お隣さんがインキュバス

 深夜とも言える時間帯、終電でなんとか辿り着いたマンションはなんだか少しいつもと違う。 
 不穏な気配の原因はすぐにわかった。エレベーター前で揉めている二人の男がいる。
 騒がしくはないが、小声で何やら言い争っているのがわかった。
 疲れた体で階段を使う気はせず、かといってその二人の間に入っていく勇気もなく、さっさと終わってくれないかと思いながら、ぼんやりとその二人を眺めてしまう。
 やがて片方の男がこちらの存在に気づいて何か言ったようだ。ちらりとこちらを確認したもう一人の男が、結構派手な音を立てて相手の頬を叩く。
 さすがに驚いて目を瞠っているうちに、頬を叩いた側の男がつかつかとこちらに向かってくるから焦った。しかし特に絡まれることはなく、通りすぎる時に軽く舌打ちされた程度で済んでホッとする。
「すみません、変なところ見せちゃって」
 叩かれた頬をさすりながら残された男がペコリと頭を下げた。
「あー……いえ。その、大丈夫ですか」
「大丈夫です。気にしてくれるなんて優しいですね」
 にこりと人懐っこそうに笑った相手は、エレベーター使いますよねと続けながらボタンを押す。これはこの男と一緒に乗り込むしかなさそうだ。
「4階ですよね?」
「そうですけど……」
「俺、隣に住んでますけど、もしかして顔わすれちゃいました?」
 こちらの警戒心が伝わったのか、相手が苦笑する。
 言われてみれば確かに、以前、隣に越してきたと挨拶に来た男と同一人物らしい。その挨拶以降、一度も顔を合わせたことがないので、隣には自分よりも少し若いだろう男が住んでいるという情報だけが頭に残っていて、顔などすっかり忘れていた。
「え、あ、あー……すみません。ご挨拶頂いたとき以来だったので」
「いいですいいです。俺、人の顔覚えるの得意なんで」
 一緒にエレベーターを降りた男は、自宅の一つ手前の部屋のドアを躊躇いなく開ける。
「おやすみなさい、いい夢を」
 最後にそう笑った顔が、廊下の薄明るい蛍光灯の下ですら、なんだかキラキラと輝いて見えた。

 そんなことがあったからか、変な夢を見てしまった。
 さっきはありがとうございましたとキラキラの笑顔を振りまくお隣さんに起こされて、別に何もしてないと言うこちらの訴えをスルーされて、ニコニコ笑顔のまま覆いかぶさってきた相手と、あれよあれよという間に体を繋げていた。しかも、自分が抱かれる側で。
 夢だからなんだろう。抱かれるなんて経験は初めてなのに、痛いどころか、ひたすらに気持ちが良かった。
 自分の口から女みたいな嬌声が漏れ出ているのが不思議で仕方がない。セックスが上手いっていうのはこういうことを言うんだろう。それを思い知らされるような手管の数々に、善がり泣く以外出来なかった。
 恋人に振られたのがもう1年近く前だし、忙しすぎて自己処理すらご無沙汰だったせいか、散々イカされまくった後の目覚めはなんともスッキリしている。
 ただ、下着が汚れていなかったのは不思議だったし、お尻の穴がムズムズしていてなんだか恥ずかしい。その場所が、まるで夢のとおりに気持ちが良くなりたいと期待しているみたいで嫌だ。

「お疲れさまです。今日もけっこう遅かったですね」
 どういう仕掛けかわらかないが、自室がある階でエレベータを降りて歩き出した矢先、隣室のドアが開いて男が出てくるから驚く。
 思わず足を止めてしまったが、相手の顔をまっすぐに見返したところで、昨夜の夢を思い出してしまった。顔に熱が集まるのがわかって、なんとも気まずい。
 そっと視線を外せば、相手がふふっと小さく笑う気配がした。
「俺のこと、意識、してくれてますよね?」
 嬉しいなぁと呑気な声の後、相手の気配がぐっと近づいてくる。
「今夜も、楽しみましょうね」
 耳元で囁かれた声に慌てて一歩後ずさり、相手の顔をまじまじと見つめてしまう。気まずいなどと言って、視線を外していられない。
「どういう意味だ」
「やっぱ覚えてないか。そもそもあの状態じゃ、聞こえてたかも怪しかったけど」
「だから、どういう意味だ」
「俺ね、インキュバスなんですよ。あなたのこと結構気に入っちゃったんで、変な夢見たなぁじゃなくて、今日はちゃんとリアルで可愛がってあげたくて、帰ってくるのを待ってたんです」
 何を言われているのかわからないものの、楽しげに笑っている顔がやっぱりキラキラと輝いて見えて、だからおいでと伸ばされた手を拒めなかった。

さ~て、今週の有坂レイにぴったりのBLシチュエーションは~?
1.ビンタ
2.お隣さん同士
3.相手がインキュバス
の三本です!!
来週もお楽しみに~!
https://shindanmaker.com/562913

 
 
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ホラー鑑賞会

 カーテンの隙間から覗く空は青々としていて、意識して耳を澄ませばいくつもの蝉の鳴き声が聞き取れる。きっと外は今日もくそ暑い。
 しかしカーテンを締め切り冷房を強めにきかせた部屋の中は、薄暗くて少し肌寒かった。
 目の前のテレビに映し出されている映像もこの部屋以上に薄暗く、相応におどろおどろしい不気味な音を発していたから、余計に寒く感じるんだろう。
「ひえっ」
 画面の中で血しぶきが飛び、隣の男が身を竦める気配と、いささか情けない声音が漏れてくる。もっと盛大に怖がってくれていいのに、鑑賞会に付き合わせすぎて耐性ができつつあるようだ。残念。
 やがてエンドロールが流れ出し、隣からはあからさまにホッと安堵のため息が盛れた。
「思ったよりエグかったな」
「え、マジすか。どこがですか。全然平気そうに見えましたけど?」
「流血量と誘い出す手口のアホらしさが?」
「流血量はわかりますけど、手口のアホらしさって……」
「あれでノコノコ出向いてまんまと餌食、って辺りがエグいだろ。あんなやつを信じ切って可哀想に」
「先輩がそれ言います?」
「お前はノコノコ付いてきてまんまと食われるタイプだもんな」
「別に後悔はしてないっすけどね」
 興奮しました? と聞かれて、した、と返せば、相変わらず変態ですねと笑われる。
 ホラーを見てるとムラムラする、と教えたことがあるのに、暇だから遊びに行っていいすかだとか、せっかくだから一緒に何か見ましょうだとか、夏だしオススメのホラーありますか、だとか。誘われてるのかと思っても仕方がないと思う。
 まぁ、ホラーでムラムラする、なんて話を全く信じていなかっただけらしいけれど。ホラー好きなことだけはちゃんと伝わっていて、あの発言も一種のネタなんだと思ってたらしいけれど。
 あとまぁ、男もありだなんて思わない、という点に関しては確かにそうだ。あの日より前に、ゲイ寄りのバイだと教えたことはなかった。
 近づいてくる顔に目を閉じて、初っ端から舌を突っ込んでくるようなキスを受け止める。こちらは既に興奮済みなので、さっさとお前もその気になれと、口の中を好き勝手させながらも伸ばした手で相手の股間を撫で擦った。
 初回は勃たせるのにも一苦労だったが、ホラーに耐性ができてきたの同様、鑑賞後のこうした行為にも耐性が出来たのか、あっという間に手の中で相手のペニスが育っていく。
 充分に硬くなった辺りでキスが中断されたのでベッドへと誘った。短な距離を移動しながら互いに服を脱ぎ捨てて、ベッドの上になだれ込めば後はもう、突っ込まれて中を擦られて腹の中に燻る熱を吐き出すだけだった。後ろの準備は彼が来る前に終えていた。
 慣れたもので、こちらが差し出す前に引き出しを開けてゴムを取りだし装着し、こちらが乗らなくても、ペニスに手を添えて導かなくても、気持ちの良いところをグイグイと擦り上げながら入ってきて、容赦なくこちらの弱いところを突きまくって追い詰めてくれる。どんなセックスが好みかなんて、とっくに全部把握されている。
 昨年の夏から一年がかりで、何度も繰り返してきた成果だった。
「っっ……、はぁ……」
「んんっっ」
 射精を終えたペニスがズルリと抜け出ていくのを惜しむように、尻穴が未練がましく収縮している。
 もう少し留まってくれてもいいのにと思っても、それを口に出したことはない。別に恋人でもなんでもないからだ。これ以上を望むつもりはなかった。
「なんか飲み物貰っていいすか?」
「ああ」
 ハッスルしすぎて喉がカラカラだと訴える相手の機嫌はいい。
 射精後にスッキリした顔をしているのは当然で、こっちだって充分に気持ちよくして貰ったし、こんな変態に機嫌よく付き合い続けてくれるのだから、同じようにスッキリさっぱりした顔で感謝の一言でも言えればいいのに。
「どうしました?」
 麦茶のペットボトル片手に戻ってきた相手が、ベッドの端に腰掛けながら問いかけてくる。
「疲れちゃいました?」
「ああ、まぁ」
「夏休みで連日こんなことやってりゃ、そりゃそっか」
 ただれてますねとヘヘッと笑う。それに連日付き合ってるお前はどうなんだと思ったが、言葉にはしなかった。
 無言のまま、相手の手の中にある、中身が半分ほど減ったペットボトルに手を伸ばす。
「おいっ」
 手が届く前にサッと避けられ、指先が空振って相手の腿に落ちた。それを押さえつけるように、相手の手が重なってくる。
「おい?」
「まぁまぁまぁ」
 何がまぁまぁまぁだ。そう思いながらにらみつける先、これみよがしにペットボトルの中身を口に含んだ相手が、頬を膨らませた顔を寄せてくる。
 え、と思っている間に唇が塞がれ、隙間からお茶が流し込まれた。ただ、突然そんなことをされてもうまく飲み込めず、結果酷くむせてしまった。
「わわっ、すみません」
「お、おまっ、何、してっ」
「いやだって、疲れた顔した先輩、妙に色っぽいんですもん」
 でももう一回とか言って困らせたくないし、恋人は大事にしたいじゃないですか。などと続いた言葉に呆気にとられる。
 せいぜいセフレ、のつもりでいたが、どうやら自分たちは恋人だったらしい。

有坂レイへの3つの恋のお題:熱におかされて吐きだしたもの/伸ばした指先は空気を掠めて/薄暗い部屋で二人きりhttps://shindanmaker.com/125562

 
 
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これを最後とするべきかどうか

* 別れの話です

 元々ねちっこいセックスをする相手ではあったけれど、今日はいつにも増して執拗で、前戯だけで既に2度ほど射精させられている。なのに未だ相手はアナルに埋めた指を抜こうとはせず、器用な指先で前立腺を中心に弱い場所を捏ね続けるから、早く挿れて欲しいとねだった。
「ね、も、欲しっ、お、おちんちんがいぃ、や、も、ゆびだけ、やぁ」
「指だけでも充分気持ちよくなれてるくせに」
 羞恥に身を焼きながら口にすれば、相手は満足げに口角を持ち上げたけれど、まだ挿入する気はないらしい。恥ずかしいセリフでねだらせたいのだと思っていたのに。
「もう2回もだしてるのにな」
 片手が腹の上に伸びて、そこに散って溜まった先走りやら精子やらを、肌に塗り込むみたいに手の平でかき混ぜる。ついでのように腹を押し込まれながら、中からぐっと前立腺を持ち上げられる刺激に、たまらずまた、ピュッとペニスの先端から何かしらの液体が溢れたのがわかって恥ずかしい。
「ぅあぁ」
「ほら、気持ちいい」
 クスクスと笑いながら、新たにこぼれたものも腹の上に伸ばされた。労るみたいな優しい撫で方だけど、一切気が抜けないどころか、また腹を押されるのではと不安で仕方がない。
「怯えてんの?」
 こちらの不安に気づいたらしい相手は、やはりどこか楽しげに口元に笑みを浮かべている。にやにやと、口元だけで笑っている。
 何かが変だ、と思った。しつこく責められることも、焦らされるのも、意地悪な物言いも、経験がある。でもいつもはもっとちゃんと楽しそうなのに。
 そういうプレイが好きってことも、そういうプレイを許すこちらへの好意も伝わってくるし、だから一緒に楽しめていた。
「ど、したの?」
「どうしたって?」
 思わず問いかけてしまえば、相手は全く疑問に思ってなさそうな顔と声音で問い返してくる。いつもと違うという自覚が、本人にもあるらしい。
「なんか、へん、だよ」
「そうか?」
 答えてくれる気がないことはすぐにわかった。腹の上に置かれたままだった手が、するっと降りて半勃ちのペニスを握ったからだ。
「やだやだやだぁ、な、なんでぇ、またイク、それ、またイッちゃうからぁ」
「イケよ。もう何も出ないってくらい搾りきったら抱いてやる」
「な、なに、それぇ……」
「わかるだろ。言葉通りだ」
「む、むり、やぁ、やだぁ、あ、あっ、だめ、あ、いくっ、いっちゃう」
「イケって」
 射精を促すように強く扱かれながら、アナルに埋めた指を素早く何度も前後されれば、あっという間に昇りつめる。
「でるっ、んんっっ」
 ギュッと目を閉じて快感の波をやりすごす間は、さすがに手を緩めてくれたけれど、それでも動きを止めてくれているわけじゃない。特にお尻の方は、お腹の中の蠢動を楽しむみたいに、ゆるゆると腸壁を擦っている。
「はぁ、っはぁ、も、やめっ」
 軽く息を整えてからどうにか絞りだした声に、相手が薄く笑うのがわかった。


 暴力でしかないような酷いセックスだった。言葉通り何も出なくなってから体を繋げて、泣きながら空イキを繰り返す羽目になって、いつの間にか意識が落ちて、目が冷めたら一人だった。
 テーブルの上には別れと今までの感謝とを伝える短なメッセージが残されていて、ああ、本当に終わりなのだと改めて思う。
 最後の方の記憶は少し曖昧だけれど、泣いて謝られたことは覚えている。相手の泣き顔なんて初めて見たから、あまりの衝撃に曖昧な記憶の中でもそれだけはかなり鮮明だ。
「くそっ」
 いろいろな憤りを小さく吐き出して、寝乱れた髪をさらに掻き毟ってボザボサにしてやる。
 追いかけたい気持ちと、このまま手を切るべきだと思う気持ちと。この仕打を許さないと思う気持ちと、許して相手の存在ごと忘れてやりたい気持ちと。
 どうしたいのか、どうするべきか、まずはじっくり考えなければと思った。

受けが追いかけちゃう続きはこちら→

有坂レイへの今夜のお題は『嘘のつけない涙 / 体液まみれ / 恥ずかしい台詞』です。https://shindanmaker.com/464476

 
 
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それはまるで洗脳

お題箱より「スレンダーな兄が、自分より体格が良い弟に襲われ、快楽に逆えず兄としての尊厳をへし折られる、的な短編。年齢差は3歳位」な話その2
その1はこちら → 知ってたけど知りたくなかった

 ぐじゅ、だとか、ちゅぷ、だとか。下腹部で発している湿り気を帯びた卑猥な音を聞きたくない。しかしどんなに耳を塞ぎたくても、両手は背の後ろで脱ぎかけた衣服でもって拘束されている。
 ノックもなく部屋に押し入ってきた弟の顔を見た瞬間に、両親が泊まりで出かけると知っていたのに、自分もどこかへ外泊しなかった事を後悔したが遅かった。
 三つ下の弟は長いこと運動部で鍛えてきたからか、身長はそこまで差がないものの、細身体型の自分と違ってガッシリとした筋肉をまとっている。つまり体格的にも筋力的にも、最初からこちらに勝ち目なんか欠片もない。
 弟の気持ちにはなんとなく気付いていながら長いこと放置していたのも、半月ほど前に意を決した様子でなされた告白を手酷く振ったのも自分だ。だが、それ以降あからさまにこちらを避け続けていた弟が、親の留守を狙ってこんな真似を仕掛けてくるとは、さすがに予想できなかった。
 あっという間に詰め寄られて、引きずられるようにベッドの上に投げ出された後、無理やり服を剥ぎ取られて行く間に、敵わないとわかっていながらも一応は抵抗した。身を捩って手足をばたつかせれば、早々に腕も足も手早く拘束されてしまったが、それでもなお、やめろ、バカ、正気に返れ、俺はお前の兄貴だぞと、必死に声を上げもした。
 けれど弟は手を止めることなく、黙々と作業に没頭している。視線を合わそうとはしないから、酷い真似をしているという意識はちゃんとあるんだろう。
 何をする気かという目的は、尻の谷間にローションを垂らされ、尻穴に指を突っ込まれればさすがに理解しないわけには行かないが、到底受け入れられるわけがない。自分の想いが受け入れられなかったからと言って、こんな強行が許されるはずがないし、許してはいけない。
 なのに。
 しつこく尻穴をかき混ぜられて、時折、ありえない感覚に襲われている。腰が甘くしびれるような、いわゆる快感と呼べそうなもの。
 わざとらしくクチュクチュと音を立てられるのに合わせて、あああと溢れてしまう声だって、だんだんと嬌声じみている。
 嘘だ嘘だ嫌だダメだと思うのに、体は間違いなく、この行為を気持ちがいいものとして捉え始めていた。
「ひぅっ!」
 ずっと尻穴ばかりを弄られていたのに、突然さらりとペニスを撫でられ息を飲む。
「ぅっ、ぁっ、や、めっ、やだぁっ」
 尻穴を弄られながら勃起している、という事実を知らしめるように、何度か育ったペニスを根本から先端まで往復していた手が、とうとうそれを握って扱き出す。そしてすぐさま、尻穴に突っ込まれた指が、同じリズムで穴を前後しだした。
「ぁっ、やっ、ぁあっ、だめだめだめっ」
 たぶん数分も保たなかった。あっという間に弟の手の中で射精すると同時に、尻穴をきゅうきゅうと締め付けてしまうのがわかって恥ずかしい。
 大きく息を吐いて、終わった、と思った。こんなこと許してはいけないのに、弟の手でイカされてしまった。
 じわりと浮かぶ涙を隠すようにシーツに顔をすりつけながら、意識的に深めの呼吸を繰り返す。
「気は、済んだのか。済んだなら、ぁ、えっ、ちょっ」
 まずは拘束を解かせて、それから説教を。なんて考えを嘲笑うかのように、また尻穴に埋められた指がグニグニと動き出す。
 
 そこから先、弟の手で何度絶頂させられたかわからない。
 手足の拘束は弟と繋がる直前には解かれたが、それはつまり、弟を受け入れたのと同義でもある。黙々とこちらの体を弄り回していた弟は、こちらが確実に快感に抗えなくなった辺りから少しずつ言葉を発するようになったが、諦めて受け入れろと繰り返すそれはまるで洗脳だった。
 尻穴とペニスとを同時に弄られて上り詰める快感を知った後、追い詰められてイキたくてたまらなくなったところで刺激を止められるのを繰り返されたら、頼むからイカせてくれと泣いてねだってしまったし、そこに、弟の恋人になればなんていう条件を出されて突き返せはしなかった。
 こんな強引な方法で、と軽蔑する気持ちも、叱りつけたい気持ちもあるが、弟に抱かれて絶頂する自身を、随分と愛しげに見つめる目を前にしたら何も言えそうにない。
 それでもちょっとした意趣返しで、絶頂時に縋り付く弟の肩や背に、思い切り爪痕を残してやった。弟は痛いと言いながらも満足げに笑っているから、ちっとも仕返しになっていない可能性のが高いけれど。

 
 
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知ってたけど知りたくなかった3(終)

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 ダメだダメだと思っているのに、慣れた体は弟の指をあっさりと受け入れて、それどころか気持ちが良くてたまらないと訴えてくる。弟が相手だというのに、否応なく感じてしまうのが辛い。弟が相手だからだと、頭のどこかではわかっているから尚更だ。
 嫌だと逃げかけるたびに力で押さえつけられてしまえば、逃げ出せないのだと思い知っていくばかりだけれど、だからってこのまま抱かれてしまってもいいとは思えない。なのに、血の繋がりなんかクソくらえと言い切った相手に、どう引いて貰えばいいのかなんてわからない。
「なぁ、なぁ、やめよって」
 それでも繰り返し、止めようと訴えかける。どうしていいかわからなくても、弟の手に感じていても、この行為を受け入れているのだと思われたくない。
「こんな感じてて、まだ言うのかよ」
「だって俺じゃなきゃダメな理由、ある? だいたいお前、彼女いた事あるだろ。まだ、引き返せるから。だから」
「ふーん。じゃ、兄貴じゃなきゃダメな理由があればいいって事?」
「だからっ、ないだろ、そんなのっ」
「あるけど」
「嘘だっ」
「言っていいの? 兄貴が俺を好きだから、って」
 それを聞いて胸の中に広がったのは絶望だ。ぶわっと涙が盛り上がってしまうのを止められないし、言わんこっちゃないと嫌そうに舌打ちされればさらなる涙を誘う。
「酷い……」
「どっちがだ。つか泣くなら言わすなよ」
「わかってんなら、引けって。てかお前が俺を好きなの、俺のせいだろ。俺が、無意識にだったにしろ、お前を誘惑してたせいでお前までその気になったとか、親に合わす顔がない」
「あー……なるほど。で、逃げたのかよ。アホらし」
「なんでだよっ。だってお前、彼女が」
「あーはいはい。女抱けるから何なの。男でも兄貴なら抱けるし問題ないって、今から証明してやるけど?」
「ちがうっ。俺がお前を好きだからって、俺なんか相手にする必要ないって、言ってんの」
「無理」
「だから、なんでっ」
 聞いても答えは返ってこなくて、アナルを弄りまわしていた指が抜けていく。続いてコンドームを取り出すのを見て、この隙に逃げられないかと体を起こした。こんな格好で外には出れないけれど、トイレに閉じこもるくらいは出来るだろう。
「おいこらっ。まだ諦めてなかったのか」
 しかしベッドを降りる事すら叶わないまま、弟に腕を掴まれて引き倒される。
「バカなの? 逃げれるわけ無いだろ」
「だとしても、お前にこのまま抱かれるわけに行かないの」
「へぇ? ゴムなしでしてって、わかりにくくお願いされてんのかとも思ったんだけど」
「は?」
「逃げられないのも、逃げたら酷い目に合うのもわかっててやってんなら、これもう、ゴム着けるの待てなかったってことでいいかなって」
 挿れるねと宣言されて確かめてしまった弟のペニスは剥き出しだ。
「ダメ、だ、ぁ、ぁああっっ」
 もちろん静止の声なんて聞いてもらえず、挿入の快感に甘く声を上げてしまう。ヤダヤダ言ってたってこんなに気持ちよさそうにして、とでも思ったんだろう。満足気に笑われた気がするから、いっそ消えてなくなりたい。
「だめだって、も、お前、ナマでとか、信じられない……」
「ゴム無しでしたことは?」
「あるわけないだろ」
「じゃあ初めては俺が貰ったってことで。てか丁度いいから、俺に種付けされて、俺のものになるんだって思い知れば?」
「いや何言ってんの」
「本気だけど」
「お前とはこれっきり。二回目なんかないから」
「それに大人しく頷くわけ無いだろ。あんたこそ、二度と他の男に足開くなんてないから」
 ああそうだと何かを思い出したようにベッドの上を探った相手が手に取ったのは携帯で、カメラをこちらに向けてくる。嘘だろと思いながらも、嘘だろと声に出すことは出来ず、呆然と見つめてしまうしかない。
「これ、動画な。てわけで、俺の声も入ったし、兄弟でセックスしてる証拠とったから。これでも諦められないなら、このまま撮影し続けて、弟相手にアンアン善がってる姿も撮ってあげるけどどうする?」
 無言のままブンブンと首を横に振れば、取り敢えずは気が済んだのか携帯は手放したけれど、ますます追い詰められてしまった事実を前に途方に暮れる。そんな自分に、仕方がないと言いたげに、大きくため息を吐かれた。
「言っとくけど、兄貴が俺を好きなのかもって思ったのは今日だし、俺に似た男とラブホ入るとこ見るまで、本気で、俺が気持ち悪くて逃げたんだと思ってたから」
「見るまで……って、え、見てた?」
 またしても、嘘だろと思いながらも口には出せない。信じたく、ない。でも嘘じゃないんだってのは、その顔を見ればわかってしまう。
「たまたまだけど、その偶然に感謝してるよ。連絡もなく押しかけたのは、帰宅直後に捕まえて、あの男に抱かれたのか、抱いたのか、確かめたかったから」
「もし俺が、抱く側だったら、諦めてた?」
「男有りってわかって諦めるかよ。まぁ即抱いて俺のものにするのは無理だった、ってだけだな」
「自分が抱かれる側になる発想はないのか」
「ぜってー抱いてくれないくせに何言ってんだ。俺が抱かれる側になるとして、押さえつけて勃たせて経験もない穴に突っ込ませるって、無理がありすぎんだろ」
 確かにそれは無理そうだ。黙ってしまえば、またしても小さくため息を吐かれてしまった。
「ついでにいうと、あの男と恋人だって言われても、奪う気満々で来てるから。あんたが無意識に俺を誘ったせいで好きになったかなんて正直どうでもいいけど、もしそうだとしてもそれを気に病む必要なんかないし、なんで好きになったかより、今、どうしようもなく兄貴が好きだってことのがよっぽど重要なんだよ」
 俺が好きだから逃げる、なんてのは許さないと、強い視線に射抜かれてとうとう白旗を上げた。

<終>

同じお題で書いた別のお話はこちら → それはまるで洗脳

 
 
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知ってたけど知りたくなかった2

1話戻る→

 焦るこちらがおかしいのか、フッと小さな笑いを吐いた後で弟の顔がゆっくりと近づいてくる。とても見ていられないし、キスなんかされてたまるかと、ぎゅっと目を閉じ顔をそむければ、弟の顔は首筋に埋まってそこで大きく息を吸い込まれた。というよりは、嗅がれた。
 カッと体の熱が上がるくらいに恥ずかしい。季節的に汗臭い可能性は低いけれど、問題はそれじゃない。普段決して香るはずのない、甘ったるい匂いがしているはずだとわかっているせいだ。
「泊まりにならない、恋人でもない相手とで、ちゃんと楽しめた?」
「な、なに、言って……」
「こんな匂いさせて、どっから帰ってきたかなんて聞くまでもない」
「そ、それは、でも、お前には関係な、いっってぇ」
 顔を埋めたままの首筋に齧りつかれて痛さに喚く。ふざけんなと殴ってやりたいが、両手首とも捕まれベッドシーツに縫い付けられているし、蹴り上げたくても腿辺りに弟の腰がどっしり乗っていて動かせそうにない。
 多少体を捻ったところで、何の抵抗にもなっていない。
「や、ちょっ、やだっ」
 噛んだ所を舐められて体が震える。恐怖の中に紛れもなく快感が混じっているから泣きそうだった。
「これ以上痛くされたくなかったら、ちょっと大人しくしてて」
「んなの、やだ、って」
「痛くされるのが好き?」
「アホかっんなわけなぃったぁ! ちょ、やだぁっ」
 痛い痛いと繰り返しても今度は放して貰えなかった。しかもじわじわと圧が増していると言うか、肌に歯が食い込んでくるようで怖い。
「わか、わかったから、や、やめて」
 もう従うしかないのだと諦めて訴えれば、あっさり開放されて弟の顔が離れていく。今度は宥めるみたいに舐めてはくれなくて、それを少しばかり残念に思ってしまった事が辛い。相手は正真正銘、血の繋がった弟だって言うのに。
 自分が家を出たのは、弟にこんな真似をさせないためだったはずなのにと思うと、今度こそ本当に泣けてくる。心が痛い。
 ただの仲良し兄弟のままでいたかった。離れて過ごすうちに、気の迷いだったと気付いてくれたらと願う気持ちは、どうやら叶わなかったらしい。
 目元を腕で覆って泣くこちらに、弟が何を思うのかはわからない。黙々とズボンと下着を剥ぎ取られ、開かれた足の間に躊躇いもなく触れられて身が竦んだけれど、腕を外して弟の顔を確かめる気にはなれなかった。
「やっぱ抱かれる側かよ」
 小さな舌打ちとともに乾いた指先が少しだけアナルに入り込む。痛みではなく、ゾワッと肌が粟立つ快感を耐えて、歯を食いしばった。
「最っ悪」
 吐き捨てるような言葉とともに指を抜かれて、あれ? と思う。この体を知られたら、これ幸いと抱かれてしまう未来しか想像していなかったのに。というか、やっぱり抱かれる側か、ってどういう意味なんだ。まるで知っていたような口振りだが、自分がゲイだって事すら家族に伝えたことはない。
「やっぱりって……?」
 気になりすぎる展開に、腕を下ろしておずおずと弟を伺えば、弟は小さなパックの封を切っている所だった。中身を手の平に出していくのを、思わずマジマジと見つめてしまったけれど、のん気に眺めている場合じゃない。
「なに、してんの」
「カマトトぶんなよ。わかんだろ」
 抱くんだよとはっきり言い切られて、じゃあさっきの「最悪」ってのは何だったんだと思う。
「俺にドン引きだったんじゃ?」
「知ってたらもっとさっさと手ぇ出してたのにってだけ」
「お前に手ぇ出されたくないから、家を出た、とは思わないの?」
「男にそんな目で見られるのが気持ち悪くて逃げた。って思ってたんだよ。でも、あんた自身が男有りなら、大人しく引き下がってられっか」
「男は有りでも、お前は無しだろ」
「兄弟だから?」
「そうだよ」
「血の繋がりなんかクソくらえ、って思ってんだけど」
「俺はそうは思ってない」
「悪いけど、それを受け入れてやる気が俺にない」
 ムリヤリされたくないなら暴れんなよと言いながら、ローションに濡れた手が伸びてくるのを、どうしていいかわからなかった。

続きました→

 
 
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