いつか、恩返し34

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 最初にベッドへ行こうかと誘われた時、間違いなく、自分は相手を抱きたい意味で可愛いと口にしていた。相手だって、それをわかっていて、ベッドという単語を出したものだとばかり思っていた。
 しかし今現在、押し倒されたベッドの上で、楽しげな顔の相手にズボンと下着とを剥ぎ取られている。
「俺が抱く側、のつもりだったんだけど」
 本気で抵抗してはいないし、既に双方、今回の役割は決まったと思っているのだけれど、それでも、当初の予定と違うということだけは伝えて置きたくて口を開く。
「知ってる」
「どこで変わった?」
 会話の途中で、今日は抱く側をしたいと思うような何かがあったんだろう。そう思って聞いたのに。
「最初に誘った時からだよ。強いて言うなら、お前が、恩を返せって言ってでも、卒業後も恋人で居続けたいって言うつもりだったのか、って聞いた時から」
「つまり、強引に奪い取らずに叶ったのが嬉しくて?」
「それもあるけど、どっちかって言ったら、お前の中に残ってる俺への恩、いい加減返して貰おうかと思って」
 そんなものなくってもお前はもう俺から離れていったりしないだろうから、お互い長いことなんとなく背負い続けてた負い目だの恩だの精算して、卒業後は対等な、ただの従兄弟で友人で恋人な俺たちで過ごしたい。と言った相手の主張に頷くのは構わないのだけれど、ベッドの中で返す恩とは一体何だという疑問は残る。しかもこちらが抱かれる側でだ。
「普段の俺ならノーって言いそうなこと、恩を返せよって言ってやる気でいる?」
 一体どんな抱き方をする気だとこわごわ聞けば、お前がノーって言うようなプレイ思いつかないと返されて、確かにと思いながら思わず唸る。
 好奇心を刺激されながら、こういうのやってみないかと提案されたら、喜んで応じてしまうだろう自覚はあった。相手が提案してくるのであれば、安全性などはそれなりに保証されていると思っていい、という信頼も大きい。
「出来るかどうかは置いといて、抱き潰す、つもりで抱きたい」
「ああ、」
 わかる、と言いそうになって慌てて口を閉じた。どうしたって相手の体を気遣うから、あまりむちゃなセックスはしたことがない。むちゃなというか、長時間に及ぶプレイと言うか、何度も相手を一方的に果てさせるというか。それはどちらが抱く側でもだ。
 出来れば同時に果てたい、という気持ちは相変わらず持っていて、基本的には、お互いに一度ずつ果てたら一回終了で休憩を入れるし、だいたいはその一回で終わってしまう。二回目をやることがないわけではないが、その場合は立場を入れ替えて、って事が多かったように思う。つまり、どちらかが逆側もしたい、って思った時は二回目がある、という感じだった。
 連休だとか長期休暇中だとかに、部屋にこもってセックス漬け、みたいなことは経験があるけれど、あの時だって、充分な休憩を挟みながら、適度に立場を入れ替えながらで、もうしばらくセックスはいいって思うくらいにやりまくったのは事実でも、相手を抱き潰すような激しい行為は一切なかった。
「俺をお前の好きなように抱く、ってので、本当にお前への借りは全部チャラ?」
「そう」
「正直言えば、親から切られた俺の立場でお前に同棲申し込むってのも、またお前への借りが増えるなって感じなんだけど」
「あーもう、ホント律儀だなぁ。俺だってお前が一緒に住んでくれることで得られるもの大きいと思うから、それはもうお互い様ってことでいいんじゃないの。というかさ、さっき散々、俺が子供の頃とかお前が謝ってきた後の高校時代のこととか話して聞かせたのに、恩を返してってのに素直に応じようとしてんのも、割と驚いてるからね?」
「ん?」
 どういう意味だと彼の言葉を脳内で反芻しようとしたところで、呆れた様子の溜め息と共に、お前が返さなきゃならない恩なんてないって言ってんだと告げられた。

続きました→

 
 
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