二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった2

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 顔出しどころか声出しすらしていないのに、なぜそこまで断定できるのかさっぱりわからない。一瞬服かとも思ったが、法事でしか顔を合わせない彼が、私服を知っているはずもない。そもそもなんで先日やっと二十歳を迎えたような子供が、主に居酒屋ばかりを巡る動画なんてみてるんだ。そりゃ酒を出すのがメインじゃないような店も利用するけれど。でもそういう店だって、基本的には酒を頼んで飲んでいる。
「なんで……」
 頭の中をぐるぐると疑問がめぐって、結果、口に出せたのはそれだけだった。
「手、です」
「て?」
「手は動画に映ってるじゃないですか」
 なぜ自分だとわかったのか、という意味の「なんで」だと思ったらしい。いやそれはもちろん、一番聞きたいとこだけど。
「手だけで!?」
「そ、です」
 あっさり肯定されて、思わずマジマジと自分の手を見つめながら、嘘だろとこぼした。
「形もですけど、印象的なのはどっちかというと仕草とかです」
「しぐさ……」
「この前の法事で、あなたの手元ばっかり見てる俺には気づいてたでしょ?」
「えっ?」
「そんなにビール飲みたいの、って言われたから、見てるのはあなたが飲みまくってたビールの方だと思ったみたいですけど」
「ああ、なるほど。てか、え、あれって俺の手を見てたの!?」
 そんな会話を交わした記憶はもちろんある。その時に、次の誕生日で二十歳なのでと返されたから、二十歳を前にアルコールに興味津々なだけだと思っていた。
「そうですよ。というか、これがあなただってのは否定しない、ってことでいいですか?」
「え、否定して良かったの?」
「あなただと思った理由を細かに説明する手間が省けたので助かります」
 つまりそれは、否定したところで追求されて認める羽目になるだけじゃないのか。
「つかよくそんな動画を、俺だってわかるほど見たよね。おっさんが安い店で安い酒を飲み渡るようなの、見てて楽しい?」
「見てるのは父ですね」
「え、おじさんも知ってんの!?」
「いや、そこは全く気づいてないと思いますけど」
「そうなんだ。てかそれは俺が認めた今後も秘密にしといてくれるわけ?」
「それは、言わない代わりに何かをねだってもいい、みたいな?」
 すかさずそんな返しをしてくるところが、なかなかに侮れない。というか、そうか。こちらがこれを親やら親戚やらに今後も隠し続けたいと思うなら、彼はそこにつけ込んで、こちらに何かを要求することが可能ということになるのか。
「そこはぜひ無償で。って言いたいとこだけど、何かたかられるくらいなら好きにすればいーよ。親は俺が休みに出掛けてるのをデートとか思ってる節あるし、知ったらあれこれうるさそうだけど、まぁ、そんなのスルーでいいし」
 いい年をした男が安酒を飲み歩いているというだけの動画で、誇れるようなものではないが、違法性があるようなものでもない。いい加減結婚して孫の顔をと思っているらしい親に、実は結婚予定の彼女なんてものは居ないと知られるのも、孫を諦めて貰うにはちょうどいい頃合いという気もしなくはない。
「別にわざわざ言う気はないんですけど、ただ」
「ただ、なに?」
「俺もその撮影に同行したいというか、ちょっとその動画に俺も映ってみたいと言うか」
「え、一緒に飲みに行きたいって、そういう話なの!?」
「そうです」
「なんで!?」
「顔出し声出しなしで首から下だけ映った息子に、父が気付くか試してみたいから」
 大真面目な顔で言われた内容がなんだか微笑ましい。そんな理由で、と思ったら笑ってしまったが、気づいた場合は連動してこの動画主があなただって事にも気づかれるかも、と言われてなるほどと思う。
「動画になんて出せない、なら、まぁ、それは諦めてもいいんですけど。でも、同行してみたいのはけっこう本気でお願いしたいです」
「え、出なくてもいいの? なのに同行したいの?」
「どんだけ飲むんだよ、食うんだよ、みたいのを生で見てみたいです」
「あー……そんなふうに思いながら見てる、と」
 確かに一度の撮影で何軒も渡り歩くので、酒には強いしなんだかんだで結構な量を食べている。それを面白がるコメントもそれなりの数貰うので、そう珍しい感想ではないのだけれど。
「まさに今日、その撮影に行く気があるんだけど、じゃあ、ついてくる? てか思いっきり平日なんだけど学校は?」
 聞けば、夏休みに入りましたと返ってきて、大学生めっちゃ羨ましいなと思ってしまった。

続きました→

 
 
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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった1

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 実家暮らしではあるが、土日休みの両親と違って平日休みの仕事なので、休みの日の朝、家の中は本来ひどく静かなものだ。しかし今朝は自室を出たところですぐに違和感に気づいた。
 ぼそぼそと人の話し声が聞こえる。というよりは、どうやらリビングのテレビが点いているらしい。
 消し忘れなんて随分と珍しい。そう思いながらも、とりあえずテレビはそのままにトイレを済ませて顔などを洗う。どうせ朝食を摂りながら自分もテレビを点けるのだから、別にそのままでもいいか、という判断だ。
 あれ? と思ったのは、顔を洗い終わって水を止めた時だ。先程まで確かに小さく漏れ聞こえていたテレビの音が聞こえなくなっている。
 どういうことだと疑問に思いはしたが、それでも、リビングに誰かがいるとは考えなかった。休みだと聞いては居ないが、もし親が居るならこのタイミングでテレビを消す意味がわからないし、親が居ないのに客だけそこに居るなんて考えるはずもない。
 だから無造作にリビングの扉を開けてしまったし、どうやら自分が入ってくるのを待っていたらしい相手と思いっきり目があってしまって、相手が誰かを認識するより先にまずは驚いて悲鳴とも言えそうな声を上げてしまった。腰を抜かして尻もちをつく、なんて醜態をさらさずに済んで良かった。
「うぎゃっ」
「おはようございます。やっと起きたんですね」
 待ちくたびれた様子の、呆れた声が掛けられる。親が仕事に出る前には来ていたのだろうから、確かに何時間も待たせてしまったのだろうけれど、でも来るなんて一言だって聞いてないし、なぜここに居るのかも謎すぎる。
「おはよ。つか、え、なんで?」
 そこに居たのはけっこう年の離れた従兄弟だった。同じ市内在住ではあるが、ご近所と言えるほど近くはないし、そもそも年が離れすぎてて個人的な交流などない。なんせこちらが中学生の頃に生まれたような子だし、彼が小学校に入学したくらいで、正月に祖父母宅に集まるようなこともなくなっている。
 祖父が亡くなったあと、祖母が老人ホームに入居したせいだ。
 老人ホーム絡みで親同士はそれなりに連絡を取り合っていたのかも知れないが、年の離れた子供同士が顔を合わす機会はなくなり、祖母の葬儀で久々に顔を合わせた時には彼は中学生になっていたし、自分はもう社会人だった。中学生の彼と、祖母の葬儀で会話を交わした記憶がほとんどない。多分、軽く自己紹介的な挨拶をした程度だと思う。
 それから法事で何度か顔を合わせるうちに、多少の雑談はするようになったが、3回忌から7回忌まで4年ほど空いた間はなんの音沙汰もなかったのに。
「この前の法事で、もうすぐ二十歳だって、言ったの覚えてます?」
「ああ、そういや言ってたな」
「先日、誕生日を迎えたので」
「ああ、うん、おめでとう?」
 まさか誕生日プレゼントをねだりに来たってこともないだろう。おめでとうとは口にしたけれど、さっぱり意味がわからないままなので、語尾は疑問符がついて上がってしまった。
「その、一緒にお酒を飲みに行ける年齢になったので」
「え、ちょっと待って。俺と一緒に飲みに行きたいって話? え、なんで?」
 ますます意味がわからない。酒が飲めるようになったから、という理由で、たいして交流のない従兄弟をわざわざ誘う理由なんてあるだろうか。
「一緒に飲みに行きたい、の前に、ちょっと確認させてほしいんですけど」
「確認? 何を?」
 携帯を取り出して何やら操作したあと、画面をこちらに向けてくる。そこに表示されていた画像に、ザッと血の気が引く気がしたし、彼が何を確認したいかも察してしまった。
「これ、あなたですよね?」
 そこには趣味で上げている動画が映し出されていた。

続きました→

 
 
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