抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ21

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 痛かったり苦しかったりするよりは気持ちよくなりたいけれど、意地悪だって泣かされる目にはあいたくない、というこちらの訴えに、相手もわかってるよと苦笑で頷く。二度としたくないなんて言われたら困るから、というのが、相手が了承を示す一番の理由らしいけれど、まぁ、これ以上泣き顔を晒さずに済むなら理由なんてどうでもいい。
 結果、緩やかな快感にずっと浸っている。
 中をゆるゆると擦られたり小さく揺らされながら、先程確かめていた性感帯をさわさわと撫でられ、触れられたあちこちから、じわっと全身に快感が広がっていた。強い刺激ではないけれど、緩やかに押し上げられるように快感が蓄積していく。
「ぁ……ぁぁ……」
「気持ちいいね?」
「ん……んっ、ぃぃ、……きも、ちぃ」
 促されるまま頷いて、気持ちがいいと答えれば、相手が満足げに良かったと言って、甘い顔で安堵するのがなんだか嬉しい。嬉しいから、聞かれるたびに繰り返したし、多分相手もわかっていて聞いてくるのだと思う。
「ぁ、もっ……い、きた……」
 緩やかに蓄積する快感に、じわじわと射精感が募ってきて、ねだるように訴えた。
「そろそろ、また、イキそう?」
「ん、ぅん、ぃい、いく。いき、たい」
 イカせて欲しい、触って欲しいと訴えるのは、これが二度目だからだ。一度目は自分で握って扱いて吐き出そうとしたのを、相手の手により阻止されている。
 そんなに強い刺激じゃなくてもイケるはずだからと言われて手を外され、代わりに相手の手で、他の性感帯を刺激するのと変わらない緩さでそっと撫でられ続けた。そんな触れ方はじれったいと急かすつもりが、そもそも焦れきってどうしようもなく自らの手を伸ばしたそこは、意外なほどあっさり精を吐き出したから驚いた。
 しかも強く扱かなかったせいで射精時間が長かったのか、なんだか随分と長いこと射精の快感が続いたようにも思う。それは初めての感覚だった。急速に昇りつめてスッキリ、みたいなのとは全然違う。
 あれを、もう一度味わえる。そう思うと、イカせてくれと頼むことへの躊躇いはなかった。
 いいよと快諾した相手の手に撫でられる。少し腰の動きが変わったようで、お腹の中が疼くような快感も増してくる。
 下腹部を中心に甘く痺れて、酷く気持ちが良かった。
「ぁっ……あぁっ……ぃいっ、ぃくっ、いくっ」
「ん、いいよ。出しな」
 緩く撫でるだけの手の動きは変わらなかった。でもお腹の奥から押し出すみたいに、何度か強く中を擦られて頭の中が白く爆ぜる。
「ぁっぁっああっ」
 じわっと押し上げられる感じと、射精の持続時間が長いのは同じだけれど、快感の度合いが先程よりも強い。射精後には引くはずの快感もさっきよりも長引いて、腰やお腹がヒクヒクと痙攣している。お尻の穴も同様で、こちらが落ち着くのを待って動きを止めている相手のモノを、自身の体の収縮によって強く意識させられる。
 穴は慣れて緩んでいくものという認識なのに、最初に挿れられた時よりもずっとリアルにその形を感じ取っている気がする。もしかしたら、じっくりと感じさせられて、その場所もどんどん敏感になっているのかも知れない。

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抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ20

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 確かに端々にそれっぽい言動はあった。男を抱くって事に慣れてるのはわかってた。けど。
「初めてだっつったのに、どんだけ自信あんだよ」
 それなりに長い付き合いの中で、こちらには何度か彼女という存在が居た時期があったけれど、相手の恋人の話なんて殆ど聞いたことがない。気持ちを知られているという気安さで、こちらはあれこれ話してしまったが、相手にとってはそうじゃなかっただけと言われれば、それまでなんだけど。
 そう考えてしまうと、相手の私生活的な部分をあまり知らない。
「てか自信があるのって、やっぱお前の恋人が男、だったから?」
 親友と、目の前にいる男の二人だけが特別だった自分と違って、恋人が男だったから言い難かったという事はあるだろうか。お互い同じ男が好きという繋がりなんだから、恋人が男でも別に驚かなかったし、こちらだって彼女を作っている以上、彼氏を作ったからと言って相手を非難することもなかったと思うのに。
 言わなかったのは、自ら積極的に話す必要がなかったから、だったらいい。それとも、言いたくない理由が、自分には教えられないような理由が、あるんだろうか。
「恋人っていうか……」
 言っていいのかを迷うような様子にピンときた。なるほど。恋人とは言えないような相手だったから、話題に出さなかった可能性もある。
「あー……セフレ的な?」
「まぁ、あんたの話聞いてたら、恋人を作ろうって気にはなれなかったからね」
「へ? 俺?」
「そう。彼女作れば気持ちもそっちに向かって、あいつへの気持ちを忘れたり過去のものに出来るかも、みたいな打算もあったでしょ。でも出来なくて、気持ち揺らして、苦しくなって、みたいなこと繰り返してたじゃない」
「うっ、まぁ、そうだけど」
「だから恋人として付き合った、みたいなのはなかったけど。でもまぁ、やることはやってたし、あいつ相手の想いを叶える気はなくたって、それはそれとして、テク磨くくらいはするよね」
「え、自信あんのって、わざわざテク磨いたせい?」
「まぁ、コンプレックスと性癖だよね」
「コンプレックス、と、せいへき」
 なんだそれと思いながら、言われた言葉をただ繰り返してしまえば、劣等感だって言ったじゃないと言われたけれど、でもやっぱりイマイチよくわからない。
「だからさ、卑屈になるほどじゃないけど小さい方だし、それをかなり気にしてた時期もあったわけ」
 小さくないし普通サイズだろ、とは思ったが、相手より確実に大きなモノを所持している自分が、いくら小さくないと言っても意味がなさそうだし、そもそも、自分だって大きさをどうこう言えるほど他人のマックスサイズに詳しいわけじゃない。少なくとも、かつて試しに抱いてみた男のサイズと比べて、こいつの方が目に見えて小さいなんて事はない、とも思ったけれど、これももちろん言えるような話じゃない。
「せいへき、は?」
「さっきチラッと言ったけど。俺よりデカい相手が、俺ので気持ちよくなってんの見るはかなり好きかな。あんたと違って俺は女は無理だし、男を抱きたいセクシャリティなんだよね」
「ううっ、つまりそれが、今から自分の身に起きんのかと思うと、かなり複雑なんだけど……」
 本当に気持ちよくなれんのかと聞けば、逆に絶対無理って思ってたらそんな不安になってないでしょと返されて、確かにと思ってしまったからもうダメだ。
 だって指だけでもかなり気持ち良くなれてたし。そもそも、こいつがこんなに自信満々に言うことが、不可能なはずがない。

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抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ19

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 足を抱えられて、再度、受け入れる穴に先端が押し付けられる。ハッとして思わず開いた股間の間を覗き見てしまったが、最後の方は尻穴だけ弄られていたのにしっかり反応している自身の息子が邪魔をして、相手の状態はよくわからない。
「どうかした?」
「あ、いや……」
「まだ怖い?」
「じゃなくて。お前、」
「俺が?」
「あー……ゴム、着け直したり、しないんだ、って、思って」
 それはつまり、結構長々と弄られていたはずのその間、着けたゴムが緩んだり外れたりはしなかった、って事なんだろう。
「まぁ、着け直す必要なさそうだから。てかもしかして引かれてる?」
「ひく、っていうか……」
「好きな子に受け入れて貰うための準備で、相手が少しずつ感じてくれるようになるのを目の前にして、萎える要素なんてないんだけど?」
「あー、うん、うん、まぁ、それは」
 そうなんだろう、というのはわかる。頭では理解できる。でもなんか、実感が湧かないというか、この体を弄っているだけで興奮が持続するらしいという事実が受け入れがたいというか、要するに、どうにも気持ちが落ち着かない。
「俺としては、俺が全く萎えなかったことを、自分にはそれだけの魅力があるんだって自信を持つか、俺にそれだけ愛されてるって喜ぶかして欲しい所だけど」
「あ、いされ、て……!?」
 好きだとは言ってもらったが、愛されているって何事だと慌ててしまえば、そんな驚かないでよと苦笑された後。
「俺の好きは、恋情ってより愛情だよ。とっくにね」
 照れるでもなくシレッと、愛してるよと柔らかに零す相手に思わず見惚れてしまったその瞬間、グッと相手の腰が押し付けられて、散々弄られた穴が相手を迎え入れるようにクプッと開くのがわかった。
「ふぁあっっ」
 耐える準備が全く整って居なかった口から、押し出されるまま声を上げると同時に、多分、先端の膨らみが通り抜けた。思ったよりすんなり入ってしまった、というのが正直な感想で、入っているという違和感はもちろんあるけれど、痛みなどはない。
「大丈夫そうだね」
 一旦止まって様子を窺う相手も、こちらのダメージのなさにはすぐに気付いた様子で、すぐにそのままググッと押し込まれてくる。たっぷりローションを使われているせいか、感覚的にはヌププと滑り込んでくるようだったけれど。
「ぁぁあああああ」
 やっぱり閉じ忘れた口からは、押し出されるみたいに声が漏れてしまったけれど、反射的なもので痛いとか苦しいとかはあまりなかった。さっきまで散々指で弄り回されていたからか、指程器用に動かない分、ただ、そこにあるのを感じているだけに近い。
 慣らした所で苦しい目にはあうんだろうと思っていたせいで、安堵よりも若干拍子抜けなのは否めなかった。しかもそんなこちらの気持ちは、相手にもだだ漏れらしい。
「ねぇ、これ、間違いなくただの俺の劣等感のせいなんだけど、なんだこんなもんか、みたいな顔されると、結構困る」
 根本まで埋めたのか、相手の腰が尻タブに密着した後、相手の顔が近づいてきてそんな事を言う。言葉通り、少し困った様子の苦笑顔で。
「あ、いや、ゴメン。お前がいっぱい慣らしてくれたから、ってのは、わかってる、から」
「ああうん、それは理解してくれてありがとう。ただ、困るってそういう話じゃないっていうか」
「え、じゃあ、何が?」
「大きけりゃ大きいなりの使い方があるんだろうけど、それはこっちも同じなんだよね、っていう」
「え? は? 何の話?」
「つまり、こんなもんか、なんて顔されたら、そのコンナモンで、うんと感じさせてやりたくなるから、困ったね、と思って」
 意地悪されたって泣かれたくないんだけど加減が難しいなんて続く言葉に、全く想定外の不安が湧き出す。ここにきて、テクには自信あります的な宣言に近いものを出されても、こっちこそどうしたらいいかわからなくてめちゃくちゃ困る。

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抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ18

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 プライドが高いカッコつけだって思われているのは、ここまでで嫌ってほど思い知っているので、多分、それも考慮した上での話なんだろう。まぁ確かに、悔しいと言ってしまったことが、素直になってと繰り返す相手の誘導により言わされたみたいなもんだって事が、新たな悔しさを生んでいないとは言えないけれど。
「も、いいって。それより、も、さすがに、いーんじゃねぇの」
 一度は繋がる直前まで進んだのだから、そろそろいい加減突っ込んで来てもいいんじゃないかと思いながら、続きを急かしてみた。
「んー……そうだねぇ」
 しかし相手の反応は鈍く、のんびりとした口調で返しながら、またゆっくりと、中の指を揺すってくる。そう派手な動きはしていないのに、小さく前後されて、ゆるゆると中を擦られるだけでたまらない。快感を拾い始めたその場所は、すぐにジクジクとした疼きをお腹の中に生み出した。
「ぁ……はぁ……ぁぁ……」
 優しく捏ねるような動きがもどかしくて、じわじわと息が上がっていく。
 他の場所には触れられていないから、どこで気持ちよくなっているのかもずっと意識させられっぱなしだし、なんだかじっくりと追い詰められているようで、少しずつ不安になる。相手と繋がれる前に、どれだけ感じて見せれば満足なんだ、みたいな事を考え始めていた。
 だって、体の準備が出来ていないだとか、突っ込むには早すぎる、なんて理由で続けているわけじゃない。なんせ、一度はそろそろ入れそうって判断された体だ。
「な、なぁっ」
 必死に呼びかければ、中を弄る動きが止まる。
「なぁ、まだ、」
「さすがに限界?」
 ホッとしつつ、まだ続くのか、後どれくらい続ける気なのかを問おうとしたら、逆に尋ねられてしまった。これに頷けば先に進めるって事かと思いながら、そうだと訴えるように何度も首を縦に振る。
「そっか。まぁ、さすがに焦らしすぎた自覚は有る」
 そんな顔させてごめんねと、申し訳無さそうな苦笑とともに、ようやく中に埋められた指が抜けて行くのかと思いきや、足を押し広げるように支えていたもう片手が、スルッと股間に移動してきてギョッとする。
「ぁあっ、ちがっ、バカ、違うっ」
 快感を拾えるようになったせいでしっかり反応済みの息子を握られ、慌てて身を捩った。といってもそう大きく動けるわけではないし、尻穴に相手の指を嵌められた状態で逃げ出せるわけもないのだけれど、それでも握られたモノはあっさり開放されてホッとする。
「違うって、何が?」
「も、いい加減、突っ込めっての」
「ああ……」
 そういう意味か、という納得はしたらしいものの、どうやら相手にはまだ突っ込む気がないらしい。
「なんで?」
「なんでって、繋がる前に、いっぱい気持ちよくしてあげたいと思って」
「も、いっぱい気持ちよく、なってんだろ」
 思わず肯定してしまったのがおかしかったのか、嬉しかったのか、相手がふふっと優しげに笑った。ただし、優しげなのはその笑みだけで、告げられた言葉は呆れるような内容が含まれていて、でも多分、わざとだ。
「うん、でも、全然足りないかな。焦らして焦らして、頭ん中、イキたいばっかりになって、心も体もドロドロに蕩けて俺が欲しくてたまらない、みたいなの狙ってる」
「バカかっ。てかどこまで本気で言ってんだ、それ」
 何言ってんだという気持ちを素直に吐いてやる。ホント、何言ってんの。
 相手は当然、こちらのそんな反応をわかっていた様子で、ケロリとした顔をしている。
「どこまで焦らされてくれるかなぁ、みたいな事は、まぁ、考えてたけど。今は、上手く行かないなぁって気持ちと、想定通りって気持ちが半々だね」
「なんだそれ」
「うんと切羽詰まったあんたに、早く入れてってねだられるのはちょっと憧れるけど、焦らした結果、さっさと突っ込めってキレてくるあんたに、らしいなとも思ってるんだよね。らしくて、そんなあんたも可愛くてたまんないから、そろそろ本当に、抱いていい?」
 唐突にかなり真剣な顔で見つめられて、ドキリとする。といっても、そんなのは一瞬だけで、相手の雰囲気に飲まれてたまるかと口を開いた。
「だーかーら、俺は、さっきからっ」
 早く突っ込めって言ってるというこちらの主張を楽しげに笑われながら、体の中から相手の指がゆっくりと引き抜かれていく。

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抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ17

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 例えばキスとか、直接アレを触ってくれるとか、もっとわかりやすく感じる場所はあるのに、多分相手は意図的にそれを避けていたし、自分からねだることもしないのは、相手の手で自分の知らない性感帯を探られるのが嬉しいって気持ちがあるからなんだろう。
 淡々と慣らすためだけの行為を受けた後だから尚更、楽しげに性感帯を探られるって事のありがたみが分かる。相手の興味と関心を、ちゃんと自分が引きつけているのだと安堵する。
 だってこんなの、好きじゃなきゃ面倒くさいだけだろう。開発し放題を実践するなら、わかりやすく感じる場所へ同時に触れながら、快感を錯覚させる方が早いとも思う。
 ただ、そうした方が早いだろうと言うだけで、こうやってじわじわと広がる快感にじりじりと焦らされながらだって、快感の錯覚は起こっていく。もちろん錯覚だけではなくて、相手の手で丁寧に慣らされたその場所が、実際に快感を拾うことを覚えてもいるんだろう。ついでに言えば、そうやって丁寧に慣らされているという事実に、喜ぶ心が反応している分もあると思う。
 つまり、要するに。自分で慣らす時には全く感じられなかった快感を、はっきりと尻の中の指に引き出されているのを自覚させられている。
「ぁっ、あぁっ」
 それを感じ取ったらしい相手が、他の性感帯を探るのを止めてその場所だけを集中的に弄りだすから、最初に慣らされた時には漏れなかったような歓喜の声がこぼれて、そこだけでも感じられている事実を、相手にもはっきりと知らせてしまう。
「お尻、気持ちよくなってきた?」
 喜びと興奮とが滲む声で聞かれて、自分だって嬉しい気持ちはもちろんある。あるけど。
「はは、いいよ。素直に気持ちぃって言えなくても、さすがにここで悲しい誤解が生じたりはしないでしょ」
 言ってくれたら嬉しいけど、言うかを迷ってくれるだけでも嬉しいだとか。言ったほうがいいと思いながらも、言えずに葛藤している姿が可愛いだとか。そんなことを、甘い声がうっとりと続けてくるから。
「気持ちぃ、けどっ、恥ずかしい、のと、悔しい、のも、あるっ」
 こちらが相手の気持ちをはかって余計な不安を抱かないようにと、沢山の言葉を、柔らかな声に乗せて伝えてくれているのがわかるから、素直に振る舞って欲しいという相手の希望に沿って、素直な気持ちを全部、言葉にして伝えてみた。
 相手は一瞬驚いたように動きを止めたけれど、すぐにおかしそうに、愛しそうに、んふふと含み笑いを零す。笑うな、と咬みつきたい気持ちもゼロではないけれど、あんまり幸せそうだったから、まぁいいかと思った。思ってしまった。
「ありがと。嬉しい。あと、可愛すぎるんだけど。なに? 俺がなるべく素直に振る舞ってってお願いしたから、素直になって、全部ぶちまけてくれたの?」
 言ってくれたら嬉しい、という相手の気持ちを汲んだ、という部分が伝わったならそれでいいという気持ちだったのに。なんのツボに入ったのか、くふくふと小さく笑われ続けて、さすがにまぁいいかと黙っていられなくなる。
「そーだよっ悪いかよっ」
「やだな。嬉しいし、可愛すぎるって言ってるのに、悪いわけないじゃない。あと、多分わかってないだろうから教えるけど、俺が一番嬉しかったのは、悔しいって言われた部分だから」
「は?」
「ねぇ、自分じゃ気持ちよくなれなかったのに俺の手で気持ちよくなれてる事が、というか俺のテクニックを認めざるを得ない的な悔しい、って事でいい?」
「んなの、いちいち確かめんなって」
「大事な事だよ。だって、俺に想像もつかない何かを抱えて、悔しいって思ってるのかも知れないじゃない」
 多分まだ言葉が足りてないねと言いながら、相手は悔しいと言われたのが一番嬉しかった理由を教えてくれる。
「ちゃんと気持ちよくなれてる事も、お尻で気持ち良くなれてるって事に戸惑ってるのも、安心してるのも、恥ずかしいのも、見てて想像が出来るけど、悔しいって思ってる事には気づけてなかったからだよ」
 相手の説明は、きっと悔しいなんて言いたくなかっただろうから余計に嬉しい、とも続いた。

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抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ16

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 見せた態度と、実は抱かれた経験がないという訴えとを照らし合わせて納得が行ったのか、経験がない事自体はあっさり信じたようだけれど、やっぱりバカだとは言われたし、そんな所で見栄を張る意味がわからないとも言われた。別に見栄だとかカッコつけだとかだけで、言えなかったわけじゃないんだけど。相手に好きだと言われた後は、知ったら喜んでくれそう、とは一応ちゃんと思ってたけど。
 まぁそれも、喜ばせたくなかった、という気持ちが欠片もないとまでは言えないが。こいつが過去に抱いただろう男たちへの嫉妬がなかったわけではないから、居もしない誰かに嫉妬すると言われて、そのまま嫉妬し続ければいいって気持ちもあったとは思う。
 ただ、それらを全部晒して、言い訳をする必要はなかった。別に見栄のせいだけで言えなかったわけじゃないという気持ちを込めて、こっちにも色々事情があってと濁せば、言えなかった事情についてはそれ以上の追求がされなかったからだ。
 それはきっと、無駄にカッコつけのせいで言えないことがあるのは仕方がない、という妙な納得と理解とをされているせいなんだろう。間違いなくありがたいのに、なんとも複雑な気分だ。
 なんて思った気持ちが覆るのも早かった。
 もしかしなくても、単に、色々な事情とやらを細かに聞く必要がなかっただけかも知れない。そう思ってしまったのは、色々な事情については聞かなくていいけど、どこまで自己開発したのかは話せと言われたからだ。
 今日という日のために自分で弄って拡げたのは事実で、相手が誤解した理由がそこなのは明白ではあったけれど、自分でどこまで拡げられたかを吐かされるのは、それはそれでなかなかに苦痛だった。苦痛の理由は主に羞恥で、なんとも居た堪れないのに、どうしても知っておきたい情報だと言うから諦めて晒した。
 男に抱かれた事がないのは事実だけれど、小ぶりのディルドは突っ込んでみたから、厳密に言えば真っ皿の処女では無いかも知れない。なんてことを照れ隠しに口に出したら、小ぶりのと評したディルドのサイズをめちゃくちゃ気にされてしまったのは、多分失敗だった。さすがに相手のナニよりは小さかったので、内心セーフと思いながら、すぐさま正直に、お前サイズは未体験だと告げておいたけれど。
 しかし、相手サイズが未体験なことと、自己拡張で全く快感を得られなかった事は、相手にとっては喜びよりも憂慮が勝るらしい。
 これから開発し放題なんだから、もっと喜べばいいのに。なんて気持ちをうっかりこぼせば、確かにそうだと、あっさり気持ちを切り替えたようだけど。結果、じゃあ慣らすところからやり直そうか、なんて言われて、相手と繋がる直前だったはずの行為は、ほぼ最初からになってしまったけれど。
 でもまぁ、相手のその選択は、間違いじゃなかった。
「ぁ、……っぁ……はぅん」
 自分の口から溢れる小さな音が、甘さを含んで響き、部屋の中に溶けていく。尻の中に突っ込まれた指に感じているわけではなくて、そこ以外の、相手の手が撫で、唇が落とされる場所から、快感の波が広がっている。
 ただただ指を突っ込まれて拡げられていた、優しさの欠片もなかった行為とは天地ほどの差がある。嬉しさと安堵とで、体から余計な力が抜けているのも、快感を快感として得やすくしているかもしれない。
「ここ、だね」
 感じて体を震わせれば、甘い息を大きく吐けば。その場所を覚えるように何度も撫で擦り、唇を落として舐めたり食んだりの刺激をくれる相手が、随分と楽しげなのも良かった。

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