親父のものだと思ってた33

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「泣かないでよ」
 降ってくる声は優しい響きをしているけれど、笑いを含んでもいる。ますます情けなくて、きゅっと唇を噛み締めた。
「ねぇ、俺、今、めちゃくちゃ嬉しいよ?」
 嬉しくて笑ってるんだよ、と続いた声は言い訳だろうか。相手も自身の声に笑いが含んでいることを自覚しているのだ。
「笑ってごめんね。でも、ほんと、嬉しいだけだから。嬉しくてこぼれちゃう笑いだから」
 そう告げる声もクフクフと小さな笑いを含んでいるから、本当に、笑うのを止められないらしい。
「何がっ、そんな゛、嬉じぃ、のっ」
 無理やり吐き出した声は喉の詰まって、しかも涙声で濁っている。
「んー、それはやっぱ、俺の体でちゃんとイッてくれたから、かな。しかもお前が泣いちゃうほどの早さで、っていうのはさ、嬉しい上にめちゃくちゃ安心した。あ、安心したから笑うの止まらないのかも?」
 言いながら、またしてもフヘヘとおかしな笑いをこぼしている。言葉からも気配からも、まったくしまりがない様子が伝わってきて、顔の前に翳した腕をどけて相手の顔をみた。
 その顔も、へらへらと緩んで本当にしまりがない。でも、嬉しいの言葉に嘘がないこともわかる、幸せそうな笑顔だった。
「も、わかった、から、いい」
 目があって、相手が口を開く前に、素早くそれだけ告げる。告げてから一度大きく息を吐きだし、目元に残っと涙を払う。
「怒った?」
「え、何を?」
 嬉しくて笑うのが止まらないという状態なのはわかった、と言ったつもりだったのに、なぜか一転して不安そうな声を吐き出すから驚く。
「あ、いや、怒るっていうか、俺が、ずっとヘラヘラ笑ってるから、呆れたのかと思って」
「嬉しそうで何より、って思ってるよ。でもそれと俺が落ち込むのは別問題」
「それだけど、落ち込んで萎えたからもう終わり、ってつもりだったりする?」
「えっ?」
「不本意かもだけど射精したのは事実だし、今日はもういい、ってのも、まぁ、わからなくないんだけど……」
 そこで言葉を切ってしばらく迷うように躊躇った後。
「若いんだし、さ……その、二発目頑張るぞ、みたいなの、って、ない?」
 言いながら顔を赤く染めていくから、思わずマジマジと眺めてしまう。
 言葉からも相手の様子からも、落ち込むこちらを慰めるためのもう一度、というよりも、こんなのじゃ物足りないからもっと頑張れと言われているような気になるんだけれど、そう思っていいんだろうか。
「なんか言え、ぁっ……」
 なんと返すか迷う時間を待てなかった相手が返答を促してきたが、答える前に体が反応していたし、その反応を相手も自身の体で感じたようだ。
「二回目、する?」
「する」
 即答すればホッとした様子で、一瞬だけだったが、またしてもふにゃっと嬉しそうに笑う。嬉しそうで何よりと思うよりも先に、可愛さで胸がキュンとした。
 双方素っ裸で既に体が繋がった状態で、なのに相手のそんな些細な表情に、ドキドキとトキメイているのがなんとも不思議だ。相手から求められている、というのがあからさまに伝わってくるから、そのせいだろうか。
 童貞で、初めての恋人とのアレコレに興味津々で積極的。そう感じることは確かに多々あって、これもその延長と言えなくはないかも知れない。せっかく自己開発した上に色々と準備も重ねたんだから、あっさり終わったら惜しいと思ってるだけかも知れない。
 でも嬉しい嬉しいと繰り返しながらヘラヘラふにゃふにゃ笑って、もっとしようよと誘われたら、相手が本当はどんな気持ちで二回目を誘ったかなんて、そんなのはどうでもいいかという気になる。

続きました→

 
 
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