今更嫌いになれないこと知ってるくせに21

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 汗だくになって戻ったら、玄関先で待ち構えていた姉に、義兄と二人、夏の昼時に1時間近くも散歩なんてバカじゃないのと怒られた。義兄が姉をなだめつつも追加でお叱りを受けている間に、先にシャワーを借りて汗を流す。
 取り敢えずで借りたラフな短パンとTシャツでリビングに戻れば、入れ替わりで義兄が汗を流しに行った。
 キッチンの姉に喉が渇いたと言えば、勝手に飲んでと麦茶のボトルとグラスが渡される。姉は本日の昼食を作っているようで、どうやら昼メシは冷やし中華らしい。
 一応形だけ何か手伝うかと声をかけたが断られ、しかしなんとなくその場にとどまったまま、麦茶を飲みつつ出来上がりを待ってしまった。
 義兄は姉に何かを伝えただろうか?
 何か聞いたかと問えば良いのかも知れないが、ヤブヘビになっても嫌だなと言う気持ちから躊躇ってしまう。やがて盛り付けを終えた姉は、ようやくこちらをしっかりと振り向き、呆れ混じりの苦笑を見せた。
 あんたって昔はそんなに臆病者じゃなかったハズなのにねとため息混じりに告げると、仲直りできたとしか聞いてないわよと、やはり呆れた口調で続ける。そもそも喧嘩してたのも初耳だけど根掘り葉掘り聞かれたくないから逃げてたんだろうし、過ぎたことを今更どうこう言う気もないからこれから先のことを考えてと言いながら、姉は大きめのお盆に冷やし中華2皿と空のグラス1つを置いて差し出してくる。
 意味がわからずそのお盆を見つめてしまえば、甥っ子の部屋に持っていくようにと言われた。そういえば最近は部屋に引きこもって勉強しているという話だったか。というよりも、どうやら義兄と顔を合わせることを避けているらしい。
 理由はわかりきっている。ひしひしと負い目を感じながら、手の中のグラスをお盆の上に置いた。2つのグラスになみなみと麦茶を注いでから、じゃあ行ってくると言ってそのお盆を受け取り甥の部屋へと向かう。
 姉の家に上がること自体が10年ぶりくらいだけれど、何も言われていない以上、甥の部屋の場所も変わっていないんだろう。迷うことなく辿り着いた部屋のドアを叩けば、少ししてドアがそっと開かれる。
「手ぇ塞がってっからもっと開けて」
「えっ? ってかええっ!?」
 あんまり驚いているから、どうやら何も聞いていなかったようだ。肩でドアを押すようにして部屋に入り込んでも、甥っ子は呆然とこちらを見ているだけだった。
「これどこ置けばいい?」
 勉強机の上は参考書やノート類が広げられているし、まさか床に下ろすわけにも行かず、お盆を持ったまま問いかける。
「何しに来たんだよ」
 ようやく最初の驚きが収まったようで、甥の発した声は不審げで、苛立ちを抑えている様子が窺えた。
「進路、変えたいんだって?」
「進路を変えるわけじゃない。希望大学を変えただけ」
「あー、うん。だからそれ。随分遠くの大学らしいな」
「にーちゃんに関係ない」
「関係おおありだよ。それでこっち戻ってるんだから」
「なんでだよっ」
「それよりこれどーすんの。昼メシ。このままこれ持って突っ立ったまま話しろって?」
 参考書の上に置いても良いのかと聞いたら、軽い舌打ちの後でテーブル出すよと返された。引っ張りだされてきた折りたたみ式のローテーブルは、自宅のよりも更に一回り小さくて、二人分の冷やし中華の皿と麦茶のグラスを置いたらほぼいっぱいだ。
 そんな小さなテーブルを挟むように向い合って座れば、慣れない距離の近さになんだか落ち着かない。それは相手も同じようで、頂きますと小さく呟くように告げた後は無言のまま、勢い良く皿の中身をかっこんでいく。
「そんな慌てて食べなくても……」
 鋭い視線に一瞥されて、言葉は尻すぼみになって最後は小さな溜息を漏らす。
 結局、こちらが半分ほどを食べた辺りで、皿をカラにした甥っ子は立ち上がってさっさと距離を置いた。しかも、こちらの背後の勉強机へ向かうのではなく、正面に位置するベッドに腰掛けてこちらをジッと見ている。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに20

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 土曜の朝に家を出て、実家近辺へは10時を少し過ぎたあたりに到着した。姉から伝わっているかもしれないが、親へは何も言わずに戻ったので、実家へは寄らず直接姉の家へと向かう。
 姉宅の前をウロウロと行ったり来たりしている人物については、道の角を曲がったところからはっきりと見えていた。随分とあからさまに不審なその人物が、義兄であることに途中で気づき歩を止める。姉には昼前には行くと言っておいたから、要するに自分の到着を待たれているのだと思った。
 なぜ義兄が自分を待っているのかがわからなくて、頭なんてその姿を認めた瞬間から真っ白だ。湧き出る不安に、回れ右して逃げ帰りたい衝動。けれどそれを必死で耐えた。
 呆然と立ち尽くす自分にやがて向こうも気づき、嬉しそうな笑顔とともに名前を呼ばれた。笑顔に安堵しつつもギクシャクと会釈を返して、それからゆっくりと歩み寄っていく。
 きっちり頭を下げつつお久しぶりですと堅苦しい挨拶を告げても、相手はやはりニコニコと笑いながら、けれど有無を言わさぬ強引さを持って、ちょっと散歩に付き合ってと言った。
 躊躇いは大いにあったが、結局歩き始めてしまった義兄を追いかけ、その隣に並んで歩く。どこへ向かって歩いているのかもわからないまま、義兄の振ってくる他愛無い話に付き合って居るうちに、だんだんと気持ちが落ち着いていくのがわかる。
 ずっと逃げ続けていたけれど、いざ二人きりになってみたら、普通に会話ができている。心が騒いでトキメイて切なくなって、抱きつきたい抱きしめたい衝動を、なんとか堪えながら逃げ出す隙を必死で探す、なんて現象はどうやらもう起こらないらしい。
 この人のことがあんなにも好きだったという記憶は間違いなくあって、けれどもうその気持ちで苦しくなることはなかった。そういう恋をしていたのだという、どこか甘酸っぱく恥ずかしい思い出でしかなかった。
 ホッとしてそれから、若いころの義兄によく似た甥っ子のことを思い出す。彼も後20年位したら、今の義兄のような外見になるのだろうかと、以前より少しだけ全体的にふっくらとした義兄を見つつ考える。しかし見ながらも、少し不思議な違和感を感じていた。
 あんなに似ていると思っていた義兄と甥っ子だけれど、こうして義兄本人と会って話していると、実はそんなに似ていないような気がしたからだ。いやでも似ていると感じたのは昔の義兄であって今の義兄ではない。そう考えてはみるものの、今見ている義兄はやはり、昔散々お世話になったあのお兄さんが年を重ねた姿なのだとはっきり認識できている。
 義兄の横顔をチラチラと見ていたら、当然それには気づかれたようで、ふいに振り向いた義兄とまっすぐ見つめ合うことになってしまった。歩きながらずっと穏やかな笑い混じりの会話を重ねていたのに、振り向いた義兄に笑みはなく、随分と真剣な顔をしていて息を呑む。
 しかしそれは一瞬で、義兄は困った様子で苦笑しながら、そんなに似てるかなと言った。実際はそんなに似てないと思うよと続けた義兄は、昔の写真出してきてもいいけどとまで言うから、それが何を指しての言葉かはすぐにわかった。
 どこまで知ってるんですかと尋ねた声は、緊張からか掠れてしまう。
 義兄は少し迷う素振りを見せた後、うちの子が君を大好きで、でも父親である俺と似てるからって理由で振られたらしい、って事はなんとなくわかってると返された。更に、俺のことは嫌いでも息子は別と考えて彼自身を見てやってくれないかと続いた言葉に、大いに慌てる。
 散々避けて逃げていた理由を、今更、あれは好き過ぎて近寄れなかったなどとは言えない。けれど、違います誤解です嫌ってないですと繰り返せば、少し驚いた顔をしたあと、納得がいったと言いたげに頷かれてしまった。
 ああ、とうとうバレた、と思った。
 しかし知られてももう、それに恐怖するような感情も不安もなく、かといって気持ちが高揚することもない。義兄へ向かっていた想いはとっくに終わっているのだということを、再確認しただけだった。
 今も? という質問に首を振りつつイイエと返せば、ホッとしたように笑いながら、頭なでても良い? などと聞いてくる。そしてすぐ、は? と聞き返しただけで了承など告げていないのに、伸びてきた手がガシガシと頭をなでていった。しかも、ありがとうとごめんなの言葉付きだ。
 好きになってくれてありがとう。何も言わずに今まで距離を置いてくれてありがとう。結果、家族とずっと疎遠にさせて本当にごめん。
 勝手に逃げまわっていたのはこちらの方で、感謝や謝罪など貰う立場にはないのに、そんなことを言われてしまって、たまらず涙がこみ上げる。しかしここは人通りは少なくとも屋外の路上で、いい大人が感極まったからとべそべそ泣くわけにもいかない。
 グッと堪えていたら、もしかしてうちの息子のことも好きで避けてたりする? という追撃が来て、こらえきれずにボロリと涙が落ちていった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに19

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 甥っ子と過ごした楽しい日々と、成り行きで触れてしまった甘い時間。必死で求めてくれたのに、結局逃げて泣かせて、あんな顔で帰してしまった罪悪感。
 甥っ子が居なくなっても、一人の時間に考えるのは甥っ子のことばかりだった。
 彼の想いを受け入れていたら、恋人になろうと言えていたら。そんなもしもを考えては、親のことや姉や義兄の事、世間の目や彼の将来などを理由に、思いとどまったことを正当化しようと試みる。うまく行きっこないし問題は山積みだ。なのに考えても考えても、そこに未練は残っていた。
 嫌いだと言われた。言い聞かすように何度も繰り返された。だからもう遅いという想いと、まだ間に合うのではという想い。
 ではもしも間に合ったとして、彼の元へ行けるのか。行って直接、彼の求める言葉を吐いて、これからも好きでいてくれと請うことが出来るのか。
 そんなこと出来るわけがない。してはいけない。それなのに、そうしてしまえたらと思う気持ちが、日々膨らんでくるような気さえする。
 こんなに気持ちが乱されるのはいったいいつ以来だろう?
 だってやはり彼は特別だった。自身の興味と好奇心とで都合よく関係してきた、今までの相手とは違う。
 そんな風に、甥のことばかり考える日々のなか、姉から1本の電話が入った。
 かわいい息子に一体何をしたのだという怒りの電話に血の気が引いたが、まさかバカ正直に致した内容を伝えられるはずもない。ゴニョゴニョと濁しているうちに、互いにおかしな状況に気づくこととなった。
 進路で揉めていたというのは確からしいが、彼の自宅から通える場所のほか、どうやらここの近辺にある大学も提案していたらしい。たまたま彼の希望する進路に合う学科があったからとのことだが、そういえば、自分の大学時代の生活やらは色々話して聞かせた記憶があるが、甥っ子自身の進路についての話なんてほとんどしなかった。
 むしろなかなか実家に帰らない自分を案じて、甥っ子をここに送り込んでやれという思惑があったようで、それには自分の両親も賛成していたという。どうやらこちらの大学を選ぶなら、両親も多少援助するという話になっていたらしい。代わりに、たまには様子を知らせてほしいとか、出来れば帰省時に一緒に連れ帰ってほしいとか、勝手に夢を膨らませていたようだ。
 いっそ二人で住んだら生活費が節約できて良さそうだなどと、こちらの意向はまるで無視して話が進む中、勝手に話を進めるなと怒った甥が、本人に聞いて確かめると家を飛び出したというのが、彼がここへやってきた経緯なのだと姉は言った。
 もちろんそんな話は初耳だ。
 それでも、こちらの都合も聞かずに勝手に盛り上がる姉と母に怒っていただけで、甥自身もそこまでその話を嫌がってはいなかったはずだと姉は続けた。甥っ子が母から実家の味付けを教わっていた事も、それが自分に振る舞うためだということも、姉ももちろん知っていた。怒って飛び出したのも半分はあんたのとこ押しかけるためのパフォーマンスと言い切った姉に、母親ってのはなんだかんだ子供の行動を見透かしているものなのかなとも思う。
 しかもなんだかんだここにいる間、数回電話で連絡を取り合ってもいたそうだ。
 日中、件の大学に見学へ行っていたなんて話も、もちろん自分はまったく知らなかったが、そこでそれなりに手応えを感じてもいたようだ。前向きにこちらへの大学進学を検討したいと、そこそこ楽しく生活をしてるらしいことが伺える報告に、安心していたのにと言って姉は溜息を吐いた。
 そんな甥が、ここから帰って暫く部屋にこもった後、遠方の国立大学を狙うと言い出したそうだ。学費と下宿に掛かる費用と、祖父母からの援助がない事を考慮しての選択だという事はわかるが、それよりも姉が問題にしているのは、実家からも叔父である自分からも逃げようとしている事らしい。
 あんたの二の舞いにしたくないと言った姉は、ここで遠方への進学を認めたら、自分のように甥っ子が実家へほとんど帰らなくなるだろうと危惧していた。そして多分それは現実になるだろうと自分ですら思う。
 一緒に暮らすのが無理にしても、生活圏が被るのすら嫌なほど、かつてはあんなにも可愛がっていた甥っ子を排除したいのかと問われ、咄嗟にそんなことはないと否定を返す。しかし、ならば一体どんな仕打ちをしたら、何を言ったら、実家からすら逃げ出したいと思うような事になるのだと言われて言葉に詰まる。
 帰宅後こちらでの話を避けて、暗く沈んでいる時間が多いのも気になるのだと言った姉は、あんたのせいだから責任持ってなんとかしろなどと言う。彼が沈む原因も遠方へ逃げたがる原因もわかっているが、責任を持ってなんとかしてしまうのが問題なんだと、姉相手に説明できるわけもない。
 ためらう様子に、姉は再度溜息を吐き出した。
 とにかく一度こっちに帰ってこれないのと言う、伺いの言葉は自分にとってはもはや命令と脅迫に近い。結局、週末に一度実家へ戻ることになってしまった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに18

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 嫌いだと言われるたびに頷いて謝ってを繰り返すうちに、その間隔がだんだんと開き、やがて静かになる。それでも暫くは抱きしめたまま動かずにいた。
 腕の中の男が、あの小さかった甥が成長した姿なのだということは、もう納得ができている。泣いて拗ねて口をとがらせるなんて姿を、義兄相手に妄想したことがないから、あの時点でこれは義兄ではないのだとはっきり認識したようだ。いちいち可愛い仕草の端々に、幼かった頃の彼の姿が見えていた。
 そして、内からあふれるこの愛しさは、相手が甥だからというだけではないようだという事も、さすがにもう自覚している。甥っ子が成長した姿なのだと、わかっていつつも受け入れきれる前から、トキメイて心揺すられていたのだから、ただ認めたくなかっただけで当然といえば当然なのかもしれない。
 けれど自覚したからといって、甥っ子の気持ちを受け入れて恋人になれるかはまた別問題だ。どう考えたって、たとえ本人が否定したって、10も年下の子供を誑かしたとしか言えない状況に、どうしたって責任を感じてしまう。親や姉や義兄に顔向け出来ないと思ってしまう。
 ずっと逃げ続けた人生で、逃げることに慣れてしまった。特定の恋人と長く続かない理由も、そんな自分の逃げ癖のせいだということは、なんとなく理解はしている。わかっているから、性に緩くて適当に遊べる相手以外とは、あまり付き合わなくなってしまった。
 今回こうして甥っ子を酷く泣かせてしまったように、優柔不断で逃げ腰の態度は確実に相手を傷つける。そして結局は自分自身も辛くなって苦しむのだ。
 大きくため息を吐き出しても、腕の中からの反応はない。
 確実に眠ったであろうことを確認するように、そっと体を離して寝顔を覗き込む。真っ赤になった目元に唇を寄せる。
「お前が俺を嫌いになっても、俺はお前がずっと好きだよ」
 きっと義兄への想いを引きずってきたように、ここまではっきりと自覚した以上、甥っ子への想いもまた、これからは引きずって生きていくんだろう。
 このまま本当に嫌ってくれるなら、きっとその方がいい。そう思うことこそが逃げ癖なのだと自嘲するものの、別の道を選べそうにはなかった。
 
 
 ぐだぐだと考えているうちに自分も眠ってしまったようで、平日の朝よりは少し遅い時間に、朝ごはん出来たけどと躊躇いがちに声をかけられ目を覚ます。ゆっくりと体を起こし、ぼんやりとテーブルと甥っ子とを交互に見ながら、昨夜のあれは夢ではなく紛れも無い現実だったと思い知る。
 きっちりと服を着込んだ甥っ子の目元は未だ赤く、その顔には当然笑顔はなかった。
「おはよ。ご飯、食べれる?」
 むりやりに作られた笑顔が痛々しい。
「もちろん食うけど、……」
「食うけど?」
「いや、まさか、まだ飯作ってくれるとは思ってなくて」
「あー、うん……最後かなって思って」
 朝ごはん食べたら帰るねという宣言に、わかったと頷く以外に出来るはずもない。胸の痛みに少しばかり顔を顰めてしまったら、心配と不安とを混ぜたような顔を向けられたけれど、甥っ子から言葉がかかることはなかった。
 結局、会話も少なくどうしたって気まずい朝食を、食後の片付けまできっちり終えてから、甥っ子は既にまとめられていた荷物を手に立ち上がる。
 駅まで送るかという申し出は断られ、それでもさすがに玄関先までは見送りに出た。
「長々とお世話になりました。居座って本当にごめんなさい」
 靴を履いてから振り返り深々と頭を下げる。
「いや。こっちこそ色々ごめん。後、メシ美味かったし、掃除とかもけっこう助かってた。ありがとう」
「なら、良かった」
 ふわっと笑う顔が可愛くて、本当に名残惜しい。抱きしめて帰るなと言ってしまいたい衝動をなんとか堪えていると、おずおずと伸ばされた手が遠慮がちに服の裾を握って引いた。
「あ、あのさ、……」
「うん」
「最後に、……いや、やっぱいいや」
 するりと服に掛かった手が落ちていくのを咄嗟に掴んでしまったら、ふにゃっと顔を崩して泣きそうに笑う。
「最後まで未練たらしくて本当にごめんね。バイバイにーちゃん、元気で」
 掴まれた腕を振りほどきながら一歩後ずさると、クルリと踵を返して玄関ドアを開けて出て行く。
 泣きながら帰るのだろうかと思うと胸がギチギチと痛むのに、目の前で閉じたドアを自ら開けて、その背を追いかけることはやはり出来なかった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに17

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 目が合ったと思った瞬間、ぶわりと盛り上がる涙に焦る。焦っている間にそれはあっという間に瞳からあふれて流れ落ちた。
「にーちゃんの嘘つき」
「えっ…?」
 ふにゃんと顔を歪ませながら、こちらの戸惑いを構うことなく、甥っ子は言葉を続ける。
「やだって言った。触っても言ったのに」
 グスッと鼻をすする甥っ子が何を言いたいかはわかった。それを言うなら、意地悪じゃなければこちらの抱き方でいいだとか、抱き方を教えてだとか言ったのは誰だと言ってやりたかったが、さすがにそれは飲み込んだ。
「あー……うん、ゴメン?」
「悪いと思ってない」
 思わず疑問符が付いてしまったのを聞き逃さなかったようで、やはりグズグズと鼻をすすりながらも口を尖らせる。酷く子供っぽいしぐさに、逆に愛しさが込みあげるのだから不思議だった。
「そりゃあなぁ……」
「やっぱりだ」
 酷いと口にされても苦笑するしかない。
「だってお前、実際後ろだけでイけたろ? しかも指3本で」
「そーだけどっ」
「俺はお前に気持ちよくなって貰おうと思っただけで、意地悪してたつもりはないぞ?」
 宥めるつもりで頭に手を乗せ、ゆっくりと撫でながら言葉を続ける。
「やだったなら、ここまでにするか」
「えっ?」
「このまま続けても、お前にさっき以上に怖い思いさせるだろうし」
「え、待って。なんでなんで」
 慌てたように起き上がってこようとする体を制して、逆に自分が甥っ子の隣に寝転んだ。よいせと声をかけながら、仰向けの甥っ子の体を自分側へと向けさせ、軽く引き寄せるようにしながらゆるりと抱きしめる。
 抱きしめた瞬間、本当に大きくなったと、しみじみ思った。なぜか、泣いて口をとがらせ拗ねる姿に、カチリと昔の甥っ子の姿がハマったようで、酷く愛しい気持ちが湧き続けている。
「自分では指2本までしかしたことなくて、しかも2本入れたらあんまり気持ちよくなれないって言ってたもんな。それが指3本入って、前触られないままイッちゃうとか、たとえ、いずれはそうなれるって知ってても、初めての体験にビックリしたろ。途中、怖いとも言ってたよな。ようするに、まだ早いんだよ、繋がるセックスするにはさ」
「嘘っ、やだよ。約束した。抱いてくれるって言った」
「うん。だから抱いたろ。繋がるとこまでは出来なかったけど、充分にセックスだったよ」
「まだ出来るよ。してよ。ちゃんと繋がりたい」
「そう焦らなくたって、いつかまた、もっといい機会がくるって」
「適当なこと言うなよ。いつかっていつ? 俺と恋人になってくれる気でもあるの? 父さんが好きなくせにっ。今しかない。今日しかないのにっ」
 既に緩んでいた涙腺から、ぶわわっと溢れた涙はあとを絶たない。
 次を明確に提示する事は出来ないし、恋人になろうとも言ってやれない。だからと言って、いつかもっと好きな人が出来るよなどと言う事も出来ない。そんな言葉は追い討ちを掛けるようなものだし、そもそもそうなって欲しいなんて欠片も思っていないからだ。
 気持ちに応えられないくせに、出来れば他の誰かを好きになって欲しくはないだなんて、そんな身勝手過ぎる自分の中の気持ちに気づいてしまって遣る瀬無い。
「ゴメン。ごめんなさい。もうやだとかやめてとか絶対言わないからっ。ねぇ、だから最後までしてよ。お願いだから」
 掛ける言葉を持たず、抱きしめ宥めるように背をさするだけの自分に焦れたのか、苦しげに泣きながらも謝罪と懇願を繰り返す相手に、どうしてそこまでと思う。そう思うと同時に、そういえば義兄の変わりでいいと言い切られて始めたのだ、ということも思い出す。目の前の相手の可愛さに夢中になって、途中から甥だとか義兄だとかはすっかりどこかへ飛んでいた。
「指3本いけたんだから、もう入るでしょ? ねぇ、入れてよ。父さんの代わりでいいし、もう優しくしたくないってなら、ひどくしても、突っ込んでくれるだけでも、もぅ、いいから」
 泣きながらなので途切れ途切れではあるが、どこまでも必死に求めてくる。きっと若さゆえ視野が狭くなっているのだとわかっているのに、それを指摘したところで納得はしないだろう、ということまでもわかってしまうから本当に困る。
「お前にこれ以上辛い思いさせたくないんだってわかれよ」
「俺のこと、そんなに大事?」
「大事だよ」
 即答したが、なぜかますます悲しげな顔をさせてしまった。
「でも俺は、このまま抱かれて辛いより、抱いてもらえない方が辛いよ」
「どっちにしろ辛いのわかってるなら、自分の体は大事にしろって言ってんの。こんな形で初めてをムリヤリ散らす必要なんかないだろ」
「だってにーちゃんがいいんだもん。ずっと好きだったんだから初めての人になってよ。そしたら諦めるから。てかもういっそ酷くしてよ。父さんの名前とか呼んだらいいよ。俺が絶望して、二度とにーちゃんに抱かれたいなんて思わなくなったら、にーちゃんだってホッとするだろ」
 やけくそ気味な発言に、こちらもカッと頭に血が上る。
「バカか。そんなん言われて抱けるかバカ」
「なんでだよっ。俺に好かれたままのが困るくせに。このまま抱いて、にーちゃんのこと嫌いにさせてよっ」
「そんな程度で嫌いになれるってなら、そこまでしても抱いてやらない俺を嫌いになれよ」
「そんなの……」
 ぐっと言葉に詰まった後、耐えることを一切やめてわーわー泣きじゃくり始めた相手にぎょっとする。
「わ、悪い。言い過ぎた」
 煽られて売り言葉に買い言葉で言い返すなんて、まったく大人げないことをした。
「にーちゃんのバカっ嫌いだ。嫌いだっ」
 泣きじゃくる勢いはおさまらないまま、まるで甥っ子自身に言い聞かすように嫌いだと繰り返す。実際に嫌いだと言われればこんなにも胸が痛い。
「うん、いいよ。嫌いでいい。本当に、ごめん」
 抱きしめる力を強めても抵抗はなかった。それどころか相手の方からさらに擦り寄り、肩口に泣きはらした目元を押し当ててくる。それでもその口からこぼれるのは、しゃくりあげる声に混じった嫌いの言葉だった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに16

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 イかせてという要求を素直に飲むつもりはない。握ってはやったが、達せるほどの刺激は与えなかった。
 まだイけないという事に気づかれる前に、少し冷たいぞと声を掛けてから、直接尻肉の間にローションを垂らす。そうしてから、今度は先程までと逆の手をその場所へ押し当てて、萎えてしまわない程度に前を扱きつつ揃えた2本の指を押し込んでいく。
「ふぁっ、はっ、ぁあっ、んぁあ」
 最初だけ苦しげな息が漏れたが、前と後ろとを同じリズムで弄ってやれば、すぐにまた甘くとろけた声を発する。気持ちが良いかを尋ねれば、躊躇いなく気持ちが良いと帰ってきた。
「ん、イイ、きもちぃっ、あ、ああ、……」
 一段と声が高くなり腿に力が入ってきたところで、前の手を離しつつ後ろの手の動きを一切止めれば、昇りつめる事が出来なかった甥っ子の悲壮な戸惑いが強く伝わってくる。
「な、なんで……いじ、わる……?」
 泣きそうな掠れ声がまた意地悪なのかと問うので、極力優しく伝わるようにと思いながら否定を返した。
「違うよ。もっとこっちが気持ち良くなれてから」
 言いながら後ろだけ先に動きを再開させる。
「大丈夫。もうすぐもっとお尻で気持ちよくなるから、ちょっと我慢しながら、楽しみにしてな」
 それからまた、前後同時の刺激を達しそうになるまで続けては、最後の刺激を与えないという事を何度も繰り返した。
 我慢しきれずにイきたいイかせてと繰り返し始めたところで指を3本に増やせば、さすがにキツそうで、手の中のモノが少しばかり勢いを失くしてしまう。
「くっ、あっ、ぅぅっ」
「痛みはない?」
 問いかける言葉は届いているようで、何度も頷く頭が揺れた。苦しいかと問い直せば、やはり同じように頷いてみせる。
「指3本、初めての太さだもんな。でももう根本まで入ってる」
 これ以上太くはならないよと言いながら、埋めた指は動かさず前だけを弄ってやった。
「ん、ぁぁ…ぁあ……」
「うん。ちゃんと可愛い声も出せるな。また気持よくなれそうか?」
「ぁっ、んんっ、だい、じょぶ…た、ぶん、…ぁあ」
「次気持よくなれたら、今度こそイッていいからな」
 そうは言ったものの、さすがに今度は先ほどと同じレベルまで熱が戻るには、少しばかり時間がかかった。
 それでもゆっくりと何度も繰り返すうちに、甘えた声がもうイかせてと頼み始める。そうなってからは、前に回した手だけギリギリで離し、後ろに埋めた指は動きを止めずに中を突き続けるようにした。
 そんなことを数回繰り返したところで、こちらの意図はすっかり相手にも伝わったようだ。
「あ、ああ、ま、えっ、まえっ、やめな、いで…さわっ、てぇ」
「お尻だけでも、もう気持ちいいだろ?」
「やっ、やっ、こわ、い…まえ、もっ、…あ、あぁ…おねっ、がい…」
「んー、じゃあ、手ぇ離してる間はここ弄ってあげよう。ああ、ほら、乳首もピンピンに勃起してるな」
 一切触れていなかった胸の先を、爪先で掻いて捏ねるように押しつぶす。
「あああん、やぁああ」
「今、お尻凄くシマッたよ。キモチイイんだな」
 もう片側へも手を伸ばし、今度は親指と人差し指で摘んで軽く引っ張りながら、指の腹を擦りあわせて挟まれた乳首を転がした。
「やぁっ、だめっだめぇ」
「ダメじゃないだろ。大丈夫だからこのままイッてごらん?」
「ひぅっんんぁぁあやぁぁあ」
 前屈みになり相手の頭に顔を寄せて、凄く可愛いよと囁きながらダメ押しで耳を舐ってやれば、ガクガクと体を震わせて昇りつめたことがわかる。
「はい。良く出来ました」
 一回抜くぞと声をかけてから、埋めていた指をゆっくりと引き抜いた。
 用意していたタオルで自らの指を拭いた後、途中何度も継ぎ足して背中と尻肉に零れたローションを拭ってやって、それからそっと横臥する相手の肩を掴んで引き倒す。一瞬抵抗を感じたが、すぐに素直に従い仰向けになった相手は、羞恥と戸惑いと疲れとを混ぜた表情を見せながらも、どこかぼんやりとしている。
「どうする? 少し休憩しようか?」
 ドロドロになった相手の股間も軽く拭ってやりながら問いかければ、ようやく視線がはっきりと自分を捉えるのがわかった。

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