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悩んだ末、出合い系やハッテン場などを試すのは怖すぎるが、ゲイバーを覗きに行くくらいはしてみる気になった。バーで飲む程度なら、そうそう危険な目に遭うこともないだろう。
もちろん、この人になら抱かれても良いと思えるような相手と出会えたら、その時は理由を話して、経験を積ませて貰えるよう頼むつもりだった。けれど初めからそんな都合の良い出会いがあるとは思えないし、今まで興味がなく全くと言っていいほど知らない世界に、やはり単身乗り込むのは不安で怖い。
だから先輩を好きになった事を知らせた友人たちに、初回だけで良いから一緒に来てくれと頼んでみた。
止めておけと諭してくる友人と、それはちょっとと嫌がる友人と、面白そうだとむしろ食いつき気味の友人とがいたので、面白そうだと言ってくれた友人と出掛ける日を決める。好奇心旺盛でノリの良い友人が居てくれて良かった。
なのに待ち合わせた時間に、待ち合わせ場所の駅改札に現れたのは、その友人ではなく先輩だった。しかも遠目にもわかる機嫌の悪さだ。
最初これは偶然で、先輩もどこかへ出掛けるため駅に来たのだと思った。しかし先輩はまっすぐこちらへ向かって来ると、正面に立って睨むように見上げてくる。
「帰るぞ」
「えっ?」
「お前に話がある」
「いやでも、俺、これから友達と出掛けるとこで……」
「知ってる。それと、そいつは来ない」
嘘だと思うなら電話してみろと続けたので、きっと本当なのだろうと思う。けれど、どうしてと思う気持ちが強く、先輩に睨まれているのもあって、携帯を取り出すことも先輩へ言葉を返すことも出来なかった。
「悪い。機嫌が悪いのはお前のせいじゃない」
固まるこちらに気づいた先輩が、バツの悪そうな顔でそう言った後、気を静めるように深く息を吐きだしていく。先輩を包む空気が少し和らいだ。
「どうしても行ってみたいなら俺が付き合う。ただし、お前が俺の話を聞いた後でな」
だから一旦帰ろうと促す先輩の声は、無理に頑張っている様子が滲むものの、優しい甘さで響いた。
「わかり、ました」
どうにか言葉を絞り出せば、先輩はホッと小さく息を吐いて安堵の表情になる。その顔に釣られてか、こちらもなんだか少し安心した。
先輩がどこまで知っているのかはわからない。先輩の機嫌が悪いのが自分のせいなら、ゲイバー行きを咎められるのだと予測がつくが、そうでないなら聞かされる話の予想もつかない。しかも話を聞いた後でなら、先輩自身がゲイバー視察に付き合うとまで言っていた。
何を聞かされるのだろう。あまり悪い話ではないといいなと思いながら、先輩の半歩後ろを並んで歩く。
やがて辿り着いた先輩の部屋の中は、頻繁に訪れていた以前と変わらず、なんだか懐かしいなと思う。先輩が戻ってきてからはとんとご無沙汰だった。
なんだか泣きそうになるのは、先輩が入れ替わっていた時期を懐かしんで、と言うわけではなさそうだ。戻ってきた先輩に当初はやんわりと、自分たちも付き合ってみないかの失言後ははっきりと、拒絶されて訪問できずにいた辛さを思い出してしまうのと、その場所へ入れて貰えている喜びとが混ざった、なんとも複雑な気持ちからな気がする。
「俺の話、聞けるか?」
目の前の小さなテーブルに、取り敢えずといった感じでコーヒーの入ったカップを2つ置いてから、対面に腰を下ろした先輩が聞いてくる。少し心配そうな顔をしているから、泣きそうなのがバレているのかもしれない。
「はい」
「ならまず結論から言うが、お前が向こうの俺を忘れられなくて、俺を諦める気がないってなら、俺はお前と付きあおうと思う」
「えっ?」
「せっかく距離置いてやってんのに、ゲイバー行って男との経験積まれたんじゃ、俺が距離置く意味なんかないからな」
「な、なんで……ってかどういう意味か」
「わからないか?」
「わかりませんよっ!」
つい声が大きくなった。先輩は落ち着けと言ってから、じっとこちらを見つめてくる。
待たれていると思って、深呼吸を一つ。そうしてから続けて下さいと促せば、先輩は軽く頷いて口を開いた。
「お前、元々は普通に女が好きなんだろう?」
「そりゃまぁ、そうですけど」
「俺に距離置かれて素っ気なくされても、俺を諦めて女と恋愛しようとは思わなかったのか?」
「だって好きになったの先輩で、先輩が男なのは仕方ないじゃないですか。後、諦めるには、俺は色々知りすぎてます」
「知りすぎてる?」
「向こうの世界でも、俺が積極的に先輩誘ったらしいですし、あまりその気じゃなかった先輩も結局俺を好きになったわけだから、こっちの俺にだってチャンスはあると思うんですよね」
「お前は向こうの世界とこっちの世界を同一視しすぎだ」
先輩は呆れた様子でため息を付いた後、向こうとは根本的に違うことがいくつかあると言った。
続きました→
お題提供:pic.twitter.com/W8Xk4zsnzH
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