結局、動画はこれ以上は無理だとストップを掛けることなく、そろそろ終わりが近づいている。扉の前で鍵が開いていることを確認した後、ほんのりと名残惜しい気持ちの中で、最後にとキスを一つ落とした。
かなり驚かせた挙げ句、なぜか最後の最後で互いの名前を打ち明けあい、またどこかで会えたらよろしくと握手をして、先に行ってと促されて自分がドアをくぐった所で撮影は終わった。はずだった。
映像はまだ続いていて、自分の後を慌てて追うかのように、一度閉じたドアをすぐさま開ける相手の姿が映ったかと思うと、映像はドアが開かれる側に切り替わって、開いたドアの中から相手が出てくる。
「やっぱり居ないか……」
ひどくがっかりした様子で、どうしようと途方に暮れた呟きが漏れる。
なんだこれ。
「どこの人、だったんだろ」
そっと愛しげに名前を呼ばれて、本名とは全く掠らない名前だというのに、きゅんと胸が高鳴ってしまう。え、なにこれ。
「もう一度、会いたいな」
そんなセリフをいやに切ない声音で告げられながら、画面がゆっくりと消えていって、今度はエンドの文字が浮かび上がってくる。エンドの文字を見るともに、思わず相手を振り返ってしまった。
「どうだった?」
「どうって、最後、こんな風に終わると思ってなかった」
「うん。もし売れたら続編狙えないかなぁって思って、ちょっと口出した。けど、活動が春休み中だけなら、続編なんて無理だよねぇ」
残念だと嘆かれてなんだか申し訳ないような気持ちになるのは、続きがあるなら出たいって気持ちが、多少なりともあるせいかもしれない。
「それとも、夏休みになったらまた髪色変えて、出演してくれたりする?」
「あー……どうだろ。これの続編だけとかなら、考えなくもない、かも、知れないけど、ちょっとわかんない」
出たい気持ちはあっても、AVに出続けるなんてリスクが高いと思う気持ちもあって、じゃあ夏休みになったら戻ってくるよなんて、とても言えそうにない。なのに。
「そっか。可能性はゼロじゃない、と」
「うわ、ポジティブ」
「大事だよね、ポジティブ。あと、ポジティブついでに、やっぱ今日、このまま抱かせて貰えないかなぁって思ってるんだけど、どう?」
「どうって、言われても……」
「言われても?」
「あの、俺、さっきから一度だってキス、嫌がってないんだけど」
「え、待って。もしかしてあのまま押し倒したり、ベッド行こって誘ったりしても良かったとか言う?」
抱いていいよって言わなきゃ先に進めない、まではまだわかる。でもせめて、こちらがオッケーを出しているのくらいは、伝わってて欲しかった。
やっぱりワンチャン狙いの、可愛いと言いまくったり、様子見のキスだったらしい。こちらのいいよが伝わってなかったというだけで。
こちらの事情を話しすぎたせいで、もしかして恋人になりたいとか、付き合いたいとか、言い出せないのかも知れない。なんてことまで考えていた自分の自意識過剰っぷりがいささか恥ずかしい。
「ああ、まぁ、うん」
曖昧に頷いて見せれば、ゆっくりと相手の顔が近づいてくる。黙って瞼を下ろして待てば、柔らかに唇が押し付けられて、でも今度はすぐには離れていかない。
舌先で突付かれて軽く口をほどけば、ぬるりと入り込んできて、互いの舌が擦れ合った。あの日練習までしたキスは、当然今日も気持ちがいい。
「ね、ベッド行こ」
もちろん、嫌だなんて言うはずがない。促されるまま立ち上がれば、逃さないよとでも言うみたいに片手を繋がれてしまった。
高校卒業したばかりの男の子が一人暮らしをするには少々贅沢に感じるものの、ただのマンションの一室に手を繋いで移動するほどの距離なんてないだろうに。それでも、掴んだ手をキュッと握りしめて一歩ほど先を急ぐ、自分の目線よりもやや低い位置にある相手の、ふわふわな頭頂部をなんだか微笑ましい気持ちで眺めてしまう。
今、間違いなく相手に求められている実感が、嬉しかった。
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