好きだって気づけよ2(終)

1話戻る→

 意気消沈した彼女の隣を歩きながら、弟の考えていることが本当にわからないと思う。まさか彼女本人にクズ女だのブスだの言って泣かせるなんて思わなかった。
 元々若干のツンデレ傾向にあるとは思っていたし、もっと幼かった頃は好きな子にちょっかい掛けすぎて嫌われるなんて事もあったけれど、暴言吐いて泣かせるような真似をしたら関係は悪化しかしないと理解できる程度には成長したと思っていたのに。
 それとも弟も彼女を好きだという考え事態が間違いなのか?
 でもだとしたら、わざわざ自分に隠れて彼女と会う意味がますますわからない。
 結局彼女の隣を歩いていても、考えるのは弟の事ばかりだった。
 それでもなんとか彼女に弟の非礼を詫び、家の前まで送り届けた後は真っ直ぐ自宅へ帰る。部屋に戻れば、まだ不貞腐れたままではあったが弟はちゃんと在室していた。
 弟は二段ベッドの上段を使用しているのに、下段であるこちらのスペースで仰向けに寝転がりながら膝を立てて足を組んでいる。ドアの開閉に気付いてチラリと投げられた視線は依然としてキツかった。
 その視線を受けながら部屋の中を移動し、並んだ勉強机の自分の方の椅子に腰掛けて、自分も二段ベッドの下段を睨み返す。
「何その態度。言い訳があるなら聞くけど、一応、怒ってるのは俺の方だからな」
 言えば大きなため息とともに体を起こし、ベッドの端に腰掛ける。
「別に。言い訳なんかないけど」
「お前さ、彼女が好きなの?」
「はぁあああああ?」
 聞けば随分と大きな呆れ声で返された。ああやっぱりと思う反面、じゃあなんでと思う気持ちが益々大きくなる。
「どこをどう見たら、俺がアレを好きって話になんの? 頭大丈夫?」
「だって俺に隠れてこっそり会ってる意味がわからない。俺の彼女だから、俺のふりすれば彼女と一緒に遊べるとか考えてたのかと思って」
 弟は険しい顔になって、ふーんと鼻を鳴らした。なんだかバカにされているようで腹立たしい。
「じゃあ仮に、俺が兄貴の彼女を好きでこそこそしてたとして、それ知ったアンタはどうすんの? 俺が本気なら仕方ないとか言って、身を引いてくれるわけ?」
 優しいお兄ちゃんは俺のために彼女と別れてくれそうだよねと、今度は完全にバカにした口調で告げてくる。ホントなんなの。腹が立つ。
「お前が本気だってならそれも考えるけど、でも違うんだろ。それとも前言撤回して、彼女が好きだから彼女と分かれて下さいって、俺に本気でお願いする?」
 正直に言ってご覧よとこちらも煽るように告げれば、弟は興ざめしたと言わんばかりにハッと鼻で笑った。
「ばっかじゃないの」
「お前に言われたくないよ」
「だいたいアンタだって本気でアレが好きってわけじゃないだろ」
「アレって言うのヤメロ。後、好きだから付き合ってるに決まってる」
「どこがだ。俺に譲れる程度にしか好きじゃないって、今自分で言ったくせに」
 さっさと別れちまえよと続いた言葉に、やっぱ好きなのと聞いてしまったのはさすがに失敗だったらしい。一度がっくりと肩を落とした弟は、ベッドから立ち上がると無言でこちらに向かって歩いてくる。怒っているよりは呆れているような気はするけれど、感情がわかりにくい冷ややかな表情で圧迫感が凄い。
「ちょっと、何……」
 目の前に立たれて必然的に見上げる形になり、背筋に冷たいものが流れる気がする。きつい視線で睨まれたって怖くなんかないけれど、この冷ややかな無表情はさすがに少し怖いと思った。
「俺が好きなのはアンタだよ」
「は?」
「兄貴だって俺を好きだろ?」
「いやそりゃ弟だし、互いが一番の理解者だと思ってるし、好きか嫌いかで言えば好きに決まってるけど」
「そういう話じゃないのわかってるくせに。アンタは付き合ってる彼女を俺に譲れちゃうくらい、俺が好きなんだよ」
「いやいやいや。何言ってんの」
「何言ってんのはこっちのセリフ。男同士だし、兄弟だし、双子だし、認めたくないのかもしれないけど、いい加減俺を好きだって気づけよ、ばーか」
 アレにわざわざ接触したのなんか、二人の仲を円満に裂くために決まってんだろと言った弟は、でももうバレたからどうでもいいやとなんだか随分と投げやりだ。
「どういう、意味……?」
「この展開はかなり予定外だったけど、本気でアンタ落としにかかるから。って意味?」
「何言ってんの。俺たち兄弟なんだけど」
「だからそれ今更だって」
 ニヤッと笑った顔が近づいて、えっ、と思う間に柔らかな唇が自分の口に押し当てられていた。

有坂レイへのお題は『貴方と私でひとつ・「好きだって気付けよ、ばーか」・やわらかい唇』です。https://shindanmaker.com/276636

 
 
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好きだって気付けよ1

 生まれた時からどころか、母のお腹の中に居た時から、自分たちはずっと一緒だった。もっと言うなら一卵性の双子だから、ずっと一緒どころか元は一つだ。
 時には親でさえ間違うほどそっくりな自分たちは、ずっと互いが一番の理解者で、なんでもわかり合えていた。
 なのに最近、弟が何を考えているのかわからない。なんて思ってしまうことが増えている。
 せっかく出来た初めての彼女を、さんざんブスだなんだと貶しまくったくせに、何故かその彼女と出掛けているフシがある。しかも、自分になりすまして。
 彼女と話していて、時々違和感を感じることがあったのだが、それは自分が彼女との会話を忘れているのか、彼女が別の誰かと混同しているのかと思っていた。でも違う。きっと自分になりすました弟が、彼女と会っていたのだろう。
 確証はない。実際に弟が彼女と出掛けたり親しく話している姿を見たわけじゃない。でもそうとしか思えなかった。
 元は一つの自分たちは、なんだかんだ好みだって似ている。結局のところ弟だって、彼女のことを好きなのかもしれない。そう思うと、胸の何処かが少し苦しい。
 初めて出来た彼女だから大事にしたいとは思うけれど、自分の代わりでいいから少しでも彼女と話したいデートしたいと思うほど弟が思い詰めているなら、きっと自分は身を引くだろう。そんな自分の性格を、弟がわからないはずがない。だからこそ、隠れてコソコソと会われているのが辛いし、出来れば気の所為にしたかったのに。
 弟の態度にあからさまな変化はなく、そんな弟を疑うことに罪悪感を感じたりもしたが、もんもんとする日々に耐えられたのはひと月が限度だった。本当に弟が自分になりすまして彼女と会っているのか、確かめずには居られないほど、こちらの気持ちが追い詰められてしまった。
 やったことは簡単だ。休日に彼女と出かける予定を立てて、当日の朝、具合が悪いと言って彼女に断りの連絡を入れただけ。そしてそれを、せっかくデートだったのに残念だと弟に漏らしただけ。
 弟はデート云々をまるっとスルーしつつ、早く治せよとこちらの体調をかなり心配げに気遣ってくれたが、暫くすると買い物に行ってくると言って家を出ていった。もちろんこっそり後を追いかけたのは言うまでもない。
 はるか前方を歩く弟がどこかに電話をかける姿を見ながら、それでもまだ、相手が彼女ではないことを祈っていたのに。
「会ってて欲しくなかったな」
 彼女と合流するのを見届けた後、そう言って声をかけたら、彼女はえらく驚いた顔をして、弟は不貞腐れたような顔になった。
 聞けば彼女は本当に何も気付いていなかった。彼女とのやり取りはほぼラインを使っているのをいいことに、彼女の携帯に登録した電話番号はいつの間にか弟のものに変えられていて、弟は電話で彼女とやりとりしていたらしい。
 彼女が酷いと怒るのは当然だ。なのに弟は、彼氏とその弟の区別もつかないようなクズ女だと嘲り、こんなブスとはさっさと別れりゃいいとまで言って彼女を泣かせたので、思わずその頬を叩いてしまった。
 ギラリと睨まれたけれど、こちらが悪いなんて欠片も思っていなかったので、呆れたと言わんばかりにため息を吐いてみせる。
「最近お前、ちょっとオカシイぞ。帰って少し頭冷やせ」
「アンタは? 体調悪いくせに、一緒に帰らないつもり?」
「泣いてる彼女放っておけるわけないだろ。後ごめん、体調不良っての、嘘だから」
「ああ、つまり、最初っから全部罠かよ。クソがっ」
「凄むなって。彼女が怖がるだろ。彼女送ってから俺も帰るから、そしたら一回しっかり話、しよう」
 それだけ言って、まだグスグスと泣いている彼女を促し、取り敢えずは急ぎその場を離れることにする。まっすぐ帰ったかは怪しいけれど、少なくとも弟が自分たちを追ってくることはなかった。

続きました→

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こんな関係はもう終わりにしないか?

「こんな関係はもう終わりにしないか?」
 深刻な顔をした相手に告げられた言葉を、寝起きの頭はなかなか理解できない。したくない。それでも終わりという単語に反応し、ただただ胸がきゅううっと苦しくなって、なんでと吐き出す声は細く掠れていた。
 始まりは本当に酷かったものの、昨夜まではそれなりに、互いに都合よく気持ちのいいセックスが出来ていたはずなのに……
 
 自分たちは親友と呼べるほど親しくはなく、言うなれば高校時代に部活が一緒だった程度の友人で、それでも関係が切れずに居たのは進学した大学が学部違いとは言え同じだったことと、就職先が割合近かったと言うだけだ。
 たまに会って酒を飲み、互いの会社の愚痴を吐くような関係を二年くらい続けて居たその当時、相手は学生時代から続いていた彼女と別れて一年以上が経過していて、新しい恋人が出来ずに風俗へ行くかを迷っていた。そして自分の方は、ネットで見かけたアナルオナニーに好奇心から手を出し、すっかり嵌まり込んでいた。
 その日もそこまで酔っては居なかったが互いに酒は飲んでいて、やっぱり風俗に行ってみたいが病気が怖いだとかグズグズ言って躊躇う相手に、俺でいいなら相手するけどと言ってしまった。
 失くしたくないほどの親友だったなら、逆に誘えなかっただろうと思う。誘うことで関係が切れたって、さして痛くもない相手だったのは大きい。
 こちらも長らく恋人が居ないことは知られていたし、オナニーライフ最高という話はチラと出しても居たので、そのオナニーの中にアナルを使ったアナニーも含まれていると教えてやれば、相手は当然ながらかなり驚いていた。
 やってみてもやらなくても、もう二度と酒も食事も付き合わないと言われようと構わないという態度で居たら、相手は見せてよと言いだした。何をと返せば、アナニーをと言われて、今度はこちらが盛大に驚く羽目になった。
 それでも今、こうしてセックスする関係になっているのは、アナニーするこちらの姿に相手が勃ったということを意味している。
 かなり自己開発済みではあっても、人にアナルを弄らせたことはなかったし、当然男に抱かれたこともなかったが、相手はそれをちゃんと考慮してくれた。つまりは、友人の男相手でも、びっくりするほど優しいセックスをしてくれた。
 風俗へ行くか迷っていた割に、出したいだけの自分本意なセックスではなく、むしろ一緒に気持ちよくなれることを目的としたセックスだった事に、結構驚いたのを覚えている。
 さすがに初回から感じまくるなんて事はなかったが、特別嫌な思いをしたわけではなかったから、またしたいという相手を拒むことなく続けた結果、あっと言う間に体は相手とのセックスに慣れてしまった。その日の体調や気持ちにも大きく左右される物の、アナニーするより気持ち良くなれる事があると知ってしまった。
 ついでに言えば、たまに会って酒を飲む関係は、都合のつく週末は会ってセックスする関係に変わっている。会うのはもっぱら自宅になり、居酒屋とはとんとご無沙汰だ。
 学生時代の恋人とは就職を機に遠距離となってしまって続かなかったと聞いたが、こんなにセックスの上手い相手を逃した彼女は随分と勿体ないことをしたのではと、自分も大概下半身中心の下世話なことを思ったりもしている。
 だって本当に、時々めちゃくちゃキモチイイ。
 それは、なるほどメスになるってこういうことか。などという、ネットで拾った情報に納得してしまうくらい衝撃的な快感だ。
 頭の中がキモチイイばっかりになって、何度も白く爆ぜて、ペニスの先からドロドロと精子を吐き出してしまう。善がり啼いてクタクタになって、何もかも放り出して寝落ちするのは、たまらなく贅沢だなと思う。
 思いの外優しいセックスをするこの相手は、事後もそれなりに甲斐甲斐しく、最近では寝落ちても体を拭き清めてしっかり朝まで寝かせてくれるようになった。それはすなわち、やった日の夜は泊まって行くようになったという意味でもある。
 最初の一回は気絶したと焦った相手に必死で叩き起こされたし、その後もしばらく休んだ後でそろそろ後始末をと言って起こされていた。勝手に帰っていいから起こさないでくれと言って合鍵を渡したのは、そのまま寝ていたかったと思うことが増えたからで、つまりはめちゃくちゃ気持ち良くなれる頻度が増えた頃でもあった。
 しかしなぜかその鍵は使われることなく、朝目覚めた時におはようと笑う相手と対面することとなり、最初の一回だけはさすがに驚いたが最近はもうそれが当たり前になっている。
 だから今朝も、いつもと同じように、優しい笑顔と共におはようと言って貰えるはずだった。
「なんか、あった?」
 神妙な顔をした相手に問えば、冒頭のセリフが返されて今に至る。
「なんでって、正直最近しんどくなってきたっつうか」
「しんどい、って俺が寝落ちた後始末の話なら、しないで放っておいてくれて全然いいんだけど」
「いやそうじゃなくて」
「じゃあ、男同士でセックスするのなんか不毛とかいう話? 恋人になってくれそうな女の子でも出来た?」
 会社の愚痴は今でもそれなりに言い合うが、そういや恋愛方面の話はすっかりしなくなっていた。
 あの日、このまま縁が切れてしまっても惜しくないと思っていたはずの相手は、今はもう、出来れば手放したくない相手へと変わってしまっている。それでも、自分が風俗行くよりはマシ程度の相手であることはわかっていたし、恋人ができそうだというならこんな関係を続けている場合じゃないこともわかっていた。なのに相手はあっさりそれを否定する。
「昨夜のが、不毛だと思いながらセックスされてる、なんて思われるセックスだったならちょっとショックなんだけど」
「男同士のセックスに嫌気が差したわけでも、恋人できそうって話でもないなら、都合よくセックスできる今の関係を終えたいくらいのしんどい事って、一体何?」
 わけがわからなくて、幾分きつい言い方になってしまった。相手は困った様子で眉尻を下げながら、都合が良すぎるのが嫌になったと返してきた。ますますわけがわからない。
「都合がいい事の、何が嫌なのかわかんないんだけど」
「いやだから、そのさぁ……」
「いいよ。はっきり言って」
「えっと、だからお前と、恋人になりたいなって、思って」
「は? 恋人?」
「セフレみたいな今の関係、もう、やめたい。恋人として、お前のこと甘やかしてみたい」
 真剣な目に見つめられて、じわじわと頬が熱くなるのを自覚する。ズルいズルいズルい。どんなに優しいセックスをされてたって、この男と恋人として付き合いたいだなんてことは、考えてはいけないと思っていたのに。
「ダメ?」
 唐突過ぎるし男の恋人を作る覚悟なんて欠片も出来ていない。アナニー嵌ってたって、男に抱かれて気持ちよく善がってたって、恋愛対象は今も一応女のつもりだ。
 だから今は、せめて考えさせてと答えるべきだと頭ではわかっている。なのに口からはダメじゃないと吐き出されていた。

有坂レイの新刊は『 「こんな関係はもう終わりにしないか?」 』から始まります。https://shindanmaker.com/685954

 
 
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そういえば一度も好きだと言っていない

 ふと気がついた。そういえば一度も好きだと言っていないな。
「好きだ」
 思った次の瞬間には、口からそう零していた。
「え、何を?」
 見下ろす先、目をぱちくりさせて聞いてくるから苦笑する。確かに突然だったとは思うが、この状況で何をと問われるとは思わなかった。
「お前を、に決まってるだろ」
「えっと、何の冗談?」
「冗談で言うかよ。本気で好きだと思ってる」
 言えば嫌そうに眉を寄せる。随分と酷い反応だ。
「今更過ぎでしょ」
「だって言ったことなかったなって思って。というかお前の反応、俺の予想と全然違うんだけどどういうことなの」
「ならどういう反応と思ってたわけ?」
「言われなくてもわかってる。もしくは、やっと言ってくれて嬉しい。のどっちか」
 大真面目にそう思っていたのに、相手はハッと鼻で笑いやがった。
「これってただの性欲処理だよね」
「まぁ最初はな」
「今もだよ。下らないこと言ってないでさっさと突っ込んで腰振れよ」
 確かにその言葉も最もだ。そろそろ挿れても大丈夫そうだと、相手の後孔から指を抜いた所だったし、見下ろす相手は両足を開いて寝転んでいる。
「ほら、早く」
「わーかったって」
 軽く持ち上げた両足を腰に絡めて引き寄せるように力を込めてくるから、悪戯に腰へ絡む足を外すようにして抱え上げた。
「ぁっ、あっ、いぃっ」
 ゆっくりと体重を掛けてペニスを埋めていけば、甘えるような声が鼓膜を震わす。
 初めてこの男を抱いた時から、挿入する際にはかなりの頻度で聞かされてきた声だ。さすが自分から誘ってくるだけあって、随分と抱かれることに慣れた体なのだと思っていた。
 なのに今はその声がわざとらしい。
 そう思うようになってしまったのは、本当に感じ入った時の彼を知ってしまったからだった。
 突っ込まれて揺すられて擦られるだけでキモチイイなんて嘘ばっかりだ。甘ったるくアンアン零すから騙されていた。
「ぅぁっ、バカっ! そこ、やめろって」
 馴染むのを待ってからゆるりと腰を動かせば、すぐさま抗議の声が上がる。
「なぁ、ココ。これが前立腺で、あってるだろ?」
「なに、言って……」
「さすがに調べたわ。というかなんで今まで調べようともしなかったんだろな」
 慣れた様子の相手に、慣れた様子で誘われて、言われるまま突っ込んでいた。突っ込む場所が尻の穴という心理的抵抗は気持ちよさの前であっさり砕けて散ったし、突っ込む側なら相手が男でも女でも大差ないな、なんてことを思っていた自分は、あまりに男同士のセックスに対して無知だった。
「なんで慣れたふりしてたの?」
「えっ?」
「やり慣れてるはずなのに前立腺すら未開発とか、俺が納得行く説明できんの?」
「ど、……ゆ、意味……」
「ホントに慣れてるってなら、最初っから前立腺擦られてイキまくってトコロテンとかいうのしたり、尻だけでイッちゃうメスアクメとかいうのキメて見せたら良かったのに」
「ちょっ、なっ……」
 すっかり言葉を失くしている相手に、もう一度真剣な気持ちと声とで伝えてみる。
「お前が、好きだよ。都合がいい性欲処理だけ続けたかったら、お前の体の変化は無視してた。だからさ、慣れたふりして誘ったのは性欲処理でいいから俺に抱かれたかったくらい、俺が好きだったからだって言ってよ」
 言った途端、相手の目にぶわわと涙が盛り上がってしまってさすがに焦る。
「あ、その、ゴメン。お前が遊び慣れた様子で誘うから、俺もなんか意地になってたのか、遊び相手に惚れたら負けだとか思ってたみたいで。とっくにバレてるだろと思ってたのもあるってのは言い訳だけど、変な意地はらずに、お前が可愛いとかお前を好きになったとか、自覚した時に言っときゃ良かったんだよな。ホント、ごめん」
 一度も好きだと言わないせいで、こちらの好意を隠すせいで、相手もまた想いを隠すのではないかと、さっきふと気づいてしまった。そしてそれは当たりだったと、もう確信している。
「今、そんなの言われたら、信じちゃうよ……」
 泣きかけた声は小さく震えていた。目の縁に溜まった今にも零れそうな涙を指先で拭いながら、出来る限り優しい声音になるよう気を遣いながら口を開く。
「信じてよ。で、お前も俺が好きって言って?」
 促すように頼み込んでやっと、ずっとお前を好きだったという言葉が、相手の口から告げられた。

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ベッドの上でファーストキス2(終)

1話戻る→

 促されて仕方なくを装いながらベッドの中に入れば、待ってましたとばかりに兄の体が擦り寄ってくる。慌てて背中を向けながら、ベッドヘッドの棚に置いてあるはずの、照明器具のリモコンを手探りで探す。
「はいこれ。てかお前、なんでそう頑なに俺に背中向けるかな」
「兄弟で、男同士で、向き合って抱き合って眠るとか、なにその拷問。キモいんだけど」
 リモコンを背中越しに渡してくれながらの兄の言葉に、思ってもない言葉が口からこぼれ落ちる。いやでも、ある意味拷問には違いないか。
「俺は別にキモくないけど。嫌がってるの無理矢理一緒に寝てもらってるんだから仕方ないのかもだけど、でもやっぱちょっと寂しい」
 バカじゃないのと返しながら明かりを消せば、酷いと言いながら背中にグリグリと額を押し付けてくる。しかも胸の前に腕が回され、ぎゅっとしがみつかれた。
「ちょっ、と。何してんの」
「昔はもっと可愛かったのにー。ぬくぬくのちっちゃな手で俺の手握ってくれて、足だってお前っから絡めるようにして温めてくれてさ。ちょっと体が大っきくなってベッド狭くなったからって、体は温かいままなのに態度が冷たくなりすぎ」
 むしろ昔以上にひっつけばベッドの狭さだって気にならなくなるんじゃないのなどと言って、更にぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまって焦る。クスクスと笑っているから、明らかに兄はふざけているだけなのに。自分だけが兄を意識していると突きつけられるようで苦しい。
「いい加減にしろよっ!」
 思わず上げた声は思いの外大きく響いてしまって、背後でギクリと兄が固まる気配がした。
「その、……ごめん」
 小さな呟きの後、体に回されていた腕が解かれて、もぞもぞと兄が離れていく。さすがに気まず過ぎる。
 今度はそっと小さなため息を吐き出して、くるりと寝返りをうち兄へと体と顔を向けた。暗いので兄の表情はわからないし、こちらの表情だってきっと兄に見えてはいない。けれどこちらは至って真剣な顔をしているし、きっとそれは気配から伝わっているはずだ。
「まずは、怒鳴ってごめん」
 静かな謝罪に、兄が小さく息を呑む気配がした。いつもと違うこちらの気配に、やはり戸惑っているだろうか。
「でも頼むから、あんまり余計なことしないで。本気で俺に、ベッドから追い出されたくないなら。俺をこの先もまだ、人間カイロとして冬の間は重宝したいって思ってるなら」
 お願いだからと本気で頼み込めば、掠れた声でどうしてと聞いてくる。出来ればそれすらも、聞かずに居て欲しかった。
「弟だって思って油断して、ベタベタ甘えてくるのはそっちの勝手だけど、その結果、俺に襲われても知らないよ。……って言ったらわかってくれんの?」
「えっ?」
「気持ち悪いって思ったなら、寒いの我慢して一人で寝て。てかホント、キモい弟でゴメンな」
「キモくないよっ!」
 今度は兄の声が大きく響いた。
「えっと、それって俺を好きって、そういう意味と思っていいの?」
 そっと伸びてきた兄の手がこちらの手を探り当てて、だらりと伸ばしていた指先を、冷たい指がキュッと握り込む。まるで縋られているみたいな気分になって落ち着かない。
「だったら、嬉しい」
 いいとも悪いとも返さず黙っていたら、まるで肯定とみなした様子で喜ばれてしまった。ちょっと意味がわからない。
「喜ぶなよ。兄弟の好きとは明らかに違う好きだって、アンタほんとに理解してんの?」
「してるよ。理解してるから、喜んでるんだろ」
「なんでだよ」
「そんなの、俺も、お前を好きだからに決まってる」
「えっ……」
 耳に届いた言葉を理解できずに固まってしまえば、一旦は離れた距離を兄がまたもぞもぞ動いて詰めてくる。
「キスとかしたい。って意味の好きなんだけど」
 暗さに目が慣れたのとかなり近づいた距離に、兄の酷く真剣な顔が見えてしまった。
「ほん、き……?」
「冗談言ってないのわかるだろ」
「兄弟だぞ」
「うん」
「許されるわけない」
「誰が許さなくたって、俺が許すよ」
 ああ、うん。この兄は昔からこういう人だった。
 それでもまだ、一緒になって喜ぶ気にはなれずに抵抗してしまう。
「兄貴ってのは弟が道踏み外そうとしてたら、正してやるもんじゃないのかよ」
「たった一年先に生まれただけで、そんなの期待されても困っちゃう。むしろ弟ってのは兄の巻き添え食らうもんなんじゃないの」
「で、いつから好きだったわけ?」
「それ聞いてどうすんの」
「俺より先に好きだったなら、確かに巻き添えくらいまくった結果なのかと思って」
「実の兄貴を好きにならせちゃってゴメンね?」
 つまりは相当昔から好きだったという意味だろうか。こうなってくると、この歳で寒くて寝れないと弟のベッドに潜り込むのも、どこまで純粋に寒さからの行動なのかわからないなと思った。
「まぁ、でももう、どーでもいいや。で、ホントにキスしていいの?」
 したら兄弟には戻れないよと脅しても、あっさりいいよと返ってくる。
「多分だけど、お前より俺のが先にお前好きになってるし、兄弟だからとか男同士だとか、そういうのいっぱい考えてきてるんだよね。だから安心してって言ったら変だけど、お前より絶対俺のが覚悟済みだからさ」
「じゃ遠慮なく」
 言って兄の体を自分から引き寄せ、そっとその唇を塞ぐ。覚悟済みなんて言っておきながらも、唇はかすかに震えているようだった。
 口の中に舌を突っ込んで舐め回したい欲求はもちろんあったが、震える唇を割って入り込むなんて真似は出来そうにない。
「唇震えてんだけど、ホントに覚悟できてんの?」
「出来てるってば。てかお前と違ってこっちは正真正銘ファーストキスなんだから、慣れてないのは仕方ないだろ」
「ちょっ……」
 とんでもない理由に絶句しながらも、胸の中には嬉しさと愛しさが湧き上がっていた。

有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「真剣な顔」、ポイント:「ファーストキス」、「お互いに同意の上でのキス」です。https://shindanmaker.com/19329

 
 
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ベッドの上でファーストキス1

 風呂から上がって自室に戻れば、ベッドがこんもり盛り上がっていた。もちろん、風呂へ入るために部屋を出る前のベッドに、そんな盛り上がりはなかった。
 無言でベッドに近づき足を持ち上げ、その盛り上がりを足の裏でグイグイ蹴り押す。
「ちょっ、やめろって」
「それはこっちのセリフだ」
 なおもグイグイ押していたら、ようやく盛り上がりが動く気配がして足を下ろした。けれど起き上がるのかと思ったら、その盛り上がりはくるりと寝返りを打っただけだった。
「起きろよ」
「やだ。ここで寝る。寒い」
 確かに今夜は相当冷え込んでいるけれど、そんな理由で弟のベッドに我が物顔で入り込むのはホントどうかと思う。
 こちらが嫌がるからか頻度は減ってきたけれど、隙を見ては潜り込まれていた。それでも、こうして最初から一緒に寝ようという態度で来ることは珍しい。いつもは夜中に目覚めてしまい、寒さで二度寝が出来ない時にやってくる。
「狭くなるから嫌だって言ってんだろ」
「俺の部屋のベッド使っていいって言ってんじゃん。でも俺が寝入った後でな」
「なんで自分のベッド追い出されて、兄貴のベッド使わなきゃなんねーんだよ。しかもアンタ、俺が移動した先に、更に俺追っかけて移動してくる可能性高いだろ」
「だって寒いと目が冷めちゃうんだもん。てかいい加減諦めて、寒い日の夜は俺のための人間カイロに徹しなよ」
 冷え性な兄を持った弟の使命だよ。なんて、随分と勝手なことを言っている。
「たった一年先に生まれただけで横暴すぎ。冷え性どうにかしたいなら筋肉つけろ。筋肉を」
「そりゃ運動部のお前より筋肉ないのは認めるけど、吹奏楽部だってそれなりに筋トレしてますぅ。母さんも冷え性だし、これ絶対遺伝だって」
 背だってなかなか伸びないしと口を尖らせる兄は、確かに母の遺伝子が強いのだと思う。対するこちらは父の血が濃いのは明白だった。
 父の血が濃いせいで、好みまで父に似たのだったら最悪だなと思う。母によく似た兄相手にこんなにもドキドキする理由が、父親からの好みの遺伝という可能性はどれくらいあるんだろう。そして母の血が濃い兄も、母の好みに似て父に似た自分を好きだと思う可能性はあるだろうか?
 兄弟で、男同士で、考えるような事じゃない。考えていいことじゃない。
 それでも体は正直だった。考えないようにしてたって、暖を求めてひっついてくる兄相手に問答無用で股間が反応してしまう。バレるわけに行かないから、意識がある時は絶対に背中を向けて寝るけれど、気づかれるのも時間の問題じゃないかと思う。
 性欲なんてもののなかった子供の頃は良かった。冷たい手先や足先を自分の肌の温かな部分で包み込んで、兄がありがとうと笑うのも、ホッとした様子で眠りに落ちていくのを見守るのも、ただただ純粋に嬉しかった。
 今だって、寒くてぐっすり眠れないのは可哀想だと思うし、だから夜中知らぬうちに潜り込まれたものを蹴り出すほどの拒絶はしたことがないが、でもこのどうしようもない下衆な欲求に気づかれるくらいなら、もっと厳しい態度で拒否を示した方が良いのかもしれない。
「どーした? てか早く入ってきてくんないと、寒くて寝れないんだけど」
 こちらの気持ちを知る由もない兄に急かされ、大きなため息を一つ吐き出した。我ながら甘すぎる。兄に対しても、自分自身に対しても。
 想いにも欲望にも気づかれたくないし、気づかれるのが怖いのに、兄が昔と変わらずこうしてベッドに潜り込みこちらの熱を奪って眠るのが、嬉しいし愛おしい。迷惑そうな顔をして口先で嫌がったって、きっと本気で嫌がってないのは丸わかりなんだろう。だから平然とベッドへ潜り込むことを、本気で止めはしないのだ。

続きました→

有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「真剣な顔」、ポイント:「ファーストキス」、「お互いに同意の上でのキス」です。
https://shindanmaker.com/19329

 
 
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