筋金入りの恋心

 筋金入り、という自覚は有る。なんせ小学校低学年の初恋から先ずっと、成人を迎えても飲酒可能年齢を越えても、未だ一人の人を想い続けているので。
 相手は小学1年の時に集団登校の登校班の班長をしていた近所のお兄さんで、面倒見が良くて優しい人だ。
 年は離れているけどご近所さんで親同士も顔見知りで、おばさんは優しいと言うより色々と豪快な人で、彼を慕って出入りするの近所のガキンチョを追い返すことなく、むしろ遊びに行くと歓迎してくれて、彼と遊べるように取り計らってくれたり彼のいろんな情報を率先して話してくれたから、子供の頃はもうほんと、踏みとどまることなくがっつり想いを育ててしまった。
 おばさんのおかげでこの恋心がここまで大きく育ったといっても過言ではないので、一時期、おばさんと彼との間でちょっと揉めたらしいけれど、豪快なおばさんと優しい彼との揉め事がどうなるかなんて明白だ。
 つまりは、好きになっちゃったならしょうがないじゃない。その気がないなら応じなけりゃいいのよ。というおばさんの意見が通ったわけだ。
 ついでに言うと、この恋心についてはおじさんや自分の両親も知っているが、あまりにしつこく好きで居続けている上にあまり相手にされても居ないので、みんな基本ノータッチを貫いている。生ぬるい目で見守られているとも言う。
 そして肝心の本人はと言うと、優しいから執着がキモいとか重いとか言いながらも結局強くは拒否できなくて、優しいから変な女に同情して付け込まれたりもする。
 好きだとか付き合ってだとか口で言うことはしても実力行使にでたことはなかったし、相手に特定の恋人が居た期間は好きだとかも言わずに大人しくしてたから、多分、結婚したら穏便にこちらを避けられて、しかも可哀想な女の子のことも助けてあげられるって、本気で思っていたんだろう。
 もしその結婚が本当に上手く行っていたら、さすがにこの恋は終わっていただろうか?
 多分そんなことではこの長い事抱え続けている想いは消えてくれそうにないけど、それを確かめる事はどうやら出来そうにない。だって全然上手く行ってなかったから。
 優しい人でちょっとお人好し過ぎるきらいもなくはないけど、思考停止で何もかも受け入れるタイプの優しさではないし、ちゃんと相手のことも自分自身のことも考えられる人だから、きっちり証拠を突きつければ諦めたように大きなため息をついて、離婚に向けて動いてくれた。
 やっぱり大きなため息と一緒に「薄々わかってはいたんだけど」と告げられたのは全部が終わってからで、結局全然うまく行かなかったと随分落ち込みながら「お前が居てくれて良かった」とも言ってくれた。
 自分で証拠を集めて離婚に向けて動く労力を考えたら、もっと切羽詰まるまで動かなかったと思うし、無駄に時間を費やして無駄に疲弊する未来が待っていたはずだから、外側から動いてくれる人が居てくれて本当に助かった、という事らしい。
 そんなことを言われたら、さすがに調子に乗りそうだ。いい加減、俺のものになればいいのにとか言ってしまいそうだ。というか言った。
 ついでに、ここぞとばかりにどれだけ心配したか、いかに大切に思っているかを伝えて、結婚するならせめて幸せ振りまくような生活を送って欲しいと訴える。
 結婚はこりごりかなと困ったように苦笑したあと、お礼に驕るよと連れ出されたけれど、最初の方の、俺のものになってだとか相手をどれだけ想っているかについては完全にスルーされてしまった。まぁここ数年はこんな感じで流されているので、今更なんだけど。
 優しい人だから、こんな完全スルーを覚えるまでとそれに慣れるまでに結構時間を掛けていて、だからまぁ、この塩対応は応えないどころかちょっと嬉しいまである。というのはどこまで知られているんだろう?
 ニヤニヤしててキモいぞって言われたから、嬉しいのは筒抜けなんだろうけど、でもお礼に連れ出されたことを喜んでると思ってるかも知れない。
 こちらの想いを完全スルーされたのが嬉しい、とか言ったら、ますますキモがられそう。と思ったらクフフと小さな笑いが漏れてしまった。
「俺の離婚、そんなに嬉しいのか?」
「え、あー、まぁ、そりゃあ……」
 あ、そっちだったか。という驚きがバレないように曖昧に同意しておく。確かにそれも嬉しいけど、離婚確定はもっと前に確信してたから、その喜びはとっくに消化済みだった。
 よっしゃーと思いながら一人で祝杯を上げたのはいつだったっけ。
「そろそろ三十路のおっさん相手に、しかもお前の気持ち知りながら他の女選んで結婚して、まんまと失敗してるような男に、お前はなんで好きって言い続けるんだろうな」
 はぁあと大きな溜息が聞こえてきた。
「なんでって、そんなの今更でしかないかな」
「妙な刷り込みで好きって思い続けてるだけじゃないのか。もしくは意地で今更好きを止められないとか」
「なくはないかもだけど、そんなの確かめようがなくない?」
 言ったらじっと見つめられて、わけがわからないのに妙にドキドキする。
「いっそ一度お前のものになったら、あっさり満足して、俺を好きでいるの止めたりすんのかもな」
「え?」
「なってやろうか、お前のものに」
 なんだか自棄っぱちというか投げやりな感じで吐き出されてきた言葉に、驚くより心配になった。
「もしかして離婚、そんなショックだった?」
「離婚そのものは正解だったよ。ただ……」
 そこで言葉を切った相手は、続きを言うか迷っているらしい。
「ただ、なに?」
 促すように聞けば、やっぱりまた大きめの溜息が吐き出されてくる。
「いや、今日はいいわ」
 お礼って言ったんだし離婚祝で楽しく飲もうとはぐらかされて、結局その後は何を聞いても教えてもらえなかったけれど、別れ際、今度ゆっくりお前との今後について話そうなと言われてしまった。
 今までこんなことを言われたことはもちろんなく、いったい何を言われるのかと、今から不安で仕方がない。

 
 
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化けの皮が剥がれた結果

 人当たりがよくて親切で、オールマイティに何でもこなす友人を、親友だなんだと言ってつるみつつも、内心嫌いで嫌いで仕方がなかった。だってなんだか色々と胡散臭い。
 気になる女子はだいたいこいつに惚れていたのもひたすら不快だったし、そのくせどんなに勧めても今はそんな気にならないだとか、男友達と遊んでる方が絶対楽しいだとか言って恋人を作ろうとしないのも不満だった。そのせいで男友達からの妙な信頼を得ていたのもイライラしたし、特定の恋人を作ってくれれば諦めて他の男に目が行く女子だっていたかも知れないのにって気持ちだってあった。
 こっちが必死で挑もうとギリギリのところでどうしても敵わないテストの順位だとか、そのくせ一切驕ることなく飄々としているところとか、学校のテストの点だとか成績なんてどうでも良さそうな態度とか、学生時代は本当に腹立たしいことが多かった。
 つまりは劣等感が刺激されるとか、嫉妬とか、そういう感情で嫌っていた部分があることも認める。でもそれだけじゃなくて。胡散臭いとしか言いようがない、妙な感覚を相手から感じていたのも嘘じゃない。
 そんな聖人君子居るわけ無いだろって疑う気持ちをずっと持っているし、ぜったいどっかで無理をしてるんだと思っているし、いつかその化けの皮が剥がれる日が来ればいいと思っていた。
 さすがに就職先は別になってストレス源から開放された日々を満喫しているのに、それでも未だに親友なんてのを続けて、たまに近況報告やらで会っているのだって、その化けの皮が剥がれる瞬間に立ち会いたいから、というのが一番大きい。


 二日酔いに似た酩酊感と軽い吐き気で意識が浮上する。相手の前で醜態をさらす真似なんか絶対したくないから、一緒に飲むときの酒量にはかなり気をつけていたはずなのに。どうやら昨夜は酔い潰れたらしい。
「うぅ……っ……」
「あっ、やっと起きた?」
 小さく呻けば、すぐ近くからよく知った声が聞こえてくる。随分と機嫌が良さそうだ。
「あ゛ー……悪い、迷惑かけた」
 多分間違いなく酔いつぶれたのだろうし、横になって寝ていた状況を考えたら何かしら迷惑をかけたのは明白で、とりあえずで謝っておく。
 飲み過ぎたからか、声は少し枯れている。
「全然。てか迷惑かけたのも、これから更に掛けるのも、俺の方なんだよね。まぁ迷惑とはちょっと違うかもだけど」
「は?」
「酔い潰した、っていうかお前に眠剤盛ったの、俺」
「な、んで……」
 眠剤、なんていう不穏な単語が聞こえてきて混乱する。発した声は少し震えて、喉に詰まった。
「んー……そろそろいいかな、って思って」
「なに、が?」
「親友ごっこ、いい加減やめてもいいかな、って」
「……は?」
「お前だって、俺のこと親友なんて思ってなかっただろ。というか俺のこと、実は嫌いだよね?」
 しかもちょっとじゃなくて相当、なんて言われてしまう。
 事実だけれど、さすがに肯定はしなかった。けれど相手はこちらの返答なんか必要としていないようで、ヒョイッとこちらの顔を覗き込んできた相手の表情は、声からもわかっていた通りににこやかだ。
 胡散臭さを通り越して気味が悪すぎる。というのが正直な感想だった。
 相手はにこやかに笑っているのに、背筋にゾッとするような怖気が走る。
「これなーんだ」
 そう言ってこちらの目線の先に掲げられたのはスマホの画面で、何やら動画が再生中だった。
 最初は何が移されているのかさっぱりわからず、けれどそこに映ったものが何かを理解すると同時に、血の気が失せていく。
 そこに映っていたのは自分だった。昨夜、眠剤とやらを盛られたあと、ここで何が起きたか。というよりは相手に何をされたのかを、如実に映している。
「大っ嫌いな俺に、アンアン言わされた気分はどう?」
「最っっ悪」
「だよね」
 嬉しそうに跳ねた声が憎らしい。
「嫌がらせか」
「お前にとってはそうかもね。でも俺にとってはそうじゃないんだな、これが」
 まぎれもない愛情表現だよと笑われて、もちろん、意味がわからない。
「意味がわからない」
「だよね」
 わかるよと頷かれても困るというか、こちらは一向に理解が進まないし、不気味さだけが増していく。
「俺はね、俺のことが大っ嫌いなのに、俺のことが気になって仕方なくて、俺のことが切れなくて、未だに俺と親友続けてるお前のこと、多分、好きなんだよね」
 どんな美女やイケメンに誘われるより、お前が無理やり笑いながら適当に相槌打って、つまんなそうに俺と飲んでる時が一番興奮したよ。なんて、意味がわからないと言うよりは頭がオカシイ。
「イカレテル」
「いいね。そういうの、もっと言ってよ」
「お前とはこれっきりだ。二度と誘わないし誘いに乗らない」
「それは困るな。というかそんなの無理でしょ」
 これの存在忘れてる? と言いながらスマホを振られて、どうやら脅迫されているらしい。
「俺を、どうしたいんだ」
「え、この流れなら恋人になる以外なくない?」
「なんでそうなる!?」
「好きって言ったじゃん。多分、ってつけちゃったけど、あれ、ちゃんと本心だからね?」
「俺はお前が嫌いなのに?」
「それがいい、って言ってんだからそこ関係ないよね。でもってお前は俺に逆らえないんだから、今この瞬間から、お前は俺の恋人だよ」
 良かったねと笑われて、即答でどこがだとキツく返した。
「だってお前、俺の化けの皮剥がれるとこ、見たかったんだろ? これがお前の見たがってた、俺の素の姿ってやつだよ」
「なんで……」
 本人に言ったことがないのはもちろん、共通の友人相手にだって、そんな話はしたことがないはずだ。
「世間は狭いよねぇ。というか長いこと俺の親友やってんだから、自分に近づいてくるやつにもうちょっと警戒したほうがいいんじゃない?」
 就職先別れたから油断したんでしょと言われて、そういや、仕事関係で新たに出会った人達相手には、胡散臭い友人の化けの皮がいつか剥がれるのを待ってるって話をしたことがあったなと思い出す。というか結構な頻度でその胡散臭い友人の話をしていた気がする。
「じゃあまぁ自業自得と納得がいったところで、とりあえずもっかいセックスしとく?」
「嫌だ!」
「だから拒否権とかないんだって」
 記憶にないだろうけど動画でわかる通り、ちゃんと気持ちよくしてあげるから大丈夫。だなんて、全然大丈夫じゃないことを言いながら、楽しげな顔が近づいてくる。

 
 
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片想いが捨てられない二人の話1

 叶う見込みなんて欠片ほどもないような片想いを、もうずいぶん長く続けている。相手は面倒見がやたら良くて生徒との距離もかなり近い教師で、高校1年時の担任だった男だ。
 入学早々事故って入院というアクシデントに見舞われた自分の病室に、結構な頻度で見舞いに来てくれたその人は、退院後も何かと気にかけてくれたから。こちらも一人出遅れてしまった不安から頼りまくってしまったし、わかりやすく懐いてもいた。
 ただ、自分だけが突出して頼りまくったり懐きまくっていたわけではない。だって面倒見が良くて生徒との距離も近い教師が、人気がないはずがない。
 そんな相手に、どうやらガチ恋しているらしいと気づいたのはいつだっただろうか。始まりはわからないけれど、この想いを初めて伝えた日のことは覚えている。
 一生徒として扱われるのではなく、もっと特別な存在になりたい欲求を持て余して、突撃掛けて華麗に躱されたのは3年に上がった春だった。高校卒業まで1年を切ってしまった、という事実に焦ったんだと思う。それに実のところ、勝算ありって、信じていた。
 彼を慕う生徒は大勢いるが、積極的に絡みに行く生徒はそこまで多くはなかったし、その中でもかなり構って貰っている方だという自負があったのと、交際相手の性別にこだわりはないらしい情報を得ていたせいだ。
 長いこと彼を慕って周りをうろついていたせいで、本気っぽかった女生徒がいつの間にやら離脱している現象を数件把握してもいた。でも男の自分は変わらずに構って貰えているのだから、交際相手の性別にこだわりはなくても、どちらかといえばゲイよりなのだと思っていたのもある。
 大きな勘違いをしていた。本気っぽかった女生徒たちが離れていったのは、自分よりも先に彼に告白していただけだ。告白した結果、無理を悟って去っただけに過ぎない。
 そうして引いていった彼女たちは聡明だと思う。少なくとも自分のように、嫌われたり軽蔑されたりはしなかったのだから。
 思春期の若者が寄り添ってくれる身近な大人に惹かれてしまうことそのものは、ある程度仕方がないこととして彼も受け入れているようではあったから、告白時に応じる可能性が一切ないことを説明された段階で大人しく引いていれば、慕ってくれた生徒の一人として彼の記憶に残れたかもしれない。
 でも自分には失恋を認めて引くなんてことは出来なくて、最初の告白を丁寧にお断りされて以降もしつこく手を変え品を変えアプローチし続けた。相手が頑なになればなるほどこちらも躍起になって、段々と派手に迫るようになったせいで、夏が終わる頃には同学年どころか下級生の一部にまでも認識されていたようだった。
 一種の娯楽化だ。最終的に先生が落ちるかどうか、というのを興味津々に見守られていた。
 いい加減に諦めろと諭す声もあったが、応援してくれる声も多くて、自分自身、だんだんと卒業式を期限としたゲーム感覚になっていたのかもしれない。
 卒業式を間近に控えたあの日、数人の協力者を得て、先生とともに生徒指導室に閉じ込められた。狭めの空間に二人きりで、最後のチャンスとばかりに自身の服に手をかけた時の、軽蔑と落胆と、憎悪すら感じるあの目を、忘れられない。
 その目を前に怯んでしまった。何も、出来なかった。
 丁寧にお断りされた最初から叶う見込みなんてない想いだった。それをしつこく迫り続けて、嫌われるまでしたのに。卒業して、彼とは会うこともなくなったのに。
 未だに想いが欠片も風化する気配がなくて、カレンダーを前に泣きそうだと思った。
 明日、自分は二十歳になる。酒が飲める年齢になる。
 あれは恋なんてするずっと前の入院中の雑談で、彼が覚えているとはとても思えないけど。覚えてたとしても、そんなの無効って言われそうだけど。
 でも、間違いなく、いつか酒が飲めるようになったら一緒に飲みに行きましょう、という約束をした。
 病院食が口に合わなくてつらいって話から、好物の話になって、日本酒が好きだと教えてもらって、まだ飲めないのにって拗ねて、じゃあいつか飲めるようになったらって……
 スマホを持つ手も、画面に触れる指先も、かすかに震えている。我ながらバカみたいだと思っているし、そもそも連絡がつくのかも怪しいのに、どうやら試さずには居られないらしい。

続きました→

 
 
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大晦日の選択

* 恋人になれない、好きな気持ちを利用されてる、ハピエンとは言い難い微妙な関係の話です

 大晦日暇なら来てよ、という連絡がきたのはクリスマス当日の25日だった。タイミングからして、どう考えても恋人にふられたのだろう。
 予定は既に入っていたが、結局、大して迷うことなくそちらに断りの連絡を入れて、31日は夕方から相手の家にお邪魔した。
 着いてすぐから、こちらをもてなす気満々で用意されていた、茶菓子 → ディナー → 酒と軽いツマミ類という順に、延々と食べ続けている。まぁ、わかっていたので腹は空かせてきたし、もう慣れたといえる程度には繰り返しているので、食べるペースには気をつけている。
 さすがに、いくら食べてもあっという間に腹が減っていた10代とは違う。今でもかなりの大食いだと思うけれど、昔の食べっぷりを知っている相手はちょっと不満そうだ。
「もうお腹いっぱいだよ」
「じゃあ、最後にアイス。そのウイスキーにも合うはずだし、どう?」
「わかった。それで最後ね」
 言えばウキウキとキッチンに消えていく。
 グラスに残ったウイスキーをちびちびと舐めながら待つこと数分、器を片手に相手が戻ってっくる。
 差し出された器の中には、キレイな小ぶりの丸が3色詰まっていた。白とピンクと緑だ。
 相変わらず、いちいち手間がかかっている。
「ありがと。何味?」
「バニラと桃とマスカット」
 ふーんと相槌を打って、スプーンで掬ってまずは緑から口に入れる。甘酸っぱくてかなり濃厚にマスカットの味がする。どこの? なんて聞きはしないが、きっとお高いんだろう。そういう味だ。
「ん、美味しい」
「良かった」
 へへっと笑った相手が、テーブルの向かいから身を乗り出してきて口を開けるから、そこにも一匙すくって突っ込んでやった。
 何やってんだろなぁと思うが、普段食べれないような高級食品をあれこれと腹一杯食べさせて貰う代わり、と考えれば安いものだ。
「満足した?」
「まぁ、それなりに」
「まだ尽くしたりないの? それとも甘えたりない方?」
「んー、どっちも、かな」
 曖昧に笑った後、相手の視線がゆるっと下がっていく。テーブルがあるから腹から下は隠れているのに、その視線が何を思ってどこを見つめようとしているかは、問わなくてもわかっていた。
「ねぇ、」
「やだよ」
「まだ何も言ってないんだけど」
「だって聞かなくてもわかってるもん」
 初めて抱かせて欲しいと言われたのは、酒を飲める年齢になったときだった。それから何回か誘われて、でも、その誘いに応じたことはない。
「めちゃくちゃ優しくするよ?」
「知ってる。だからやだ」
 男相手の性行為が初めてだろうと、尽くしたがりを目一杯発揮した相手にドロドロに甘やかされながら、きっと気持ちよく抱かれてしまうんだろう。
「なんで? 俺のこと、好きなんだよね?」
「じゃなきゃ来てないよ」
「なら、」
「俺が慰められるのは、ご飯一緒に食べるとこまでだって言ったじゃん」
 自分の中では、セックスは恋人とするものだ。だからどんなに好きな相手に誘われたからって、それが失恋を慰めて欲しいなんて理由では断るしか無かった。
「それとも、俺と恋人になってくれんの?」
「それは……」
 そこで言い淀んでしまう相手は、一度だって「恋人になって」の言葉を発したことがない。抱かせてとは言うくせにだ。
 彼が恋人に選ぶ相手と、自分と、何が違うのかはわからない。別れた時に呼ばれはするが、恋人を紹介されたことはないし、どんな相手だったかを相手が話すこともないからだ。
「ほらね。てわけで、俺はそろそろ帰るから」
 もう一匙すくったアイスを相手に突き出しながら、言外に、甘やかすのはこの器が空になるまでだと訴える。
 大人しくそれを口に入れて飲み込みはしたものの、相手はやはり不満そうな顔を隠さなかった。
「大晦日なのに帰っちゃうの?」
「帰るよ」
「一緒に年越しするつもりだったんだけど」
 一緒に初詣も行こうよと誘う顔はなんだか必死で、年越しを一人で過ごすのが嫌なんだというのだけは良くわかって、諦めの溜息を一つ吐く。
 こちらの好きって気持ちを良いように利用されているだけだ。とは思うのに、突き放して関係を断つことが出来ない。
「泊まりはやだ。けど、帰るついでに一緒に初詣くらいはしてもいいよ」
「外、かなり寒いよ!?」
 明日の昼ぐらいに出かけたいと主張されたけれど、さすがにそこまで譲れない。
「一緒に出かけるか、玄関で俺を見送るか、俺はどっちでもいいよ」
 譲る気がないとわかったらしい相手が、苦虫を噛み潰したような渋い顔をして、諦めの溜息を吐き出した。どっちを選んでそんな溜息を吐き出したのかは、まだわからない。

ギリギリですが大晦日更新できました!
でもめっちゃ微妙〜
なんで大晦日にこんな微妙なもん書いてるんだと思いながら書いたけど、書いちゃったからには出しておきます。

 
 
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感謝しかないので

 寝る前に水分を取りすぎたせいか、尿意によって起こされてしまった深夜。トイレ側の和室にまだ明かりがついていることに気づいて、薄く開いた隙間から中を覗き見る。
 ローテーブルの上には晩酌のあとが残っていて、その机につっぷすようにして父親が寝落ちていた。
 数時間前、そこで一緒に酒を飲んでいたのは自分だ。
 席を立つとき早めに寝るよう促しはしたが、ある意味特別な日でもあったから強制はしなかったし、正直に言えば、この光景じたいが想定内とも言える。
 別に寒い時期じゃないし、明日は休みだし、このまま放っておいてもいいのかも知れない。
 でも見つけてしまったからには、やはり放ってはおけなかった。あんな体勢で長時間寝てしまったら、どこか痛めそうな気がする。
 せめて横にならせて、何か上に掛けてやろう。
 部屋の中に入って、机に伏した体をそっと引き起こしてそのまま後ろに倒した。そうしてから、ローテーブルの方を移動させて、足元のスペースを開ける。
 崩れた足をのばしてやって、後は何か掛けるものを持ってこようと立ち上がりかけたところで、服の裾を掴まれた。
 寝ぼけて呼ばれた名前は不明瞭だったけれど、どう間違っても自分のものではない。そして不明瞭ながらも、誰を呼んだかはわかっていた。
 もう随分と前に亡くなっているのに、この人は未だに母を愛し続けている。母よりだいぶ年下のこの男に、次の人を探すよう勧める人は多かったと思う。
 自分自身、連れ子だった自分の世話なんて、母方の親戚に放り投げれば良かったと思っているのに。20代半ばで小学生の子持ちとなったこの男は、愛する女性の忘れ形見だからと、血の繋がりもないのにそのままずっと育ててくれた。
 もちろん感謝はしている。この人が居てくれたおかげで、母と暮らしていた家も、友人たちも失うことなく生活を続けられた。
 けれどそのおかげで、自分もこの家から離れられない。結婚したいと思えるような相手だって作れない。別にそれでいいとも、思ってるけど。
 だって、この人が母を愛するのと同じくらいに愛せる女性となんて、きっと一生出会えない。だったら母を愛し続けるこの人の残りの人生に、このままずっと寄り添っていたかった。
 母の血を継ぐ自分は、きっと母の好みも受け継いでいる。もし娘として生まれていたら、母の代わりになれていただろうか、なんてことを考えてしまうくらいには、この男のことを好きだった。
 必死で父親をしてくれたこの人への、裏切りだと思う気持ちももちろんある。けれど、自分から今の距離を手放す気にはどうしたってなれそうにない。
 一緒に酒が飲める年齢になってからは、なおさら強くそう思うようになった。
 実はかなりの寂しがり屋で、息子が結婚して家を出ていき、この家に一人残されてしまうことを恐れている。なんてことを知ってしまったら、結婚を急かされようが気にならない。
 まぁ、結婚式で語りたい内容だとか、孫との楽しい触れ合いだとか、酔ったついでに色々と未来の夢を語られてもいるので、結婚はして欲しいのだろうとは思うけれど。
 寂しがり屋の彼のために、同居OKの嫁を探そうなんて気は全くないので、結婚式も孫との触れ合いも諦めて貰うしかない。
 そんなことをぼんやり考えながら、棚の上に置かれた小さな仏壇を見上げた。仏壇の横には、二人の思い出の品だというかわいらしいこけし人形が二体、仲良さげに並んでいる。
 昨日は母の命日だったから、夢の中で、母と会えているのかもしれない。あの二体のように、仲良く並んでおしゃべりでも楽しんでいたら良い。
 そんな想像に、二人のじゃまをしたくなくて服の裾を握られたまま動けずにいれば、自分の名前を呼ばれた気がした。
 まじまじと相手の顔を覗き見れば、次にはゴメンと謝られてしまう。
 どんな夢を見ているかわからないし、もし母と会っているのなら、その謝罪は自分へ向けられたものではないだろう。そうは思いはしたものの、うっすら滲んできた涙を放っておけない。
「謝んないでよ。ずっと、感謝しかしてないんだから」
 そっと目元を拭いながら、思わず口からこぼれた言葉に反応してか、相手の瞼が持ち上がる。
 ぼんやりとした目と視線が合ってしまって、慌てて体を離せば、相手は数度瞬きした後でまた瞳を閉じてしまった。
 暫く息をつめて相手の様子を窺ってしまったが、静かに寝息を立てていて、どうやらまた夢の中に戻ったらしい。けれど今はうっすらと口元が笑んでいるから、少しばかりホッとした。

父側視点の少し未来の話はこちら→

有坂レイさんは、「深夜(または夜)の畳の上」で登場人物が「離れる」、「人形」という単語を使ったお話を考えて下さい。https://shindanmaker.com/28927

 
 
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ツイッタ分(2020年-2)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2020年分その2です。
その1はこちら→

有坂レイへのお題は「君がいる日常」、アンハッピーなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

この気持ちに気づく前は、当たり前に君がいる日常はただただ幸せだった。でも気づいてから先は違う。一緒に過ごす時間の幸せが、少しずつ恐怖の感情に塗り替わっていく。結局嫌われるなら、気持ちを知られての嫌悪より、勝手に消えたことへの怒りがいい。だから君がいる日常を捨てる俺を追いかけないで

有坂レイへのお題は「実らなくても恋は恋」、あからさまなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

これはもう恋なのだと思う。相手は実の弟で、自分は兄で、つまり血が繋がっている上に同性だ。実るはずがないどころか、そもそも実らせる気など欠片もない。だからせめて、この好きって気持ちが恋だってことを、自分だけでも認めてあげたい。


クリスマス(ツイッタ分2019年「一次創作BL版深夜の真剣一本勝負 第287回」の二人です)

 随分疲れた顔をしてるから、なんて理由で差し出された袋の中にはカップケーキとか言うらしいものが入っていて、明らかに手作りとわかる見た目と包装だったけれど、めちゃくちゃに美味しかった。もっと食べたくてまた持ってこいよと言ってみたら、渡されたのはカップケーキではなくクッキーだったけれど、それもやっぱりすごく美味しくて更に次をねだった。
 お菓子作りが得意な彼女持ちなんだと思っていたし、羨ましさと妬ましさも含んでのタカリだった自覚はある。くれと言えばそう強い抵抗もなく渡されるから、こんな不義理な男がなぜモテるのだと不思議に思うこともあった。まぁそれに関しては、結局顔かと、一応は納得していたのだけれど。
 それがまさかそいつ本人の手作りで、菓子作りが趣味と知ったのは数ヶ月ほど前だ。その時に、彼女の手作り菓子を巻き上げてるつもりだったのを知られてドン引かれ、菓子のおすそ分けを停止されそうになったけれど、食い下がって謝って止めないでくれと頼み込んでなんとか事なきを得た。
 既に彼の作る菓子の虜なのだと、彼自身に伝わったせいだろう。頻度も量も変わらず、いろいろな菓子を渡してくれる。
 しかも、貰った菓子はだいたいすぐにその場で食べるのだけど、美味いと言って食べる姿を見る目は、以前よりもはっきりと嬉しそうだ。
 作った相手が目の前にいるということで、こちらも前よりは詳細に味の感想を言うようになったせいか、得意げにこだわりの部分を話してきたりもするし、リクエストに応じてくれることもある。
 キラキラと目を輝かせて楽しげに語ってくれる様子から、本当に菓子作りが好きなことは伝わってくるのだけれど、顔の良さでモテてるんだろうと思っていたような美形の、キラキラな笑顔を直視するはめになったのだけはどうにも対応に困っている。
 好きなのはお前が作る菓子だけと断言した際に、対抗するように、好きなのは菓子を作ることだけだからご心配なくと断言されているのに。最近は菓子を食べながらドキドキしてしまうことがあって怖い。美味い菓子が好きなだけのはずが、美味い菓子を作ってくれる相手のことまで好きになっている可能性を、そろそろ否定しきれない気がするからだ。
「メリークリスマス」
 そう言って差し出された透明な袋の中には、いかにもクリスマスな感じの型で抜かれたクッキーが数枚入っていて、やっぱりクリスマスを意識したらしい赤と緑のリボンが掛かっている。ただ、思っていたよりはシンプルだ。もっと気合の入りまくったものを作ってくるかと思っていた。
「まぁそれはオマケみたいなものだからね」
「は? オマケ?」
「ガッツリデコレーションしたケーキとか、学校持ってこれないし」
「つまりこれの他にデコレーションケーキを作ったって事か?」
「だけじゃなくて、ほかも色々。だってクリスマスだし、僕の趣味家族公認だし」
 彼が自宅で作る菓子の大半は、家族が消費しているというのは聞いたことがある。
「ああ、なるほど。家でパーティーとかするタイプか」
「しないの?」
「しない」
 大昔はそんなこともしていたような記憶があるが、両親は共働きで一人っ子となると、家族揃ってクリスマスパーティーなどもう何年も記憶にない。イベントという認識はあるようで、少しばかり渡される小遣いが増える程度だ。
「じゃあ来る?」
「は?」
「うちの家族に混ざってパーティーする?」
「え、なんで?」
「いやだって、なんか、食べたそうな顔したから」
「そりゃ興味はあるけど」
 彼が作る、学校には持ってこれないという菓子を食べてみたい気持ちはある。それを食すなら、彼の家に行かねばならないのもわかる。わかるけど。
「無理にとは言わないけどさ。でも実は、お前に予定ないなら誘おうと思って、お前の分のゼリーとかも用意してある」
「……行く」
 そこまで言われて、行かないという選択肢は選べないだろう。
 自分の分が既に用意されていると聞いた上で、楽しみだとキラキラな笑顔を振りまかれたら、なにやら期待しそうになる。でも相手は、作った菓子を美味しいと絶賛する人物に食べさせたいだけなのだとわかっているから、零れそうになる溜め息を隠すように、貰ったクッキーを口に詰め込んだ。


今年は6月の5周年を機に不定期更新となり、結果、殆ど更新のない状態ですが、それでも覗きに来て下さっている皆さんにはとても感謝しています。本当にどうも有難うございます。
結局、不定期更新になってから先に書けたものは少ないですが、最悪1年の長期休暇になる覚悟もしての隔日更新停止だったので、チャット小説という新しいことにチャレンジできたり、名前を呼び合うカップルが書けているという点では結構満足してたりです。
CHAT NOVELさんに納品済みの残り2作品の後日談はすでに書き上げてあり、年明け6日と8日にそれぞれ公開されるそうなので、それを待っての投稿となります。これは年明けのご挨拶でもう少し詳しく色々お知らせ予定です。
今年は新型コロナの影響で生活が大きく変わりましたし、この年末年始も色々と制限がありますが、感染対策を取りつつ少しでも楽しく過ごせればと思っています。
今年もあと残り数時間となりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

 
 
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