120分勝負 うっかり・君のそこが好き・紅

 部活終了後、部室で着替えていたら一足先に帰り支度を終えた後輩がススッと寄ってきて、先輩これどうぞと小さな横長の箱を差し出された。意味がわからず着替えの手を止めて相手を見つめてしまえば、先輩にあげますと言いながらそれを胸元に押し付けてくる。
「お、おう……じゃ、サンキューな」
 何がなんだかわからないまま受け取り、取り敢えずで礼を言った。しかし受け取っても後輩は隣を動かない。つまり、この場で中を確認しろということか。
 仕方なく手の中の箱を開けて中身を取り出す。出てきたのは多分口紅だった。なんでこんなものをと思いながら首を傾げてしまったのは仕方がないと思う。
「先輩にはそっちの色のが絶対似合うと思うんですよね」
 そんな自分に気付いたようで、隣から説明するかのような言葉が掛かったが、それを聞いて一気に血の気が失せた。
「はい、お前居残り決定な」
 周りに聞こえるように声を張り上げ、戸惑う後輩を横に残して着替えを再開する。後輩がなんでとかどうしてとか尋ねてくる声は無視をした。だって相手をする余裕なんてまるでない。内心はひどく動揺し焦っていた。
 どうしようどうしようどうしよう。一体どこまで知られているんだろう。
 昨年の文化祭後、先輩たちが引退して演劇部の部長を引き継ぎ、部室の鍵閉めをするようになってから、誘惑に負けるまでは早かった。なんだかんだと理由をつけて他の部員たちを先に帰した後、中から鍵を掛けた密室で、部の備品を借りてひっそりと女装を繰り返している。
 成長期を終えたそこそこガタイのある男に、ピラピラのドレスも、長い髪も、ピンクの頬も紅い唇も、何一つ似合わないのはわかっている。姿見に映る自分の姿の情けなさに、泣いたことだってある。それでも止められないのは、変身願望が強いからなんだろう。
 長い髪のかつらを被って、丈の長いスカートを履いて、胸に詰め物をして化粧を施せば、そこにいるのは醜いながらも全く別の誰かだったからだ。
 演劇部へ入ったのだって、役を貰って舞台に立つことが出来れば、その時だけでも別の誰かになれるかもと思ったからだ。昔から、自分のことが好きになれず、自分に自信が持てずにいる。
 部長になったのだって、部を引っ張って行きたい意志だとか、仲間の信頼が厚いとかそんなものはあまり関係がなくて、単に面倒事を嫌な顔をせず引き受ける利便さから指名されたに過ぎないとわかっていた。そんな頼りない部長のくせに、部室の鍵を悪用し、部の備品で好き勝手した罰が当たったのかもしれない。
 先日うっかり鍵を締め忘れたままで居残った日がある。もし後輩に知られているとしたら、きっとその時に見られたのだろう。
 反応しないこちらに諦めたようで、後輩は近くの椅子に腰掛け、部員たちが帰っていくのを見送っている。自分も着替え終えた後は近くの椅子に腰を下ろしたが、もちろん内容が内容なので会話を始めるわけに行かず、取り敢えずで携帯を弄って時間を潰した。
「で、なんで俺が居残りなんですかね?」
 やがて部屋に残ったのが二人だけになった所で、待ってましたと後輩が話しかけてくる。それを制して一応廊下へ顔を出し、近くに部員が残っていないことを確認してからドアの鍵を掛けた。一応の用心だ。
「それで、お前、あんなのよこしてどういうつもり? てかどこまで知ってる?」
 声が外に漏れないように、さっきまで座っていた椅子を後輩の真ん前に移動させて、そこに腰掛け小声で尋ねる。なるべく小声でと思ったら、しっかり声が届くようにと知らず前屈みになっていたようで、同じように前屈みになった後輩の顔が近づいてくるのに、思わず焦って仰け反った。
「ちょっ、なんなんすか」
「ご、ごめん。てか近すぎて」
「まぁいいですけど。で、どういうつもりも何も、さっき言ったまんまですよ。先輩には、あの色のが似合うと思ったから渡しただけです」
「だから何で男の俺に口紅なんかって話だろ。ていうか、つまりはあれを見た、ってことだよな?」
「先輩が居残って女装練習してるのって、やっぱ知られたらマズイんですか?」
 練習という単語に、そうか練習と思われていたのかとほんの少し安堵する。じゃあもう練習だったと押し通せばいいだろうか?
「知られたくないに決まってんだろ。あんな似合わないの」
「まぁ確かに、似合ってるとは言い難い格好では有りましたけど、やりようによってはもうちょいそれっぽくイケると思うんですよね。だから尚更、一人で練習しないで人の意見も取り入れるべきじゃないですかね?」
 知られたくないなら他の部員たちには内緒にするから、ぜひ協力させてくださいよと続いた言葉に目を瞠った。
「な、なんで……?」
「なんで、ですかね? 先輩の女装姿に惹かれたから、とか?」
「何言ってんだ。似合ってなかったの、お前だって認めたろ」
「だからその、似合ってなかった所が、ですよ。これ俺が弄ったらもっと絶対可愛くなるって思ったというか、なんかこう、とにかく先輩のあの格好が目に焼き付いて、気になってたまらないというか」
「なんだその、一目惚れしました、みたいなセリフ」
「あー、まぁ、それに近い気もします」
 何言ってんだという苦笑に肯定で返されて、なんだか体の熱が上がっていく気がする。
「せっかく二人だけの居残りですし、今から、ちょっとあの口紅、試してみません?」
 衣装とかつらも俺が選んでいいですかと、すっかりその気な後輩に押し切られるようにして、その日から時々二人だけの居残り練習が始まってしまった。

「一次創作版深夜の真剣一本勝負」(@sousakubl_ippon)120分一本勝負第71回参加

 
 
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好きだって気づけよ2(終)

1話戻る→

 意気消沈した彼女の隣を歩きながら、弟の考えていることが本当にわからないと思う。まさか彼女本人にクズ女だのブスだの言って泣かせるなんて思わなかった。
 元々若干のツンデレ傾向にあるとは思っていたし、もっと幼かった頃は好きな子にちょっかい掛けすぎて嫌われるなんて事もあったけれど、暴言吐いて泣かせるような真似をしたら関係は悪化しかしないと理解できる程度には成長したと思っていたのに。
 それとも弟も彼女を好きだという考え事態が間違いなのか?
 でもだとしたら、わざわざ自分に隠れて彼女と会う意味がますますわからない。
 結局彼女の隣を歩いていても、考えるのは弟の事ばかりだった。
 それでもなんとか彼女に弟の非礼を詫び、家の前まで送り届けた後は真っ直ぐ自宅へ帰る。部屋に戻れば、まだ不貞腐れたままではあったが弟はちゃんと在室していた。
 弟は二段ベッドの上段を使用しているのに、下段であるこちらのスペースで仰向けに寝転がりながら膝を立てて足を組んでいる。ドアの開閉に気付いてチラリと投げられた視線は依然としてキツかった。
 その視線を受けながら部屋の中を移動し、並んだ勉強机の自分の方の椅子に腰掛けて、自分も二段ベッドの下段を睨み返す。
「何その態度。言い訳があるなら聞くけど、一応、怒ってるのは俺の方だからな」
 言えば大きなため息とともに体を起こし、ベッドの端に腰掛ける。
「別に。言い訳なんかないけど」
「お前さ、彼女が好きなの?」
「はぁあああああ?」
 聞けば随分と大きな呆れ声で返された。ああやっぱりと思う反面、じゃあなんでと思う気持ちが益々大きくなる。
「どこをどう見たら、俺がアレを好きって話になんの? 頭大丈夫?」
「だって俺に隠れてこっそり会ってる意味がわからない。俺の彼女だから、俺のふりすれば彼女と一緒に遊べるとか考えてたのかと思って」
 弟は険しい顔になって、ふーんと鼻を鳴らした。なんだかバカにされているようで腹立たしい。
「じゃあ仮に、俺が兄貴の彼女を好きでこそこそしてたとして、それ知ったアンタはどうすんの? 俺が本気なら仕方ないとか言って、身を引いてくれるわけ?」
 優しいお兄ちゃんは俺のために彼女と別れてくれそうだよねと、今度は完全にバカにした口調で告げてくる。ホントなんなの。腹が立つ。
「お前が本気だってならそれも考えるけど、でも違うんだろ。それとも前言撤回して、彼女が好きだから彼女と分かれて下さいって、俺に本気でお願いする?」
 正直に言ってご覧よとこちらも煽るように告げれば、弟は興ざめしたと言わんばかりにハッと鼻で笑った。
「ばっかじゃないの」
「お前に言われたくないよ」
「だいたいアンタだって本気でアレが好きってわけじゃないだろ」
「アレって言うのヤメロ。後、好きだから付き合ってるに決まってる」
「どこがだ。俺に譲れる程度にしか好きじゃないって、今自分で言ったくせに」
 さっさと別れちまえよと続いた言葉に、やっぱ好きなのと聞いてしまったのはさすがに失敗だったらしい。一度がっくりと肩を落とした弟は、ベッドから立ち上がると無言でこちらに向かって歩いてくる。怒っているよりは呆れているような気はするけれど、感情がわかりにくい冷ややかな表情で圧迫感が凄い。
「ちょっと、何……」
 目の前に立たれて必然的に見上げる形になり、背筋に冷たいものが流れる気がする。きつい視線で睨まれたって怖くなんかないけれど、この冷ややかな無表情はさすがに少し怖いと思った。
「俺が好きなのはアンタだよ」
「は?」
「兄貴だって俺を好きだろ?」
「いやそりゃ弟だし、互いが一番の理解者だと思ってるし、好きか嫌いかで言えば好きに決まってるけど」
「そういう話じゃないのわかってるくせに。アンタは付き合ってる彼女を俺に譲れちゃうくらい、俺が好きなんだよ」
「いやいやいや。何言ってんの」
「何言ってんのはこっちのセリフ。男同士だし、兄弟だし、双子だし、認めたくないのかもしれないけど、いい加減俺を好きだって気づけよ、ばーか」
 アレにわざわざ接触したのなんか、二人の仲を円満に裂くために決まってんだろと言った弟は、でももうバレたからどうでもいいやとなんだか随分と投げやりだ。
「どういう、意味……?」
「この展開はかなり予定外だったけど、本気でアンタ落としにかかるから。って意味?」
「何言ってんの。俺たち兄弟なんだけど」
「だからそれ今更だって」
 ニヤッと笑った顔が近づいて、えっ、と思う間に柔らかな唇が自分の口に押し当てられていた。

有坂レイへのお題は『貴方と私でひとつ・「好きだって気付けよ、ばーか」・やわらかい唇』です。https://shindanmaker.com/276636

 
 
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好きだって気付けよ1

 生まれた時からどころか、母のお腹の中に居た時から、自分たちはずっと一緒だった。もっと言うなら一卵性の双子だから、ずっと一緒どころか元は一つだ。
 時には親でさえ間違うほどそっくりな自分たちは、ずっと互いが一番の理解者で、なんでもわかり合えていた。
 なのに最近、弟が何を考えているのかわからない。なんて思ってしまうことが増えている。
 せっかく出来た初めての彼女を、さんざんブスだなんだと貶しまくったくせに、何故かその彼女と出掛けているフシがある。しかも、自分になりすまして。
 彼女と話していて、時々違和感を感じることがあったのだが、それは自分が彼女との会話を忘れているのか、彼女が別の誰かと混同しているのかと思っていた。でも違う。きっと自分になりすました弟が、彼女と会っていたのだろう。
 確証はない。実際に弟が彼女と出掛けたり親しく話している姿を見たわけじゃない。でもそうとしか思えなかった。
 元は一つの自分たちは、なんだかんだ好みだって似ている。結局のところ弟だって、彼女のことを好きなのかもしれない。そう思うと、胸の何処かが少し苦しい。
 初めて出来た彼女だから大事にしたいとは思うけれど、自分の代わりでいいから少しでも彼女と話したいデートしたいと思うほど弟が思い詰めているなら、きっと自分は身を引くだろう。そんな自分の性格を、弟がわからないはずがない。だからこそ、隠れてコソコソと会われているのが辛いし、出来れば気の所為にしたかったのに。
 弟の態度にあからさまな変化はなく、そんな弟を疑うことに罪悪感を感じたりもしたが、もんもんとする日々に耐えられたのはひと月が限度だった。本当に弟が自分になりすまして彼女と会っているのか、確かめずには居られないほど、こちらの気持ちが追い詰められてしまった。
 やったことは簡単だ。休日に彼女と出かける予定を立てて、当日の朝、具合が悪いと言って彼女に断りの連絡を入れただけ。そしてそれを、せっかくデートだったのに残念だと弟に漏らしただけ。
 弟はデート云々をまるっとスルーしつつ、早く治せよとこちらの体調をかなり心配げに気遣ってくれたが、暫くすると買い物に行ってくると言って家を出ていった。もちろんこっそり後を追いかけたのは言うまでもない。
 はるか前方を歩く弟がどこかに電話をかける姿を見ながら、それでもまだ、相手が彼女ではないことを祈っていたのに。
「会ってて欲しくなかったな」
 彼女と合流するのを見届けた後、そう言って声をかけたら、彼女はえらく驚いた顔をして、弟は不貞腐れたような顔になった。
 聞けば彼女は本当に何も気付いていなかった。彼女とのやり取りはほぼラインを使っているのをいいことに、彼女の携帯に登録した電話番号はいつの間にか弟のものに変えられていて、弟は電話で彼女とやりとりしていたらしい。
 彼女が酷いと怒るのは当然だ。なのに弟は、彼氏とその弟の区別もつかないようなクズ女だと嘲り、こんなブスとはさっさと別れりゃいいとまで言って彼女を泣かせたので、思わずその頬を叩いてしまった。
 ギラリと睨まれたけれど、こちらが悪いなんて欠片も思っていなかったので、呆れたと言わんばかりにため息を吐いてみせる。
「最近お前、ちょっとオカシイぞ。帰って少し頭冷やせ」
「アンタは? 体調悪いくせに、一緒に帰らないつもり?」
「泣いてる彼女放っておけるわけないだろ。後ごめん、体調不良っての、嘘だから」
「ああ、つまり、最初っから全部罠かよ。クソがっ」
「凄むなって。彼女が怖がるだろ。彼女送ってから俺も帰るから、そしたら一回しっかり話、しよう」
 それだけ言って、まだグスグスと泣いている彼女を促し、取り敢えずは急ぎその場を離れることにする。まっすぐ帰ったかは怪しいけれど、少なくとも弟が自分たちを追ってくることはなかった。

続きました→

有坂レイへのお題は『貴方と私でひとつ・「好きだって気付けよ、ばーか」・やわらかい唇』です。https://shindanmaker.com/276636

 
 
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ベッドの上でファーストキス2(終)

1話戻る→

 促されて仕方なくを装いながらベッドの中に入れば、待ってましたとばかりに兄の体が擦り寄ってくる。慌てて背中を向けながら、ベッドヘッドの棚に置いてあるはずの、照明器具のリモコンを手探りで探す。
「はいこれ。てかお前、なんでそう頑なに俺に背中向けるかな」
「兄弟で、男同士で、向き合って抱き合って眠るとか、なにその拷問。キモいんだけど」
 リモコンを背中越しに渡してくれながらの兄の言葉に、思ってもない言葉が口からこぼれ落ちる。いやでも、ある意味拷問には違いないか。
「俺は別にキモくないけど。嫌がってるの無理矢理一緒に寝てもらってるんだから仕方ないのかもだけど、でもやっぱちょっと寂しい」
 バカじゃないのと返しながら明かりを消せば、酷いと言いながら背中にグリグリと額を押し付けてくる。しかも胸の前に腕が回され、ぎゅっとしがみつかれた。
「ちょっ、と。何してんの」
「昔はもっと可愛かったのにー。ぬくぬくのちっちゃな手で俺の手握ってくれて、足だってお前っから絡めるようにして温めてくれてさ。ちょっと体が大っきくなってベッド狭くなったからって、体は温かいままなのに態度が冷たくなりすぎ」
 むしろ昔以上にひっつけばベッドの狭さだって気にならなくなるんじゃないのなどと言って、更にぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまって焦る。クスクスと笑っているから、明らかに兄はふざけているだけなのに。自分だけが兄を意識していると突きつけられるようで苦しい。
「いい加減にしろよっ!」
 思わず上げた声は思いの外大きく響いてしまって、背後でギクリと兄が固まる気配がした。
「その、……ごめん」
 小さな呟きの後、体に回されていた腕が解かれて、もぞもぞと兄が離れていく。さすがに気まず過ぎる。
 今度はそっと小さなため息を吐き出して、くるりと寝返りをうち兄へと体と顔を向けた。暗いので兄の表情はわからないし、こちらの表情だってきっと兄に見えてはいない。けれどこちらは至って真剣な顔をしているし、きっとそれは気配から伝わっているはずだ。
「まずは、怒鳴ってごめん」
 静かな謝罪に、兄が小さく息を呑む気配がした。いつもと違うこちらの気配に、やはり戸惑っているだろうか。
「でも頼むから、あんまり余計なことしないで。本気で俺に、ベッドから追い出されたくないなら。俺をこの先もまだ、人間カイロとして冬の間は重宝したいって思ってるなら」
 お願いだからと本気で頼み込めば、掠れた声でどうしてと聞いてくる。出来ればそれすらも、聞かずに居て欲しかった。
「弟だって思って油断して、ベタベタ甘えてくるのはそっちの勝手だけど、その結果、俺に襲われても知らないよ。……って言ったらわかってくれんの?」
「えっ?」
「気持ち悪いって思ったなら、寒いの我慢して一人で寝て。てかホント、キモい弟でゴメンな」
「キモくないよっ!」
 今度は兄の声が大きく響いた。
「えっと、それって俺を好きって、そういう意味と思っていいの?」
 そっと伸びてきた兄の手がこちらの手を探り当てて、だらりと伸ばしていた指先を、冷たい指がキュッと握り込む。まるで縋られているみたいな気分になって落ち着かない。
「だったら、嬉しい」
 いいとも悪いとも返さず黙っていたら、まるで肯定とみなした様子で喜ばれてしまった。ちょっと意味がわからない。
「喜ぶなよ。兄弟の好きとは明らかに違う好きだって、アンタほんとに理解してんの?」
「してるよ。理解してるから、喜んでるんだろ」
「なんでだよ」
「そんなの、俺も、お前を好きだからに決まってる」
「えっ……」
 耳に届いた言葉を理解できずに固まってしまえば、一旦は離れた距離を兄がまたもぞもぞ動いて詰めてくる。
「キスとかしたい。って意味の好きなんだけど」
 暗さに目が慣れたのとかなり近づいた距離に、兄の酷く真剣な顔が見えてしまった。
「ほん、き……?」
「冗談言ってないのわかるだろ」
「兄弟だぞ」
「うん」
「許されるわけない」
「誰が許さなくたって、俺が許すよ」
 ああ、うん。この兄は昔からこういう人だった。
 それでもまだ、一緒になって喜ぶ気にはなれずに抵抗してしまう。
「兄貴ってのは弟が道踏み外そうとしてたら、正してやるもんじゃないのかよ」
「たった一年先に生まれただけで、そんなの期待されても困っちゃう。むしろ弟ってのは兄の巻き添え食らうもんなんじゃないの」
「で、いつから好きだったわけ?」
「それ聞いてどうすんの」
「俺より先に好きだったなら、確かに巻き添えくらいまくった結果なのかと思って」
「実の兄貴を好きにならせちゃってゴメンね?」
 つまりは相当昔から好きだったという意味だろうか。こうなってくると、この歳で寒くて寝れないと弟のベッドに潜り込むのも、どこまで純粋に寒さからの行動なのかわからないなと思った。
「まぁ、でももう、どーでもいいや。で、ホントにキスしていいの?」
 したら兄弟には戻れないよと脅しても、あっさりいいよと返ってくる。
「多分だけど、お前より俺のが先にお前好きになってるし、兄弟だからとか男同士だとか、そういうのいっぱい考えてきてるんだよね。だから安心してって言ったら変だけど、お前より絶対俺のが覚悟済みだからさ」
「じゃ遠慮なく」
 言って兄の体を自分から引き寄せ、そっとその唇を塞ぐ。覚悟済みなんて言っておきながらも、唇はかすかに震えているようだった。
 口の中に舌を突っ込んで舐め回したい欲求はもちろんあったが、震える唇を割って入り込むなんて真似は出来そうにない。
「唇震えてんだけど、ホントに覚悟できてんの?」
「出来てるってば。てかお前と違ってこっちは正真正銘ファーストキスなんだから、慣れてないのは仕方ないだろ」
「ちょっ……」
 とんでもない理由に絶句しながらも、胸の中には嬉しさと愛しさが湧き上がっていた。

有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「真剣な顔」、ポイント:「ファーストキス」、「お互いに同意の上でのキス」です。https://shindanmaker.com/19329

 
 
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ベッドの上でファーストキス1

 風呂から上がって自室に戻れば、ベッドがこんもり盛り上がっていた。もちろん、風呂へ入るために部屋を出る前のベッドに、そんな盛り上がりはなかった。
 無言でベッドに近づき足を持ち上げ、その盛り上がりを足の裏でグイグイ蹴り押す。
「ちょっ、やめろって」
「それはこっちのセリフだ」
 なおもグイグイ押していたら、ようやく盛り上がりが動く気配がして足を下ろした。けれど起き上がるのかと思ったら、その盛り上がりはくるりと寝返りを打っただけだった。
「起きろよ」
「やだ。ここで寝る。寒い」
 確かに今夜は相当冷え込んでいるけれど、そんな理由で弟のベッドに我が物顔で入り込むのはホントどうかと思う。
 こちらが嫌がるからか頻度は減ってきたけれど、隙を見ては潜り込まれていた。それでも、こうして最初から一緒に寝ようという態度で来ることは珍しい。いつもは夜中に目覚めてしまい、寒さで二度寝が出来ない時にやってくる。
「狭くなるから嫌だって言ってんだろ」
「俺の部屋のベッド使っていいって言ってんじゃん。でも俺が寝入った後でな」
「なんで自分のベッド追い出されて、兄貴のベッド使わなきゃなんねーんだよ。しかもアンタ、俺が移動した先に、更に俺追っかけて移動してくる可能性高いだろ」
「だって寒いと目が冷めちゃうんだもん。てかいい加減諦めて、寒い日の夜は俺のための人間カイロに徹しなよ」
 冷え性な兄を持った弟の使命だよ。なんて、随分と勝手なことを言っている。
「たった一年先に生まれただけで横暴すぎ。冷え性どうにかしたいなら筋肉つけろ。筋肉を」
「そりゃ運動部のお前より筋肉ないのは認めるけど、吹奏楽部だってそれなりに筋トレしてますぅ。母さんも冷え性だし、これ絶対遺伝だって」
 背だってなかなか伸びないしと口を尖らせる兄は、確かに母の遺伝子が強いのだと思う。対するこちらは父の血が濃いのは明白だった。
 父の血が濃いせいで、好みまで父に似たのだったら最悪だなと思う。母によく似た兄相手にこんなにもドキドキする理由が、父親からの好みの遺伝という可能性はどれくらいあるんだろう。そして母の血が濃い兄も、母の好みに似て父に似た自分を好きだと思う可能性はあるだろうか?
 兄弟で、男同士で、考えるような事じゃない。考えていいことじゃない。
 それでも体は正直だった。考えないようにしてたって、暖を求めてひっついてくる兄相手に問答無用で股間が反応してしまう。バレるわけに行かないから、意識がある時は絶対に背中を向けて寝るけれど、気づかれるのも時間の問題じゃないかと思う。
 性欲なんてもののなかった子供の頃は良かった。冷たい手先や足先を自分の肌の温かな部分で包み込んで、兄がありがとうと笑うのも、ホッとした様子で眠りに落ちていくのを見守るのも、ただただ純粋に嬉しかった。
 今だって、寒くてぐっすり眠れないのは可哀想だと思うし、だから夜中知らぬうちに潜り込まれたものを蹴り出すほどの拒絶はしたことがないが、でもこのどうしようもない下衆な欲求に気づかれるくらいなら、もっと厳しい態度で拒否を示した方が良いのかもしれない。
「どーした? てか早く入ってきてくんないと、寒くて寝れないんだけど」
 こちらの気持ちを知る由もない兄に急かされ、大きなため息を一つ吐き出した。我ながら甘すぎる。兄に対しても、自分自身に対しても。
 想いにも欲望にも気づかれたくないし、気づかれるのが怖いのに、兄が昔と変わらずこうしてベッドに潜り込みこちらの熱を奪って眠るのが、嬉しいし愛おしい。迷惑そうな顔をして口先で嫌がったって、きっと本気で嫌がってないのは丸わかりなんだろう。だから平然とベッドへ潜り込むことを、本気で止めはしないのだ。

続きました→

有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「真剣な顔」、ポイント:「ファーストキス」、「お互いに同意の上でのキス」です。
https://shindanmaker.com/19329

 
 
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我ながら悪趣味だなあ

結果から言うと、告白は大失敗だったの続きです。視点は逆になってます。

 我ながら悪趣味だなあ、と目の前の男をながめながらしみじみと思った。
 目の前で届いたばかりの焼き鳥の串を口に運んでいる男は職場の同期で、こんな風に仕事帰りに一緒に食事を摂るようになったのはもう随分と昔だ。
 仕事の愚痴を聞いてもらって、慰めるように酒を注がれて、気分良く酔っ払ったついでに相手の家に上がり込んで泊めて貰う。長いこと続いていたそんな生活は、けれど二ヶ月ほど前に終わりになった。
 好きだから恋人になって欲しいと告白されてしまったからだ。
 既に酔い始めていたのもあって、最初は相手が本気だなんて全く気づかなかった。なんの冗談だと、無理過ぎる提案だと、咄嗟に零した言葉に相手が驚いたように目を瞠って、それから自嘲するような笑みを見せたから、ようやく本気の告白だったと気付いて愕然とした。
 相手にそんな告白をさせたのも、そもそもそんな想いを抱かせたのも、自分だという自覚はある。多分、相手は色好い返事が貰えるものと思っていただろう。だから自分が零した言葉に、まずは驚いたように目を瞠ったのだ。
 もちろん意図的に誘惑したわけではないが、振り返ってみればそう思われても仕方がない態度を取り続けていた。相手が大した文句も言わずに受け入れてくれることに胡座をかいて、無神経に甘えきっていた結果だ。
 そして今現在も、ある意味無神経に甘え続けている。酔い潰れさえしなければ、多少の愚痴には今後も付き合ってやると言った相手を、遠慮なく食事に付き合わせている。
 悪趣味だなと思うのは、自分に惚れている男を、その気もないのに食事に誘い続けている点だ。誘えば嫌がることなく応じるが、告白から先、相手から誘われることは一切なくなった事を考えたら、相手は自分との食事をもう楽しんでなんか居ない。
 それに自分だって、この時間を楽しんでいるかと言えばかなり微妙だった。
 深酒をしたらもう食事に付き合わないと宣言されているから、こうして一緒に食事をする際に飲む酒の量は極端に減っている。仕事の愚痴は聞いてくれるが、慰めるように注いでくれる酒はなく、ふわふわと気持ちよく酔えはしない。
 なんて、つまらない。
「そんな顔しなくても、大丈夫だって」
「へ? 何が?」
「炎上しかけてるプロジェクト」
 助っ人が来てくれることになったんだろと続いた言葉に、そういやそんな愚痴を聞かせていたんだっけと思い出す。
「でも助っ人さんおっかない」
「そうか? あんま怖いイメージはないけど」
「見た目はな。でも機嫌悪いとメチャクチャ怖いよ、あの人」
「そうなんだ?」
「うん、そう」
 大きくため息を吐いて、酒を煽る代わりに机に突っ伏した。すぐに寝るなよの声が落ちてきて口を尖らせる。眠いわけじゃない。
 以前なら、こんな時は戯れに伸ばされた手が頭を撫でてくれたのに。
 その手がもうなくなってしまったことを、こうして繰り返し確かめながら、胸を痛めている自分はもしかしたらマゾかもしれない。
 たいして楽しくもない時間をわざわざ作り出して、戻らない時間に思いを馳せて、自分自身を傷つけて。でもそうやって繰り返さなければ、胸を痛めて苦しまなければ、変わってしまった自分たちの関係を受け入れられないのだ。
「しんどい……」
 優しくされたい。甘やかされたい。でも恋人になりたいわけじゃない。男とセックスする自分なんて考えられない。
 もう一度大きくため息を吐き出したら、呆れる様子の小さなため息が返されて、それから大きくて温かな手が頭の上に乗せられた。
「よしよし。お前は頑張ってるよ」
 優しく頭を撫でてくれる手にキュウンと胸が締め付けられる。なんだか泣きそうになる。なのに。
「婚活でもしてみたらどうだ?」
「は?」
 唐突な話題にビックリして、慌てて頭を上げた。
「まぁ結婚はともかく、彼女を作ってみたらいいのにとは思ってる」
「な、なんで?」
 尋ねる声は上擦ってしまった。だって自分と恋人になりたいと思っているはずの男に、そんなことを言われる意味がわからない。
「愚痴を聞いた後、慰めて甘やかして元気づけるのは恋人の役目だと思ってるから、かな。母性の強そうな、優しい彼女を作ったらいい」
 平然とそう告げる穏やかな顔をマジマジと見つめてしまう。
「本気で、言ってんの?」
「ああ」
「俺を好きって言ったくせに?」
「もう、振られてる」
「そんな簡単に諦められる想いで、人振り回してんのかよ」
「告白なんかして、済まなかったとは思ってる」
 思わず荒れてしまった語気に相手はやっと苦々しげな表情になったけれど、吐き出されてきた言葉は更にこちらを苛立たせた。
「後悔してんのかよっ」
「後悔は、してる。だからこそ、お前に彼女が出来たらいいのにと思うのかもしれない」
「なんで!?」
「お前に彼女が出来て、俺と離れて、それでお前が幸せそうに笑っているのを見れたら、きっと今度こそ本当に諦めが付くから」
 まだ、諦めきったわけじゃない。そう言っているのも同然の言葉に、ホッとしている自分がいて忌々しい。だってそれじゃまるで……
「お前が、いいよ」
 諦めるように言葉を吐いた。だってもう認めるしかない。
「どういう意味だ?」
「愚痴を聞いてもらった後、慰めて、優しく甘やかしてくれるのは、お前が、いい」
「俺と恋人なんて、無理すぎるんだろう?」
「お前とセックスとか、考えたくない。けど、甘やかすのが恋人の役目だってなら、それは、お前がいい」
 酷い我儘だなと呆れた声が返されたけれど、でもその顔はどこか嬉しそうに笑っていた。

続きました→

ちりつもの新刊は『我ながら悪趣味だなあ、と目の前の男をながめながらしみじみと思った。』から始まります。shindanmaker.com/685954

 
 
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