前世の記憶なんてないけど1

 ずっと貴方を捜していました、と言われたのは高校受験を控えた中学三年の冬の塾帰りで、薄暗く人通りのない道の途中で、目の前に立つのはどう考えてもまともな人ではなかった。いや、一応は人のような見た目をしている。ただ、猫っぽい尖った耳とふさふさの尻尾を生やしていただけで。
 正確には猫ではなく狐だったけれど、そんなの中学生男子には見分けがつかない。正直に言えば猫耳カチューシャだと思ったし、そういうコスプレが好きな変質者に声を掛けられたと思ったし、つまり「まともな人ではなかった」というのも、変質者という意味での「まともじゃない」だ。
 おかしな人の相手なんてしてはいけない。というわけで、自慢の足で慌てて逃げ帰った家の自分の部屋の中、なぜかそこに先回りした相手が入り込んでいた。わけがわからず、すぐさま回れ右で逃げ出そうとした自室のドアは開かない。
 パニックになってわーぎゃー叫びながらドアをガチャガチャさせる自分に、相手は最初落ち着いてだとか話を聞いてだとか言って手を伸ばしてきたが、半泣きで腕を振り回し嫌がるこちらにすぐに諦めたらしく、次にはその場に正座し深々と頭を下げた。
 静かにその姿勢を続ける相手に、こちらの気持ちもゆっくりと落ち着いていく。この状況を受け入れ、先に進まないとという気になってくる。だから相手の前に自分も腰を下ろし、何者なの、と声をかけた。
 そこから先は相当眉唾もののファンタジーてんこ盛りで、簡単に言えば、彼が仕えるとある高貴なお方とやらの生まれ変わりが自分なのだと言われた。彼のミスで命を落とし輪廻の輪に還ったとかで、ずっと生まれ変わるのを待っていたんだそうだ。まさか人の世に生まれ変わっているとは、なんて嘆き気味に言われたけれど、そんなことを言われたって困る。
 もちろん前世の記憶なんて欠片もないし、話を聞いただけならやっぱり変質者の思い込みというか作り話にしか思えないのだけれど、ケモノ耳も尻尾も玩具なんかじゃなく彼の体から間違いなく生えていたし、人の家に勝手に入り込んでいるし、結界とか言って鍵のない部屋のドアを開かなくさせるし、狭い家の中であんだけギャーギャー騒いでも母が様子見にも来ないのだ。
 半信半疑ながらも取りあえずは彼の言い分を信じるとして、次に確かめたのは彼の目的だ。目的と言うか、自分が本当に彼の大事な人の生まれ変わりだとして、彼はいったいどうしたいのか。どうなりたいのか。
 聞けば、以前のように仕えたいのだと言われたけれど、その以前が全くわからないのにどうしろというのか。側にいたいにしたって、いくらなんでも彼を自分の部屋に住まわせるわけに行かないだろう。
 一応耳と尻尾は隠せるらしいし、多少は人の記憶も弄れると言うか騙せると言うか別の情報を思い込ませることは可能だとも言われたけれどその場しのぎの一時的なものらしいし、明らかに見た目成人している男性が中高生男子の家に頻繁に出入りするのはオカシイ。やめて欲しい。
 結果、彼はご近所さんになった。彼のアパートと自分の部屋とを繋いで、部屋の中から行き来できるようにしてしまった。むちゃくちゃだなと思いながらも、人の世界の常識から少々外れてしまった生活と彼の存在を受け入れた。
 といっても、仕えてもらうようなことは何もない。せいぜいどれだけ散らかしまくっても、触るな弄るなとでも言っておかない限り、いつの間にかきれいに整理整頓されているくらいだろうか。ちなみに、全く役に立てないとしょんぼりされて、仕方なく散らかしている部分もある。
 彼は前世の記憶を取り戻して欲しそうだけれど、どれだけ話を聞いても今ひとつピンとこないまま、あっという間に出会いから3年以上が経ち、この春、自分は少し遠方に引っ越しをする。遠方の大学に通うため、一人暮らしになるからだ。
 といっても当然相手も付いてくる。アパートの隣の部屋を既に押さえているし、どうせまた中からも部屋を繋いでしまうのだろうから、一人暮らしなんて表向きだけの同棲生活がスタートする。と思っているのはたぶん自分だけなんだけど、相手は今より色々と世話が焼けると、既にウキウキで張り切っている。

続きました→

有坂レイのお話は「ずっと貴方を捜していました」で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わります。 shindanmaker.com/804548

 
 
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何も覚えてない、ってことにしたかった2(終)

1話戻る→

 がん、とやや強い音を立てて空のジョッキを机に置いた相手が、嘘ですよね、と唸るみたいに聞いてくる。
「嘘じゃない」
「いや、絶対ウソですって。だって俺、前に、酔って記憶なくしたこと無いって、言ってたの覚えてますよ」
「あ、そっち?」
「今後は俺に冷たくするってのも、嘘だって思ってますけど。でも先にそっちです」
「本当に何も覚えてない」
 言えば探るようにジッと見つめられて、大きくため息を吐いた。
「ってことにして、なかったことにしたい。ってのは本当」
「やです」
 一瞬、ほらみろと安堵しかけた相手が、慌ててそれは嫌だと言い募る。
「というか、お前の方こそ、どうせたいして覚えちゃいないだろう?」
 何もなかったはずだ、という主張だけは、最初にあっさり否定されていた。彼にこちらを抱いた記憶がばっちり残っていたせいだ。責任とってお付き合いさせて下さい、というのが相手側の主張だったが、もちろんそんなものを受け入れられるはずがない。めちゃくちゃ逃げ回っていたのは、相手の主張がそれだったせいもある。
 ただ、抱いた記憶があったって、そこまで鮮明に覚えているとは思えない。それくらい、あの日の彼はグダグダに酔っていた。
「あまり覚えてないからこそ、ですって。俺と付き合うのがダメなら、せめてもっかい、抱かせてくださいよ」
「ぜってーやだ」
「なんでですか。俺を好きなんですよね?」
「好きじゃない」
「ほらまた嘘つく。ところどころしか記憶なくても、はっきり抱いたってわかる程度にはちゃんとあるって言ってんでしょ。俺にまたがって、好き好き言ってたの、覚えてるんで」
 それこそ嘘だろう、と思う。嘘だと思いはするけれど、実のところ、言った記憶が確かにあるから、嘘の妄言だとは言い切れないのがなんだか悔しい。
「だとしても、好きって言ったほうが興奮する、程度の言葉遊び的な、」
「はいはいウソウソ。それも嘘。あんな顔して好き好き言っといて、興奮するための言葉遊びとか無いでしょ」
「あんな顔ってどんな顔だ。あ、いや、いい。知りたくない」
「ね、それ、どんな顔してたか、ある程度自覚あるってことじゃないんすか?」
 墓穴をほったらしい。大きく息を吐きだして、もう一度抱かせれば諦めるのかと聞いた。
「いや。諦めませんけど」
「なら、さっきの、せめてもっかい、てのはなんだったんだ」
「え、もっかい抱いてる間に、落とせるかなって思って?」
「わかった。二度とお前に抱かれないし、お前とはこのまま距離をおく」
「酷っ、俺の気持ち、弄んで楽しいですか?」
「どっちかというと、お前が、俺を弄んでる気がするが」
「どこがですか。思わせぶりな態度で逃げまくって、必死に俺が追いかけるの、楽しんでるんでしょ」
「そもそもなんでそう必死に追いかけてくるんだ、って話なんだが」
 一夜の過ちで流せないにしても、酔ってホテルに連れ込まれた挙げ句にむりやり男を抱かされた、という方向で非難されるならまだわかるし、謝罪しろと言うならするつもりはあるのだけれど、相手の訴えが付き合えだのもう一度抱かせろだのだから、正直どうしていいのかわからない。
「そんなの、ずっと好きだったからに決まってるでしょ。何言ってんですか、いまさら」
 ふん、っと開き直った様子で告げられ呆気にとられてしまったが、あまりに呆然と見つめてしまったせいで、相手が少し焦りだす。
「え、まさか、俺の好き、本気にされてない?」
「というか、初耳」
「はぁあああああ!!??」
 とっさに声がでかいとたしなめたものの、さて、この予想外の展開を、ホント、どうすればいいんだろう。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1077577605635698689

 
 
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何も覚えてない、ってことにしたかった1

 今日もさっさと逃げ帰ろうとした仕事終わり、今日こそ逃しませんよ、と言って腕を掴んできたのは若干目の据わった入社三年目の後輩だった。
 彼がなぜそんな顔で、こんな事を言うのかわかっている。悪いのは自分で、彼はそれに振り回されている可愛そうな被害者だということも。
 知らぬ存ぜぬを貫き通して逃げまくるのもいい加減限界かもしれない。仕方なく、わかったから手を離せと言えば、素直に掴まれた腕は開放されたけれど、こちらを疑う目は鋭いままだ。
 その彼を連れて、とりあえず駅前にある個室を売りにしたチェーン居酒屋に入店した。
 そこまでしてやっと、これ以上逃げる気がないことをわかってくれたらしい。案内された小さな部屋の中、対面に座る相手は態度を一転してにこにこと嬉しげだった。
 そんな相手にメニューを差し出し、好きに頼めと言えば、相手の機嫌はますます良くなる。相変わらず単純で、わかりやすくて、扱いやすくて、いい。
 ホッとしつつ、相手が店員を呼んで注文を済ませるのを、ぼんやりと見ていた。個室のドアが閉まって店員が去ると、相手がこちらに向き直り、少し拗ねた様子で唇を尖らせる。
「なにホッとしてんですか。俺、一応、まだ怒ってますからね」
「そうか」
「ここ奢られたくらいで、なかったことにはなりませんから」
「だろうな」
 何も覚えてないからなかったことにしてくれ、を受け入れる気があるなら、そもそも逃がしませんなんて言って腕を掴んでは来ないだろう。
「ねぇ、わかってると思いますけど、年明けてからこっち、ほんっとそっけないから、俺、めっちゃショックでしたよ?」
「お前に構いすぎてたせいでああなったんだろう、と思って反省したんだ」
 昨年末の仕事納めの日、納会で少々飲みすぎた上にそのままずるずると三次会くらいまで参加して、酔いつぶれ寸前だった目の前の彼をお持ち帰りしたのだ。正確には、自宅にではなく、そこらのラブホにインした上でやることはやって、翌朝、彼を部屋に残してさっさと逃げ帰ってしまった。
 好意は確かにあったけれど、同じ部署の後輩相手に、あんな形で関係を持つだなんて、大失態も良いところだ。
 抱かれたのはこちらだし、相手も相当酔っていたから、何も覚えてないし、帰れなくて仕方なくそこらにあったラブホを利用しただけだし、きっと何もなかったはずだ。という主張を、慌てて連絡してきた相手にほぼ一方的に告げた後は、今日まで必死に逃げ回っていた。
「ちょ、待って。てことは、今後はずっとこのスタンス? なんて言いませんよね??」
「いや、言う」
 だって二度と、あんな失態は犯せない。部署は一緒だが直属の部下ってわけではないのだから、無駄に構うのを止めればいい。
「うっそでしょ」
 呆然となったところで、最初のドリンクとお通しが運ばれてくる。相手が呆けたままなので、仕方なくこちらが対応するはめになった。
「ほら、ビール来たぞ」
 相手の目の前に置いてやったジョッキに軽く自分のジョッキを当てて、さっさと飲み始めてしまえば、また少し剣呑な顔になった相手が、後を追うようにジョッキを掴む。
 一気に飲み干していくさまを、溜息を飲み込みながら見つめていた。

続きました→

 
 
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間違ってAV借りた

 あの時自分は酔っていた。世間とは少しずれたが、ようやく纏まった休みが取れて、浮かれて結構な量を飲んでいた。
 酒を片手に、ふと思いついてDVDをレンタルしたのは記憶にある。気になりながらも見逃してきた数々の作品を、この機に見てしまおうと思ったのだ。
 便利になったなーと思いながら、DVDの宅配レンタルサイトであれこれポチポチクリックしたのは事実なのだが、思うに、あの時の自分は、自覚していた以上に酔っていたんだろう。
 本日届いたそれらの品は、時間が取れずに見逃してきた作品たちとは全然違った。何かの手違いかと履歴を確認してしまったが、そこには間違いなく届いたタイトルが並んでいたから、誰のせいでもない自業自得というやつだ。
 意気消沈しながらも、とりあえず机に積み上げたDVDの中から無造作に一枚選んでデッキに放り込む。金は払ってしまったのだし、見ないのも勿体無いかと思ったせいだ。
 なんせ、今日は一日引きこもってDVDを堪能する気でいたし、今更予定変更するのもそれはそれで面倒くさい。時間つぶし程度にはなるだろうし、これだけあれば、中には面白いなと思うものだって、もしかしたらあるかも知れない。
 
 そこそこ大きなテレビの大画面いっぱいの肌色と、そこそここだわったスピーカーから響く媚びた嬌声を肴に酒を飲みつつスナック菓子を摘む。
 怠惰に過ごすつもりだったから、ジュースや菓子を買い揃えていたのだけれど、ジュースは早々に買い置きの酒に切り替わっていた。さして面白いわけでも興奮するわけでもない映像に、飲まなきゃやってられねぇ、的な気分に陥った結果だった。
 それでもなんだかんだと見続けたのは、強いて言うなら、ただの意地のようなものなんだろう。
 アルコールの力も相まって、半ばうとうとしながらも半分近くを消化した頃、ピンポンとドアチャイムが鳴った。忙しすぎて通販多用生活なので、また何か荷物が届いたのだろう、程度の認識でふらふらと玄関先へ向かう。真面目に見ても居ないDVDは当然そのまま流しっぱなしだったが、それなりの賃貸料を払っている物件なので、リビングのドアを閉じてしまえば廊下にまでアンアン響いてくるようなことはない。
 再度鳴ったドアチャイムに、普段は急かすなんて事無いのにと思いながらドアを開ければ、そこに居たのは宅配業者ではなかった。
「定時退社頑張っちゃった。でもって明日半休もぎ取っちゃった。てわけで俺もDVD祭り参加したい」
 それを言ったのは、学生時代から、社会人になって数年経つ今も、なんだかんだと付き合いが続いている悪友だ。ホイ土産、と言って差し出されたコンビニ袋の中身は炭酸飲料や菓子類だった。
「おじゃましまーす」
 差し出された袋を思わず受け取れば、相手はこちらの脇を通りぬけ、勝手に上がり込んでくるから焦る。それはもう、一気に酔いが覚めるくらいに慌てた。
「待て。待て待て待て。来るなんて聞いてない。てか勝手に上がるなよ」
 SNSに、久々に纏まった休みが取れたから気になる映画を宅配レンタルした、と投稿したのは事実だ。到着予定日も記して、楽しみだとも書いていた。記憶があるというよりは、ログがある。
 今、その背を追いかけている友人から、いいなーという反応があったのも確かだが、でも相手が押しかけてくるなんて思わなかったし、間違えて大量のAVが届いたという投稿はアホを晒すようでしていなかった。
「えーなんだよ。俺たちの仲で今更じゃん?」
 どうせお前一人だろ、と言いながらリビングドアを開けた友人がその場で固まり足を止める。
 途端に部屋の中から漏れ出すハスキーな嬌声に頭を抱えたくなった。なぜなら、今現在流れている映像が、いわゆるニューハーフものというやつだからだ。テレビの中では、髪の長い女性的な容姿の、けれどばっちりちんこの付いた男が、可愛らしく喘いでいた。
「えっ、ちょ、どういうこと?」
 こわごわとこちらを振り向いた相手は、当然驚いていたけれど、同時になんだか酷くそわそわとしている。
「なぁ、お前ってこーゆーの有りなの?」
「こーゆーの、とは?」
「女のかっこした男を抱きたいて思うのか、それともお前が女のかっこで男に抱かれたい側?」
「別にどっちもないな」
「は? んじゃなんでこんなの見てんの」
 面倒くさいな、と思いながらも状況を説明し、男女のは見終えたから未視聴で残っているDVDはニューハーフものかゲイものだけだぞとも言ってやる。
「え、ゲイビも見んの?」
「だから、金払ってんのに見ずに返すの、悔しいだろって」
「あーはいはい。じゃ、俺も酒貰っていい?」
 ジュースしか持ってきてないと言い出した相手に、何を言い出すんだと焦った。説明したらおとなしく帰ると思っていたのに。
「は? 帰れよ」
「えー面白そうじゃん。俺も見たい」
 別にそれ見て抜こうってんじゃないんだろ、と続いた言葉に押し切られて、なぜか一緒にAVを見ることになってしまったが、悪友が男も有りだったなんてこんなに長く付き合っていて初めて知ったし、ゲイビ見ながらもの食えるくらい平然としてんならちょっと試そうと誘われて、その時にはだいぶ酔っていたのもあってうっかり応じてしまった結果、長年の友人だった男にあっさり食われたのもなかなかの衝撃だった。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1077577605635698689

 
 
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ツイッタ分(2018)

ツイッターに書いてきた短いネタを纏めてみました。

有坂レイへのお題は「爪痕」、ぬるいBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。

爪痕とか残してくれても良いんだよと君は言う。まだ僕らがただの友人だった頃、君は彼女の残した爪痕を誇らしげに見せつけてくれたっけ。つまり君にとっては、恋人から貰う爪痕は愛の証なんだろう。ねぇ、でも、男の握力でその背に縋ったらどうなると思う?
だからこの手に握るのはシーツでいいんだ。


有坂レイへの3つの恋のお題:可愛いにも程がある/試してみる?/ありふれた言葉だけど
https://shindanmaker.com/125562

好きだと言ったら俺もと返った。友情じゃなくて恋愛感情でと訂正すれば、やっぱり俺もと返ってくる。本当にわかってんのか。なら俺とセックス出来るっての?と聞けば、なら試してみる?と言って相手が笑った。近づいてくる彼に、心臓が跳ねる。

ありふれた言葉だなと思いながらも、なら試してみる?と笑いかければ、目の前の男の顔が赤く染まった。距離を詰めるように踏み出せば、逃げるように後退る。逃がすわけない。腕を掴んで引き寄せてその顔を覗き込む。少し怯えるみたいに揺れる瞳。自分で誘ったくせに可愛いにも程があるだろ。


有坂レイのクリスマスへのお題は『背中越しに感じるぬくもり・やわらかい唇・カラフルな世界』です。

ぼんやりと電車の中の釣り広告を見ていたら、今から行こうか、と隣に立つ男が言った。嫌だよ、と言えば、なんでと返される。いくら恋人という関係だって、男二人でクリスマスイルミネーションを見に行くのはなんとなく抵抗がある。けれど気にする必要ないって返ってくるのはわかっていたから、理由は言わなかった。言わなかったのに、誰も気にしないって、と返ってくる。
結果、抵抗しきれず連れて行かれたカラフルな世界に圧倒されて、やっぱりぼんやりと立ち尽くしてしまえば、ふいに背中に暖かなぬくもりと重みが掛かる。ビックリして肩を跳ねたけれど、やっぱり誰も気にしないって、という優しい声音と共に、耳にやわらかな唇がそっと触れたのがわかった。

年下攻めにカウントダウンされ追い詰められてく年上受け見たい、というたまたまTLに流れてきた人様のツイートに反応してしまった結果

 目の前の青年とは、親子ほども年が離れている。なんせ同い年の友人の息子なので。
 数年前のあの日、幼いながらも友人と良く似た真剣な顔で、好きだと言われ、付き合って欲しいと請われて魔が差した。
 遥か昔、まだこの彼が生まれるよりも前、友人の結婚報告を聞いた時に枯れたはずの想いが、胸の奥で疼くのを感じてしまった。もとより告げる気などなかった癖に、枯らしきって捨てる事すら出来ないまま見ないふりを続けてきた、どうしようもなく臆病で卑しい自分を知っている。
 十年後も同じ事が言えたら付き合ってやるだなんて、言うべきじゃなかった。きっと友人そっくりに育つのだろう目の前の少年に、少しだけ夢を見てしまったのだ。
 昔、叶うことのなかった想いを掬い取られ、大好きだった男の顔と声が、自分に好きだと告げてくれるかも知れない、なんて。  
 年々、出会った頃の友人に似ていく彼に、年々、あと何年だと嬉しげにカウントダウンされるたび、追い詰められていくのがわかる。このまま彼の想いが続いてしまったらどうするんだと、今更ながら焦りが募る。子供の想いを甘くみて、続くはずがないと思ったからこそ、そこにチラリと夢を見ただけだった。
 いつか友人にこの約束を知られて失望されるのは怖くて、なのに約束をなかったことにして目の前の彼に失望されるのも嫌で、身動きが取れないまま、またひとつ、カウントダウンの数字が減った。


BLサイコロ「来年のカレンダー記念日にこっそり印をつける」

 弟の部屋に早々と来年のカレンダーが飾られているのを知ったのは偶然だ。先日、夕飯だと呼んでいるのにちっとも降りてこないから、直接呼んで来いと母に言われて部屋まで行った。
 ドアを叩けばすぐにチョット待ってと返ってきたから、寝ていて気づいていないとかではないらしい。一応、開けるぞと宣言してから、内鍵などない部屋のドアを開けたら、弟は腕組みの仁王立ちで壁を睨んでいるようだった。正確には、壁ではなく、壁にかかったカレンダーをだ。
「何してんの?」
「んー、カレンダーの位置、決めてるだけ」
「いやまだ早くない?」
「そうなんだけど。でもせっかく届いたし、早く飾りたいなって」
 表紙もいいから、1月になっていきなり表紙を破って捨ててしまうのが勿体無いらしい。そもそも自分の部屋には壁掛けのカレンダーなど置いていない身としては、わざわざ好みのカレンダーを通販してまで部屋に飾る、という弟の嗜好が今ひとつわからない。でも相当真剣にカレンダーを飾る位置を悩んでいるのはわかった。わかったが、夕飯の時間だということも分かって欲しい。
「それはわかったけど、でも先に夕飯食っちゃってよ」
 夕飯後にゆっくり決めてといえば、確かにと苦笑してやっとこちらに振り向いた。
 そして今現在、弟は外出中で家に居ない。鍵の掛からないドアを開けて、ペンを片手に弟の部屋に忍び込む。カレンダーの記念日に書き込みしてやれという小さなサプライズだ。
 だって今年の夏の終わり、ふと気づいて一年経ったなって言ったら、めちゃくちゃ慌てた様子でケーキを買いに走っていった。別に記念日を祝いたいなんて気持ちで言ったわけではなかったのだけれど、それでも、兄弟で恋人だなんて関係になったことを欠片も悔いていないどころか、一周年を共に祝おうとしてくれる態度にホッとしてしまったのも事実だった。
 来年は絶対に忘れないから、また一緒にお祝いしようと言い切る弟が、頼もしくて大好きだ。でも記念日をしっかり覚えていて祝う、というのにあまり向かない性格なのも知っている。なんせ、自分の誕生日すら忘れきっている年がある。
 だからこそ、カレンダーに書き込んでおいてやろうと思った。その月になったらちゃんと気づけるように。
 けれど、目的の月の頁をめくれば、そこにはすでに印が付いていた。日付の端に付けられた小さな赤いハートに違和感はあるものの、意味がわかっていれば照れくささが半端ない。
 しばしそれを見つめてひとしきり一人で照れたあと、別の月のページを捲った。そこには何も印がない。だから用意してきたペンで、目当ての日付のマスにHappy Birthdayと書き込んだ。


これで今年の更新は最後になります。
一年間お付き合い下さりどうもありがとうございました〜
連載中の「兄は疲れ切っている」が年内にエンド付かなかったので、今の所、2日から通常通り更新していく予定でいます。

 
 
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ときめく呪い

 あれなんかおかしいぞ、という事に気づいたのは、ダンジョンの中腹あたりだったろうか。少数精鋭が行き過ぎて二人パーティーになってから数ヶ月経つが、それなりの人数で動いていた頃も含めて、彼の隣に居てこんなわけがわからない気持ちになったことなんて無い。
 少ない食料を分け合うことも、同じ水筒から水を飲むことも、ダンジョン攻略中なら当たり前だし、モンスターは当然一緒に倒すし、そこらに張り巡らされている罠だって、お互い協力しあって躱していくのが基本だ。じゃなければなんのための組んでいるのかわからない。
 なのに、彼の一挙手一投足に意識が引っ張られるような気がして、彼が自分に向かって話しかけてくれるだけでも、胸がざわついて切なくなるような不思議な気持ちになる。
「うーん……」
 人の額にでかい手を押し当てながら相手が唸る。こちらは彼の手が額に触れているというそれだけで、ドクンと鼓動が跳ねて、元々いささかぼんやりしていた頭に、更に血がのぼる感覚を自覚していた。
「顔赤い割に、熱ありそうって感じではねぇんだなぁ」
 よくわからんと言いながら額の手が外れて、長身の体が屈んで相手の顔が近づいてくる。
「ひょぇっ」
 おでこ同士がぶつかって、慌てて一歩を下がろうとしてよろめけば、おっとあぶねの呟きと共に背を支えられてしまう。それを、抱きとめられたと認識するあたり、やっぱり何かがオカシイと思うし、抱きとめられたからなんだってんだと頭では思えるのに、胸がきゅうきゅうと締め付けられる気がする。
「んー……で、お前の実感としてどうなんだよ。体調悪ぃの?」
「いやだから、最初っから体調は別に悪くないんだって。ただ、なんつーか、お前に、必要以上にひたすらトキメク」
「なんかの罠に引っかかった記憶、ねえよな?」
「うん、ないね。得体の知れないアイテムも拾ってない」
「でも症状的に魔法か呪いかってとこじゃねぇの?」
「んな症状の魔法も呪いも聞いたこと無いんだけど」
「世の中にはまだまだ俺らの知らんことはいっぱいあるだろ。あと、新しく作られたものって可能性もあるし。とすると、得体の知れない症状放置しとくのもマズいよな」
 面倒だけど一回帰るかという提案に待ったをかける。
「俺がお前にトキメイてたら気が散って戦えない、ってなら諦めるけど、そうじゃないならもーちょい進んじまおうぜ」
「お前こそ、いちいち俺にトキメイてたらきつくねぇの?」
「違和感はめちゃくちゃあるけど、まぁ別に大丈夫だとは思う」
 街に戻ってなんらかの対処をしてもう一度ここまで戻ってくる、ということを考えた時の時間的ロスも金銭的ロスもそれなりにでかい。利益重視の少数精鋭二人旅なのだから、引き時を間違ってはいけない。命の危険はなさそうだし、この症状の様子見かねてもう少し先へ進んでみたいと思った。
 症状の軽さというかアホらしさに、油断していたのだと思う。結局、その後も些細なことでトキメキまくった結果、相手の方がさすがにもう耐えきれないと言い出して、そのダンジョンを出ることになった。
 どうやら呪いだったそれは、街へ戻って解呪屋に駆け込めばあっという間に払ってもらえたけれど、問題はその後だ。
「お前、もっかいあの呪いに掛かるか、俺に惚れるかしろよ」
「バカジャネーノ」
 呪いのせいで意識されまくっていた相手が、彼にトキメキまくっていた時の姿に、どうやら相当絆されてしまったらしい。
 呪いでトキメキまくってたから、ダンジョンの中という劣悪環境で手を出されてもあの時は普通に嬉しかったんだけれど、呪いが解けた今となっては、なんてバカなことをしたんだろうの一言に尽きる。
 相手側まで引っ張るような強力な呪いではなかったから、こちらだけ気持ちが冷めたのは正直かわいそうだと思わなくもないけれど。
「バカで結構。頼むからもっかいヤラせて。すげー良かったんだって、お前の体」
 いや、かわいそうとか全然嘘だった。
「お前が、もう耐えきれないっつって戻ってきたんだろ。今更だ今更」
 こんなことを言い出すのなら、あのままトキメカせて置けばよかったのに。
「しょーがねぇだろーが。お前が掛かった何かに引きずられてお前が可愛いのか、あの時は俺自身の感情に全く自信持てなかったんだよ。あの呪いが俺の感情にまで左右してないのはわかったから、俺に惚れるの無理ならもっかい呪われろ」
 でもって可愛がらせろと本気な顔で言われて、トクンと心臓が跳ねてしまったことを、いつまで隠し通せるだろうか。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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