イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった46

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「うぅっ……」
 やっぱり痛くはないのだけれど、押し込まれる圧が増えて、尻穴が広げられているというのをありありと感じてしまう。イキたいほど感じさせられたまま延々と焦らされるのは嫌だと言ったのはこちらだが、これはこれでなかなか辛い。
 相手のデカいアレを受け入れるために耐えている、という状況からもう、気恥ずかしさで発狂しそうになる。気持ちよさに流されて、という言い訳が効かないから、相手への好意でこの仕打ちを受け入れている現状を突きつけられていた。
 いやまぁ好きなんだけど。相手はもう歴然たる恋人なんだけど。こいつとセックスするなら自分が抱かれる側になることはわかってたし、渋々受け入れる側に回っているわけでもないんだけど。多分、この慣らし作業が終わったら、それなりに気持ち良くもなれるんだろうけど。
「うぅ……ぁ、っく……」
「キツイ? 痛くないよね?」
 興奮しちゃって性急になってる自覚はある、と言った相手が、尻の中をかき回していた手を止めた。
 さっさと慣らし終わって欲しい気持ちは強いが、正直な体は安堵の息を吐き出してしまう。相手の指は入ったままだが、それでもホッと体の力が抜けて、随分と体がこわばっていたらしいと知った。
「ごめん、急ぎすぎたね」
 もうちょっとゆっくり慣らそうと言いながら、埋められたいた指がゆっくりと引き抜かれていったかと思うと、抜けきる前にまたヌプヌプとゆっくり入り込んでくる。そうやって、広げられるような動きではなく、ゆるゆると中を擦られるだけの単調な抜き差しを繰り返された。
 指の本数は増えているはずなのに違和感はだいぶ薄まっていて、それどころか、もどかしいような焦れったいような、なんともいえないウズウズとした気配が腰の辺りに溜まっていくのが不思議だ。
「は……はぁ、……ぁ……、んんっ」
「今の、ちょっと気持ちよさそうだった」
 嬉しげな声に、いちいち指摘してくんなと思ったが、悪態をつく余裕もない。
「うぁ……ぁ、そこ、」
「あ、自分でもわかる? 前立腺、ちゃんと気持ちよくなってきたでしょ?」
 やっぱり相手の声は嬉しげだった。
 ことさらその場所を責められているわけではなく、指は単調な抜き差しを繰り返しているだけなのに、指がその箇所をゆるりと掠める時に快感と呼べそうな痺れが走っている。
 今、さっきみたいに前立腺を狙って押されたり擦られたりしたら、どうなるんだろう。勝手に腰が跳ねるほどの衝撃を思い出してしまって、その想像でゾクゾクしてしまった。期待、しているんだろうか。妙な不快感から、もう弄られたくないと思っていたのに。
「ぁっ……ぁあ……」
「お尻の中、ちゃんと気持ちぃね」
「い、うなっ」
「だって嬉しくて。それより、ちょっと腰、上げられる?」
 ゆるゆるとしか動いていない指の動きが止まったので、言われるまま腰を浮かせば、枕との間にするりと相手の手が入り込んでくる。
「ぁあっっ」
「ガチガチ」
「いう、な、って」
「先走りもいっぱいこぼしたね。先っぽヌルヌルしてる」
 んふふと嬉しげに笑う相手は、指摘するなと言うこちらの訴えを聞く気が全くないらしい。
 確かめるように一通りペニスの形をたどった後、相手の手がきゅっとペニスを握りしめる。と同時に、どうやら更にお尻に入れられる指の本数が増えたらしく、快感なのか苦痛なのかわからない悲鳴が口から溢れてしまう。
「んぁぁあっっ」
「ごめんね。もうちょっと、慣らさせて」
「ぁ、あぁ、あっ、あ、ちょっ、ぁ、まっ」
 ずっとゆるゆると単調に中を擦っていた指が、またグチャグチャと乱雑に穴の中をかき回す。しかもペニスを握った手はそのままで動かず、そこで気持ちよくしてもらえるのだと思っていた期待が外れて、どうして、という気持ちが膨らみ混乱していた。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった45

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 ローションをまとってヌルヌルになった指先が、再度尻の谷間を割って穴に触れれば、先ほど感じたゾクゾクを倍増ししたみたいな感覚に、一瞬で肌が粟立つのがわかる。
「うぅ……」
「ぬるぬる、気持ちぃ?」
 手のひらに触れた布を思わず握りしめて呻けば、そのヌルヌルを穴に塗りつけるみたいに指を動かされて、背後から少し笑うみたいな声が掛かった。疑問符は付いているが、気持ちいいよね、と確信している言い方だ。
「きくな、よ」
「入るから、なるべく楽にしてて」
「ぁっ……」
 指先の圧が増すと同時に、ツプリと指が侵入してくるのがわかる。お尻の中に異物が侵入している、という状態にはなんとなく覚えがあるものの、記憶の中よりもかなり違和感が強い。
 酔いが足りないからというよりは、きっとペニスを弄られていないせいで、以前は多分、ペニスに与えられる快感で色々とごまかされていた。
「痛かった?」
「くは、ない」
「ん、なら、良かった」
 久々だからかやっぱり結構キツイね、などと続いた声がどことなく嬉しそうだったが、こちらとしては気が気じゃない。かつてその場所がどれほど広がっていたのかはさっぱりわからないが、久しく弄られずに締まってしまったというなら、相手を受け入れられるほど広がるまでにどれだけ時間を要するのだろう。
 無理に突っ込んで流血沙汰などはないと思ってはいるが、あのサイズを突っ込まれるのだから、丁寧にしっかりと慣らされた方がいいに決まっている。けれど、もっと手早くササッと準備が終わってくれたらいいのにと思ってしまう。相手はきっとこの準備ですら楽しめるのだろうけれど、この違和感をどれくらいの時間耐えなければならないのかと思うと憂鬱だ。
 ローションをなじませるように、ゆっくりと指が前後している。まだ1本だからか全く痛みは感じないが、かといって、気持ちがいいとも言い難い、なんとも妙な感覚だった。
「んぅっ、」
 前後していた指が止まって、中でぐっと指先に力がこもったと思ったら、腰が勝手にビクリと跳ねて驚く。一瞬、体の中をビリっと電気が走るような感じがした。
「ああ、これ、だね」
「ちょっ、え、なに」
「前立腺、聞いたことない?」
 お尻の中で気持ちよくなれるとこ、などと解説されながら、先程押されて電気が走った場所を、ゆるゆると撫でられる。さっきほどの強い衝撃はないが、体の中からジワジワ痺れるような感覚がしてなんとも不快だった。
「久々なのと、多分まだそこまで感じてないからかな。見つけるの手間取っちゃった」
「うぁ、や、も、やめ」
「うん、ここはまた後でにしよう」
 ここだけ弄られて感じるわけじゃないもんねと、こちらが全く認識できていない、こちらの体を知り尽くしたようなことを言って、相手の指が一旦全て引き抜かれたので、あまりの安堵に全身から力が抜ける。
「気持ちいいどころか、なんか、妙な、つか、どっちかっつうと気持ち悪かったんだけど」
「今はまだ、ってだけじゃない? イキたいほど感じてたら、多分、そこも気持ちいいはずなんだよね」
 後でもう一度弄られるのは嫌だなという気持ちは多分伝わったと思うが、相手に取り合ってくれる気はないようだ。いやまぁ、だろうと思ったけど。過去に酔ってそこを弄られ、しっかり痴態を晒したのだろうから、感じないと言ったところで信じないのも仕方がない。
「でも気持ちよくなるのは先にもうちょっと広げてからね」
 一度全ての指が抜かれたのは、ローションの追加と突っ込む指の本数を増やすためだったらしい。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった44

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「ぁ、……ちょ、」
 むにっと尻タブを左右に開かれて、その隙間に入り込んだ相手の指が乾いた尻穴に触れて身を竦める。ゾクゾクするような快感が走ったことに動揺してもいた。
 その場所で気持ちよさを感じられることはわかっているが、しっかり覚えているわけではないから、指先が触れただけで気持ちが良いと思ってしまったことに驚いたし、ほぼ初めてに近い感覚に戸惑っている。
「痛くしないから大丈夫」
 身を竦めて相手にしがみついてしまったことで、相手は恐怖を感じていると思っただろうか。優しい声音で宥められはしたが、指先は遠慮などなく、というよりはきっと慣れた仕草で、尻穴を撫でつついた。
 そのまま突っ込む気はないらしいく、穴を押される圧は感じても、確かに痛みは何も感じない。
「はぁ……」
 最初に触れられたときが、一番ゾクゾクしたと思う。指の腹がぐにぐにと押してくるのにもだんだんと慣れていき、詰まり気味だった呼吸を整えようと一度ゆっくり息を吐き出した。それが相手にとっては次のステップに進むための合図になったらしい。
 こちらの背を抱えていた腕が離れて、そっとベッドの上に転がされた。
「そろそろ、中、触りたいんだけど……」
「お、おう」
「うつ伏せでしてみる?」
「うつ伏せ?」
「今日はあんまり酔ってないし、仰向けで足広げてお尻弄られるのは抵抗あるかなって。一緒に口でしてもいいし絶対感じるはずだけど、でも今日はそのまま出していいよとは言えないし、イカせて貰えないのも嫌でしょ?」
 感じすぎたまま焦らされるのは嫌だ、という訴えを、一応は気にしてくれているらしい。
「うつ伏せ……」
 迷うように再度口に出してしまったのは、朧げな記憶の中では、相手に背を向けて尻穴を弄られたことがなかったからだ。どうやら気持ちよく果てる直前辺りの記憶が強く残っているようだから、記憶に残っていないだけで、経験したこともあるかもしれないけれど。
「仰向けのが慣れてるし、嫌じゃないならそのまま足開いて?」
「いや、うつ伏せで」
 慌ててくるりと身を返せば、笑いを含んだ声がわかったと告げた後、なぜか相手が立ち上がる。
「ちょっとタオル取ってくるね」
「あ、ああ」
 ローションを使うなら、タオルを敷いておいた方がいいのはわかる。卒業前最後の夜は確実に敷かれたタオルの上でしたし、曖昧な記憶の中でも多分、基本的にはタオルの上でお尻を弄られていると思う。
 部屋に戻ってキスをして、そのままベッドになだれ込んだから、そういう用意がされていなかった。先程脱がされた服や相手が脱いだ服は隣のベッドの上にあるので、現状、相手が帰路の途中で購入したあれこれが入った袋だけ、無造作にベッドの上に投げ出されている。
「おまたせ。さっきシャワーして使ったから、少し湿ってるかも」
 気持ち悪かったらゴメンといいながら、引き寄せた枕の上にバスタオルを広げ、なぜかその上に更にフェイスタオルを敷いている。
 なぜ2重にタオルを敷くんだろうと思ってしまったのが顔に出たのか、フェイスタオルのほうは未使用で乾いているからだと教えてくれた。なるほど。
 タオルの使用に関しては経験的なものかもしれないが、湿ったバスタオルの上での肌触りなどを気にしてくれるとは、妙なことに気が回るやつだ。
「ああ、なるほど。てか、なんで枕?」
「ずっとよつん這いだと疲れちゃうと思って。でも腰はなるべく上げてて欲しいから」
 再度、なるほど、という気持ちと、変なところに気が回るな、という気持ちを抱えながら、指示されるまま枕の上に腰を乗せるようにしてうつ伏せた。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった43

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 どっちがいいか、なんて聞かれてどちらかを選べるような質問じゃない。顔を熱くしたまま固まってしまったが、相手にとってはこれもやはり予測済みの反応だったのかも知れない。
 小さな苦笑とともに相手の顔が寄ってきて、宥めるみたいにただただ触れるだけの軽いキスを貰う。
「どっちも選べないのはわかってるからそんな困んないでよ。酔いが足りなくて恥ずかしいのもちゃんと考慮するし、だから、ね」
 顔を寄せたままことさら甘ったるく囁かれて、頭の隅では、お前それはズルいだろと思いながらも、相手の顔に釘付けだった。だって多分、口説かれているのだ。自分の顔の良さをわかっていて、使えるものは全部使ってやるくらいの気持ちで、つまりは、全力で。
 抱くつもりで触るよ、なんて口で言われるよりも、よっぽど相手の本気が伝わってくる気がした。先ほど感じた焦燥とは違うドキドキでなんだか息苦しい。
「嫌われたくないし、二度と抱かせないとか言われたくないし、つまり多分悪いようにはしないから、こっから先はさ、も、俺に全部丸投げで任せてくれる?」
「も、わかった、から、」
 さっさとやれと最後まで言い切れぬまま、相手に口を塞がれた。今度はもちろん触れるだけの軽いものではなく、唇を食まれて口内を舐め回される。
 正直、ペニスに触れられないままキスをするのにあまり慣れていない。大概、気持ちも体も昂りきった最後に、快感を追加して追い上げるみたいなキスだったからだ。
 多分体がそれを覚えている。だからなんだろう。さっきもそうだったけれど、口の中の弱いところを相手の舌先でくすぐられれば、体はすぐに反応してしまう。
 それに気づいた相手はベッドへと移動し、こちらの服を脱がしに掛かる。丸投げで任せてと言われたからには、何もしないほうが良いんだろうかと思いながらも、自分だけが裸に剥かれるのは若干の抵抗があって、相手の服を引っ張った。
「ああ、うん。俺も脱ごっか」
 決断は早く、その後の行動も早い。あっという間に下着姿になった相手は、そこでようやく、全部脱いだほうが良いかとこちらの意見を求めてくる。
「どっちでも」
「そっか、」
 じゃあ、と言って伸びてきた両手が背中に回って、なぜかギュッと抱きしめられた。なにが「じゃあ」なのかさっぱりわからないが、乾いた素肌が触れ合うのは心地が良くてなんだか少し安心する。
 ホッと小さく息を吐けば、相手がくふふと小さく笑った。
「こういうこと出来るの、恋人になった、って感じがする」
「そ、だな」
「抱きしめてるだけで、かなり気持ちいい」
 わかる、と言い掛けて口をつぐむ。だって、言い終えた直後から、抱きしめてるだけではなくなっている。
 ただ、背中だのを撫でられるのは確かに気持ちがいい。あまり性的な匂いがしない触れ合いだけど、と思った矢先に、降りてきた手が尻タブを揉んだ。
「ぁ……」
 ぞわっと肌が粟立って、尻穴を弄られて感じた記憶が朧げに蘇る。結構しっかり酔っている時でなければ弄らせなかったから、そこまでしっかり手順やらを覚えているわけではないけれど、体は覚えているのかも知れない。
 いやでもこんな風に抱き合った状態で、尻を弄られたことはなかったはずだ。でも尻タブを揉まれたり撫でられたりはしてただろうか。いまいち思い出せない。
「お尻、気持ちぃ」
 語尾は上がっておらず、問いかけではない。でも気持ちいいよねと断定されている言い方でもなさそうな、なんともうっとりとした声音だった。
「この揉み心地、たまんない」
 どうやら、尻を揉むのが気持ちがいい、という報告だったらしい。いやいやいや、なんだそれ。
「……変態臭い」
「へへ、ごめん。嬉しさのあまりちょっと調子乗っちゃって」
 でもお尻撫でられるのもちょっとは気持ちいいでしょと続けながら、手のひらで優しく撫でられて、くすぐったさに似た気持ちよさがじわっと広がっていく。揉まれるより撫でられる方が好きだよね、と続いた言葉に、やっぱり過去にも経験していて、だから僅かにでも気持ちよさを感じてしまうんだろうと思った。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった42

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「少なくとも、丸投げして俺にお任せしたら上手く出来る、と思ってくれてるのは、素直に喜んでおきたいよね」
 うへへと照れ混じりに笑った相手が、頑張るねと意気込んでみせるが、どう反応すれば良いのかわからない。だって、頑張れと同意するべき場面とは思い難いと言うか、あんまり張り切って頑張られるのもなんだか不安を感じると言うか。
 かと言って、頑張らなくていいとか言える状況にないのもわかっている。男同士でナニをどうこうする知識は朧げにしかわからないし、基本的には相手に丸投げでどうにかなると思っているわけだし、結局、ことが上手く進むかは相手の頑張りに掛かっている気がする。
「あー……ほどほどで、頼む」
「なにそれ?」
「張り切りすぎて別方向に無茶強いられるのは勘弁」
「別方向って?」
「めちゃくちゃ感じてんのにそっから延々焦らされまくったり、とか」
 こんなセリフを口に出せたのは、すでにホテルのフロントを通り過ぎていて、誰も居ないエレベーターの中だったからだ。でもまぁ、何を言ってるんだと思う気持ちは当然あって、というよりも、かなり焦らされまくった卒業前の行為を思い出してしまって、恥ずかしさからエレベーターが開くと同時に早足で部屋へと向かってしまう。
 こちらが照れて早足になったことには相手も気づいているのか、少し笑う気配とともに、相手は無言で後ろをついてきていた。
「でもそれはさぁ〜」
 相手が次に口を開いたのは部屋のドアが閉まってからだったが、どうやら先程の会話をそのまま続けるらしい。
「イッたらそこで終わりにしたくなるのわかってたら、そう簡単にはイカせられないでしょ」
 ずっとそういう態度を取ってきたし、恋人となった相手にならイッた後の体を触られるのが平気になる、なんて都合がいい変化が起きるわけもないので、相手の言い分もわからなくはないんだけど。
「お前がイキたくなるまで、そこまで俺を感じさせる必要がない気がする」
 こっちがイッたら終わり、に出来ないなら、イカせず焦らす前に、イキたくてたまらないほど感じさせなければいいんじゃないのか。
「それってつまりさ、」
 伸びてきた手に腕を掴まれて、ドキリと心臓が跳ねた。そう強い力で掴まれているわけではないのに、じわじわと焦燥が広がる気がするのは、これでもう逃げられないと思ってしまったからだろうか。逃げる気なんて、ないはずなのに。
「な、んだ、よ」
 掴まれた腕を引かれて向かい合わせに立っても、相手はジッとこちらを見つめるばかりで続きの言葉がない。先を促すつもりで吐き出した言葉は、乾いて喉に引っかかってしまったから、こちらの緊張や焦りを晒すみたいで最悪だ。
「ねぇ、気持ちよさでごまかさなくても、俺のこと受け入れてくれるってことでいい?」
「は?」
 何を言われているのか全くわからなかったが、相手はこちらのその反応を予測済みだったようで、やっぱわかってないよねと納得されてしまった。
 事実全くわかっていないのに、わかってないってなんだよ、という反感で思わず相手を睨んでしまう。
「怒んないでよ。だってあまり感じさせるな、なんて言い出されたら、どこまで本気で言ってるのか気になるじゃん」
「本気で言ったけど」
「うん。イキたくてたまらないほど感じて焦らされるのは嫌だ、ってのが本気なのはわかってるけど、でもじゃあ、そうしなかったらどうなるか、ってのは正直まったく想像ついてないよね?」
「そうしなかったら、どうなるか……」
「俺、抱くつもりで触るよ?」
「ん、ああ」
 それはわかっていると頷きはしたが、相手が何を伝えているのかはやはりちっともわからない。わかっていないことは、相手にももちろん伝わっている。
「感じまくって、イキたいイキたい早くなんとかしてくれ、って思いながら体慣らされるのと、たいして気持ちよくもない中で、俺に突っ込まれるためにお尻の穴広げられるのを耐えるの、どっちがいい?」
 なるほど。そういう事か。という理解とともに、顔が一気に熱くなるのを自覚した。

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イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった41

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「あー……まぁ、それはさぁ……」
 言ってしまってもいいかと思う気持ちと躊躇いとで、迷いながらも口を開く。
 久々だし、自分で弄ったりもしていなかったから、ちゃんと相手を受け入れられるほど緩むのかは謎だけれど、相手だって無理にでも突っ込もうとは思っていないだろう。焦らされて苦しいとか、感じさせられ過ぎて怖いだとかはあっても、過去の行為で痛い思いをしたことはなかったし、そこは相手を信頼している。裂けたりだのの惨事にはならないはずだし、無理だと思ったらちゃんと引いてくれるはずだ。
 だから、酔った体を好き勝手されて、抵抗しきれないまま流されるように突っ込まれるなんて冗談じゃないだとかの、相手が危惧するような不安を抱えて酔わなかったわけじゃないのは本当だし、理由は正直に伝えておいた方が良いのかも知れない。ただ、初めてを泥酔して終えるのは惜しいなんて言ったら、期待してると思われそうで恥ずかしい。
 いやまぁ、正しく期待ではあるんだけども。さんざん拒んで、入れなくたって双方気持ちよくなれるならいいだろと言っていた口で、なるべくしっかり記憶に留めたいくらい期待を寄せているだなんて言えないし、できれば知られたくもなかった。
「しこたま酔って、後はお前に丸投げして全てお任せ。ってのでも、多分、上手く出来るのはわかってんだけど。つか、もしかしたらそっちのがすんなり出来るのかもだけど」
 がっつり酔って意識がはっきりしていない方が、相手サイズを突っ込まれる心理的な抵抗感はかなり下がると思う。
「あ、もしかして、俺が相当酔ってた方が、お前がやりやすいとかだった?」
「えー……やりやすくはない、かなぁ。てか酔ってないほうが断然色々やりやすいとは思うけど」
「え、じゃあなんで酔わせようとしたんだよ」
「だって確実にガード緩むし。というかむしろ、そっちの都合のが大きいんだと思ってた」
「え? 俺の都合って?」
「素面じゃOK出来ないけど、酔ったらOK出せるライン、みたいなのがあるじゃん。少なくとも大学のときは、そこそこ酔ってたら後ろ弄ってもOKだったでしょ」
「ああ、なるほど……」
 確かに、酔い過ぎたら尻穴を弄られてしまうのがわかっていて、酔い過ぎないラインというのも把握していた。だから相手は、相手の前でこちらがそのラインを超えて酔ったなら了承、というのを今日も判断材料にしていたってことらしい。
「だから酔ってないのにOK出るのが不思議というか、素直に浮かれていいのか迷ったと言うか。とりあえずOKは出すけどいつでも止められるように酔いたくなかった、とかはあるのかなって思ってた」
 久々なのは事実だし、酔った勢いでやっちゃうのは怖いと思っても仕方ないしと、相手の言葉は続いていたが、こちらの意識が引っかかったのは「素直に浮かれて」の部分だった。
「なぁ、浮かれていいか迷うって何?」
「え、そりゃあ、酔わなくてもOK出せる関係になったって事かな、って思って」
 そういうことじゃないのと言われたので、そうかもなと肯定しておく。酔ってやるのは勿体ない、よりは断然まともな理由だったし、突っ込まない恋人も有りだの言ってたのだって、実際恋人として触れ合ったらもっと先に進んでもいい気がしたとかで良いんだろう。二人の関係が今までとは変わったから、というのはなかなかいい理由だと思った。

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