オメガバースごっこ1

ここがオメガバースの世界ならの続きです。

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 お付き合い開始の了承を半ば強引にもぎ取った夜、姉から直接電話が掛かってきた。
 今までも散々、仮にここがオメガバースの世界なら番を得たアルファなのだから、という理由であれこれ口出しはされてきたけれど。まさか番ではなく恋人という形で、本当に付き合い出すとまでは思っていなかったんだろう。
 自分たちの関係について、何かを問うような連絡は初めてだったので驚く。同時に、抜きあうような関係になった事は一切知らせなかったくせに、付き合うことになったのは速攻で知らせたらしいことに、なんとも言えない気持ちになった。
 もちろん、いくらBLな内容で盛り上がる関係だったとしても、自分のエロ体験を幼馴染として育ってきた年上の女性相手に語れるわけがない彼の気持ちはわかる。エロ体験の相手が弟の自分では尚更躊躇うだろう。
 それはわかるが、エロが絡まない体験談も、どうせなら控えて欲しかった。姉からすれば身内とは言え他人事だろうし、身近なところで起こったリアルな題材に、ただただ興味と興奮を向けてくるだけに決まってる。
 ついでに言うなら、自分自身の交際をネタに姉とキャッキャとはしゃげるのだとしたら、少しばかり落ち込みそうだった。相手が腐男子で男同士のあれこれに耐性があるというか、交際申込みに不審そうな顔をしながらも比較的あっさり頷いてくれたのは、物語の中の経験を自分も体験できる的な下心混じりだとわかっているからだ。
 彼女が出来たら終わりと明言されてはいたが、誘えば抜き合いに応じてくれたし、その行為に嫌悪がないのはわかっていたし、相手からの好意をそれなりに感じていたから、押せば落ちると思っていたのは事実で、彼が腐男子であることはこちらにとっても好都合ではあったのだけれど。でも、それを速攻で腐仲間と楽しむネタにされるのは、精神的に少し堪える。
 しかも相手はあの姉だ。オメガバースの世界なら、という前提ではあっても、身内が同性の番を得た設定をあれだけ楽しんでいたのだから、リアルにお付き合いが開始されたところで反対されるとは欠片も思っていないが、あの調子でリアルの関係に口出しされてはたまらない。
 確信を持って言えることだけれど、弟の自分よりも腐仲間として可愛がっている相手の肩を持つに決まっているし、番を得たアルファ教育だったものが、スパダリとかいう超人教育に変貌してしまったらと思うと憂鬱すぎる。
『それで、決め手は何だったの?』
 交際を持ちかけたのは間違いなく自分の方で、彼がオメガではないただの男であることも理解しているし、むしろ本当には存在しない番契約では、彼を自分のそばに縛って置けないのがわかっているから恋人になった。という簡単な説明をしたあとの問いかけに、小さなため息を吐き出した。
 これを言ったら、なぜ突然付き合おうなどといい出したかの理由が、姉から彼に流れるんだろう。むしろ彼の方から、姉に理由を聞いて欲しいと頼んだ可能性さえある。
 これはきっと、そういう電話だ。
 BL本の読み過ぎで感覚がおかしくなってるのではと不安そうにしていたし、正直なところ、その可能性は自分でも完全に否定は出来ないのだけれど、それでもあの時、彼を本当の意味で自分のものにしたいと思ってしまった。番という絆で自分に縛っておくことができるオメガバースの世界を羨んだくらいに、彼を他の誰かに渡したくないと思ってしまった。
 オメガバース世界の番なら、発情期だとかフェロモンだとか本能だとかで簡単にセックスまでたどり着けるのに、なんていう下世話な発想とは違う独占欲に気づいたら、取り敢えず恋人という形で手に入れてしまおうと思うのは当然だろう。なんせ相手は浮気とか二股とかを相当気にしていると言うか、絶対に無理という態度なので、恋人にさえなってしまえばそう簡単に他の誰かに持っていかれることはない。

続きました→

 
 
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ここがオメガバースの世界なら16(終)

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※ ここから受けの視点になります

 ファーストキスという単語を聞いたことで、相手の顔が近づき唇が触れて離れたという、ただそれだけの行為が自分の中で明確に意味を持った。頬が熱くなっていくのがわかる。
 ただ、なぜ今なのかわからないし、彼がこぼした言葉の意味もわからない。
 彼女が出来たら絶対に知らせることと、彼女がいる間は応じないという2つの約束の元、互いの性器を握って扱きあうような関係になってそろそろ1年近く経つのだけど、興奮に飲まれる行為の最中でさえ口を塞いでくることはなかったのに。
「なぁ、俺ら、付き合わねぇ?」
「え……?」
 続けざまに想定外の言葉が彼の口からこぼれてきて、ちっとも考えがまとまらない。
「嫌か?」
「や、じゃない、けど」
 想い人に付き合わないかと言われて、即答で嫌だと返せるわけがないけれど、だからって即答で嬉しいと了承できるわけもなかった。だって好きだと伝えたこともなければ、好きだと言われたこともない。
 誘われるまま抜き合いに応じてはいるが、他人の手のが気持ちいいよな、程度の認識なんだろうと思っていたし、相手が次の彼女を作るまでの期間限定と思っていたし、自分自身にずっとそう言い聞かせてきた。それを覆すようないきなりの発言に、気持ちが全然追いついていない。
「けど?」
「引退待ってた女の子とか、居るんじゃないの」
「は?」
「だって、試合復帰目指して集中したいから、新しく恋人作ってなかったんだよね?」
 夏休みが終わって学校に通うようになったら、すぐに次の彼女ができると思っていたのだ。なのに学校が始まっても、部活の練習に参加するようになっても、時々誘いが掛かったから、ちょっと怪我したくらいでそこまでモテなくなるものなのか聞いたことがある。そしたら告白されても今は断ってると返されて、その理由が真剣に試合復帰を目指すからだった。
「あーそんなことも言ったな。でも引退して恋人作る気になったからお前口説いてる、ってので何の矛盾もないだろ?」
 言われてみれば確かに。
「それはそうだけど、でも、新しい恋人は、今後告白してくれる女の子から選んだほうがいいんじゃないの。というか、BL本読んでくれるようになったし、そのせいで男同士で付き合うのも普通な感覚になってんじゃないか不安なんだけど。あと、俺を番だって認識してるせいで、良いαにならないと、みたいな思い込みで言ってない?」
 ここオメガバースなんてない世界だよと言ったら、ツラツラ言葉を重ねるうちにすごく嫌そうな顔になってしまった相手から、わかってなかったらあんなこと言わないだろと返された。
「俺が本当にΩなら良かったのに、ってやつ?」
「そうだよ」
「俺が本当にΩだったら良かった理由って、聞いても良い?」
「そんなの、ここがオメガバースの世界で、お前が俺のオメガだった場合に手に入るもの全部に決まってんだろ」
「だったら尚更、俺と付き合いたい意味がわかんないよ。本当にはΩじゃない俺には与えられないものが欲しいなら、特に、結婚できたり子供作れたりが利点だと思うなら、やっぱ女の子と付き合ったほうが良くない?」
「逆だろ。ここがオメガバースの世界じゃなくて、お前が本当には俺の番のオメガじゃないのがわかってるのにお前のことが欲しいから、お前が俺のオメガなら良かったのに、って言葉が出てくんじゃねぇか」
「そ、っか」
「そーだよ。で、どうすんの」
「どうすんの、って?」
「嫌じゃないなら、俺と付き合うってことでいい?」
 BL本読みすぎて感覚おかしくなってんじゃないの、という不安は拭えていないけれど、でもここまで言われてしまったら了承してしまいたい。
 いいよと答えて頷けば、そっと顎に添えられた手によって軽く上向かせられた。
 ホッとした様子で緩んだ顔が、今度はゆっくりと近づいてくる。

<終>

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ここがオメガバースの世界なら15

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 部活の練習に参加復帰する少し前から、リハビリ混じりの自主練に彼も付き合ってくれるようになった。ただただ走ったり柔軟したり筋トレしたりの日々を抜けて、競技の感覚を取り戻していくための訓練には、経験者である彼の協力がありがたかった。
 医者には、日常生活に問題ない範囲までの回復は可能だと言われたが、競技者として活躍できるほどに回復出来るかはわからないと言われている。
 正直に言ってしまえば、怪我を理由に競技をやめる事も考えたのだけれど、活躍できるほど、というのはレギュラー陣に混じって今までと同じように試合参加するのは難しいかもしれない、という意味であって、もう競技が出来ないと言われたわけじゃない。
 どこまで復帰できるかわからないからもういいと、何の努力もせずに諦めて辞めてしまったら、競技そのものは好きだからと楽しそうに試合を見に来てくれていた彼に幻滅されそうな気がしたから。という理由がそこそこの比重を持っていることを、自覚していた。
 だから、自主練に付き合ってくれる彼が楽しげにしているのが嬉しかったし、結局試合に出られる程には回復しないまま引退を迎えてしまったことがなんとなく申し訳なかった。
「ごめん……」
「え、いきなりなんの謝罪?」
 引退後、最初に顔を合わせた時には思わず謝罪が口をついてしまったが、相手からすれば意味がわからないものだったらしい。
「夏の大会終わったから」
「あ、負けちゃったのか。え、でも、試合出てなかったんだよね?」
 試合に出られないのは確定だったので、相手はもちろん観戦には来ていなかった。
「だから、お前にも散々自主練付き合ってもらったのに、試合出られないまま引退になったから、ごめん、って」
「えー……っと、聞いても意味がわからないんだけど」
 困惑顔は本気で意味がわからないと言っているようだ。
「いやだから、俺が復帰できるようにって、お前もあんなに協力してくれてたわけだろ。なのに、結果出せなかったから」
「ああ、なるほど。いやでも謝られても困るというか、そもそもお医者さんの見立てだって強豪校で活躍できるレベルに回復するかわからないって言われてたわけだし、確かに試合復帰できたらいいよねって応援はしてたけど、その応援に応えられなかったなんて理由で謝らないでよ。それに回復が思うように進まないのも俺的にはちょっと有り難かった部分あるし」
「有り難かった?」
「あー……いやだって、俺とじゃ実力に差がありすぎだったところを、俺相手でもそこそこ形になると言うか、その、お前からしたら俺レベルに落ちたって感じだろうからあんまり喜んじゃダメだとは思ってるんだけど、でも、自主練誘ってくれたの本当に嬉しくて。それに、お前が怪我して前みたいに活躍できなくなったのを残念って思う気持ちはもちろんあるんだけど、隣に住む幼馴染としては、お前の怪我があったおかげで昔みたいにお前と一緒に遊ぶ時間が一杯出来たのも、すごく嬉しかった」
 だから謝らないでよと告げる彼は、どこか照れている様子で笑っている。嘘でもお世辞でもなく、本当に、嬉しそうだと思った。
 怪我をした後、ずっと残念だと惜しがられるばかりで、リハビリを重ねても思うように動かない体に苛立つことが多く、だからこそ、自主練に付き合ってくれる彼の楽しげな様子に救われていた部分は大きいのだけど。それをはっきりと、嬉しかった、という言葉にされたことで、抑えが効かなくなる。
「え……」
 気づいた時には相手の唇を奪った後で、目の前には呆然とこちらを見上げる彼の顔がある。
 とうとうやらかしてしまった。とは思ったが、後の祭りでしか無い。
「お前が、本当に俺のオメガなら、良かったのに」
 どうせやらかした後なので、やけくそ気味に、長いこと抱えていた想いも吐露してしまう。
「は……?」
「ファーストキス、勝手に奪ったのは、本当に、ごめん」
「ふぁーすときす……」
 単語を繰り返すようにつぶやいた後で、ようやくその事実を認識したらしい。一気に顔を赤くして狼狽える姿を、間違いなく、可愛いと感じている。

続きました→

 
 
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ここがオメガバースの世界なら14

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※ ここから攻めの視点になります

 退院初日に衝動的に手を出してから先、相手とはたまに抜き合うような妙な関係が続いている。一緒に同じBL本を読んだ結果、こいつ相手なら有りかもと思ってしまった気持ちに間違いはなく、腐男子でもなければ彼女しか居たことがない異性愛者だったはずが、彼の手で気持ちよく果てれてしまったせいだ。
 入院生活で溜まっていた、というのも絶対に大きな要素の一つだったと思うが、初回はともかく、退院してたやすく一人で処理出来る状態でも手を伸ばしてしまう程度には、相手との行為を気に入ってしまっている。
 相手も気持ちよさそうにしているし、アルファもオメガもない世界で番の機嫌を取るために嫌々言うことを聞いているとは思えないし、多分きっとそれなりに、何かしら得るものがあってこちらの誘いに乗ってくれているんだろう。
 まぁ突っ込ませろと言ったことはないし、恋人が居たことのない相手とではキスすら躊躇ってしまうし、初回にあちこち触りまくったのは嫌そうにしてたので、現状やっていることといえば互いの性器を握って扱きあうだけだから、自慰の延長程度に思っているのでも、腐男子としての好奇心で応じているのでも構わないと思っている。
 でももし姉がこの状況を知ったら、相当怒られそうだとも思っていた。さすがに相手もこんな関係になってしまったことを知らせる気はないようだし、自分から言うはずもないので、姉に怒られる日はきっと来ないけれど。ただ、確実に、後ろめたい想いはある。
 時間に余裕があったせいで、姉が送ってきた本を読み切った上、彼のオススメなどにまで手をだしているのもあって、余計に後ろめたさを感じている可能性は高い。男同士の恋愛物語をいきなり大量に摂取したせいか、自分たちの今の状況が、めちゃくちゃ中途半端に感じてしまう。
 実のところ、いっそ恋人になってしまえば良いのかも知れない。と思ったこともあるのだけれど、恋人になんてなってしまったら現状で満足できなくなりそうな予感があるというか、恋人を免罪符に今以上の行為を要求してしまいそうで、どう考えてもBL本に毒され過ぎと判断せざるを得ない。
 だいたい相手だって、こんな関係を長く続ける気はないというか、こちらに次の彼女が出来次第きっぱりさっぱり応じるのを止めると宣言されている。浮気はしたくない、という気持ちが強いようで、彼女が出来たら絶対すぐに知らせると約束していた。
 怪我の後まともに学校に行っていなかったから、学校へ行きだしたら、彼女と別れたことを知って告白してくる女子も出てくるだろう。とは彼に指摘されるまでもなく自分自身思っていたし、実際、学校が始まってから先、告白してくれた女子はいた。
 断ったけど。
 今までだって相手は選んで付き合ってきたし、恋人が居ない状態で告白をお断りするのも初めてではなかったけれど、彼とのことがなかったらOKしていた可能性はある。どちらかというと、彼のようにせっせと世話をしてくれるようなタイプは遠慮したいのに、なぜ、恋人を作って彼との関係を終えようと思えなかったのかは不思議だ。
 部活復帰はまだ難しいものの杖は外れたし、親からのバイト代だってもう出ていないのだから、ずるずると性欲処理まがいの行為につき合わせ続けるのは止めるべきだとも思うのに。
 やはりBL本に毒され過ぎなんだろうか。
 双方、ここがオメガバースの世界なら相手が番、という変な認識を持っているのも、良くないのかも知れない。
 いっそここが本当にオメガバースの世界なら。相手がオメガで自分がその番のアルファだったなら。恋人だとか恋愛感情だとかを取り敢えず脇において、発情期だとかフェロモンだとか本能だとかのせいにして、相手を抱いてしまうことが出来るのに。

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ここがオメガバースの世界なら13

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 口を閉ざしてしまえば、また項に相手の唇が落ちてくる。さすがにもう肩を跳ねるほどの驚きはないが、許容して流されていい場面ではないのもわかっている。
「待って待って待って」
「いや? やっぱ無理?」
「むりっていうか展開わかんなすぎる。なんでいきなりそんな気になってんの?」
「逆に聞くけど、お前、BL本読んで抜いたりって経験、ないの?」
「なっ……に、言って……」
 突然何を言い出してんだと思う傍ら、相手の言いたいことはわかった気もする。つまりさっき読んでた本にはエッチなシーンも含まれていたから、それで催したって意味か。
 え、マジで?
「お、経験ありそう」
「え、でも、さっきの、そんなエッチな話じゃなかった、よね?」
 本のシチュエーションを思い出しつつ彼相手の想像で抜いてしまうことはあるから、厳密には経験無しとは言えないかも知れないが、それを正直に伝えるつもりはないので、経験の有無については無視した。
 ただ、エッチ展開も物語の一部という捉え方をするせいか、エッチなシーンを目にしたからってそれで直接エッチな気分になることはあまりないし、それはさっき読んでいたものよりもっと過激なものを読んでも同じだから、異性の恋人を持てる彼が、男同士の、しかもそこまで過激でもない描写であっさり催しているのが信じられない。
「てかゲイなわけないし、腐男子ですら無い、のに?」
「あー……それは半分くらいお前のせい」
「え、なんで俺のせいなの?」
 責任転嫁酷いと言ったら、じゃあ半分の半分くらいと言い直されて割合が減ったけれど、割合の問題じゃない。
「だーから、腕ん中に俺を番と思ってる相手が居て、そいつが本の中のオメガに同調して片想い辛いって泣きそうになってたり、想いが通じてホッとしてたり、抱いて貰ってんの羨ましがってたら、なんつーか、ちょっと俺も手ぇ出してみたいつーか、試してみてもいいかな、って思ったんだよ」
 お前相手ならイケそうな気がした、らしい。
 彼女とは破局していてフリーの状態で、好きな相手が自分に興味を持ってくれている、というのは単純に嬉しかった。多分間違いなくチャンスだ、とも思う。けれど、じゃあ試していいよって言えるほど、奔放な生き方をしていない。いいよと言って進んだ先で、やっぱ男相手は無理だわ、なんて投げ出されてしまったらとも考えると怖かった。
 どうしていいかわからず、というよりもいいよと言っていいか迷って躊躇っていたら、背後から小さなため息が聞こえてくる。こちらがもたもたしているうちに気持ちが冷めたというか、諦めてしまったのかも知れない。
「なぁ、もしお前が、腐男子だからってリアルに男相手にどうこうするのは別だとか、俺の番になったのは俺を納得させるための口先だけの話だってなら、悪いけど一旦自分ち帰ってくんね?」
「え?」
「だって、さすがにお前居るのに一人で抜くのは気まずいじゃん」
「え、そこまで切羽詰まった話なの!?」
 催したと言っても、男同士であれこれ致す話を読んで試してみたくなった、というのが一番の目的かと思っていた。
「身も蓋もない話をすると、入院生活で溜まってる」
「ほんっとーに身も蓋もないな」
 いやでもそれでちょっと納得してしまったところはある。そういう状況だから、たいして過激でもない、しかも男同士の描写で催してしまったし、たまたま一緒に居たせいで試してみてもいいって気になったのか。
 相手の感覚としては、男友達とAV見てたら抜き合ってた、みたいなのに近い可能性がある。だからお前はBL本で抜いたりしないのって、最初に聞かれたんだろう。
「もうぶっちゃけて言うと、男同士抵抗ないならちょっと俺に付き合って」
「って、俺に何させたいの? それなりに知識はあるけど、お前と違って彼女も彼氏も居たこと無い完全未経験者だし、突っ込みたいとか言われても絶対無理だよ?」
「突っ込ませろなんて言わねぇわ。ちょっと触ってみたいのと、後まぁ、嫌じゃないなら手ぇ貸して。俺の握れそうなら握って」
 そんだけでいいから協力する気があるなら体こっち向けてよと、やっと、ずっと体に回っていた相手の腕が解かれた。

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ここがオメガバースの世界なら12

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 何を言われたか頭で理解するより先に、項に唇を押し当てられて身を竦めてしまう。
「ちょ、くすぐっぁあっっ」
 くすぐったいからやめろという抗議は、途中で驚きの声に変わってしまった。唇が触れていた場所に噛みつかれたせいだ。
 何の覚悟もなかったせいか、以前ほど相手に遠慮がなかったせいか、噛まれる前にその場所を唇で撫でられていたせいか。多分それらが重なって、ゾクリと肌が粟立つほどのくすぐったさに逃げ出そうともがく。このくすぐったさは何だかやばい。
 けれど相手に力で敵うはずがなかった。お腹に回っていた腕が肩を押さえに来て、前屈みになるのも許してくれない。
 強く噛まれているわけではないから痛みはないけれど、何度も繰り返されて腰に熱が集まってくる。やばいやばいと思うなか、ようやく、手を出すってつまりこういうことかと思い至ったけれど、わかったらわかったで益々混乱してしまう。
 なんで突然そんな気になったのかわからないし、だいたい相手にはちゃんと恋人が居るはずだ。試合を見に行くようになったら気付かないわけに行かなかったし、入院先にもお見舞いに来ていた。お見舞いでかち合った時に、紹介だってされたのに。
「ぁ、ぁっ、なんで」
 相手がモテるのはわかっているし、そもそも自分の気持ちに気づいたのも相手に初めて彼女が出来た時だったから、今更彼女を紹介されたくらいで落ち込みはしないのだけど、思い出したらどうしたって胸が痛い。だって恋人がいる状態で、別の相手に気軽に手を出せる男だとは思っていなかった。
 何度か彼女が変わっているのを知っているし、今回の相手ともそこまで真剣な交際ではないんだろうとは思う。でもだからって浮気をしていいはずがない。
「あーくそ、面倒クセェな」
「酷っ」
 唐突に始まった噛みつきは、そんなセリフとともに唐突に終わったが、これは勝手すぎると非難しても仕方がないと思う。
「いや、面倒くさいのはお前じゃなくて足の怪我。っつか、泣くほど嫌ならもっと本気で抵抗しろって」
 どうやら泣き出したことに気づいて止めてくれたらしい。泣かれても気にせず無理強いするような下衆ではなかったようでホッとした。
「退院してきたばっかの怪我人相手に?」
 体格差も力の差もわかりきっているうえで、しかも目の前に投げ出されている足は包帯が巻かれて固定されているのだ。もっと本気を出せと言われても困る。
「人が良すぎだろ。つかやっぱ腐男子っつってもリアルで男相手にどうこうは無理なもん?」
「腐男子以前に、浮気が無理」
「は? 浮気って?」
「お前と何かあったら、お前の彼女に申し訳ないだろ」
 病室で会ってると言えば、ようやく、彼女を紹介済みだと思い出したらしい。
「あー……あれ、な」
「わかったらこの手放せよ」
「ヤダ」
「おいっ!」
「だってもう振られてるし」
「は? ふられた?」
「まぁレギュラー落ち必至だし、部活復帰すら当分先になりそうだし、活躍できない男と付き合ってても意味ないんだろ」
「はぁ?」
「そういう相手ってわかってたから付き合ってとこあるし、気にしてねぇよ」
 それより、と一度言葉を切った相手が、またチュッと項に唇を落とした。ビクッと肩が跳ねれば、クスッと柔らかな笑いが漏れる。
「俺がフリーだったら、もっと手ぇ出しても泣いたりしねぇ?」
 彼女がいるのに、ということばかり考えていたから、そんなことを言われたって、何と返していいか全然わからなかった。

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