いつか、恩返し6

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 もしかして、からかわれているのだろうか?
 そんなこちらの疑いの目に気づいたのか、すぐに、嘘じゃないよの言葉が追加される。
「えー……っと、いつから?」
「割と昔っから、もっと仲良く出来ないかなって思うことは多かったよ。なんでこんなにライバル視と言うか、敵視されてんだろって思ってた。ただ、好きな子になったのは、高校入ってからだね。お前が謝りに来て、ちょっとずつ色々話するようになってから」
 そうじゃなきゃ一緒の大学に行こうなんて言ってないと言われて、ちっとも気づかなかったと思う。
「なんで、言わなかったんだよ」
「いや、そりゃ、言えないって。お前に、俺の気持ち受け止められるような余裕、全然なかったもん」
 確かに、形だけだろうと恋人な今だから、好きだという気持ちがちゃんとあると知っても、マジかよと驚く程度で済んでいるというのはある。全く本気にしては居なかったけれど、周りは従兄弟の本命は自分なのだという認識だったし、周りのその認識にそった形で恋人に収まっている事実は大きいかもしれない。周りの認識が正しかったのか、という衝撃もかなり大きいけれど。
 もし、一緒の大学に行こうかと言われた時にそんな理由を聞いていたら、絶対に同じ大学を受験したりしなかった。
 もし、高校卒業時に言われていたら、どんな大学生活になっていただろうか。少なくとも、互いの家に行き来するような親しさは生まれなかったはずだ。
「にしたって、なんで今?」
「ああ、それは、お前が恩返しのつもりで恋人になったわけじゃないって言ったから、だな。俺が同じ大学に通うっていう事が、お前にとっては大きな借りだってわかってたし、恩返しがしたくてこの状況に付き合ってくれてるんだとばかり思ってた」
「恩を返したい気持ちがなかったら、この状況に付き合ってたとは言い切れないぞ」
 おかしそうに笑われたが、何がそんなにおかしいのかわからない。ムッとしながら発した言葉は少しばかり尖っている。
「わかってるよ。でも、こんな茶番に付き合ってやったんだからチャラな、って言う気はないんだなぁって思ってさ。いつか返すつもりの恩が積み上がってくばっかりだなんてぼやかれたら、そろそろ言っても大丈夫かなって。俺のことを即拒絶にはならないだろうなって、思って」
 実際驚いてるだけでしょ、と指摘されて、その通り過ぎて返す言葉がない。
「恋愛的な意味で俺を好きになって、とまでは言うつもり無いけど、俺と過ごす時間が楽しくて心地いいって思ってくれてるなら、このまま恋人ごっこ続けさせてよ」
「いやそりゃ、お前と別れたらそれはそれでまた噂の的になって面倒増えそうだし、正直、大学出るまではお前の恋人役やる気で、当分彼女とか恋愛とかはいいって思ってた、けど……でも、」
「俺が本気でお前好きって知ったら、さすがにもう無理そう?」
「いやそういう訳じゃなくて……」
 好きな子との恋人ごっこが楽しい、という相手の言い分を飲んで受け入れてしまっていいのか、イマイチ自信がない。というよりも、何かが引っかかっている。
 拒絶はされないだろうから、という理由で、こちらが全く気づいて居なかった彼の気持ちを知らせた意味を考えてしまう。ただただ恋人ごっこが楽しいなら、そのまま本音を隠して続けることだって出来るだろう。そうしなかったってことは、口では好きになってとまでは言わないと言っていたって、好きになって欲しいという期待は含まれているんじゃないのかと勘ぐってしまう。
 けれど。
「俺に好かれてるのが無理じゃないなら、何が問題?」
「あー……いや、問題は、ない」
「ん、じゃ、これからも今まで通りでよろしくな」
 そこに期待があるのかどうかを確かめる勇気はなく、わかったと返すしかなかった。

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いつか、恩返し5

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 彼にも責任があると言ったって、むりやり飲まされたわけじゃない。どう考えたって自業自得で、こちらの非が大きいはずなのに。
 いろいろして貰うばっかりで、いつか返したいつもりの恩は、むしろ積み上がっていく。なんて気持ちをうっかりこぼせば、やっぱり相手は大げさだなと笑った。
「というかさ、あの時、彼女振って俺の恋人になってくれたのは、恩返しのつもりだと思ってたんだけど違うの?」
「そりゃ、恩を返したい気持ちがなきゃ、お前が孤立しても放っといたとは思うけど。でも恋人になってって言われたわけでもないのに、半ばむりやり押しかけ恋人してて、どこが恩返し?」
 恩の押し売りならした、と言えば、そういう認識だったの!? と相手は一度驚いた後で、またしてもおかしそうに笑っている。
「恩返しねぇ」
「何かして欲しいことあるなら言えよ」
「うーん……現状そこそこ満足してはいるからなぁ。確かに、恋人になってくれとは言わなかったけど、お前がお前の意思で俺を選んで、放っとけないからって理由にしろ俺の傍にいたいって言ってくれたのは嬉しかったし、周りに俺と恋人って思われるのを受け入れてくれてるのも、ちゃんと感謝してるよ」
 押し売られたものでもちゃんと返されてるよと言って貰って、少しばかり安堵する。
「なら、いいけど」
「うん。お前と恋人ごっこする日が来るなんて、まさか思ってなかったから、実は今、結構楽しんでるし」
「実は、とか言われなくても、さすがにそれは俺にもわかってるわ」
 何が楽しいのかはわかんないけど、と続ければ、びっくりした様子で、お前は楽しんでないのかと聞き返される。
「楽しいよ。お前と一緒になにかするのは普通に楽しい。ついでに言うなら、お前の隣はかなり居心地いい。でも恋人ごっこが楽しい! という心境に至ってはいないな」
 そもそも恋人ごっこというほど恋人らしいことをしているわけでもない。周りに恋人と認識されていることと、一緒に過ごすことをデートと呼んでいるくらいしか思いつかない。一応、甲斐甲斐しく世話を焼いて貰う、というのが本日追加されたみたいだけれど。
「ああ、なるほど」
 言えば納得顔で頷かれた。
「で、お前は何がそんなに楽しいわけ?」
「え、恋人にご飯作ってもらったり、恋人に作ったご飯食べてもらったり、恋人と一緒にゲームしたりテレビ見たり、恋人と映画見に行ったりカラオケ行ったり買い物行ったり、昨日みたいに恋人の誕生日祝ったり、全部何もかも楽しいけど」
 すごい勢いで恋人の単語を混ぜられて思わず笑う。
「いやお前、恋人ったって相手が実質形だけの俺で、本当に楽しいのかって話だろ?」
「ああゴメン。言い方変えるわ。好きな子にご飯作ってもらったり、好きな子に作ったご飯食べてもらったり、好きな子と一緒にゲームしたりテレビ見たり、好きな子と映画見に行ったりカラオケ行ったり買い物行ったり、昨日みたいに好きな子の特別な日祝ったり、初めてのお酒で酔いつぶれた好きな子をお持ち帰りするのも、全部、何もかもが楽しい」
「待て待て待て待て。え、何だって?」
「好きな子とごっことはいえ恋人になれたら、楽しいのは当たり前、って話」
 びっくりしすぎて言葉を失くせば、知らなかっただろと、目の前の男が楽しげに笑った。

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いつか、恩返し4

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 当然の結果だけれど、彼と恋人になって、彼と過ごす時間が大幅に増えた。互いの家を行き来する頻度も増えたし、休日に一緒に遊ぶ時間も増えた。
 彼はどうか知らないが、少なくとも自分の方は、仲の良い友人とだってここまで親密に過ごした経験はない。ついでに言えば、実家住まいだった彼女ともだ。
 全く嫌だとは思わないどころか、これだけ一緒に居てもやっぱり彼と過ごす時間は居心地がいいと再確認する始末で、彼とのそんな相性の良さのようなものを、意識してしまう事が増えている。しかも時折、恋人だからね、だとか、デートしようか、などと言われる事があって、そんな時に妙にそわそわしてしまう自覚もあった。
 形だけにしろ恋人って関係なのは確かで、一緒に過ごすことをデートと呼ぶなら、互いの家で一緒に食事を摂るのだって、ついでのように一緒にゲームしたりテレビを見るのだって、充分おうちデートと呼べる内容だというのはわかる。一緒に買い物にでかけ、たまにはって映画館で映画を見たり、カラオケしたりゲーセン行ったりなんて、関係が恋人の今は間違いようもないデートだった。
 頭ではわかっている。彼は正しくデートをデートと呼んでいるだけだ。

 それは彼よりも数ヶ月遅れで迎えた自分の誕生日の事だ。形だけでも一応は恋人だしね、などと言いながら、彼の奢りで食べに出かけて、初めてアルコールを口にした。
 一足先に二十歳になっていた彼は、解禁とばかりに結構な頻度で俺だけ悪いなと言いつつ飲んでいたし、どうみてもお酒が好きなのは明らかだったから、これからは一緒に飲めると思うと嬉しかった。ただ、初めての酒で、しかも自分の誕生日祝いで、浮かれていたのかあっさり飲みすぎたらしい。
 気づいたら彼の家の彼のベッドの中に居て、当然隣には彼が寝ていて、ついでにいうなら辛うじて下着は脱いでいないという状態だった。
 互いの部屋に行き来する頻度は増えても、さすがに泊まったことはない。徒歩10分もない距離に住んでいて、わざわざ泊まる理由がない。
 つまりは寝起きから大いに焦るべき事案が発生していて、けれど昨夜何があったのか聞けたのは、そこから数時間は経過してからだった。なぜなら、世に言う二日酔いを体験していたせいだ。
 従兄弟は体質的に酒に強いのか、今の所二日酔いになったことはないらしく、どこか面白そうに、二日酔いの治し方を検索して、こまめに水分補給を促したりあっさり目の食事を作ってくれたりと、なんだかやたらと甲斐甲斐しい。しかも、やっとまともに話ができる状態に回復した後聞いた話によれば、昨夜も相当甲斐甲斐しくあれこれと世話をしてくれたのは間違いない。なんせ寝起きが下着姿だったのは、着ていた服を吐いて汚したせいだった。しかも吐いたのはトイレ数歩手前の廊下だったと言うから最悪だ。
 脱がすまではやったけど、何か着せてやるだけの気力も体力も残ってなかった。とは言われたが、脱がされた服は既に洗濯済みだったし、汚した廊下だって綺麗に片付けられている。
 聞けば聞くほど酷すぎる。せっかく落ち着いた二日酔いがぶり返しそうだ。
 頭を抱えるように項垂れてしまったこちらに、けれど相手はそんなに気にしなくていいよという。
 自分が昨夜飲みすぎてしまったのは彼にも充分に責任があるから、というのが一番の理由で、けれどやはり、恋人だというのも理由の一つではあるようだった。

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いつか、恩返し3

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 彼女さえ作ればの言葉通り、さっさと彼女を作るのかと思った従兄弟は、けれど結局一人のままだった。距離はおいたし互いの部屋に行き来するようなことはなくなっても、連絡まで一切取らなくなったわけではないから、もちろん理由は聞いた。
 噂に踊らされて恋人まで作るのは相手の思う壺だしバカらしいから、だそうで、そう聞けば納得も行くのだけれど、ゲイ疑惑も従兄弟が自分に片思い中という噂も、なくなるどころかますます信憑性が増している。
 こちらは気にせず彼女と仲良くしてろと言われたって、誰からの告白だろうと全て突っぱねている従兄弟の話は、どうしたって耳に入ってくる。それを聞かされる自分の反応も含めて、完全に一部の生徒の娯楽対象なんだと思った。
 だって従兄弟への告白も、どう考えたって本気と言うより、断られる前提の遊びになっている。ゲイ疑惑があるのだからと、女子だけでなく男子も混ざっていて本当にタチが悪い。
 従兄弟の方に新しく出来た友人たちも徐々に従兄弟から離れてしまって、こちらは気が気じゃないのに、従兄弟本人だけはなんの問題もないよと言い切り平然としていた。
 耐えきれなくなったのは自分の方だった。孤立していく従兄弟を放っておけないからと、別れを切り出した自分に、彼女はこうなるのも時間の問題だと思ってたからと言って、あっさり別れを受け入れてくれた。
 それを伝えた従兄弟には、呆れと怒り半々に、随分馬鹿なことをしたなと言われたし、こんな事をしてこの後どうなるかわかっているのかとも聞かれたけれど、覚悟済みだよと返せば溜め息一つで許してくれた。
 だって本当に、どれだけ平然とした姿を見せられても、いつだって人の輪の中心に居たような従兄弟が一人きりで立つ姿を、遠くから見ているだけなのが辛かった。一度は親しい友人のように近づいてしまった後だったから尚更だ。
 助けてなんて一言だって言われていないから、恩返しどころか恩の押し売りみたいになっているけれど、迷惑かという問いにはちっともと返されたから、彼女と別れて従兄弟の傍に戻ったことを後悔する気持ちは欠片もわかなかった。
 従兄弟のために彼女と別れた、という噂は当然あっという間に広がったし、聞かれれば正直に、従兄弟をあのまま放っておきたくなかったからと彼女にも告げた理由を話したし、付き合うのかという問にも、そのつもりだと返した。もちろん従兄弟も了承済みだ。
 恋人になるような関係性ではないけれど、それを否定したってどうせ信じやしない。だったら相手が欲しい答えを与えてやればいい。彼らの思惑通り自分たちがくっついてしまえば、従兄弟は恋人持ちとなって遊びとからかい目的な告白に付き合わされる事もなくなる。
 しかも、はたからすれば、彼女持ちだったこちらの幸せを壊さないようにと噂が始まった初期にさっさと離れて、全てを一人で抱えて耐え続けた結果こちらが絆された、という流れに見えるだろう。つまり従兄弟は一途に思い続けた相手とようやく結ばれた果報者だし、事実そう思うやつらが居るようで、おめでとうだとか良かったねだとか言われることもあるらしい。
 最初に陰口やら噂やらを話していた、従兄弟にふられたのが気に入らなかった女子には、どうやら、君のおかげで手に入らないはずの相手と付き合えるようになったから感謝していると、思いっきり笑顔を振りまいてきたそうで、さすがに従兄弟も腹に据えかねるものがあったようだ。めちゃくちゃ悔しそうな顔をしてたからスッとしたと、久々に晴れ晴れと笑う顔を見れたから、やっぱり彼女と別れて良かったと思ってしまったし、内実はともかく従兄弟と恋人となったことへの後悔もなかった。

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いつか、恩返し2

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 従兄弟との関係も、なんら問題なく、そこそこ親しい友人のような関係が続いている。親の目が届かないから、気軽に互いの部屋を行き来するようにもなっていた。
「あ、これ美味い」
「だっろ。超お手軽な割にけっこーイケる」
「賄い目当てのバイトの副産物、凄いな」
「あー確かにな。食事目当てで始めたはずのバイトなのに、まさか自分で料理するようになると思ってなかった」
 更に言うなら、それを従兄弟に食べさせて、美味いと言ってもらうのがこんなに楽しいなんて思わなかった。
「そう? お前はいずれ自炊しだすと思ってたけど」
「まぁ、安くたらふく食うなら自炊のが良さそう、ってイメージはあるからな」
「それもあるけど、お前、かなり好奇心強いもん。今までやってみようとすら思わなかったことでも、自分でもやれそうって思ったら、今ならもう躊躇わずに手ぇ出せるだろ」
 良かったなと自分のことのように嬉しそうに笑われて、なぜかドキリと心臓が跳ねる。
 親に抑圧されて色々と制限されて自分の好奇心も可能性も潰されていた、という意識は確かにある。多分きっと相手もそれをわかっていて、けれど親の話は一切ださずに、ただただ変わっていく自分をこうして肯定してくれるのが、最近はなんだかむず痒くてたまらない。
「変な顔してどうした?」
「んー……あー……なんでも、ない」
 この気持ちをどう説明していいのかわからなくて濁してしまえば、えーと不満げに口を尖らせはしたものの、特にそれ以上追求されることはなかった。
 そういうところも含めて、彼と過ごす時間はとても心地が良い。だからだろうか。従兄弟とはバイト先もサークルも違うし、それぞれ新たに友人も出来たから、そこまでベッタリというわけでもないはずなのに、なんだかんだで一緒に過ごす時間は多かった。
 そんな自分たちの関係が少しばかり変わったのは、二年目の夏休みが明けた辺りだった。
 頭が良くて人当たりもいい従兄弟は昔から良くモテていて、だからか女の子の扱いにだって慣れていたはずなのに、珍しく何かをしくじったらしく、従兄弟にふられたという女子を中心に少々陰湿な陰口を叩かれだして、それに巻き込まれる形で関わったせいだ。
 簡単に言えば、従兄弟のゲイ疑惑と、その相手として自分の名前が上がっていた。
 ずっと学校が一緒だった従兄弟の、過去の交際相手を多分ほぼ全て知っている自分からすれば、何を言っているんだと鼻で笑ってしまいそうな噂と疑惑ではあったけれど、従兄弟が自分に付き合ってこの大学のこの学部学科へ入学したのは事実で、大学入学後に従兄弟が彼女を作ったことはなくて、更に言うなら今現在、従兄弟の部屋に一番頻繁に出入りしているのはどうやら間違いなく自分だった。
 二人は既に出来ている、という方向に話が膨らまなかったのは、自分の方に彼女がいたせいだ。つまり、従兄弟の片思いで、自分は彼に狙われている立場らしい。
 なんて、バカらしい。とは思ったものの、従兄弟本人に、巻き込んですまないと謝られた上、ほとぼりが冷めるまでは暫く離れていようかと提案されてしまえば、それに逆らって相手の家に押しかけられるはずがない。
 噂を気にして距離を取るほうが事実だと認めるみたいじゃないのかとは思ったし、実際従兄弟にもそう言ったけれど、彼氏が男に狙われてるって噂になってる彼女の気持ちを考えてやれよと言われたのと、従兄弟が彼女を作ればゲイ疑惑なんて一瞬で吹っ飛ぶから大丈夫とも言われて、それ以上は何も言えなかった。

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いつか、恩返し1

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 同じ市内に住む同じ年の従兄弟とは、昔から色々と比べられてきた。親に煽られるままライバル視して競い合っていられたのはせいぜい中学までで、高校進学頃にははっきりと差がついていたし、その結果を受けてもまだ何やら色々と煽ってくる親のバカさ加減にはさすがに呆れたし、親同士の確執だかに巻き込まれていただけで、ずっと親にいいように踊らされていただけだったと気づいたのもその頃だったと思う。
 滑り止めもなくあっさり合格を決めて、塾にも行かずに高校生活を満喫しながら成績上位をキープし続けるような相手と、極力楽そうな部活を選んでほぼ幽霊部員を決め込み、塾に通って必死に勉強したって上位にかすりもしない自分とで、一体これ以上何を競え合えばいいというのか。
 いろいろ馬鹿らしくなって、高校一年の終わり頃、従兄弟にはこっそり謝った。親に煽られていた故の敵視とライバル視だったと認めて、負けを認めて、これ以上彼と何かを競う気はもうないと言った。
 勝手に突っかかって、てんで敵いもしないのにあれこれ競い合っていたのは自分だけとわかっていたから、謝ってどんな反応が返るのかわからなかったし、何を言われても仕方がないと思っていたのに、ホッとした様子で良かったと言われたのは何とも印象的だ。
 せっかく従兄弟で近くに住んでるのに、ずっと嫌われてて少し寂しかった。などと言いだした相手とは、その後多少ぎくしゃくしながらも、なんとなくの友人関係に収まっていた。
 あんなに大嫌いな従兄弟だったのに、それすら、親の刷り込みの影響というだけだったらしい。ちゃんと向き合ってみれば普通にいいやつだったし、笑えることに、彼と競うのを止めて彼に教えを請うてみたら、成績まで少し上がった。
 一緒の大学に行こうか、と言い出したのは相手の方だ。自分の中で、大学で親元を離れるのは既に決定済みだったけれど、将来的なことを考えたら奨学金の額はなるべく抑えらるだけ抑えておきたいと思っていた。
 彼が一緒の大学はどうかと言い出したのは、親からは下に弟がいるし長男なんだから地元の国立を狙えと言われていたけれど、もう一つ、従兄弟よりもいい大学にだったら進学させてやるとも言われていたせいだ。ただし、いい大学とは知名度なのか偏差値なのか、などとという定義を話し合えるような親じゃない。
 結果、同じ大学の同じ学部の同じ学科へ、入学を決めた。渋るかと思った親は、学費どころか生活費まで従兄弟と同額振り込むと言って聞かず、どうやら、親の見栄の方をえらく刺激してしまったらしかった。
 どこまでも従兄弟とその親とを意識し見栄を張る親を恥ずかしく思いはするが、正直、渋ることなく金を出して貰えるというのはありがたい。なんとなく、同じ大学を選べばこうなるだろうことを、従兄弟はわかっていたのじゃないかと思った。けれどさすがにそれを確かめることはしていない。
 当然、従兄弟にはこちらのレベルに合わせて貰ったわけで、大きな借りが出来てしまったけれど、相手はさして気にしてないらしいどころかなぜか大学まで全く同じ所へ通うことになった事実を、随分と楽しみにしているようだった。
 高校の卒業式、この恩はいつか必ず返すからと伝えれば、大げさだなと笑いながらも、その言葉忘れるなよとも言っていた。もちろん忘れてなんか居ないし、いつか彼が困った時にはなんだってしようとそっと心に誓ってもいる。
 そうして新しく始まった大学生活は、本当に毎日がとても楽しい。親の目がないというだけで、こんなにも心が軽くなるなんて、どれだけ抑圧されていたんだって話だ。

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