タイミングを合わせ、3人がほぼ同時に達せたことで、オーナーは随分機嫌が良いようだった。
ぐったりと崩れてしまったガイをソファへ横たえるようにとビリーへ指示を出した後、机の上のベルを2度鳴らす。運ばれてきたケースの中には、ビリーへ支払われる予定の紙幣が詰まっていた。
「これが約束した君への報酬なんだけどね」
ガイをソファへ置いて戻ってきたビリーが机の前に立つのを待って、オーナーはそう切り出した。
「何か、問題でも?」
その語尾に含まれた何かを感じ取って、ビリーが尋ね返す。
「うん。ちょっとした提案をしてみようかと思って」
「提案、ですか?」
「そう。どうやらガイも随分君に懐いたみたいだし、このまま彼を、君のモノにする気はないかな、と思って」
オーナーのセリフを脳内で繰り返したビリーは、意味を理解して呆れたように溜め息を一つ吐き出した。
「最初から、そのつもりだったんですか?」
「ん? それはないよ。まぁ元々、ずっと僕の側に置くつもりで君に依頼したわけでもないけど」
「断ったら、どうされるんですか?」
「手駒として働いて貰ってもいいけど、ここまでしっかり躾けられてたら、やっぱりそっち方面に売りつけるかな」
きっと高値で売れるしね。と続けるオーナーに、ビリーはどう返事を返すか迷って、ソファに横たわるガイへ視線を向ける。
疲れきってるとはいえ、気を失っているわけではない。二人の会話をしっかりと理解している瞳で、ガイはビリーを見つめていた。
ガイの視線を振り切って、ビリーはオーナーに向き直った。
「申し訳ありませんが、こちらにも予定がありますので」
「そうだね。じゃあこれは、退職金代わりに」
言いながら、更に机の引き出しから取り出した紙幣の束を重ねる。
「君が居なくなるのは、こちらとしても痛手だけどしょうがない。夢を叶えられるように、祈っておくよ」
「ありがとうございます」
一礼して、ビリーは報酬の入ったケースを手にオーナーの部屋を後にした。
部屋を出る間際、どうしても気になってチラリと視線を送った先。
行かないで。
そう訴えていたガイの瞳が、いつまでもビリーの胸の奥に小さな傷として残ってしまったが、それでも。自分の夢を手に入れるために選んだ道を、後悔することはなかった。
< 一人で去るエンド 2 >
ビリーはもう一度溜め息を吐き出して、オーナーに向き直った。
「それで、一体幾らで売りつける気ですか?」
「そうだね、きっと、本気で売りに出したらもっと高値がつくと思うけど」
そう前置いてから提示された金額は、ビリーが報酬として受け取る予定の金額とほぼ同額だった。それでももう、ビリーの気持ちは決まっていた。
「わかりました」
「肝心な所で、意外と甘いね、ビリー」
可笑しそうに、オーナーは声を立てて笑う。
「そう仕向けてるのは貴方じゃないですか」
「わかってて乗ってくれる君が好きだよ。ガイのこと、よろしく」
「もし俺が、ステージに立てるようにコイツに芸を仕込むって言ったら、どうします?」
「いいよ。使い物になるようなら、歓迎する。まぁ、そのまま客でも取らせたほうがよっぽど稼ぐと思うけどね」
もう下がっていいというように軽く手を振ったオーナーに、ビリーは一礼するとソファで待つガイへと向かった。
「ホンマに、ええの?」
「何が?」
「あの金で、やりたいこと、あったんやろ?」
「その分、今後はお前にも稼いで貰うさ」
「館、で?」
「お前がそうしたいなら止めないがな。聞いてたろ? お前さえその気なら、ステージに立てるように育ててやるよ」
困ったような笑顔を見せるガイの瞳に、ウルリと涙が滲んでいく。
「何泣いてんだ」
「せやけど……」
「とにかく、まずは一旦俺の部屋に帰るぞ」
頷くガイを抱き上げたビリーは、そんな二人を楽しげに見守っていたオーナーに再度頭を下げて、オーナールームを後にした。
「なぁ、次はワイ、一人で投げてもええ?」
「ああ、落とすなよ。ほら、腕の位置が低い」
ガイを抱き込むようにしながら、ビリーはその腕を取り持ち上げる。
ビリーの予想通り、ガイは意欲的に次々と色々なことを吸収して行った。ようやく子供らしい笑顔を見せるようになったガイが、ビリーと一緒にサーカスの舞台へ立つ日も近いかもしれない。
< ビリーエンド >
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