いつか、恩返し12

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 ぁっ、と小さな声を上げて、それから恥ずかしそうに赤くなった目元を伏せる姿が、なんだか可愛いなと思う。けれど目の前で自分に組み敷かれている男を、可愛いと思ってしまった事実に、動揺してもいた。
 さっきは焦っている姿を見て珍しいと思ったけれど、照れて恥ずかしそうにする姿だってやっぱりそれなりに珍しい。常に自分の上を行く彼の、自信に満ち溢れた姿や穏やかな笑顔ばかり見てきたから、余裕のない彼の姿というのが珍しいのだ。
 しかもそこには、相手の余裕を奪っているのは自分だ、という優越感が間違いなくあるはずだった。
 かつては何一つ敵わないと思わされるような強者で、ライバルで、散々自分を打ちのめしてきた男が、こんな自分を好きだと言って、健気にいじらしく体を拓き、余裕のない姿を晒している。そんな彼への優越感や憐憫が、可愛いなんて単語を頭の中に浮かばせている可能性を、考えずにいられない。
 だって、かわいそうだとか、ふびんだとか、小さく弱いものへ心惹かれる気持ちを、可愛いとあらわす。という事を、知識として持ってしまっている。
 申し訳ない気持ちを隠すみたいに、再度胸の先に頭を寄せれば、今度はもう、制止の声は上がらなかった。代わりに、若干戸惑いの滲む甘い声が、次々と鼓膜を震わせる。
「ぁ、ぁっ、ぁあ」
 やがてその声がとろけだし、じっとしていられないとでも言うように、もぞもぞと下半身が揺れ出した。まるで、早くと急かされているようだ。
 身を起こして探るように腰を前後させても、痛がる様子はほとんどない。そのまま、先程散々いじって確かめた中のイイ所に、なるべく触れるようにと考えながら腰を降る。
「あっ、そこっ、あぁっ」
「ん、ここ、な」
「ゃっ、あっ、そこ、はっ」
「きもちぃとこ、当たってる?」
「あ、ぅん、ぁ、でもっ、ぁっ、やっ、やぁっ」
 どうやらペニスでもイイ所を刺激することは可能なようだが、加減がどうにも難しい。
「ん、ごめっ、これくらい? どぅ? いい?」
「ん、っぅん、いいっ、それ、きもちぃっ」
 どうにか一緒に気持ちよくなろうとしている、こちらの気持ちにより沿ってくれているのだ、というのはわかっている。それでも、どうすれば気持ちがいいのかを教えるように自ら晒して、はしたなく気持ちがいいと喘いで、まるで余裕のない様子で必死に快感を拾い集めている相手が、どうしようもなく可愛らしい。憐れで、健気で、愛おしいと思う。
 そのくせ、そんな風に思ってしまう自分に、彼にそんな真似をさせてしまう自分に、腹を立ててもいた。うっかり可愛いとこぼしそうになるのを、必死でこらえても居た。
 申し訳なさや憤りが募るほど、せめて相手も気持ちの良い思いをして欲しい、という気持ちがますます強くなって、酷い悪循環だと思った。けれどもう、止まることも戻ることも出来そうにない。
 結果、気持ちがいいならとヤダとかヤメての言葉を一部無視してしまったし、少々しつこく前立腺を責めすぎてしまったかもしれないし、強すぎる刺激に耐えきれず、快感に泣き濡れる顔まで見てしまった。
 間違いなく二人ともが気持ちよくはなれたが、やりすぎたのは明白だ。果てて冷静になった今、余韻を堪能する余裕などはなく、ざっと血の気が失せていく感覚に襲われていた。

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いつか、恩返し11

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「先っぽ入ったけど、このまま奥まで入ってみても平気そう?」
「ん、いい、よ」
 頷かれるのを待って、相手の足を抱え上げた。それを更に持ち上げるようにして、ゆっくり体重を掛けて行けば、ぬぷぷとペニスが飲み込まれていく。
 自分の下で、従兄弟が首まで赤くしながら、ふぅふぅと荒い息を繰り返している。辛そうな顔だと思ったが、腰を止めて様子を窺えば、大丈夫と言いながら笑って見せる。どうしたってむりやり作ったとしか思えない笑顔に、きゅっと胸が締めつけられる気がした。
 健気、だとか、いじらしい、だとか。そんな単語が頭の中をまわる。
 なんでそこまで自分を想ってくれるのかわからなくて、でも、嘘でもからかわれているのでも好奇心でもなく、彼に想われている事だけは、確かに伝わっていた。
 こんな彼を抱きしめてキスしてやりたい気持ちは、きっと好奇心なんかではない。ただ、でも、それが恋情なのかは、やっぱりわからなかった。だから、こんな曖昧な気持ちによる衝動で、抱きしめてキスしてしまっていいのかも、実のところよくわからない。
 けれど同じ想いなど求めず、好奇心でいいと言い切る彼にしてみれば、こちらの感情がなんであれ、しないよりはしてくれた方が嬉しい、と思うだろうこともわかっていた。とはいえ、この中途半端な挿入状態では、抱きしめるのもキスするのも難しい。
「痛めつけたいわけじゃないんだから、あんま無理はすんなよ」
 まずはしっかり繋がってしまえと、それだけ伝えて更に体重を掛けていく。相手はやっぱり苦しげな息を繰り返していたけれど、痛いとも辛いとも止まってくれとも言わないので、そのまま互いの肌がぴたりとくっつき合うまで押し込んでしまう。
「はい、った?」
「入った」
「ど? きもち、ぃ?」
 気持ちいいよと返せば、ホッとした様子で良かったと笑われて、またしても胸がきゅっとなる。相手は気持ちよくなんてないだろうと思うから、余計に胸が締め付けられる気がする。
「もちょっと、待て、る?」
 馴染むまでもう少し待って欲しい、ということらしい。当然、そのつもりでいた。
 ああと頷いて、それからようやく、なるべくゆっくり体を前傾させていく。相手の体の負担がよくわからないから、動作はきっと極力ゆっくりな方がいいだろう、という判断だった。
 おかげで、こちらを見上げる相手の顔が何をする気だと訝しげなものへ変わるのも、途中でこちらの意図を察したらしくじわっと驚きへ変わって行くのも、全て見てしまった。唇が触れる少し前、期待を混ぜた瞳が泣きそうに潤んでいたことさえも。
 キスはもう何度も繰り返している。相手の口内の弱い場所だって知っている。ちゅっちゅと何度も唇を吸って、招くように開かれた隙間に舌を差し入れて、感じる場所を擽ってやれば、甘い吐息を漏らしながらキュッキュとペニスを締め付けてくる。
 キスをしながら相手の胸に手を這わせ、小さな膨らみを捉えて指先で捏ねれば、ビクビクっと相手の体が跳ねた。抜きあう時にもたまに弄ってみたりはしていたが、こんな反応は初めてだ。もちろん、繋がる場所もきゅうきゅうと収縮を繰り返している。
「すごいな。今日は、胸も感じてる」
「ぁ、ゃっ、なん、で」
「なんでだろ? 俺も知りたい」
 指でこの反応なら、舐めたらどうなるんだろう。そんな衝動のままそこへ顔を寄せていけば、ダメっという声が耳に届く。
「なんで? 舐められるの、いや?」
「いや、っていう、か」
「舐めたらもっと気持ちよくなれそう」
「え、お前、が?」
 そうだと言ったら間違いなく、じゃあ舐めていいよって言われるんだろう。胸の奥が甘く疼いて仕方がない。
「お前も俺も、だよ。お前が気持ちよくなったら、俺も気持ちぃ。お前が気持ちぃとここがキュッキュってなる」
 ここ、と言いながら彼の中に埋まったペニスを意識させるように、軽く腰を揺すってやった。

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いつか、恩返し10

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 多分、穴だけ差し出してこちらが気持ちよくなるだけだって、彼にとっては充分に満足する、好きな子とのセックスだ。こちらが抱かれる側になったって、こちらの快楽優先で抱いてくれる気でいるだろう。それは先程の会話からも明確だった。
 でもごっこだろうと、こちらにはっきりと恋愛感情だと言えるような想いがなかろうと、自分たちは恋人なのだ。今しているのは恋人同士のセックスだ。
「ごっこだろうとフリだとうと、恋人には違いないんだし、」
「ああ、うん。そうだね。わかった。いいよ」
 こちらの言葉を遮るように口を開いた相手は、続けてと先を促してくる。
「でも、さすがに前立腺いじめ抜かれる、みたいなの想定外だから、加減はしてよ。そんなとこ、自分で弄ったことなくて、自分がどうなるかわからないのは、ちょっと不安なのも、知っといて」
 なるほど、そういう理由で躊躇ったのか。
「ん、わかった。お前にしんどい思いさせたいわけじゃないし、いじめ抜く、なんて考えてない」
「ホントかよ。中弄られて感じる俺が面白くってやりすぎた、とか、ありそうで怖い」
「しないって。多分」
 多分は絶対に余計だった。相手はやっぱり諦めのにじむ呆れた息を吐きながら、ホント頼むよと念を押して、それから続きを待つように口を閉じた。
 釘を差されているので、そこばかりをしつこく弄ってしまわないように気をつけながら、指で中を探る行為を再開する。
「ぁっ…………ぁ、……ぁあ……」
 指先の動きに釣られるように、甘やかな吐息がゆるりゆるりと溢れでるのは確かに楽しい。
「ん、ぁっ、あぁっ」
 少し激しく動かせば、声も体もちゃんと大きな反応を返してくるのだって、楽しい。
 指を増やして拡げる動きに変えても辛そうな様子はなく、指の動きに合わせて甘い声を零すのも、体を震わせ腰が揺れるのも変わらなかったが、放射状に寄る皺が伸びてぐちゅぐちゅと濡れた音を立てる穴の卑猥さは格段に上がったと思う。
 ここに自分のペニスを入れて、現在指で感じている圧と蠢きを今度はペニスで感じるのだと思うほどに、興奮が増していく。
「な、も、じらさない、で」
 その声にハッとして、思わず指の動きを止めてしまった。耐えられなくなったら、その言葉で先を誘ってくれと言ったことは覚えている。
 でもどう見ても、もう耐えられなくてというより、こちらの興奮を読み取っての誘いだろうと思った。
 まぁ、相手の余裕を奪うような弄り方はせずにいられた、という意味でなら、安堵しておくべき場面かも知れないけれど。
「なぁ、も、いいだろ。も、入るよ、多分」
 だから挿れてと誘う相手に、そうだなと返しながら、埋めていた指をゆっくりと抜いていく。そしてその指が抜けた穴に、今度はペニスの先端を押し当てた。
「挿れる」
 そんな短い宣言には、うん、と小さな頷きが一つ返っただけだったけれど、さすがにもうそれ以上の言葉は不要だ。
 ぐっと腰を押し出すのに合わせて、尖端がアナルを拡げてくぷっと入り込んでいく。
「んっ……」
 少し苦しそうかとは思ったが、腰を引いたりはせず、そのままアナルを押し広げてまずはカリ首まで押し込んだ。一番太い部分を飲み込んで大きく広がったアナルが、今度は包み込むように窄まってくる。
「ぁっ……」
 どうやら相手もそれは感じ取れているらしい。

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いつか、恩返し9

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 準備してくるとトイレに消えた後、結構待たされた末に戻ってきた相手のアナルは、既にローションで濡れていた。そこそこ解れてるはずだから、とりあえず入るかやってみよう、なんて事をあっさり告げる相手に待ったをかけて、まずは指で触らせてもらうことにする。
 アナルの中に触れる好奇心は当然あって、それを否定する気はない。相手はお前らしいと苦笑しながら、ゴムとローションを差し出してきた。
 初めて触れるアナルの中は、当然膣内の感触とは違ったけれど、興奮そのものは初めて女性器に触れた時と変わらない。排泄器官だってことは充分理解しているけれど、ちらりとも汚いなんて思わなかったし、ローションでぐちゅぐちゅに濡れながらぬるりと指を飲み込んでいく様は酷く卑猥だ。
「そんな、慎重にしなくても……」
「確かに、もっと太くてもダイジョブそう」
「なら、」
「ん、でも、中弄るなら一本のが楽だろ。それとも、それじゃ物足りないくらい、自己開発進んじゃってんの?」
「そういう、わけじゃ」
「なら、もうちょい好きにさせて。耐えられなくなったら、もう焦らさないで、って誘ってよ」
 呆れたような溜め息の後で、わかった、と返ってくるところがさすがだと思う。理解されているという安心感がある。
 彼のそういう部分を、好きだと思う気持ちだってないわけじゃない。ただ、それを恋愛感情とは呼ばないだろうと思うだけで。
 好奇心を満たしてくれる相手への感謝だったり、自分という人間を理解してくれているという喜びだったり、彼からの好意をひしひしと感じてしまう心地よさだったり、そういった、自分に都合がいい部分へ向かう好ましさなんて、絶対に恋愛感情じゃない。
 それでもそれを、好きな子とセックスできるチャンスだと言うなら、せめて。
「ぁっ……」
「ここ?」
 甘くこぼれた吐息に、気持ちがいいのはここかと、その場所を狙ってゆるゆると指先を擦りつける。
「ちょ、ぁ、おまっ」
「お前が焦ってんのってちょっと珍しいな。で、何?」
 刺激を止めて相手の言葉の続きを待った。
「お前、まさか、前立腺、探してた?」
「そりゃ探すだろ」
「だよな」
 肯定すればあっさり納得されたけれど、その後、何かを迷って考え込んでしまう。
「好奇心で弄ってるのは否定しないけど、でも、お前を気持ちよくしたい気持ちで、ってのもある。ここ突っ込んで自分が気持ちよくなれるか、に関しては既に全く心配してない。後は、お前と一緒に気持ちよくなれるかどうかで、中の気持ちぃとこ知っておきたい」
 ペニスでそこを刺激してやれるほどのテクがあるかはまた別だけれど、少なくとも気持ちの上では、一緒に気持ちよくなりたいと思っていた。
 相手の事もちゃんと気持ちよくさせたい、という思いの出どころが、現状では相手への愛しさとはどうにも言い切れないから、結局好奇心でってことになってしまうし、好奇心って本当に便利な言葉だとも思う。
 好きだから気持ちよくしたい。好きだから気持ちよくなって欲しい。
 そう言えたら一番いいのだろうことはわかっているし、相手への好意がないわけでもないのに、相手の欲しい好意はこれじゃないだろうとも思ってしまって、どうにも上手く口にできなかった。

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いつか、恩返し8

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 ハグもキスもすぐに慣れた。相手のペニスに触れることも、逆に自分のペニスが男の手に握られることも、最初の躊躇いを超えてしまえば、思った以上に抵抗感などなく、そこにあるのはただただ快感だった。
 つまり、キスをしながら互いの性器を扱きあって射精する、という状態にはあっさり進んでしまった。同じ男だからこそわかる加減なのか、正直、他人の手がこんなに気持ちがいいのが驚きだった。
 ただ、さすがにそれ以上に踏み込むのは、躊躇いがある。行為への嫌悪や抵抗感ではなく、試してみたいという気持ちの根拠が、彼への恋愛感情でと言うよりは好奇心からの興味である自覚があるせいだ。
 しかしそれも、こちらを窺うようにしていた相手に気づかれて、誘われてしまう。試してみたいのはどっち、と聞かれてしまう。
「どっち……って」
「わかってるだろ。抱く方と、抱かれる方、どっちがしたいの」
 もしくは、どっちからしたいの、と続いた言葉に、相手はこちらの性格を本当によくわかっているなと思う。両方試せるなら、両方試してみたい。という気持ちがあることは事実だった。
「お前こそ、どっちがいいんだよ」
「それこそどっちでもいいし、どっちもやったっていい」
「なんで? 好奇心?」
「そうだよ。って言った方がいいんだってのはわかってるけど、言ったらお前が安心してこの先にも踏み込んでくるってわかってるけど、さすがにそれは否定させて」
 困ったような苦笑の後、真剣な顔で見つめられる。それだけで、酷いことを聞いてしまった、というのは嫌ってくらい理解した。彼がこの後告げるだろう言葉もだ。
「好きだから、だよ」
「ごめん……」
 思ったとおりの言葉が返されて、思わず謝ってしまった。先へ進むのを躊躇う理由に自覚があったからだ。自分こそがただの好奇心なのに。相手の気持ちを知っていて、あんな言葉を投げたことを、申し訳ないと思った。
「謝らなくていいって。俺と同じ気持ちで俺を好きになって、なんて思ってない。お前の方は好奇心でいいんだよ。だから、出来そうって思ったなら試してよ」
「良くは、ないだろ。お前の好きにつけ込んで好奇心を満たすのは、さすがに俺だって抵抗あるって」
「それこそが俺の狙いなのに?」
 好きな子とセックスまで出来るかも知れないなんて、そんなのチャンス以外なにものでもない、というのが相手の主張らしい。
「まぁでも、いいや。はっきりどっちがしたいって強い意思がないなら、俺から襲うから」
「は?」
「だって先に進んでもいい気持ち、あるでしょ。むしろ抱いたり抱かれたり、してみたくなってるでしょ」
 即座にないと否定を返せなかった以上、お察しだ。相手はにっこり笑って、とりあえず最初は抱かれる側になるねと宣言した。しかも理由が、想定外に凄かった。
「後ろ、自分で拡げてるから、お前に突っ込むより俺が突っ込まれる方が、多分絶対楽だと思うし」
「はぁあ? 拡げてる? え、自分で弄ってんの?」
「そうだよ。だってお前、先に進みたそうな感じになってきてたから」
 抱かれる側のが興味あるって言われたとしても、自分の体で色々試した後のほうが気持ちよくさせてあげれそうだし、と続いた言葉もなかなかに衝撃的で、しばし言葉を失う羽目になった。

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いつか、恩返し7

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 生まれたときから付き合いがある従兄弟なのに、辛うじて友人と呼べそうな関係になったのは高校に入ってからで、それ以前の、今となってはやや黒歴史な一方的ライバル時代を全く引きずっていないとも言い切れず、今もまだ、はっきり友情とはいい難いような想いを抱えている。胸を張って、彼のことを友人だとは言い切れないのだ。
 そんな相手と、成り行きで形だけの恋人になった。つもりだったのが、相手にとっては形だけの恋人ではなく、好きな子との恋人ごっこだった。らしい。
 しかも、恋愛的な意味で好きになって欲しいとは言う気がなくて、このまま恋人ごっこを続けられればいいんだそうだ。
 けれど、今まで通りでなんて言われたって、それを知ってしまった以上、相手の想いをまるっきり無視なんて出来ない。気にしないようにしていても、ふとした瞬間に、相手は自分を好きなんだと思ってしまう。意識してしまう。
 結果、男同士での恋愛だとか、セックスだとかを、興味の赴くまま調べてしまった。だってもし、相手の気持を受け入れた上での恋人になるなら、キスだってその先だって、するようになるかも知れないんだから。
 つまり、結論はもうほぼ出ていると言っていい。
 キスやその先をするようになるかも知れない、と考えた時点で絶対無理だと思ったなら、調べる必要なんて無い。というよりもそこで嫌悪感があったら、調べるって行為自体も無理だろう。要するに、自分には相手の気持ちを受け入れる用意があって、相手に求められたら行為にだって応じるだろうって事だ。
 今まで通りで、と言っている相手に対して、なんで自分の方が先にその気になってんだ、という自覚というか困惑はもちろんあった。そしてそんな自分の困惑に、どうやら相手も気づいている。
 それは自宅で一緒に夕食を食べて、そろそろ帰るという相手を玄関先まで送った時のことだ。じゃあまたと言いあって、背を向け出ていく相手を見送って、施錠する。という一連の流れの中の、最初の部分で躓いた。
「じゃあ、……」
 躓いたのは自分ではなく相手の方だ。こちらの顔をジッと見たかと思うと、こちらが焦れてなんだよと口に出す直前に、クスッと笑いをこぼす。
「またねのちゅーとか、してみる?」
「は?」
「最近お前、もうちょっと恋人っぽいことしてみてもいいのに、って思ってるだろ? ああ、でも、いきなりキスはハードル高い?」
 ハグくらいから試そうかと言いながら、目の前の男が大きく腕を広げてみせる。黙ってその腕の中に一歩進んで、自分から先に相手の背を抱けば、すぐに自分の背中にも相手の腕が回された。
 嫌悪はないが、酷く不思議な感じがした。腕の中の硬い感触も、背に当てられた大きな掌も、ふわっと香った何かにも。ときめきや興奮とは言い難い、不可解なドキドキが身を包んでいる。
 そんな中、腕の中で相手が楽しそうに小さく身を揺する。クスクスと笑っている。
「今まで通りの恋人ごっこができればいいよ、って言ったのに。お前、まんまと俺の策に嵌ってる自覚、ないだろ」
「さく、って?」
「俺が本気でお前を好きって言ったら、お前は俺と恋人になれるか、もっと言うならキスしたりセックスしたり出来るか、考えるだろ。考えて、調べて、できそうって思ったら、お前は試してみたくなるタイプ」
 出来そうって思ったなら試していいよと、耳元で甘やかな声が囁いた。

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