彼女が欲しい幼馴染と恋人ごっこ(バレンタイン)

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 滑り止め含めて当然幾つか受ける入試の、最初の受験日前日に、早いけどバレンタインと言いながらキットカットを渡した。受験生ならキットカットの意味はわかるだろう。
 二月の頭だったから、バレンタインと言い切っても別にいいかと思っていたが、相手はありがとうと受け取った後、これってバレンタイン当日も期待していい流れだよねと笑ってみせた。ちょっとわざとらしい笑いに、内心舌打ちしたのを覚えている。
 バレンタインなんて行事をしてやる気がない事を、相手は瞬時に理解しただろう。まさかこれだけ? なんて反応だったら、当たり前だと返すつもりでいた。そこを当日も楽しみだと前座程度に扱われてしまったら、当日も何かしら用意しろと、暗に言われているも当然だ。
 ああ、やってやるよ。やりゃあいいんだろう。まんまとそういう気分にさせられた。
 長い付き合いだから、そう言われたら自分がどうするかを、相手はわかっていて言ったのだ。前の彼だったらあっさり不満を口に出していただろうから、最近の彼は自分相手にも結構頭を使って対応してきている。
 そんな所に脳みそ使ってないで受験に集中しろとも思うが、受験に集中した結果、全体的な頭の働きが良くなった可能性も捨てきれない。どっちにしろ厄介なことには変わりがないけれど。
 
 バレンタイン当日といえば、彼の本命校の受験日だ。まだ恋人ごっこなんてものを始める前、バレンタインに試験とか最悪だとぼやいていたのを覚えている。
 受験生なのにバレンタインなんて入試真っ盛りのイベントを気にするなんて余裕だなと思ったが、でもまだ入試の実感がないだけかもとも思った。あの時は確か、もし本気でお前に告白する気がある女の子がいたら、本命校の受験が終わった開放感の中で本命チョコ貰えるってことだぞと言ったような気がする。バレンタイン当日が本命校の受験日で本当に良かったと、彼があっさり意見を翻したのは言うまでもない。
 彼に本気の女の子が、試験後に本命チョコ持参で彼の元を訪れる可能性がどれくらいあるかはまったくもって不明だが、そんなことを言ってしまった手前、試験後に渡すのはなんだか色々躊躇われる。もしかしたら本当に女の子が訪れるかもしれないし、ごっこ遊びとはいえ恋人として明らかに義理とは言えないレベルの品を用意しなければならないなら、渡すのは朝しかないと思った。
 だって彼に渡すのは、義理とは言えないが当然本命とも言い難い、かなり中途半端なチョコなのだ。
 まぁ近所だし、彼が家を出るだろう時間だって簡単に予測はつく。
 だからバレンタインの朝、家の前を通る彼を捕まえて、かなり小さな箱を渡した。
「え、これって」
「お望み通り、用意してやったんだから持ってけ。これくらい小さきゃ、鞄にも入るだろ」
 どう考えたって質より量派だろう相手に、それの価値がわかるとは思えなかったが、キットカットよりは本気度が見えれば満足するだろう。
「じゃ、頑張ってこい。引き止めてゴメンな」
 マジマジと箱を見つめていた相手は、ハッと顔を上げると、満面の笑みで任せろと言った。
「まさか本命受験日の朝に応援見送りして貰えるなんて思ったなかった。すげー嬉しい。ありがとう。頑張ってくる」
 今にもスキップを始めそうなくらい喜びを溢れさせながら去っていく背中に、そこじゃないだろうという内心のツッコミは当然届かない。確かに結果的には応援見送りだったかもしれないが、こちらにその意図はまるでなかった。むしろ言われて初めて気付いたレベルで驚いた。
「まさかチョコ渡されたって気づいてないとか……?」
 ありえると思って頭を抱えたが、事実そうだった事を知らされたのは、それから少し後のことだった。気になって箱を開けたらしい相手からラインでメッセージが届いたからだ。
 チョコならチョコって言えよ!という短い文面の後、感謝や歓喜や愛情を示すスタンプを連続で送りつけてくる。
 大量のスタンプで流れていく画面を見ながら小さなため息を一つ吐き出して、こんなことやってる暇があるなら単語帳の一つでもめくっとけと、怒りスタンプとともに返信しておいた。

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弟の親友がヤバイ5

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 なかなか寝付けず、翌日も寝坊する気満々だった。弟に手を出したりしないという彼の言葉に嘘はなかったと思うし、また一日中二人の勉強風景を見張り続ける気はさすがにない。
 しかし乱暴に部屋のドアが開けられる音で、眠りに落ちたばかりの意識が浮上した。
 次いでドカドカと近づいてくる、やはり乱雑な足音。寝ぼけた頭でも、それが弟のものだというのはわかっていた。しかも多分何かを怒っている。
「おいコラ、クソ兄貴」
 掛布をバサリと剥がされ、寒っと思う間もなく、ドスのきいた声と弟の体重が降ってくる。
「起きろ」
 言われなくてもさすがにもう起きている。目を開けて、腰をまたいで座る弟を見上げれば、やはり眉を吊り上げた顔でこちらを見下ろしている。まぁ怒った顔も怖いってよりは可愛いんですけど。
「おはよう。で、どうした?」
「どうしたじゃない。兄さん、あいつに何言ったの?」
「あいつ?」
「とぼけんな。俺の大事な親友泣かせて、何やってんのあんた」
「あー……」
 泣いたのかと、泣きそうになっていた顔を思い出す。彼の方から弟に泣きついたとは思わないしちょっと想像がつかないが、それでも弟の前では泣くらしい。
「あーじゃない。しかも自分はあいつ振っといて、弟の俺とは付き合わないでって約束させたとか、ホント意味分かんないんだけど」
「は?」
「だからとぼけんなって。俺と付き合うなって言ったんでしょ?」
 なんだろうこの言い方。
 確かに弟に手は出さないという言葉は聞いた。弟に手を出されるくらいならと、この体を好きにさせようともした。けれど約束させたって言うのとはちょっと違わないか?
 いやいや問題はそこじゃない。
「お前らって親友なんだよな?」
「そーだけど何か?」
「でもお前は、あいつを恋愛的な意味で好きだったりすんの? 好き好き言ってたらしいけど、それってお友達としてじゃなく?」
「そーだよ」
 まさかの肯定に、さすがに驚きを隠せない。目を見開いて弟を見つめれば、さすがにバツが悪そうで、自分を見つめる視線が逸れた。
「でも大事な親友だから、あいつの恋を応援したい気持ちだって本物だったよ」
「んんっ?」
 またしてもの違和感に、なんだか話が食い違っているようだと思った。
「おいちょっとお前降りて。でもって、ちゃんと話、しよう。てかあいつは?」
 元凶の相手も呼んでしっかり話そうと思ったのに、弟はまた少し眉を吊り上げる。
「帰った。目ぇ真っ赤にして起きてきて、さすがに今日は勉強できないからゴメンって」
「そうか……」
「てかホント、何したの。何言ったの。どんだけ酷い言葉投げつけたらあんな目になるの。一晩中泣いてたかもとか思ったら、いくら兄さんでもちょっと許せそうにないんだけど」
 ああ、別に弟も泣き顔を見たわけではないのか。そして過去はともかく、昨夜酷い真似をされていたのはどちらかというと自分のほうだ。
「お前さ、俺とあいつのこと、どれくらい知ってる? 俺が昔あいつにちょっと酷いことして、恨まれてるって知ってた?」
「そりゃまぁいたいけな中学生に手コキだけとはいえ手ぇ出したうえ、恋までさせちゃったら、多少恨まれてても仕方無くない?」
「待て待て待て。てかホント一回降りて。お前の話ゆっくり聞きたい。俺の認識とメチャクチャずれてる」
 一つ大きなため息を吐き出した後、弟はゆっくりとベッドを降りた。
 ようやく体を起こしたが、寝足りないのは明らかでやはり少し頭が重い。
「先リビング行ってちょっと待ってて」
「寝直したら承知しないけど」
「わかってる。顔洗ったら行くから」
 もう一つため息を吐いた弟は、待ってるからねと念を押して部屋を出て行った。

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弟の親友がヤバイ4

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 風呂の湯に浸かりながら、あー出たくねぇなぁと思う。もちろん、のんびりゆったりバスタイムを満喫したい、などという理由ではない。
 結局抱かれることを了承し、せめて体くらいは洗ってきたいと頼み込んで、風呂場へ逃げたというのがここへ至る過程だった。
 いきなり抱かせてと言われて、はいどうぞなんて返せるわけがない事を、相手だって充分にわかっていた。わかっていた相手は、こちらの弱い部分を的確に突いてきた。
 要するに、抱かれてくれないなら弟に手を出すぞと脅された。愛すべき可愛い弟を人質に取られて、彼の要求を飲むしかなくなった。
「お前みたいな男があいつの親友だなんて、ホント信じらんねぇよ。まさか、あいつまで脅して、親友面してるわけじゃないよな?」
「俺は、貴方みたいな男があいつの兄貴なの、かなり納得できますけどね。もちろん、脅したりなんかしなくても、あいつは俺を大好きですよ?」
 風呂場へ逃げ込む直前に交わした会話を思い出してため息を吐く。自信満々で弟に好かれていると口に出すその態度が腹立たしい。
「知ってんよバーカ」
 小さくこぼした呟きだけど、声に出したら結構落ち込んだ。
 二人の仲の良さなんて、黙々と勉強しているだけの姿を一日見ていただけでも充分に伝わっている。弟のあの顔も態度も、脅されて出来るようなものじゃない。
 弟が信頼をおいている親友なのは本当だろう。きっと普段はいい男なんだろうなとも思う。成長して随分と背が伸びたし、小柄とはいえない男の体を、優しく抱き上げて運んでやると豪語するだけの筋力があるみたいだし、見た目は悪く無いどころか笑顔はうっかり見とれるレベルだし、話し口調は丁寧だし、勉強していた様子からすると、たぶんきっと頭もそう悪くない。
 女の子にだってちゃんとモテそうなのに、親友の兄貴を脅して抱こうとしてるなんて、本当どうかしている。けれど言い換えれば、それほどまでに幼い彼を傷つけたのだろう。
 まぁ中学生相手に大人気ない事をしたとは思う。まさかそこまでトラウマになっているとも思わなかったが、そんなのなんの言い訳にもならない事は明白だし、それを口にして相手の傷をさらにえぐろうとも思わない。
 脅されて抱かれろと迫られるのは、復讐してやると思わせるほどの仕打ちをした、過去の自分が悪い。わかっている。これは自業自得だ。
「あーもう、しょうがねぇなぁ」
 大きく息を吐きだして、覚悟を決めて風呂を出た。
 ざっと体を拭いてリビングへ戻れば、ソファに腰掛けてぼんやりと空を見つめていた相手が、扉の開閉音で気付いたのか振り返る。
「ちょっ……」
 やられる気満々の腰タオル一丁という格好に、相手が息を呑むのがわかった。
「ソファ汚すわけに行かないからこっちな」
 彼の反応は無視して、ソファ脇を通り過ぎ、隣接の和室へ続く襖に手をかける。和室の中には、彼が今夜寝るための布団が既に敷かれている。
「ま、待って」
 慌てたように伸びてきた手に腕を掴まれた。
「何?」
 既に開けてしまった襖に背を向けて、背後に立つ困惑顔の男と向き合った。
「本当に、俺に抱かれるつもり、なんですか?」
「脅しておいてよく言うよ。あれ言われて、抱かれないって選択なんて出来るわけないだろ」
「ブラコンにもほどがありますよ」
「うっせ。わかっ」
 わかってるの言葉は最後まで言えなかった。相手の唇を押し当てられてしまったからだ。
「やっぱりいいです」
「は? 何が?」
「貴方を抱く気が萎えました」
「はぁあ?」
 今のキスの意味はだとか、風呂にまで入って決めた覚悟をどうしてくれるだとか、何泣きそうになってんだよとか、頭の中にぐるぐると回る言葉はどれも口から出てくることはなかった。
「いやだって、お前……」
「心配しなくても、貴方の大事な弟に手を出したりしませんよ。俺にとっても大事な親友ですし、今後も躊躇いなく大好きって言われてたいですしね」
 可愛いですよね、あいつ。と続いた言葉に、そうだろ~と言いかけて慌てて口を閉じた。弟の可愛さを語り合う相手でも場面でもない。
 なんだか辛そうな顔に傷つけたらしいとは思ったが、やっぱりわけがわからなかった。
「じゃあ、そういうわけで、おやすみなさい」
「えっ、ちょっ、」
 するりと脇を抜けて和室へ踏み込んだ相手は、後ろ手にピシャリと襖を閉めてしまう。
「ええええー」
 もらした戸惑いに応えてくれる者はなく、けれど閉じた襖を自ら開けて、どういうことだと問い詰めるのも躊躇われた。
 暫くそこに立ち尽くしていたが、襖が開く気配はない。やがて肌寒さに気付いて、仕方なく、もやもやとしたまま自室に引き上げた。

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弟の親友がヤバイ3

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 こんな異様な状況の中、男の手なんかで興奮するわけがない。
 お前と違って誰の手でも感じちゃう淫乱じゃないからな。なんて事を思ったりもしたけれど、それを口に出したりはしなかった。そういった事に慣れてない中学生と、そこそこ経験のある現在の自分とでは比較することそのものがオカシイのもわかっているし、そんな言葉を口に出して相手を煽ったらもっと酷い目にあわされそうだ。
 しかし諦めて大人しくされるがままになっても、反応しないことに焦れた相手によって、行為はあっさりエスカレートしていく。
 何をされたかというと、目隠しされた上で咥えられた。しかし目隠しなんてなんの意味もない。相手の顔を見なければ興奮できる、というような状況をとっくに超えている。
 両手を括られ拘束されていることも、ムリヤリ感じさせようという動きも、弟と極力二人きりにさせたくなくてまだ風呂を済ませていないという事実も、はっきり言って萎える要素ばかりだった。
 正直ここまでくると、必死になってバカだなぁという気持ちが強い。復讐だの負けず嫌いだの根に持つタイプだの言いつつも、これじゃ結局、相手にも相当ダメージがありそうだ。
 はぁ、と溜息を吐いたら、相手の動きが止まった。それからそっと体を離す気配がして、相手もとうとう諦める気になったのかもしれないと思う。できればそうであって欲しい。
 その願いが届いたのか、やがて目隠しが外された。ようやく開けた視界の先、困惑を混ぜた泣きそうな顔の相手が、インポかよと怒っている。さっきの余裕は当然無くて、そんな顔で睨まれたって欠片も怖さはない。
 その顔を見ていたら思わず笑ってしまって、相手はますます泣きそうな顔になった。せっかくそこそこ男前に育ったのに台無しだ。そして、そんな顔をさせているのが自分なのかと思うと、さすがに悪いことをした気になって胸が少し痛んだ。
「あのさ、俺、Mじゃないんだよね」
「だったら何?」
「酷いことされたら萎える系なの。でもお前の泣きそうな顔見てたら、ちょっと勃ちそうかもって気になった。……かも?」
「変態」
「まぁ否定はしない」
「ドS」
「そこまでではない、と思う。てか、ちょっと聞いていい?」
 相手は諦めきった顔で一つ息を吐き出すした。
「どうぞ」
「復讐って俺に何したいわけ? 俺がお前の手でイッたらそれで満足して終わり?」
「まさか。取り敢えずやられたことはやり返すってだけで、貴方に気持ちよくなってもらった後は、俺が気持ちよくさせて貰う予定でしたよ。だって遊びに来たら、あいつの代わりに、またキモチイ事してくれるって言ってましたよね?」
 覚えてますかと問われたので、覚えてるけどと返す。
 けれど相手はもう高校三年生だ。きっと手コキ程度で満足なんてしないだろう。だとしたら彼がしたみたいにフェラをしろだとか、もしかしたらそれ以上を求めてくる気なのかもしれない。
「てことは何? お前、俺に抱いて欲しいとか思ってんの?」
 あの時さっさと逃げ出した中学生が、すっかり成長を終えてから戻ってくる意味を考えたら、そのあたりかなと思うがどうなんだろう?
「逆です」
「逆?」
「抱かれるのは貴方の方」
「あっ、あー……そっち、か」
 それならがっちり成長を終えた後じゃなきゃ、近づく気にもならなかっただろうと、思わず納得してしまった。
「だってあいつの代わりだって言うなら、そっちのが自然でしょう?」
「そうね。お前の言い分は間違ってないよ」
 納得はできると、苦笑を零すしかない。
 さて、相手の希望を吐かせてみたけれど、これはどうすればいいだろう?
 彼の泣きそうな顔に過去の所業を反省し、少しくらいなら相手をしてもと思ったりもしたけれど、最終目的が抱くこととか言われてしまうと、やはりそう簡単には、じゃあお互いちょっとキモチクなってみようかなんて持ちかけられない。
「うーん……どうすっかなぁ」
「俺に、抱かれてくれます?」
 迷ったせいで、多少は見込みがあるとでも思ったのだろうか?
「いいよ。なんて言うと思うか?」
「全く欠片も思いませんね」
 相手もさすがに落ち着いて来たようで、返す口調がふてぶてしい。しかし、はっきり否定されてホッとしたのも事実だった。

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弟の親友がヤバイ2

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 夕飯後もまだリビングで勉強を続ける彼らの邪魔になるわけにはいかないが、当然、自室に戻る気はない。リビングとはいえ極力二人きりにさせたくない。
 さすがにテーブルの向かいで見張り続けるのは悪いし、TVをつけることも出来ないので、少し離れた場所にあるソファーにだらしなく身を預け、取り敢えずスマホを弄り続ける。
 時折互いに何かを教え合っている会話のほかは、シャーペンがノートの上を走るかすかな音が聞こえるだけの、至って静かな空間だ。思っていた以上に二人は真面目に受験勉強をしていて驚いた。
 静かすぎて眠い。
 気付けば寝入っていたようで、体を揺すられ起こされた。
「んぁ……?」
「目、覚めましたか?」
 目の前、随分と近い距離にある顔は、弟のものではなく弟の親友である男のものだ。
「あー……なんで、お前?」
「さて、なんででしょう」
 寝起きでぼんやりした頭でもイラッときた。
「ヒント、復讐」
 こちらの苛つきをわかっている様子で、なのに柔らかに笑う。綺麗な笑顔だなんて思ってつい見惚れた事も、顔とセリフとのチグハグさにも、混乱が加速する。
「ふく、しゅう……?」
「俺、めちゃくちゃ負けず嫌いなんですよね。あと結構根に持つタイプです」
 軽やかに、まるで歌でも口ずさむように告げながら、彼の手がジーンズの股間をさらりと撫でていくから、ギョッとして立ち上がろうとする。しかしそれは叶わなかった。
 グッと腰を押さえられ、体のバランスが崩れる。慌てて座面に手を突こうとしたが、何故か両手が一纏めにタオルと紐とでぐるぐる巻きにされていて、焦って余計にバランスが崩れただけだった。
「えっ、えっ??」
 腰を横に強く引かれる感覚の後、ずるりと上体が傾いでいき、気づけば横長のソファに半ば押し倒された上、相手が自分の膝辺りにまたがっていて身動きが取れない。
「抵抗されると面倒なんで、手は括らせて貰いました」
「ふざっけんな。退けよ」
「嫌です」
「っつかお前ら勉強はどうした。あいつはどこ行った」
「眠そうだったんでお開きになりましたよ。寝るって言って自室戻りました」
 三十分くらい前にと言って、もう寝てるんじゃないかなと続ける。さすがにもう寝起きのぼんやり感は抜けたが、それでも相手の言葉がほとんど理解できない。
「意味わかんねぇ。で、なんでお前だけここに居んだよ」
 二人で勉強するスペースすら確保できない弟の部屋は、当たり前だが彼が寝るための布団を敷くスペースもなく、彼が寝るのはリビング隣接の和室の予定だ。母が出しておいた来客用の布団は、夕飯後、彼が風呂を使っている間に弟が和室に敷いていた。
「寝るならお前もさっさと隣行けって」
「何言ってんですか。ここに俺だけ残った理由なんて、そんなの、お兄さんと二人きりになりたかったからに決まってるじゃないですか」
 楽しげな顔に背筋を冷たいものが走る。これはかなりマズイ状況なんじゃないかと、ようやく気付いた。
「や、やめろっ!」
 スボンのフロントボタンに手がかかり、慌てて声を上げる。
「静かにしてください。騒ぐと大事な大事な弟に、醜態さらす事になりますよ。あいつだけ部屋に戻した俺の気遣い、むしろ感謝して欲しいとこですからね?」
 リビングで寝落ちしてたから、特別にここで済ませてあげるんですよと、随分な上から目線に頭の中がグラグラと揺れた。本当に意味がわからない。
「大丈夫ですか? まったくわからないって顔してますけど。可愛い弟の隣の部屋で、俺にアンアン言わされるの堪える方が良かったっていうなら、今から場所移しましょうか」
 優しく抱き上げて連れて行ってあげますよなんて、これまた柔らかで楽しげな顔で笑うけれど、その顔を見てももう恐怖しか湧かない。
「心配しなくても、こう見えて結構鍛えてるんで、派手に暴れたりしなきゃ落としませんよ。というわけで部屋、戻ります?」
「い、…やだ……」
 かろうじて絞り出した声は震えた上に掠れている。
「あー良い反応ですね。怯えてるの。俺もあの日、めちゃくちゃ貴方が怖かったですから、これでおあいこって事で」
 じゃ、まずは俺の手で気持ちよくなりましょうかと言われながら、とうとうジッパーが下された。

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弟の親友がヤバイ1

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 仕事休みな土曜の朝というか昼近く、のそのそと起きだしてリビングへ向かえば、そこでは見知らぬ男が大事な弟とイチャイチャしていた。リビングのテーブルに、横に並んで座っている二人の距離がやたら近い。
「誰だそいつ」
 ドアに背を向けて仲良く寄り添う頭が二つとも振り向いて、弟がおはようではなく「おそよう」と笑う。そして隣の男は軽く頭を下げた後で、お久しぶりですと言った。
 会ったことがある相手なのかと、しげしげ相手を見つめて思い出す。随分男くさくなったが、その顔には面影がある。
「あっ、お前、なんで……」
 弟の前だったことを思い出して慌てて口を閉ざした。
 彼は弟が小学校に上がった頃から頻繁に訪れるようになり、中学二年の夏休みを境にここ四年ほど会うことがなかった男だ。何故彼が家に来なくなったかはわかっている。
 弟の親友だというそいつは、明らかに弟に懸想していたから、弟と引き離したくてちょっとした意地悪というか悪戯を仕掛けた。だって大事な大事な弟を、男なんかにどうこうされたらたまらない。
 五つ違いの兄弟だから、弟が中学二年当時はこちらはもう大学生で、成長期などとっくに終わった大人の体だった。背が高いというほどではないが平均的な成長を遂げていた自分が、成長期入りかけの小さな体を後ろから抱き込んでしまえば、相手は抵抗を奪われたも同然だ。
 そして何をしたのかといえば、無遠慮に股間を弄り回して、勃たせて扱いて吐精させた。誰の手でも感じちゃう淫乱だと罵って、弟に手を出したら許さないと脅して、弟の代わりに気持ちよくしてやるからまた遊びにおいでと誘ってやった。
 その後ピタリと顔を見せなくなったことから、遊びに来たらまたやるよという宣言を、彼は正しく理解したようだった。
「今日さー、母さんたち居ないじゃん。泊まりで勉強しに来ないかって誘ったら、たまにはいいかもって言ってくれたから、呼んじゃった。すっげ久々で滾る」
「受験勉強だからな? 遊びに来てるわけじゃないからな?」
 にっこにこで報告してくれる弟に、やれやれといった様子で男が返しているが、その目は随分と優しげだ。
「お前らって、未だに親友やってんの……?」
「は? 当たり前じゃん」
 肯定は弟から即座に返ってきた。
 こんな危険な兄が居たんじゃ親友なんてやってられないと、弟から離れてくれたのだと安心していたが甘かったようだ。家に来なくなったというだけで、学校では変わらず仲良くしていたのかと思うと、騙されたような気持ちすら湧いてくる。
「母さん知ってんのか?」
「もっちろーん。オッケー貰って、布団も用意してもらったもん」
 男同士だからってさすがに一緒のベッドじゃ狭いしねーとあっけらかんと話す弟に、もっと危機感持てよなんてことは言えるわけがない。むしろそこが弟の魅力であり可愛いところであり、だから守ってやらねばと愛しく思うのだ。
「あ、兄さんのご飯ここあるよ。ここ片付けたほうが良い? でも別に目の前で俺らが勉強してたからって構わないよね?」
「ああ、いいよ。どうせお前の部屋、二人で勉強できるスペースなんてないんだろ?」
「えへへ。ゴメンね」
 あまり本気で悪いとは思っていないだろう事は明らかだったが、部屋を片付けておかないからだと小言を続ける気にはならない。むしろ散らかし放題グッジョブ! と言ってやりたいくらいだ。
 弟の部屋で二人きりになどさせてたまるか。こいつはまだ絶対、弟を諦めてなんかいない。むしろ久々に訪れたのは、宣戦布告かもしれないとすら思う。
 なぜなら弟達の正面の席へ腰を下ろして、用意された朝食を食べ始めた自分を見つめる瞳が、ふてぶてしく挑戦的だからだ。
「なに?」
「いえ、別に……ただ、綺麗な箸使いだなと見とれてただけです」
「は?」
「でっしょー。魚とかの骨もね、兄さんすっごく綺麗に取るからね」
 何を言い出してるんだこいつはと呆気にとられたその横で、弟が自慢気に告げた。
「それ前聞いた。だから気になったってのもある」
「あ、そっか。言った言った。で、どうよ。俺が言った通りっしょ?」
「うん。お前が言った通りだった」
 やはり弟に向ける瞳は優しげで、あーこれちょっとマズイんじゃないの? という気がして少し焦る。
 だってさっき、泊まりで誘ったと言っていた。相手は自分がいるのをわかって乗り込んできているのだから、明らかにこちらが不利だろう。
 取り敢えずはゆっくりと朝食を食べつつ目の前の二人を観察して、どうやって邪魔してやるかしっかり考えなければと思った。

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