二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった6

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「初恋? って俺らがまともに顔合わせたの、ばーちゃんの葬式だろ。そっから何回会ってる? しかも法事でちょっと世間話したくらいの付き合いしかないのに?」
 かといって、一目惚れで、などと言われるような容姿じゃないのも明白だ。ブサイクの部類には入ってないと思うが、だからといってカッコイイに分類されもしない、ごくごく平凡な容姿だと思う。過去に彼女に困らなかったのだって、口の上手さでと言ったとおり、主にコミュ力で付き合いに発展させていただけで、容姿は特にプラスにもマイナスにも働いていなかったはずだ。
「いや、もっと昔の話です。幼稚園の頃の俺と、遊んでくれましたよね?」
 多分おじいさんのお葬式だと思うんですけど、と続いた言葉に、言われてみれば確かにそんな記憶もあるなと思った。あの時は未就学児なんてこの子くらいで、周りの大人たちはさすがに忙しそうであまり構ってもらえず、異様な雰囲気にのまれて困惑しているようだったから、当時まだ学生だった自分が子守を買って出たのだ。自分自身、かなり暇を持て余していた、というのも大きい。
 まさか覚えていると思わなかったけれど。
「あと、お正月とかで会った時も、俺と遊んでくれてたでしょう?」
 そりゃあ、親たちが酒を飲みつつ盛り上がってる横で、一緒に飲めるわけでもない上にどうでもいい昔話や世間話に相槌を打つよりは、小さな従兄弟に構っている方がまだ楽しかった。
 もちろんこれも、覚えているなんて思っていなかったけれど。
「そんな昔のこと、覚えてるのか?」
「実を言うと、おばあさんのお葬式で再会するまでは、想像で作り上げたお友達的な存在なんだろうって、思ってました。小さな子はそういうことするって、聞いたことあって。遊んでる場所も記憶になかったというか、普段の生活範囲にない場所だったから、夢の中で遊んでくれた人を、いつまもでしつこく覚えてるだけなのかな、とか」
 どうやら祖母の葬式で再会した後、親に確かめて確信したらしい。
「小さな頃にも何度か会ってて、よく遊んで貰ってたって、聞きました」
「それを否定はしないけど、だからって初恋? 想像上の人物って思ってたような相手に?」
「だからこそ、ですよ。ずっと、実際に居もしない人をこんなにも忘れられないのはなんでだろって思ってて、でも恋愛とか意識しだした頃に、きっと自分は男が好きで、理想の相手を想像で作り上げたんだろうな、って」
「実際、男が好きなの?」
「好きだと思うような相手が出来る前に再会しちゃったんで、そこはよくわかんない、です。でももし再会してなかったら、昔のあなたに似た相手に、惚れてた可能性はあると思います」
「てことは、ばーちゃんの葬式から先、結構長いこと俺を好きだったってこと?」
「好きというか、かなり意識はしてました。もっと近づきたい、あなたを知りたい、みたいな気持ちは間違いなくあります。でも恋愛したいわけじゃないって言うか、」
「待って。初恋って話だったのに、恋愛感情ではない好きなの? 再会してなかったら、昔の俺に似た男に惚れた可能性があるのに?」
 抱かれたいとまで思っているのに、恋愛したいわけじゃないってどういうことだと、思わず相手の言葉を遮って聞いてしまった。
「だって、実在の人物と思ってなかったから。ただの理想イメージだったと言うか、えと、つまり、相手も同じだけ年取ってる想定じゃなかったんです、よね」
 そりゃそうだ。相手が好きだと言っているのは、要するに高校生くらいの頃の自分、ということだろう。
「なのに俺に抱かれたいって思うの?」
「抱いて貰えるなら、抱かれたい、です」
「それは俺を知りたい好奇心ってこと?」
「それもなくはないですけど、もし悪くなかったって思って貰えたら、やりたくなった時に呼んで貰えるようになるかも、って……」
「待て待て待て。なんだそりゃ。俺がやりたい時に穴を差し出す、俺にとってやたら都合のいい相手になりたい、って意味に聞こえたんだけど」
「そういう意味で言いましたけど」
 あっさりと肯定されて、わけのわからなさに頭を抱えたくなった。
 言葉は通じているはずなのに、意味が汲み取れなさすぎて違和感が凄い。これでもコミュ力にはそこそこ自信があったのに。職場の若い子たちとだって、ここまで意味がわからない会話になったことはないのに。

続きまました→

 
 
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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった5

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 尿意によって意識が浮上したのは、横になってからおよそ2時間ほど経過した頃だろうか。トイレを済ませたついでに、そのままシャワーを使ってさっぱりする。
 ホテル備え付けの部屋着を事前にバスルームに持ち込むような機転があったはずもなく、かといって着ていた服をそのまま着込むのも、再度眠る気があるので避けたい。どうせ従兄弟は寝ているのだしと、悩むことなく下着だけ着用してバスルームを出れば、寝ているはずの従兄弟も目を覚ましたようで身を起こしていた。
「起こしたか?」
 そう煩くしたつもりもないが、寝ている相手に気遣って静かに行動していたわけでもない。
「あの、これは……」
 相手はどこかぼんやりとしつつも明らかに困惑を滲ませている。
「え、まさか覚えてないの? 休憩したいって言ったの、お前なんだけど」
「いやそれは、覚えて、ます、けど」
「俺がローションとゴム買って帰ってきたら既に寝落ちてたんだけど、起きたんなら、今からする?」
 気持ちは白けきったままで、起きたならヤレルな、などという期待はさして大きくないのだけれど、せっかくホテル代を出したのだからやる気があるならやっておくかくらいの気持ちだった。
「あ、はい」
 あっさり肯定が返ったので、酔いを覚ましたい的な休憩ではなく、セックス目的の休憩だということもちゃんと覚えているらしい。
「じゃ準備してきて」
「それなんですけど、あの、準備、って、何をすればいいんですか?」
 出ていくときにも言ってたけどわからなくて、だとか、戻ってきてから聞こうと思ったら寝ちゃったみたいで、だとか、続く言葉を聞きながら、頭の中は当たり前だが、どういうことだと大混乱だった。
 わからないの意味がわからない。というよりは、多分、わかりたくない。
「男に抱かれた経験は?」
「ない、です」
「自分で尻穴弄った経験は?」
「それも、ない、です」
 だろうな、というのが正直な感想だ。準備の意味がわからないなんて、経験どころか興味すらさしてないんじゃないかと思う。
「ならなんで誘った?」
 そう聞きたくなるのは当然だろう。ただ、納得できる理由は返ってこなかったけれど。
「奢ってくれた、から。俺とやれるって思ってるのかなって、思って」
「誘われてその気になるくらいには、やれるならやりたいって気持ちがあったが、それはお前が、気軽に俺なんかを誘うくらい男に抱かれるのが好きな、当然抱かれた経験のあるゲイかバイなんだろう、っつー前提があったからだよ」
「それは、初めてじゃダメってことですか?」
「ダメっつーか……」
 ここまでくれば、相手の好意に気づけないほど鈍くはないつもりだ。準備の意味すらわからなかったことを思えば、元々ゲイセックスに興味があって、誘えば抱いてくれそうだから初めての相手に選んだ、とは考えにくい。しかし、好意から抱かれたがっているのだとして、好かれる理由なんて欠片も思い浮かばなかった。
「俺が、やれんならやっとくか、程度の気持ちで部屋とったのわかってる? よな?」
「はい」
 やはり躊躇うことなく肯定が返る。
「初めて抱かれる相手がこんなクズでいい、ってなる理由がわからないんだけど。というか、そんな好かれるような何かをしてやった記憶がないんだけど」
 言えば、多分初恋みたいなものなのでと返されて、ますます意味がわからなくなった。

続きました→

 
 
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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった4

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 狭い部屋の中にベッドが2つ並んだだけのシンプルなツインルームで、片方のベッドの上に転がり寝息を立てる男を見下ろしながら、どうしてこうなった、と思う。
 飲み慣れてない相手が飲みすぎないよう、かなり注意していたはずなのに。
 予定していた店を回り終えて、帰ろうと駅へ向かう途中、本当にこのまま帰るんですかと袖を引いて引き止めてきたのは相手の方だ。店を出たときよりも赤い顔をしていたから、歩いて酔いが回ったのだろうと思って、電車に乗ったら吐きそうとか言い出すならどこかで休憩を入れないとまずいかとは考えた。
 といっても、公園でも見つけて休むのが第一候補で、次点が酒以外のメニューが豊富な店に入る、ぐらいのことしか考えていなかったし、当然自分はアルコールを追加する気でいたし、ホテルに入って休憩なんて欠片だって想定していなかった。
「休憩するか?」
「俺は、いいですよ」
「ん? それは休憩したいの? したくないの?」
 そんな少し噛み合わない会話も、酔っぱらい相手だと思ってあまり気にしなかったのがいけない。ますます顔を赤くした相手が、休憩したいと告げた意味を理解したのは、歩き出そうとしたのを再度袖を引いて引き止められた後だ。
「ラブホより、こういう普通のとこのが、いい、です」
 こういう、と言われて初めて、自分たちがビジネスホテルの前で立ち止まっていることに気づいた。というかラブホってなんだと、そこで初めて、何か大きな勘違いをしていることにも気づいた。
 休憩したいというのは酔いを覚ましたいという話ではなく、セックスしたいという誘い、でいいのだろうか?
「え、つまり、やらせてくれんの?」
 ド直球に聞いてみれば、困ったように視線をさまよわせた後に俯いて、幾分小さくなった声が、いいですよと告げてくる。だってやれると思ったから奢ってくれたんですよね、と続いた言葉に、最初に誕生日プレゼント代わりだと言ったはずだけど、と返しはしなかった。その返事を聞いて考えていたのは、この据え膳を食うかどうかだ。
 男を抱いたことなんてないが、ヤリたい盛りに好奇心でアナルセックスを試したことならある。面倒さのが勝ってハマりはしなかったが、気持ちよさは普通に得られたので、突っ込んでいいなら突っ込みたい気はする。
 問題は、男の体相手に興奮できるかどうかと言う点と、相手が従兄弟だという点だ。勃たずにやれなかったら、ホテル代なんて無駄金もいいところだし、なにかの拍子に自身の親や相手の親にバレたら、何を言われるかわからない面倒さがある。まぁ親バレの可能性は限りなく低いだろうとは思っているが。
 それでも結局すぐ横のホテルに部屋を取ったのは、ホテル前に長いこと立ち尽くすのがいたたまれなくなったらしい相手が、諦めたように掴んでいた袖を放し、帰りましょうかと言ったからだ。その瞬間、この据え膳をこのまま見逃すのはさすがにもったいないなと、思ってしまった。枯れちゃいないんだから、多分きっと勃つだろう。
 歩き出そうとする相手を今度は自分が捕まえる。手首を掴んで、ホテルの入口へ向かって歩けば、抵抗されることなく付いてくる。
 なんの変哲もないただの平日なので、飛び込みだろうと部屋は余裕で空いていて、あっという間にこのシンプルなツインルームまで移動したのはいいが、相手が男である以上、そのまま押し倒してことを進められないことはさすがにわかっていた。勢いで入ってしまったが、考えたらローションもゴムもない。
 仕方がないので、ローションとゴムを買ってくるからその間に準備しといてと言いおいて、一息つくまもなく出掛けたのが何分前だろうか。
 戻ってきたら相手はベッドの上ですっかり寝息を立てていて、しかもシャワーを浴びた様子もない。つまり何の準備もされていない。
 いくらアナルセックス経験があろうと、むしろ経験があるからこそかもしれないが、さすがに洗ってもいないアナルを相手の了承もなく弄り回すのは抵抗がある。というかヤリたい盛りだったらどうかわからないが、意識のない相手に突っ込むなら、オナホとそう変わらないよなと思ってしまった。
 すごい勢いで気持ちが白けて、大きなため息を一つ吐いた後。無駄金を使ってしまった後悔とともに、空いたもう片方のベッドに横になって目を閉じた。

続きました→

 
 
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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった3

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 撮影は特に気にすることなく従兄弟も一緒に映した。いいのかと言うので、映らないよう気を使うのも、チラチラと映り込まれるのを編集するのも面倒くさいと返した。
 一緒に飲みに行きたいというのを、こちらはすっかり酒を奢れと認識していたわけだが、どうやら自分の飲食代は払う気があったらしい。しかしそこは、年齢差を考えればさすがにこちらが出さないとあまりに格好が付かないと、まとめてこちらが支払っている。二十歳のお祝いと言えば、納得した様子で、ありがとうございますと嬉しそうに笑った。
 何軒も巡るので、いくら1軒当たりの支払いが安いと言ってもそこそこの金額にはなるが、今回限りと思えば仕方がないと諦められる程度の額ではあるし、たまには人と飲むのもそう悪くはなかった。
 なんせ動画は声出しもないので、会話内容に気をつける必要もない。年も離れているし、相手の趣味趣向なんて知らないけれど、特に会話に困るようなこともなかった。どうでもいい雑談は苦手ではないし、親戚なので共通の話題となる人物だっている。しかも彼は動画の視聴者で、その切っ掛けが父親だというのだから、いくらだって話は広げられた。
 少し様子がおかしくなったのは3軒目あたりだろうか。二十歳になったばかりで、自身のアルコール許容量がわからないのは仕方がない。ふわふわした様子に、だいぶ酔ってるなと思いながら、酒を取り上げて代わりに烏龍茶を渡した。
 もっと飲めると言うのを、ここで終わりじゃないんだからとたしなめながら、取り上げた酒に口をつける。最初は恨めしそうな視線が絡んできたが、グラスを置く頃には諦めたのか、またふわふわとろりと緩んだ表情でこちらを見ていた。なんだか随分と幸せそうだ。
「んっふふ」
「どうした」
「優しいなぁ、と、思って」
「は? どこが?」
「俺のこと、ちゃんと気にしてくれてる」
「あちこち連れ回して酔い潰したなんて事になったら、俺の責任問題になるからだ。おじさんやおばさんに頭下げに行くなんて、そんな面倒なことしたくないっての」
 わかったら絶対に無理して飲むなよと釘を刺しても、んふふっと笑うだけで、これは酒を取り上げるのが少し遅かったかも知れない。しかも。
「こんな優しいのに、なんで、結婚しないんですか?」
 突然そんな話題になって驚いてしまう。こっちからは相手の恋愛関係に触れたりしていないのに。
「唐突だな。恋人なんてここ何年も居ないんだけど」
「でも昔はモテてたんでしょ?」
「どこ情報だそれ」
「母ですけど。母の情報源はおばさんかも?」
「だろうな。まぁ、下世話な話、ヤリたい盛り超えたらなんか面倒になっちゃって、ってだけ。口が達者な方だから付き合うまでは出来んだけど、あんま長く続かないんだよな」
「優しいのに?」
 どうやら本気で優しいと思ってるらしいが、酔っぱらいから酒を取り上げて烏龍茶を渡した程度で? と笑いがこみ上げる。ちょろすぎて心配になりそうだ。従兄弟が男で良かった。
「いや、俺はクズだよ?」
「クズ?」
「そう」
「なんで?」
「だから、ヤリたいから付き合ってただけなんだって。ヤりたい時だけ会おうとする男なんて女の子はいらないよね。だからすぐ捨てられんの」
「てことは、もう枯れちゃった、的な?」
 哀れみなのか悲観的な顔をされて、とうとうこらえきれずに吹き出してしまった。
「いやさすがに枯れてはいないけど」
「なら風俗、とか?」
「あー……なるほど」
「なるほど?」
「俺が風俗はいいぞって言ったら、そっちも連れてってって言い出すのかな、と」
「言ったら連れてってくれんですか?」
「いや、俺、風俗利用しないし」
 最近のオナホは高性能でいいぞと言ってやれば、どこかホッとした様子を見せる。
「なんだ、がっかりしないの?」
「俺だって風俗行きたいとか思ってないですって。風俗いいぞ、連れてってやるぞ、って言われたら、まぁ、考えはしますけど」
「もし俺が風俗使ってたって、さすがにそんなもん奢れないわ。居酒屋はしごが精一杯。ちなみに、ケチなのも振られる原因のひとつな」
「ケチなんですか?」
 前2軒奢ってくれたのに? という顔をするので、そこはまず年齢差を考えろよと思ってしまう。あと値段だってそうたいしたことはない。
「デートくらいは奢るけど、でも、なるべく金かけずにヤリたい。てのが透けて見えるんだろな。旅行だの遠出したくないし、お高いレストラン入りたくないし。ああ、あと、やれそうにない時は割り勘にしたり?」
「やれそうにないなら割り勘……」
「そ、俺がクズなの理解した?」
 曖昧に頷かれたのを機に、次行くかと席を立つ。途中からは結構はっきり会話ができていたから、多少は酔いも冷めているだろう。

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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった2

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 顔出しどころか声出しすらしていないのに、なぜそこまで断定できるのかさっぱりわからない。一瞬服かとも思ったが、法事でしか顔を合わせない彼が、私服を知っているはずもない。そもそもなんで先日やっと二十歳を迎えたような子供が、主に居酒屋ばかりを巡る動画なんてみてるんだ。そりゃ酒を出すのがメインじゃないような店も利用するけれど。でもそういう店だって、基本的には酒を頼んで飲んでいる。
「なんで……」
 頭の中をぐるぐると疑問がめぐって、結果、口に出せたのはそれだけだった。
「手、です」
「て?」
「手は動画に映ってるじゃないですか」
 なぜ自分だとわかったのか、という意味の「なんで」だと思ったらしい。いやそれはもちろん、一番聞きたいとこだけど。
「手だけで!?」
「そ、です」
 あっさり肯定されて、思わずマジマジと自分の手を見つめながら、嘘だろとこぼした。
「形もですけど、印象的なのはどっちかというと仕草とかです」
「しぐさ……」
「この前の法事で、あなたの手元ばっかり見てる俺には気づいてたでしょ?」
「えっ?」
「そんなにビール飲みたいの、って言われたから、見てるのはあなたが飲みまくってたビールの方だと思ったみたいですけど」
「ああ、なるほど。てか、え、あれって俺の手を見てたの!?」
 そんな会話を交わした記憶はもちろんある。その時に、次の誕生日で二十歳なのでと返されたから、二十歳を前にアルコールに興味津々なだけだと思っていた。
「そうですよ。というか、これがあなただってのは否定しない、ってことでいいですか?」
「え、否定して良かったの?」
「あなただと思った理由を細かに説明する手間が省けたので助かります」
 つまりそれは、否定したところで追求されて認める羽目になるだけじゃないのか。
「つかよくそんな動画を、俺だってわかるほど見たよね。おっさんが安い店で安い酒を飲み渡るようなの、見てて楽しい?」
「見てるのは父ですね」
「え、おじさんも知ってんの!?」
「いや、そこは全く気づいてないと思いますけど」
「そうなんだ。てかそれは俺が認めた今後も秘密にしといてくれるわけ?」
「それは、言わない代わりに何かをねだってもいい、みたいな?」
 すかさずそんな返しをしてくるところが、なかなかに侮れない。というか、そうか。こちらがこれを親やら親戚やらに今後も隠し続けたいと思うなら、彼はそこにつけ込んで、こちらに何かを要求することが可能ということになるのか。
「そこはぜひ無償で。って言いたいとこだけど、何かたかられるくらいなら好きにすればいーよ。親は俺が休みに出掛けてるのをデートとか思ってる節あるし、知ったらあれこれうるさそうだけど、まぁ、そんなのスルーでいいし」
 いい年をした男が安酒を飲み歩いているというだけの動画で、誇れるようなものではないが、違法性があるようなものでもない。いい加減結婚して孫の顔をと思っているらしい親に、実は結婚予定の彼女なんてものは居ないと知られるのも、孫を諦めて貰うにはちょうどいい頃合いという気もしなくはない。
「別にわざわざ言う気はないんですけど、ただ」
「ただ、なに?」
「俺もその撮影に同行したいというか、ちょっとその動画に俺も映ってみたいと言うか」
「え、一緒に飲みに行きたいって、そういう話なの!?」
「そうです」
「なんで!?」
「顔出し声出しなしで首から下だけ映った息子に、父が気付くか試してみたいから」
 大真面目な顔で言われた内容がなんだか微笑ましい。そんな理由で、と思ったら笑ってしまったが、気づいた場合は連動してこの動画主があなただって事にも気づかれるかも、と言われてなるほどと思う。
「動画になんて出せない、なら、まぁ、それは諦めてもいいんですけど。でも、同行してみたいのはけっこう本気でお願いしたいです」
「え、出なくてもいいの? なのに同行したいの?」
「どんだけ飲むんだよ、食うんだよ、みたいのを生で見てみたいです」
「あー……そんなふうに思いながら見てる、と」
 確かに一度の撮影で何軒も渡り歩くので、酒には強いしなんだかんだで結構な量を食べている。それを面白がるコメントもそれなりの数貰うので、そう珍しい感想ではないのだけれど。
「まさに今日、その撮影に行く気があるんだけど、じゃあ、ついてくる? てか思いっきり平日なんだけど学校は?」
 聞けば、夏休みに入りましたと返ってきて、大学生めっちゃ羨ましいなと思ってしまった。

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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった1

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 実家暮らしではあるが、土日休みの両親と違って平日休みの仕事なので、休みの日の朝、家の中は本来ひどく静かなものだ。しかし今朝は自室を出たところですぐに違和感に気づいた。
 ぼそぼそと人の話し声が聞こえる。というよりは、どうやらリビングのテレビが点いているらしい。
 消し忘れなんて随分と珍しい。そう思いながらも、とりあえずテレビはそのままにトイレを済ませて顔などを洗う。どうせ朝食を摂りながら自分もテレビを点けるのだから、別にそのままでもいいか、という判断だ。
 あれ? と思ったのは、顔を洗い終わって水を止めた時だ。先程まで確かに小さく漏れ聞こえていたテレビの音が聞こえなくなっている。
 どういうことだと疑問に思いはしたが、それでも、リビングに誰かがいるとは考えなかった。休みだと聞いては居ないが、もし親が居るならこのタイミングでテレビを消す意味がわからないし、親が居ないのに客だけそこに居るなんて考えるはずもない。
 だから無造作にリビングの扉を開けてしまったし、どうやら自分が入ってくるのを待っていたらしい相手と思いっきり目があってしまって、相手が誰かを認識するより先にまずは驚いて悲鳴とも言えそうな声を上げてしまった。腰を抜かして尻もちをつく、なんて醜態をさらさずに済んで良かった。
「うぎゃっ」
「おはようございます。やっと起きたんですね」
 待ちくたびれた様子の、呆れた声が掛けられる。親が仕事に出る前には来ていたのだろうから、確かに何時間も待たせてしまったのだろうけれど、でも来るなんて一言だって聞いてないし、なぜここに居るのかも謎すぎる。
「おはよ。つか、え、なんで?」
 そこに居たのはけっこう年の離れた従兄弟だった。同じ市内在住ではあるが、ご近所と言えるほど近くはないし、そもそも年が離れすぎてて個人的な交流などない。なんせこちらが中学生の頃に生まれたような子だし、彼が小学校に入学したくらいで、正月に祖父母宅に集まるようなこともなくなっている。
 祖父が亡くなったあと、祖母が老人ホームに入居したせいだ。
 老人ホーム絡みで親同士はそれなりに連絡を取り合っていたのかも知れないが、年の離れた子供同士が顔を合わす機会はなくなり、祖母の葬儀で久々に顔を合わせた時には彼は中学生になっていたし、自分はもう社会人だった。中学生の彼と、祖母の葬儀で会話を交わした記憶がほとんどない。多分、軽く自己紹介的な挨拶をした程度だと思う。
 それから法事で何度か顔を合わせるうちに、多少の雑談はするようになったが、3回忌から7回忌まで4年ほど空いた間はなんの音沙汰もなかったのに。
「この前の法事で、もうすぐ二十歳だって、言ったの覚えてます?」
「ああ、そういや言ってたな」
「先日、誕生日を迎えたので」
「ああ、うん、おめでとう?」
 まさか誕生日プレゼントをねだりに来たってこともないだろう。おめでとうとは口にしたけれど、さっぱり意味がわからないままなので、語尾は疑問符がついて上がってしまった。
「その、一緒にお酒を飲みに行ける年齢になったので」
「え、ちょっと待って。俺と一緒に飲みに行きたいって話? え、なんで?」
 ますます意味がわからない。酒が飲めるようになったから、という理由で、たいして交流のない従兄弟をわざわざ誘う理由なんてあるだろうか。
「一緒に飲みに行きたい、の前に、ちょっと確認させてほしいんですけど」
「確認? 何を?」
 携帯を取り出して何やら操作したあと、画面をこちらに向けてくる。そこに表示されていた画像に、ザッと血の気が引く気がしたし、彼が何を確認したいかも察してしまった。
「これ、あなたですよね?」
 そこには趣味で上げている動画が映し出されていた。

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