ここがオメガバースの世界なら11

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※ ここから受けの視点になります

 読み終えたばかりの本を再読することになって、けれど想い人の腕の中でという状況に集中しきれないし、うるっとなって胸が詰まることはあっても、さっきみたいにボロボロと涙を流すようなことにはならなかった。背後の彼がこの状況にどこまで集中できたのかは知らないが、ページを捲る手が滞ることはなかったし、呼吸もずっと安定していたようだし、つまりは泣いてる気配は欠片もなかったっから、自分だけが泣くような羽目にならずにホッとしても居る。
 最後まで読み終えた相手がパタリと本を閉じるのに合わせて、小さく安堵の息を吐いた。これでもう、ここから抜け出すことも許されるだろう。
 そう思って腰を浮かしかければ、本を脇へ放った相手の腕が、それを阻止するように腹へと回ってくる。
「ひえっ」
 抱えられたお腹や相手の胸がペタリと押し付けられた背中の熱に、驚きと緊張と羞恥とでおかしな声が出てしまった。こんなの、意識せずには居られない。
「お前さぁ、もしかして好きな相手、いんの?」
「ふぁっ!?」
 は? と声を上げたつもりが、相手の息が耳に掛かったことで焦ってしまい、またしても口からは変な声が漏れる。けれど相手はこちらの様子なんてどうでもいいらしい。
「姉貴じゃない、別の誰かに片想いでもしてる? もしかして姉貴はそれ知ってて、だからお前のことはただの腐友とか言ってんの?」
 耳の横という至近距離で語られる、想い人の声にうっとり聞き入っていられるような状況でも内容でもない。
 どうしてこうなった。まさか気持ちがバレてしまったんだろうか。いやでも「誰か」と問われているから、相手にはまだ気付かれていないかもしれない。まだごまかせるだろうか。相手が彼であることさえ知られなければいい。とにかくこの状況から抜け出すのが先決だ。
「なんで、そう、思ったの」
 焦って変な声が出てしまわないようにと、ゆっくりと声を吐き出していく。吐き出す息が少し震えてしまったけれど、それ以外は多分普通に喋れている。
「だってお前がさっき泣いてたのって、主人公が片想いに苦しんでるようなシーンだったろ。そこに泣くほど感情移入できんの、お前にもそういう相手が居るからかな、って」
 言い当てられて動揺が加速するが、一緒に読んでいた今回は泣いていないのに、どのシーンで泣いたかバレている意味がわからない。
「泣かなかった、のに」
「いやわかるって。涙は流さなかったとしても、呼吸はかなり乱れてたし。つか相手ってまさか男? だから腐男子やってんの?」
「そんなわけあるかよ」
 とっさに嘘を口走れば、どっちが、と問い返されてしまう。
「どっち、って?」
「男が好き、ってのと、だから腐男子やってる、っての」
「どっち、も」
 事実。という肝心の部分だけ口を閉ざした。男が好きだから腐男子をやってるわけではないが、男を好きにならなかったら気にかけなかったと思うし、手を出す機会もなかったジャンルではあると思う。
「じゃあ片想いしてるってのは?」
「それも」
 事実。とはやはり声に出さない。
「本気にすんぞ?」
 なんで脅されるみたいにそんなことを言われなきゃならないのかわからない。
「てかさっきからなんなの。俺のことなんてどうでもよくない?」
 もしかしたら、彼の姉以外にはっきりと片想い相手が居る、という方が安心できるのかなとは思う。恋愛感情などないという訴えを心底納得してはいなかったから、彼は昔のように自分に構って一緒にいる時間を増やしたのを知っている。
 でも想う相手がいることを、想う相手本人に告げたくなんてなかった。それが自分だなんて思うはずがないから、彼ではない誰かを想っていると誤解されるに決まっている。
 相手を追求されたくないし、無責任に応援されたくもない。いやでも可能性として一番高いのは、こちらの恋情になんて全く興味がない、という対応をされることだろうか。相手が彼の姉ではない、ということにさえ納得できたら、こちらの想いなんて彼にとっては多分どうでもいい。
 俺のことなんてどうでもよくない? と告げながらも、それを肯定されたら間違いなく辛いと思ってしまうのだからどうしようもない。
「お前に好きなやつが居るなら、さすがに手ぇ出しにくいだろ」
 はあぁぁと重いため息を盛大に吐き出してしまえば、お腹に回っていた腕の力が少しだけ強くなって、次にはそんな言葉が耳に吹き込まれてきた。

続きました→

 
 
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ここがオメガバースの世界なら10

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「あ、あぶ、あぶなっ」
「だいじょぶだいじょぶ。ちゃんと見えてたし足も無事。だからほら、ここ座って」
「ちょ無理無理無理」
 足を開いてその間に座らせようとしたら、盛大に嫌がられて笑ってしまう。笑いながらも試しに、俺たち番だろと言ってみたら、こちらの怪我を気にしながらも嫌がって藻掻いていた体がピタリと止まった。
「なんて?」
 キョトンとした顔は、まさかそんな言葉がこちらから発されるとは全く考えていなかった、という顔だ。こちらが読んでいたのもオメガバースの話だって事は、相手もわかっていたはずなのに。
「俺たち番だろ、って」
「覚えてたんだ」
 否定が返らなかったことに驚いた。ここはオメガバースの世界じゃないだとか、あんなの真に受けるなとか言われると思っていた。
「姉貴が忘れさせてくんねぇよ」
 言いながら、姉は知っていたんだろうなと思う。自ら項を差し出し噛ませたこいつの中では、今もちゃんと、自分が番として認識され続けている。
「送られてきた本がほとんどオメガバースものなのだって、俺にオメガバース知っとけって意味だろうが」
「そ、っか」
「アルファとしての振る舞いを覚えろって言われたこともあるな」
「へぇ……」
「ってわけで、お前はここな」
「なんで!?」
 再度足の間に座らせようと相手の腕を引けば、驚かれた後で話の繋がりがわからないと困惑された。
「だって番を解消されたらオメガは困るんだろ」
「もしかして、そういう脅しをかけるαが出てくる話、読んでた?」
「そう」
 肯定すれば諦めたようなため息を吐き出した後、おずおずと片足を跨いでくる。
 自分から誘っておいてなんだが、オメガバースの世界で生きるオメガは大変そうだと、足の間に腰を下ろした小さな背中を見ながら思う。番のアルファに、番なんだから言うことを聞けと言われて従わなければならない世界なんて、そりゃあ自分に不利益を運んでくる可能性が低いアルファを見つけてさっさと番になりたいと思うのも仕方がない。
 とすると、嫌がる相手に番であることをチラつかせて言うことをきかせた自分は、不利益を運んでくるアルファってことになりそうなんだけど。姉が覚えろと言ったアルファの振る舞いとして、これで正しいのかイマイチ自信がない。てかダメなやつでは?
 姉が送ってきた本に出てきたアルファの振る舞いを真似てみたのに間違いはないが、でも最後まで読んだわけじゃないし、オメガ側の視点で進む話だったからアルファが何を思ってそんな態度を取っていたかわからないし、もしかしたらそんな脅しを掛けたことを謝られる展開が待っているのかも知れない。
 ああ、うん。ありえそう。やっぱダメなんじゃんこれ。
「なぁ」
「それで、どんな話、読んでたの?」
 番だけど番じゃないのに、こんなにあっさり脅しに屈していいのかと聞きたかったし、それはダメアルファの振る舞いだって言えばよかったのに。けれどそれを告げるより先に、相手が口を挟んでくる。背中しか見えないし声音は平坦だし、どんな顔をして言っているのかわからないのがなんだか怖い。
「あー……許嫁だかでよく知りもしない相手と番にさせられたオメガが、家のためにいやいや子作りさせられて、でも自分のことを欠片も好きと思ってない相手との子供を産みたくなくて、こっそり避妊薬飲んでたらそれがバレて、その後はまだわかんね」
「なるほどね。それで、番解消されたくなかったら言うこと聞けよって、俺をここに座らせてどう思った? 番って便利って思った?」
「思わねぇよ。オメガって大変だなってのと、多分やらかしたな、って思ってた」
「やらかした、って?」
「ダメなアルファの振る舞いだろ、これ。途中までしか読んでないし、反省したアルファとハッピーエンド展開なんじゃねぇの。多分」
「だろうね」
「で、なんでお前はあっさり従ってんの」
「番解消されたくなかったから」
 番を解消したって、この世界なら本当に困ったことになるわけじゃないのに。でもきっとそれは言わないほうがいい。
「だってせっかく俺のためにオメガバース知ろうとしてくれてるのに、あっさり番解消とか言われたくはないよね。αの振る舞いを試してるっていうなら従ってみてもいいかなって思ったし、すぐにダメαの振る舞いって気づくんだから、俺は、番がお前で良かったなって思ってるよ」
 なんと返していいか迷って口を閉じたままでいれば、更に返答に困るような言葉が告げられた。しかも縮こまるようにして前かがみだった背を伸ばし、体を預けるようにそろりと背を倒してくるから驚く。
 番のオメガに甘えられている、のかも知れない。そう思ってしまったのは、番のアルファの関心を得たくて、少しでも想ってもらいたくて、あれこれと必死だったオメガの描写を読んだばかりのせいもありそうだけれど。
「ちょ、おいっ」
 妙な鼓動の跳ね方に焦って声をあげれば、クスクスと小さな笑いが胸の辺りから聞こえてきた。
「で、俺をここに座らせて、一緒に俺が読んでた本を読む、ってのは本気で実行するの?」
 上向きに振り返った相手の顔を見たら、甘えられていると言うよりはからかわれているのだと察してしまいなんだか悔しい。気づけば「する」と即答していた。

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ここがオメガバースの世界なら9

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 届いたピザを食べるために一時中断したものの、昼食後も二人揃って自室で読書にふけっている。持ち帰っていいとも言ったが、夏休み中で家には弟がいるから、出来ればここで読みたいと言われたせいだ。
 姉とのお茶会でも似たようなことをしていたから慣れているんだろう。こっちは他人の前での読書にはあまり慣れていないが、気が散るからお前はリビングで読めと追い出すのも躊躇われて受け入れた。
 自分はベッドの上で楽な姿勢を取りつつ読んでいるが、相手は勉強机に向かっているので、こちらから見えるのは背中だけだった。たまにページを捲るかすかな音が聞こえてくるが、意外と気にならないものなんだなとチラリと思ったのは、読み始めた最初の頃だったと思う。
 だんだんとこちらも手元の物語に集中していったし、途中からは相手の立てる僅かな音など、全然耳に届いていなかった。
 その集中が途切れたのは、相手がスッとその場に立ち上がった時だった。思わず顔を上げて何をするのか見てしまったが、どうやら目当ては棚にあるティッシュの箱らしい。
 背中側しか見えていなくとも、一枚引き抜いて顔に押し当てたのがわかる。まさか泣いてるのか、という驚きのまま見つめ続けてしまえば、やがて箱ごと机の上に下ろし、そこから更に一枚引き抜いて顔に押し当てる。
 ティッシュを2枚ほど消費した後またすぐに読書へと戻った彼に、声は掛けられなかった。泣くほど物語に入り込んでいるなら、邪魔はしないほうがいいだろう。それくらいの判断は出来る。
 ただ、自身の手元にある本へ視線を戻しても、先程までのように集中することも出来なかった。常に彼へと意識の半分が向いているような感覚だ。
 やがて彼が本を閉じて深く息を吐いたので、こちらも読み途中だった本を閉じてしまう。
「お前が読んでたの、なんてやつ?」
 泣くほど感動できる本のタイトルが気になって声をかければ、ハッとした様子で相手が振り向いた。目元を赤くしながらも、驚きに大きく目を瞠っている。
「ご、ごめん。なんか机向かって読んでたら、自分の部屋に居るのと勘違い、した」
 驚きの理由はそれか。
「いやべつに、そんなのはいいけど」
「そっちが良くても俺が良くないよ。恥ずかしい」
「顔は見えてなかったから安心しろ」
「でも気づいてるじゃん。それ気づいてたってことじゃん」
 あわあわと同じようなことを繰り返している相手にフハッと笑いをこぼしてから、そんなことはいいからお前が読んでた本を貸せと手を差し出す。怪我がなければささっと自分から取りに行けたのに。
 渋々といった様子で、それでも読み終えたばかりの本を持って相手が寄ってくる。
「そっちが読んでたのは? 面白かった?」
「まだ読み終わってない。途中で投げ出すほどつまらなくはないな」
 差し出された本を受け取った後で、こちらが読んでいた本を相手に差し出してやれば、相手は不思議そうな顔をした。読み終わってない本をなぜ差し出されているかわからないんだろう。
「俺は先にこれ読むから、お前は次こっち読んで」
「なんで?」
「お前がどんな感想もつのか聞いてから読んだほうが面白そうって思ったから。てかこれは何が泣くほど良かったんだよ」
「えー……その、お互い読み終わってから感想言う方が良くない?」
「何渋ってんだよ。せっかく俺が興味持ったんだから、そこはおすすめシーンとか力説してくるとこじゃねぇの?」
 泣くほど感動したんだろと確認するように聞けば、それはそうなんだけどと同意を示しつつも、まだ躊躇っている。何をそんなに躊躇うのか、なんだか余計に興味が増してしまった。
 読み終えてはいないものの、男同士の恋愛話を真面目に読み込んでいたのも良くなかったのかも知れない。
「じゃあもっかいお前も読む?」
「え? それはどういう?」
 ちょっとした悪戯心が湧いて、相手の腕を掴んで思いきり引き寄せた。小柄な体はその勢いのまま体の上に倒れ込んでくるから、怪我した足を庇いつつ相手の体を抱きとめる。

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ここがオメガバースの世界なら8

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 本を手に取るまでもなく、表紙に描かれた二人の男やらタイトルやらを見ただけで、何が届いたのかはわかってしまう。嫌な予感的中と思いながら手紙を開けば、暇が出来ただろうから読むと良いよの言葉の他、読み終えたら彼に渡すようにとも書かれていた。
 昨年までは直接本を貸していたのを知っている。貸し借りではなく、姉が一方的に貸している関係なのは、彼が家族に隠れて腐男子をしているからだそうだ。彼は電子書籍を利用していて、お茶会時に姉に携帯ごと貸し出しているのを見て驚いたことがある。他人に携帯を丸投げしていることもだけど、お茶会と言いながらも二人して黙々と読書をしていたこともだ。
 けれどまさか、姉が家を出た今も宅配で継続しているとは思わなかった。いやでも自分宛てに送ってきたことを考えると、継続中とは言えないだろうか。
 姉と彼が今現在どんな付き合い方をしているのかが気にならないではないが、それは後で本人に確認すればいいかと、とりあえず一番上の本を取り上げて裏返してみる。あらすじに目を通しながら、やっぱりオメガバースかと呆れに似た小さなため息を一つ吐いた。
 姉と彼が二人きりでお茶会などをしている現場に初めて遭遇したあの日、差し出された項に聞き齧っただけの知識で歯を立てたせいで、姉に少しはあんたもオメガバースを読んでおけと言われていたからだ。
 オメガバースという特殊な世界を扱った本を読んで、その特殊な世界への理解をある程度は深めておくべきだとか、番を持ったアルファとしての振る舞いを覚えておいた方がいいだとか主張されたのだけれど、腐仲間を増やそうとしているのがミエミエというか、彼のために腐男子を増やしたいんだろうと思って拒んできた。
 そもそもここはオメガバースなんてものは存在しない世界だし、姉の萌え話についていける程度の耐性はあっても、男同士の恋愛話なんて好んで読みたいジャンルじゃない。それを彼のためにと読んでやるほどの暇も情もなかった。
 ただ、姉が彼をあれこれ気遣うのが面白くなかった上に、親が姉と彼との交際を期待していたせいで、意固地になっていた面はあるかもしれない。自分が彼を受け入れてしまったら、姉と彼との交際待ったなしだよな、という危機感が強すぎた。
「何してんの?」
 部屋のドアが開く音のあと、玄関前に積まれていた荷物が部屋の隅に降ろされると同時に、不思議そうな声が掛かる。
「姉貴から荷物、ってかBL本が届いてる」
「え? 向こうで買った本が増えて邪魔だから、部屋の本棚にしまっといてみたいな話?」
「その発想はなかった。てか怪我して暇なら読めってさ。あと、読み終わったらお前に貸せって」
「え、俺も借りていいの?」
「そっちメインじゃねぇの。てか宅配で本貸すって話になってたわけじゃないのか?」
「トークアプリでおすすめ本のやり取りとかはしてるし、こっち戻ってくる時に貸すから買わなくていいよって言ってもらってる本もあるけど、わざわざ送ってもらったりはしてないよ。てか送料分で新しい本買いたいのが正直なとこでしょ。俺も長いこと預かってるのは怖いし、かと言って、送り返すお金は惜しいって思っちゃうし」
 純粋に暇つぶし用に送ってきたんじゃないのと笑った後、読む気がない場合はそのまま俺が借りていいのかなと聞いてくる。今までに何度か、読むように進められて絶対嫌だと返しているところを見てきた彼は、今回も読むはずがないと思っているんだろう。
「読み終えたら貸せとは書いてあるけど、お前が先に読んだって問題ないだろ。多分」
「え、読むの!?」
「まぁ怪我して暇あるのは事実だし」
「え、でも、BLだよ?」
「わかってんよ。まぁ無理して読む気はないし、最後まで読めても面白いって思えるとは思えないから、あんま期待すんなよ」
「期待?」
「姉貴みたいに一緒にキャッキャと感想言えるとは到底思えないって話」
「あー……もしかして、俺に気ぃ遣ってくれようとしてる?」
 バイト代出てるんだから気にしなくていいのにと笑う顔が、でもどことなく嬉しそうだから、やはり腐男子仲間は欲しいんだろう。
 姉が家を出て、姉と彼との間にある独特な空気感を見せつけられることが減ったのと、今回の怪我で彼に恩を感じていることで、彼のためにBL本を読んでやってもいいという情が湧いたらしい。
 確かに良い機会ではある。彼が好きなものに対して、自分の方からも少しは歩み寄ってみようか、という気持ちになっていた。

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ここがオメガバースの世界なら7

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 彼があの場に居てくれて本当によかったと思うし、隣に住む幼馴染が彼で良かったとも思う。
 ただまぁ、だからって姉をよろしくと言う気にはなれないんだけど。なんてことを思いながら、お金は預かってきたという彼に退院手続きを任せてしまったし、自宅どころか自室の中にまで付き添われて帰宅した。
 家の鍵まで預かっているなんて、どうやら今回の件で散々お世話になった結果、もともとあったうちの親からの信頼が爆上がりしているようだ。しかもしばらくは彼に家の鍵を預けっぱなしにするらしい。
 退院したからと言ってすぐに元の生活に戻れるわけじゃなく、怪我をしたのは足で、まだしばらくは杖が手放せないだろうし、姉は家を出てしまっているし、両親とも仕事が忙しく帰宅が遅いから。というのが彼に鍵を預けておく理由だそうだ。もっと簡単に言うなら、家に一人にしておくのが心配だからよろしくってやつで、正確には、引き続きバイト代わりに世話を頼んでいるからである。
 現在は夏休み真っ只中だし、日々の生活もリハビリの一貫とは言っても、杖があっては買い物もままならないので、親と彼との間で勝手に話がついているのはどうなんだと思わなくもないが、ありがたいとは思う。
 病院は時間通りに3食出てきたが、姉が家を出てしまっている今、退院後の日々の食事をどうするかは悩みどころでもあった。なんせ、自炊経験がほとんどない。一応米は炊ける、というレベルである。
 自分の体を作るのは食事だとわかっているし、食費として充分な額を与えられているので、栄養バランスなどは考えて選ぶけれど、怪我前ならば選択肢が多くあった。今は活動範囲がぐっと狭まっているので、食事面を彼に頼っていいとわかってかなりホッとしている。
 でもまぁ今日の昼食はピザを頼むと決めているんだけど。
 自分の体を作るのは食事とわかってたって、そういうものを食べたい時はある。入院生活ではとんと縁がなかった、ピザやらハンバーガーやらをめちゃくちゃ口が欲していた。
「なぁ、お前は何食べたい?」
 帰ったら速攻でピザを頼むと宣言済みだったし、ベッドに腰を下ろしてすぐに携帯を取り出し、ピザ屋のサイトへアクセスする。
「ピザ?」
「そう」
「任せるから好きなの選びなよ。あと、言っとくけど俺はお前ほどには食べないからな。頼みすぎると夕飯もピザになるぞ」
「あー、なるほど。わかった気をつける」
「じゃあ俺、ちょっと残りの荷物運んでくるから」
「ああ、うん、よろしく」
 入院生活に必要だったものを全部まとめてお持ち帰りしている。なんだかんだと結構な量だったし、こちらは杖を使っていて殆ど手伝えなかったため、自宅前まではタクシーを利用したものの、タクシーから降ろした荷物がまだ玄関先に積み上がっていた。
 食べたいピザはある程度決まっていたので、さっくり注文を済ませて、それからようやく久々の自室を堪能する。すぐに彼が戻ってくるとは思うが、慣れ親しんだ自室に一人で居ると、なんとも言えない安堵があった。
 数週間も入院してしまったが、特に片付けなどはされなかったらしく、部屋の中はあの日のままでほぼ変わりがない。ほぼ、というのは、机の上に見慣れない箱が置かれていたからだ。
 入院中に届いた荷物らしいが、親からは何も聞いていない。誰からだよと思いながら立ち上がり、これくらいの距離ならと杖は持たずにゆっくりと机に向かっていく。
 荷物の差し出し人は姉だった。姉からも特に荷物を送ったなんて連絡は無かったのに。
 なんとなく嫌な予感を抱えながら、無造作に箱を開けていく。最初に見えたのは封筒で、その下にはどうやら本が詰まっていた。

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ここがオメガバースの世界なら6

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※ ここから攻めの視点になります

 高校二年の夏の初め、試合中の怪我で入院した。
 試合会場から病院に付き添ってくれたのは試合を見に来ていた幼馴染で、隣に住む同じ年の彼とは色々あって、通う高校は違うのだけれど多分それなりに仲は良い。
 入院が決まって病室のベッドの上に落ち着く頃には部の顧問や家族への連絡は終わっていたし、慌てて駆けつけてくれた母を宥めて入院手続きへと連れて行ってもくれた。手術中は家族の付添が必要で、それも母がどうにか仕事に都合をつけてくれたけれど、退院するまでの数週間、頻繁に病室に出入りして必要なものの買い出しやら洗濯やらを請け負ってくれたのは、やはり幼馴染の彼だった。
 かなり割のいいバイトだよと笑っていたから、親が彼に頼んである程度金銭の支払いをしているようだが、生まれた時から一緒に育ってきた彼への、うちの家族からの信頼は篤い。
 この春大学に進学して家を出た姉とも二人きりでお茶会をするほど仲が良いし、それに気づいた昨年、家に誰も居ない時を狙って家に上げているなんて疚しいことがあるに違いないと親に訴えたら、親はむしろ姉と幼馴染が付き合うことを歓迎したくらいだ。
 姉には親にチクったことをその後しこたま怒られたし、彼が腐男子だということは口外禁止と強く約束させられた。口外禁止を強く約束させられたのは、なぜ姉とこっそり二人きりでお茶会を開いていたのか察しただろう親もだったけれど。
 男なのに男同士の恋愛を扱う物語を楽しんでいる、というのを、他者に知られたくない気持ちはわからなくもない。家族相手には隠すことを止めた姉だって、自覚した初期は隠していたそうだし、姉が腐女子と知っている友人もそれなりにいるようだが、知らないまま親しくしている友人知人のほうが圧倒的に多いとも聞いている。
 どうやら、姉の趣味を認めるどころか同じ趣味持ち、という点でも、親としては姉の恋人に彼を推したいらしい。正直意味がわからないと思っていた。
 姉と同じ高校へ進学したのだから頭の出来は問題ないとしても、なんだか色々とどんくさい奴だし、姉とほとんど身長が変わらないし、自分と同じ年の彼は姉からすれば二歳も年下だし、姉の隣に並んで釣り合いが取れるとはどうしても思えなかったからだ。姉の隣に立つのは、姉を守ってくれそうな頼りがいのある男じゃないと嫌だと思う。シスコン気味なのは認める。
 ただの腐友で恋愛感情はないと姉と彼の双方から明言された上に、番になる相手はお前でもいいよと項を差し出されたことで一応は引いたけれど、親にまであっさり歓迎されて、二人がそのまま恋人として付き合い出すのではと当初はかなり心配していた。
 だから姉とのお茶会に同席したり、一緒に出かけないかと誘ってみたりと、可能な限り姉と二人きりにさせないようにもしていたのだが、なんせ小学生の頃は何の打算もなく一緒に楽しく遊んでいた相手だ。中学時代に同じ部活で自分だけがさっさとレギュラー入りしてしまったことや、相手がなかなか試合に出れるレベルに到達しなかったことで、なんとなく気不味くなりこちらから疎遠にしていただけだと、一緒にいる時間が増えるにつれて思い知った。
 プレイヤーとしての才能がなかっただけで競技そのものは今も好きだと言うから、試合を見に来ないかと誘うようにもなった。これも当初は姉と引き離すのが一番の目的だったはずだ。どうしたって部活に多くの時間を取られていたから、彼が興味を示してくれたことを都合がいいとすら思っていた。
 けれど彼が本当に観戦を楽しんでいるのがわかってしまったら、姉が卒業したからと言ってもう来なくていいとは言えない。試合日程は聞かれる前に自ら教えてしまう。
 そんな感じで、昔ほど無邪気に仲良しなわけではないが、色々とあって今もそれなりに仲が良い。そして今回この入院騒ぎを経て、思っていたよりは頼りがいがあるらしいと認識を改めた。

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