親父のものだと思ってた4

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 お前にも同じかそれ以上感謝してるよと言った相手は、子供からの純粋な信頼にはかなり救われてきたし、面倒な子供を押し付けられたなんて考えたことがないよと柔らかに笑う。
「言ったよな。息子を誑かした裏切り者って罵られたり憎まれたりが怖いって。そもそも俺がただの家政夫で、お前になんの執着もなかったら、お前に告白されるようなことになってなかったと思ってる」
 長い時間かけて俺のものになるように仕組んでた、って言ったらどうする?
 なんて少し意地悪に笑われたけれど、めっちゃ俺のこと好きじゃん。両想いじゃん。やったね。って笑い返してやれば、ルームシェア撤回って言い出すかと思ったと、あからさまにホッとされた。そんなこと言うわけない。
 自分たちが両想いだろうことはわかっていたけれど、思っていたよりずっと、彼の想いは自分に向いているらしい。
 俺のものになるように仕組んでた、なんて言われたら、嬉しい以外の感情なんてわかないのに。むしろ、その無言のメッセージをしっかりと受け取って、ちゃんと彼の思惑通りに彼に手を伸ばした自分を褒めてやりたいくらいだった。
 ますます浮かれる要素しかない同棲生活が楽しみで仕方がない。
 一緒に生活するようになったら、あんなことやこんなことも解禁されて、恋人らしいイチャイチャだって出来るようになるはずだ。
 そんな期待を膨らませて引っ越しを終えた夜、一足先に入居していた相手が作ってくれた夕飯はオムライスとハンバーグだった。
 自分にとってこの2つはやっぱり特別なメニューで、誕生日やらクリスマスやらの季節イベントや、入学やら卒業やら何かに合格しただとかのお祝いメニューには、だいたいこの2つが用意されている。こちらからねだることなく用意してくれたってことは、この同棲開始が彼にとっても特別な日として認識されているのだとわかって嬉しい。
「美味しそう。めっちゃ嬉しい」
 やっと一緒に暮らせる記念日だもんなと、わざわざ口に出してお礼を言えば、相手は照れた様子を見せながらもそうだよと肯定してくれた。
 可愛いなぁという気持ちのまま伸ばした手は、逃げられることなく相手の体を抱き寄せる。ますます照れたようで、赤くなった顔を隠すみたいに少し俯きながらも身を寄せてくれた相手を暫し抱きしめながら、内心ガッツポーズを決めていた。
 だってこんな風に相手を抱きしめたのは初めてだ。
 彼が食事を作りに来てくれるようになった初期の小学生時代は、抱きついたことも抱き返されたこともあったけれど、中学にあがってからはそういった甘え方はしなくなった。年齢が上がれば実親にだってそんな甘え方をしなくなるものだろうけれど、加えて、思春期を迎えて父親の恋人なのだと認識したら軽々しく抱きつけるわけがなかった。
 なので、成長したこの体で、彼を抱きしめたことなんてなかったのだ。
 彼のほうが数センチ低いと思うが、自分たちの背はそう変わらない。学生時代に彼女がいたことはあるのだけれど、小柄な相手だったから、自分とそう変わらない体格の相手を、愛しい気持ちで抱きしめるのも初めてだった。
「キスしていい?」
「もうしてる」
 背が変わらないので、密着していれば相手の顔が自分の顔の横に来る。相手側に顔を向けて頬に唇を軽く押し当てながら問えば、許可なく触れたことに対する不満らしきものが滲んだ声が返った。
「口にしたい」
「そ、れは……」
「だめ?」
「……じゃない、けど」
「けど?」
「ご飯の味がわからなくなりそうで今はちょっと……」
「なにそれ。キスされたら俺を意識しすぎてってこと? それでご飯の味がわかんなくなんの?」
 理由が可愛すぎないか。年齢差があるのと相手も男なのだから、あまり可愛いとか言わないほうが良いんだろうと思っているけど、胸のうちに湧き上がってくる感情を抑えることは出来なかった。

続きました→

 
 
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親父のものだと思ってた3

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 お互い実家を出るのは初めてなので、家の外で彼と会う機会がめちゃくちゃ増えている。
 最初は不動産会社巡りで何日も費やしたし、今日だって契約を済ませた後、最低限買い揃えなければならない家電類や家具類を選びに出かけていた。
 口に出しはしないが、デートだと浮かれる気持ちは当然のこと、何より新しく始まる2人の生活が楽しみで仕方がない気持ちは強い。けれど今日は父親から聞いた話を引きずっているのか、いつもより浮かない顔をしていたらしい。
「親父さんと何かあった?」
 昼ごはんを食べる目的で入った店で注文を済ませた後、店員の姿が見えなくなると同時に声を潜めた彼に声をかけられる。
「え?」
「言ったんでしょ、俺達のこと」
 卒業したら家を出るという話はしていたし、彼とルームシェアをするというのも事前に話して許可を貰っていたが、彼と恋人という関係になって同棲するのだと話したのは保証人欄へのサインを頼んだ先日が初めてだった。
 父親に正直に伝えると言った時、彼は最初、心の準備が出来るまでもうちょっと待ってと言った。ニート相手に色々と便宜を図ってくれた恩人に、息子を誑かした裏切り者として、罵られたり憎まれたりする覚悟がまだ出来ていないんだそうだ。
 恋人になってとお願いしたのはこっちなのに。でも、年の差とか子供の世話を頼まれていた立場とかを考えてよと言われたら、そんなことないとそう強くは言えない。誑かされたとは思ってないが、子供の頃からがっつり胃を掴まれているのは事実だし。
 ただ、それだけならまだしも、そもそも恋人になることもルームシェアも受け入れたけれど、ルームシェアはともかく恋人関係が上手くいくかはわからない。などと言われては黙っていられなかった。
 だって逃がす気なんてないのだ。ルームシェアを持ちかけたのも、父親に恋人になったことを正直に話したいのも、簡単には別れられないように、という気持ちが働いているのを自覚している。
 親父のことは絶対に説得するし、親父だろうと恋人傷つけさせるよう事は言わせないからと言い切って、強行した。
「ああ、うん。同棲する話はあっさり受け入れてもらった」
「え?」
「親父、こんな未来も予想済みだったってよ」
「は?」
「こんな未来、っつうか、俺があなたから離れられない未来」
 幼い自分は彼の料理だけでなく彼そのものにも執着を見せたらしいから、彼を関わらせることを躊躇う気持ちはあったらしい。けれど食事をとれなくなった子供のケアを第一にと考えて、彼を家政夫として勧誘してくれたらしい。
「ねぇ、うちの親の離婚事情、知ってたよね?」
「それは、まぁ……」
「俺が可愛そうな子供だから、仕方なく付き合ってくれてる、とか言わないよな?」
「は?」
「親父がさ、家庭の事情にあなたを巻き込んだ結果、息子を押し付ける形になってないか、みたいな心配してて。いやまぁ俺も、あんまり記憶ないけど話を聞いた限りでは確かに母親から虐待されて食事が出来なくなった可愛そうな子供だったみたいだし、そんな面倒な子供の相手をよくしてくれたと思うけど。でもさ、俺、記憶曖昧なせいか自分が可愛そうな子供だと思ったこと無いし。母親代わりの男性が家に出入りしてて、その男性と父親がそういう関係で一緒にいると思ってたから、たしかに普通の家庭とは言い難いかもだけど、それなりに真っ直ぐ普通に育ってきたと思ってて。親父とそんな関係じゃないって知ったからこうなっただけで、俺、ちゃんと親離れっていうかあなたからも離れられるつもりだったし、その、あなたが迷惑するかもしれない面倒な息子、という立場ではないと思ってるというか、思いたいんだけど」
 だらだらと言い募るのを唖然とした顔で見つめていた彼は、こちらが口を閉ざして相手を窺うと同時に、小さく吹き出したようだった。

続きました→

 
 
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親父のものだと思ってた2

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 こちらからの付き合ってほしいという訴えにはめちゃくちゃ嬉しそうにしたくせに、結論から言えば恋人にはなれなかった。といっても、今はまだ、と言われたので望みがないわけではない。
 散々お世話になった相手の息子に何のけじめもないまま手を出せない、というのが一番大きな理由らしいが、そもそもこの家の中での彼の立場はずっとお母さん代わりみたいなものだったから、この家の中で恋人っぽい振る舞いを求められるのはあまりにいたたまれないんだそうだ。
 じゃあ家の外ならいいんじゃないの、というわけで誘ったデートには来てくれたけれど、男同士でイチャイチャできるそうな場所というのは限られているし、相手もあからさまに回避してくるので、どうしたって少し年の離れた友人と遊び歩いただけって感じになってしまう。映画館の暗闇で手を握れたのが唯一といってもいいくらいのそれっぽい接触だったけれど、それだって集中できないからと2度目はなかった。こちらから重ねた手に、指を絡めて握り返してきたくせにだ。
 間違いなく脈はあるが、端々に相手の負い目らしいものが見えていたし、強引に口説き落としに行っても多分失敗すると思って、これは長期戦だと諦めるのは早かった。
 代わりに、就職活動を目一杯頑張った。父親の再婚云々関係なく、卒業と同時に家を出てやるつもりだったし、ダメじゃないよと言った彼を可能な限り雇うつもり満々だったからだ。
 彼の方も、馴染めそうなバイト先探しを頑張っていたようで、こちらが卒業する頃にはとある店舗で1年以上を過ごしていたし、家に来る頻度も週4くらいだったのが週2と半分に減っている。
 まぁこっちだってもう手のかかる子供ではなくなっているのだし、未だに週2とは言え通って、作りおきの食事やらを用意し細々した家事をしてくれるのは、彼と会える時間が確実にあるという点を含めてとても有り難かった。
 そんなこんなで、多分両思いのまま宙ぶらりんの関係を数年続け、卒業を控えた2月の終わり頃にやっと交際がスタートした。卒業してからと言われなかったのは、卒業後にルームシェアをしないかと持ちかけたからだ。
 彼を雇う気満々だったけれど、一人暮らしのアパートで家主不在時に別の男が出入りするより、一緒に住んで相手の家事負担が多くなるだろう分をこちらが多めに払う方が、どう考えたってメリットが多い。
 父親には、ルームシェアという名の同棲であることを事前に伝えたが、特に反対されることはなかった。驚く様子もなくあっさりわかったと言って保証人の欄にサインをしてくれたので、むしろこちらが戸惑ったのを覚えている。
 その時、父親にどんな顔を見せていたのかわからないが、少し申し訳無さそうな顔になった父親に、最初からこうなるだろう可能性があることも覚悟して彼を家政夫として勧誘したのだという話を聞いて、驚いたなんてもんじゃない。ただ、聞いた事情はそれ以上にあれこれと驚きの連続だった。
 両親の離婚の詳細については殆ど知らずに来たが、離婚原因に自分と彼が絡んでいたことも、その時に初めて知らされた。どうやら母は家事がかなり苦手な人で、特に料理は酷かったらしい。
 子供の預かり先がみつからず親戚の家を頼った際、彼の料理を食べさせて貰った自分が、母親にも同じものを作って欲しいとねだったのが彼女を追い詰めたようで、父が気づいた時にはかなり酷い状態だったそうだ。主に、こちらの食事事情が。
 食事を与えないこともあれば、故意にあれこれと調味料を入れまくってとても食べれるような味じゃないものを無理やり食べさせたりしたようだが、こちらにそんな記憶は残っていない。
 離婚当時の記憶が曖昧なことは父親も知っていたが、原因がそれだろうこともわかっていて、よほど辛かったのだろうからとずっと事実を伝えられずにいたらしい。
 食事という行為に怯える息子に、父がどうにかしたいとあれこれ試した中で、反応したのが彼の料理だったそうだ。嫌がる母親に何度も同じものを作ってとねだったくらい、もう一度食べたかったオムライスとハンバーグを貪り食って、辛かった記憶を綺麗サッパリどこかへ投げ捨てたのだから、彼の存在はまさに救世主といえそうだ。

続きました→

再開1本目からタイトルに「2」がついてますが、前回の更新期間に続きをとコメントを頂いていたので、とりあえず彼らが恋人として初Hを済ませるくらいまでは書きたいなと思っています。

 
 
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Mさんへ(メルフォお返事)

メッセージありがとうございました。
元々は軽く読める短い話を量産していくつもりで立ち上げたブログなので、ちょっと初心に返って今回は意識的に短い話を書こうと頑張っていたのですが、短な話も楽しんで貰えてよかったです。

「親父のものだと思ってた」は更新時にも二人の続きを読みたい的なコメントを頂いていたので、次の更新期間にはこの二人のその後をもうちょっと書けたらいいなと思っています。
たしかにこの二人、双方付き合ったら自分が抱く側って思ってそうな気配があるんですよね。
視点の主は相手が父親に抱かれる側だと思っていましたし、相手側も視点の主を小学生の頃から慕ってくれてた子扱い(自分が主導権)だと思いますし。
多分視点の主が攻め、と今は思っていますが、書いてみたら逆だったりリバになったりという可能性も大いにあるので、私自身、彼らがどんな風に今後の関係を作っていくかを楽しみたいと思っています。

「ホラー鑑賞会」は言われてみれば確かに、あのお題でなぜホラー映画でムラムラするなんて設定が採用されたのか謎ではありますね。
薄暗い部屋で二人きり、というお題にただただエロいことしてるよりは何か別のことをしてたほうがいいな、という意識が働き鑑賞会となって、夏で暑かったからホラー見るか、みたいになったのかも知れません。笑。
あとは色んな性癖の人いるから、ホラー見てムラムラする人だってきっといるだろ、という安易な発想ですね。
あれ、恋のお題だったんですけど、すっかりエロお題と誤解していたというのも影響してると思います。
エロお題と思い込んでなかったら、熱におかされて吐きだしたもの=体調不良で嘔吐、とかのイメージをしたかも知れません。

私もホラーはあまり得意ではなくて、特に人を驚かすための演出とおどろおどろしい音が苦手です。なので、ホラーよりもお化け屋敷がめちゃくちゃ苦手なんですよね。自力で歩いて出口に向かうタイプのお化け屋敷とか、肝試しとか、逃れられなくて参加したけど……という苦い記憶がいくつかあります。
映像だけなら最悪目を閉じて耳塞いでジッとしてられますけど、自力で歩かないと終わらないというのが本当にダメで。
でもホラー・オカルト系の話を読むのは結構好きだったりです。
突然驚かされる衝撃だとか、不安にさせる音楽とかがなく、文字だけなら平気みたいです。

本当にここ数日でガラッと気温が変わって寒くなりましたよね。
季節の代わりに目にしても、気温差が大きすぎて戸惑います。
お互い、体調には気をつけていきましょう。
何事もなく更新再開出来ましたら、またよろしくお願いします。

 
 
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復讐されるためのお付き合い

これを最後とするべきかどうかの未来。攻め視点。

 背後から名前を呼ばれて反射的に振り向けば、そこには捨てた男が立っていた。
「久しぶり」
 笑顔はないが、怒っている様子でもない。
「……ああ、うん」
 頭の中では、なぜ彼がここにと驚きも動揺もしているが、実際ははそんな間抜けな同意しか返せなかった。
「話、したいんだけど。家、行ってもいい?」
「そ、れは……」
 彼と関係があった頃とは違って、現在は古い安アパート暮らしだ。月に数度の彼との逢瀬のためだけに、そこそこの賃貸マンションの一室を借りていられた経済状況など、今はもうなかった。
 かといって、この近辺で個室を借りて話せるような場所に思い当たらないし、そのための出費を惜しいと思う程度には金銭的な余裕もない。けれど捨ててきた男との話なんて、人の目がある場所で語れる内容でないのは明白だ。
「ちなみに、今、どんなとこ住んでるかは知ってる」
 こちらの躊躇いの意図を察したらしい。というか、ここに来たことを含めて、現在の自分の状況はかなり把握されているんだろう。探偵でも雇って調べさせたのかも知れない。
「わかった。いいよ」
 告げて歩き出せば、相手は黙って付いてくる。アパートに着くまで、結局それ以上の会話はなく、二人無言のままだった。

 
 部屋に上げて適当に座ってと促したあと、とりあえず茶を淹れにたつ。
 この部屋に他者の気配があるということが、不思議で仕方がない。しかも相手は、二度と顔を合わせることもないだろうと思っていた男だ。
 自分の中では綺麗なまま残しておきたい記憶だったけれど、これもきっと自業自得な結果の一つなんだろう。
 もともと互いの私生活を明かしもしなければ踏み込むことも踏み込ませることもなく、つまりは割り切ったお付き合いに近いものではあったけれど、それなりの期間、関係を継続していた相手に対し、何も詳細を告げずに一方的な別れを突きつけて逃げ出したのはこちらだ。
 抱き潰して、彼の言い分を一切聞くことなく姿を消してしまったわけだから、文句の一つも言わずには居られない、という心境になっていてもおかしくはない。
「どこまで知ってる?」
 お茶を出して相手の対面に腰を下ろして、まずは相手がどこまでこちらの事情を知っているかを問いかける。
「多分、それなりに。ざっくり、ゲイバレして離婚。慰謝料・養育費その他諸々で、実親からも縁を切られて、現在は縁もゆかりもないここに辿り着いて、一応は正社員の仕事についての一人暮らし。恋人の影はなし」
「調べるの、結構金かかったんじゃないのか」
「まぁ、それなりに。でも、どうしても確かめたいことがあって」
「確かめたいこと?」
「俺と恋人になりたい気持ちがあるかどうか」
「え……?」
「慰謝料も養育費も一括で払って、色んな人と縁切って、今、なんの柵もないフリーってことでしょ? その状態なら、俺と、恋人になっても問題ないんじゃないの、って」
「いや、それは……」
「俺のこと、嫌いになったから切ったわけじゃないよね?」
 もちろんそうだが、正直彼の言葉の意味が理解できない。どう考えたって、こちらが家庭で解消できないストレスやら性欲やらを解消するために会っていただけの関係だ。金銭のやり取りこそしていないが会えばそれなりのものを奢ったりプレゼントしたりしていたし、金の切れ目が縁の切れ目になって当然な相手だったはずだ。
「それともやっぱ、ちょっと贅沢させれば足開いて好き勝手させてくれる、都合がいい相手でしかなかった?」
「そんなはずないだろっ」
 思わず否定はしたけれど、だからといって、彼と恋人になりたいだとかを考えたことはない。というか彼に限らず、男の恋人を持つという人生を、今まで一度だって考えたことがなかった。
 ああ、でも、彼が言う通り、色々なものとの縁が切れて、何の柵もなくなった今は、男の恋人を作っても問題はないのかも知れない。
「いやでも、俺は、お前に執着してもらえるような男じゃ……」
 贅沢させれば足を開いて好き勝手させてくれる、などと思っていたつもりはないが、自分の欲望を開放して好き勝手するようなセックスばかりしていた自覚はある。
「あなたを本気で惚れさせて、あなたが俺なしじゃ居られなくなったら、今度は俺があなたを、捨ててやりたいんだよね」
「え、あ、ああ……なるほど」
「って、そこで納得しないで欲しいんだけど。てかそう言われたら納得して、俺の復讐のために恋人になってくれたりするの?」
「俺なんかに構ってる時間が無駄になるんじゃないのか、とは思うが、俺に復讐しないと次の相手に行けない、みたいな話なら、まぁ……」
 相手は呆れた顔になって、深々とため息を吐いている。
「じゃあそれでいいや」
「それでいい?」
「俺の復讐に付き合って」
「本気か?」
 本気だと言った相手は連絡先を交換したあと、また来るからと言ってあっさり帰っていったが、それから本当にちょくちょくと顔を見せるようになった。
 そこそこの距離があるのにものともせずやってきて、この安アパートに嬉々として泊まっていく。セックスも今まで通りでいいというが、ここに住みづらくさせてやろうという意図があるのかと思いきや、必死に声を出さないようにと気を遣っている。
 声を出すまいとする相手を追い詰めて、こらえきれずに声を上げさせる瞬間にたまらなく興奮することを、知られているからかも知れないが。
 とっくに本気で惚れている。というよりも自覚が追いついてきたという感じで、彼のことを手放しで愛しいと思うようになっている。もう、彼なしじゃ居られない状態になってそうだとも思うけれど、また来るねと満足気に笑う彼は、まだしばらく復讐を遂げる気がなさそうだった。

1ヶ月経過したので、今回の更新期間は終了します。
次回の更新は10/26(水)からの予定です。

 
 
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捨て猫の世話する不良にギャップ萌え、なんだろうか

 早起きは三文の徳とは言うが、たまの休日は思う存分眠って置きたい。とは思うものの、妙にスッキリとした目覚めによりどうにも二度寝出来そうにはなく、仕方がないので諦めて起き上がる。
 早いと言っても早朝と呼べるほど早い時間ではないが、それでもこんな休日はめったに無いので、いっそ朝の散歩にでも出かけようかと思いたち適当にあちこち歩いてみた後、ファミレスに寄ってモーニングメニューを堪能した。
 睡眠時間確保には失敗したが、なかなか良い出だしだ。などと自己満足で帰路についた途中、珍しい人物が珍しい店舗へと入っていくのを見かけて、とっさにその後を追って同じ店舗へと踏み入ってしまった。
 ご近所さんのその男とは小学生の頃に何度か遊んだことがある。といっても確か5つほど年齢が離れていて、中学も高校も同時期に在籍したことがない。小学生の時に遊んだと言ったって、遊び相手のメインは彼の兄であって、幼い彼はオマケでしかなかった。
 その兄とも、中学くらいまではそれなりに交流があったが、別の高校に進学してからはわざわざ連絡を取り合って遊んだりはしなくなっている。そもそも高校卒業後に実家を出たと聞いた気がするから、弟以上に顔を合わせる機会がない。
 まぁ弟の方だって、姿を見かけることなどなかなかないのだけれど。なんせ母が仕入れてくるしょうもない噂通りなら、せっかく入れた高校を早々に退学になりかけるような、荒れた生活をしているようなので。
 そんな男が、開店まもない書店に入っていくだなんて、ちょっと良からぬ想像が働いてしまうってものだろう。万引の現場を目撃するようなことがあったら、さすがに止めてやろうと思っていた。
 兄とだってさして仲が良かったわけではないが、彼の家庭環境や生活が荒れるに至った事情を漏れ聞いてしまう立場として、同情めいた気持ちがあるのは認める。一緒に遊んでいたころは、素直な一生懸命さで、兄の背を追いかけてくるような子だったのを覚えているせいもある。
 しかし、周りを気にする素振りを見せながら彼が向かった先は、はやりの漫画やらが並んだ棚ではなく、ペット関連の書籍が並んだ一角だった。そのままこっそり盗み見ていれば、どうやら猫の飼い方についてを立ち読みしているらしい。
 随分と真剣な表情で読み進めていく姿を見ていたら、思わず名前を呼びかけていた。
「ひっ……」
 相当驚かせたようで、大きく肩を揺らしながら小さな悲鳴を漏らした相手は、それでもすぐに振り向いて、怖いくらいにこちらを睨みつけてくる。
「誰だ、お前」
 そう聞かれるのも仕方がない。なので名前を告げて、兄の友人だったと伝え、小学生の頃に一緒に遊んでいた話と共に当時のあだ名を教えてみた。どうやら記憶の片隅に引っかかるものがあったようで、一応は名前を知られていることには納得できたらしい。
「で、何の用だよ」
「用、っていうか、気になっちゃって。猫、飼うのか?」
「んなわけねぇだろ」
「じゃあ猫好きなの?」
「うっせ」
 手にしていた本を思い切り平台の上に叩きつけると、早足にその場を去っていく。
「あ、こらっ、売り物だぞ」
 慌ててその本を手に取り、破損がないことを確かめてから元の場所と思しきところへ戻している間に、相手の姿はすっかり見えなくなってしまった。
 そんなことがあってから数日、母親が仕入れてきたしょうもない噂話で、彼が虐待していた子猫が保護された、という話を聞いた。
 あんなに熱心に猫の飼い方を立ち読みしていた男と虐待とが結びつかない。どうせ、猫にかまっている姿を誰かに見られて、あの調子で対応した結果虐待と思われた、とかじゃないのか。
 ありえそうすぎて苦笑するしかない。
 それからなんとなく、猫が保護されたという場所を気にかけるようになって更に数日、ぼんやりと立ち尽くす彼の姿を見つけて、我ながら懲りないなと思いながら名前を呼んでみた。
「またあんたかよ」
 少しうんざりした顔は以前に比べて明らかに元気がない。というよりもなんだか疲れた顔をしている。
「で、今日は何?」
「ここに居た子猫は保護されたって聞いたけど、お前、虐待なんかしてないよな?」
「そ、っか……」
 一瞬驚いた顔をしたけれど、でも何かに思い当たったのか、一つ息を吐き出すとくるりと向きを変えて歩き出す。その腕を思わず掴んで引き止めた。
「あー……虐待したつもりはねぇけど、まぁ、あいつらが無事保護されたってなら、俺が虐待してたんでも別にいーわ」
「もしかして、居なくなった子猫心配して、探してた?」
「うっせ。てか放せよ、腕」
 強引に振りほどくことも出来そうなのに、おとなしく立ち止まっている彼をこのまま放したくないと思ってしまった。
「えっと、……あ、じゃあ、飯でも食いに行く?」
 我ながら、何を言っているんだと思ったけれど、呆れられて仕方がない場面で、なぜか相手はふはっと笑いをこぼす。
「じゃあ、ってなんだよ。てかそれって当然奢りだよな? 金ねーし、奢りなら行ってやってもいいけど?」
「もちろん奢る」
 食い気味に肯定すれば、相手はますますおかしそうに笑い出してしまったが、笑う顔に昔の面影が重なって、なんとも言えない気持ちになった。
 頭の片隅では、これ以上深入りしないほうが良いとわかっているのに、その反面、いっそもっと深く関わってしまいたい気持ちが湧いている。

有坂レイさんは、「朝の書店」で登場人物が「夢中になる」、「猫」という単語を使ったお話を考えて下さい。https://shindanmaker.com/28927

描写ないけど視点の主は高校卒業後就職している社会人です。

 
 
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