは、昼休憩なんてとっくに終わった後どころか、帰宅した自室でだった。


 相手の家の近くの飲食店で待ち合わせて、昼飯を食べた後で相手の家を目指す。食事中からもう結構色々ダメダメで、というよりも、やっと関係が進展するのかもという期待と不安とで相手を意識しすぎていた。
 グダグダのこちらに、今日は相手からのツッコミもなくて、ただただ楽しそうに眺められている。楽しそうだから、ツッコミ無いのかよというツッコミもしづらくて、結果、グダグダなまま相手の家の前にまで到着してしまった。
「どうぞ」
「あ、うん、オジャマシマス」
 たどたどしく応えて靴を脱ぎ、促されるまま相手の部屋に向かいながら、随分静かだなと思う。うちの親なら、息子の友人見たさに絶対顔を出している。
「ねぇ、家の人は?」
「みんな出かけてる」
「えっ……」
 思わず足を止めたこちらに、相手も立ち止まって体ごと振り向いてきた。だけじゃなくて、伸びてきた手に腕を掴まれてしまった。
「逃げんなよ?」
「え、や、だって、セックス目当てとかじゃない、って……」
「いきなりセックスはこっちもハードル高いけど、下心皆無とまでは言ってねぇよ?」
「え、ええ〜……」
 確かに。確かに言ってはなかったけども。こっちだって、進展するかもって期待はあったけど。
 何をされるんだろう。セックスじゃないにしても、どこまで、されちゃうんだろう。
 不安になって見上げてしまう先で、相手がどうやら笑いをこらえている。
「ちょ!?」
 気づいた瞬間に、腕を掴む相手の手は離れていった。逃げても良い、ってわけじゃなくて、逃げる必要なんて無いと、こちらが理解したことを、多分察している。
「ん、ごめん。お前が俺を意識しまくってんの、嬉しくって」
「嬉しい? 面白いとか楽しいじゃなくて?」
「家に誘っただけでここまで意識されてたら、そりゃ、嬉しいだろ。まぁ、学校ではますます気をつけないと、とは思ったけど」
「学校では?」
「お前が俺を意識しすぎてグダグダになってるとこなんて、学校の奴らに見せたくないよなぁって話。俺が好きってダダ漏れだしさぁ」
 可愛いけど、可愛いから見せたくない。と続いた言葉が嬉しくて、恥ずかしい。
「もしかして、それで恋人になったのに、恋人っぽいことなにもしなかった?」
「それだけで、ってわけじゃないけど。恋人になったはずのお前が、前とぜんぜん変わらないから、どうしようかとは思ってた」
「え、それは俺のセリフなんですけど!?」
「もしかして、待ってた?」
「そりゃあ」
「ちなみに、恋人になった俺と、どんな事したいと思ってた?」
「え、っと、手、繋いだ、っり」
 言った瞬間には手を取られて、ためらいなく指を絡めて握られたから、言ったらしてくれるってことかと思って声が詰まってしまう。
「他は?」
 キスしたり、って言ったらキスされるのかも? と思ったら、言えそうになかった。だから。
「好きって、言って、貰ったり」
 キスよりはハードルが低いだろうと思ったのに、予想と違って、相手から好きだよの言葉は返ってこない。ただ、ショックを受けるには相手の表情が優しすぎて、頭の中が混乱する。
「あの……?」
「お前は?」
「え?」
「好きって言って貰いたいだけで、お前からは言う気無し?」
「あれ?」
 言われて何かが引っかかる。多分、すごく、大事なこと。
「どうした?」
「あ、あの、もしかして俺、お前に好きって、言って、ない?」
「ないな」
「え、えっ、ごめん、好き。好きです」
 慌てて言い募ったら、フッと小さな笑いが漏れて、繋がれた手を引かれたかと思うと同時に相手に抱きしめられていた。
「ごめん。ちょっと意地はってた。俺も、お前が好きだよ」
「よ、かったぁ。お前優しいから、俺に同情して恋人になってくれただけかも、とか、思って」
 最近ちょっと落ち込んでたと言ったら、なんか変なこと考えてんだろうとは思ってたと返される。
「お前って、恋愛方面、かなり奥手だったんだな。意外、っつうか、ちょっと想定外で、それで不安にさせたなら悪かったよ」
「意外?」
「付き合ったら、お前の方からもっとグイグイ来るのかと」
「いけるわけない」
「なんで?」
「そんなの、だって、ドキドキしちゃうから」
 今だってこんなに近くて、凄いドキドキしてる。
「うん、だから、そういうとこ。知らなかったな、って」
 でも家誘われたらセックス想像したりはするし、自分からはグイグイ来れなくても、抱きしめられたら大人しく腕の中に収まってんだよな、って笑うみたいに言われてしまう。
「だって、ドキドキはするけど、やっと恋人っぽいこと出来ててめちゃくちゃ嬉しいし」
 一旦言葉を区切って、繋がれてない側の腕を相手の背に回し、こちらからもギュッと抱きついてやる。
「それに、いきなりはハードル高いけど、お前が俺をちゃんと好きなら、恋人となら、いつかはセックスだってしてみたいよ?」
「それ、一応の確認だけど、俺がお前を抱く側、って思ってていいわけ?」
 ちなみに昨日のどっちがどっちって、セックスの時の役割の話な。と言われて、そんなの考えたことなかったなと思う。
「そこまで具体的に、考えたことなかった」
「だと思った」
「で、でも、お前が抱く側って思ってるなら、それでいいよ」
 相手のが背だって高いし、自分が押し倒すイメージよりも、自分が押し倒される方がイメージしやすいというのもある。相手に押し倒される想像をしてみても、全く違和感はわかなかった。むしろ、押し倒すイメージのが……
「どうした?」
 いっきに加速した鼓動は、相手にも伝わってしまったのかもしれない。
「お前押し倒すの想像したら、めちゃくちゃドキドキしちゃって」
「えっ」
「絶対無理ぃ」
「あ、ああ、そういうことかよ」
 脅かすなよと苦笑された後、まぁどのみちそういうのは当分先だよなぁと言われながら、くっついていた体が離れていく。そして相手の部屋に向かうためだろう。こちらに背を向けて歩き出そうとする相手の服の、裾を掴んで引いて引き止めて。
 キスは早めにしたいと訴えてみたら、せめて部屋入るまで待ってくれと言われて、どうやらこの後すぐ、相手の部屋に着いたらキスをされるらしい。

CPお題ガチャポンのお題「今日の有坂レイのお題は【君の口から「好き」って聞きたい】です。」でした。

 
 
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