今更なのに拒めない4

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 土曜の朝は帰宅した彼と一緒に軽く食事をして、その後昼頃までは外で過ごすことが多い。いくら週末はこちらの生活に合わせてくれるとはいっても、夜まで起きっぱなしではさすがに彼も辛いだろうから、午前中くらいは彼が眠れるようにという判断からだ。
 しかし、彼に扱かれイカされるだけの遊びが始まって、三回目の土曜の朝は違った。自分にとっては朝食を、相手にとっては軽い夜食を食べ終え、いつもなら彼が眠る支度をする間に自分は出かける支度をするのだが、着替えの途中で彼が敷いた布団の上に引き倒されしまった。
 狭い部屋を有効的に使うために自分はロフトベッドを使っているが、彼はラグの上に布団を敷いて寝る生活をしている。大学時代には何度か友人を泊めたりもしたが、夜通しゲームだの飲み会だのに部屋を提供していただけだったので、まともな来客用の布団なんて所持していなかった。彼との同居を受け入れるにあたって最初に購入したのがこの布団と言ってもいい。
 ただ、彼との遊びはラグの上でしかしたことがなく、布団の上で触れられたことはなかった。つまりは初めてで驚きも戸惑いも酷い。
「遊んでいい?」
「い、今から?」
「そう。ダメ?」
「けど、眠ったほうがいいだろ?」
「大丈夫だから」
 言いながら既に片手が下着越しに股間を撫でてくる。ちょうどズボンを履き替えようとしていた所だったから、下半身は下着だけだ。
 彼の手に触れられることにあっさり慣れたペニスが、期待で膨らんでしまうのがわかる。小さな溜め息に諦めを乗せてわかったと返せば、相手は嬉しそうにありがとうと言って、早速下着を脱がしに掛かる。
 いつも通り自分だけあっさり裸に剥かれて、あちこち彼の手が肌の上を這って、ところどころ彼の唇が落ちた。簡単に昂ぶっていく体を楽しげに弄っている相手の顔を確認してから、やっぱりいつも通り、快楽に身を委ねるように目を閉じる。
 後は相手の手に任せたまま、気持ちよく上り詰めていけばいい。はずだった。
「ひゃぁぅっ」
 予想外の場所に相手の指が伸ばされ、慌てて妙な声を上げてしまう。
「あ、悪ぃ。驚かせた」
 口だけは謝罪を述べながらも、アナルに触れた指が離れていくことはなかった。
「な、なに、を?」
 混じる期待がないとは言わないけれど、それよりも焦る気持ちのほうが断然強い。
「ここ、もしかして、感じるようになったのかと思って」
「な、んで……」
「んー、ほら、この前、俺の荷物増えてきたから、ちょっとクローゼットに入れさせてって言ったろ」
 確かに言われた。いいよと返した。
「もしかして、み、見つけた?」
 アナニー道具はきっちりしまってあるし、勝手に中に置かれた荷物を漁るような真似はしないと信じていたのだけれど。でも、彼の言葉と気配から、見られたのは確実という気がした。
「ごめん。実は、荷物置くスペース作ろうとして中の箱移動してたら落としちゃって、何か壊してないかって、中、確認したんだわ」
 自分で使う用って思っていいんだろ、という指摘に似た質問に、迷いながらもそうだと肯定を返せば、アナルに当てた指先を軽く揺らされる。
「ぁっ、」
「なぁここ、弄っていい?」
「な、なんで……」
 勃たないならそんな場所をわざわざ弄って広げる理由がないはずだ。高校時代、穴を弄ることそのものへの興味や興奮なんて、彼から感じたことはない。
「なんで、って、ここ弄りながらのが、お前、もっと気持ちよくなれんじゃないの?」
「それは、でも、」
「俺にいじられるの不安なら、お前が一人であれ使ってるとこ、見せてくれるんでもいいけど」
「そんなの見て、楽しいのかよ」
「それはどうだろ? でも俺がする時の参考にはなると思うし」
「するの、確定してる」
「うん。したい。ちんぽ勃たない代わりに、指、入れさせてよ」
 お願い、と頼まれてため息を吐いた。
「本気で言ってんなら、準備するから待って」
 ローションならあるよとポケットから小分けのパウチを出されたけれど、そういう意味じゃない。というかそんなものまで用意済みだったのか。
「中、洗ってくるって意味なんだけど」
「あー……ああ、うん、じゃあ、よろしく」
「本気なんだ?」
 聞けばやっぱり頷かれて、わりと真剣な声で本気だよと返ってきた。

続きました→

 
 
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今更なのに拒めない3

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 高校時代、彼とは好奇心と出来心とでセックスしていた。そこに恋愛感情なんてものは、今思い返してみてもやはりなかったように思う。持て余す性欲を、気が合う相手で解消するだけ、みたいな認識だったし、多分相手だってそう違いはなかったはずだ。
 突っ込まれるのを許していたのだって、彼を好きだから受け入れてやりたかった、なんて甘ったるい気持ちがあったわけではなく、単純にあまり抵抗感がなかっただけでしかない。というか、アナルオナニーだとか、前立腺マッサージだとか、アナルで感じるということに元々多少の興味があった。
 当時、自分はゲイだという認識はまったくなかったし、過去に恋人という関係になった相手は女性だけだったし、今だって、恋愛対象という意味でなら女性を選ぶと思う。久しく恋人なんて作っていないし、過去と同じように女性を抱けるかはわからないけれど、少なくとも気持ちの上では。
 一人でアナニーもすれば、風俗で前立腺マッサージを受けることもあるけれど、施術者に男性を求めたことはないし、男相手の出会い系を試したこともない。別に男に抱かれたい欲求があるわけじゃなかった。
 まぁそれは、高校時代に若さと興味とで致していたセックスが、そこまで気持ちが良かったわけじゃない、というのも大きいかも知れない。もしあの当時、彼とめちゃくちゃに感じまくるようなセックスをしていたら、本物のペニスを求めてゲイセックスに嵌っていった可能性はありそうだと思う。
 つまり、アナニーやら前立腺マッサージやらですっかり開発されきった今のこの体で、再度彼に抱かれるような事が起きたら、そのままゲイセックスに目覚めてしまう可能性もかなり高いと思っていた。が、実際のところ、遊んでくれと押し倒されても、彼に抱かれることにはならなかった。
「ぁ、……はぁ……」
 もどかしさに吐き出す息は熱い。ついでに相手の胸が押し付けられている背中も熱い。服越しにでも、相手の興奮がはっきりと伝わってくる。
「そろそろ、イけそ?」
「んっ」
「じゃ、イッて。イクとこ、見せて」
 耳の後ろから掛かる声に頷けば、興奮がダダ漏れの嬉しげな声がそう促して、ペニスを握って扱く手の動きが早くなる。クチュクチュと濡れた音をわざと大きく響かせるのも、こちらのというよりは、相手の興奮を煽るためのものだろう。とはいえ、そんな卑猥な音を聞かされたら、こちらだって興奮しないわけがない。
「ぁ、ぁあっ、ぁっ」
「きもちぃ? えっろい声、可愛いな」
「んぁっ」
 耳の後ろに唇が押し当てられて、チウと吸われる感覚に、ピクッと肩が跳ねてしまう。ふふっと笑うような息が掛かって、そこからソワワと小さな快感が肌の上を広がっていく。
「ぁっ、あっ、イク、いきそっ」
 その訴えを聞いた相手が、肩越しに覗き込んでくる。欲に塗れた視線をペニスの先端で受け止めながら、いいよイッての声に促されて、びゅくびゅくと白濁を吐き出して見せた。
 大きく息を吐いて、相手の胸に思いっきり凭れ掛かって目を閉じる。
 残滓をしぼり出すように上下していた相手の手がようやくペニスから離れて、多分、吐き出したものをしげしげと眺めて楽しまれている。
 あの日、実は勃たないんだよね、と言った相手に悲壮さはあまりなく、むしろあっけらかんとしていた。そして、だからお前を勃たせてイカせたい、なんてことを平然と言い放った。
 どんな思考回路からその結論なのかは全くわからない。別にわかりたくもないから、聞いても居ないけれど。
 結果、あの日から更に二度ほど週末を重ねているけれど、遊んでよという言葉とともに相手の手で抜かれるという経験を重ねても居た。しかも一発で終わらず休憩して二発目だとか、土曜日曜と連日でとか、回数だけで言えば既に五回ほど彼の手に出している。
 嫌なら休日も予定を入れて出かけてしまえばいい、というのはもちろんわかっている。わかっていて家にいるというのは、彼のその行動を了承しているのと同じだ。
 だって、人の手でイカされるのは、なんだかんだ気持ちがいい。ただ、彼に抱かれていたという過去があるせいか、それともアナニーやら風俗やらで開発してしまった影響か、彼の手に握られ扱かれていると、お尻が疼いて仕方がなかった。

続きました→

 
 
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今更なのに拒めない2

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 大学に入学してから先、ずっと暮らしているアパートは、当然一人暮らし用の小さな部屋だ。いくら高校時代はそれなりに仲が良かった相手とはいえ、六畳程度の洋室に小さなキッチンがあるだけの1Kに二人で暮らすというのは、正直不安しかない。
 それでも、一緒に暮らし始めて三日と経たず、相手がとりあえずの夜間バイトを決めて来たことで、狭い部屋に二人で暮らすストレスは、危惧していたほどには大きくなかった。だいたいこちらが起きだす頃に帰ってきて、こちらが帰宅する頃にはもう出掛けているから、相手と顔を合わすのは、朝の短な時間と週末が殆どだ。
 かなり気を遣われているらしいのはわかっていたし、ひどく不快になるようなことも起こらなかったので、さっさと出て行ってくれないかと言うこともなく、なんとなく彼の存在を受け入れてしまったままの生活も、そろそろ三ヶ月が経とうとしている。
 それは雨の降る日曜の昼過ぎで、週末にこなして置きたい掃除やら洗濯やらは昨日のうちに終えていて、つまりは割と暇を持て余していた。
「お前も暇なの?」
 録画したまま溜まっていくばかりの番組をチェックし、流し見たり削除したりしながら、その作業を隣で見ているだけの男に問いかける。一応一緒に見てはいるようだけれど、つまらないなと思った番組を途中で切り上げて削除するときも、もっと見たいから消すのは待ってくれなどと言ってはこないから、多分テレビが点いてるから見ているだけで、こちら以上に興味がなさそうだった。
 だからといって、なにか別のことをするでもない。多少眠そうな感じはあるが、相手の生活サイクルを考えたら、平日のこの時間帯は睡眠時間だろうから当然だ。共に過ごすことになる週末はなるべくこちらの生活に合わせると言ったって、そんな簡単に週末だけ都合よく、朝起きて夜眠る生活に戻れるはずがない。
「というか、やること無いなら眠っといた方が良いんじゃないの?」
 テレビうるさいならイヤホン使うけどと提案してみれば、別に暇持て余してるわけじゃないから良いよと返ってくる。ちょっとその言葉を信じる気にはなれない。
「明らかに暇そうに見えるんだけど」
「というか、お前もって聞き方するってことは、お前の方こそ暇だったりするの?」
「まぁ、割と」
「テレビの録画整理は?」
「やったほうが良いのはわかってるけど、そこまで切羽詰まってない。どっちかっていったら暇つぶしにチェックしてるだけ」
 正直に言えば、見ないままある程度の期間放置されたものは、そのまま削除でも構わないと思っている。仕事絡みだったりで、どうしても見ておきたい番組類は放置などしないし、とっくに視聴済みだった。
「なんだ。そうなんだ」
「そうだよ」
 肯定すれば、ふーんと暫く考え込んだ後。
「なら、遊んでって言ったら遊んでくれんの?」
「それは遊びの種類によるだろ」
 探せばトランプぐらいは出てくる気がするが、二人で遊べるようなものが家にない。ゲーム機もあるにはあるが、所持しているのは一人でやり込むタイプのソフトが数本だけだし、それらも最近はめっきり起動していない。
「雨降ってるけど、対戦ゲームのソフトでも探しに行ってみる?」
 高校生の頃に二人して結構ハマっていたゲームの新作だったかが、何年か前に出ていたような気がする。
「あー、まぁ、それも悪くはないんだけどさ」
 四つ這いでにじり寄ってくる相手の、なんだか困った様子の顔を不思議に思いながら見つめしまう。なんとなくの予想はついたものの、どうしようか迷ううちに、あっさりラグの上に押し倒されていた。

続きました→

 
 
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今更なのに拒めない1

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 目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。部屋の中は薄暗く、じんわりと冷えている。結構しっかりと雨が降っているようで、目が覚めてしまったのも、部屋が薄暗いのも、寒いのも、きっと全部雨のせいだ。
 こんな朝は気が滅入るな、と思う。世の中は十連休だったり、平成最後の日だったりするんだろうけれど、そういったものとは縁がない。今日も普通に出社して、仕事して、帰宅して寝るだけの、変わらない一日を過ごすだろう。
 そう思っていたのに、顔を洗って着替えを終えた所で、ピンポンとドアチャイムが鳴り響いた。会社はそこまで遠くない上、始業時間も遅めの会社ではあるのだが、それにしたって人の家を訪れるには非常識な時間帯だと言える。
 こんな時間に誰だよと思いながら、玄関へ向かう中、もう一度ピンポンと鳴った。忙しない。
「どちらさん?」
 さすがにいきなりドアを開けたりせず、声を掛けながらドアスコープを覗く。少なくとも宅急便やらの類ではないらしい。そこには見知らぬ男が立っていた。
「あー、その、」
 告げられた名前にびっくりする。全く知らない男ではなかったが、高校を卒業して以来、もう10年近く会っていない。
 確かに高校時代は仲が良かった。大学から先は居住地が結構離れてしまって、そこから暫くはそれなりの頻度でメールなどで近況報告をしていたが、大学を卒業するくらいには随分と少なくなっていて、彼の結婚を機に連絡を取り合うようなことは一切なくなった。
 最後に彼から何かしらあったのは、ほんの気持ち程度に贈った結婚祝いのお返しだ。けれどあれも、届いたのメール一つ無いまま突然お返しが届いて、やはり中にもメッセージ一つ入ってなかったから、実質、遠回しな縁切り宣言かなと思っていた。
「もう5分ほど待ってて」
 10年も会っていないと、本当に本人なのかも怪しくて、ドアは開けずにそのまま大急ぎで出社する準備を終える。
「お待たせ」
 アパートの廊下に佇む相手と正面で向き合えば、なるほど、ドアスコープ越しに見えたものよりは、本人らしい面影がある。
「話があるなら、仕事向かう途中で聞く」
「休みじゃないんだ?」
 こちらの姿を見て驚いていたのは、見た目が変わったというよりは、休みだと思っていたせいらしい。いや、見た目への驚きという可能性も無いわけではないけれど。
「ああ。お前は? こんなとこ来てるってことは、しっかり十連休なの?」
「あー……まぁ、色々あって」
「そりゃ、色々なきゃこんな時間に尋ねてこないだろ。で、何があった?」
 会社の最寄り駅に着く頃には、なかなか壮絶な結婚生活と、離婚と退職と、行く場所がないから暫く匿って欲しい旨を聞かされた。離婚を成立させるために、ほぼ全財産元嫁に差し出したことと、親は離婚反対で今もまだ元嫁の味方だから実家を頼るわけにはいかない、とも。
「いやお前、暫くってどれくらいだよ」
「長くて半年。それまでに次の職探して、絶対どうにかするから」
 頼むよと顔の前で両手を合わせて頼み込まれて、溜め息を吐き出した。
「なぁ、なんで、俺? 十年もあってない相手、よく頼ろうって気になる」
「あいつに友人関係も管理されてたって言ったろ。あいつの手が伸びてこなそうな相手で、はっきり住所覚えてるの、お前しか居なかった」
 こちらに関する情報もとっくに元嫁により破棄済みだが、学生時代、旅先から何度もハガキを送っていたので住所は暗記していたらしい。旅行サークルだったかで、確かに、しょっちゅういろいろな地方の消印付きで絵葉書が届いていた。
「あと、結婚祝い、贈ってくれたろ。住所変わってないのは、送り主のとこ見て覚えてた」
 お礼のメールを送ったらエラーが出たとかで、結婚を機に縁切りされたと、相手も思い込んでいたらしい。
「学生時代とか、そこそこ仲良かった友人たちでさ、あいつと面識なかったり、あいつが気に入らなかったりしたやつのメルアドとか電話番号とか、こっそり書き換えてやがったんだよ。ご丁寧に拒否設定もされてた」
 めちゃくちゃ友達なくした、と言った相手は悔し涙を浮かべていて、その顔を見てしまったら嫌だダメだとは言えなかった。

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彼女が出来たつもりでいた4(終)

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 気づいてたんですかと言われて、まぁ多少は気になってたよと返す。
 次なんてない方がいいに決まってるけど、もし次があるなら、今度こそもっと上手く助けてやりたい、みたいな事を思っていたのは事実だ。先程八つ当たりした面もあったと言ったように、色々と反省や後悔もあったので。
 だから姿が見えたら、不躾にならないよう注意しながらも、気にしてはいた。
 格好から大学生か専門学生と思っていたので、最近見ないなと思った夏頃、そうか夏休みかと納得して、そういえばそれきり忘れていた。なぜなら、夏が終わっても彼は戻ってこなかった。
 まぁ、もしかしたら自分が気づかなかっただけかもしれないけれど。ただ、ここ最近を思い返しても、朝の電車に目の前に座る男の姿はなかったように思う。
「夏頃見かけなくなって、学生は夏休みなんだなって思ったとこまでは、はっきり覚えてるよ。そこから先はイマイチ自信ないけど、夏休み明けてからも戻っては来なかった、よな?」
 気づいてなかっただけかもだけどと自信なさげに続ければ、男の姿で一緒に乗っては居ないですと、なかなか衝撃的な言葉が返ってきた。
「女装して一緒に乗ってたことなら、あります」
 さすがにそれは気づきようがないなと思う。なんせ、バレンタインにチョコを貰うまで、彼女の存在には一切気づいていなかったし、添えられていた手紙にも、帰宅時に見かけてと書かれていたから出勤時に姿を探すような事だってしていない。
「ただ、朝はやっぱり色々と大変で」
 女装で大学に通っているわけではないことや、朝の方が痴漢遭遇率が高いなど、衝撃的な話はまだまだたくさんありそうだ。というか、すっかり女装に目覚めて女装で生活している、という話ではないらしいことに驚いた。だってあまりに違和感がなさすぎて、日常的に女性として過ごしていてもなんら不思議じゃない。
「だから、あなたにバレたくなかったから、めちゃくちゃ研究したし、練習もしたんですってば」
「まるで俺のため、みたいな言い方だけど」
「俺のためですけど、それはあなたに女性と思って貰うためだから。というか、引かないんですか? 割と、ストーカー染みたことしてる自覚あるんですけど」
 午前の講義がない日にわざわざ女装して同じ電車に乗り込み、自分が降りた後で折り返して一度帰宅し着替えているだとか。帰宅時間に時々見かけると思ったのも当然偶然などではなく、こちらの仕事が終わって駅に現れるのを待たれていただけだとか。それだってやっぱり、自分と同じ電車に女装姿で乗り込むためだけに来ていたらしいし。
 確かにこちらの行動パターンを把握されているし、ストーカーっぽいとは思う。思うけど、気になるのはそっちじゃない。
「まさか、女装が好きってわけじゃなく、俺に女と思わせるためだけの女装なの?」
「はい」
「なんで!?」
 あっさり肯定されて、驚き聞き返せば、だって恋愛対象は女性ですよねと断定口調で返された。しかも好みの女性のタイプまで指摘されて、だいたい当たっている上に、彼の女装も一応それらが意識されているのだと気づいてしまった。
「ああ、うん、これはなかなかのストーカーだ」
 苦笑すれば、申し訳なさそうにすみませんと謝られてしまう。別に咎める気も責める気もないし、彼(彼女)への気持ちが冷めるとかドン引きだとかって気持ちも湧いていない。
 男のままでは見向きもされないと思った故の苦肉の策だったというなら、むしろ見事としか言いようが無い気もした。
「そんなに俺が好き?」
「……はい」
 直球で聞けば、躊躇いながらもはっきりと肯定が返される。
「じゃあさ、新しく始めようよ」
「始めるって、何を?」
「そのままの君との、恋人関係を」
「えっ?」
「男の娘ってわかっても、別れる気だって思った瞬間に引き止めたくらいには、この関係に未練があるんだよね。話聞いてても、ドン引きってより、なんていうか、色々凄いと思うことのが多かったし。男の君のことも、普通に好きになれる気がするし。というか、好きだよ」
「俺、を?」
「そう。今、目の前で、やけくそ気味に色々教えてくれてる男の子を」
 キスしてもいいかって聞いたら、泣きそうな顔で、本当に男でも気持ち悪くないのかと聞き返された。騙して彼女になったのに怒ってないの、とも。
「まぁ、確かに男を恋愛対象として見た過去ってなかったけど、だってもう、好きだって思っちゃった後だから。最初っから男のままアタックされてたら逃げてた可能性はあるから、むしろ女装で近づいたのはいい手だったかもよ」
 男なんて絶対無理ってほど、ゲイとかホモとかに嫌悪感を持ったことも無いから、同性の恋人は初めてだけどきっとなんとかなると思う。
「ねぇ、俺の、恋人になって?」
 ぼろっと涙をこぼしながらも、はいと頷いてくれた相手に腕を伸ばす。二人の間に挟まるローテーブルに乗り出すようにして、引き寄せられるように腰を浮かした相手を捕まえて、その唇をそっと塞いだ。

<終>

続編は18禁表現が含まれます→
18歳未満の方はこちら→

 
 
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彼女が出来たつもりでいた3

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 初めて招かれた相手の部屋は、聞かされていたのとは最寄り駅からして全く違う場所にあった。しかも社会人ではなく大学生で、なぜ本当は大学生だとわかったかというと、通された部屋の勉強机の上に、講義で使うらしい教科書類が大量に積まれていたからだ。二人で出かけた際、仕事の話などもしていたが、あれらはバイト先の話だったらしい。
 知れば知るほど、もっと相手の本当の姿を知りたくなる。次から次へと、聞きたいことが増えていく。
 しかし、先に着替えさせてと言われて、相手はあっさりバスルームへこもってしまった。しかも明らかにシャワーを使う水音が聞こえている。
 初めて招かれた恋人の部屋で、恋人がシャワーを浴び終えるのを待っている。といういかにもな場面ではあるが、もちろんこの後、色っぽい展開が待っているわけではない。それどころか、多分きっと、メイクを落とした素の相手と対面する羽目になる。
 女は化粧で化けるとは聞くが、一体どんな男が現れるんだろう。
 手持ち無沙汰にドキドキしながら随分と待たされて、ようやく出てきた相手は確かにどこからどう見ても男の姿だった。ただ、その顔に見覚えがある気がして、ついじっと見つめてしまえば、気まずそうに視線を逸らされてしまう。
「素顔見たら、さすがに萎えたんじゃないですか」
 小さめのローテーブルを挟んだ対面に腰を下ろした相手の口から溢れる声も、先程までと違う男の声だった。そして声を聞いたら思い出した。
「あっ、もしかしてあの時の……?」
「えっ?」
「去年の春頃かな。電車で痴漢されてた男の子、君じゃない?」
 疑問符は付けたが、ほとんど確信していた。相手は目に見えてひどく動揺し、震える声で、覚えてるんですか、と言った。顔が真っ赤になっていて、なんだか見ていて可哀想なくらいだったけれど、その顔に刺激されてますますあの日のことを思い出す。
 あの日も今にも泣きそうな真っ赤な顔で、ひどく動揺した様子だった。
「覚えてると言うより、思い出した。むしろ今現在も色々思い出してる」
 仕事の納期が迫っていて、残業続きの寝不足で、朝っぱらから目の前で痴漢をはたらくオヤジに我慢ならず、とっ捕まえて駅員につき出そうとしたのに、肝心の被害者に逃げられたのだ。つまりは、目の前にいるこの彼に。
「あの時は助けて頂いたのに、まともなお礼も言わずに逃げて、すみませんでした」
「いやまぁ、男なのに痴漢被害者として調書取られたりすんの、嫌なの当然だと思うし。ちょっと仕事で苛ついてたのもあって、あのオヤジに八つ当たりした面もあるし、大事にしたの俺だし、逃げられても仕方ないと言うか、つまり、こっちこそ、もっと上手に助けてやれなくてゴメン」
「いえそんな……というか、助けてくれて、本当にありがとうございました」
 本当は凄く嬉しかったんですと言った相手は、一目惚れでしたとも続ける。
「えっ?」
「ほとんど一目惚れだった、って言ったの、信じてなかったでしょう。でも、ホントなんです。上京してきたばっかりで、大学にも通学する電車の混雑にもまだ全然慣れてなくて、なんか色々挫けかけてた所に痴漢されて、しかも女と間違えたわけじゃなくて絶対男ってわかってる触り方されて、せっかく入った大学だけど卒業すんの無理って思って絶望してた所だったんですよね。助けてもらったの」
 こちらは社会人なのもあって、毎日ほぼ決まった時間の決まった車両に乗っている。毎朝あなたを見つけるのは楽だったと言った彼に、そういや痴漢事件の後、暫くは毎朝同じ車両に居たなと返せば、相手はまたしても酷く驚いたようだった。

続きました→

 
 
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