サーカス11話 提案

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 タイミングを合わせ、3人がほぼ同時に達せたことで、オーナーは随分機嫌が良いようだった。
 ぐったりと崩れてしまったガイをソファへ横たえるようにとビリーへ指示を出した後、机の上のベルを2度鳴らす。運ばれてきたケースの中には、ビリーへ支払われる予定の紙幣が詰まっていた。
「これが約束した君への報酬なんだけどね」
 ガイをソファへ置いて戻ってきたビリーが机の前に立つのを待って、オーナーはそう切り出した。
「何か、問題でも?」
 その語尾に含まれた何かを感じ取って、ビリーが尋ね返す。
「うん。ちょっとした提案をしてみようかと思って」
「提案、ですか?」
「そう。どうやらガイも随分君に懐いたみたいだし、このまま彼を、君のモノにする気はないかな、と思って」
 オーナーのセリフを脳内で繰り返したビリーは、意味を理解して呆れたように溜め息を一つ吐き出した。
「最初から、そのつもりだったんですか?」
「ん? それはないよ。まぁ元々、ずっと僕の側に置くつもりで君に依頼したわけでもないけど」
「断ったら、どうされるんですか?」
「手駒として働いて貰ってもいいけど、ここまでしっかり躾けられてたら、やっぱりそっち方面に売りつけるかな」
 きっと高値で売れるしね。と続けるオーナーに、ビリーはどう返事を返すか迷って、ソファに横たわるガイへ視線を向ける。
 疲れきってるとはいえ、気を失っているわけではない。二人の会話をしっかりと理解している瞳で、ガイはビリーを見つめていた。

>> 断る

>> 了承する

>> ガイの意思を聞く

 

 

 

 

 

 

 

 
<断る>

 ガイの視線を振り切って、ビリーはオーナーに向き直った。
「申し訳ありませんが、こちらにも予定がありますので」
「そうだね。じゃあこれは、退職金代わりに」
 言いながら、更に机の引き出しから取り出した紙幣の束を重ねる。
「君が居なくなるのは、こちらとしても痛手だけどしょうがない。夢を叶えられるように、祈っておくよ」
「ありがとうございます」
 一礼して、ビリーは報酬の入ったケースを手にオーナーの部屋を後にした。
 部屋を出る間際、どうしても気になってチラリと視線を送った先。
 行かないで。
 そう訴えていたガイの瞳が、いつまでもビリーの胸の奥に小さな傷として残ってしまったが、それでも。自分の夢を手に入れるために選んだ道を、後悔することはなかった。

< 一人で去るエンド 2 >

>> 番外編を読む

 

 

 

 

 

 

 

 

 
<了承する>

 ビリーはもう一度溜め息を吐き出して、オーナーに向き直った。
「それで、一体幾らで売りつける気ですか?」
「そうだね、きっと、本気で売りに出したらもっと高値がつくと思うけど」
 そう前置いてから提示された金額は、ビリーが報酬として受け取る予定の金額とほぼ同額だった。それでももう、ビリーの気持ちは決まっていた。
「わかりました」
「肝心な所で、意外と甘いね、ビリー」
 可笑しそうに、オーナーは声を立てて笑う。
「そう仕向けてるのは貴方じゃないですか」
「わかってて乗ってくれる君が好きだよ。ガイのこと、よろしく」
「もし俺が、ステージに立てるようにコイツに芸を仕込むって言ったら、どうします?」
「いいよ。使い物になるようなら、歓迎する。まぁ、そのまま客でも取らせたほうがよっぽど稼ぐと思うけどね」
 もう下がっていいというように軽く手を振ったオーナーに、ビリーは一礼するとソファで待つガイへと向かった。
「ホンマに、ええの?」
「何が?」
「あの金で、やりたいこと、あったんやろ?」
「その分、今後はお前にも稼いで貰うさ」
「館、で?」
「お前がそうしたいなら止めないがな。聞いてたろ? お前さえその気なら、ステージに立てるように育ててやるよ」
 困ったような笑顔を見せるガイの瞳に、ウルリと涙が滲んでいく。
「何泣いてんだ」
「せやけど……」
「とにかく、まずは一旦俺の部屋に帰るぞ」
 頷くガイを抱き上げたビリーは、そんな二人を楽しげに見守っていたオーナーに再度頭を下げて、オーナールームを後にした。

 

 

「なぁ、次はワイ、一人で投げてもええ?」
「ああ、落とすなよ。ほら、腕の位置が低い」
 ガイを抱き込むようにしながら、ビリーはその腕を取り持ち上げる。
 ビリーの予想通り、ガイは意欲的に次々と色々なことを吸収して行った。ようやく子供らしい笑顔を見せるようになったガイが、ビリーと一緒にサーカスの舞台へ立つ日も近いかもしれない。

< ビリーエンド >

 
 
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サーカス10話 調教終了

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「もう、お前に教えることはないな」
 そう言ったビリーに、ガイは悲しそうに笑って見せた。
「ほな、ビリーはお役ゴメンてことやな。ワイは今後、どうなるんや?」
 ガイが、自分の立場やビリーがガイをペットとして飼ってやると言ったそれが仕事であることを、理解しているらしいのはビリーもわかっている。増えた会話の中、時折予想もしない単語が飛び出て来るのは、相変わらず愛読している辞書のせいだろう。
「お前の今後は、オーナーが決める」
「そう、やろな」
 複雑な表情で深く息を吐き出したガイが、何を考えているのか、ビリーは知る由もない。ガイとオーナーとの間に何があるのか、はっきりとしたことは何も知らされていなかったし、知る必要もないと思っていた。
 ビリーの知っていることと言えば、前にチラリと、借金の形として連れられてきたという話をセージから聞いた程度だ。
「もし、オーナーの前では大人しく言うこと聞いたりせんよ。て言うたら、どないする?」
「なんだそれは、俺への挑戦か?」
「そういうわけと、ちゃうけど……」
「オーナーの前でもちゃんと躾られた通りにイイコにしてみせます。って、誓わせてやろうか?」
「心配せんでも、今更オーナー相手に逆らったりせんわ」
 どんな方法で誓わせるかを告げたりはしなかったが、ガイは小さく笑って首を振った。

 
 部屋を移動してからずっとガイの首に付けられていた首輪に、鎖が繋がれたのはその日が初めてだった。鎖の先にあるのは壁ではなくビリーの手。
 大きなドアを1枚くぐった先で、ビリーは鎖を手にしたまま、ガイに服を脱ぐようにと指示した。目の前にあるドアの先、待っているのはオーナーだ。ビリーの前で裸体を晒すことには慣れたガイも、さすがに緊張を隠せない。
「いいか?」
 堅い表情で頷き返すガイに、ビリーは目の前のドアをノックした。開かれたドアの先へ踏み出せば、正面の机に向かうオーナーが二人を迎えた。
「お疲れ様、ビリー。そして、久しぶりだね、ガイ」
 ビリーは軽く頭を下げたが、ガイはそのままオーナーへと真っ直ぐ視線を投げる。
「おやおや。挨拶も出来ないほどに嫌われてるのかな?」
 ニコリと笑ってみせるそれは、ガイへの催促だ。キュッと唇を噛み締めたガイは、小さく息を吸い込んで、ようやく口を開いた。
「お久しぶりです」
「うん、大分イイコになったねガイ。それじゃあさっそく、ビリーから教わったことを披露して貰おうか」
 ビリー。と名前を呼ばれたビリーは、黙ってガイの首に繋いだ鎖を取り外す。チラリと窺うガイの瞳には頷いてやってから、その背をオーナーに向けて押し出した。
 豪奢な椅子に腰掛けるオーナーの前まで進み出たガイは、まずはその足元に跪く。
「御奉仕させて頂きます」
「もう一度。ちゃんと顔を見せて言わないとダメだろう? 君の態度が全て、ビリーの仕事の評価に繋がるんだよ?」
 ハッと顔をあげたガイに、オーナーは笑みを深くした。
 わかったねと再度オーナーが促せば、今度はオーナーの顔を見つめたまま、ガイはもう一度始めるための口上を述べる。
「そう、それでいい。さぁ、続けて」
「はい」
 自分の態度が全てビリーの評価に繋がる。
 予想はしていたが、実際に言葉にして告げられると逆らいきれない拘束感があるとガイは思う。
 身体の自由を奪われるよりも、言葉によって縛られるほうが苦手だったが、そんなことを思っても仕方がない。
 ガイはビリーに教えられた通りに、オーナーのモノに唇を寄せた。慣れ親しんだ行為に懸命に挑むガイに、オーナーもすぐに興奮を示し勃ち上がる。
 机の影に隠れてガイの姿がはっきりとは見えていないビリーの耳にも、濡れた淫猥な音が届いた。
「このまま口でイきますか? それとも、乗ってしまってもよろしいですか?」
 一旦顔を上げたガイの吐き出すセリフに、ビリーは内心の驚きを隠せない。
 求められたことに拒否を示さず従うこと。という点はかなり徹底して教え込んできたが、返事のし方や自ら問い掛ける術などに関しては、ほとんどガイまかせだった。
 言葉の訛りも、矯正しようとしたことなど一度もない。というよりも、独特のイントネーションで紡ぎ出される言葉を、ビリーは結構気にいっていたのだ。
 そのガイが、オーナー相手にあそこまでの対応を見せるなどとは、ビリーは欠片も予測できていなかった。
「なら、乗って貰おうかな」
「はい。では、身体を慣らすのに少しだけお時間を頂きます」
「ああそうだね。じゃあ、せっかくだから、僕にも良く見えるようにして慣らしてくれる?」
「はい」
「随分簡単に頷くね。さすがビリー仕込みってとこかな」
 オーナーは入り口付近で佇むビリーに笑顔を向ける。
「ありがとうございます」
 返答に困りながらも、ビリーは辛うじてそう返した。そんなビリーに構うことなく、オーナーはガイへと向きなおった。
「どうしようか。このデスクの上にでも乗って貰ったほうが見やすいかな」
「机の上、ですか……?」
「嫌?」
「……いいえ」
「決まりだね」
 ヒョイとガイを抱き上げたオーナーは、広々とした机の上にガイを乗せる。
「良く見えるように、足はしっかり開いて」
「はい」
 言われるままに、ガイは机の上で立てた膝を開き秘所を晒した。
「ああ、既に大分慣らしてあるんだね。濡れてヒクついてるけど、ビリーに、ここで感じられるようにして貰った?」
 オーナーの前で、一からゆっくりと慣らすような真似はさすがにしない。既にたっぷりと塗り込めてあるローションの助けを借りて、伸ばされたオーナーの指がすんなりと一本埋め込まれた。
「あっ……」
「さすがに随分柔らかいね」
「んんっ」
 確かめるように中を探る指に、ガイの声が艶を帯びる。
「ちょっとつまらないけど、仕方ないか。ほら、さっきその口で咥えたモノが入るくらいに広げて見せてくれるんだろう?」
「はっ……はい……」
 抜け出た指の代わりに、ガイは自分の指先をあてがい、その場所を広げていく。
 ビリーのものとは違う、楽しげに観察するようなオーナーの瞳。逃れるように瞳を閉じて、ガイはオーナーを受け入れるための準備に没頭して行った。
「はぁ……ぁん、んっ」
 荒く弾み始める息と時折ガイの零す声に、オーナーは楽しげな表情を崩さないままで、目の前のガイと少し離れた場所に立ったまま無表情に二人を眺めているビリーとを観察する。けれどその時間は長くは続かない。
「準備、終わりました」
「うん。なら、まずはそこから降りてくれる?」
 指示通りに机から降りたガイの腰を抱きよせたオーナーは、クルリとその向きを変える。
「せっかくだし、ビリーに見てて貰いなよ」
「あっあああっ……!」
 言うなり押し入ってきたオーナーに、押さえることを忘れたガイの声が響く。
「あっ、あっ、ああん」
 なんとか机の端を掴んだガイはそれに縋って、思いのほか激しいオーナーの動きにただ翻弄されるだけだった。
「本当に、ここで感じられるほどになったんだね。でもちょっと、煩いかな」
 休むことなくガイを責めながら、オーナーはビリーの名前を呼んだ。
「ねぇ、ビリー」
 呼びかけの声に、ガイの身体も小さく反応を示す。キュッと締め付けてくるそれに、オーナーは満足そうに更にガイを揺する。
「はぁあっ……うっぅん」
「ちょっとガイの口、塞いでくれない?」
「えっ……」
 既に、終わるまでは退室できないのだと思っていたビリーだったが、さすがに、自分も加われと言われるとは思っていなかった。
「それは、どういう……」
「わからない? ってことはないと思うけど。ガイの前の口が寂しがって啼いてるからね、君ので満たしてあげてよ。見てるだけってのもつまらないだろ?」
 つまらない。なんてことは欠片ほども思っていなかったが、オーナーの言葉には逆らいがたいものがある。ビリーは二人へ向かって一歩を踏み出した。
「ほら、ガイ。ビリーも気持ち良くしてあげな」
 動きを緩めてそう促せば、ガイは荒い息を吐き出しながらもビリーのフロントへと手を伸ばす。小さく震える手を取って、ビリーはほぼ自分の手で前をくつろげ、ガイの口元近くへソレを差し出した。
「んっ……むぅ~っ!」
「噛まないように気をつけなよ、ガイ」
 口に含んだ途端に再度激しく責められて、ガイは慌ててビリーの腰に縋る。
「無理しなくていい。そのまま口だけ開けておけ」
 それでもなお、舌を絡めようと頑張るガイを、ビリーは柔らかに制止した。
「意外と優しいんだ」
「噛まれたら困るので」
 ニコリと笑うオーナーに、ビリーも平然と笑い返す。
「それにしても、良くここまであのガイを躾けたね」
「仕事、でしたから」
「うん。それでも、かなり驚いてる」
 随分好かれたもんだ。と続いたセリフに、ビリーは思わず眉を寄せた。
「そんなに熱心に咥えてもらってる割に、意外そうな表情だね」
 頭上で交わされる二人の会話を理解できるほどの余裕がガイにはない。ただひたすら快楽の波を耐えながら、ビリーのモノに歯を立ててしまわないようにと必死で口を開き続ける。
「これは、そう躾けたから、ですよ」
「そう? 僕への時とは明らかにガイの表情が違うんだけど。と言っても、君には見えてなかったか」
「……からかってますね?」
 それへは否定も肯定も示さず、オーナーはただ笑って見せるだけだった。

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サーカス9話 騎乗位

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 ガイを別の部屋へ移動させた後、セージの追求を仕事の邪魔だと一蹴したビリーは、それでも、セージから渡される本だけはガイに届け続けていた。
 ガイはセージに会えなくなったことも、部屋の環境の悪さにも、やはり文句の一つすら言わなかったから。だから余計に、何かしら、できることならしてやりたいと思うのかもしれない。
 それと、理由はもう一つ。ガイがわずかながらも見せるようになった、ビリーに対する笑顔だ。セージからの本にも、防寒用に差し入れた毛布にも、ガイはそれらを持ち込むビリーに向かって喜びを示して見せる。
 一番喜ばれたのは、ビリーが買い与えた辞書だった。単語の意味を自分で調べられるようにと思って渡したソレの使い方を、当然ガイは知らなくて。けれど、ビリーに教わった後は、本を読み返すよりも辞書を開いていることのが多くなった。
 辞書を読んでいると言ったほうがいいかも知れない。さすがにそれには、ビリーも苦笑するしかなかった。
「面白いのか、そんなのが」
 その問い掛けに、ガイは酷く真面目な顔で頷いてみせる。
「そりゃ良かった。そこまで楽しんで貰えたら、贈ったかいもあるってもんだ」
 ビリーが思わず洩らした本音と、それに伴う笑顔に。ガイの視線が驚きとともにまっすぐビリーへと絡みつく。
「どうした?」
「これ、買うてくれたん、ビリーやったんか……」
「ああ……セージからだと思ってたか。まぁ、セージがお前に本を届けさせ続けなきゃ、俺がソレを買うこともなかっただろうからな。セージには感謝しておけよ」
「ビリーには……?」
「感謝より、立場をわきまえた奉仕で応えて貰いたいもんだ」
 ほんの一瞬、ガイの瞳に影が射す。ビリーにとっての自分の存在価値を、今ではガイも充分に理解している。
 ビリーはガイに向かって直接『従順な性の奴隷』となるよう調教しているとは言っていなかったが、館で聞いた噂の端々と、セージと、そしてビリーの与えた辞書が。ガイに、自分の立場と、ビリーの立場と、『性欲を満たすためのペット』として飼われる事の意味を知らせたのだろう。
 敷かれた布団の上に座って辞書を開いていたガイは立ち上がり、ビリーの腰かける椅子へと向かってくる。
 正面へと立ったガイに、ビリーは挑むような笑みを見せた。指示されてではなく、ガイが自主的に行う奉仕は初めてだ。
 現在はガイの身体を快楽に慣らす調教が主だったから、やはり、口で射精を導くまでが限度だろうか。どこまでできるか、見物だな。
 ガイがビリー相手に感謝の気持ちを表す気になった幸運を、最大限利用してやろうと考えながら、ビリーは近づくガイの唇を受け止めた。
 
 慣れ親しんだ手順で、ガイはビリーの股間に顔を寄せる。フロントをくつろげ、まだ硬さのないソレを探り出し、まずは口に含んだ。
 口内でクチュクチュと舐め吸い上げられれば、ゆっくりと頭をもたげ、やがてはガイの小さな口では含みきれないほどになる。充分に質量を増したソレから一旦唇を離したガイは、ビリーを窺うように顔をあげた。
「まさか、これで終わりだなんて言う気じゃないだろうな?」
「ちゃうねん。その……」
 ビリーの問い掛けに、ガイの視線が、戸惑いながらも部屋の隅に敷かれた布団へと移動していく。そんなガイの顎を掴み、視線を自分へと向けさせたビリーは、その瞳をじっと覗きこんだ。
「ビリー……?」
「誘いに乗ってやってもいいが、教わっても居ないことが、お前に出来るのか?」
「ビリーには教わっとらんけど、初めて、てわけやない、で?」
「館、か……」
 ビリーの呟きに、ガイは自嘲的な笑みを見せながら軽く頷いた。
「なら、ためさせて貰おう」
 椅子から立ち上がったビリーは布団へと移動し、取りあえずそこへと腰を降ろす。後を追ってきたガイは、けれど思わずと言った様子で、ビリーの前で立ち止まってしまった。
 考えてみれば、鎖に繋いだ状態以外で、ガイに見下ろされるのは初めてだ。
「続きをするんじゃなかったのか?」
 ハッと我に返ったガイは、慌てて着ていた服に手を掛ける。そうして全裸になってから、ガイもビリーの腰の横へ膝をついた。
 再度ビリーのモノへ唇を寄せたガイは、今度はたっぷりと唾液を絡ませる。痛みを多少なりとも軽減させる術を、経験的に知っているのだ。しかし、それだけでは身体を傷つけずには済まないだろう。
 自分の身体を自分で慣らし広げることまでは、多分、できない。ビリーはどこで静止するべきかで迷っていた。やがてビリーの腰をまたいだガイに、ビリーはようやく静止の言葉をかける。
「そこまででいい」
「えっ?」
 ガイは何故止められたのか理解しかねると言った表情で、ビリーを見つめていた。
「俺の予想以上に、お前はよくやったよ。確かに、あそこではお前が痛みを耐えればそれで充分だったろう」
「それじゃ、あかんの……?」
「何のために、俺がお前の身体に気持ち良さを教え込んでると思ってんだ?」
 腰をまたいで開かれた足の間、ビリーは差し込んだ手でガイの後庭を探る。
「んっ……」
 乾いた指先で軽く突付いてやるだけで、ガイの肌が粟立った。
 拘束のない身体が不安定に揺れる。とっさに伸ばされた腕を空いた方の手で掴んだビリーは、そのままガイを引き寄せ、身体を支えるように抱きなおす。
「取りあえず、肩にでも捕まってろ」
「せやけど……」
「今日の所は、俺が手伝ってやる。けどな、いずれは自分で出来るようになるんだ。自分でココを柔らかくなるまで解して、広げて、受け入れる」
 布団の脇に転がるローションのボトルを取り上げたビリーは、それを使ってガイの後ろを解していく。既に何度も重ねられた行為に、ガイの身体はやすやすとビリーの指を飲み込み、ビリーの動きに合わせて柔らかな収縮を繰り返した。
「あっ、ああっ……」
「腰は下ろすな。足に力を入れておけ」
 そう命令する声は、言葉の中身に似合わず穏やかに響く。ガイはビリーの肩を掴む手に力を込めて、崩れそうになる姿勢を保った。
「そろそろいいな」
 ズルリと抜け出していく3本の指に、とうとうガイの身体が崩れ落ちる。ビリーの足の上にペタリと座りこんでしまったガイは、何度も荒く息を吐き出した。
「しっかりしろよ。ここからが、メインだろう?」
 ビリーはそう言いながらも、ガイが息を整える時間を充分に与えてやる。やがて意を決したように、ガイがゆっくりと腰を浮かす。
「できるな?」
 頷くガイに、ビリーも頷き返した。位置を計りながら、ガイはそろそろと腰を落として行く。
「くっ……」
 屹立する先端に自ら入り口を押し当てたガイは、息を詰めて緊張で身体を強張らせた。痛みの記憶はそう簡単に忘れられるものではないからだろう。
「息を吐け。身体の力を抜いて。そうだ、ゆっくりでいい」
 ビリーの言葉に促されて、少しづつだがガイはビリーを体内に受け入れていった。痛みよりも苦しさでだろうか、眉を寄せながらガイは浅い息を繰り返す。
「手伝って欲しいか?」
 半分ほど埋めた所で往生するガイに、ビリーは極力優しく問い掛ける。負けん気の強い所があるガイが頷きやすい様にという配慮を、最近ではビリーも多少心がけていた。
 顔をあげたガイはビリーを見つめ、一旦頷きかけてから、否定を示すように首を横に振る。一度自分で決めたことを譲らない強情さは相変わらずだ。
 ビリーは零れそうになる苦笑を押さえ込んで、ガイが全てを飲み込むまで待ってやった。
 ホッと息をついてビリーを見上げるガイの瞳は、どこか誇らしげでさえある。今日の所はこれで充分だとビリーは思った。しかし、だからと言って、ハイ終了とばかりにせっかく苦労して埋め込んだモノを抜いてしまう訳にはいかないだろう。
「最終的には、お前が自分で動いて俺をイかせるくらいのことはして貰うつもりだがな。取りあえず、ここまで良く出来た分の褒美をやるよ」
 抱き寄せて、唇を重ねる。ビリーから与える深いキスは久しぶりだった。
「ふっ……んんっ……」
 甘い声が音にならずに漏れる。ビリーは注意深く腰を揺すり、指によって何度も確認したガイのイイ場所を責めてやりながら、肌の上の敏感な場所を唇と舌と手でなぞり、更に深い快楽を引き出していく。
「あ、あぁん……ん、ビリィ、ぁ、あっ、イかせ、て……」
 口にして請うことが、終了への暗黙の了解になっていた。手の中で、幼いながらも快楽を主張して硬くなっているガイ自身を、柔らかく包み込んで扱きあげる。
「あっ、あっ、あああっ!」
 ビクビクと身体を痙攣させ、ガイはビリーをキツク締め付け昇りつめた。さすがに眉を寄せて耐えてから、まだ荒い息を吐き出すガイを促し、その体内から引き抜いた。
「ビリー、は……?」
 イかせなければとでも思ったのか、ガイはビリーへと手を伸ばす。その手を止めて、ビリーはガイの身体を布団へと横たえる。疲れ切った身体は、抵抗をしめすことなく従った。
「今日はもういい。少しゆっくり眠るんだ」
 その言葉にガイの瞳が揺れる。この部屋を使用するようになってから、時折見せるようになった瞳。決して一人で置き去りにされることを寂しいなどとは言わないガイの、隠しきれない感情が浮かんでいる。
 わかっていても、掛ける言葉は見つからない。
「また後で、食事を持って来る」
 それだけ伝えて、後ろ髪引かれる思いを振り切り、ビリーは部屋を後にした。

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サーカス8話 調教再開

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 二度と逃げ出せないような、声の漏れない防音設備の整った部屋を用意して欲しい。その要求に、オーナーは簡単に応じてくれた。
 ビリーはもちろん、ガイに逃げ出す意思がないこともわかっている。それでもそれを求めたのは、セージの目から逃れたいからだった。
 ガイが今後の調教に激しく抵抗する可能性も高かったし、あまりに騒がれては、さして壁の厚くないビリーの部屋ではやはり都合が悪い。ビリーはガイを、新しく用意された部屋へと連れ出した。
「ここが、お前の新しい部屋だ」
「ワイの、部屋……」
 見上げる視線が、さすがに不安で揺れている。それはそうだろう。薄暗い石造りの部屋の中にあるのは、小さな机と簡素な椅子。壁の一部には、何本もの鎖がぶら下がっているのが見える。
 ベッドは当然用意されていないが、カーペットなどという洒落たもののないこの部屋の床に布団を敷くのでは、夜は相当冷え込みそうだった。
 どちらかというと、館の部屋に似ている。窓からさす明かりがある分、多少はましと言えるだろうか。
「残りの調教は、ここでする。お前がどんなに泣いても喚いても、声が外に漏れる心配はないから安心するんだな」
 血の気が失せた表情で、それでもガイは頷いて見せた。
「わかった。ほいで、ワイは、何をしたらええの?」
 返す言葉は、とうに覚悟はできていたとでも言うように、サラリと零れ落ちてくる。こういうところが、セージはもちろんの事、ビリーすら心揺すられる要因となるのだろう。潔くて、頭がいい。
「まずは、自分で身体の中を洗って来い。自分一人で、抱かれるための準備が出来るようになるんだ」
「自分、で……」
「そうだ。やり方はわかっているだろう?」
「ほな、行ってくる」
 ガイはホッと息をつくと、部屋の隅に造られたシャワールームへと足を向けた。
 お前はホント、物わかりが良くて助かるよ。掛けようかと思った声を、ビリーはなんとか飲み込んで、部屋に唯一の椅子に腰掛けた。
 あの日、ガイが体内に注入された薬を洗い流す行為を、ひたすら嫌がって暴れた理由。身体を無理矢理に拓かれる痛みに耐えることは出来ても、排泄を強いる屈辱的な行為で感じてしまう自分を、ビリーには知られたくなかったのだろう。
 あの時ビリーは薬のせいだと思ったが、それだけではなかったことを、館でのガイの様子を問い合わせて知った。あまりの嫌がりように、確かめないわけにはいかなかったのだ。
 開放感のもたらす快感。苦痛だけの日々の中、ガイの身体がガイの意思に反して、それを身につけたのだと言うことは容易に想像できる。けれど、さしておかしな反応ではないのだと言って聞かせるよりも、ビリーは気付かなかった振りをする道を選んだ。
 ただガイが、自分自身が感じると言う行為全てに嫌悪を示すとしたら……
 それはガイが準備を終えて戻ってきたときに明らかになるだろう。たとえ泣かれたとしても、調教の手を緩めるつもりも、そんなものに絆されない覚悟も決めたビリーだったが、やはり出来ることならあの日のような涙は見たくないと願ってしまう。
 ビリーはジッと、シャワールームの扉を見つめ続けていた。
 
 
 シャワールームから出てきたガイを壁際へと呼んだビリーは、まずはその首に首輪を嵌めた。
「ペットらしくていいだろう?」
 お前の態度次第では、鎖に繋がれた生活をさせる。と脅しをかけながら、ビリーは続いてガイの両手首に皮製の手枷を巻き付けた。そうしてから、壁から下がる鎖を繋いで、かかとが少し浮く程度に吊り下げる。
「何を、する気やの……?」
 困惑気味のガイに、ビリーは小さく笑って見せる。
「そんなに脅えなくていい。おとなしくしていれば、痛いことは何もしない。ただ、激しく動かれると、俺が疲れるからな」
 痛い思いをさせないというのは、約束してやれる。それが、ガイにとって救いになるとは限らないが。それでもガイはビリーの言葉を信じたようで、ほんの少し微笑み返しながら。
「ワイのこと、抱くわけとちゃうの?」
 自分へと向けられた笑顔にも、その口から吐き出された言葉にも、ビリーは軽い衝撃を覚えた。
「抱かれたいのか?」
 反対に問い返す。問い返されるとは思っていなかったのか、ガイは考えるように口を噤む。
「まぁ、今抱いたとしても、お前は痛みくらいしか感じないだろうからな」
 答えを待たずにそう告げたビリーは、ガイの左足にも同じように拘束用の皮ベルトを取りつけた。鎖を繋いで持ち上げれば、ガイは右の足先だけが身体を支える、心許ない姿勢となる。
 ビリーの前で裸体を晒すことにはさすがに慣れてしまったガイも、恥ずかしそうに頬を染めた。それでも、ビリーの次の行動を待つように、口を閉ざしている。そうして強制的に開かせた足の間に、ビリーは潤滑剤を垂らした右手を差し込んだ。
「ビリー!?」
 さすがに慌てたような声が上がる。
「酷くはしないと言っただろう? イイ思いがしたかったら、身体の力を抜いておけ」
 声を掛けながら、ゆっくりと指を一本埋め込んだ。潤滑剤の助けを借りて入り込む指に、ガイの肌が粟立っていく。
「ああぁ……っ!」
 堪え切れずに零れる声から甘さを引き出すように、ビリーは慎重にガイの中を探る。それにはさして時間は必要なかった。
「イヤ、ぁ……」
 苦しげな吐息とあふれ落ちる甘い声。いやいやと頭をふる仕草によって、額に掛かる前髪が揺れている。この状況では、そんな些細な髪の動きにすら快感を誘発されるようで、ガイの体は小刻みに震え、彼の体内に沈む人差し指を締めつけた。
「こういう時は『イヤ』じゃなくて『イイ』だ。自分の体が本当に嫌がっているのか、喜んでいるのか、わからなくはないだろう?」
 まだ、追いつめるには早い。強い刺激になりすぎないようにと注意しながら、優しく。熱く絡みついて来る、ガイの体の奥を探る指先をそっと動かした。
「はぁあ、ああァ…」
 歓喜の声に混じって、ジャラジャラと金属の擦れる音が混じる。与え続けた快楽によって、唯一の支えである右足の膝もがくがくと小刻みに震えていた。
 与えられることに慣れていない身体に、途切れることのない快楽を与え続ける。それもまた、一種の責め苦であることはわかっている。それでも、ガイにはこれを、快楽として認識してもらわなければならなかった。
「まだ、わからないか?」
 ガイにならこの一言で、要求されていることがなんなのかわかるだろう。もちろん、ビリーが望む言葉を口にするまで、この責め苦が続くのだと言うことも。
「あ、あぁん……ん、イ、イ……」
 小さな刺激を与えれば、いくぶん声を落とした甘い吐息。その後、恥ずかしそうに頬を赤く染めて、唇を噛み締めた。
「イかせて欲しいか?」
 彼の体の限界を感じて、優しく問う。
「………………イかせて」
 しばらく逡巡した後の小さな呟き。やはりこれも、言えなければ終わらないのだと理解しているのだろう。
「よく言えたな。ご褒美に、気が遠くなるほどイイ思いをさせてやろう」
 ビリーは言いながら、張り詰めた欲望に唇を寄せた。上目づかいに様子をうかがえば、驚いたように目を見張るのが見える。
「や、イヤゃ、ぁ、ああ…ビリー!! やめっ、ビリー!」
 口の中に含んだ途端に、激しい抗議の声があがり、金属の擦れ合う音が大きく響いた。さすがにこれは、ガイの中の予測を大きく超える行為だったらしい。
 そんな抵抗にかまうことなく吸い上げる。埋めたままの指先で少し強めの刺激を与えれば、一際大きな嬌声を響かせてガイの身体が痙攣し、案の定そのまま意識を手放してしまった。
 首輪以外の拘束具を取り外してやったビリーは、そっと布団の上へとガイを運び降ろす。疲れを滲ませながら目を閉じるガイの、額に掛かる髪をそっと掻き上げる。
 何度も優しく髪を梳いてやってから、最後に軽いキスを一つ。涙の流れた後を残す頬へと落として、ビリーは部屋から出て行った。

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サーカス7話 絵本

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 椅子に腰掛けたビリーは、ガイをジッと観察する。
 部屋の隅に置かれた布団周辺がガイのためのスペースだが、そのわずかな空間に、最近増えたのは何冊もの絵本。それらを持ち込んだのはセージだ。
 ガイは字が読めない。ということにもビリーは全く気付いて居なかった。というよりも、そんなことはビリーにとってはどうでもいいことだった。
 相変わらず口での奉仕は続けさせていたが、身体の傷が癒えるまでは次の調教へは進めないし、無理をさせるつもりもない。というのを、あまりにガイの様子を心配するセージに話して聞かせた結果、それなら傷が治るまでの間ガイに文字を教えたいとセージに頼まれた。
 好きにすればいいと答えたのは、多少はガイにも楽しみが必要かも知れないと思ったからだ。
 ビリーの仕事はガイの調教をすることだけではなかったし、当然、ガイを部屋に一人で居させる時間も多かった。その間、ガイが何をして過ごしているのかなどもあまり興味がなかったのだが、考えて見れば、やる事もなくただ時が過ぎるのを待つ以外の事が出来るような場所ではない。文字を覚えて本が読めるようになれば、随分と気がまぎれるだろう。
 もともと学ぶ事に積極的なのか、セージの持ち込む本が面白いのか、やはり暇を持て余していたのか。あっという間に文字を覚えたガイは、それからというもの、ほとんどの時間を本を開いて過ごすようになった。
 呼べばすぐに本を閉じるし、前のように口での奉仕を嫌がる素振りもない。といよりも、前よりも随分積極的に奉仕するようになった。さっさと終わらせて本を読みに戻りたいのかと思うと、複雑な気分ではあったが、理由がなんであれガイの変化はビリーにとっても都合が良い。
 そう。都合が良いはずだった。
 元々ガイが部屋で何をしてようと、自分の邪魔さえしなければ構わなかったし。セージが部屋に出入りする頻度があがる程度のことを、許容できないほど狭量ではないつもりだし。
 なのに、この言いようのない胸の重さはなんだろう?
 ビリーは本へと視線を落とすガイの真剣な表情を見つめながら、そう自問自答を繰り返す。そんな中、コンコンと扉を叩く音が部屋に響いた。
 その音を聞きつけて顔をあげたガイは、自分を見ていたらしいビリーの視線に驚き、戸惑いの表情を滲ませる。それには気付かない振りで、ビリーは顎をしゃくって見せた。頷き、ガイは立ち上がるとセージを迎えるためにドアを開く。
「やあ、ガイ」
「いらっしゃい」
 毎度変わらぬセージの笑顔に、返すガイの微笑み。それも大分見慣れてきたなとビリーは思う。
「ビリーも、おじゃまします」
「ああ」
「珍しいお茶の葉を頂いてね。一緒に飲もうと思って、持ってきたんだ」
 いいよね? と、拒否を許さない笑みを見せながら問われれば、ビリーも渋々了承を告げる。和やかなティータイムなどというものを、この部屋で、ガイを含めた3人で、過ごしたいなどとはカケラも思っていなくても。
 ただ、ビリーが望んでいないことに気付いている筈のセージが、何を考えてこんなことをするのか知っていて、拒否しきれない自分自身に。ビリーは胸の内で溜め息を吐き出すだけだ。
「ほな、湯わかさな」
「よろしく、ガイ。自分の分もちゃんと淹れておいでね」
 お茶の準備を始めるガイに声を掛けてやってから、セージはビリーの正面に置かれた椅子に腰掛けた。それと同時に机の上に置かれた本に、ビリーの視線が注がれる。絵本と呼べる厚さではないソレ。
「絵本じゃすぐに読み終わっちゃうみたいだからね」
 ビリーの視線に気付いたセージが、そう説明をくれた。
「何度も楽しげに読み返してるみたいだけどな」
「うん。それも知ってるけど」
 ビリーは本を手に取ると、ザッと中へ目を通す。
「読めるのか?」
 いくら児童向けの本であっても、数日前まで字の読めなかった子供が理解できるのだろうか?
「綴りを見て発音できれば、意味はだいたいわかる筈だよ。そこまで難しい単語は入ってないと思うし」
「ま、アイツは喜ぶだろ」
 どうせ、知らない単語はお前が教えてやるんだろうし。そう続けながらパタリと本を閉じた所で、お茶を淹れたガイが戻ってきた。
 元々その程度の雑用はビリーが何も言わずとも、教えずとも出来ていたガイだが、セージが出入りするようになってから、淹れるお茶の味が良くなった。ということにも、気付いてしまった。
 まったく、嫌になる。セージから新しい本を受け取り嬉しそうに頬を紅潮させるガイを横目に、ビリーはこっそりと溜め息を吐き出してカップの中の液体を揺らした。
 いい加減、この気持ちの正体を、認めてしまうべきだろうか?

>> 認める

>> 認めない

 

 

 

 

 

 

 
 
<認める>

 相手は仕事道具でしかないはずの子供で、だから、極力ガイ自身へ感心を持たないように気をつけていたのに。セージへと見せる笑顔に気持ちが揺らいでしまう、これは、嫉妬。
 バカバカしい話だ。セージのように優しさで接してやれたらいいのに。なんて感情は、邪魔でしかない。憎まれることはあったとしても、ガイが自分へ笑い掛ける事などないというのも、ビリーは充分承知していた。
 別にそれでもいいと思っているが、ただ、目の前で繰り広げられる穏やかな光景は、色々な気持ちを鈍らせてしまうので困る。
 セージの思う壺だと、ビリーは胸の内で呟いた。
 そろそろガイの傷も癒えるが、調教を再開する際には、極力セージを遠ざけるべきだろう。ガイには文句など言わせはしないが、セージの方は簡単には了承しないかもしれない。
 さっそく本を開いて、一緒になって読み進めている二人を眺めながら、ビリーはどうするべきかを考えていた。

>> 次へ

 

 

 

 

 

 

 

 
<認めない>

「バカバカしい」
 洩らした呟きに、二人がビリーを窺い見る。
「どうしたの?」
「お前がどんなにガイを気にかけてやって、こんな風に、俺との仲を取り持つような時間を作ったとしても。俺にとってこいつは、仕事道具でしかないってことだ」
「仕事、道具……?」
「そうだろう? 俺は、こいつを従順な性の奴隷にしたてあげるのが仕事。その対象でしかない相手と、笑ってお茶を飲もうなんてのが、バカバカしくないわけがない」
 その言葉に、セージは怒りを、ガイは悲しげな微笑を。それぞれ顔に浮かばせる。
 ビリーはそんな二人を残して席を立った。
「明日から、再開するからな」
「ビリー……」
「ガイの傷が癒えるまで。そういう約束だったな、セージ」
「それは、僕を、出入り禁止にするって意味?」
「こいつが俺に抱かれて喘ぐ姿が見たいってなら、好きにしろ」
 言い捨てて、ビリーは部屋のドアへと向かって歩く。
「どこ、行くん?」
 戸惑い気味に声を掛けてきたのはガイだった。一度チラリと振り返り、すぐにまたドアへと顔を向けて。
「今日だけは、お前を自由にしてやるよ」
 その言葉の意味を、どんな風に理解しようとかまわないと思った。
 セージの手を借りて、今度こそ逃げ出すのもいいだろう。セージにはきっと、伝わっている。
 背後で閉まるドアの音に促され、ビリーはその場を後にした。

 

 

 ビリーが戻った時、そこに二人の姿はなかった。
 行ったのだ。酷くホッとしている自分に気付いて、ビリーは小さく笑う。
 セージのことだから、きっとガイを守りきるだろう。年相応の子供らしい笑顔だって、セージが相手なら見せるかもしれない。
「さて、俺はオーナーのお叱りを受けに行ってくるかな」
 手にする筈だった報酬がなくなってしまうのは惜しいが、セージが出て行った今、ビリーまで解雇したりはしないだろう。
 柔らかな笑顔を見せる友人と、きっと愛しさを感じ始めていた子供と。失くした寂しさもあったけれど、二人の幸せを願える自分にビリーは満足していた。

< セージエンド2 >

 
 
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サーカス6話 クスリの排泄

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 コンコンと部屋の扉が叩かれる。
「入ってこい」
 机の上の写真を握りつぶしたビリーは、それをゴミ箱に放りこんでから入室の許可を与えた。
 ゆっくりと扉を押し開いたのは、セージではなくガイ自身だった。
 前と変わらない、何か強い意思を秘める瞳。だから同じように、ビリーもガイを前と変わらぬ冷たい視線で射抜く。
「ここに帰って来るということが、どういうことか。分かってるんだろうな?」
 その視線をしっかりと受け止めながら、ガイは黙って頷いた。
「服をすべて脱いで、こっちへ来い」
 一瞬のためらいさえ許さない口調に、ガイはおとなしく服に手をかけていくが、その様子を見ていたセージは驚きに目を見張った。
「ビリー……?」
「セージ、席を外してくれ」
「でもビリー、ガイは戻ってきたばかりでまだ身体に傷が残ってる状態なんだよ。もし、これ以上ガイを傷つけるようなことをするつもりなら、僕はガイを自分の部屋へ連れていく」
「今のお前に、そんなことをする権利はないだろう?」
「なくても、放っておけない」
 セージは服を脱いでいくガイの腕をとってその行為をやめさせる。けれどガイは、セージを見上げながらゆっくりと首を横に振る。
「ええねん。こうなることはわかっとったし。それでも、ここに、帰って来たんやから」
 だから平気やと、ガイはほんの少しだけ微笑んでみせた。それを見たビリーは、わずかに眉を寄せる。ガイの笑顔など、初めてだったからだ。
「セージ……おおきに。また、会えるとええな」
「会えるよ。会いに、来るから」
 目尻に涙をためたセージは優しく微笑んで、ガイの額に小さなキスを一つ落とした。擽ったそうに身を竦ませたガイは、それでも一瞬、瞳の中に嬉しさを滲ませる。
 ビリーはその一瞬を見逃したりはしなかった。
「セージ」
 呼んだ名前は、やはり咎めるような響きだった。
「出ていくよ。でも、本当に……」
 何かを言いかけて、けれど。
「君を、信じてるよ。ビリー」
 ビリーにも同じように優しい笑みを向けて、セージは部屋を出て行った。
「チッ」
 扉の閉まる音にまぎれてビリーがもらした舌打ちは、ガイの耳には届かなかった。
 
 
 口内に放たれたものをむせることなく飲み下したガイは、ホッとして肩の力を抜いた。
「イイコだ、ガイ」
 その言葉に驚いて、ガイは顔をあげる。ビリーがそんな風に言葉の上だけでもガイを褒めたのは初めてだった。
 一瞬見せた期待に応えてやったほうが良いのか、ビリーも瞬時に考える。けれど結局、そんなのは自分に似合わないだろうと結論付けた。
 セージのように優しく微笑んでなんてやれない。
「ずいぶん上手くなったもんだ」
 作りやすいのは、蔑むような表情。ガイの瞳の中、明らかに落胆の色が見て取れる。
「他にも色々教わってきたんだろう?」
 先ほどセージに見せた微笑が脳裏に過ぎったが、意識的に掻き消した。
「ココで、相手を喜ばす術も、仕込まれて来たのか?」
 ビリーはガイを引き寄せると、言いながらその場所へと指を這わす。
 ガイの身体がピクリと震えた。仕込むという言葉が当てはまるほど、丁寧に扱われてはいなかっただろう。ビリーが確かめたいのは、むしろ傷の具合だった。
「言え」
 震える唇から言葉は生めず、ガイは辛うじて首を縦に振る。
「なら、次はココで楽しませて貰おうか?」
「ぅっ……」
 指先を潜り込ませれば、息を詰めて身体を強張らせる。
「力は抜いておけ」
 一応そう声を掛けながらも、緊張したままのガイに構わず、ゆっくりと奥を探っていく。指に触れる違和感に、すぐにビリーは眉を寄せた。
「……んっ、ふぅ……」
 小刻みに震えるガイの体と、こぼれ出す熱い吐息に、確信を持つ。
 ビリーはガイの体の中を探っていた指を引き抜くと、ガイの腕を掴んで立ちあがった。うるんだ瞳から、今にも溢れてしまいそうな涙は見なかったことにして、顔を背けたビリーはそのまま引きずるようにガイを部屋の隅に造られたシャワールームへと引っ張って行く。
「この、バカが……」
 焦りが滲み出た強い口調に、ガイの身体が怯えて竦む。
 バカなのは俺か……
 そんな自嘲めいた思いを抱えながら、ビリーは狭いシャワールームにガイを押し込んだ。戸惑うガイを放置したまま、フックに掛かったシャワーを手に取ると、ヘッドを外してからお湯の温度と流出量を調節する。
「壁に手をつけて、ケツをこっちに向けるんだ」
「何、する気やの……」
 震える声にようやくガイの顔をまっすぐに見つめれば、そこにあったのはいつも見せる強気の瞳ではなかった。本気で、怯えていた。
「入れられた薬を洗い流すに決まってんだろ」
「い、嫌や!」
「そのままにしてたら、気が狂うぞ?」
 子供相手に使うような物ではない媚薬。それがたっぷりとガイの腸内に注がれていた。
 館ではこんなことまでが日常なのだろうかと一瞬考え、さすがにそれは否定する。ただ、この酷く扱いにくい子供を今後も調教していかなければならないビリーに対する心遣いだというのなら、余計なお世話もいい所だ。
「それでも、ええ」
「お前が良くても、俺が困るんだ」
「お願いや……中、洗うんは、堪忍して……」
 すっと視線を逸らせたガイから、細く吐き出されてくる声は、やはり震えている。『お願い』などという言葉をガイの口から聞く日がくるとは思わなかった。
 目の前で震える小さな身体を、優しく抱きしめてやりたい衝動がビリーを襲う。そう出来ない代わりに、ビリーは努めて柔らかな口調で尋ねた。
「残念だが、わかった……と言ってやれる状況じゃない。しかし、何がそんなに嫌なんだ?」
 館に居る間、経験した相手の数だけ、身体の中を洗うという行為も繰り返されていたはずだ。毎回この調子で嫌がっていたとは思えないし、そんなことは許されないだろう。
 ガイはキュッと唇を噛んで、答える事を拒んでいる。
「言えないならそれでもいいが、とにかく薬を洗い流すから背中を向けろ」
 フルフルと首を横に振るガイに、ビリーは溜め息を一つ吐き出した。
 やはり、力尽くでやるしかないのか。諦めて伸ばした手を、ガイの手が力なく払う。当然、そんなものはたいした障害にはならなかった。
 入り口にビリーが立ち塞がっている状況のシャワールームに逃げ場などない。ビリーは無言のままガイの身体を捕らえると、後ろを向かせて腰を抱えあげる。
 チョロチョロと流しっぱなしになっていたシャワーホースを掴んで、その先を入り口へと押し当てた。
「やっ! 嫌や!!」
 逃れようと暴れる身体を、ビリーは強い力で押さえつける。ガイの嫌がる声だけが大きく響く中、ビリーは頃合いを見計らって、一度目の排泄を促した。ビリーの服の裾を強く握り締めて、ガイは必死で頭を振る。
「何我慢してるんだ。いいから出せ」
「やぁ……ぁぁ……」
 トロリとした薄紅色の薬と湯が混ざり合って流れ出し、排水溝へと吸い込まれていく。ぐったりと力の抜けた身体がズルズルと崩れて行くのを、ビリーは慌てて支えてやった。
「しっかりしろ。まだ終わっちゃいないんだぞ」
「も、堪忍や……」
 こぼれる涙を隠すように、ガイは腕を上げて目元を隠す。
 ビリーは腕の中の身体を抱えなおすと、確認するようにガイの中へと指を埋めた。先ほどの排泄で緩んだ入り口は、こぼれ出た薬の滑りもあって、やすやすとビリーの指を受け入れる。
「あっ、あっ、なにを……?」
 ガイの身体が大きく弾む。
「湯で洗われるのが嫌なら、指で掻き出してやる」
「そんなん、あっ、ああん」
 溢れてしまう嬌声に、ガイの顔が羞恥で赤く染まった。
「感じるのは薬のせいで、おかしな事じゃない。イきたければイってもいい」
 幼い身体でありながらも、明らかに快楽を示し始めたガイに、ビリーはそう声を掛ける。しかしやはり、ガイは困ったように首をふるだけだった。
 それでもだんだんと、先ほどのように、ただ嫌がってもがくのとは少し違った反応に変わって行く。
「どうした?」
 あふれ出る嬌声すら枯れて、苦しそうに短く息を吐き出し始めたガイの顔を覗きこんだビリーは、その泣き顔に思わず息を飲んだ。顔中を涙で濡らしたガイは、どうやら自分の中に湧きあがる快楽の波を持て余しているらしい。
 他人のモノを口に含んでイかせることも覚えたくせに、自分の精を吐き出す術をまだ知らないのだ。気付いて苦笑を洩らしたビリーは、ガイの幼い性器へもう片方の空いた指先を伸ばした。
「……ぃ」
 力の入らない身体を捻って、それでも逃げようとするガイの零した呟きは『怖い』。
「大丈夫だ。心配するな」
 言いながら、涙の滲む目元へ、頬へ、優しく唇を押し当てる。そうしながら、手の中のモノをイかせる目的でゆっくりと扱いていく。
「あっ、ああっ……」
 ビクビクと身体を震わせてガイは意識を手放してしまったが、その手を汚すモノはない。
 そこまで子供だったのだと思い知らされるようで、胸の中に広がる罪悪感。それを振り払うように、ガイの身体を軽く洗ってやったビリーは、柔らかなタオルにその身体を包んで抱き上げた。

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