追いかけて追いかけて23

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 相手に凭れかかってぼんやりとしているうちに、お湯を吸って重くなった部屋着は脱がされた。そのさい少し場所を移動したから、頭から降り注いでいたシャワーは現在、自分の背中にばかり降り注いでいる。
 また相手の体が冷えてしまうから、せめて立ち位置を逆にして欲しいと思ったけれど、その訴えは大丈夫の一言で流されてしまった。というよりも、その一言であっさり諦めてしまうくらい、相手に抗う気力がない。
 正面から抱き包むみたいに背中に回された腕はするっと背中も腰も撫で降りて、剥き出しになったお尻を撫でられ、揉まれて、尻たぶを左右にクッと割られれば、すぐにアナルに指先が触れる。そんな事をされたら、相手の両肩へ置いていた手につい力が入って、グッと肩を掴んでしまうのは仕方がないと思う。
 お尻に手を回すために少し前屈みになっているから、相手の顔の位置も下がっていて、戸惑うこちらを観察しているらしい視線をかなり近くに感じたが、どうしていいかわからずそっと顔をそむけるだけだった。
「中、洗おうか」
 やっぱり、と思う。相手のされるがままではあったけれど、さすがにもうそこまで呆けては居ない。彼の手がお尻に触れた時から、自分がシャワーを浴びる前に交わした会話を思い出していた。
 彼の手でお湯を注がれて、彼の前で汚穢を吐き出して見せるのか。中が綺麗になるまでそれを何度も繰り返すのか。
 羞恥とかよりも恐怖に近い感情で体を震わせてしまったけれど、嫌だ止めてと突き放して逃げる気力はない。それに、相手がしたいなら受け入れたい、という気持ちもあった。
「俺が悲しいって言ったことと、水浴びてたことに、罪悪感持っちゃった?」
「えっ?」
「嫌だけど受け入れないと、みたいな顔してる」
「それは……」
 的確な指摘だけれど、それが罪悪感からなのかは正直良くわからない。はっきりとわかるのは、自分が彼を好きで、欲しくて、だからここに居るってことだけだ。
 たくさん気遣われて、嫌だってことを避けてくれるのはそれはそれでありがたいけれど、嫌だって言われてもしたいって言われたら、それはそれで嬉しいんじゃないかとも思う。イッた後言いなりになって相手任せにしてるのだって、あんな形であっさり吐精した後の脱力感を理由に、ただ甘えているだけというか、ちょっと強引にイカされてしまったのも実のところ嬉しくて、そのまま相手の好きにされていたい気持ちからってのも大きそうだった。
 だからきっと、罪悪感なんかではない気がする。
 悲しませる気はなかったし、水浴びされてたのもびっくりしたけれど、自分が酷いことをしたせいでと思うには、どうにも自分の行動や発言と、彼のこれらの反応に繋がりが見えないのも大きい。悲しませた事実より、なぜあれを聞いて悲しいと思うのかとか、水を浴びないと気持ちの整理がつかないほどの葛藤がなんなのかとか、むしろそういった興味のほうが強いかもしれないだなんて、ちょっと言えそうにないけれど。
「その罪悪感、つけこむけど、いい?」
 罪悪感じゃないですと言って、こちらの気持ちを説明する気なんてない。そしてこれを肯定したら、お腹の中を洗われてしまうんだってこともわかっている。
 わかってたって、返す言葉は「はい」か「どうぞ」か「いいですよ」くらいしか思いつかなかった。

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追いかけて追いかけて22

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 二人一緒に寄り添って、お湯の降り注ぐ下でホッと安堵の息を吐く。顎をすくわれ唇を塞がれれば、それにもやっぱりホッとしてしまうのだけれど、問題は二人の身長差だ。
 降り注ぐシャワーの下で上向かされてのキスなんて、そうそう長くは続かない。すぐに気づいて貰えたから軽く咳き込む程度で済んだけれど、溺れるかと思った。
「溺れるかと思った」
「ふはっ、ごめん」
 そのまま口に出せば、相手が小さく吹き出すように笑う。馴染んだ優しい気配に、またしてもホッと安堵する。相手にもっと近づきたくなって、おずおずと指を伸ばしてみれば、相手の手に触れた瞬間、指を絡め取るみたいに握られてしまった。今度は安堵じゃなくて、ドキッと心臓が跳ねる。しかも相手の顔がまた近づいてくる気配がして、ドキドキは簡単に加速していく。
「ねぇ、待っててって言ったのに、どうして来たの」
 耳の横でしゃべられると、どうしてもゾワリとした何かが背中を走る。反射的に肩を竦めてしまえば、耳が弱いことを思い出したらしい相手がごめんと言って離れていこうとするから、絡んだ指先を引いてしまった。
「こういうの、期待しないでいられないんだけど」
 軽くボヤかれた後で、唇が耳に触れる。
「っぁ……」
 ゾクゾクっとした何かは快感だ。
「きもちぃ」
「うん」
「きも、ち」
「そう」
「ん、ほん、と」
「わかってる」
 自分自身に言い聞かせるみたいに繰り返しても、返るのは優しい相づちばっかりだ。でも耳に響く相手の息遣いや些か乱暴な扱いに、先程よりもずっと相手の興奮を感じ取ることができる。それがなんだか嬉しくて、絡んだままの相手の指を、不器用ながらもそっと撫でた。
 応じるように撫で返されて、今度はそちらからもジワジワと快感が広がっていく。するりと解かれた指が快感を引き連れながら、ゆるりと手首から腕を伝って這い登ってくる。それはやがて耳へと到達した。
「ぁ、あっ、ゃっ、あぁっっ」
 左右同時に耳を弄られて、キモチイイは一気に数倍に跳ね上がった気がする。頭を振って嫌がる素振りはあっさり抑え込まれてしまった。というか左右の耳を顔と手で挟まれて、頭なんて振らせてもらえない。
 逃げかける体も、もう片手が宥めるみたいに背中を撫で降りて、少し強めに腰を抱かれればそれ以上の抵抗は出来なかった。それどころか、彼の手が触れる腰からもジワッと快感が広がっていくのが恐ろしい。だって、手の平も指先も、ただ腰を支えるだけじゃなくサワサワと撫でるみたいに動いている。
「やっ、やぁっ、ぁん、も、だめ」
 思うように動かせない体に、逃せないキモチイイが溜まっていくみたいだった。膝が震えてこのままだとこの場に座り込んでしまいそうだ。そう思う頃には、腰を抱く相手の腕にますます力がこもって、相手とのわずかな距離がなくなった。
「んぁああっっ」
 濡れた部屋着の内側でとっくに勃起しているペニスを相手の体に押し付けることになって、耳を弄られるのとは別種の強い快感が走る。
「ガチガチだね」
 ふふっと笑われて恥ずかしい。
「自分で握って扱ける? それとも揺すってあげたらイケるかな?」
 何を言っているんだと思ったが、次の瞬間には言葉通り腰を抱く腕に体を揺すられ、自分の体と相手の体に挟まれたペニスがズリズリと揉まれて悲鳴を上げた。
「ぁあああ゛あ゛」
 イッていいよの言葉を聞きながら、抗えない快楽に体を震わせる。頭の中は白く爆ぜたが、射精した感覚は薄かった。でも吐精した後の脱力感みたいなものが襲ってきたから、多分きっと射精したんだろう。

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追いかけて追いかけて21

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 気持ちの切り替えが必要だと言って、相手はシャワーを浴びに行ってしまった。精一杯の気遣いか、彼側の問題だからってことと、ちゃんと気持ちを切り替えて戻ってくるから大丈夫だってことと、あまり色々考えすぎずに待っててと言われたけれど、考えないなんて無理に決まってる。
 何を失敗したのかわからない。襲われてる最中に彼の名前を呼んだと教えてはいけなかったらしいのはわかったけれど、それが彼の中の何に引っかかったのか皆目検討がつかなかった。しかも、本人の言葉を信じるなら、彼の名を呼んだというその事実は、彼にとっては悲しいことらしい。
 あの時、乾いた指をねじ込まれる痛みの中で、彼のことを強烈に意識したし、抑え込んでいた自分の中の願望とも向き合った。彼を選びたくて、もっと彼に触れて欲しい気持ちに気づきながらも、なぁなぁにしてずるずると会うのを止められずにいた。そんな自分に、彼と会うことをきっぱり止める決意をさせたくらいに、認めてしまった自分の欲求は厄介なものだとわかっていたのに。
 自分自身が持て余すようなものを、相手に告げたのは確かに間違いだったんだろう。
 だって、上書き行為をねだったなんて思われたくなかった。ただただ好きだから欲しいと思った事実を、彼にも知ってて欲しいと思ってしまった。悲しませる気なんかなかったし、むしろちょっとくらいは喜んでくれるかと思っていたのだから、自分は本当に何もわかっていない。
 抱かれてしまう前に同居人が駆けつけてくれたおかげで、男に襲われかけたトラウマなんてないと思っていたのに、いざ触れられてみれば後輩男にはべったりと痕跡を残されていた。自分じゃ気づいていなかったそれも、彼にはしっかりと見えていたようだから、彼が今何を考え、どんな気持ちに整理をつけて切り替えようとしているのかなんて、わかるはずがないのも仕方ないかもしれない。自分と彼とでは、見えているものが多分違いすぎる。
 授業のこととか、研究内容とか、彼の仕事のこととか、そういったことなら、もっと簡単にお互いの世界を共有できるのに。他愛のない日常のあれこれも、日々流れていくニュースも、話題の映画も音楽も、一緒に食べにいく食事も、意見が割れた時でさえ楽しくて、相手のことを理解できないと思ったことはないのに。好きな気持が絡むと、こんなにもわかりあえない。
 脱がされてしまったホテルの部屋着をもう一度着て、自分もベッドを降りた。だってなかなか戻ってこない。考えることは止められないのに答えも出ないし、戻ってこないってことは相手だってまだ気持ちの整理がついていないんだろう。向かう先は当然バスルームだ。
 シャワーの水音が漏れ聞こえるバスルームのドアを開けば、すぐに違和感に包まれる。浴室内はまったく暖かくなかった。
 彼が頭から浴びてるのはお湯ではなく水だ。慌てて中に踏み込んで、勝手にカランを弄ってシャワーを止めた。
「待っててって言ったのに」
 濡れた髪をざっくりとかきあげ、悪い子だな、なんて笑う顔も声も力がない。
「何やってんですか」
 対するこちらの声は低く唸るみたいにドスがきいてしまって、思いっきり相手を責める感じになった。彼を叱りにきたわけじゃないのに。
「大丈夫だよ。水ってほど冷たいの浴びてたわけじゃないから。ぬるま湯」
「嘘つき」
 そっと触れた彼の腕は冷たくて、そのまま引き寄せられるように抱きついてしまった。触れ合う肌はどこも冷たくて、部屋着が吸い込んだ水滴だってやっぱり冷たい。
 少しでも熱を分け与えようと、相手の体をぎゅうぎゅうと抱きしめてしまえば、やがて諦めたみたいな吐息が一つ落ちてきた。
「ごめん。みっともない姿を見せたね。風邪をひく前に、ちゃんと温かいシャワーを浴びよう」
 穏やかに言い聞かせる声が腕を離してと促すので躊躇いながらも従えば、再度シャワーから水が吹き出す。それはすぐに温かなお湯へと変わった。

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追いかけて追いかけて20

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 結果的に、後輩男から受けた行為への嫌悪感を彼からの行為で上書きするみたいになったし、経緯を思い返せば自分からそれをねだったみたいになっているけれど、最初からそれを狙っていたわけではない。断固として違う。そんなことをさせたくて、して欲しくて、この誘いに乗ったわけじゃないのに。それを相手は、ただ自覚がないだけだと思っていたというのも、最初から嫌悪感を上書きしてくれるつもりだったという事実にも、なんだか酷く遣る瀬無い。
 ああだから、この部屋に入った後でさえ、興奮よりも優しさが目立つ態度ばかり目についたのかと納得してしまった。納得は出来たけど、でもなんだか少し、ガッカリしてもいるらしい。
 普段から気遣いの上手い人だし、自分と違って女を抱いたことも男を抱いたことも、それどころか抱かれたことまである人だから、そんなもんなのかと思ってしまった。相手のそんなしょうもない気遣いに気づかず、欲しい気持ちが本当なら貰ってって言われたことが嬉しくて、何を貰えるのかと期待して、今日ここで貰えるものは全部もらって帰るつもりで、きっと、この一度限りの彼との行為を大切な思い出として記憶することになるんだろうって、思ってた。
 時折チラついてしまう後輩男と、比較するみたいなことをして、相手が彼であることに安堵して、それを受け入れている、受け入れることが出来る自分を、まるで確認してるみたいな場面は確かに多々あった。それを上書き行為と言うなら、本当は否定出来ないのかもしれないけれど、それでもやっぱり違うって言いたいし、そんなことのために触れて欲しくはないのだ。
 こちらはすっかり全て脱がされた丸裸で、対する相手はシャワーすら浴びてないのでこの部屋に入った時と変わらぬ着衣状態だ、というのはしっかり把握していたし、向き合って見つめ合って冷静に会話できる気持ちの余裕はなさそうだったし、抱きついて相手の肩口に顔を伏せたまま抱きかかえられている体勢に甘え続けていたが、やっと頭を上げて相手の顔を見た。
 後悔と心配とが混ざったみたいな顔が、目があった瞬間に、反射みたいに優しく笑おうとする。バカだこの人と、失敗して歪んだ悲しい笑みに思う。
 顔を寄せて自分から唇を重ねて、それからまた凭れるみたいに抱きついた。
「俺、あの時、あなたの名前呼んだんですよ」
「あのとき、って」
 上ずるみたいな声に、相手の動揺が伝わってきて少し笑いそうになる。
「後輩男に、ヤラれかけてる時。無意識にあなたのこと呼んでて、それを指摘されて、そいつに抱かれてる気にでもなってんのかって言われて。どんなにあなたを好きだって、抱いてもくれない男の名前なんか呼ぶなって、無駄だって。あいつ、俺のこと、ノンケに辛い片想いを続ける健気なゲイって思い込んでたから」
 一呼吸置いてから、わざとらしく努めてゆっくり相手の名前を呼べば、困った声音がどういうつもりと問いかける。
「事実は違うって事を、俺もあなたも知ってるから、言っておいたほうがいいんだろうって思っただけです。あなたの好意を利用した上書き行為をねだったなんて、思って欲しくないから」
「そう……」
 しばしの沈黙の後、理解はするけど残酷だよという呟きと共に一度ギュウと強く抱きしめられ、それから投げ出されるみたいにベッドの上に転がされた。突然突き放されて驚いたし、見上げた顔の表情のなさにもっと驚いた。
「おこった、んです、か?」
「怒ってるってよりは悲しい、かな」
 乱暴されてる最中に思わず名前を呼ばれるほど想われていると知るより、好意を利用されて嫌な記憶を上書きする相手に選ばれたってだけで良かったのにと言って、相手はどうやら自嘲したようだった。表情が乏しくて、いまいちはっきりしないから、多分だけど。

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追いかけて追いかけて19

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 撫で回す余裕がなくすっかり落としたままだった腕を持ち上げて、相手の背を抱くようにまわしてから、やめないでと訴える。わかったの言葉とともに再開される耳へのキスに、抱きつく腕にはすぐに強い力がこもった。
 ゾワゾワして、気持ちが悪いような気がして、怖くて。でも同時に、ゾクゾクするのが気持ちがいいような気もするし、縋ってしまう腕の中の体に安堵も貰っている。
「ふ、……ふぅ……ぅっ……」
「声、我慢しないで」
 気持ち悪くて怖いのを抑え込んで、キモチイイを感じようと必死になりながら、彼の口で弄られ続ける耳に意識を集中させていたからか、歯を食いしばっている自覚はなかった。でもこれで顎の力を抜いてしまったら、何を口走るかわからない。
 ヤダとか怖い程度ならまだ、キモチイイのが嫌だとか、気持ちよすぎて怖いとか、言い訳が利きそうだけど。でも自分から続けて欲しいと頼んでおいて、気持ちが悪いのだと口走るわけにはいかないし、絶対に、気持ちが悪いのを耐えていると知られたくはなかった。なのに。
「大丈夫。気持ち悪いって、言ったって、大丈夫だから」
 宥めるような声音に、どうして、と思う。どうしてと思いながら、反射的に嫌だと返していた。
「やだっ。きも、ちぃ。きもちい。キモチイイ」
「ああうん。ごめん。きもちいね。気持ち良く、なってね。余計なこと言ったね。ごめんね。キモチイイね。気持ち良く、なろうね」
 馬鹿みたいにキモチイイと繰り返してやれば、相手も余計なことを言ったと謝り、キモチイイねと繰り返す。性的な興奮の薄い、甘やかすみたいに優しい声だ。
 泣きそうだと思ったし、そう思ってしまったらもうダメだった。腹筋に力を入れて、抱き縋る体に身を寄せる。涙の滲む目元を、相手の肩口に押し付ける。すぐに、自分の背にも相手の腕が回るのがわかった。
 体を起こすよと声がかかって、そのまま上体が引き上げられる。随分あっさりと、向き合って座りながら抱き合う体勢に持ち込まれた。見た目からひょろっと細くて、抱きしめた体だってやっぱり細身なのに、思った以上に力持ちなのが意外だった。驚いて、ちょっと涙が引っ込んだ。
 本当にごめんと繰り返されながら、宥めるように背を撫でられる。謝るべきはきっと自分の方なのに、あれこれ混乱したまま口を開くのが酷く怖くて、ただただ黙って彼の腕の中、気持ちが落ち着くのを待つ。気持ちが落ち着いたら、聞いて確かめないとならないことがあると、もう、わかっている。
「どこまで、知ってるんです、か」
 かなり長いこと待たせた後で、ようやく口を開いた。でもまだ顔は上げられそうにない。顔は相手の肩口に押し付けたままだし、腕は相手の背に回っているし、相手の腕も自分の背を抱いている。
「知ってるって、何を?」
「俺に起きた事。何をされたのか、そんな事まで詳しく調べられるものですか?」
「ああ、それか。そんなに詳しくは知らないよ」
「だから、それ、どこまで、ですか」
「うーん……抱かれる前には助け出された。ってくらいしか知らないというか、ちょっと調べたくらいで何されたのか詳細わかるような事はないよ」
 警察ではもちろん、何をされたかの詳細を話した。今のは、だからってその詳細が簡単に調べられるような状況にはなってない、という意味だ。安心していいよとは続かなかったけれど、そう言われたような気がしたし、実際、そんな詳細が流出してなくて良かったと思う気持ちはある。でも、じゃあ、なんで。
「でも、耳……」
「あー……それはまぁ、反応見てたらなんとなくってだけで、余計なこと言ったのは本当に自覚してるから」
 またしてもごめんと言われて、さすがに首を横に振った。もう、謝らなくていい。

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追いかけて追いかけて18

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 そう言えば、何もかもが受け身で、自分から相手に手を伸ばしたことはない。両手を持ち上げるように伸ばして、相手の頬を挟むように触れてみた。目の前の彼は、嬉しいの言葉通り柔らかな笑みをこぼすものの、何も言わない。こちらが次に何をするかを見守る気で居るらしい。
 腹筋に力を入れて、少しばかり上体を起こす。ゆっくりと相手の唇を自分から塞げば、近すぎてぼやける視界の中で、相手の目が笑うように細められたのはわかった。
 肩に掛かった力に従い腹に入れた力を抜けば、唇を合わせたまま、また背中にベッドマットの感触が押し付けられる。すぐにキスは深いものになったから、必死に応じて、流れ込んでくる唾液を飲み込んだ。
 口の中を探られても、互いの舌が触れ合って擦れても、唾液を飲まされても。嫌悪感はないしキスは多分気持ちがいい。
 キスを繰り返しながら体のあちこちを撫でていく彼の手も、時々くすぐったい以外はだいたい気持ちがいい。こちらも負けずと相手の体を撫で回そうとするものの、相手のくれる刺激に意識が拡散して、あまり上手くは行かなかった。
 こちらはシャワー後に備え付けの部屋着を着用しているから、相手の手が肌に直接触れるのも早かったし、すべて脱がされ丸裸になるのも早かった。もちろんわかっていて、自分からある程度協力したのもあるのだけれど、それにしたって器用だなとは思う。だってほとんどずっと、キスを続けたままだったから。
「好き、なんですか」
「うん?」
 唇が離れた隙に問いかければ、何をと言いたげにもう少し頭が離れて顔を覗かれる。
「キス、ずっとしっぱなし、だから」
 しゃべると口の中の違和感が増した。口の中のあちこちと、舌全体にじんわりとした痺れがまとわりついている。
「ああ、うん。嫌?」
「いや、ではないけど……」
「ないけど?」
 嫌悪感はないし、間違いなく気持ち良くても、さすがにもっともっとして欲しいって感じではないし、でも、したいならどうぞ続けて下さいとも思う。
「じゃあちょっと、口へのキスは一旦休憩してみようか」
 言い淀んだら何を察したのかあっさり引かれて、代わりとばかりに唇が落とされたのは耳元だった。ゾワッと肌が粟立って、それに気づいた相手がふっと小さく笑った吐息にさえ、ゾクゾクとした何かが背筋を走る。
「っぁ……」
 ちゅっと響いた音に、たまらず小さく声を零した。嫌悪、なのかもしれない。それともこれも気持ちがいいんだろうか。わからない。
「耳、ずいぶん敏感だね」
 楽しげな囁きに、泣きそうになった。耳に触れる唇は想う相手のもので、自分に覆いかぶさっているのは間違いなく彼だ。あの男じゃない。思い出すなと思うのに、耳に触れる相手の息も唇も舌も、気持ちが悪くてたまらなかったあの日の感触を思い起こさせる。
 ゾクリゾクリと体の中を貫いていくのが、快感からなのか恐怖からなのかわからない。わからない。わからないことが、怖い。
 混乱する中、耳へのキスを繰り返していた相手に、耳朶を食まれて吸われて体が震えた。
「ひっ……」
 わずかに零した悲鳴に、ピタリと相手の動きが止まる。酷く嫌な感じの沈黙に、どうしていいかわからないまま、ひたすら相手の次の行動なり言葉なりを待ってしまう。
「耳、いじられるのが嫌なら止める。感じちゃって辛いって話なら、続ける。どっちがいい?」
 耳の近くで語られて、吹き込まれる声にすら体が震えるのに、そう聞いてまっさきに思ったのは、止めて欲しくないだった。

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