罰ゲームなんかじゃなくて1

 同じ学部学科の同級生であるそいつとは、必修科目で顔を見る程度の仲でしかなく、かろうじて名前はわかっているが、多分向こうはこっちの名前も把握してないんじゃないかと思う。
 大学の敷地はそこそこの広さがあるし、いくつも並ぶ校舎の脇道ですらない建物の影にいたそいつに気づいたのは、休講を忘れて早く来すぎてしまい、時間を持て余して一人きりで構内散策をしていたことが大きいと思う。
 耳は割と良い方で、話し声が聞こえて近寄ってみたら、そいつが入り込んだ野良猫を構って笑っていたのだ。
 猫に向かって柔らかに笑う顔を見て、そんなふうに笑うんだと初めて知った。だってあまり人とつるむ気がないようで、誰かと話してる姿すら滅多に見かけないし、その時には笑顔なんて見せてなかったから、無愛想なイメージしか持っていなかった。
 そこで声を掛けてしまえば良かったのかも知れない。けれど多分相手は一人で行動するのが好きで、今ここに自分が踏み込んだら、せっかくの猫との時間を邪魔してしまうだけだろう。
 結局相手が猫と別れるまで見守ってしまった上に、自分がいる方向とは別方向に去っていったから、見てたということすら知られないままその時間は終わった。
 気づかれなかったのに、その直後の講義で同じ教室内に相手の姿を見つけて、なんだかソワソワしてしまったし、あの光景が忘れられなくて時々あの場所を覗くようにもなってしまったけれど、その後同じ光景に出会えたことはない。あの野良猫とすらあれっきりだし、夢でも見てたと忘れられたなら、良かったのに。
 しばらくして、そんなにあいつが気になるのかと、普段つるんでいる友人たちの一人に聞かれた。普段つるんでいる連中には、相手を意識しているのが丸わかりらしい。
 あの日のことは誰にも話していないし、なんとなく教えたくもなくて曖昧に濁していたら、からかい混じりに惚れただの何だの言われるようになって、そう言われ続けると、なんだか本当に相手を好きな気がしてくるから怖い。
 あの笑顔をもう一度みたいとか、できれば自分に向けて笑ってほしいとか。それってつまり、相手からの好意を欲しているってことで、好きってよりは好きになって欲しい方向だとは思うものの、あれをきっかけに相手に惚れてしまったのだと思えないこともない。
 なんてことをぐるぐると考えて、思い込みとも言える想いをバカみたいにつのらせて、相手も一緒の必修科目に身が入らないというやばい状況になり、いっそ玉砕してこいと周りに囃し立てられるまま、講義終わりに呼び止めて告白した。
 さすがに驚いたみたいで目を瞠ってまじまじと見つめ返されたのが印象的で、それすら、珍しいものを見たと思って食い入るように見つめ返してしまう。
 それに対して嫌そうに眉を寄せたから、絶対に断られると思ったのに。というよりも、そもそもが玉砕覚悟の突撃だったのに。
「わかった。いいよ」
「え?」
「おつきあい、してみても」
「え、え、まじで? いいの? じゃあ、じゃあっ、とりあえず連絡先交換しよっ」
 まったく熱のないそっけない対応ではあったが、OKされたのには違いなく、食い気味に連絡先の交換を持ちかければ、やっぱり引かれ気味ではあったものの、渋られることなく教えてくれた。
 やっぱり人とつるむのはあまり好きではないらしく、こちらの友人たちの中に引き入れるのは失敗したけれど、こちらが友人と離れて彼の隣で講義を受けることや、友人たちとは離れた席での学食利用などは出来るようになって、ポツポツとではあるが相手のことを教えてもらって、最初のうちはひたすら毎日が楽しくて仕方がなかった。
 でも友人たちに指摘されるまでもなく、恋人らしい進展はなにもない。構内で二人で過ごすことはあっても、休日に一緒にでかけたことすらないのだから、正直言えば未だ友人以下の関係だった。

続きました→

 
 
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