「本気。って言ったら、信じてくれる?」
いやだからこれ、演技でしょ。ぎこちなくも首を横に振って見せれば、ふっと柔らかに笑われる。
「まぁ今はまだ信じてくれなくていいけど、そこまで嘘でも演技でもないっていうか、いつかは信じて貰うからね。ってのが答え」
「答え?」
「何を頑張るの、って聞いたでしょ」
「ああ……って、え、本気、で?」
「だから結構ちゃんと本気なんだってば」
「いやだからって、一生手放さないとかは、あんまり」
言って欲しくないというか、使われたくないなと思う。言葉遊びと思ってたって、心のどこかできっと期待はしてしまう。
「信じて裏切られたら、って考えちゃう?」
「そりゃ……」
「でも、フィクションの世界なら信じてもいい、みたいに思った、よね?」
「えっ?」
突然何かと思ったら、先ほどまで見ていた家庭教師と生徒の撮影時の話らしい。一生手放す気がない生徒の気持ちを信じたから、ここで感じる体にされてもいいって言ったんだよねと言われながら、お腹に手を当てられた。
「ぁっ……」
服も着てるし、お尻には何も入っていないし、あの日とは全く状況が違うのに、クッとお腹を圧迫されて、あの鈍い痛みを思い出す。じんわりとお腹の中が熱くて、体を変えられてしまう恐怖を感じながらも、それを受け入れてもいいと、確かにあの時は思っていた。
「俺とじゃなきゃ満足できない体になればいいのにって気持ちは、間違いなくあるんだよね。じゃなきゃ、そもそもあんな設定で書いてない。用意した台本、どれも似たりよったりの内容だったでしょ」
願望だだ漏れの妄想を形にしただけだからねと言って自嘲しながら、でもこんなヤバい願望抱えた男を受け入れてくれるはずがないと思っていたとも言う。
「生徒のこと好きになっていいのって聞かれた時は本当に驚いたし、その後の撮影でも、本気で驚かされたよ。これで交際お断りされたら、間違いなく、脅して関係迫ってたと思うくらいに、あの生徒を羨ましいって思ってる。現在進行系で」
だからさ、と続く相手の言葉を遮ることはしなかった。というよりも、出来なかった。
「フィクションだから信じられるんだとしても、現実世界でだって、信じてもらう努力なら、出来るよね」
「ず、るい……」
「そんなふうに言われたら信じたくなっちゃう?」
「ほんっと、ズルい」
そうだよとは言わずに、ズルいと繰り返せば、相手は楽しそうに笑い出す。間違いなく、そうだよって気持ちは伝わっている。
「嫌だって言ってるうちはしないから、いつか、俺の言葉が信じられたら、俺だけの体になるように、躾けさせてね。ついでに言っとくと、それを見せびらかしたい気持ちも、ある」
「見せびらかしたい?」
「編集して販売したい」
「まっ、ちょっ」
「まぁ販売までするかはともかくとして、記録は絶対残したい。というか、今後は残せそうなものは全部記録していきたいんだよね」
「えっと、性癖?」
思わず聞いてしまえば、あっさりそうだと肯定されてしまった。
「ハメ撮りしたいとか記録残したいとは言ったけど、勝手に流出させる気はないし、可愛いの撮れて見せびらかしたくなったら、その都度ちゃんと相談するし、売上の半分を渡すつもりもある。もちろん身バレも考慮する。他に何か、撮られることへの抵抗感とか気になる事があれば、ちゃんと納得して受け入れてもらえるまで、話し合ったり妥協点探したりするから、言って欲しい」
「熱心過ぎ。なんか、受け入れられないって言われても、諦める気全然なくない?」
さっき、受け入れられないと言われたら恋人になるのを諦めるかもしれない性癖だと、言っていた気がするんだけれど。
「諦めたくないくらいに、本気だからね。というよりも、ハメ撮りしたいって最初のハードルは越えられてるんだから、頻度とか記録したものをどうするかってのは、いくらでも話し合う余地があると思ってるだけだよ」
まさかここまで期待もたせておいて、やっぱり無理とか付き合えないとか恋人にはなれないとか、言わないよね。なんてことを縋るような目で言われて、そんなこと言う気はちっともないんだけれど、言わないよとは言えずに、やっぱり口からはズルいと溢れた。
<終>
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