兄は疲れ切っている19

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 兄が起き上がる気配がして、何やってんのと戸惑い気味な声が掛かる。
「土下座」
「いやうん、そうじゃなくて。なんで土下座してんの、って」
「謝りたいから。てかどう償えばいいかわかんないから」
「えっ、と……ほんと、別に、謝って欲しかったわけじゃないんだけど……」
 顔上げなよと促されて素直に従えば、困惑しきった顔で兄がこちらを見下ろしていた。
「顔だけじゃなくて、体も起こしなって」
 苦笑されつつの言葉にも素直に従えば、兄の手が頭の上にぽんと乗せられて、くしゃくしゃっと数度頭を撫でたあとで離れていく。まるで慰められているみたいだった。
「あのさ、俺が勝手に惨めになってるだけで、お前が俺を大事に扱ってくれてたのはちゃんとわかってるから。お前に抱かれるの、嫌じゃないよ。大事に可愛がってもらって嬉しい気持ちだって、ちゃんとある。じゃなきゃ、こんなの続けてないって」
「違うんだって。そうじゃ、なくて」
 この申し訳無さをどう伝えればいいのかわからない。わからないなりに必死に言い募れば、兄はうんと一つ頷いて、こちらが言葉を探すのを待ってくれている。
「抱いてる最中に兄貴が時々泣いてるのが、ずっと嫌で、生理的な涙だとか言われても信じてなかったし、弟とこんな関係になったことが苦しいんだろうって思ってて、俺を好きで苦しいなんてこと、考えたことなかった」
「隠してたんだから当然だろ」
「うん、だから、なんで隠さなきゃならなかったのか、わかってなかったというか、嫌がるからあんまり言わなかったけど、俺の好き、全く本気にされてなかったのもやっと気づいたというか」
 抱きながら気持ちが昂ぶって、最中に可愛いと繰り返すことは多い。微妙な顔をしつつもはっきり嫌がることはないから繰り返してしまうのだけれど、嫌がられて言わなくなった言葉もある。
 嫌がられたのは、好きだ、の言葉だ。
 好きだと言うと泣きそうな顔でそんなことは言うなと返されていたから、弟に好きだと思われるのなんてやっぱり気持ちが悪いんだろうと思うと苦しくて、すぐにほとんど告げなくなった。けれど辛うじて女の代わりができるお気に入りのオモチャと思われていたのなら、あの泣きそうな顔の意味が全く違ってきてしまう。
「俺、ちゃんと兄貴のこと、好きって思ってる、よ」
 真剣に伝えたつもりだったけれど、兄は喜ぶ素振りなんて一切無しで微妙な顔をしているから、多分きっと困っている。
「ほんと、なんだけど」
「あー……嘘だ、とは思わないけど、でもそれ、俺がお前に抱かれてるからだよ」
「ど、ゆー意味?」
「気持ちよくセックスできる相手に情が湧いてるんだろ」
 お前が好きだったから抱かれた俺とは違うよと言われて、本当に、なんであの時、今までの報酬を体で払えなんて言ってしまったんだろうと思う。兄が自分を好きだなんて欠片も思ってなかったとは言え、好きだから他の人のものにならないでって必死にお願いしていたら、こんなに兄を苦しめることもなく、兄を自分のものに出来たかも知れないのに。
「俺だって、セックスする前から、好きだったよ」
「え?」
「本当だから。女とのごくごく普通な経験しかなかった俺が、初っ端からあんな丁寧にケツ穴拡げて前立腺探し当てて弄れたの、なんでだと思ってんの。疲れ切って雄っぱい貸してくれって甘えてくる兄貴がなんだか可愛くて、それで男同士のセックスのやり方調べてたからだよ」
 嘘だろって呆然と溢された声に、もう一度、本当だからと返した。

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兄は疲れ切っている18

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 あれはどう考えたってこちらが悪い。酔い潰して、意識がない体を弄って拡げて、力の差をチラつかせて、乱暴にされたくないだろと脅して、そうやってもぎ取っただけの合意だった。
「何が自業自得なんだよ。あれはどう考えたって俺が悪かっただろ」
「あーじゃあ、因果応報、とか、かも」
「いやそれも大差ないつーか、なんで、自分が悪かった、みたいなこと言うわけ?」
「それは、だって、先にお前を女扱いしたのこっちだし。散々お世話になっといて、他に女出来るからお前はもう用済みなって言ったみたいになったのも事実だし。お前が怒るのも当然だなって思ったし。俺には雄っぱいないから穴で返せってのも、まぁ、お前みたいな立派な胸ないの事実だしな」
 聞きながら、そういえばそんなようなことを言ったような気がする、というのを思い出す。
 胸デカイ女と付き合えそうだからお前はもう用済みだ、なんて言われたら面白くはないと言って、金が欲しいわけじゃないから今までの報酬を体で払えとも言ったんだった。
「つまり、お前が言ったことに何一つ反論できる要素がなかったんだから、お前を責めようがないだろ。確かに取った手段は褒められたもんじゃなかったけど、それだって、あの時お前が動かなかったら翌日には彼女出来てたかも知れないんだし、あのタイミングであの方法しかなかった、てのもわかる気がするから、その件を責めようとも思ってない」
 確かに言ったし、兄の言葉の意味が飲み込めなかったわけじゃない。だけど。
「あ、のさ……」
 口の中が乾いて嫌な感じがする。
「嫌がらせなんて言って悪かった、彼女できそうで焦っただけ、てので、俺の中では、それ言ったこと、ナシになってた……ん、だけ、ど」
 そうだ。自分の中では、それで終わったことになっていた。そうやって脅して、抱かれることを受け入れさせたのに、簡単な謝罪一つで帳消しになんてなるわけがないと、こうして兄自身から突きつけられるまで思い至らなかった。
「あの、だから、あんなのただの言いがかりというか、あの時は、あんたが諦めて抱かれる気になってくれるならなんだって良かったというか、その、酷いこと言って、本当に、ごめん」
「いや別に、怒ってないって。納得してるからお前を責める気はないって話なのに、なんで謝ってくるんだよ」
「だって、辛うじて女の代わりができるお気に入りのオモチャ、ってやつ、俺がそれ言ったからじゃないの? 胸弄られるのめちゃくちゃ嫌がるのも、もしかして、兄貴のない胸揉んだって楽しくないって、あの時俺が言ったからだったりするんじゃないの?」
 人の胸は揉みまくるくせにと不満に思っていたけれど、もしそれが事実なら、それこそ自業自得だ。
「だって実際、無い胸なんか揉んでもお前は楽しくないだろ? でも俺はお前に弄られたら、多分、胸だって感じるようになっちゃうからさ。そしたら余計惨めになるのわかってるし、そりゃ、嫌がるに決まってるだろ。本気で嫌がれば、お前、そこまでしつこくしてこないし」
「うん、だから、本当に、ゴメン。ごめんなさい」
 ずっと逃がすものかとでも言うように掴んだままだった兄の腕から手を離し、転がる兄の傍らに正座し、シーツに額を擦り付ける勢いで深々と頭を下げた。

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兄は疲れ切っている17

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 終わりになんかしないって言ったら、ああそう、と熱のない声が返されて兄がベッドを降りようとする。じゃあもう知らねって意味なのがすぐにわかって慌ててしまう。
「待って。どこ行くの」
「シャワー」
「やだ。待って」
 咄嗟に兄の腕を掴んでベッドの上に引き戻す。そう乱暴にしたつもりはないが、慌てて力が入りすぎたのか、勢い余って兄を引き倒してしまった。
 痛いと非難の声があがったのでゴメンとは言ったけれど、掴んだ腕は離せない。なのに何を言えばいいのかもわからない。終わりにしたいわけじゃないけど、今まで通りこのままでいい、とも思ってない。
「離せよ」
 黙り込むこちらに焦れたのか、兄の吐き出す声は苛立たしげだ。
「やだって」
「いい年して駄々っ子かよ。お前に終わる気ないなら、これ以上話してても無駄だ」
「無駄じゃない。てか俺が好きで、俺に抱かれて気持ちよくなるのが、なんで泣くほど惨めになるんだよ。そりゃ男同士だから抱かれるのが不本意って気持ちはあるだろうけど、一応毎回めちゃくちゃ大事に抱いてるし、実際気持ちよくなれてるわけだろ」
 何がそんなに惨めなのって聞けば、ほんとバカ、と兄の口から溢れた冷たい声が胸に刺さる。
「お前を好きだからだって、何回言わせりゃ気が済むんだよ」
「だーかーらー、俺を好きなら、丁寧に抱かれて気持ちよくして貰って、何が不満なの? 大事に可愛がられてて、嬉しいじゃなくて惨めだ、になる意味がわかんないんだって」
「だってお前が俺を可愛がって大事にするの、ベッドの中だけじゃねぇか」
「は?」
「お前は昔っからお気に入りの玩具だのは大事に扱うタイプだし、女関係どうだったかは知らないけど、俺の扱い見てたらだいたいわかるよ」
 女の抱き方をお前に仕込んだやつが居るだろと指摘された。力加減とか気の遣い方とか、と続いた言葉に、確かに自分の欲優先で好き勝手動いたら女の子なんてあっという間に離れてく、というのは実体験として知ってはいるなと思う。女の子の体の扱い方を教えてくれた子も、いなくはなかった。
 え、で、それがつまり?
 口には出さなかったものの、そう思ってしまったのが多分伝わってしまったんだろう。はぁああと吐き出される大きな溜息が、こちらまでなんだか苦しくさせる。
「つまり、俺はお前にとっちゃ、辛うじて女代わりになれるお気に入りの玩具、ぐらいの位置付けだろ。好きな相手にそんな扱いされてて、惨めじゃないわけないだろ」
「は? ちょ、なんで?」
「なんでってなんだ。これでわかんないなら、俺の惨めさなんか一生お前にゃわかんねぇよ」
「違っ、てか、辛うじて女代わりになれるお気に入りのオモチャ、って何? 確かに酔い潰して連れ込んでなし崩しに始めたし、最初にちょっと意地悪なことも言ったの覚えてるけど、嫌がらせって言った事は謝ったよな? 兄貴に彼女できそうで焦っただけだって。あんたを俺のものにしたいんだって、言っただろ。ん? あれ? 最初っから俺好きだったってさっき言ってた? よな? てことは、俺好きだったのに彼女作ろうとしてたの?」
 途中で気づいて後半は疑問符だらけになってしまったが、兄はやっぱり呆れた目でこちらを見上げている。
「お前を好きになったから、早めに彼女作らないとマズいって思ったんだよ。お前があれこれ文句言いながらも、俺に雄っぱい揉ませながらヨシヨシ慰めてくれるから、このままだと俺がお前を彼女代わりにしそうだって、早くお前から離れてやらないとって。雄っぱいねだられる生活から開放されて喜ぶだろうと思ったのに、ラブホ連れ込まれて突っ込まれることになるなんて、さすがに思いつけない」
 まぁ自業自得だと思ってるし別にお前を責める気はないけど、と自嘲気味に続いた言葉に思わずまた、なんで、と問いかけてしまった。

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兄は疲れ切っている16

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 どんな顔して言ってるのか確かめたかったのに、兄はこちらの手が離れたと同時に俯いてしまったらしく、強引に開放した視界に映ったのは兄の旋毛だった。もう一度頬を包んで上向かせようか迷ってやめる。また目隠しされるイタチごっこを想像してしまったからだ。
「顔、上げてよ」
「いやだ」
 代わりに言葉にして頼んでみたが、あっさり拒否され苦笑する。素直に顔を見せてくれるなんて思ってなかったけど、わかってたけど、あまりに素っ気なさすぎる。
「なんで? 見たい。てか、さっきの本心? それとも俺を満足させるための嘘?」
「本心だから、満足したなら、お前が、終わりにしろよ」
「えっ?」
「もう、いいだろ。それともまだ何か足りない?」
「いやちょっと、えっ? 何? 意味分かんないんだけど」
「何が未練になってんのか言えば多少は協力する。から、こんな関係にこれ以上執着すんなよ。意地で続けても、それに見合うほど善い思いなんかしてないだろ」
 俺が惨めに泣くの見て喜ぶ性癖とかはないみたいだし、なんて言われて、ますます何を言われているのかわからない。というか惨めで泣いてたという言葉にも衝撃を受けていた。
 やっぱり生理的な涙なんかじゃなかったんだ、という納得もなくはないけれど、それよりも、もう嫌だと言われれば止めると言っているのに、なんでこれ幸いとその提案に乗らなかったのか不思議で仕方がない。惨めに泣くようなことを、されていたって事なのに。
「待って。ちょ、ホント、意味わかんないから、待って」
 必死で言い募れば兄がゆっくりと顔を上げる。真っ赤な目が痛々しいと思いながら見つめてしまえば、困ったような苦笑とともに、脳筋、だなんて失礼な単語を小さく零された。本気で言われている意味がわかってないことに気づいたらしい。
 でもそれ以上の言葉が兄の口から漏れることはなかった。待って、という訴えを聞いて黙ってくれているんだろうか。でも黙られたら黙られたで、なんとなく焦る。
 じっくり考えたって、さっきの兄の言葉を理解できそうにないというのもある。だって本当に、何を言われているのかわからなかった。珍しく兄がその胸の内を明かしてくれている、ということだけは、なんとなく伝わっていたけれど。
「てか、結局兄貴は、この関係を止めたい、てことでいい、の?」
「お前の頭、割とポンコツだよな。本心で、お前が好きだって言ったはずなんだけど」
 自分からもう嫌だという気がない理由はわからないが、終わりにしようと言わせたがっているらしいのは、多分、間違っていないだろう。そう思って聞いたのに、兄はやっぱり呆れ気味だった。
「それ、俺が好きだから止める気ない、みたいに聞こえるんだけど」
 とうとう深い溜め息を吐かれてしまう。
「そういう意味で間違ってないけど」
「う、っそだろ」
「今更嘘言ってどうするよ」
「いやだってあんた、しょっちゅう泣いてるくせに。しかも生理的な涙とかやっぱ嘘っぱちで、俺に抱かれるのが惨めで泣くんだろ。なのに止める気ないってどんなマゾだよ」
「そんなの俺の勝手だろ。というか俺はいいの。問題はお前」
「なんでだよ。抱いてる時に泣かれんのも、自分でするっつったくせにフェラ最中に泣かれてたって知るのも、しかも理由が惨めだからとか、俺が、嫌なんだけど」
 俺が、という部分を強調した。兄が良くたって、自分は嫌なんだと訴えた。なのに。
「だから、嫌になったなら、ちゃんと自分で終わりにしろって言ってんだろ。俺はズルいから、だらだら曖昧にしてたらこのまま知らんぷりで付け込むぞ」
 協力してもいいって言ってる内に終わりにしなよと、まるで諭すみたいに言われたけれど、もちろんそうするなんて言えるわけがない。終わりにしたいわけじゃない。

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兄は疲れ切っている15

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 逃げるみたいに視線を合わせないまま黙り込む兄に焦れて顔を寄せる。その唇にかじりつく。
「んぅっ!?」
 驚いた様子で兄の両手の平が、押しのけるように胸を突きかける。ただ、結局は胸に手を当てられただけで、そう強い力は働かなかった。力比べで勝てるわけがないという諦めなのかも知れない。
 舌先で促せば大人しく口を開いたので、そのままたっぷりと口内をなぶっていれば、ふと、頬を挟む手が濡れる感触に気づいた。顔を離せば、直前までの深いキスで呼気は粗いものの、兄の目からはらはらと涙がこぼれ落ちている。静かな泣き顔に、またか、と思ってしまう。
 酷い真似をしているのはこちらだというのはわかっている。なのに湧き立つ感情は、申し訳無さでも憐れみでもなく、結局のところ苛立ちだった。
「泣くならさっさともう嫌だって言えばいいだろ」
 言わないならこのままもう一度抱くと告げれば、兄が濡れた目のままキッと睨みつけてくる。
「お前がっ!」
 怒鳴るみたいな強い口調に怯んだのは一瞬で、兄はすぐに勢いをなくして、また視線を伏せてしまう。待っても次の言葉はなく、じわりと溜まった涙が一粒こぼれ落ちて行くのを見ながらため息を吐いた。
「俺が、なんだよ。泣いてたらわかんないだろ」
 それでも無言で、けれど胸に当てられた手に、今度こそ突き放すための力がこもる。ぐいぐいと胸を押す力を無視すれば、すぐに諦めたようで、今度はその手が肌を這うように上に登ってくる。兄の手がたどり着いた先はこちらの目だった。目元を覆うように隠されてしまう。
「おいっ」
 兄の頬から手をどけて、目元を覆う兄の手を引き剥がせばいいだけの話なのだけれど、それもなんだか悔しくて声だけで非難を示してみる。
「なぁ、何がしたいんだよ」
「お前に見られてると、それだけで、苦しい……から」
 泣き止もうと思って、なんてことを頼りない声を揺らして告げられ、やっぱりため息がこぼれていく。こっちだって好きで泣き顔を眺めているわけじゃないのに。
「あっそ。で? 泣き止まなきゃもう嫌だすら言えないの?」
「それだけど、なんで、俺に言わせんの?」
「なんで、って?」
「お前が、始めたことなんだから、止めたいなら、お前が終わりにするべきだろ。俺に、選ばせるんじゃなくて」
 お前が嫌になったんだろという言葉を咄嗟に否定は出来なかったけれど、でもじゃあ兄は、この関係が嫌になってないとでも言うのだろうか。泣くくせに。今だって、泣いてるくせに。
「だって、仕方ないだろ。嫌だって突き放されなきゃ、離してやれない。嫌がられても、泣かれても、心が手に入らなくても。体だけでも、このまま俺のものにしてたいんだから」
 色々嫌になってるけど、でも止めたくはなかった。
「欲張りだな」
「知ってる」
「俺がお前に好きだって言ったら、それで満足すんの?」
「えっ?」
「心が手に入らないって、そういうことじゃなくて?」
「そういうこと、だけど」
「じゃあ、やるよ」
「は?」
 好きだよ、と甘ったるい声が耳に届いてドクンと心臓が跳ねる。どうせまたサービスなんだろと思うものの、信じたい気持ちもあって迷う。迷う間にも、兄が好きだと繰り返す。
「好きだよ。なんだかんだ言いながら、俺を甘やかすお前が好きだ。お前が血の繋がりのない女の子だったら、俺の方から付き合ってくれって頭下げてただろうなってくらい好き。男でも、血が繋がってなかったら、もしかしたら告白してたかもなってくらい好き。でもさすがに弟相手に手ぇ出せないだろって思ってたから、お前の方からそこ飛び越えて手ぇ出してきたの、びっくりしたけど、俺が抱かれる側になったけど、でも、嬉しい気持ちもあったから、ずるいの承知でお前に足開き続けてた」
 それくらい、ずっと、お前のことが好きだったよ。
 そう続いた声にたまらなくなって、とうとう兄の頬から手を離し、自分の目を覆う兄の手を引き剥がした。

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兄は疲れ切っている14

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「フェラなんか、無理してしなくていい、っつったよな」
 唸るように吐き出してしまった声に、兄がビクリと身を震わせる。
「むりした、わけじゃ……」
「むり、してんだろ。どう見たって」
 こんな酷い顔してと続ければ、やっぱり逃げるみたいに頭を振ろうとするけれど、もちろん逃してなんかやらない。逃げられないのがわかってか、兄はギュッと目を閉じてしまったけれど、その目の端からボロボロと涙が溢れ落ちていく。
 たまっていたものが押し出されて落ちただけじゃない。次々と頬に流れる涙は、まさに今、兄が泣いている証だった。
「なぁ、泣くほど辛いなら、……」
 もうこんな関係やめようと、言ってしまえばいいんだろう。でも手放したくなかった。
 心は後から手に入れるつもりで始めた関係で、ちっとも上手く行かなくてしんどいばっかりだけど、それでもまだ諦めきれていない。目の前で、こんなにも辛そうに泣かれているのに、開放してやれない。
 でも、だとか、だって、だとか。頭の中を言い訳めいた単語がぐるぐると回る。
 でも、だって、仕方がないだろう。もう嫌だとか、もう止めてとか、この関係を拒否する単語を兄の口から聞いたことがないんだから。
「やめん、の?」
 やめようと言えないまま押し黙ってしまったからか、閉じていた目蓋を押し上げた兄が、充血した目に涙の膜を貼ってうるませながら、か細い声を震わせ尋ねてきた。ギッと奥歯を噛み締めながら思わず睨んでしまったけれど、兄は身を竦めながらもじっとこちらを見つめている。
 止めると言って欲しいのか、止めるわけ無いと言っても良いのか判断できない、感情の見えない真っ直ぐさに少しばかり怯んでしまう。
「も、飽きた?」
 掠れて震える声がまた疑問符を付けた言葉を吐き出す。
「は?」
「それとも、持て余してる?」
「持て余す、って?」
「実の兄貴が、男に足開いて突っ込まれんのにどんどん慣れてくの、冷静に見たらどう考えたって興ざめだろ」
「いやそれ、俺がそうしたんだけど」
「うん、だから、そろそろそんな現実に嫌気がさしてきたのか、って」
 声は掠れて震えっぱなしなのに、兄の言葉は淡々と吐き出されてくる。顔は両頬を挟み込んで上げさせたままで、目は閉じられていない。けれど逸らされた視線がこちらに絡むことはなかった。
 あんたが俺に落ちない現実には結構嫌気がさしてるけど、と思いながら小さく息を吐く。
「あんたこそ、どうなの。弟に突っ込まれてアンアン言う体にされて、ぐずぐず泣くくせにもう止めてって言わないのなんで?」
「それはお前が、俺を、お前のものにしたから……」
「そりゃそう言ったけど、関係続けてなきゃ何かするって脅してもないのに、イヤイヤ従う理由なんてある?」
 本気で嫌なら本気で逃げればいい。社会人なんだから、家を出れば接点なんかあっという間に激減するのに、出ていかないし、誘えば断らないし、ラブホ代は出す。という部分だけ見れば、この関係を好意的に受け入れてるような印象になるのに、実際はサービスまみれの媚びたセックスに、不本意なのが伝わるような涙を混ぜてくる。
 そんな不満を我慢できずに突きつけてしまえば、兄が狼狽えるのがわかった。
「嫌なら嫌ってはっきり言えば、もう、開放してやってもいいけど」
 ああ、とうとう言ってしまった、と思う。言ってしまったからには、嫌だとはっきり言われたら、兄を開放してやらなければならない。
 兄の言葉を待つ間、胸が締め付けられるように痛かった。

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