あの日の自分にもう一度6

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 みるからにイケメンの部類ではなくても、間違いなくブサイクの部類には入らないフツメンで、背は高いし優しいしノリもいいし器用だ。女の子にメイクの腕を披露する機会はないかもしれないけど、それ以外でもこの器用さは色々と活用されるだろう。
「どうした?」
「龍則って、モテそうだよな」
「え、何だよ突然」
「彼女作ろうとか思わねぇの? てか実は彼女いたりする?」
「もし彼女いたら、この状況はかなりの誤解を生みそうでヤバいな」
「てことはやっぱ彼女はいないんだ」
「いないな。あとまぁ、今の所そんな欲しいとも思ってないなぁ」
 やりたい事もやらなきゃいけない事も色々あって、デートとかにまで時間が割けない。というのが理由らしい。
「俺の女装にはノリノリで付き合うのに?」
「だって女の子とデートするより、紘汰の女装手伝う方が絶対面白いだろ」
 断言されてしまったが、そこからしてちょっと理解不能だ。
「なんでそんな面白がれるのか、イマイチわかんないんだよな。だって、どんだけ可愛くメイクしたって、俺相手じゃ付き合えもしないんだぞ?」
「んー、服とウィッグの力がでかいとはいえ、目の前で、しかも俺自身の手で、男から女になってくの、マジに面白いけどな」
 メイクでビフォーアフターすげー変わる動画見たことないか、と言われれば、確かに幾つか思い浮かぶ物はある。
「あれに感動するのと似てる。まぁ、今はそこまで大きな変化じゃないけど、腕磨いたら幾つもの顔作れる様になったりするのかも?」
「え、龍則が目指してんの、そこ!? メイク動画撮りたいとか言われても無理だかんな」
「言わねぇよ。絶対内緒にするって言ったろ。まぁ俺も、秘密にしとくのには賛成だしな」
「そうなの?」
「そりゃあ、だって、なぁ」
「なぁ?」
 何かを企んでいる意味深な笑みを見せられて首をかしげた。
「紘汰とって言うのはさすがに俺も抵抗あるけど、ハルちゃんとは付き合えるかも知れないし? それを他の男に邪魔されたくはないだろ?」
「ん?」
 何を言われているかわからなくて、ますます首が倒れそうだ。
「ハルちゃんて?」
 とりあえずは聞き慣れない名前について聞いてみる。
「春野紘汰のハル、に、女の子だからちゃん付けた」
「あーなるほど。てかズルい!!」
「は? ズルいってなんだ?」
「どんなに可愛くなれたって、俺は俺と付き合えないのに! って、あ、今のナシ」
 余計なことを言ってしまったと気づいたけれど、今のナシ、なんて言葉でなかったことには当然ならない。
「何、自分と付き合いたいの? もしかして紘汰が女装すんのって、自分の女装姿がタイプだったりするから?」
「いやホント、聞かなかったことにして。てかナルシストっぽくてキモいのは自覚してるから。わかってるから」
「いや別にいいんじゃね?」
「いいって何が?」
「女装した自分が好みの女だって。てか好きな女のイメージで服とかウィッグとか選んだら、そうなってもおかしくないだろ。俺がそれやっても女装そのものがキモくなってダメそうだけど、紘汰は女装似合ってんだしさ」
 ケロッと当たり前みたいに言われると、そういうものかと思ってしまいそうになる。確かにナルシストでキモいと肯定されて笑われるよりずっといいのに、なんとなく困った気持ちになるのはなんでだろう。
 それに、こんなに優しくていい男なのに、彼女要らないとか言ってんのも勿体無いよな。と思ったところで、先程のハルちゃんとは付き合えるかも、という言葉を思い出す。思い出したら、ドクンと心臓が大きく跳ねた。

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あの日の自分にもう一度5

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「可愛いんだから、女装ハマったってので良くね?」
「良くねぇよ!」
「えー、勿体ねぇな。てか、紘汰だってわかんなきゃ写真残していいわけ?」
「そりゃまぁ。でも無理だろ。多少メイク変わったところで、服が前と一緒だもん」
「服もだけど、ウィッグもだな。髪色と髪型変わったら、かなり印象変わるし。もっと髪色薄くして、ロングでもっとフワフワっつーかナミナミっつーか、あー、ウェーブか。ウェーブ掛かってるのとかも、合いそう」
 そのストレートボブも悪くないけど、などと言い募る龍則を、思わずマジマジと見つめてしまった。何を言っているんだこいつは。
「何の話してんの?」
「次は服とウィッグ変えようぜって話?」
「次?」
「次。またするだろ?」
「いやそれは……」
 しないとは言い切れないが、だからといって次を確定されても困る。
「紘汰が女装ハマッたの、他のやつらに知られたくないのはわかったから、絶対内緒にする。だから次も俺呼べよ。てか、俺を紘汰専属のメイク係に任命してくれ」
 確かに龍則のメイクの腕は捨てがたい。しかも既に今日、こうして付き合わせてしまったのだから、秘密を共有してくれるというなら断る理由がない。
 でも、と躊躇ってしまうのは、明らかにノリノリの龍則をこのまま引き込んだら、確実に次が来てしまうし、引き返せなくなりそうだからだ。女装ハマったと割り切れるような性格ではないし、ズルズルと深みに嵌っていくのは怖い。なのに。
「服とかウィッグとか、俺も出資するしさ。一人で楽しむより、絶対お得だぞ」
 紘汰の躊躇いを感じてか、更に追加された提案はあまりに魅力的だった。これを魅力的な提案と思う時点で、結局の所、紘汰だって次を望んでいるんだろう。
「わかった。でもホント、絶対、他のやつらには内緒だからな」
「おう。任せろ」
 じゃあ服とウィッグ選ぼうと言って、龍則は手の中の携帯を弄りだす。
「あ、待って。どうせなら、飲みながら選ぼう」
「さっき買ってきた酒?」
「そう。お前も飲んでくだろ?」
「まぁ、飲み会参加のつもりで来てるしな。けど、酔って服やら選ぶのは危険じゃね?」
 気づいたら際どい下着とか買ってるかも、などと笑われたが笑い事じゃない。それは充分ありえる展開な気がする。
「じゃあ酒は後回しで。ま、買ってきた荷物テーブルに置きっぱだし、一旦冷蔵庫入れた方がいいだろうしな。でもそれはそれとして何か飲みたい。喉乾いた」
「だな」
 同意して頷く龍則を促してロフトから降りた後、こたつテーブルの上の荷物を片して、取り敢えずで麦茶を入れたグラスを二つ用意した。それの片方を手に、先に腰を下ろした龍則が、紘汰を待ちながら弄り続けていたのだろう携帯を横から覗き込めば、驚いた様子で軽く身を引かれてしまったからこっちも驚く。というか若干ショックだ。けれど。
「あ、悪い。てか今の格好でいきなり寄られると心臓に悪い」
「あー、なるほど。わかる」
 逆の立場なら、もっと盛大に反応していたかも知れない。そう思うと、女の子に急に寄られてもちょっと身を引く程度で済ます龍則は女子慣れしてる感じがする。まぁ正確には、女装しただけの男友達だけど。でもあの咄嗟にって感じから、本当に女の子が身を寄せたとしても、そう違った反応はしないんだろう。
 学部的に男子が多いのもあって、普段から男とばかりつるんでいるし、彼女の話を聞いたこともなかったけれど、もしかしなくても結構モテてたりするんだろうか。というかモテそうだよな、と思う。

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あの日の自分にもう一度4

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 後はそれだけだと言うなら、もう目は閉じなくてもいいだろうか。そう思ったのに、頬の赤味を残した龍則の真剣な顔が近づいてくるのに耐えられなくて、結局瞼を落としてしまう。直視できないと思ってしまった事実に、また少し、心臓が鼓動を早くしたようだった。
「もちょっと口解けよ。力みすぎ」
 お前のせいだろと言ってやりたいが、唇に押し当てられた口紅のせいで言葉が出せない。喋ったら、唇以外の場所に口紅が付いてしまいそうで怖い。結果、指摘された口だけは軽く開き気味にしたものの、そこ以外は緊張でガチガチになった。どう考えても意識しすぎだ。
「はい、終わり」
 龍則の気配が顔の前からしっかり遠ざかってから、ようやっと目を開ける。ついさっきまで頬を赤くしていた龍則は、今はもう平常通りで、しかも随分と満足げだ。これは期待できると、今度こそ鏡の前に移動しようと立ち上がる。
 しかし、姿見付きのハンガーラックへ向かって踏み出したところで、よろけてしまった。きっとずっと正座していたせいだ。しびれが酷いってことはなかったから、油断していた。
 でもちょっとよろけただけで、転びそうだったってわけではないんだけど。なのに。
「おいっ!」
「ぎゃっ、うわっ」
 咄嗟に伸ばされたのだろう龍則の腕に驚いてしまって、悲鳴とともにその腕から逃れようとしたのがいけない。ますますバランスを崩したせいで、今度こそ転びそうになった。というか尻もちをつきそうになった。
 でもそうならなかったのは、それより早く、龍則がしっかりと抱きとめてくれたからだ。つまり、結局その腕に捕まってしまった。
「あっぶねぇ。大丈夫か?」
 やっぱ足しびれてんじゃねぇかと心配げに掛けられた声に、やっぱり、お前のせいだとは言えない。
「あ、りが、と。も、だいじょぶ、だから」
 さっきまで以上にドキドキしているのは、転びかけて焦ったせいなのか、龍則に抱きとめられているからなのか。どうにか口に出したお礼も、とぎれとぎれでぎこちないものになってしまった。
「気をつけろよ、マジで」
「ん、わかってる、から」
 多分に呆れを含んではいるが、本気で心配されているのもわかるから、妙に意識してしまっていることが申し訳ない。早く意識を別のものに向けないとと思いながら、緩んだ腕の中から抜け出してハンガーラックへと急いだ。
「お、おお〜」
 鏡の中には、携帯の中に残るあの女の子が映っている。楽しげに笑ったあの子も可愛かったが、真顔で見つめあう眼の前の女の子もしみじみと可愛い。
 前回よりも可愛くしてやるの言葉は、どうやら事実だったみたいだ。前回よりも全体的に薄い色づきではあるが、それが今の格好に合っている。前よりも落ち着いた雰囲気になってかなりいい。
 もっと言うなら、ますます好みに近くなった。まぁ、どれだけ好みに近づいたところで、この子と付き合えるわけではないけれど。
「どーよ」
「すっげいい」
「だろ」
 背後から掛かる声は自慢げだ。鏡に映り込んだ龍則はその声に違わずドヤ顔をしているようだけど、でもそれはあまり視界に入っていなかった。鏡の中の女の子にずっと目が釘付けなので。
「なぁちょっとこっち向けよ。写真撮りたい」
「あー……写真は……」
「ダメなの?」
「だって前回の写真、結構あちこち回ったろ。ってことは、これも俺だって、わかるヤツはわかるってことだろ。素面で女装してる写真なんて残すの怖いって」
 せっかくこんなに可愛く仕上がっているのだから、紘汰自身、写真を撮りたい気持ちはある。でもそんな証拠を残すのはあまりにリスクが高くて躊躇ってしまう。

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あの日の自分にもう一度3

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「いやだって、どうしていいかわかんなくて。この格好であぐらは無しだろ。で、アヒル座りできないし、横座りより正座のが長時間体をまっすぐ保てそうで」
「まぁそれは……けど、足痺れんだろ?」
「出来ればそうなる前に終わって欲しい」
「んじゃキツくなったら声かけろよ」
「あ、じゃあ、そーする」
 途中休憩可の提案にありがたいと思いながら頷けば、化粧品類を纏めて突っ込んだ籠を手に、正面に腰を下ろしてくる。
 龍則は胡座なのに視線があまり変わらないのは身長差があるからか。なんてことをぼんやりと思いながら相手の手元を見つめていれば、迷いなく取り出したものの中身をスポンジの上に乗せていく。
「そういや、なんでそんな慣れてんの?」
「んー、慣れてはない。この前紘汰にやったのが初めてだし」
「え? とてもそうは見えないんだけど」
「姉貴居るからだろ。実家いた頃に過程というか工程見る機会は結構あったし、そのせいじゃね?」
「へぇ」
「ほら、塗るから目ぇ閉じて」
 龍則の手に摘まれたスポンジが眼前に迫って、慌てて目蓋を下ろせば、すぐに頬の上にぺとりとした感触が押し付けられる。二度目ではあるが、なんせあの日はしこたま飲んでいた酔っ払いだったので、正直、化粧をされていた時間の記憶はあまりない。
 黙ってジッと待つだけだと暇を持て余して、ついつい相手の気配を追ってしまう。そして、顔を弄られていない時は、薄らと目を開けて相手の様子を探ってしまう。
 男友達の顔に化粧を施す、なんていう、どちらかというとお笑い要素が強い真似をしているはずなのに、たまに盗み見る龍則は真剣そのものの顔をしている。目を閉じている間、つまりは顔を弄られている時、その真剣な目は、間違いなくジッと自分を見つめている。
 それに気付いてしまったら、なんだか急に恥ずかしい。気持ちがソワソワして、でも体も顔も動かしちゃいけないと思うと、ますます気が逸ってしまう。
 冷やかす外野が居ないせいで、やたら静かなのもいけない。体の中でドキドキと脈打つ音がする。それが相手にも聞こえてしまうんじゃないかと不安になる。
「どした?」
 声を掛けられると思っていなくて、ビクッと大きく肩を揺らしてしまった。やはりこの心音が聞こえてしまったかと焦ったが、どうやら龍則は足が痺れてきたと思ったらしい。
「足、疲れたなら休憩するか?」
「あ、いや、そういうわけじゃ、ない」
「ふーん……?」
「な、なんだよ」
 けっこうな至近距離でジロジロと様子を探られてますます焦る。そんな中、龍則の真剣だった顔がふにゃりと緩んでいったかと思うと、パッと口元を押さえて顔を横に背けてしまう。
 その横顔から、龍則に何が起きているのかを、こちらも察した。耳と頬とが赤くなっているからだ。
 お前まで照れるなよと出掛けた言葉をグッと飲み込む。そんな事を言って、自ら羞恥していた事実を告げる必要はない。まぁ、こっちの羞恥に気付かれたからこその、反応なんだとは思うけれど。
 しかし咄嗟の言葉を飲んでしまった結果、照れて顔を背けている龍則相手に、どうすれば良いのかわからなくなった。掛ける言葉が見つからない。
 ただ、真剣に見つめてくる龍則の視線から逃れられたおかげで、だんだんと気持ちが落ち着いては来ていた。化粧してくれる手も止まっているので、今度は逆に、紘汰の方からジッと相手を見つめてしまう。
「そんな目で見んなって」
 その視線に気づいたようで、龍則がさらに顔を背けながらそんな事を言う。
「そんな目ってなんだよ」
「ぼーっとして、なんか俺に、見惚れてる、みたいな……って、あーくそっ、今のナシ。これは紘汰。男友達の春野紘汰」
 後半はブツブツと、まるで自分自身に言い聞かせてでも居るようなその言葉にピンときた。
「あ、お前、もしかして俺にトキメイた?」
「うっせ。てかどう考えても、俺のメイクが上手いせいだから。それだけだから」
「へぇ。てことは、もう結構ちゃんと女の子になってんの?」
 鏡が見たいと立ち上がりかけたら、そっぽを向いていた龍則が慌てたように振り向いて、それだけではなく肩を押さえて立ち上がるのを阻止してくる。
「なんだよ。鏡見ちゃダメなの?」
「いやもう後ちょっとだから。どうせなら完成してから見ろって」
「手ぇ止めたの龍則じゃん」
 その指摘に一瞬ウッと言葉に詰まったものの、龍則はすぐ終わらせるからと言って口紅を手にとった。

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メルフォお返事

応援コメントを送ってくださったMさま、早速「あの日の自分にもう一度」の連載版を読んでくださってありがとうございます(´∀`*)

2千文字だった話に1万文字ほど足した分、メイク中の二人の様子や、メイク後に次回どうするかを話し合う二人の会話が増えているので、その辺を楽しんでもらえたら嬉しいなと思っていますし、メイク中の視点の主がどんな気持ちでいたかはバッチリ書いてあります!
すでに書き上がっているので言えることですが、メイク担当の子はご指摘どおり、今後は色々と似合いそうな衣装やらを揃えてくれそうです。

キャラに名前が付いたことで、キャラの認識具合やらイメージやらがしやすくなったのお言葉もありがとうございます。キャラに親しみを持ってもらえて嬉しいです。
服装までは細かく描写していませんが、今回使ったウイッグと、次回メイク係の子が用意してくるだろうウィッグについては多少描写してあるので、ぜひ、イメージ膨らませて視点の主の可愛い姿を想像してやってください〜

 
 
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あの日の自分にもう一度2

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 あれは酔った勢いのお遊びだ。皆でギャイギャイ騒ぎながらやるから許されるのであって、ドン引きされた上で仲間内に言いふらされたら、自分の今後の立場がどうなるかはわからない。
 でも化粧は多分重要だ。でもって絶対、紘汰よりも龍則の方が腕がいい。
「行く。参加する」
 勢いよく参加表明した相手に、思わずフフッと笑ってしまう。
「龍則は優しいなぁ」
「いやだって、何か危険があるかも知れないとこに、紘汰だけ参加させて知らんぷりはないだろ」
「まぁ、龍則が心配するような危険ではないんだけどな」
 肝心な部分をのらりくらりと躱しながら、紘汰は龍則を自宅へと誘導する。自宅も飲み会会場になったことが有るので、途中で気づいたようではあるが、それを確認されることはなかった。
「はい、上がって」
「おじゃましま……って、なぁ、ほんとに飲み会? 何時から? まだ誰も来てないの?」
 玄関先に靴が溢れていないのと、静かすぎる室内に、追加買い出しだと思っていただろう龍則がまたしても不審げな声を出す。
「あー、うん、飲み会、ではない」
「は?」
「一人飲みのつもりだった」
「この量を?」
「まぁ全部飲むかはともかくとして、理性ぶっちぎれるほど酔いたくてさ」
「何があったんだよ。え、俺は紘汰の見張り役かなんかで呼ばれたの?」
 救急車呼ぶのとかやだよと言うので、さすがにそこまで酔う気はないよと否定する。
「龍則に頼みたいのはさぁ……」
 買ってきた荷物を取り敢えずこたつテーブルの上において、こっちこっちと龍則をロフトスペースに招き入れた。そこは一応寝室という扱いの場所で、ベッドの上には洋服や化粧品類が乱雑に広げられたままだ。
「これって」
「そう。あの日のやつ」
「え、で、これが何?」
「化粧、して欲しいんだよ。龍則に。この前みたいに」
「それは、まぁ別にいいけど」
「あ、いいんだ」
 引かれるかと思ったと言って安堵の息を吐けば、いやだって俺もかなり楽しんだしと返されて、ますます安心した。
「え、で、つまり、もっかい理性ぶっちぎれるほど酔って女装するって言ってんの?」
「そう」
「なんで?」
「なんで、って、いやだから、俺も楽しかったから……」
「じゃなくて、酔う必要ってあんの? むしろ酒なんか飲まないほうが出来上がりのレベル、絶対上がるだろ?」
「酔ってもないのに女装とかハードル高ぇよ」
「えー、あんだけ証拠写真残して、今更だって」
 あの写真見たらもっかいやりたい気持ちもわかるだとか、ちゃんと可愛くなれんのわかってんだからハードルなんてないだろだとかを言い募られて、女装すんなら飲む前にやろうぜと誘われる。ひとつひとつの言葉に、気持ちがぐらりぐらりと揺れているのは、どうやら龍則もお見通しだ。
「前回よりも絶対に可愛くしてやるから」
 そして結局、力強く告げられたその言葉が決め手となって、促されるまま服を着替えてしまった。
「んじゃ始めるか。取り敢えず座って」
「あー……」
 ロフトスペースは天井も低いし椅子などは持ち込んでいない。そうするとベッドに腰掛けるか、ラグに腰を下ろすかだが、ベッドも高さの低いフレームを使っているから、中途半端に腰を曲げて化粧をしてもらう事になりそうだ。しかしさすがにスカートを履いた状態で胡座をかくのはどうだろう。
 女の子の座り方で真っ先に思い浮かぶのはぺたん座りだのアヒル座りだのと言われる、両足の間にお尻を落とす座り方だけれど、あれは股関節やらが痛くて無理だったのが過去の経験からわかっている。でも横座りだと体をまっすぐに保つのが大変そうだ。
「え、正座?」
 結果選んだのは正座だったのだが、その選択に、少なからず驚かれてしまったようだ。

続きました→

 
 
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