追いかけて追いかけて11

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 暫くして隣室から出てきた彼はやはり怒っているのか、なんとも不機嫌そうな顔でこちら向かってくる。身構えつつも黙って待ってしまったのは、彼の突然の来訪に自分が関与しているのだと、彼が教授と話している間に、なんとなく予想をつけてしまったからだ。
 傍らまで来て足を止めた相手は、教授の許可は貰ってるから帰る支度をしてと言った。どこに連れて行かれるんだろうとは思ったが、わかりましたと答えて片付けを開始する。ほぼ命令調で帰り支度を促した相手の方が、一瞬呆気にとられた顔をしたのがなんだかおかしかった。
「お待たせしました」
「うん。じゃあ、行こうか」
 先程帰り支度をしろと告げた声よりも、ずっと穏やかで柔らかい。支度をしている間に何か思うところがあったのか、怒っているような不機嫌さはいくぶん鳴りを潜めて、けれど今度は困惑と戸惑いとが滲んでいた。
 お先に失礼しますと告げて、並んで研究室を出る。気まずそうに付いてきてと言ったきり、相手は黙って大学の敷地内を歩いて行く。駅とは明らかに方向が違うが、どこへ向かっているのかと聞くことはせずに、大人しく相手のあとを追った。チラッと盗み見た横顔はまた少し不機嫌そうで悩ましげだった。
 連れて行かれたのは時間貸しの駐車場で、どうやら今日は車で来ていたということらしい。免許はあるが自分の車は所持していないと言っていたし、これは多分、たまに借りると言っていた彼の親の車なんだろう。
 会う時はだいたいお酒有りの食事をするのもあって、今まで彼が車で来たことはなかった。車そのものもだけれど、彼の運転する姿を見るのも初めてだと思うと、少しだけ気持ちが高揚する。完全な好奇心という自覚はある。彼への興味はやはり変わらず、どうしたって尽きそうにはない。
 せっかく突き放したのに、こうやってこちらの興味を煽ってくるのは、はたしてわざとなんだろうか。しかし、どういうつもりかとは、やはり問えそうにない。
「乗って」
 リモコンで解錠すると共に促されて、だまって助手席側に回り込んでドアを開けた。相手は運転席側に立っているものの、ドアを開ける気配がない。大人しくこちらが乗り込むまで、油断がならないとでも思っているんだろうか。ここまで付いてきて、今更逃げ出すはずもないのに。
 助手席に腰を下ろして、シートベルトまでしっかり着用すれば、ようやく運転席側のドアが開く。腰を下ろすのを黙って見つめてしまえば、なぜか相手の方が酷く居心地が悪そうだった。
 しばし逡巡したあと、ゆっくりとこちらを振り向く。その顔がなんだか泣きそうにも見えて、さすがに首を傾げてしまった。
「君は、……俺が、怖くは、ない?」
 戸惑いを乗せながら、迷うように吐き出されてきた言葉に、こちらも戸惑いながら怖くはないですと返す。
「じゃあ、気持ちが悪い?」
「いいえ、別に」
「車なんて閉鎖的な空間に二人きりで、なんとも思わないの? どこへ連れて行かれるかもわからないのに、律儀にシートベルトまで締めちゃって、どういうつもり?」
 どういうつもりって言われても。と思ったら、さすがに苦笑がこぼれ落ちた。
「あなたは、あいつとは違いますから」
 あいつ、という単語に相手が身構えたのがわかる。間違いなく、彼は自分に何が起きたのかを既にしっかり把握している。
「俺が嫌がるような酷いことはしないって信じてるし、そもそも、」
 そもそも相手が彼ならあんな嫌悪感とは無縁だろうと思うし。言いかけてから、慌てて口を閉じた。気をつけないと、色々と本音が漏れてしまいそうだ。
「そもそも?」
「いえ、なんでも……」
 濁して口を閉ざし続ければ、相手も深追いはしてこない。代わりに、諦めのような、覚悟のような、吐息を一つ。
「君の身に何が起きたかは知ってる」
「でしょうね」
「勝手に探ったことは、悪かったとは思ってるんだけど、あまりに突然だったから俺に原因がというよりは、君に何かが起きたんだと思ったし、そう思ったらどうしても知りたかった」
 ゴメンねと困ったみたいな苦笑は、どうやら自嘲しているらしい。きっと理由を言わずに一方的に切ったのは、あの事件を知られたくなかったからだと思っている。さっき謝られたのも、多分、これなんだろう。
「何が起きたか知って、だからそのことで、同じように君を想う俺を嫌悪したんだと、思った。でも、どうやら違うらしい」
 なんでもう会わないと関係を切られたのか、それを知りたいんだと彼は続けた。

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追いかけて追いかけて10

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 まさかこのまま強引に部屋に連れ戻す気かと思ったものの、さすがにそこまでの余力は相手にもないらしい。数歩下がった所で突き飛ばされて廊下に転がされた。
「う゛ぁ゛あ゛っ」
 埋められていた指も同時に引き抜かれたが、勢い良く擦られた痛みと衝撃に体が震える。とっさに、自分自身の体を守るように背を丸めて縮こまろうとするが、背後にしゃがみこんだ相手に羽交い締めされてそれも叶わない。
「ちょっとオイタが過ぎましたね」
 再度手で口を覆われて、耳元に相手の口が寄せられる。囁く様な声音はやはり笑い混じりで、気味の悪さにゾワリと肌が粟立った。
「あれ? 耳は感じる?」
 口は塞がれ悲鳴を上げれなかったし、嫌悪丸出しなはずのこちらの顔も見えていないだろうから、勘違いしたらしい。ふーんと言いながら更に口が寄せられて、舌で、歯で、唇で、晒した耳を嬲られた。
「ん゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛」
 嫌だ。嫌だ。気持ち悪い。
 こちらはただひたすら気持ち悪くてたまらない感触に呻くばかりなのに、ゾワリゾワリと怖気立つ肌を感じていると誤解している相手は、楽しげにしつこく耳を舐め弄ってくる。無遠慮に弄られたアナルを含んで、腰全体が鈍い痛みを訴え続けていたし、身を捩って暴れて抵抗するだけの気力と体力は尽きていた。
 さすがに心が折れて、このままこいつに犯されるんだと、悔しさと悲しさとを綯い交ぜた涙があふれて止まらない。そんな中、玄関扉がガタガタとひどい音を立てた。
 さすがの異変に相手が動きを止めたのと、玄関扉があっさり開いたのはほぼ同時だったと思う。そこには鬼の形相の同居人が立っていた。
 そこから先は嵐のようで、ふざけんなテメェの怒声とともに突っ込んできたルームメイトの友人に、背後の男はあっさりのされてボコボコだった。自分はと言えばその展開を呆然とみていただけで、後輩男を殴りまくる友人を止めたのは、結局駆けつけてきた警官だった。
 つまり誰でもいいから通報して欲しいという願いは届いていたわけだ。
 その後、後輩男が部屋に入れたのは友人の鍵を無断拝借して合鍵を作っていたからだってことや、繋がる前に後輩男に捕まり落としていた携帯は、落ちた後に友人と繋がり、それで慌てて駆けつけてくれた事などがわかったけれど、警察沙汰になってしまったのもあって、当然、親も大学も巻き込んでそれなりに揉めた。
 結論から言えば、後輩男とは示談した。後輩男をかなり手ひどく殴りつけた友人に、間違っても前科なんて付けたくなかったというのがやはり一番大きい。
 犯されてしまう前に助かったというのももちろんあるし、自力ではなく友人の功績だけれど、相当の痛手を負わせたというのもある。加えて、うちの教授も相手のゼミの教授も相当怒っていたし、残り少ないとはいえ、それでも卒業まで相当苦労するだろうことがわかっていたのも、それなりに大きいかもしれない。
 そんなこんなで揉めていたので、彼との約束はキャンセルした。ついでに、もう会いませんとも送って、相手の連絡先をブロックした。何があったかの詳細はもちろん知らせることが出来なかったので、相手はさぞ不審に思っただろうけれど、相手を納得させて離れて貰うにはどうすればいいかを考える余裕がなかった。
 その彼が研究室に顔を出したのは、事件から一月半ほど経過した頃だった。怒っているのか硬い雰囲気で入ってきた相手に身構えてしまえば、それに気づいた相手が困ったように笑ってゴメンねと言った。
 何がゴメンなのかさっぱりわからない。けれど、なんの謝罪ですかと問う前に、相手はアポは取ってあるからと教授のいる隣室へと消えてしまった。

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追いかけて追いかけて9

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 好きだって言ってくれたのに。触れるだけのキスはあんなにも気持ちが良かったのに。付き合ってって言ってくれたのに。
 選べなかった。選びたくなかった。彼の将来のために、そうした方がいいと思った。女も選べる男相手に、男の自分が与えられるものなんてたかが知れている。でも選びたかった。もっと触れて欲しかった。
「そんな男の名前呼んだって、無意味っすよ」
 フンと鼻で笑われて、どうやら無意識に彼の名を呼んでいたらしいと知る。
「それとも、名前呼んで、そいつに抱かれてるつもりにでもなってんですか」
「違うっっ」
「そうすよね」
「うぁっ、やめっ」
 クスクスと笑う声にすら苛立ちが募るのに、無遠慮にアナルを弄られる痛みと不快感に呻きながら、僅かに身をよじる事しか出来ない。
「今、先輩のケツ穴可愛がってんの、俺の指っすからね。そいつをどんなに好きだって、あんた抱くのは俺ですよ。抱いてもくれない男呼んでないで、呼ぶなら俺の名前呼んで下さいよ」
 再度名前を告げられ、ほら呼んでと促されるが、もちろん従うつもりはなかった。名前など絶対に呼んでやるものかと、キュッと唇を引き結ぶ。
「ねぇ、ほら、呼んでってば」
「んぐっ……ぅ……」
 意地悪くアナルに埋まった指を突き上げ揺すられて、引き結んだ唇からくぐもった音が漏れた。
「何が何でも呼ぶもんかって感じすか」
 やっぱりクスクスと笑われて、相手の余裕が本当に腹立たしい。悔しさにギュッと瞼に力を込めれば、また一つ、ボロリと涙がこぼれていった。
「案外強情というか、諦めが悪いというか、ホント……」
 呆れたような声音は一度そこで途切れ、後ろから回された腕に顎を捕らわれ、強引に顔を捻られる。
「ぅうっ……」
 強い視線に晒されて、嫌々ながらも瞼を上げて見返した相手は、ギラつく欲望を隠すこと無く下卑た笑いを浮かべていた。そのニヤけた口元が寄せられて、必死で頭を引こうとするものの、ガッチリと顎を掴んだ手に為す術がない。
「ははっ、泣いちゃってかーわい」
「ひっ……」
 涙を舐め取られ、頬をゾロリと這った舌の感触に怖気立って悲鳴を上げた。そんなこちらの態度すら相手は楽しいらしく、ニヤニヤクスクス笑っていて気味が悪い。
「いじめ甲斐があっていいっすね。もっと、泣かしたくなる」
「さいっ、てー、ぅぐっ」
 思わず相手を罵れば、開いた口の中に指先がねじ込まれた。口内の指に噛みつかれないようにするためか、顎を掴む力は緩むどころか、より一層強い力で両頬を挟みあげる。更には、口内の指に舌を押さえつけられ、喉が開くように首の角度を変えられた。
 その状態でアナルをグジュグジュとかき回されて捏ねられれば、噛み殺すことも飲み下すことも出来ないあられもない声が喉の奥から迸る。
「ぁあ、あああ、ゃあ゛あ゛」
 背後から伸し掛かるように押さえつけてくる相手と玄関扉に挟まれて、ほとんど身動きが出来ない上半身を必死で捩った。無駄ですよと嘲る声は聞こえていたが、無駄だからで抵抗しないなんて選択肢はない。
 背後の男に、このまま好き勝手突っ込まれるのなんて絶対に嫌だった。藻掻いて叫んで、辛うじて自由な手を目の前の扉に強く打ち付ける。近くにいる誰でもいい。異変を感じて通報なりしてくれれば、助かる可能性はまだ数パーセントくらい残されているかもしれない。
 しかしさすがに騒ぎ過ぎだと思われたのか、口の中に突っ込まれていた指が引き抜かれて、今度は口を覆うように塞がれてしまう。しかも玄関扉に押し付けられていた体も引き剥がされて、後ろへ引きずるように歩かれる。

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追いかけて追いかけて8

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 ゴチンという鈍い響きと、痛みを訴える相手の声が上がる。よほど当たりどころが良かったのか、吹っ飛びはしなかったものの相手の体が大きくのけぞって、脇の壁に強かに頭を打ち付けたようだった。股間の手も離されて、相手は片手を腹に、片手を後頭部に押し当てながら未だに呻いている。俯いているのでどんな顔をしているかわからないけれど、知りたくもなかった。
 今しかないと慌てて立ち上がる。すぐそばに脱がされて放られていたスウェットのズボンが見えたので、さすがに下半身丸出しで外に飛び出すわけにはと急いで足を通して、後は充電スタンドに置かれた携帯だけ握って部屋の出入り口に向かう。
「おい。待てよ」
 逃げんのかという声に、逃げるに決まってるだろと思いながらも、言葉は返さず早足で部屋を出た。手元の携帯を弄ってルームメイトの友人に電話を掛けてみるものの、繋がる気配はない。それどころか、背後で男の立ち上がる気配がする。相手もそのまま逃してくれる気なんてないようだ。
 ヤバイなと早足を駆け足に変えて、玄関扉に飛びついた。靴を引っ掛けながら鍵を開け、後はドアを押し開いて飛び出すだけ。というところで大きな音が立って、強い衝撃と痛みが全身を襲った。すぐには何が起きたのかわからなかったが、目の前には閉ざされたままの扉があって、逃げ切れなかったことを理解し絶望的な気分に襲われる。
「逃がすかよ」
 低く怒りを孕んだ声。背中に掛かる相手の圧と掴まれた右腕に食い込む相手の指先。玄関扉に思いっきりぶち当ててしまった、肩と額もジンジンと痛んで呻くことしか出来ない。
「ううっ……」
「もしかして、優しくされるより、こーゆー方が燃えるタチっすか」
 そんなわけあるかと叫びたいのに、扉に押し付ける力が増していて声を上げるどころじゃなかった。アチコチ痛い上に息苦しい。
「ま、俺はこーゆーのも、嫌いじゃないんでいいっすけど」
「ひっ」
 ゆるいゴムのウエストを抜けて、相手の手がまた股間を握ってきたせいで、小さく悲鳴が漏れた。急いでいたから下着は履いていない。直に感じる他人の手を、今度はもう簡単に振り払えない。ゾワゾワと這うような嫌悪で肌が粟立った。気持ちよさなんて、ない。
 グニグニと揉まれて反応なんてしなかった。乾いて柔らかなそこを強引に剥かれて扱かれるのなんて、痛みと不快感しか与えないとわからないのか。
 うわ言のように止めろ嫌だと零していたら、舌打ちが聞こえて弄られていたペニスが解放される。反応の無さに飽きたのかもしれない。しかし、ホッと安堵の息をついたのも束の間、ズルリとズボンを下ろされて息を呑んだ。
「少しは感じてないとキツイかなと思ったんすけど、無理っぽいんでもういいっす。痛くても、先輩のせいっすからね」
「は? ちょ、ひぇっ」
 尻肉を割られて指先がアナルに触れる。またしても情けなく悲鳴があがってしまったが、当然相手はお構いなしだ。強引に侵入しようとする乾いた指に、皮膚が引攣れて痛い。
「痛っ、やっ、やめっ」
「大人しく部屋戻るなら、ローションありますけど?」
「ぜってぇ、いや、だっ」
 相手に屈して自分から相手を受け入れる事に比べたら、このまま乱暴にされる方がずっとマシだった。ただ、最悪の選択を重ねている自覚もある。
 今ならまだ、謝って、お願いだから優しくして欲しいと頼んで、大人しく相手に従い受け入れる様子を見せれば、多分きっとそこまで酷い扱いはされない。今のところ相手には、こちらを感じさせたり慣らしたりという手順を踏む素振りがある。
 でも、なんでこんな男に、という気持ちを押さえつけて、相手に好き勝手させるのは無理だってこともわかっている。自分の身を守るために、こんな相手に何かを請うことはしたくない。そこまで大きな体格差があるわけでもないのに、同じ男でありながら、この状況から抜け出せないことが悔しかった。
「じゃ、仕方ないすね」
「ひぅっ、やぁ、いたっ」
 グリグリと指をねじ込まれて、痛みで視界が霞む。その痛みに悔しいという想いが重なって、あふれた涙が頬を伝った。
 こんな男に。こんな男に。こんな男に。嫌だ悔しい腹立たしい情けない。逃げられない痛みの中で、脳裏にあの人の優しい笑顔が浮かび上がって、余計に涙を誘った。

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追いかけて追いかけて6

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 自分たちはきっともう会うのを止めた方がいい。今更、彼を好きだと思う気持ちを隠すことなんてきっと出来ないし、会えば好きだ好きだと気持ちが育っていくのだってきっと止められない。
 こちらのダダ漏れな好意で、彼に迷惑なんてかけたくなかった。なのに彼は自分が悪いと言って譲らないし、もう困らせないからまた食事に付き合ってと言われれば、自分から強く拒絶することなんてとても出来ない。
 結局、頻度は少し落としたものの、彼とは変わらず会い続けていた。元々場を取り持つのが上手い気遣いの人だと知っているから、気遣われているのは感じてしまうし気まずさだってゼロじゃないけれど、彼と過ごす時間はどうしたって楽しくて心地いい。
 それでも時折、もう会わない方がいい、これ以上関わらない方がいい、甘えてないで拒絶するべきだという気持ちが湧いて、もう会えません会いませんと何度も連絡を入れかけた。脳内に、メッセージを送った後、彼の返事を待たずにブロックしてしまえと唆す自分がいる。
 なぜなら、唇を触れ合わせただけの優しいキスを、何度となく思い返していたからだ。告白を受け入れて彼と付き合ったら、あのキスの先もあったんだろうなと考えてしまう。優しく笑いながら触れてくれる手を、唇を、想像してしまう。熱を吐き出した後の賢者タイムに、ひたすら落ち込んで泣きたくなるくせに、その想像を止められなかった。
 気持ちが不安定に揺れる。特に彼と会う日が決まった後は、本当に会いに行くのかと直前までかなり悩む。悩んだって、結局は彼に会いに行ってしまうし、彼との時間を楽しんでしまうんだけれど。
 そうなるってわかってても、迷う気持ちはどうしようもなかった。そしてそんな自分の迷いや揺れる気持ちが、どれくらい周りに漏れているかなんて気にしたことがなかった。

 それは夜間実験を終えて、友人と共同で借りた部屋で仮眠を貪っていた時だ。自分の身に何が起きているのかなんて、最初はさっぱりわからなかった。
「ああ、やっと起きました?」
 ルームメイトの友人の声じゃない。上から覗き込む相手の顔をぼんやり見返しながら、誰だっけと思う。全く知らない顔じゃない。
 確か、友人のとこのゼミの4年生だ。てことは、友人も一緒なんだろうけれど、部屋に友人の気配はない。大学からの近さと安さ重視で契約した狭いアパートなので、トイレという可能性はあるものの、そこでようやく何かがオカシイと感じた。
 そもそも、友人はこちらが夜通し実験していたのを知っているし、今から寝るという連絡も入れてある。仮に部屋に何かを取りに来たのだとしても、こちらを起こさぬよう静かに用事を済ますはずだ。お互いその程度の気遣いは当たり前にするから、特に揉めること無く部屋を共同で使っていられるとも言える。
「ゴメン、名前、なんだっけ。あと、なんでここ居るの?」
 体は酷く重くて怠かったけれど、殆ど知らない後輩に上から見下されている状態を受け入れることも出来ず、聞きながら体を起こそうとした。けれど浮かしかけた体は、肩を押されてあっさり布団の上に戻ってしまう。
「ちょっ、」
 名前を告げる相手の口元は笑っているのに、目は全く笑っていない。ゾッとするような気配に、冷や汗が吹き出そうだった。
「先輩とちょっとお話したくて、鍵、借りたんすよ」
 友人がそうホイホイ他人に鍵を貸すはずがない。貸したとして、その連絡と説明がないなんてありえない。絶対嘘だと思ったものの、でも事実、相手はこの部屋に入り込んでいる。
 鍵を盗んだか、ピッキング行為でむりやり鍵をこじ開けたか。どちらにしろ、ヤバイ相手には違いない。
「疲れてるから今はゆっくり寝たいんだけど。話があるなら、後で研究室で聞くから」
 努めて冷静に発したつもりの声は、少し震えてしまった。相手を恐れているとバレるのは避けたかったのに隠せなかった。
「それだと、わざわざここ来た意味、ないじゃないすか」
 口調は落ち着いているが、それは優位を確信しているからなんだろう。

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追いかけて追いかけて5

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 ルームシェアの話を聞く前に、気持ちの余裕を持って話したかったと言った彼は、先に一つ確かめさせてと言葉を続ける。
「ルームシェアの相手と何か特別な関係があるわけじゃないよね?」
「特別な、関係?」
「恋人だったり、恋人予定だったり」
「ただの友人です、よ」
 あ、これ以上は聞いたらダメなやつ。頭では瞬時にそう悟ったのに、彼の口から溢れる言葉を止めることは出来なかった。
「君が好きだよ。だから俺の、恋人になって」
「ダメっ……です」
 聞いたらダメって思った気持ちが遅れて口から漏れて、その後慌てて「です」を足した。もう聞いてしまったけれど、恋人になりますと頷けるわけじゃないから、まぁこの返答でもいいかと思う。もうちょっとマシな断り方があるだろとも、一応頭の片隅で思ったけれど。
「どうしてダメ?」
「それは、……男同士、なので」
 なるべくゆっくりと言葉を吐いていく。少しでも多く、思考を回す時間が欲しい。
「男も恋愛対象になるよって、言ったことあったと思うけど」
「性別の拘りはない、って話、ですよね。だったら恋愛は、女の子として下さい、よ」
 最初の焦りが少し落ち着いて、しっかり考えて答えないとマズいという思考にはなったけれど、思いの外アルコールが回っているらしいことも自覚できていた。飲み込まれて頷いてしまわないように、必死で吐き出す言葉を考える。なのに。
「目の前に、ずっと自分を好きだって思い続けてくれてる、とても可愛い子がいるのに?」
 真剣な目と熱を持った声は、知っているよと言いたげだった。
 恋してるのは本当かと尋ねられたのは最初だけで、憧れですと濁して以降ずっとこちらの気持ちを探らずに居てくれたのは、探るまでもなかったってことなのかも知れない。どんどんと育つ恋情を必死で隠していた意識もないし、ダダ漏れだったよと言われたら、そうですかとしか返しようがないなとは思う。
 でも、そう思ってたって、実際にそれを口に出すかはまた別だ。それを認めるわけにはいかないのだから。
「あこがれです、って言いました」
「うん。聞いたね」
「恋人には、なれません」
「なんで?」
「なんで?」
 思わず同じ言葉で問い返してしまった。
「好きの名前が憧れでも、俺は構わないよ。その憧れは、俺からすれば限りなく、恋してるに近いものだから」
 左頬に彼の少し冷たい手が触れる。自分の頬が熱くなっているのか、それとも彼の手が冷えているのか、もしくはその両方か。
 意識が自分の頬とそこに触れる彼の指先に向かってしまったのは一瞬なのに、その一瞬で元々詰められていた距離が更に縮まっていた。正しくは彼が顔を寄せてきたってだけなのだけれど、間近に迫る彼の顔に息を呑む事しかできなかった。
 唇に彼の唇が柔らかに押し当てられるのを、ただただ黙って見守ってしまったのは、まぶたを落とすことも出来ないくらい硬直しきっていたからだ。
「ほら、びっくりはしてても、嫌悪感はないだろう?」
 ゆったり触れ合うだけのキスを終えた彼は、優しい顔でこちらを見つめている。
 どれだけ口先で憧れだって言ったって、恋情なんだと見抜かれている。軽いキス程度の触れ合いは平気だと確信されている。じゃなければ、勝手にキスを奪っておいて、そんな優しい顔は出来ないだろう。
「そう、ですね。確かに、あなたとのキスに嫌悪感はなかった」
「だったら」
「でも」
 付き合えるだろうと言いかける相手の言葉を、強い声で遮った。相手はさすがに少し驚いた顔をしている。
「でも、男同士で付き合うってことへの偏見と嫌悪感は、あります」
 驚いた顔のまま、相手は未だ寄り気味だった顔と体を離していく。驚きが困り顔に変わっていく様を、なんだか申し訳ない気持ちで眺めていたら、相手はそっと目を閉じ天を仰いだ後、次には俯き大きく息を吐きだした。
 そうしてから再度まっすぐにこちらを見つめる彼は、何かを振り切って、どこかスッキリした顔をしている。
「わかった。困らせるようなこと言って、キスまで奪って、ごめんね」
「いえ。俺こそ、すみません」
「謝らないでよ。どう考えても、今日のは俺が悪い」
 言っていいか迷ってたって言ったろと続けた彼は、断られるのもわかってたんだよと苦笑してみせる。
「好意だけはめちゃくちゃ伝わってきてたから、好かれてる自信はあったんだけどね。男も恋愛対象になるよってことも、本気で恋人になってもいいって思ってるよとまで伝えてあったのに、ずっと告白っぽいことは一切してくれなかったから」
 もう一度、わかってたんだよと、彼はまるで彼自身に言い聞かすかのように繰り返した。

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