驚きを隠さないまま暫く何かを考えていた彼は、バイト中に許すなら初剃毛プレイにはそれなりの金額を払うのに、本当に今ここでそれを許すのかと問うてくる。そんなふうに言われたら、余計に今がいいって思ってしまうのに。
「バイト中に剃るって言われても、俺もう、嫌だって言わないと、思います。でもそうやってお金貰うより、お金で買われてない今の方が、嬉しい」
「そうか……」
それなら準備をしてくると言ってすぐに立ち上がってしまったので、困ったような、そしてどこか辛そうな顔を見てしまったのは一瞬だった。
失敗した、のかもしれない。金銭でこちらを買っていたい彼と、買われるという形ではなく彼と過ごしたい自分とで、衝突とまではいかないまでも、会話にしろ互いの感覚にしろ噛み合ってないなと感じることは多々あった。
彼に抱かれるようになってからも、バイト中に彼のペニスで貫かれることがないままなのは、あの日、仕事として抱かれるのが嫌だと言ったせいなのはわかっている。買われたくないこちらの気持ちを、彼はちゃんと心に留めてくれているし、月の半分はバイトとしてでなく抱いてくれるけれど、でもその根底には、やはりこちらに対してそれなりの金額を支払うべきだって思いが強く残っているんだろう。
それが時折こんな風に、彼の口からこぼれ落ちてくるのだ。それを素直に受け入れて、お金を積まれることを喜べないのも辛いし、こうしたこちらの反応のせいで、彼にも苦々しい思いをさせてしまう。
ふわふわに舞い上がっていた幸せな気持ちがしぼんで、そっと瞼を下ろした。こんな酔った頭で、ぐるぐるとアレコレ考えるのはきっと良くない。早く彼に戻ってきてほしかった。
目を閉じてしまったせいか、どうやらそのまま眠りに落ちたらしく、下半身がムズムズして意識がゆっくり浮上する。そのムズムズがカミソリが肌を滑る感触だというのはすぐに気付いたが、今まさに剃られている最中だと意識すればするほど、どうすればいいかわからない。だってなんか予想外な所にカミソリが当てられている。というか尻たぶを広げられて、アナル周りを剃られてるらしく、多分とんでもなく恥ずかしい格好をさせられている。
そしてそんなこちらの戸惑いは、あっさり相手に伝わったらしい。
「起きたのか? 一応聞くが、どこまで覚えてる?」
カミソリの動きががピタリと止まって、持ち上がっていた足が降ろされる。彼の声に促されて目を開ければ、だらしなく開かれた足の間に座っている彼と目があった。手にはもちろん、カミソリが握られている。
「どこまで、って……」
「剃るぞって言われて頷いたことは?」
言われてみれば、彼の声に夢現で頷いたような気がしないこともない。けれど言われた言葉が剃るぞだったかどうかは、欠片も記憶に残ってなかった。
「はっきりは、おぼえて、ない、です」
「剃っていいって言ったことは?」
「それは覚えてます」
「ならいい。もう終わるから、あとちょっと大人しくしてろよ。動くと危ないから」
再度足が持ち上げられて大きく開かれた。狙いを定めるように見つめられて、恥ずかしさに身を捩りたくなる。それを耐えるようにギュッと体に力を込めた。
「いい子だ。そのまま動くなよ」
こんな緊張したままでも、どうやら動きさえしなければ構わないらしい。そのままお尻の隙間にカミソリが当てられて、ゾワッと肌が粟立った。
「ぁっ、……ん……」
スルスルと滑っていく感触に、毛が剃られているとわかる感触が時折混ざって、なんともいたたまれない。
毛深い方ではないし、アナル周りなんてほとんど生えてないはずだけれど、それでも無毛のツルツルでないのは確かだし、そこも剃られて当然といえば当然なのかもしれない。頭ではそうわかっていても、剃られるのは前面だけだと思い込んでいたせいで、戸惑いは大きかった。
「終わったぞ」
やがてそんな言葉とともに、触れていたカミソリが離れて、持ち上がってた足も降ろされる。緊張を解いて大きく息を吐く中、微かに笑うような気配とともに相手が立ち上がったのがわかった。
テキパキと後片付けを進めていくのを、まだどこかぼんやりとしながら見つめてしまう。なんとなく現実感がないのは、慣れないホテルのベッドの上で、初めての剃毛を受けながら、のん気に寝こけていたせいに他ならないのだけれど。
「眠い?」
一度眠ってしまったおかげか、酔いはけっこう覚めている気がするし、眠いわけじゃない。
「いいえ」
「なら一緒にシャワーを浴びようか」
無理そうなら拭いてやるからちょっと待ってろと続いた声には、もちろん、一緒にシャワーを浴びると返した。
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