それなりの準備は自分でしてみたものの、今まで弄ったり、ましてや拡げようなんてしたことがないその場所を、男と繋がるための性器に変えるのは大変だった。
さっさと童貞を捨てたいだろうに、相手が思いのほか辛抱強く、慣らす行為にむしろ積極的だったのは助かったが、でもその分めちゃくちゃ恥ずかしい。恥ずかしさから早く入れろと思う気持ちと、痛いの嫌だし十分慣らされたいって気持ちとの間で揺れる。
「うっ、……ぁっ……」
指を増やされたせいで、苦しげな息が漏れているのが自分でもわかる。
「ゴメン、辛い? 戻す?」
戻すというのは、指を減らした状態でもっと慣らすかという意味らしい。
「痛く、ないから、へーき」
そのまま続けろと言えば、辛かったらちゃんと言ってよと、頼りなげな声が掛かったものの、埋められた指の動きが少しずつ大きくなっていく。
セックス中、感じている演技をする女性が少なからず居るらしいが、自分が抱かれる側になってその気持ちが少しわかる気がした。もう少しアンアン出来れば、きっと相手も安心して先に進めるだろう。
うん、でも、無理。ちょっとそれどころじゃない。
自分の体に起こっている未知の感覚に、慣れるだけでも精一杯だった。
「ふあぁっ、ん……んぁあっ、あっ……」
それでも意識すると少しは変わるらしい。恥ずかしい気持ちをねじ伏せて口を開き、少しでも気持ちが良いと思った時にはなるべく声を出してみた。
「ここ? これ? これ気持ちいいの?」
素直に聞いてくるから、恥ずかしさは倍増する。ばかやろうと思うのに、でもそんな憎まれ口を叩く気にはならなかった。
「ぁあ、ん、た、多分、きもちぃ」
「わ、わかった」
そんなやり取りを何度か繰り返せば、最初は気のせいみたいだった僅かな快感が、はっきりと自覚できる大きさに膨らんでいく。自分の体のことだけれど、まさか本当に感じ始めるとは思っていなかったので、驚きと安堵が入り混じって、喘ぎながらもなんだか泣きそうになった。
「えっ、ど、どうしたの?」
すぐに気付かれたが、どう説明していいかなんてわからない。
「な、なんでも、なっ」
「なんでもないわけないだろっ。何? 言って。教えて。嫌になったなら止めるから、だから、泣かないでよ」
「バカかっ」
「酷っ」
「ちゃんと、気持ちぃの、びっくりしてる、だけ」
「本当? 本当に気持ち良く、なれてる?」
「ほん、と」
演技で喘げるほど慣れてねーよなどと言える余裕はもちろんなかったが、それでも相手は嘘とは思わなかったようで、安心した様子で嬉しそうに笑った。
「ね、じゃあ、そろそろ、いい?」
必死で頷けば、涙の浮きかけた目元に唇が落ちた後、きざったらしいことすんなと言うより先に、体の中に埋められていた指が引きぬかれていく。
「んあぁぁあっ」
ぞくぞくと背筋を走る確かな快感に声を上げた。
「だいじょうぶ?」
「いちいち聞くな、バカ」
「だって気になる」
「いいからさっさと来いよ」
「待って今ゴム着ける。というか、指入れてる時とのギャップ凄いんだけど」
「うっ……っるさいな。余計なこと言わなくていいから早くしろって」
「えーもーどんだけ可愛いくなる気なの」
「は?」
「可愛いよ。凄く、可愛い」
「はぁああ??」
言葉をなくしてはくはくと口を開けたり閉じたりしている間に、ゴムを着け終えた相手が足の間に割り入ってくる。
「そんなビックリされると、こっちもビックリだよ」
「いやだって、お前、か、かわいい……って……」
「好きな相手可愛く思うのなんて、当たり前のことだと思ってたけど」
「う、…あ、ああ、うん。そ、そうか」
「そこで照れちゃうのもビックリなんだけどさ。あの、本当に、大好きだから。だから、その、初めてだし、その」
もごもごと口ごもる相手に、だって童貞だもんなぁと思ったら、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「ああ、うん。大丈夫だからおいで。ちゃんと童貞、貰ってやるから」
伸ばした手で相手の腕を掴み、そっと自分に引き寄せる。相手は少し困った様子で、ギャップ凄すぎと苦笑した後、ゆっくりと挿入を開始した。
「んっ、んんっ、ぅああっっ」
「ご、ごめっ」
「あやまんなっ」
平気だからとむりやり笑って見せたら、カッコイイのに可愛すぎて困る、なんてことを呟くように漏らしながら腰を進めて来る。
さっきから人を可愛い言いすぎだ。童貞丸出しでいっぱいいっぱいのお前だって、こっちからすりゃ相当可愛い。
なんてことを言える余裕はもちろんない。だから無事に繋がれたあかつきには、まずは童貞卒業おめでとうと言って思いっきり頭でも撫でてやろうと思いながら、詰まりそうになる息を意識的に吐き出した。
<終>
ダラダラと長い期間お付き合いありがとうございました。この二人のお話はこれで終わりたいと思います。
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