追いかけて追いかけて29

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 好きだとか可愛いだとか繰り返されながら、慈しむみたいな手付きで肌の上を撫でられて、なのに体は簡単に昂ぶっていく。これが彼に、恋人に、愛される行為なのだと、巧みに意識させられ続けているからだ。
 いつの間にやら仰向けに転がされて、自らの意思で足を開いて、恋人に秘所を差し出している。薄いゴムとたっぷりのローションを纏わせた指は、欠片だってこの体を傷つけない。
 乾いた指をむりやりねじ込まれる痛みを思い出して竦んでいた体は、気持ちの準備が整うまでは入れたりしないと宣言されて、その言葉通り、ひたすらアナルとその周辺をぬるぬるな液体まみれにされて、クチュクチュと撫で突かれている間に弛緩した。むしろ早く入れて欲しいとだんだん体が焦れていたから、彼の指がようやく、想像していたよりずっと簡単にするりと体内に入り込んだ時には、いろいろな意味で安堵の吐息を漏らした。
 わきあがる羞恥も快感に変わることを教え込まれながら、小指一本の細さから焦れったいくらいにゆっくりと慣らされて、じわじわと拡げられていく。大好きな男の手によって、より深く愛されるための体に作り変えて貰う。
 彼は酷く辛抱強く、また、どこまでも優しい愛に溢れている。想像通りな気もしたし、想像以上でもあった。
 彼も既に裸なので、股間で反り立つペニスだって丸見えだったけれど、チラチラと視線を向けてしまうこちらに苦笑はしても、早く君の中に入りたいなとうっとり口にしながらも、慣らし拡げる行為を急ぐことはなかった。あまりの焦れったさと、早く入りたいの言葉に触発されて、こちらから早く入れてと頼んでも、上手に躱して宥めてこちらの言葉に流されてくれることもなかった。
 彼と恋人になるというのは、彼に愛されるというのは、こういうことなのだと身をもって知らされていく。刻み込まれていく。
 長い時間をかけてようやく彼と繋がったときも、圧迫感はあっても痛みは予想よりも遥かに少なかった。大事な恋人に痛い思いなんてさせたくないからと繰り返された、先を急ぐこちらを宥める言葉を思い出して胸が詰まる。
「いっぱい焦らしちゃったもんね。俺も、嬉しいよ」
 愛しい子とやっと繋がれたと言って、ふにゃっと崩した笑顔に胸の中で膨らんだ何かが弾ける気がした。
「すき、です」
「うん。俺も好き。やっと、言ってくれたね」
 このタイミングだなんて可愛すぎだよと笑いながら、流れてしまった涙を彼の指先が拭っていく。
「好き」
「好きだよ」
「好きです」
「俺も。すごく好き」
「だい、すき」
「ありがとう。嬉しい。愛してる」
 ふにゃふにゃと嬉しそうに笑う顔にどんどん涙腺が刺激されて、次から次へと涙があふれて止まらない。好きだ好きだとこぼすのも止められなくて、でも、どうしようという焦りも胸の中で広がっていく。
 これは一度限りの思い出になるはずの行為なのに、彼がこんな風に愛を注いだ相手が少なくとも二人いることに、バカみたいな嫉妬をしている。これから先、彼が別の誰かを愛して、その相手にもこんな風に優しく愛を刻み込むのかと思うと、やりきれない焦燥に胸が熱く焦がれていく。
 これは抱えてはいけない感情で、決して表にこぼしてはいけない想いだとわかっているのに、好きだ好きだとこぼすことを覚えてしまった体は、自覚してしまった抱えた想いを隠すことが出来なくなっていた。
「や、やだっ、も、いや、だ」
 好きだ好きだと甘ったるく繰り返しこぼしていた口から、唐突にそんな言葉を漏らされて、相手が驚き焦ったのがわかる。
「ん、なに? どうしたの? 何がいや?」
 探るようにぐっと顔を寄せて覗き込まれ、近づいた体に両腕を伸ばした。簡単に捉えた、意外と筋肉のついた細い体をぎゅうと抱きしめ、逃げるようになけなしの腹筋に力を込めて、その胸元に顔を寄せて隠す。
「ぅ゛う゛っっ」
「ちょっ、無茶しないで」
 強引に動いたせいか、繋がった場所の圧迫感の変動に小さく呻けば、焦った声とともに少しばかり浮いた背中に彼の腕が回されて、宥めるみたいに何度も背を撫でられた。

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追いかけて追いかけて28

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 それなら恋人として触れるし、たくさん好きって言っちゃうよと続いた言葉にも同じように頷いて見せれば、さっそく甘ったるく名前を呼ばれて好きだと囁かれる。宥めるみたいに頭を撫でてくれていた手が、そのままするりと首筋を下りて来て、肩と腕をゆるりと何度も撫でさする。同時に、項やら耳の裏やらに繰り返し唇が落ちて、ただ柔らかに唇を押し付けられるだけのキスに、やっぱり穏やかな快感が広がっていく。
「これが、恋人?」
 ただただ優しい接触には、性的な匂いがあまりない。思わず尋ねてしまったのは、まさかこのまま好きだの可愛いだの言いまくったら、相手は満足して終わるのではと思ったせいだ。
「そうだけど。だって恋人が泣いてるのを放っては置けないよ」
「泣かないで、とも、どうして泣くの、とも、言わないから、まさか泣いてるの慰められてるって、わからないです、よ」
「結果として、こうして話せるくらい落ち着いてくれたんだから、なんの問題もないけど」
 泣いてる理由多分わかってるし、何で泣いてるのなんて聞いたらもっと泣かせちゃうだけでしょと続けながら、肩と腕を撫でていた手が胸側に回ってくる。
「落ち着いたなら、耳以外のキモチイイとこも、探させてね。あと、照れて素直に言えないのもそれはそれで可愛いんけど、できればあんまり遠回しじゃなく、君の好きも伝えてほしいかな」
 本当は君の声ではっきり好きだって言われてみたいと言われて、抱える好意は認めてきたし好意はあるという言い方はしてきたが、好きですと伝えたことはないのだと気付いた。それくらいならすぐにでも叶えてあげられそうだ。そう、思ったのに。
「いいよ、無理しなくて。言おうとしてくれただけで、十分嬉しいから」
「いやその、無理とかじゃ、なくて……」
 好きですのたった四文字を、音にして相手に伝えることがこんなに難しいなんて思わなかった。たくさん好きって言うよと宣言済みの相手からは、すでに何度も繰り返されているのに。
 あなたが好きです。ちゃんと好きです。こんなに好きですって、はっきりと言葉で伝えたいと思うほどに、むずむずとした恥ずかしさが込み上げてしまって口から出すのを阻んでくる。
「意識したら余計に恥ずかしくなった?」
「それは、はい……」
「耳まで真っ赤だもんね」
 ふふっと笑う吐息が耳に掛かって、なんだかますます恥ずかしい上に、じわっとそこに熱がたまる気がした。
「ほんと、嬉しいよ」
「えっ?」
「意識して貰えるのが。俺に好きって言おうって、思って貰えたのが。結局言えなくて、照れちゃうとこもね。さっきまでは見せてもらえなかった姿だから」
 こうして触れてる間にももっと好きになるよなんて楽しげに言われながら、弄られて反応したらしい胸の先を摘ままれ息を呑む。
「可愛い反応だね。俺を好きって意識して、感度上がってるかな?」
「わ、わか、っな」
「何度だって好きって言うから、もっともっと、俺を好きって意識してね。俺たちが今、恋人同士なんだってことも、君は今、大好きな恋人に抱かれようとしてるんだってことも、うんと意識するといい」
「ぁ、ぁあっ……」
 わかってたつもりなのに、言葉にされて初めて、この状況への理解が追いついてくる気がした。背中から伝わる熱も、じわじわと快感を煽ってくる手も、優しい口調で話しかけてくれる声も。自分が知ってる彼のものであると当時に、大好きな恋人のものなんだって、頭が理解して体が反応を返す。キモチイイと言うよりはじんわりとした痛みを軽く感じる程度だった胸の先が、じれったく疼くような快感を生みはじめる。

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追いかけて追いかけて27

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 たどたどしくも何が怖いかを伝えれば、相手からはやっぱり、わかってるよと返ってきた。傷つけたいとも悲しませたいとも思ってないことはわかっているのに、いちいち心揺らされて落ち込んでてゴメンねと、逆に謝られる始末だった。謝られたかったわけじゃないのに。また、余計なことを言ったのかもしれない。
「俺もう、話、しないほうが良くないですか?」
「なんで?」
「なんで、って……」
「俺は、聞きたいけどね。君の、本音」
「でも、その結果、あなた平静じゃ居られなくて、こんななのに」
「落ち込んで君の背中に張り付いてる俺に、幻滅しちゃう?」
「幻滅、は、しませんけど。でも、どうしたらいいかわからない、から」
「しないんだ」
 くすっと笑う気配のあと、ならもう少しだけ待ってという言葉が続いた。こうしている間にも、彼の中ではなにがしかの気持ちの切り替えが行われているらしい。だったら尚更、少し黙ってたほうが良さそうなものだけど。でもこちらが黙り込むのを阻むように、彼の方から話しかけてくる。
「さっき、罪悪感につけこむよって言ったの、さすがに覚えてるよね」
「はい」
「狡く悪く立ち回って、君に気づかせないまま、俺の好きなようにしていい。って君が言った事は? 覚えてる?」
「えっと、はい」
「嘘。忘れてたろ」
 確かに忘却の彼方ではあったけれど、言われてすぐに思い出せるくらいには新しい記憶だ。というかそれをわざわざ今言うってことは、彼にとってはこれも、罪悪感につけ込んでこちらに気づかせないまま、彼に都合よく展開された結果だってことなんだろうか。
 こちらが気に病まないようにという気遣いという可能性のが高そうで、そんなのにわかに信じられないんだけど。
「あなたが落ち込んでるの、演技には見えないんですけど」
「演技なわけ無いだろ」
 呆れた様子で否定された後、そういう話じゃなくてと彼の言葉が続いていく。
「俺が君のひどい仕打ちに打ちのめされて、気持ち揺らされて落ち込んで、こんな状態になってても君が大人しく腕の中に居てくれて、しかも気持ち悪いとも思わず、幻滅もしないって言い切ってくれるのはなんでだろうね。って話」
「悪い大人が罪悪感につけこんで、あなたを突き放せないように変えた、とか?」
「そうだよ。って言ったら信じられる?」
「いいえ」
「だよね。俺も信じない。というか自覚ない」
 はぁああと大きな溜め息が首筋に掛かって熱い。
「こんなにこんなに想われてるのに、俺が女性とも恋愛できるっていうその一点だけで、君と恋人になる未来を閉ざされてるかもなんて、あまりに不条理」
 気持ちに整理つけて諦めたくなんかないよねとぼやきながら、熱い息が掛かった項にそのまま彼の唇が押し当てられるのを感じた。触れられたところを起点に、サワワッと穏やかな快感が肌の上を広がっていく。
「でも君の言い分も一応は理解できるし、きっと強引に納得させて付き合ってもすぐに逃げられちゃうんだろうという予測もつくし、ここは諦めて手を引くのが得策だってのも、わかっちゃうんだよね」
 あーあ、とやっぱりぼやくような息が、背中から心臓を突き抜けてくるみたいで痛い。少しでも痛みを和らげようと、胸元を押さえて背を丸めようとて、相手の腕に阻まれた。そうだ。後ろから抱きかかえられているんだった。
 どうしたらいいのかわからなくて、代わりにギュッときつく目を閉じる。背中を向けているのに何を感じ取ったのか、宥めるみたいに頭を撫でられてじわっと閉じた瞼の隙間に涙が滲んでしまう。泣きたいのはきっと彼の方なのに。そう思うほどに、胸が苦しい。
「さっき、ここにいる間は恋人になってもいいって言ったのは、本気?」
 泣いてしまうのを耐えるように歯を食いしばっていたから、ハイと答える代わりに必死に首を縦に振った。

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追いかけて追いかけて26

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 バスルームの床に蹲った相手にちょっと放っておいて欲しいなんて言われた所で、わかりましたと出ていけるはずがない。また水浴びなんてされたらたまらない。
「気持ちの切り替えに俺が邪魔なら、あなたがもういいよって呼んでくれるまで、どっか、トイレとか脱衣所とか部屋の隅っこで、待ってますから。もう、こっから出ましょうよ」
 ほら立ってと腕を引いても、見下ろす頭がふるふると嫌がるように振られるだけだった。
「俺が悪かったなら謝りますし、さっきの話がまだ有効なら、ここにいる間は恋人になってもいいですから」
 掴んでいた腕がピクリと反応したので、とにかく部屋戻りましょうと声を掛けながら、再度相手の腕を引く。今度は渋々ながら立ち上がってくれたので、急いで手を引き脱衣所へ連れて行った。
 バスタオルを差し出しても受け取らない相手の体を拭いてやる間も、相手は沈んだ顔でなすがままだったけれど、それでもあらかた拭き終わった所でバスタオルを奪い、お返しとばかりにこちらの濡れた体を拭いてくれる手付きは丁寧だ。
「髪、乾かすから座って」
「え、でも」
「いいから。放って置いてくれないなら、黙って従って」
 怒っている口調ではなかったけれど、有無を言わさない強さにそれ以上逆らう気はない。言葉通りに黙って従い髪を乾かされながら、鏡越しに観察してしまう相手は、やっぱり何かを考え込んで浮かない顔をしている。それでも、髪を乾かしてくれる手付きはずっと優しかった。
 結局その後、やっぱり有無を言わさない口調で交代を言い渡されて相手の髪を乾かしたし、それが終われば相手主導でベッドがあるメインルームへ連れて行かれる。
 ちなみに、髪を乾かしている間はそれぞれバスタオルを腰に巻いていたのに、脱衣所を出るときに剥ぎ取られて互いに真っ裸なのだが、そこに言及する隙はなかった。自分が使っていた部屋着はビチョビチョのままバスルームに脱ぎ捨ててあるが、もう片方は脱衣かごに畳まれて置かれている。ただ、どう考えても相手用のそれを自分が着たいとは言い出せなかったし、相手に着られて自分だけ裸というのはもっと嫌だから、だったら双方全裸を受け入れるほうがマシという感じだ。
「ベッドの中入って。で、背中、こっち向けて」
 背中を向けろってどういうことだとは思ったものの、黙って言われた通りに従えば、同じようにベッドの中に入ってきた相手に背後から抱きしめられてびっくりした。
「今、どんな気分?」
 思いっきり体をこわばらせれば、背後から淡々とした声が問うてくる。耳を掠る声にピクリとわずかに身を竦ませてしまったが、相手がそれに何がしかの反応を示すことはなかった。
 なんだか少し、悲しくなった。
「緊張はしてるよね。俺が怖い? 裸で抱きかかえられて、気持ち悪くはない?」
 少しだけ柔らかになった声が、問いを重ねてくる。気持ち悪さは欠片もないが、怖いと思う気持ちはきっとなくはない。
「正直に言っていいよ。怒らないから」
 そう言ってから何か思い当たった様子で、今も別に怒ってるわけじゃないよと付け足された。それは口調からも気配からも感じている。
 わかってはいるのだ。傷つけたいとも悲しませたいとも思っていないのに、自分の言動が彼を傷つけ悲しませている。
「気持ち悪くは、ない、です」
「そう。まぁ、黙って従えなんて言っといて、怖がるなとは言えないよね」
「あ、いえ。そういう怖さじゃなく、て」
 本気で嫌がるような酷いことはされないと、やっぱり信じ切っている。間違いなく、さっき一度は本気で怒った様子を見せたのに、その怒りすら飲み込んでこちらに当たるような真似は一切しなかった人だ。彼がそうしろと望むなら、このまま黙って従い続けたって構わないと思う気持ちもある。
 怖いのは、彼が自分に何かをすることではなくて、自分が彼にしてしまうことに対してだった。
 自分の不用意な言動が、自分自身の信念が、相手を傷つけ悲しませている現状をこうまで見せつけられているのに、きっと自分はこの後も、彼に譲ることも折れることも出来ない。正直に気持ちを晒すほど、彼はこちらへの理解を示しながらも、絶望を濃くしていくことになるんだろう。

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追いかけて追いかけて25

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 こちらの怯えを察知したらしく、わざわざ顔を横向けて数度深い呼吸を繰り返した後、再度向き合った彼はなんとも複雑な表情を見せている。
「俺に何かされることへの嫌悪感はなくても、男同士で付き合うことへの偏見や嫌悪感はあるって言ってたはずだけど」
「今もありますよ。偏見というか、普通ではない、という認識が。それと、自分自身への嫌悪感」
「自分へ向かう嫌悪?」
「女性も愛せるあなたに、恋人になってって言わせてる嫌悪感ですよ。罪悪感でもいいです」
 彼を本気で怒らせたのだとしても、こっちだってそう簡単に譲れない気持ちがある。
「どちらかが女性だったなら必要のない感情を抱えてしまう。っていうのは、言い換えれば、男同士で付き合うことへの偏見と嫌悪感です」
 自分が彼に恋していなければ、それを教授が彼に話していなければ、あの日、恋人になってみるかなんて言葉が冗談でも彼の口から漏れることはなかったと知っている。彼への想いを隠すことなく誘われるまま出かけた結果が、あの日の彼の告白なんだとわかっている。
 自分が彼を想うせいで、という罪悪感と自身への嫌悪は既にもう、ある程度抱えてしまっているのだ。人の目は気にならなくても、自分の想いのせいで男同士で恋人という関係を彼が選ぶという事象に、罪悪感と嫌悪感を膨らませて行くことだって容易に想像がつく。きっとすぐに耐えられなくなる。逃げてしまう。
 だったら最初から恋人になんてならないほうがいいと考えてしまうのは、結果二人共が負わなくていい傷を負うんじゃないかと恐れてしまうのは、自分の恋愛経験の低さのせいだという可能性はある。短な期間だとしても、たとえ傷付き合っても、恋人になって良かったって思うことが、もしかしたら自分が思うよりたくさんあるのかもしれない。
 そこまで考えたら、ふと、ここにいる間だけ恋人になって、という先程の彼の言葉を思い出してしまった。
 今、こうやって一度だけってわかっていながら彼と触れ合おうとしているのは、後悔や苦痛よりも得られる幸せが多いだろうという判断をしたせいだ。確かに、区切られた時間の中での恋人なら、その間だけ目一杯楽しむということが考えられそうだった。ここにいる間だけなら、すぐに耐えられなくなって逃げてしまったら彼を傷つけるんじゃないか、なんて心配も必要がない。
 その後すぐに世間体の話になって彼を怒らせてしまったけれど、その話はまだ有効だろうか?
 思考に落ちていた意識を彼に向ければ、彼は依然複雑な表情のまま、同じように何かを考えているようだった。
「あのさ、」
 声をかけるべきか迷った一瞬で、こちらの視線に気づいた相手が先に口を開く。
「はい」
「例えばの話、俺が男しか愛せないゲイだったら、もしかして付き合ってた?」
「ああ、はい。そう、ですね。もしあなたがゲイだったなら、試しに付き合ってみるかって話に、喜んで飛びついてた可能性はあります」
「それ、……」
 唖然とした様子で、去年の学食での話かと確かめられて頷けば、がっくりと項垂れた相手がずるずるとその場にしゃがみこんでしまった。

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追いかけて追いかけて24

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 選択肢なんてないまま肯定を返せば、相手はそれじゃあと言って口を開く。
「恋人になって」
「えっ?」
 全く予想外の言葉に呆然となって、思わず相手の顔を確かめてしまう。どんな顔でそんなことを言ったのか気になった。
 じっとこちらを見ていた相手は本気かと聞くのも憚られるくらい真剣な顔をしているから、頭の中ではぐるぐると、なんと答えればいいかを探してしまう。
 だって本当に意味がわからないというか、お腹の中を洗うよって話をしてたはずなのに。恋人にもセフレにもならないって言って、最後に一回だけ触れ合おうって話でここに来たはずなのに。
「即答できないくらいには、迷って貰えてるのかな」
「いえ、恋人には、」
 状況が飲み込めないだけで、彼と恋人になることを迷っているわけじゃない。慌てて恋人にはなれないと言おうとしたら、遮るみたいに相手も口を開く。
「うん。わかってる。でもここにいる間だけ、恋人にならせてよ」
「ここに、いる間……」
「そう。俺との恋人関係を拒否するのは、世間体を気にするから、だろ?」
「世間体?」
 そういえば、人からどんな風に思われるか、見られるか、みたいなことを気にしたことはなかった。それを気にしてたら、本人にも周りにも、もう少しちゃんと想いを隠すなりしていただろう。教授に恋をしているみたいだと言われて、腑に落ちたなどと納得してる場合じゃない。
 しっかり否定もせず気持ちを本人にも周りにもダダ漏れさせた結果が、本人からの告白だったり、後輩からのレイプ未遂だったりに繋がっているのに、世間の目が怖くてなんて、どの口が言うんだって感じだと思うんだけど。さすがに今更感が酷い。
「違うの?」
「あーいや、まぁ、違いません。多分」
 それでもはっきり違うと言えないのは、男女の恋人が当たり前だって思っていることや、だから女性も恋愛対象になるなら女性を選ぶべきだと思っていることなどは、突き詰めれば世間体が気になるってことに繋がっていないとは言えない気もするからだ。当たり前から外れた生き方はなにかと大変だろうって気持ちは確かにある。
「多分?」
 眉間に少しシワを寄せ、低めの声で聞き返されて、思いっきり疑問を持たれてしまったと思う。これは間違いなく追求される。
「もうちょっと詳しく話して」
 ほらやっぱり。そう思いながらも、諦めて口を開いた。
「えと、その、俺自身がどう思われるかはあんま関係ないから、世間体とかはっきり意識したことなかったって、だけです。けど、あなたが世間からどう見られるかは確かに気になるから、世間体を気にして恋人になれないってのは、当たってます」
「は? 俺?」
「そ、です」
「俺から誘ってるのに、俺がどう思われるかを、君の方が気にするの?」
「どう思われるか気にするってより、当たり前ができる人なんだから、俺なんかを相手にしてないで、当たり前を進んでって欲しいんですよ。当たり前を進むってのが、俺の中では世間体を守ることと同義だから、世間体が気になってあなたとは付き合えない、です」
「当たり前って、何? どんなこと?」
「それは、女性とお付き合いして、結婚して、子供作って、みたいな人生?」
「つまり、君が俺との交際を拒否すれば、俺が他の女性と交際を始めるはずだ、みたいなことを考えているわけ?」
 どんどんと低くなる声と、険しくなる瞳に、ぶるりと体が震えてしまう。こんな彼は知らない。今度こそ間違いなく怒らせたのだと悟って、血の気が引く思いがした。

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