彼女が欲しい幼馴染と恋人ごっこ(バレンタイン)

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 滑り止め含めて当然幾つか受ける入試の、最初の受験日前日に、早いけどバレンタインと言いながらキットカットを渡した。受験生ならキットカットの意味はわかるだろう。
 二月の頭だったから、バレンタインと言い切っても別にいいかと思っていたが、相手はありがとうと受け取った後、これってバレンタイン当日も期待していい流れだよねと笑ってみせた。ちょっとわざとらしい笑いに、内心舌打ちしたのを覚えている。
 バレンタインなんて行事をしてやる気がない事を、相手は瞬時に理解しただろう。まさかこれだけ? なんて反応だったら、当たり前だと返すつもりでいた。そこを当日も楽しみだと前座程度に扱われてしまったら、当日も何かしら用意しろと、暗に言われているも当然だ。
 ああ、やってやるよ。やりゃあいいんだろう。まんまとそういう気分にさせられた。
 長い付き合いだから、そう言われたら自分がどうするかを、相手はわかっていて言ったのだ。前の彼だったらあっさり不満を口に出していただろうから、最近の彼は自分相手にも結構頭を使って対応してきている。
 そんな所に脳みそ使ってないで受験に集中しろとも思うが、受験に集中した結果、全体的な頭の働きが良くなった可能性も捨てきれない。どっちにしろ厄介なことには変わりがないけれど。
 
 バレンタイン当日といえば、彼の本命校の受験日だ。まだ恋人ごっこなんてものを始める前、バレンタインに試験とか最悪だとぼやいていたのを覚えている。
 受験生なのにバレンタインなんて入試真っ盛りのイベントを気にするなんて余裕だなと思ったが、でもまだ入試の実感がないだけかもとも思った。あの時は確か、もし本気でお前に告白する気がある女の子がいたら、本命校の受験が終わった開放感の中で本命チョコ貰えるってことだぞと言ったような気がする。バレンタイン当日が本命校の受験日で本当に良かったと、彼があっさり意見を翻したのは言うまでもない。
 彼に本気の女の子が、試験後に本命チョコ持参で彼の元を訪れる可能性がどれくらいあるかはまったくもって不明だが、そんなことを言ってしまった手前、試験後に渡すのはなんだか色々躊躇われる。もしかしたら本当に女の子が訪れるかもしれないし、ごっこ遊びとはいえ恋人として明らかに義理とは言えないレベルの品を用意しなければならないなら、渡すのは朝しかないと思った。
 だって彼に渡すのは、義理とは言えないが当然本命とも言い難い、かなり中途半端なチョコなのだ。
 まぁ近所だし、彼が家を出るだろう時間だって簡単に予測はつく。
 だからバレンタインの朝、家の前を通る彼を捕まえて、かなり小さな箱を渡した。
「え、これって」
「お望み通り、用意してやったんだから持ってけ。これくらい小さきゃ、鞄にも入るだろ」
 どう考えたって質より量派だろう相手に、それの価値がわかるとは思えなかったが、キットカットよりは本気度が見えれば満足するだろう。
「じゃ、頑張ってこい。引き止めてゴメンな」
 マジマジと箱を見つめていた相手は、ハッと顔を上げると、満面の笑みで任せろと言った。
「まさか本命受験日の朝に応援見送りして貰えるなんて思ったなかった。すげー嬉しい。ありがとう。頑張ってくる」
 今にもスキップを始めそうなくらい喜びを溢れさせながら去っていく背中に、そこじゃないだろうという内心のツッコミは当然届かない。確かに結果的には応援見送りだったかもしれないが、こちらにその意図はまるでなかった。むしろ言われて初めて気付いたレベルで驚いた。
「まさかチョコ渡されたって気づいてないとか……?」
 ありえると思って頭を抱えたが、事実そうだった事を知らされたのは、それから少し後のことだった。気になって箱を開けたらしい相手からラインでメッセージが届いたからだ。
 チョコならチョコって言えよ!という短い文面の後、感謝や歓喜や愛情を示すスタンプを連続で送りつけてくる。
 大量のスタンプで流れていく画面を見ながら小さなため息を一つ吐き出して、こんなことやってる暇があるなら単語帳の一つでもめくっとけと、怒りスタンプとともに返信しておいた。

続きました→

 
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