親睦会9

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 隣で人の動く気配に、浅い眠りを彷徨っていた意識はわりとすぐに覚醒した。遠ざかる気配と襖を開け閉めする音の後、酷く静かになったから、トイレにでも行ったのかも知れない。
 起き上がって近くで充電中の携帯を取り上げ時間を確認する。時刻は午前1時を少し過ぎた所だった。
 部屋の露天風呂を満喫した後、テレビを見ながら時間を潰して見たものの、全く起きてくる様子のない相手に、あれだけ飲んでいたのだからそれも仕方がないかと諦めて横になったのは、日付が変わる少し前だ。寝具が変わったせいか、やはり隣で眠る相手が気にかかるのか、布団の中、ずっと上手く寝付けずウトウトと微睡むような時間を過ごしていた。
 トイレに起きたのだとしたら多分すぐに戻ってくるだろうけれど、このまま起きて待っていた方がいいのかを迷う。ヤる気があるならこちらが寝ていたってお構いなしに手を出してくるだろうし、酔いが残ってそんな気になれないなら黙って再度眠るだろう。
 起きて待ってたら、相手にヤる気があろうとなかろうと、取り敢えずで、そんなに抱かれたいのと意地悪く聞いてくるくらいはされそうな気がする。
 正直言うと、このままヤらずに帰るかもしれない可能性が高いことに、なんとも気持ちが落ち着かない。だってこんな豪勢な旅行を奢られる理由が、相手の好きにさせるセックス以外にない。
 酔って出来なかったのは自業自得だろうと知らん振りして、対価ゼロで旅行を奢って貰えてラッキーだと喜んでしまえば良いんだろうか。それが出来ないのは、心の何処かに、ただただ相手に抱かれたい気持ちがあるからじゃないのか。
 上手い食事と温泉で釣ってまでしてやりたい事があったはずなのに、でもあの飲み方を考えたら、途中でなにがしかの理由から、ヤる気が失せたと考えることも出来そうな気がする。それを放置して、気付かなかった振りをして、起こる結果に後悔しないと言い切れる自信がない。
 もちろん何事もなかったみたいに、曖昧で殺伐としながらも気持ち良くセックスするだけの関係が、今後も続いていく可能性はある。でもやっぱり夕飯時の相手の様子はおかしかったし、しれっと何もなかったみたいに関係が続いていくなんて、のん気に信じられはしなかった。
 そうやってぐるぐると思考を巡らせる中、ふと気づけば、トイレに起きたにしては随分と時間が経過していた。
 慌てて立ち上がりトイレへ向かう。体調が悪くて戻ってこれないのかもしれない。
 しかし向かった先に目当ての人物は居なかった。というよりも、トイレを覗くより先に、洗面台の横に設置された脱衣カゴに相手の浴衣が置かれているのを見つけてしまった。
 ホッとするのと同時に脱力し、少し迷った後で自分も着ていた浴衣の帯を解く。裸になって露天風呂へと続くドアを開け、ずかずかと中へ進んでいった。
 目があった相手は驚いた顔をしていたけれど、何も言っては来なかったので、こちらも無言で掛け湯しそのまま浴槽内へ身を滑らせる。部屋付きの風呂とは言えそこそこの広さがあるので、向かい合う位置に腰を据え、それからもう一度相手の顔へはっきりと視線を向けた。
 相手はやはりどこかバツが悪そうな顔をしながら、こちらの様子を窺っている。
「酔いは覚めたんですか?」
「まぁ、ある程度は」
「また1人で勝手に起き出して。風呂に入るなら声かけてってください」
「昼寝ん時とは違うだろ。てかお前、」
 ニヤけるのを失敗したような顔をして言葉を止めたので、なんとなく、続けたかった言葉はわかってしまった。
「一緒に入りたがるの、オカシイですか。というか場所変えてヤろうと思ってって言って、部屋に露天風呂ついてるような宿連れてこられたんで、そういうプレイがしたいのかと思ってたんですけど」
「つまり、今ここにお前が居るってのは、そういうプレイもオッケーって話?」
「美味いタダ飯に温泉まで付けてくれたんで、やりたいなら勝手にどうぞ。ってさっきも言いましたよ」
「勝手にどうぞ、ね」
 ふーんとイマイチ興味なさげな音を立てながらも、対面に座っていた相手の体が湯の中をするりと滑って寄ってくる。あっさり顎を取られて、更にグッと近づく顔に目を閉じた。
 フッとおかしそうな吐息が唇に掛かる。
「お前から一緒に入りたがってんだから、そんなプレイがやりたいのはお前の方だろ?」
 意地の悪い問いかけに、唇が小さく震えて眉を寄せた。
 否定したい気持ちはもちろんあって、けれど、相手がそう言いたくなる態度や言葉を投げた事は自覚している。それに、これを否定したらこれ幸いと、顎にかかった手が外されるだろう予感がする。
「そ、です」
 呟くように肯定を返したが、さすがに相手の反応を見るのは怖くて目は閉じたままだった。

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親睦会8

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 さっきいつも通りだと思ったはずが、夕食が始まれば様子がおかしいのは明らかだった。
 酔い潰されて以降、自分は奢りでもほとんどアルコールには手を出さない。そしていつもなら、相手も最初の一杯程度しか頼まない。なのに今日は随分と摂取する酒の量が多かった。
「そんな飲んで、大丈夫なんですか?」
 親睦会の時は勧められるままに飲んでしまって早々に酔っ払っていたから、相手がどれくらい飲んでいたかの記憶はさっぱりない。ただ、意識がはっきりしだした時、自分を穿ち揺さぶるこの人に、酔っている様子はなかったはずだ。
 普段一緒に食事をする時に飲まないのはこちらに合わせているからで、本当はザルとかワクとか言われるような、酒に強い体質なんだろうか。
「うまい飯にうまい酒があったらそりゃ飲むしかないだろ。多少酔ったって、今日は帰らなくていいわけだし」
「そりゃそうですけど」
 でもここに来た目的を考えたら、出来れば多少だって酔ってほしくはなかった。帰らなくていいから酔えるな、なんて勢いで飲まれた結果出来上がった酔っぱらい相手に、しつこく求められるセックスをされるのかもと思ったら、憂鬱を通り越して酷く気が重い。
「まぁもし俺が酔い潰れたら犯してもいいぞ」
 既に結構酔ってんじゃないかと疑いたくなる発言だ。しかもおかしそうに笑っている。きっと、昼寝中に相手の体を弄っていたことをからかわれているんだろう。
 羞恥と怒りとでカッと体の熱が上がった。
「絶対しないし、もし潰れたらそのまま放置します」
「絶好の仕返しチャンスなのに?」
「犯していいよなんて言ってる相手犯して、仕返しになるはずないでしょ」
「確かに」
「というかそもそも、自分が抱く側とかすごく面倒くさいんですけど」
 言えば相手はますますおかしそうに笑っている。
「それ、仕返しって聞いて、俺がやったことそのままやり返すこと考えてるからだろ。俺の体気遣う必要ないって言ったら、突っ込んで見るくらいはするか?」
「まさかと思いますけど、もしかして、俺に抱かれたいんですか?」
 そんな願望があるかもなんて、欠片も考えたことがなかった。え、無理。男を抱くとか全くもって興味ない。
「いいや。お前にその気ゼロでちょっと安心してる」
 こわごわと聞いたら、あっさり否定された上、今度はニヤニヤと不穏な笑みを見せている。
「じゃ、抱くの面倒なら、逆レイプ的な感じでお前が抱かれれば?」
「それは仕返しどころか、もはやサービスの域じゃないすか」
「そうだな。で、そんなサービスを、なんでしてくれる気になったわけ?」
 ドキッと心臓が嫌な感じに跳ねた。ニヤついた顔からは、昼間の行為を咎められている感じは一切ないけれど、でもただからかっているのとはなんだか少し違うような気配がする。
「寝てたからって逆レイプしてやろうなんてこと、考えてませんでしたよ」
 そもそも自分で後ろを弄ったこともないのに、逆レイプなんて真似ができるわけがない。かといって、フェラしてみようと思ったとも言いにくい。それだって間違いなく、相手へのサービスに他ならないからだ。
「ただまぁ、夜にがっつりってのより、時間開けて何度かするほうがまだマシに思えたから、夕飯前に一回やっておきたくて、あなたを触って煽ってたのは否定しませんけど」
「残念だったな。夕飯前にやり損ねて、夜にがっつりコースだわ。というかお前、今日は一回で済ませる気がないの、わかってて旅行付いてきたよな。でもって、やっぱりわかってて一緒に昼寝したわけだ」
「まぁ、そうです、ね」
「いいのか?」
「なんでそれを、あなたが聞くんですか」
「お前の気持ちがわかんねーから。お前が嫌がることわざとやってんのに、何でお前、黙って俺に抱かれ続けてんの?」
 ああ、やっぱりわざとなのかと思うと、胸の深くがキリキリと痛い。はっきり言葉にしないまま、曖昧で殺伐とした関係のままで良かったのに。そしたら、続けて何度もしたいくらい欲情してくれているのだと、ひとかけらの希望を持ったままで居られたのに。
「別に。美味いタダ飯に温泉まで付けてくれたから、やりたいなら勝手にどうぞってだけです。しつこく何度もやりたいなら、やってみりゃいいじゃないですか。こっちは寝転がってるだけで気持ちよく性欲解消させて貰えるから続けてますけど、気持ちよくないセックスされたら、いくら俺でも止めますからね。もう既に結構酔ってるみたいに思えますけど、酔っぱらいの下手くそセックスとか勘弁して下さいよ」
「ふーん。なぁ、それ本音?」
 それだけじゃないだろと言われている気がして、肯定は返せなかった。確かに本音の一部ではあるけれど、それ以外の感情にだって、まったく気付いていないわけじゃない。時折胸が痛くなる理由に、欠片も思い至れないほど、自身の感情に鈍くはなかった。ただ、認めたくないし、目を逸らしていたいだけで。
「逆に聞きますけど、そっちこそ、なんで俺を抱き続けるんですか。ちょっと奢れば黙って足開く便利な穴ですか? でも便利ってほど簡単に突っ込める穴でもないですよね?」
「まぁお前風に言うなら、奢った上に丁寧に奉仕して、お前を気持ちよくしてやってるのがメインみたいだもんな。俺もちゃんと気持ちよくはなってるけども」
「そうですよ。ちょっと物好きすぎじゃないですか」
「物好きってより悪趣味なだけだな。お前の善がってる顔を見たいんだよ。元々ゲイってわけじゃないのに、俺に突っ込まれて気持ちよくアンアン喘いでるお前見ると、気分がちょっとスッとする」
 さすがに最後の方は酷くバツが悪そうだった。だったら、スッとするなんて言わなきゃ良いのに。ただ、嘘でも甘い言葉をくれようとしないところが、一貫しているようにも思う。好意から抱いているわけじゃないと、いつだってわかりやすく突きつけられている。
 二人も付き合っちゃえばいいのにと言いながら、ふわふわと幸せを振りまくように笑う同期の顔が頭の隅をチラついた。
 どう考えたってそんな展開無理だよと思って大きなため息を吐き出せば、対面に座る相手も小さくため息を吐き出して、グラスに残った酒を一息に飲み干してしまう。
 酔っぱらいの下手くそセックスは勘弁しろとはっきり忠告したにも関わらず、その後も相手はペースを落とすことなく飲み続けて、結果、めちゃくちゃ酔ったらしかった。デザートには口をつけずにこちらへ押しやり立ち上がると、お前は温泉堪能しろよと言い残して、フラフラと寝室スペースへ入っていく。
 つい先程、夜にがっつりコースと言ってニヤついていた男が、なんでこんなことになっているんだろう?
 わけがわからず呆然とその背を見送ってしまった。

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親睦会7

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 眠りから覚めた時には一人だった。確かめるように触れた、あの人が寝ていた場所のシーツはすっかり冷えている。
 溢れるのは苦笑。目覚めた時、腕の中で眠る自分を見てどんな顔を見せたのか、知りたい気もするし、知りたくないとも思う。
 ため息を吐いて、枕元に置かれた携帯を取り上げた。それは自分のものではなく、あまり馴染みのない電子音を響かせている。相手が目覚まし用に仕掛けたんだろう。自分を起こしたのはこの音だった。
 どうせ襖一枚隔てた先に居るんだろうから、直接起こしに来てくれればいいのに。そう思いながら開いた襖の先は無人だった。
 相手の携帯は自分の手の中で、未だ音を鳴らしながら小さく震えているのに、人気のない静かな空間を前になんだか無性に不安になる。
 大浴場から戻った時もそうだった。寝ているのを見つけた最初、ホッと胸を撫で下ろしたのを覚えている。あれもやはり、姿が見えないことで不安を感じていたからだろう。
 まさか置いて帰られるなんて事はあるはずないと思うのに、それでも居るはずの場所にその姿がないと不安を感じてしまうくらいには、相手に対する信頼がないのだと思う。酔わされて潰されて気付いたら抱かれていたみたいに、また、こちらが油断した隙に何か酷いことをされるのではないかと疑う気持ちがある。
 そんな気持ちを自覚しながら、誘われれば平気な顔して付いていく自分も大概オカシイのだけれど、奢ってくれるからとか、気持ちよくしてくれるからとか、そんな理由を掲げて目を逸らしている。
「ああ、ちゃんと起きたな。そろそろ飯の時間だぞ」
 ぼんやりと立ち尽くしていたらふいに声が掛かって、慌てて声がした方向へと顔を向けた。洗面台や脱衣かごの置かれた区画から現れたその人は、どうやらまた風呂へ入っていたらしい。
「まだ寝ぼけてるのか?」
 そのままつかつかと歩み寄ってきて、手の中の携帯を取り上げアラームを切るのを、やはりぼんやりと見つめてしまえば、苦笑交じりにそう問いかけられた。特に変わった様子はなく、いつも通りの顔と声音に、肩透かしと安堵とが混じったような妙な気持ちになる。
 そして次に湧くのは、ほのかな苛立ちだった。それは相手に対してというよりも、自分自身に対してかもしれないけれど。
 振り回されて胸を痛めて不安になって、いったい何を期待しているんだろう。もっと図々しく、たかってやるくらいの気概で対峙してちょうどいいくらいの相手だと、そんなことはもう十分わかっているのに。
 気持ちを切り替えよう。せっかくの温泉と食事を、堪能して帰ってやろうと思った。
「俺も飯前に露天の方、入っておきたかったんですけど」
「なに、起こさなかったから拗ねてんの?」
「拗ねてません」
「気持ちよさそに寝てたから、寝かしておいてやっただけだろ。むしろ叩き起こさなかったことを感謝されたいとこなんだけど」
「こんな時ばっか変な気遣いいりませんよ。せっかく奢りで温泉来てるんだから、寝て過ごすより温泉入って過ごしたいです」
「わーかったって。わるかったよ。さすがに食事の時間は今更ずらせないけど、食後に好きなだけ入っていいから」
「言質とりましたからね」
「はいはいどーぞ。というかいちいち俺の許しなんか取らなくていいから、夜中だろうと朝だろうと、好きに入れよ?」
 そのための部屋付き露天風呂なんだからと続いた言葉に、そういう意味じゃないと訂正はしなかったし、そんな余力を残してくれる気があるのかと聞き返すのは藪蛇な気がしてやめておいた。

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親睦会6

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 思わず硬直して、しばし相手と見つめ合う。勝手に体をまさぐられていた事に気付いているのかいないのか、相手は思ったより近くにあった自分の顔に少し驚いたようではあったけれど、次にはどこかふわっとした笑みをこぼす。
 まったくもってらしくない。こんな柔らかな笑顔、初めてみた。
 その笑顔が原因かどうか定かではないが、心拍が上昇していくのがわかる。
 らしくないのは自分もで、何故か急に恥ずかしさが込み上げた。寝ている体に勝手に触れて、あまつさえちょっとフェラしてみようなんて事を考えていたのを知られたくない。
「ああ、戻ったのか」
 声もどこかふわっとしている。けれどそれで、きっと寝ぼけているのだと合点がいった。
「疲れてます?」
 未だ肌に当てた手を一切動かせないまま、ドキドキしつつ尋ねる。手が動いてしまったら、こちらの悪戯に気づかれそうで怖かった。
「んー……うん、まぁ?」
 言外にヤりに来たんじゃなかったのと言う気持ちをたっぷり込めつつ聞いたのに、やはり寝起きで随分と思考が鈍っているのか、ぼんやりとして曖昧な反応しか返らない。
「なら、寝てていいです、よ」
 起きて抱いてくれればいいのにと思う気持ちもあるけれど、眠いならこのままもう一度寝落ちてくれと思う気持ちもあった。
 もう一度寝てくれたら、寝てる間に勝手にフェラしようとしてた痕跡を消して、自分は部屋の露天風呂にでも行ってこようと思う。後で起きてきたこの人に向かって、まるで何もなかったみたいに、寝てたから温泉堪能させてもらいましたって顔が出来るように。
 なのに。
「寝てたらお前に犯されそう」
 ふふっとおかしそうに笑われてしまって、体をまさぐっていた事に気付かれていると気付いた。カッと体の熱があがって、先程以上に恥ずかしい。
 気付かれているならと、若干慌てながらも肌に当てたままの手を引き剥がせば、ますますおかしそうに笑った相手がその手を掴んで引っ張った。寝起きとは思えない強い力に引かれたのと、完全に油断していたのとで、頭から相手の胸に突っ込んでしまった。
「ちょっ、と、なに」
「お前も寝ろよ」
 いきなり何するんですかと憤るこちらの声を遮るように、甘やかな声が鼓膜をくすぐり身を固くする。本当に、慣れない。こんな声、知らない。
 抱かれている最中に掛けられる声だって確かに甘いけれど、あれはもっと、からかいと挑発と興奮とが混ざっている。ただただ柔らかに甘く響いた声に、どうしようもなくドキドキしてわけがわからなかった。こんなことで混乱していることに、更に混乱が加速している気もする。
「一緒に、寝よ。夜に備えて体力温存しとけ」
 ぐいぐいと抱きしめに掛かる腕とそんな言葉にため息を吐いて、大人しく相手の隣に体を横たえた。
 抱き心地を確認しているのか調整しているのか、何かを確かめるように頭と背中とを這っていた手が動きを止めて、それからほどなくして軽い寝息が聞こえてくる。それを暫く聞いてから、ようやく体の力を抜いた。どうやらまた眠ってしまったらしい。
 体力温存しとけって事は、やはり夜には泊まりだからと、しつこく何度も求めてくるようなセックスをされると考えて良さそうだ。それは憂鬱なはずで、なのに体の熱は上がっていく。弄られ挿れられる事に慣れてしまった尻の穴が、キュッと窄まりうずくような感覚がして、恥ずかしいのか情けないのか、なんだか泣きたいような気さえしてきてやっぱり頭の中はグチャグチャだった。
 この腕の中から抜け出したい。混乱するのは、どう考えたってこの状況のせいだ。なのに、このまま捕らわれていたいとも思う。この腕の中で、安らかな寝息をただただ聞いていたい。
 ふわっとした柔らかな笑みも、柔らかで優しいばかりの声も、寝ぼけていたからだとわかっている。昼寝から目覚めた時、相手がこのやり取りをどこまで覚えているかも怪しいし、出来れば忘れていて欲しいとも思う。だってきっと、この人はこんな甘やかな反応を、自分に見せたくはなかっただろうから。
 胸の何処かがまた少し痛くなって、気持ちを落ち着けるように少し深い呼吸を繰り返した。けれどドキドキが収まっていくと、泣きたいような切ない気持ちばかり残ってしまう。
 抱きしめられているので元々近い距離にいるのだけれど、更に自分から身を寄せて相手の肌にくっついてみた。
 そこに安心なんてものはなく、やはり胸は小さく痛み続けている。けれどそれでも、目を閉じて相手の体温を感じていれば、やがて意識は眠りに落ちた。

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親睦会5

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 本館の大浴場をたっぷりと堪能してから戻れば、寝室的な感じで区切られた場所に最初っから敷かれていた寝具の片方で、相手が寝息を立ていた。
 客室に併設されている専用露天風呂だけで十分だと言って、本館までの移動を面倒がって一緒に大浴場へ行くことをしなかったのは、もしかして疲れていたからだろうか。もしくは、かなり長湯してしまったから、単に暇を持て余して寝てしまっただけかもしれない。
 夕食まではまだそれなりに時間があるから、戻ったら抱かれるのだと思っていたのに。と言ってもそれは、食事前に一回、少し時間を開けて寝る前に一回、くらいで満足してくれたら良いのにという、こちらの願望でしかないのかも知れないけれど。
 隣の寝具に腰を下ろして、ぼんやりと相手の寝顔を見つめる。寝顔なんて初めてみた。
 可能性の一つとして、抱き潰されて寝顔を晒すことはあったとしても、逆はないと思っていた。そうか。宿泊先で長時間一緒に過ごすということは、相手が寝ている間に自分が起きているという、こんな時間帯も存在するのか。
 寝ているならいいだろうと、しげしげとその顔を眺め見ながら、この人は何で自分を抱くんだろうと不思議に思う。
 間違っても不細工と判断されるような容姿じゃないし、部署が違うので仕事っぷりはあまり知らないけれど、それでも職場での評価がそこそこ以上に高いらしい事は知っている。男でも女でも、それなりに好意を寄せてくれる相手はいそうだと思う。
 あの親睦会以降、セックスとセットみたいな感じでしょっちゅう奢られているけれど、値段は気にせず好きに食べていいって方針で、わざと高いものを選んで頼んでも何も言わないし、逆に値段の安いものばかり選んで頼んだら気を遣うなと怒られる。今回の旅行だって、想像していた温泉旅館とはまったく違ってなんだか随分と豪華で、自分は部屋に案内された最初はビックリし過ぎて呆けてしまったのに、相手は慣れた様子で仲居さんから宿の説明を受けつつ和やかに会話していた。
 だから、自分みたいに金銭的に厳しくて、デートするような余剰金がないから恋人なんて作れない、ってこともなさそうだ。
 というかなんでこの人、あの寮にいるんだろう?
 社宅で自炊が嫌なのだとしても、寮で出されるほんのり微妙な食事よりは、好きに買ってくるなり食べに行くなりした方が良さそうなのに。だって食事に連れて行かれる店からして、この人多分、かなり舌が肥えている。
 ただただ気楽に性欲を処理したいだけだとしても、自分はそこまで相手に都合よく便利な穴ではないはずだ。黙って足を開きはするし、キモチイイと喘いで反応は返すけれど、して貰うばかりでこちらから何かしらの奉仕をしてやることはない。まぁ求められたこともないけれど。
 そこまで考えたら、ふと、もしこちらから相手に触れたら、相手はいったいどんな反応をするのだろうかと思ってしまった。
 たまには奉仕っぽいことをしてやるのもいいかもしれない。風呂上がりなはずだし、ちょっと口に咥えて舐めてやるくらいはチャレンジしてみようか。
 酔わせて潰した相手に突っ込むまでした相手なんだから、寝ている体に少しばかり悪戯したって文句を言える立場にないだろう。ヤるために来たはずの場所で、何もせずに無防備に寝姿を晒した向こうが悪い。
 せっかく気持ちよく寝ている所を起こしてしまうかもしれないけれど、どうせなら起きてそのまま一発抜いてしまえばいいとも思う。元々、食事前に一回して置くつもりだったのだから、そのまま抱かれてもいいし、口の中に出されるのは嫌だけれど、初めてのフェラに興奮するってならまぁ我慢してやってもいい。
 そんなことを思いながら、相手の体に手を伸ばす。慣れないことをしようとしているので、おっかなびっくりなのは仕方がない。ただ、あまりにもたついたせいか、相手の股間を剥き出すより先に、相手の目が開いてしまった。

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親睦会4

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 ドアを開けた先にいたのは、今現在微妙な関係となっている、というよりはもう間違いなくただのセフレな先輩だった。
「出かけるから支度しな」
 換えの下着だけでいいと言われて、わけがわからず目の前の男を見つめ返す。
「いったいどこ行くんですか?」
 返された地名は、そう遠くもない温泉地だった。しかしますますもって意味がわからない。
「なんで?」
「たまには場所変えてヤろうと思って?」
「ああ、そういう話」
 同期と違って寮内でヤることに抵抗なんてないけれど、外に食事に出て、その帰りに目についたラブホで、という経験は何度かある。支払いはどうせ相手だし、寮でするよりはやっぱり色々と気楽なので、自分からそう誘導してしまったこともあった。
「泊まるんですか?」
 でもラブホ利用経験はあっても宿泊まではしたことがない。もちろんラブホ以外の宿泊施設に泊まったこともない。
 もっと端的にいうなら、食べることとヤること以外の何かを、この男と共にしたことがない。
「ヤる気で行くのに日帰りとか慌ただしすぎだろ」
「ですよね」
 確かに聞くまでもなかった。この様子なら当然、既に宿の予約も完了しているんだろう。
 何で突然そんな気にと思う気持ちの中に、なるほどこういう形で自分の欲求を通すのかと思う気持ちがある。元々、酔って潰れた相手に突っ込むような男なわけだし、ある意味すんなり納得できる。
 ヤることヤッてるセフレっぽい仲にはなったし、平日だってお互い早い時間に寮へ戻っていれば応じてしまうこともあるけれど、基本、一度のセックスで何度も射精することはしない。互いに一度ずつ吐き出して終わりだ。だからだろうか。直接言葉で、物足りないだとかもっとしたいだとか言われたことはないけれど、終えた後にヤり足りないという気配を感じることはあった。
 最初の頃は本気で疲れ切って二戦目なんてとんでもないって感じだったし、そこそこ慣れてしまった今だって、やっぱり続けて何度もしたいなんてことは思わない。
 性欲の差とかではないと思う。なぜなら慣れてきてからは土日とも抱かれることが平気になったし、平日の誘いを疲れているからと断ることも減った。更に言えば、さすがに回数が減りはしたけれど、一人で処理することも未だにある。
 なんというか、気持ちよく果てた後の体を更に弄り回されるのが嫌だった。
 ほぼマグロが許されている現状、相手は毎回、こちらの体を丁寧に慣らして拡げてくれる。それらの準備を考えたら、一度にヤりたいだけヤッて、吐き出せるだけ吐き出して、その分次回までの日をあける方が楽なはずだ。でももし、面倒だからヤり溜めさせろ的な提案をされていたら、抱かれることそのものを止めるだろうとも思う。
 ヤり足りない気配を滲ませても口に出して言わないのは、そんなこちらの気持ちを、きっと相手も察しているのだろうと、そう思っていたのだけれど。そこに踏み込んで来る今回の誘いには、どうしたって警戒する気持ちや困惑する気持ちやらが湧いてしまう。
 元々のんびり湯に浸かれる温泉や銭湯などが好きで、たまの贅沢で徒歩距離にあるスーパー銭湯へ行くことはあるが、実のところ、温泉旅館への宿泊なんてしたことがない。旅行そのものも随分とご無沙汰だった。というか多分そんな話をチラッと零した記憶があるから、それで目的地が近場の温泉地になった可能性が高い。
 もしこれがセックスの誘いでなければ、きっと喜んでホイホイと付いていく。けれど相手の目的がなんとなく見えてしまっている以上、素直に喜ぶことなど出来ずにただただ立ち尽くしていた。
「まぁちょっとこれ見ろよ」
 相手もこちらのそんな態度は想定内だったらしい。そう言いながら、スマホの画面をこちらへ向けてくる。それはどうやら宿のサイトの料理紹介ページらしく、美味しそうな料理の写真が並んでいた。
「こんな感じの飯が出るみたいだけど」
 朝食はこっちなと指が画面を滑って、これまた美味しそうな和朝食の写真が表示される。ゴクリと喉が鳴ってしまって、フッと小さく笑われた。
「行く気になったか?」
 疑問符は付いているが、断られるなんて思っていないのは明白だ。食事に釣られて頷くと思われているのが癪だし悔しいのに、もし断ったらどうするのかを考えるとそれはそれで気持ちが沈む。
 他の誰かを誘って出かけて行くのか、あっさりキャンセルを選ぶのか。キャンセルを選んだとして、そんな真似をさせても今夜また食事に連れ出してくれるのか。
 もし自分なら、ここまで用意した誘いをあっさり断られたら、関係そのものを終えることを考える。これがそんな重要な意味をもつ誘いかどうかはわからないけれど、それを確かめることそのものをなぜか躊躇ってしまう。
 セフレっぽい関係とは言っても、明確にセフレと言われたことはないし、自分の方も、セフレだと思っていると口に出したことはない。それくらい、自分たちの関係はあやふやだった。
 こちらの不安や困惑の正体には多分気付いているだろうに、豪華な食事写真で釣る真似はしても、言葉での安心はくれようとしない。本当にいつもと違う環境でヤりたいだけで、嫌がるような無茶はしないと言ってくれれば、たとえそれが嘘だとしても、嘘だろうとわかってても、こちらは頷きやすいのに。せめて最初に、場所変えてヤるのが目的だなんて言わずに、温泉好きだって聞いたから喜ばせたくて宿を取ったとか言ってくれていたなら、たとえ本当の目的に気付いても、わかりやすく差し出された好意を振り払う真似はしにくいのに。
 胸の何処かがキリキリと痛い。ズルいと思うのに、それはお互い様だとわかってもいる。
 だって食事まで奢ってくれる、都合の良い性欲処理相手という扱いしかしていない。吐き出したらハイ終わり、という態度をあからさまに見せていた。疲れ切ってぐったりだった最初の頃はともかく、ある程度慣れてからは終えた後の処理も自分でするようになった。というよりは、終えた後の体には触れさせなくなった。
 行為の最中に甘い言葉をねだることもしないし、行為の余韻なんてものはむしろ避けるような素振りをしている。もちろん、食事とセックス以外の何かを相手に求めたこともない。
 だって酔い潰した相手に無断で突っ込む犯罪者と、そんな犯罪者相手にも簡単に足を開いて善がっている自分には、これくらい曖昧で殺伐とした関係で十分だろうし似合いだろう。そう思っているはずなのに、時折走る胸の痛みは、知覚するほどに増して行く気がする。
「ああそうだ。お前、財布置いてっていいぞ」
 食事に釣られてあっさり頷かなかったせいか、ダメ押しとばかりにそんな言葉が告げられた。
「行きます」
 言えば満足そうに笑いながら、じゃあ支度してと促される。最初に言われた通り、換えの下着類だけ適当なカバンに丸めて突っ込めば、支度なんてあっというまに終了だった。

続きました→

 
 
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