雷が怖いので プレイおまけ9

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 今夜は剃ってしたいと言ったら、相手はおかしそうに笑って、もしかしてパパって呼んでくれる気になったのかと聞いた。昼間彼からの提案をあんなに嫌がったのに、自分からこんなお願いをしているのだから、当然言わされる覚悟は出来ている。
「呼べってなら、呼びます、けど」
「けど、なに?」
 もちろん抵抗は有るし、自分から進んでパパなんてとても言えそうにない。だから出来れば、冷静さなんて欠片も残ってないほどドロドロに気持ちよくなってしまった後に、彼の誘導で言わされたい。
 そう言ったら、やっぱりおかしそうに笑いながら、そんなプレイはしなくていいよと返された。
「本気でお前にパパって呼ばれたかったわけじゃない。お前が思う以上に、ちゃんと俺も楽しんでるって言ってるだろ。そう心配すんなって」
 なんでこんなことを言い出したか、わかっているというような口ぶりだ。
「でも、俺はっ」
「もちろん、お前が本気でしたいならする。ただ、俺に気を遣って言ってるなら必要ない。お前が本当にしたいこと、して欲しい事を言えよ」
 そのためにある日なんだからと言われて、わかってますと返す声は間違いなく緊張が滲んでしまったけれど。
「したい、です。全身ツルツルの体になって、あなたに、子供みたいに、扱われたい」
 自分から積極的にやりたいなんて思ってないはずだったのに。そう言ったはずなのに。そう思うと、声が微かに震えてしまう。
 かつての言葉を翻して、しかもこんなことを自らねだるなんて、彼はこんな自分にどう思うんだろう。こちらの本気は絶対に伝わっているはずだけれど、それを喜んでくれるのかはさっぱりわからない。
 実際、目の前の彼は、少し驚いた様子で言葉をなくしている。やっぱり本気で望んでいるとは思っていなかったんだろう。
 今夜彼と、そういう遊びをしたいのは事実だ。だけど本当に望んでいるのは、あの夜楽しげだった彼の姿をもう一度見たいという方だったから、こんな風に誘っても、同じように楽しんで貰える自信がなかった。
 羞恥と緊張と後悔とがぐちゃぐちゃに入り混じって心臓が痛かった。でももう言ってしまったから、彼がその気になるように、更に言葉を重ねていくしかない。
「ツルツルで子供みたいで可愛いって、いっぱい言われながら、毛を剃り落としたところをしつこく舐められて、焦らされて、おっ……、おちんちんも、気持ち良くしてって、おねだりしたり、そういう、子供になりきる、遊び、を今日はしたい、です」
 あの夜を思い出しながら、期待を込めて相手を見つめる。相手は驚いた顔を苦笑に変えて、それから優しい声音でわかったと言った。
「それがお前の望みなら、望みどおり、今夜はお前を子供みたいに可愛がってやる」
 その言葉にホッと安堵したのも束の間、それで準備はどうすると聞かれて首を傾げる。
「準備?」
「俺の手で、子供の体にされたいかって話」
「ああ、もしかして、俺が自分で剃ってくるのもありなんですか?」
「まぁな。でも子供みたいに扱われたいってなら、中洗うのもまとめて、今日は最初っから俺が全部やってやるのも悪くないよな」
「は? ちょ、えっ、ナカ?」
「お前は飲み込みがいい良い子だったから、結局目の前で排泄させたことはなかったけど、」
「自分で! 自分で剃ってきますから、子供扱いはベッドの中だけでっ」
 相手の言葉を遮るみたいに慌てて言い募れば、相手はニヤニヤと含み笑いたっぷりに、お前は本当にいつまでも可愛いねと言った。
「第四土曜だから気を抜いて発言してるってならいいが、バイトの時のおねだりには気をつけろよ。まぁ、俺としては、お前の迂闊さはバイトの時こそ歓迎だけど。あと、剃り残しのチェックはするから、一通り準備終わったら一回呼んで」
 準備しておいでと促されて、逃げるみたいにバスルームへ向かう。からかわれたというよりは多分結構本気で、それこそバイトの時だったらそのまま実行されるか、少なくともこんな簡単には逃して貰えなかっただろう。
 一人になって、大きく安堵の息を吐く。簡単に逃してもらえたこともだけど、なにより、彼が楽しげだった事が重要だった。

続きました→

 
 
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雷が怖いので プレイおまけ8

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 どれだけこちらが贅沢し過ぎでサービスされ過ぎって思ってたって、彼はちっともそう思っていないし、彼の中での第四土曜日の扱いは変わりそうにない。かといって、嬉しい気持ちを隠しきって嫌がるなんて真似はしたくない。つまらなくて無意味で苦痛だなんて演技をしたって、彼を騙せるはずがない。でも騙せるわけがないからって理由よりも、この時間を喜び楽しんでいる自分自身を否定するようなことをしたくない、という理由のほうがはるかに大きかった。
 ただただ、どうしても貰いすぎだと思ってしまう分を、自分も彼に何かしら返したいと思っているだけなのに。旅行に付き合ってって話さえも、結局は彼自身ではなくこちら基準の場所選びだったし、いくら彼が自分の気持ちを優先したって言ってくれても、そんなの自分が嬉しいばっかりだ。
 そうすると、自分から彼が喜んでくれそうなプレイをねだってみる、というくらいしか思いつかないのだけれど、それもなかなか難しい。そもそも、自分からこういうプレイをして下さいなんて言ったことがなかった。
 言われるまま可能な限り従って、彼の与えてくれる羞恥や快感に身を委ねるようにして、泣いて善がって痴態を晒せば、彼はだいたい楽しげで満足そうにしてくれる。彼の不興を買いそうなことなら、経験的にある程度思いつくけれど、逆にこちらがねだって彼が喜んでくれそうなプレイなんて思いつかない。
 そう、思っていたんだけれど。
 チビの童顔なせいで実年齢より大きく下回って見られることは確かにあるのだけれど、昼間ふらっと立ち寄った店舗で、彼と親子に間違われたのは正直言ってショックだった。色々気にかかることや考えてしまうことはありつつも、やっぱり彼との旅行という部分ではしゃぎ過ぎていたのは認める。だから余計に子供っぽく見られたんだろうことはわかっているが、その事実すら動揺を加速するようだった。
 しかし、慌てて違いますと言ってしまったのは、失敗だったのかもしれない。ただでさえ実年齢に差があって、その上でこちらのこの見た目だから、親子じゃないならかなり不審な組み合わせに見えてしまう可能性を失念していた。どう考えても友人には見えないだろうし、実際友人と言えるような関係じゃない。でももちろん、愛人ですなんてもっと言えない。
「俺たちそこまで年の差ないですよ」
 どうしようとますます慌ててしまう中、横から彼の声が聞こえた。思わず見上げた横顔は少し胡散臭い笑顔を貼り付けていたけれど、それを胡散臭いと思ってしまうのは、自分が彼の優しい笑顔も楽しげな笑顔も意地悪な笑顔も知っているからなんだろう。
 結局、自分たちを親子扱いしてきた店員さんは、兄弟って事で納得したらしい。いやそれもだいぶ違うけれど。でも肯定も否定も返さない彼を見ていれば、さすがに、兄弟と思われるのがこちらにとっても都合がいいというのは理解できた。
 ただ、この件は自分にとってはショックなばかりの出来事だったけれど、彼にとってはそうでもなかったらしい。
 店を出た後ホッと安堵の息を吐いた自分と違って、彼は随分と楽しげに、お前が否定しなきゃ親子で通しても良かったのになんて言っている。
「いくら俺の見た目がガキ臭くても、さすがに小学生に間違われたことはないんですけど。中学生にだって殆ど間違われませんけど、仮に中学生の父親って考えても、あなたじゃ若すぎでしょう」
「俺が老けて見えた可能性もある。っつーか、どっちかっつったら距離の近さの問題だと思うけどな」
 チラリとこぼれた、立場が変わると見えるものも随分変わるもんだなと言う言葉に、つい彼の過去を思い浮かべてしまったけれど、本当にそれが関わっている発言なのかは良くわからなかった。彼の過去の話は聞いてるだけで苦しくなるようなものが多いから、親子に間違われたことを明らかに楽しんでいる様子の彼と、頭の中で上手く繋がりそうにない。
「距離の近さ?」
「実際の関係考えたって、兄弟てよりは親子のが近いっつーか、経済援助してくれる男性探すのをパパ活とか言うらしいし、どう考えても兄ってよりはパパがのが正解だろって事」
 ちょっとパパって呼んでみるか、なんて事をニヤニヤ顔で言われたって、従えるわけがない。お父さんなんてもっと嫌だし、親父も絶対無理。
 ムリムリムリと言い張っても相手は残念だと言いつつも楽しそうに笑っているから、多分からかわれているだけなんだろうけれど、ふと、以前ホテルに宿泊した際に全身剃られて甘やかされたというか、子供みたいに扱われた夜があったことを思い出す。第四土曜日としては珍しく、あれは彼の遊びに付き合ってのプレイだった。

続きました→

 
 
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雷が怖いので プレイおまけ7

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 第四土曜日はホテルで宿泊するのが決まりみたいになって、それに合わせて少しずつ、デートっぽい事もするようになった。興奮を煽るためにエッチな道具を仕込まれて外に連れ出されるのではなく、ただただ一緒の時間を楽しむだけのそれが、恋人にはなれないとわかっていながら彼への恋情を抱き続けてしまう自分へ向かう、彼からの最大限のサービスなんだってことはわかっている。
 どれだけ恋人っぽく過ごそうと、特別な扱いをされていようと、やっぱり自分たちの間にあるのは雇用関係で、デートだって結局は愛人バイトの延長だろう。お金を貰わない代りの贅沢だ。だから寂しいと思う気持ちはやはり時折顔を覗かせてしまうけれど、想いに応えられない代りにと彼がくれるサービスは過剰なくらいで、少し持て余し気味でもある。
 だから毎回は嫌だけれど、たまになら興奮を煽るための細工をしたお出かけでもいいと言ってみたことがある。自分ばかりがサービスされるのではなくて、彼にとっても楽しめる何かがあればいいのにと思って。
 結果的には、して欲しいならしてあげるけれど、第四土曜日に関してはそういう気遣いは不要だと言われた。彼自身、第四土曜日をそれなりにちゃんと楽しんでいるとも。
 けれど、それならいいか、なんて割り切れないのは当然で、釈然としないこちらに彼が提案してきたのは、だったら少し遠出をしてみないかだった。いつも以上に拘束時間が長くなるけど、それでも良いなら旅行に付き合ってってことらしい。もちろん、嫌だなんて言うはずがない。
 でも彼の言う少し遠出を甘く見ていたのは事実だ。ちょっと長めのドライブになるのかな、なんて思っていたのは大きな間違いだった。だってまさか、たった一泊の旅行で、飛行機距離の移動をするなんて思うはずがないだろう。
 だから驚きや戸惑いは当然あったが、それでもテンションはかなり上がっていた。旅行ってだけでも久々なのに、一緒に行く相手が彼なのだから、テンションが上がらないほうがおかしい。
 デートっぽいことはするようになったけれど、映画だの水族館だのは自分からの提案を彼が盛り込んでくれたってだけだった。でもこれは違う。彼が行きたいと思った場所へ、自分も連れて行かれている。旅行に付き合ってって言い方だったから、一人よりマシ程度の理由で誘われたのかも知れないけれど、それでもまだ知らない彼の一面が見れると思うと嬉しかった。彼がどんな場所に興味を持つのか、興味がある。
 ただ実際のところは、彼が行きたい場所を連れ回されるのではなく、彼が自分を連れて行ってみたいと思った場所へ、連れて行かれたようだった。
「え、てことは、結局俺のための旅行ですか? というか、まぁ、第四土曜日が俺のための時間なのはわかってるんですけど。でも俺が楽しめるか優先じゃなくて、あなたが楽しみたい場所優先で良かったのに」
「何言ってんだ。お前を連れてきたかった、という俺の気持ち優先させた場所だから、お前のためだけの旅行じゃないだろ」
「いやそれは、というかそれって……」
 これもう完全にデートだろって思ったけれど、さすがに口には出せなかった。肯定されても否定されても、結局悲しいような気がする。だったら自分の中でだけ、連れてきたかったって言葉を喜んでいようと思う。
「バイト中でもないのに、お前が行きたいと言ったわけでもない場所に、お前を長時間拘束して連れ回すのはどうかと思ってただけで、お前が俺にも楽しめってなら、こういうの増やすからな」
「嫌、ではないんですけど、でも」
「でも、何?」
「毎月ホテル泊ってだけでも贅沢しすぎって思ってるくらいなのに、なんとなくそれが当たり前になってて怖いんですよ。だからせめて何かあなたに返したいとは思ってるんですけど、でもこういうの増えたら、困ります」
 贅沢すぎるしサービスされ過ぎだし、連れてきたかったなんていう、サービスと思ってわざと言ってくれたわけじゃなさそうな言葉に、またしても期待が膨らんでしまう。好きって言葉を零しても、彼が返してくれるのはキスだけだって思い知っているのに。
「貧乏学生が慣れていい贅沢じゃない、ですよ」
「慣れたくない、贅沢だ、って思ってんなら大丈夫だろ。これが大学生の当たり前じゃないって、お前はちゃんとわかってる。むしろそんな当たり前じゃない生活を、もっと有効に利用しろって。学生のうちにこそ、アチコチ行ってあれこれ経験積んだらいい」
 どうしても旅行に連れ出されるのが嫌なら、つまらなくて無意味で苦痛だって演技でもして騙しきって、なんて言われたけれど、そんなの無理に決まってる。

続きました→

 
 
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雷が怖いので プレイおまけ6

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 発熱してたけど本当にまるっきり自覚がなかったのかと問われて、少し躊躇ってから頷けば、どこまで自覚があったか正直に言いなさいと少し強めの口調で告げられる。こういう言い方をされたら、思いつく限りのことを洗いざらい吐き出してしまうのが正解だ。
 発熱に気づいてなかったのは事実だけれど、ほんの少し躊躇ってしまった部分を見咎めたって事だから、自覚なんてなかったと言いはったら、余計に相手を怒らせてしまうのはわかりきっている。
「レポート提出が重なって、少し疲れてる自覚はあったんですけど、でも、熱出してるとは、本当に思って無くて」
 なんせここ数年、寝込むほどの体調不良なんて起こして居ないし、熱があるという状態にあまり馴染みがない。今回だって彼が気づかなければ、最近少し疲れてるかも以上のことは思わずに、少し多めに食べたり寝たりしている内に回復して終わっていただろう。
「あの、クラクラするのは興奮してるからだって、思ってたんです。家で準備してくるの初めてだったから、そのせいかなって。というか実際、いつもよりずっと興奮してたと、思います」
「熱のせいでいつも以上に敏感になってて、それで興奮が増した可能性も高いんだが、逆に、俺にとっては都合が良かったと言えるかもしれない。だから今日のところはそこまで咎めないが、もし今後、体調不良に気づいてて無理してバイトに来たら、キツめにおしおきすることも考えるから覚えておけよ」
「はい」
「わかったならいい。タオル、冷めちまったろ。温め直すから先に水分補給な」
 手の中に握っていたタオルをスルッと取り上げて、代わりにソファテーブルに乗せていたペットボトルを渡された。それを受け取れば、彼はさっさとまたキッチンスペースへ戻っていく。
 彼が戻るのを待ちながら、おとなしく渡されたスポーツドリンクに口をつける。全く冷えていない常温のそれは微妙な味ではあったけれど、それでも体は欲しているのか、あっという間に半分飲み干していた。
 そういえば、ミネラルウォーターとホットミルク以外のものをここで出されるのは、初めてかもしれない。水分補給は基本ミネラルウォーターで、たまに給料を渡される時に少し甘めのホットミルクが用意されている。正確には、たまにではなく酷く泣いてしまった日なのだけれど。
 やがてタオルを温め直して戻ってきた彼は、今度はこちらにそのタオルを渡さず、着せられていたシャツを脱ぐようにとだけ要求してきた。せっかくの彼シャツをもう少し着ていたい、などと残念がっている場合ではないのは明らかだし、言われるままに服を脱いで彼の手で体を拭いて貰う。
 温かなタオルで素早く汗を拭われた後は、ソファ脇のカゴに入れられた自分の服を着て、これで今日のバイトは終わりということになってしまった。
 発熱なんて自業自得なのはわかっているものの、やっぱり残念だなと思ってしまう。おしおきでもいいから、もっと彼に色々されたかった。なんて事を考えてしまったところで、先程の彼の言葉を思い出す。
「あの」
「なんだ?」
「さっき言ってた、都合がいいって、なんですか? あなたにとって都合が良かったから、今日はおしおきナシ、なんですよね?」
「おしおき無しってことはないな。というか今現在、まさにおしおき中だけど」
 自覚ないのと聞かれて、どういう意味かと考えてしまえば、相手はどこか困った様子を混ぜながらも楽しげに笑う。
「初めてプラグ入れての外出時に、凄く興奮したって事実がお前に刻まれたのが、俺にとっての好都合。でもって、お前を一度もイカさず帰すのが、ある意味おしおき。今日はかなり不完全燃焼のはずだけど、熱出してるの気付かずにバイトに来た罰だから、一週間悶々としておいで」
 我慢できなければ一人でお尻弄って慰めてもいいけど報告はさせるよと続いたから、次回は一週間分のオナニー詳細報告からスタートらしいと思う。お尻でイクことを覚えてしまって、最近は一人でする時もお尻が疼いてしまうことは有るのだけれど、自分で弄ったことはないし、疼いてしまう事実含めてそれを彼に伝えたことはない。でもそれもきっと、来週には暴かれてしまうんだろう。
 神妙にハイと頷けば、給料を渡すからおいでとテーブルセットの方へ促される。
 テーブルの上には見慣れた封筒と、小さな錠剤が入った小さな瓶が並んで置かれていた。多分瓶の中身はさっき飲まされたものと同じはずだけれど、でも、目の前にある瓶は先程のものと違ってしっかりラベルが貼ってある。
 思わず手にとって確かめれば、それは間違いなく、薬局などで並んでいる市販の風邪薬だった。
「あの、これ……」
「ああ、必要そうならそれも持たせるつもりだった。持っていくか?」
「いやあの、これ、さっき媚薬だって」
「そう。さっき飲ませた薬はそれ。でもプラセボ効果はしっかりあったろ」
 本物の媚薬なんて使わなくてもお前にはそれで充分だろと言われて、媚薬と言われて使われたのはこの薬だけじゃないと思い出す。
「じゃあ、あのクリームは?」
「あれも抗炎症鎮痛解熱系。しかも使ったのは少量。お前は熱でぼんやりしてたから、たとえいつものローションだって、ちょっと容器変えたら媚薬って信じ込んでいつもより感じたはずだぞ」
 でも種明かししたから次回使うのは本物の媚薬なと笑われたけれど、それすらまた偽薬を本物と信じさせるための言葉のようにも思えてしまうから、どこまで本気なのかなんて見当もつかなかった。

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雷が怖いので プレイおまけ5

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 酷くスッキリとした目覚めだったが、目を開けて飛び込んできた景色には驚いた。
 プレイ途中で休憩と言う名の軽い睡眠を取ることは今までもあったけれど、目覚める場所はたいがい休憩を開始した場所で、もし移動させられたとしてもあの防音室から出ることなんてなかったのに、今日はどうやら寝ている間にリビングへ運ばれたらしい。
 寝かされていたのはソファだったらしく、慌てて起き上がった拍子に掛けられていた毛布がずり落ちていく。咄嗟に掴んだそれは柔らかで酷く肌触りが良かったが、こんなものをあの部屋で見たことはない。きっとどこか別の部屋から持ってきたものなんだろう。
「目が覚めたか。気分はどうだ?」
 どうやら彼はテーブルセットの方に居たらしい。声のした方へ顔を向ければ、ちょうど椅子から立ち上がるところだった。
「気分は、いい、です」
 そうかと言いながらキッチンスペースへ消えた彼は、暫くしてから温められたタオルとスポーツドリンクのペットボトルを手に戻ってくると、汗を拭いて服を着たら水分補給をするようにと促した。着てきた服はソファ脇に置かれたカゴの中に入れてあるらしい。
「はい」
 言われるままタオルを受け取って、それから自分の体にそのタオルを当てようとして、ようやく自分が裸ではないことに気づいた。毛布を掴んだ時も、タオルを受け取った時も、捲られた袖は目に映っていたはずなのに、少し眠ってスッキリした気でいたけれど、やはりまだぼんやりしているのかもしれない。
 というか、どう考えても着せられているシャツのサイズがおかしい。
「あの、これ、って……」
「ああ。何かで汚した時用にお前サイズの服も多少用意してあるが、さすがに寝間着類までは揃えてなかったから、取り敢えずで俺のを着せた」
 彼は今度揃えておくよと続けたけれど、正直あまりしっかり聞こえていなかった。パジャマとは言え彼シャツだ、と思ってしまったら心臓がドクンと跳ねてしまって、それどころじゃない。
「どうした?」
 訝しげな声と共に、彼の手の平が額を覆う。
「熱は下がってそうだけどな」
「え、熱?」
「その話は後だ。とにかく着替えて、水分補給を済ませなさい」
 声音が硬い。そういえば、言われるまま着替えようとしているけれど、さっき彼は休憩と言っていたのに、この様子だと今日のバイトは終わりってことなんだろうか。
 寝ている間にリビングへ連れてこられたことも、彼の寝間着を着せられていたことも、早く着替えろと言われていることも。なんだか状況がちっとも飲み込めなくて、胸の中に不安が広がっていく。
「あの、プレイの続き、は?」
 ソファの脇に立つ彼を見上げておずおずと尋ねれば、呆れた様子で眉を少しひそめながら、今日はここまでだよと返された。そんな様子も、やっぱり硬さが目立つ声音も、全く知らないものではない。心臓がキリキリと締め上げられて痛い。
「あの、俺、何かしちゃいました、か?」
 尋ねる声が微かに震える。多分間違いなく、何かしらやらかしている。でも、思い当たることがないのが、ますます不安を煽ってくるようだった。
「したかしてないかで言えば、したね」
「怒って、ますよね……」
「そうだね。少し」
 肯定された。何をしたんだろう。なんで怒らせてしまったんだろう。
 少し休憩と言われる前、自分はどんな状態だったか、彼に何をしてしまったか、必死で思い出そうとするのに、記憶にはぼやっと霞がかって、今日はどんなプレイをされていたかも正直はっきり思い出せない。
 もしかして、行為に集中できなかったことを怒っているんだろうか。それは薬のせいで、だから彼もおしおきなどとは言い出さずに許してくれているのだと思っていたけれど、やっぱり不快だったのかもしれない。
「プレイに集中できなくて、ごめん、なさい」
「怒ってるのはそこじゃない」
 そう言うと、彼はソファの隙間に腰を下ろした。伸びてきた手が優しく頭を撫でてくれたから、彼を怒らせたと震える気持ちが少しばかり宥められるようだった。

続きました→

 
 
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雷が怖いので プレイおまけ4

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 興奮した体の感度を上げてイキ狂わされるのかと思ったら、実際はまったくの逆だった。玩具じゃ刺激が強くなりすぎるだろうからと、用意されていた玩具類は使われていないし、拘束もされていない。
 彼の腕の中で彼に縋りながら、感じやすくなったお尻の中を彼の指がゆるゆると刺激してくるのを受け入れ、ただただ甘く啼き続けるだけだった。
 楽しげに、今日はイクのを我慢してみようかと言われてから、何分が経過しているんだろう。そもそもイキたくてどうしようもなくなるような強い刺激なんてくれないから、我慢するってよりはひたすら気持ちが善すぎて喘いでいた。
 飲み薬も塗り薬も強いものではないと言っていたけれど、確実に効果は出ているようで、激しい動きなんて全く無いまま、ただ彼の指がお尻に埋められているというだけでも相当感じてしまうし、体の中に熱がこもるみたいで息が上がってしまう。少しでも指が動かされれば、敏感になりすぎた体が震えて、全身がゾワゾワっとして、あちこち肌がプツプツと粟立ってしまうのがわかる。
 頭の中が霞がかかったみたいにぼんやりとして、この状態はきっとそれなりにキツイはずなのに、苦しいのかどうかも正直判断が出来ていなかった。というよりは、苦しいには違いないんだけど、しんどいとか辛いとかって感情には結びついて行かないようで、もう許してと泣くような状況に追い詰められている気配はなかった。喘ぎ続けて苦しいんだけど、同時にひたすらキモチイイのも事実で、もうやめて欲しいとは思えないのだ。
 大きな声は上がらないけれど、ひっきりなしにアッアッと零す吐息で、若干酸欠気味なのかもしれない。いや、飲み薬を渡された時に、感度を上げるだけじゃなくぼんやりするとも言われた気がするから、これも薬のせいだろうか。
 理性がしっかり働いていたら、間違いなくもう許してと泣いているだろうくらいには、焦らされ過ぎなプレイをされているはずだから、薬の効果でぼんやりしているのだとしたら、薬はきっと飲んで正解だった。でも弱い薬と言っていた割には、ちょっと効きすぎなんじゃないかって気もしている。
 このままだと、いつまで意識を保っていられるかが微妙だった。体は間違いなく感じやすくなっていて、僅かな刺激にも甘く声を上げているような状態なのに、頭と体が切り離されているみたいに、脳内はほとんど行為に集中できていない。キモチイイのに、キモチイイことだけに集中できない。
 こんな状態を続けていたらおしおきって言われそうなものなのに、そう言われる気配がないのは、これは彼が飲ませた薬のせいで、彼にとっては想定内の反応だからなんだろう。
「さっき飲んだ薬が、かなり効いてそうだな」
 声を掛けられて、そういや今日は彼の言葉数が随分と少ないなと、今更思う。キスをして口を塞ぎ合っているわけでもなかったし、かといって、ニヤニヤとこちらの反応を観察されていたような記憶もない。というか、彼にどんな目で見られていたかの記憶がない。
 目を閉じて感じることに集中していたわけでもないのに、本当にぼんやりしすぎだった。
「そ、ですね。なんか、すごく、ぼんやりしちゃって」
「少し休憩を入れようか」
 まだイキたくてどうしようもないほど追い詰められてはいないだろと問われて頷けば、ゆっくりとお尻の穴から彼の指が抜け出ていく。それが少し寂しくて、彼に縋っていた腕と手に力が入ってしまう。離れたく、ない。
「目を閉じて、少し眠りなさい。眠ってしまうまでは、このまま抱いていてあげるから」
 彼の顔が近づいてくるのに合わせてそっと瞼を下ろせば、その上に唇が軽く押し当てられる感触がする。
「おやすみ」
 その短な言葉を聞いてる間にも急速に意識が遠のいていて、おやすみなさいと返すことも、頷くことさえも、出来なかった。

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