追いかけて追いかけて26

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 バスルームの床に蹲った相手にちょっと放っておいて欲しいなんて言われた所で、わかりましたと出ていけるはずがない。また水浴びなんてされたらたまらない。
「気持ちの切り替えに俺が邪魔なら、あなたがもういいよって呼んでくれるまで、どっか、トイレとか脱衣所とか部屋の隅っこで、待ってますから。もう、こっから出ましょうよ」
 ほら立ってと腕を引いても、見下ろす頭がふるふると嫌がるように振られるだけだった。
「俺が悪かったなら謝りますし、さっきの話がまだ有効なら、ここにいる間は恋人になってもいいですから」
 掴んでいた腕がピクリと反応したので、とにかく部屋戻りましょうと声を掛けながら、再度相手の腕を引く。今度は渋々ながら立ち上がってくれたので、急いで手を引き脱衣所へ連れて行った。
 バスタオルを差し出しても受け取らない相手の体を拭いてやる間も、相手は沈んだ顔でなすがままだったけれど、それでもあらかた拭き終わった所でバスタオルを奪い、お返しとばかりにこちらの濡れた体を拭いてくれる手付きは丁寧だ。
「髪、乾かすから座って」
「え、でも」
「いいから。放って置いてくれないなら、黙って従って」
 怒っている口調ではなかったけれど、有無を言わさない強さにそれ以上逆らう気はない。言葉通りに黙って従い髪を乾かされながら、鏡越しに観察してしまう相手は、やっぱり何かを考え込んで浮かない顔をしている。それでも、髪を乾かしてくれる手付きはずっと優しかった。
 結局その後、やっぱり有無を言わさない口調で交代を言い渡されて相手の髪を乾かしたし、それが終われば相手主導でベッドがあるメインルームへ連れて行かれる。
 ちなみに、髪を乾かしている間はそれぞれバスタオルを腰に巻いていたのに、脱衣所を出るときに剥ぎ取られて互いに真っ裸なのだが、そこに言及する隙はなかった。自分が使っていた部屋着はビチョビチョのままバスルームに脱ぎ捨ててあるが、もう片方は脱衣かごに畳まれて置かれている。ただ、どう考えても相手用のそれを自分が着たいとは言い出せなかったし、相手に着られて自分だけ裸というのはもっと嫌だから、だったら双方全裸を受け入れるほうがマシという感じだ。
「ベッドの中入って。で、背中、こっち向けて」
 背中を向けろってどういうことだとは思ったものの、黙って言われた通りに従えば、同じようにベッドの中に入ってきた相手に背後から抱きしめられてびっくりした。
「今、どんな気分?」
 思いっきり体をこわばらせれば、背後から淡々とした声が問うてくる。耳を掠る声にピクリとわずかに身を竦ませてしまったが、相手がそれに何がしかの反応を示すことはなかった。
 なんだか少し、悲しくなった。
「緊張はしてるよね。俺が怖い? 裸で抱きかかえられて、気持ち悪くはない?」
 少しだけ柔らかになった声が、問いを重ねてくる。気持ち悪さは欠片もないが、怖いと思う気持ちはきっとなくはない。
「正直に言っていいよ。怒らないから」
 そう言ってから何か思い当たった様子で、今も別に怒ってるわけじゃないよと付け足された。それは口調からも気配からも感じている。
 わかってはいるのだ。傷つけたいとも悲しませたいとも思っていないのに、自分の言動が彼を傷つけ悲しませている。
「気持ち悪くは、ない、です」
「そう。まぁ、黙って従えなんて言っといて、怖がるなとは言えないよね」
「あ、いえ。そういう怖さじゃなく、て」
 本気で嫌がるような酷いことはされないと、やっぱり信じ切っている。間違いなく、さっき一度は本気で怒った様子を見せたのに、その怒りすら飲み込んでこちらに当たるような真似は一切しなかった人だ。彼がそうしろと望むなら、このまま黙って従い続けたって構わないと思う気持ちもある。
 怖いのは、彼が自分に何かをすることではなくて、自分が彼にしてしまうことに対してだった。
 自分の不用意な言動が、自分自身の信念が、相手を傷つけ悲しませている現状をこうまで見せつけられているのに、きっと自分はこの後も、彼に譲ることも折れることも出来ない。正直に気持ちを晒すほど、彼はこちらへの理解を示しながらも、絶望を濃くしていくことになるんだろう。

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追いかけて追いかけて25

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 こちらの怯えを察知したらしく、わざわざ顔を横向けて数度深い呼吸を繰り返した後、再度向き合った彼はなんとも複雑な表情を見せている。
「俺に何かされることへの嫌悪感はなくても、男同士で付き合うことへの偏見や嫌悪感はあるって言ってたはずだけど」
「今もありますよ。偏見というか、普通ではない、という認識が。それと、自分自身への嫌悪感」
「自分へ向かう嫌悪?」
「女性も愛せるあなたに、恋人になってって言わせてる嫌悪感ですよ。罪悪感でもいいです」
 彼を本気で怒らせたのだとしても、こっちだってそう簡単に譲れない気持ちがある。
「どちらかが女性だったなら必要のない感情を抱えてしまう。っていうのは、言い換えれば、男同士で付き合うことへの偏見と嫌悪感です」
 自分が彼に恋していなければ、それを教授が彼に話していなければ、あの日、恋人になってみるかなんて言葉が冗談でも彼の口から漏れることはなかったと知っている。彼への想いを隠すことなく誘われるまま出かけた結果が、あの日の彼の告白なんだとわかっている。
 自分が彼を想うせいで、という罪悪感と自身への嫌悪は既にもう、ある程度抱えてしまっているのだ。人の目は気にならなくても、自分の想いのせいで男同士で恋人という関係を彼が選ぶという事象に、罪悪感と嫌悪感を膨らませて行くことだって容易に想像がつく。きっとすぐに耐えられなくなる。逃げてしまう。
 だったら最初から恋人になんてならないほうがいいと考えてしまうのは、結果二人共が負わなくていい傷を負うんじゃないかと恐れてしまうのは、自分の恋愛経験の低さのせいだという可能性はある。短な期間だとしても、たとえ傷付き合っても、恋人になって良かったって思うことが、もしかしたら自分が思うよりたくさんあるのかもしれない。
 そこまで考えたら、ふと、ここにいる間だけ恋人になって、という先程の彼の言葉を思い出してしまった。
 今、こうやって一度だけってわかっていながら彼と触れ合おうとしているのは、後悔や苦痛よりも得られる幸せが多いだろうという判断をしたせいだ。確かに、区切られた時間の中での恋人なら、その間だけ目一杯楽しむということが考えられそうだった。ここにいる間だけなら、すぐに耐えられなくなって逃げてしまったら彼を傷つけるんじゃないか、なんて心配も必要がない。
 その後すぐに世間体の話になって彼を怒らせてしまったけれど、その話はまだ有効だろうか?
 思考に落ちていた意識を彼に向ければ、彼は依然複雑な表情のまま、同じように何かを考えているようだった。
「あのさ、」
 声をかけるべきか迷った一瞬で、こちらの視線に気づいた相手が先に口を開く。
「はい」
「例えばの話、俺が男しか愛せないゲイだったら、もしかして付き合ってた?」
「ああ、はい。そう、ですね。もしあなたがゲイだったなら、試しに付き合ってみるかって話に、喜んで飛びついてた可能性はあります」
「それ、……」
 唖然とした様子で、去年の学食での話かと確かめられて頷けば、がっくりと項垂れた相手がずるずるとその場にしゃがみこんでしまった。

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追いかけて追いかけて24

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 選択肢なんてないまま肯定を返せば、相手はそれじゃあと言って口を開く。
「恋人になって」
「えっ?」
 全く予想外の言葉に呆然となって、思わず相手の顔を確かめてしまう。どんな顔でそんなことを言ったのか気になった。
 じっとこちらを見ていた相手は本気かと聞くのも憚られるくらい真剣な顔をしているから、頭の中ではぐるぐると、なんと答えればいいかを探してしまう。
 だって本当に意味がわからないというか、お腹の中を洗うよって話をしてたはずなのに。恋人にもセフレにもならないって言って、最後に一回だけ触れ合おうって話でここに来たはずなのに。
「即答できないくらいには、迷って貰えてるのかな」
「いえ、恋人には、」
 状況が飲み込めないだけで、彼と恋人になることを迷っているわけじゃない。慌てて恋人にはなれないと言おうとしたら、遮るみたいに相手も口を開く。
「うん。わかってる。でもここにいる間だけ、恋人にならせてよ」
「ここに、いる間……」
「そう。俺との恋人関係を拒否するのは、世間体を気にするから、だろ?」
「世間体?」
 そういえば、人からどんな風に思われるか、見られるか、みたいなことを気にしたことはなかった。それを気にしてたら、本人にも周りにも、もう少しちゃんと想いを隠すなりしていただろう。教授に恋をしているみたいだと言われて、腑に落ちたなどと納得してる場合じゃない。
 しっかり否定もせず気持ちを本人にも周りにもダダ漏れさせた結果が、本人からの告白だったり、後輩からのレイプ未遂だったりに繋がっているのに、世間の目が怖くてなんて、どの口が言うんだって感じだと思うんだけど。さすがに今更感が酷い。
「違うの?」
「あーいや、まぁ、違いません。多分」
 それでもはっきり違うと言えないのは、男女の恋人が当たり前だって思っていることや、だから女性も恋愛対象になるなら女性を選ぶべきだと思っていることなどは、突き詰めれば世間体が気になるってことに繋がっていないとは言えない気もするからだ。当たり前から外れた生き方はなにかと大変だろうって気持ちは確かにある。
「多分?」
 眉間に少しシワを寄せ、低めの声で聞き返されて、思いっきり疑問を持たれてしまったと思う。これは間違いなく追求される。
「もうちょっと詳しく話して」
 ほらやっぱり。そう思いながらも、諦めて口を開いた。
「えと、その、俺自身がどう思われるかはあんま関係ないから、世間体とかはっきり意識したことなかったって、だけです。けど、あなたが世間からどう見られるかは確かに気になるから、世間体を気にして恋人になれないってのは、当たってます」
「は? 俺?」
「そ、です」
「俺から誘ってるのに、俺がどう思われるかを、君の方が気にするの?」
「どう思われるか気にするってより、当たり前ができる人なんだから、俺なんかを相手にしてないで、当たり前を進んでって欲しいんですよ。当たり前を進むってのが、俺の中では世間体を守ることと同義だから、世間体が気になってあなたとは付き合えない、です」
「当たり前って、何? どんなこと?」
「それは、女性とお付き合いして、結婚して、子供作って、みたいな人生?」
「つまり、君が俺との交際を拒否すれば、俺が他の女性と交際を始めるはずだ、みたいなことを考えているわけ?」
 どんどんと低くなる声と、険しくなる瞳に、ぶるりと体が震えてしまう。こんな彼は知らない。今度こそ間違いなく怒らせたのだと悟って、血の気が引く思いがした。

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追いかけて追いかけて23

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 相手に凭れかかってぼんやりとしているうちに、お湯を吸って重くなった部屋着は脱がされた。そのさい少し場所を移動したから、頭から降り注いでいたシャワーは現在、自分の背中にばかり降り注いでいる。
 また相手の体が冷えてしまうから、せめて立ち位置を逆にして欲しいと思ったけれど、その訴えは大丈夫の一言で流されてしまった。というよりも、その一言であっさり諦めてしまうくらい、相手に抗う気力がない。
 正面から抱き包むみたいに背中に回された腕はするっと背中も腰も撫で降りて、剥き出しになったお尻を撫でられ、揉まれて、尻たぶを左右にクッと割られれば、すぐにアナルに指先が触れる。そんな事をされたら、相手の両肩へ置いていた手につい力が入って、グッと肩を掴んでしまうのは仕方がないと思う。
 お尻に手を回すために少し前屈みになっているから、相手の顔の位置も下がっていて、戸惑うこちらを観察しているらしい視線をかなり近くに感じたが、どうしていいかわからずそっと顔をそむけるだけだった。
「中、洗おうか」
 やっぱり、と思う。相手のされるがままではあったけれど、さすがにもうそこまで呆けては居ない。彼の手がお尻に触れた時から、自分がシャワーを浴びる前に交わした会話を思い出していた。
 彼の手でお湯を注がれて、彼の前で汚穢を吐き出して見せるのか。中が綺麗になるまでそれを何度も繰り返すのか。
 羞恥とかよりも恐怖に近い感情で体を震わせてしまったけれど、嫌だ止めてと突き放して逃げる気力はない。それに、相手がしたいなら受け入れたい、という気持ちもあった。
「俺が悲しいって言ったことと、水浴びてたことに、罪悪感持っちゃった?」
「えっ?」
「嫌だけど受け入れないと、みたいな顔してる」
「それは……」
 的確な指摘だけれど、それが罪悪感からなのかは正直良くわからない。はっきりとわかるのは、自分が彼を好きで、欲しくて、だからここに居るってことだけだ。
 たくさん気遣われて、嫌だってことを避けてくれるのはそれはそれでありがたいけれど、嫌だって言われてもしたいって言われたら、それはそれで嬉しいんじゃないかとも思う。イッた後言いなりになって相手任せにしてるのだって、あんな形であっさり吐精した後の脱力感を理由に、ただ甘えているだけというか、ちょっと強引にイカされてしまったのも実のところ嬉しくて、そのまま相手の好きにされていたい気持ちからってのも大きそうだった。
 だからきっと、罪悪感なんかではない気がする。
 悲しませる気はなかったし、水浴びされてたのもびっくりしたけれど、自分が酷いことをしたせいでと思うには、どうにも自分の行動や発言と、彼のこれらの反応に繋がりが見えないのも大きい。悲しませた事実より、なぜあれを聞いて悲しいと思うのかとか、水を浴びないと気持ちの整理がつかないほどの葛藤がなんなのかとか、むしろそういった興味のほうが強いかもしれないだなんて、ちょっと言えそうにないけれど。
「その罪悪感、つけこむけど、いい?」
 罪悪感じゃないですと言って、こちらの気持ちを説明する気なんてない。そしてこれを肯定したら、お腹の中を洗われてしまうんだってこともわかっている。
 わかってたって、返す言葉は「はい」か「どうぞ」か「いいですよ」くらいしか思いつかなかった。

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追いかけて追いかけて22

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 二人一緒に寄り添って、お湯の降り注ぐ下でホッと安堵の息を吐く。顎をすくわれ唇を塞がれれば、それにもやっぱりホッとしてしまうのだけれど、問題は二人の身長差だ。
 降り注ぐシャワーの下で上向かされてのキスなんて、そうそう長くは続かない。すぐに気づいて貰えたから軽く咳き込む程度で済んだけれど、溺れるかと思った。
「溺れるかと思った」
「ふはっ、ごめん」
 そのまま口に出せば、相手が小さく吹き出すように笑う。馴染んだ優しい気配に、またしてもホッと安堵する。相手にもっと近づきたくなって、おずおずと指を伸ばしてみれば、相手の手に触れた瞬間、指を絡め取るみたいに握られてしまった。今度は安堵じゃなくて、ドキッと心臓が跳ねる。しかも相手の顔がまた近づいてくる気配がして、ドキドキは簡単に加速していく。
「ねぇ、待っててって言ったのに、どうして来たの」
 耳の横でしゃべられると、どうしてもゾワリとした何かが背中を走る。反射的に肩を竦めてしまえば、耳が弱いことを思い出したらしい相手がごめんと言って離れていこうとするから、絡んだ指先を引いてしまった。
「こういうの、期待しないでいられないんだけど」
 軽くボヤかれた後で、唇が耳に触れる。
「っぁ……」
 ゾクゾクっとした何かは快感だ。
「きもちぃ」
「うん」
「きも、ち」
「そう」
「ん、ほん、と」
「わかってる」
 自分自身に言い聞かせるみたいに繰り返しても、返るのは優しい相づちばっかりだ。でも耳に響く相手の息遣いや些か乱暴な扱いに、先程よりもずっと相手の興奮を感じ取ることができる。それがなんだか嬉しくて、絡んだままの相手の指を、不器用ながらもそっと撫でた。
 応じるように撫で返されて、今度はそちらからもジワジワと快感が広がっていく。するりと解かれた指が快感を引き連れながら、ゆるりと手首から腕を伝って這い登ってくる。それはやがて耳へと到達した。
「ぁ、あっ、ゃっ、あぁっっ」
 左右同時に耳を弄られて、キモチイイは一気に数倍に跳ね上がった気がする。頭を振って嫌がる素振りはあっさり抑え込まれてしまった。というか左右の耳を顔と手で挟まれて、頭なんて振らせてもらえない。
 逃げかける体も、もう片手が宥めるみたいに背中を撫で降りて、少し強めに腰を抱かれればそれ以上の抵抗は出来なかった。それどころか、彼の手が触れる腰からもジワッと快感が広がっていくのが恐ろしい。だって、手の平も指先も、ただ腰を支えるだけじゃなくサワサワと撫でるみたいに動いている。
「やっ、やぁっ、ぁん、も、だめ」
 思うように動かせない体に、逃せないキモチイイが溜まっていくみたいだった。膝が震えてこのままだとこの場に座り込んでしまいそうだ。そう思う頃には、腰を抱く相手の腕にますます力がこもって、相手とのわずかな距離がなくなった。
「んぁああっっ」
 濡れた部屋着の内側でとっくに勃起しているペニスを相手の体に押し付けることになって、耳を弄られるのとは別種の強い快感が走る。
「ガチガチだね」
 ふふっと笑われて恥ずかしい。
「自分で握って扱ける? それとも揺すってあげたらイケるかな?」
 何を言っているんだと思ったが、次の瞬間には言葉通り腰を抱く腕に体を揺すられ、自分の体と相手の体に挟まれたペニスがズリズリと揉まれて悲鳴を上げた。
「ぁあああ゛あ゛」
 イッていいよの言葉を聞きながら、抗えない快楽に体を震わせる。頭の中は白く爆ぜたが、射精した感覚は薄かった。でも吐精した後の脱力感みたいなものが襲ってきたから、多分きっと射精したんだろう。

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追いかけて追いかけて21

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 気持ちの切り替えが必要だと言って、相手はシャワーを浴びに行ってしまった。精一杯の気遣いか、彼側の問題だからってことと、ちゃんと気持ちを切り替えて戻ってくるから大丈夫だってことと、あまり色々考えすぎずに待っててと言われたけれど、考えないなんて無理に決まってる。
 何を失敗したのかわからない。襲われてる最中に彼の名前を呼んだと教えてはいけなかったらしいのはわかったけれど、それが彼の中の何に引っかかったのか皆目検討がつかなかった。しかも、本人の言葉を信じるなら、彼の名を呼んだというその事実は、彼にとっては悲しいことらしい。
 あの時、乾いた指をねじ込まれる痛みの中で、彼のことを強烈に意識したし、抑え込んでいた自分の中の願望とも向き合った。彼を選びたくて、もっと彼に触れて欲しい気持ちに気づきながらも、なぁなぁにしてずるずると会うのを止められずにいた。そんな自分に、彼と会うことをきっぱり止める決意をさせたくらいに、認めてしまった自分の欲求は厄介なものだとわかっていたのに。
 自分自身が持て余すようなものを、相手に告げたのは確かに間違いだったんだろう。
 だって、上書き行為をねだったなんて思われたくなかった。ただただ好きだから欲しいと思った事実を、彼にも知ってて欲しいと思ってしまった。悲しませる気なんかなかったし、むしろちょっとくらいは喜んでくれるかと思っていたのだから、自分は本当に何もわかっていない。
 抱かれてしまう前に同居人が駆けつけてくれたおかげで、男に襲われかけたトラウマなんてないと思っていたのに、いざ触れられてみれば後輩男にはべったりと痕跡を残されていた。自分じゃ気づいていなかったそれも、彼にはしっかりと見えていたようだから、彼が今何を考え、どんな気持ちに整理をつけて切り替えようとしているのかなんて、わかるはずがないのも仕方ないかもしれない。自分と彼とでは、見えているものが多分違いすぎる。
 授業のこととか、研究内容とか、彼の仕事のこととか、そういったことなら、もっと簡単にお互いの世界を共有できるのに。他愛のない日常のあれこれも、日々流れていくニュースも、話題の映画も音楽も、一緒に食べにいく食事も、意見が割れた時でさえ楽しくて、相手のことを理解できないと思ったことはないのに。好きな気持が絡むと、こんなにもわかりあえない。
 脱がされてしまったホテルの部屋着をもう一度着て、自分もベッドを降りた。だってなかなか戻ってこない。考えることは止められないのに答えも出ないし、戻ってこないってことは相手だってまだ気持ちの整理がついていないんだろう。向かう先は当然バスルームだ。
 シャワーの水音が漏れ聞こえるバスルームのドアを開けば、すぐに違和感に包まれる。浴室内はまったく暖かくなかった。
 彼が頭から浴びてるのはお湯ではなく水だ。慌てて中に踏み込んで、勝手にカランを弄ってシャワーを止めた。
「待っててって言ったのに」
 濡れた髪をざっくりとかきあげ、悪い子だな、なんて笑う顔も声も力がない。
「何やってんですか」
 対するこちらの声は低く唸るみたいにドスがきいてしまって、思いっきり相手を責める感じになった。彼を叱りにきたわけじゃないのに。
「大丈夫だよ。水ってほど冷たいの浴びてたわけじゃないから。ぬるま湯」
「嘘つき」
 そっと触れた彼の腕は冷たくて、そのまま引き寄せられるように抱きついてしまった。触れ合う肌はどこも冷たくて、部屋着が吸い込んだ水滴だってやっぱり冷たい。
 少しでも熱を分け与えようと、相手の体をぎゅうぎゅうと抱きしめてしまえば、やがて諦めたみたいな吐息が一つ落ちてきた。
「ごめん。みっともない姿を見せたね。風邪をひく前に、ちゃんと温かいシャワーを浴びよう」
 穏やかに言い聞かせる声が腕を離してと促すので躊躇いながらも従えば、再度シャワーから水が吹き出す。それはすぐに温かなお湯へと変わった。

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