片想いが捨てられない二人の話1

 叶う見込みなんて欠片ほどもないような片想いを、もうずいぶん長く続けている。相手は面倒見がやたら良くて生徒との距離もかなり近い教師で、高校1年時の担任だった男だ。
 入学早々事故って入院というアクシデントに見舞われた自分の病室に、結構な頻度で見舞いに来てくれたその人は、退院後も何かと気にかけてくれたから。こちらも一人出遅れてしまった不安から頼りまくってしまったし、わかりやすく懐いてもいた。
 ただ、自分だけが突出して頼りまくったり懐きまくっていたわけではない。だって面倒見が良くて生徒との距離も近い教師が、人気がないはずがない。
 そんな相手に、どうやらガチ恋しているらしいと気づいたのはいつだっただろうか。始まりはわからないけれど、この想いを初めて伝えた日のことは覚えている。
 一生徒として扱われるのではなく、もっと特別な存在になりたい欲求を持て余して、突撃掛けて華麗に躱されたのは3年に上がった春だった。高校卒業まで1年を切ってしまった、という事実に焦ったんだと思う。それに実のところ、勝算ありって、信じていた。
 彼を慕う生徒は大勢いるが、積極的に絡みに行く生徒はそこまで多くはなかったし、その中でもかなり構って貰っている方だという自負があったのと、交際相手の性別にこだわりはないらしい情報を得ていたせいだ。
 長いこと彼を慕って周りをうろついていたせいで、本気っぽかった女生徒がいつの間にやら離脱している現象を数件把握してもいた。でも男の自分は変わらずに構って貰えているのだから、交際相手の性別にこだわりはなくても、どちらかといえばゲイよりなのだと思っていたのもある。
 大きな勘違いをしていた。本気っぽかった女生徒たちが離れていったのは、自分よりも先に彼に告白していただけだ。告白した結果、無理を悟って去っただけに過ぎない。
 そうして引いていった彼女たちは聡明だと思う。少なくとも自分のように、嫌われたり軽蔑されたりはしなかったのだから。
 思春期の若者が寄り添ってくれる身近な大人に惹かれてしまうことそのものは、ある程度仕方がないこととして彼も受け入れているようではあったから、告白時に応じる可能性が一切ないことを説明された段階で大人しく引いていれば、慕ってくれた生徒の一人として彼の記憶に残れたかもしれない。
 でも自分には失恋を認めて引くなんてことは出来なくて、最初の告白を丁寧にお断りされて以降もしつこく手を変え品を変えアプローチし続けた。相手が頑なになればなるほどこちらも躍起になって、段々と派手に迫るようになったせいで、夏が終わる頃には同学年どころか下級生の一部にまでも認識されていたようだった。
 一種の娯楽化だ。最終的に先生が落ちるかどうか、というのを興味津々に見守られていた。
 いい加減に諦めろと諭す声もあったが、応援してくれる声も多くて、自分自身、だんだんと卒業式を期限としたゲーム感覚になっていたのかもしれない。
 卒業式を間近に控えたあの日、数人の協力者を得て、先生とともに生徒指導室に閉じ込められた。狭めの空間に二人きりで、最後のチャンスとばかりに自身の服に手をかけた時の、軽蔑と落胆と、憎悪すら感じるあの目を、忘れられない。
 その目を前に怯んでしまった。何も、出来なかった。
 丁寧にお断りされた最初から叶う見込みなんてない想いだった。それをしつこく迫り続けて、嫌われるまでしたのに。卒業して、彼とは会うこともなくなったのに。
 未だに想いが欠片も風化する気配がなくて、カレンダーを前に泣きそうだと思った。
 明日、自分は二十歳になる。酒が飲める年齢になる。
 あれは恋なんてするずっと前の入院中の雑談で、彼が覚えているとはとても思えないけど。覚えてたとしても、そんなの無効って言われそうだけど。
 でも、間違いなく、いつか酒が飲めるようになったら一緒に飲みに行きましょう、という約束をした。
 病院食が口に合わなくてつらいって話から、好物の話になって、日本酒が好きだと教えてもらって、まだ飲めないのにって拗ねて、じゃあいつか飲めるようになったらって……
 スマホを持つ手も、画面に触れる指先も、かすかに震えている。我ながらバカみたいだと思っているし、そもそも連絡がつくのかも怪しいのに、どうやら試さずには居られないらしい。

続きました→

 
 
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大晦日の選択

* 恋人になれない、好きな気持ちを利用されてる、ハピエンとは言い難い微妙な関係の話です

 大晦日暇なら来てよ、という連絡がきたのはクリスマス当日の25日だった。タイミングからして、どう考えても恋人にふられたのだろう。
 予定は既に入っていたが、結局、大して迷うことなくそちらに断りの連絡を入れて、31日は夕方から相手の家にお邪魔した。
 着いてすぐから、こちらをもてなす気満々で用意されていた、茶菓子 → ディナー → 酒と軽いツマミ類という順に、延々と食べ続けている。まぁ、わかっていたので腹は空かせてきたし、もう慣れたといえる程度には繰り返しているので、食べるペースには気をつけている。
 さすがに、いくら食べてもあっという間に腹が減っていた10代とは違う。今でもかなりの大食いだと思うけれど、昔の食べっぷりを知っている相手はちょっと不満そうだ。
「もうお腹いっぱいだよ」
「じゃあ、最後にアイス。そのウイスキーにも合うはずだし、どう?」
「わかった。それで最後ね」
 言えばウキウキとキッチンに消えていく。
 グラスに残ったウイスキーをちびちびと舐めながら待つこと数分、器を片手に相手が戻ってっくる。
 差し出された器の中には、キレイな小ぶりの丸が3色詰まっていた。白とピンクと緑だ。
 相変わらず、いちいち手間がかかっている。
「ありがと。何味?」
「バニラと桃とマスカット」
 ふーんと相槌を打って、スプーンで掬ってまずは緑から口に入れる。甘酸っぱくてかなり濃厚にマスカットの味がする。どこの? なんて聞きはしないが、きっとお高いんだろう。そういう味だ。
「ん、美味しい」
「良かった」
 へへっと笑った相手が、テーブルの向かいから身を乗り出してきて口を開けるから、そこにも一匙すくって突っ込んでやった。
 何やってんだろなぁと思うが、普段食べれないような高級食品をあれこれと腹一杯食べさせて貰う代わり、と考えれば安いものだ。
「満足した?」
「まぁ、それなりに」
「まだ尽くしたりないの? それとも甘えたりない方?」
「んー、どっちも、かな」
 曖昧に笑った後、相手の視線がゆるっと下がっていく。テーブルがあるから腹から下は隠れているのに、その視線が何を思ってどこを見つめようとしているかは、問わなくてもわかっていた。
「ねぇ、」
「やだよ」
「まだ何も言ってないんだけど」
「だって聞かなくてもわかってるもん」
 初めて抱かせて欲しいと言われたのは、酒を飲める年齢になったときだった。それから何回か誘われて、でも、その誘いに応じたことはない。
「めちゃくちゃ優しくするよ?」
「知ってる。だからやだ」
 男相手の性行為が初めてだろうと、尽くしたがりを目一杯発揮した相手にドロドロに甘やかされながら、きっと気持ちよく抱かれてしまうんだろう。
「なんで? 俺のこと、好きなんだよね?」
「じゃなきゃ来てないよ」
「なら、」
「俺が慰められるのは、ご飯一緒に食べるとこまでだって言ったじゃん」
 自分の中では、セックスは恋人とするものだ。だからどんなに好きな相手に誘われたからって、それが失恋を慰めて欲しいなんて理由では断るしか無かった。
「それとも、俺と恋人になってくれんの?」
「それは……」
 そこで言い淀んでしまう相手は、一度だって「恋人になって」の言葉を発したことがない。抱かせてとは言うくせにだ。
 彼が恋人に選ぶ相手と、自分と、何が違うのかはわからない。別れた時に呼ばれはするが、恋人を紹介されたことはないし、どんな相手だったかを相手が話すこともないからだ。
「ほらね。てわけで、俺はそろそろ帰るから」
 もう一匙すくったアイスを相手に突き出しながら、言外に、甘やかすのはこの器が空になるまでだと訴える。
 大人しくそれを口に入れて飲み込みはしたものの、相手はやはり不満そうな顔を隠さなかった。
「大晦日なのに帰っちゃうの?」
「帰るよ」
「一緒に年越しするつもりだったんだけど」
 一緒に初詣も行こうよと誘う顔はなんだか必死で、年越しを一人で過ごすのが嫌なんだというのだけは良くわかって、諦めの溜息を一つ吐く。
 こちらの好きって気持ちを良いように利用されているだけだ。とは思うのに、突き放して関係を断つことが出来ない。
「泊まりはやだ。けど、帰るついでに一緒に初詣くらいはしてもいいよ」
「外、かなり寒いよ!?」
 明日の昼ぐらいに出かけたいと主張されたけれど、さすがにそこまで譲れない。
「一緒に出かけるか、玄関で俺を見送るか、俺はどっちでもいいよ」
 譲る気がないとわかったらしい相手が、苦虫を噛み潰したような渋い顔をして、諦めの溜息を吐き出した。どっちを選んでそんな溜息を吐き出したのかは、まだわからない。

ギリギリですが大晦日更新できました!
でもめっちゃ微妙〜
なんで大晦日にこんな微妙なもん書いてるんだと思いながら書いたけど、書いちゃったからには出しておきます。

 
 
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感謝しかないので

 寝る前に水分を取りすぎたせいか、尿意によって起こされてしまった深夜。トイレ側の和室にまだ明かりがついていることに気づいて、薄く開いた隙間から中を覗き見る。
 ローテーブルの上には晩酌のあとが残っていて、その机につっぷすようにして父親が寝落ちていた。
 数時間前、そこで一緒に酒を飲んでいたのは自分だ。
 席を立つとき早めに寝るよう促しはしたが、ある意味特別な日でもあったから強制はしなかったし、正直に言えば、この光景じたいが想定内とも言える。
 別に寒い時期じゃないし、明日は休みだし、このまま放っておいてもいいのかも知れない。
 でも見つけてしまったからには、やはり放ってはおけなかった。あんな体勢で長時間寝てしまったら、どこか痛めそうな気がする。
 せめて横にならせて、何か上に掛けてやろう。
 部屋の中に入って、机に伏した体をそっと引き起こしてそのまま後ろに倒した。そうしてから、ローテーブルの方を移動させて、足元のスペースを開ける。
 崩れた足をのばしてやって、後は何か掛けるものを持ってこようと立ち上がりかけたところで、服の裾を掴まれた。
 寝ぼけて呼ばれた名前は不明瞭だったけれど、どう間違っても自分のものではない。そして不明瞭ながらも、誰を呼んだかはわかっていた。
 もう随分と前に亡くなっているのに、この人は未だに母を愛し続けている。母よりだいぶ年下のこの男に、次の人を探すよう勧める人は多かったと思う。
 自分自身、連れ子だった自分の世話なんて、母方の親戚に放り投げれば良かったと思っているのに。20代半ばで小学生の子持ちとなったこの男は、愛する女性の忘れ形見だからと、血の繋がりもないのにそのままずっと育ててくれた。
 もちろん感謝はしている。この人が居てくれたおかげで、母と暮らしていた家も、友人たちも失うことなく生活を続けられた。
 けれどそのおかげで、自分もこの家から離れられない。結婚したいと思えるような相手だって作れない。別にそれでいいとも、思ってるけど。
 だって、この人が母を愛するのと同じくらいに愛せる女性となんて、きっと一生出会えない。だったら母を愛し続けるこの人の残りの人生に、このままずっと寄り添っていたかった。
 母の血を継ぐ自分は、きっと母の好みも受け継いでいる。もし娘として生まれていたら、母の代わりになれていただろうか、なんてことを考えてしまうくらいには、この男のことを好きだった。
 必死で父親をしてくれたこの人への、裏切りだと思う気持ちももちろんある。けれど、自分から今の距離を手放す気にはどうしたってなれそうにない。
 一緒に酒が飲める年齢になってからは、なおさら強くそう思うようになった。
 実はかなりの寂しがり屋で、息子が結婚して家を出ていき、この家に一人残されてしまうことを恐れている。なんてことを知ってしまったら、結婚を急かされようが気にならない。
 まぁ、結婚式で語りたい内容だとか、孫との楽しい触れ合いだとか、酔ったついでに色々と未来の夢を語られてもいるので、結婚はして欲しいのだろうとは思うけれど。
 寂しがり屋の彼のために、同居OKの嫁を探そうなんて気は全くないので、結婚式も孫との触れ合いも諦めて貰うしかない。
 そんなことをぼんやり考えながら、棚の上に置かれた小さな仏壇を見上げた。仏壇の横には、二人の思い出の品だというかわいらしいこけし人形が二体、仲良さげに並んでいる。
 昨日は母の命日だったから、夢の中で、母と会えているのかもしれない。あの二体のように、仲良く並んでおしゃべりでも楽しんでいたら良い。
 そんな想像に、二人のじゃまをしたくなくて服の裾を握られたまま動けずにいれば、自分の名前を呼ばれた気がした。
 まじまじと相手の顔を覗き見れば、次にはゴメンと謝られてしまう。
 どんな夢を見ているかわからないし、もし母と会っているのなら、その謝罪は自分へ向けられたものではないだろう。そうは思いはしたものの、うっすら滲んできた涙を放っておけない。
「謝んないでよ。ずっと、感謝しかしてないんだから」
 そっと目元を拭いながら、思わず口からこぼれた言葉に反応してか、相手の瞼が持ち上がる。
 ぼんやりとした目と視線が合ってしまって、慌てて体を離せば、相手は数度瞬きした後でまた瞳を閉じてしまった。
 暫く息をつめて相手の様子を窺ってしまったが、静かに寝息を立てていて、どうやらまた夢の中に戻ったらしい。けれど今はうっすらと口元が笑んでいるから、少しばかりホッとした。

父側視点の少し未来の話はこちら→

有坂レイさんは、「深夜(または夜)の畳の上」で登場人物が「離れる」、「人形」という単語を使ったお話を考えて下さい。https://shindanmaker.com/28927

 
 
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ツイッタ分(2020年-2)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2020年分その2です。
その1はこちら→

有坂レイへのお題は「君がいる日常」、アンハッピーなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

この気持ちに気づく前は、当たり前に君がいる日常はただただ幸せだった。でも気づいてから先は違う。一緒に過ごす時間の幸せが、少しずつ恐怖の感情に塗り替わっていく。結局嫌われるなら、気持ちを知られての嫌悪より、勝手に消えたことへの怒りがいい。だから君がいる日常を捨てる俺を追いかけないで

有坂レイへのお題は「実らなくても恋は恋」、あからさまなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

これはもう恋なのだと思う。相手は実の弟で、自分は兄で、つまり血が繋がっている上に同性だ。実るはずがないどころか、そもそも実らせる気など欠片もない。だからせめて、この好きって気持ちが恋だってことを、自分だけでも認めてあげたい。


クリスマス(ツイッタ分2019年「一次創作BL版深夜の真剣一本勝負 第287回」の二人です)

 随分疲れた顔をしてるから、なんて理由で差し出された袋の中にはカップケーキとか言うらしいものが入っていて、明らかに手作りとわかる見た目と包装だったけれど、めちゃくちゃに美味しかった。もっと食べたくてまた持ってこいよと言ってみたら、渡されたのはカップケーキではなくクッキーだったけれど、それもやっぱりすごく美味しくて更に次をねだった。
 お菓子作りが得意な彼女持ちなんだと思っていたし、羨ましさと妬ましさも含んでのタカリだった自覚はある。くれと言えばそう強い抵抗もなく渡されるから、こんな不義理な男がなぜモテるのだと不思議に思うこともあった。まぁそれに関しては、結局顔かと、一応は納得していたのだけれど。
 それがまさかそいつ本人の手作りで、菓子作りが趣味と知ったのは数ヶ月ほど前だ。その時に、彼女の手作り菓子を巻き上げてるつもりだったのを知られてドン引かれ、菓子のおすそ分けを停止されそうになったけれど、食い下がって謝って止めないでくれと頼み込んでなんとか事なきを得た。
 既に彼の作る菓子の虜なのだと、彼自身に伝わったせいだろう。頻度も量も変わらず、いろいろな菓子を渡してくれる。
 しかも、貰った菓子はだいたいすぐにその場で食べるのだけど、美味いと言って食べる姿を見る目は、以前よりもはっきりと嬉しそうだ。
 作った相手が目の前にいるということで、こちらも前よりは詳細に味の感想を言うようになったせいか、得意げにこだわりの部分を話してきたりもするし、リクエストに応じてくれることもある。
 キラキラと目を輝かせて楽しげに語ってくれる様子から、本当に菓子作りが好きなことは伝わってくるのだけれど、顔の良さでモテてるんだろうと思っていたような美形の、キラキラな笑顔を直視するはめになったのだけはどうにも対応に困っている。
 好きなのはお前が作る菓子だけと断言した際に、対抗するように、好きなのは菓子を作ることだけだからご心配なくと断言されているのに。最近は菓子を食べながらドキドキしてしまうことがあって怖い。美味い菓子が好きなだけのはずが、美味い菓子を作ってくれる相手のことまで好きになっている可能性を、そろそろ否定しきれない気がするからだ。
「メリークリスマス」
 そう言って差し出された透明な袋の中には、いかにもクリスマスな感じの型で抜かれたクッキーが数枚入っていて、やっぱりクリスマスを意識したらしい赤と緑のリボンが掛かっている。ただ、思っていたよりはシンプルだ。もっと気合の入りまくったものを作ってくるかと思っていた。
「まぁそれはオマケみたいなものだからね」
「は? オマケ?」
「ガッツリデコレーションしたケーキとか、学校持ってこれないし」
「つまりこれの他にデコレーションケーキを作ったって事か?」
「だけじゃなくて、ほかも色々。だってクリスマスだし、僕の趣味家族公認だし」
 彼が自宅で作る菓子の大半は、家族が消費しているというのは聞いたことがある。
「ああ、なるほど。家でパーティーとかするタイプか」
「しないの?」
「しない」
 大昔はそんなこともしていたような記憶があるが、両親は共働きで一人っ子となると、家族揃ってクリスマスパーティーなどもう何年も記憶にない。イベントという認識はあるようで、少しばかり渡される小遣いが増える程度だ。
「じゃあ来る?」
「は?」
「うちの家族に混ざってパーティーする?」
「え、なんで?」
「いやだって、なんか、食べたそうな顔したから」
「そりゃ興味はあるけど」
 彼が作る、学校には持ってこれないという菓子を食べてみたい気持ちはある。それを食すなら、彼の家に行かねばならないのもわかる。わかるけど。
「無理にとは言わないけどさ。でも実は、お前に予定ないなら誘おうと思って、お前の分のゼリーとかも用意してある」
「……行く」
 そこまで言われて、行かないという選択肢は選べないだろう。
 自分の分が既に用意されていると聞いた上で、楽しみだとキラキラな笑顔を振りまかれたら、なにやら期待しそうになる。でも相手は、作った菓子を美味しいと絶賛する人物に食べさせたいだけなのだとわかっているから、零れそうになる溜め息を隠すように、貰ったクッキーを口に詰め込んだ。


今年は6月の5周年を機に不定期更新となり、結果、殆ど更新のない状態ですが、それでも覗きに来て下さっている皆さんにはとても感謝しています。本当にどうも有難うございます。
結局、不定期更新になってから先に書けたものは少ないですが、最悪1年の長期休暇になる覚悟もしての隔日更新停止だったので、チャット小説という新しいことにチャレンジできたり、名前を呼び合うカップルが書けているという点では結構満足してたりです。
CHAT NOVELさんに納品済みの残り2作品の後日談はすでに書き上げてあり、年明け6日と8日にそれぞれ公開されるそうなので、それを待っての投稿となります。これは年明けのご挨拶でもう少し詳しく色々お知らせ予定です。
今年は新型コロナの影響で生活が大きく変わりましたし、この年末年始も色々と制限がありますが、感染対策を取りつつ少しでも楽しく過ごせればと思っています。
今年もあと残り数時間となりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

 
 
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ツイッタ分(2020年-1)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2020年分その1です。
その2は今夜22時頃に挨拶を添えて投稿予定です。

有坂レイの元旦へのお題は『不器用な独占欲・「あなたの匂いがする」・片恋連鎖』です。
#ふわあま #shindanmaker https://shindanmaker.com/276636

 帰省しない一人暮らし連中で年越しパーティーをしようと誘えば、相手は誰が来るのと聞いた。参加決定メンバーの名前を挙げていけば、あっさり彼も参加を決めたけれど、その理由はわかっている。彼が密かに想いを寄せる男が参加するからだ。
 なぜ彼が想う相手を知っているかと言えば、彼が自分の想い人だからだ。想う相手を見続けていたら、その相手が見ているのが誰かもわかってしまった。
 男ばかりの不毛な一方通行片想いに、気づいているのは自分だけだと思う。

 当日は一番広い部屋を持つ自分の家に総勢7名ほど集まった。
 想い人の隣席を無事ゲットした彼の、反対隣の席に腰を下ろして、彼を挟んで彼の想い人と話をする。だって彼との会話を弾ませるには、彼の想い人を巻き込むのが一番いい。彼の想い人に、彼へ返る想いなんて欠片もないとわかっているから、胸が痛む瞬間はあるけれど、割り切って利用させて貰っている。
 年明け前からいい感じに酒が回っていたが、年明けの挨拶を交わした後もダラダラと飲み続けて、気づけば大半が寝潰れていた。そして隣の彼もとうとう眠りに落ちるらしい。
 先に寝潰れた連中同様、寝るなら掛けとけと傍らに出しておいた毛布を渡してやれば、広げて被るのではなくそれにぼふっと顔を埋めてしまう。酔っ払いめ。
 そうじゃないと毛布の端を引っ張れば、顔を上げた彼がふふっと笑って、お前の匂いがする、なんて事を言うからドキリと心臓が跳ねた。
 そんな顔を見せられると、男が好きになれるなら俺でも良くない? って気持ちが膨らんでしまう。いつか、言葉にしてしまう日が来そうだと思った。


バレンタイン

 金曜だからと誘われて飲みに行った帰り、ほろ酔いで駅までの道を歩いていたら、隣を歩いていた同僚の男が前方に見えたコンビニに寄りたいと言う。急いで帰る理由もないので二つ返事で了承を返し、一緒にそのコンビニに入店すれば、その男は入口近くに設置されたイベントコーナーで足を止める。
 並べられているのはどう見たってバレンタイン用のチョコレートで、バレンタイン当日の夜というのもあってか、さすがに種類も数も残りが少ない。
「なに? まさか買うのか?」
「なぁ、どれが一番美味そうに見える?」
 それらをジッと見つめている相手に問えば、問いの答えではなく、全く別の質問が返される。それでも聞かれるがまま、一番気になる商品を指差した。
「美味そうっていうか、気になるのはこれかなぁ」
「ふーん。じゃ、これでいいか」
「え、マジで買うの」
 驚くこちらに構うことなく、その商品を手に取ると真っ直ぐにレジへ向かっていくから、頭の中に疑問符が溢れ出す。まさかコンビニに寄った理由がバレンタインチョコの購入だとは考えにくいが、相手の行動には一切の躊躇いがなく、他商品には目もくれなかった。
 すぐに会計を終えて戻ってきた相手に促されるまま外に出れば、ズイと差し出されるコンビニの袋。またしても脳内は疑問符でいっぱいだ。
「は? え? どういうこと?」
「さっき、」
「さっき?」
「言ってたじゃん。チョコ欲しい、って」
「あー……ああ、まぁ、言ったけど、でも」
 バレンタインの夜に男二人で飲みに来ている虚しさを嘆いて、ここ何年もご無沙汰だって言う話は確かにした。ただ、ご無沙汰なのは本命チョコ、って言ったはずなんだけど。確実に義理で渡されるチョコは、今年も数個は貰ってる。
「うん、だから、本命チョコ」
 グッと袋を押し付けて、くるりと踵を返すと、なんと相手は走り出す。
「あ、おいっ」
 慌てて声を掛けたが、相手の背中はどんどんと遠ざかって行く。今更追いかけたところで、多分きっと捕まえられない。
 大きく息を吐いて、押し付けられたチョコを取り敢えず鞄にしまったけれど、さて、本当にどうしよう。


SM=SiroMesiというツイを見て

 同窓会に参加して数時間。そろそろお開きも近そうだという頃合いに、少し離れた席から「SM同好会に入ってた」などという単語が飛んできて、思わず飲みかけだったビールを思い切り吹き出した挙げ句に盛大にむせてしまった。すぐさま隣から何やってんだの声と共に布巾が差し出され、わたわたと後処理に追われている間に、SM同好会についての話題は終わってしまったようだが、チラと視線が合った発言者が悪戯が成功したみたいなちょっと悪い顔で笑ったから、どうやらわざと聞かせたらしいと思う。

 二次会には参加せず、地元の同窓会だったにも関わらず自宅へも戻らず、わざわざ少し離れた駅に取っていたホテルに戻ったのは、結構遅い時間だった。隣には、先程SM同好会なる爆弾発言を投げ落とした男がいるが、もちろん偶然でも誘ったわけでもなく、元々、二人でこの部屋に泊まる予定だっただけである。
 高校時代そこまで仲が良かったわけでもなく、大学なんて飛行機移動が必要な遠さだった自分たちが、同窓会に合わせて一緒に帰省したり、同じホテルの同じ部屋に泊まるような関係になったのは数ヶ月前だ。連絡を取り合うような関係ではなかったから、まさか相手も同じ地域に就職していたとは知らなかったし、仕事絡みで顔を合わせたのは本当にただの偶然だった。
 懐かしさから意気投合し、そこから何度か飲みに出かけ、あれよあれよと恋人なんて関係に収まってしまったのは、間違いなく相手の手管にしてやられたせいだと思う。気楽に出会いを探す勇気など持たないゲイの自分には、一生恋人なんて出来ないと思っていたし、無駄に清らかなまま終わる人生だろうと思っていたのに。
 なんとなくそんな気がした、などという理由から、なぜかあっさりゲイバレした上に、バイで男とも経験があると言った相手に口説き落とされた形だけれど、今の所後悔はない。既に2度ほど抱かれたけれど、めちゃくちゃ気を遣ってくれたのは感じたし、出会いを求めたことはなくとも自己処理では多少アナルも弄っていたのが功を奏して、ちゃんと気持ちがいい思いも出来た。
 そして今夜、3度目があるんだろうという、期待は間違いなくあるんだけど……
「やっぱSM同好会、気になってる?」
 部屋に入るなりスッと距離を縮めてきた相手に、含み笑いと共に耳元で囁かれて、ビクリと体が跳ねてしまう。
「そりゃ、だって、てか、事実?」
「事実だよ。って言ったら、期待、する?」
 ピシリと体を硬直させて黙ってしまえば、可笑しそうなクスクス笑いが聞こえてくる。
「あれね、シロメシ同好会の略。白飯て白米ね。美味しい炊き方とか、白飯に合うおかず探しとか」
 吹いたビールの片付けで全然聞こえてなかっただろと続いたから、きっとあの後も、そんな説明をしていたんだろう。なるほど。あの悪い顔の意味がやっとわかった。
 ホッとしたら体から力が抜けて、咄嗟に隣に立つ男に縋ってしまう。ジム通いもしている相手の体は逞しく、よろける事なく支えてくれる。
「あんま脅かすなよ」
「んー、残念。これ、脅しになるのかぁ」
「え、残念て?」
 思わず聞き返せば。
「白飯も好きだけど、プレイ的なSMも、好きなんだよね。っつったら、どーする?」
 再度身を固めてしまえば、元々耳元に近かった相手の顔が更に寄せられ、チュッと食まれた耳朶にチリとした痛みが走った。

その2はこちら→

 
 
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禁足地のケモノ

 秘密の場所がある。神隠しにあうだとか異世界に繋がっているだとか、入ったら二度と戻れないと言われる入ってはならない禁足地らしいが、死のうがどこか別の世界に連れて行かれようが構わない。ただ、今の所、帰れなかったことはない。
 そこに奥へと続く道があるなんてとても思えないような木々の隙間に身を滑らせて、目的の場所へと急ぐ。とはいえ足を怪我しているため、走れはしない。それでも15分ほど歩けば、少し開けた場所に着く。
 そこにはギリギリ温泉と呼べそうな、ぬるい湯が湧き出る小さな泉があって、それを守るかのように一匹の大きなケモノが寝そべっている。四足の、犬に似たケモノが何者であるかは知らない。
 着ていた服も怪我の包帯も全て脱ぎ落とし、寝そべるケモノの前に腰を下ろせば、ようやく閉じた目を開けたケモノがのそりと身を起こす。
「おはよう」
 そろそろ日が落ちそうな時間ではあるが、構わず告げて手を伸ばした。大人しく撫でられるがままの相手を存分に撫で擦ってから、相手の耳元に顔を近づけて、お願い、とささやく。
「ね、その泉、使わせて」
 失敗しちゃったと苦笑しながら、怪我した部位を指させば、大きく腫れている上に深い切り傷まである腿のその場所へ、相手の顔が寄せられる。ふんふんと匂いを嗅いだ後、既に血は止まっているものの、パクリと開いたままの傷の上をベロリと舐められた。
「ぐぅ、んっっ」
 何をされるかわかっていて覚悟はしていたものの、痛みに堪えきれなかった声が少しばかり漏れてしまう。治したい部位を相手に舐められてから、というのがどういう意味を持つのかはわからないが、そういうものなのだと思って深く考えたりはしない。今後も生きてここを利用したいなら、深入りするべきじゃない。
 許可を貰って、泉に身を浸す。傷が癒えるにはそれなりに時間がかかる。けれどほぼ一晩、その泉の中で過ごせば、僅かな鈍痛が残る程度まで回復していた。腫れは引き、あんなにパックリと開いていた傷すら、薄っすらと赤い線が残るのみだ。
 泉から上がって、やっぱり目を閉じ寝そべるケモノに近寄った。そっとその頭をなでて、耳元に口を寄せ、ちゅっと軽く口付ける。
「ありがと。もう、大丈夫。でさ、今回も、礼は俺でいい?」
 ソコを利用するなら、それに見合った報酬を。というのはこの秘密の場所を知る者たちの間では既知の事柄だけれど、どの程度の報酬が妥当なのかという判断は難しい。なんせ相手は言葉でやりとりしないケモノなので。
 黙って受け取ってもらえれば生きて帰れる。というだけで、生きて帰った者の、このくらいの傷に幾ら払ったという情報が、時折聞こえてくるだけだ。
 満たなかった場合にどうなるかの情報が一切ないので、相手の満足行くものが提供できなかった場合は殺されるだとか食べられるだとか、別の世界に連れて行かれるだとか、つまり戻って来れないという話はそういう部分からも発生している。思うに、怪我が酷すぎて、ここまでたどり着けないとか、たどり着いても治らずここで息絶えるだとか、という理由で戻れないだけなのだろうけれど。
 なんでそう思うのかと言うと、この身を差し出して帰れた事が既に数回あるからだ。正直言えば、どうせ死ぬならこのケモノに見守られて死にたい、なんてことを思っての利用だった。それくらい酷い怪我をして、到底それに見合うと思える報酬など所持してなくて、死ぬつもりで訪れた。まさか、なんとかたどり着いたもののすぐに意識を失い、気づいたら傷は癒えていて生き長らえてしまうなんて思ってなかったし、死ぬ気で来たから差し出せるものはこの身ひとつしかない、と言って、食われるのではなく抱かれるなんて目に合うとも思ってなかった。
 多くの場合、噂を信じて訪れるのだろうから、それなりの報酬を用意し積むのだろうし、自分だって、体を差し出してこのケモノに抱かれることを報酬とした、なんて事は口が裂けても教えないから、僅かな報酬で許された者はそれを口外しないってだけだろう。
 同じように体を差し出している者がいるのかどうか、少しだけ、知りたい気もするけれど。だって、こんな真似をしているのが、自分だけならいいのにと思ってしまう気持ちがある。
 わざと危険な仕事に手を出して、ここを利用したくなるような傷を負っている自覚はある。何事も起こらず成功することも当然あるし、それなりの報酬を積むことだって簡単に出来るのに、いつだって一銭も持たずに訪れている。
 言葉を交わせないケモノ相手に、まさかこんな想いを抱く日がくるなんて思わなかった。そんな自嘲にも似た笑いを乗せて、身を起こした相手の鼻先に唇を寄せた。

 
 
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