多分消極的というよりは、もの凄く優しくて、かなり相手へ気を遣うタイプなんだと思う。気を遣いすぎてタイミングを逃したり、相手を気遣って強引にことを運んだりは決してしないけれど、でもわかりやすく踏み込んで欲しい気持ちを見せれば、躊躇わずにちゃんと踏み込んできてくれる。じゃなければ自分たちは、恋人なんて関係になれたはずがない。
ただ、はっきりと示したこちらの好意に、優しい気遣いで応じてくれているのではと、疑う気持ちはないわけじゃなかった。他に恋人が居たわけじゃないから、こちらの精一杯の誘いに、乗ってくれたんだろうと思う。
だからこそ、相手の苦手とするだろうことを押し付けてはいけないし、彼がこの気持ちに応じてくれたことを、酒の席で盛り上がるだけのネタだった旅行をこうして実現してくれたことがどんなに嬉しいかを、自分からもしっかり伝えたいと思っているのに。恋人になってくれてありがとうって気持ちを、こんなに好きだって気持ちを、この旅行でもっと伝えたいと思っているのに。そして彼にも、恋人になって良かったって、少しでも思って欲しいのに。
初っ端からチェックインを代わってもらって、落ちた気持ちを慰められて、そういう所が本当に好きだし、それが嬉しくてたまらないのに、こんなこと続けたらすぐに愛想を尽かされるって不安がつきまとう。
「まだ不安そうだなぁ。あー、じゃあ、俺の話をしようか。ダブルの部屋予約したって聞いた時、ツインの部屋にチェンジしたほうが良いんじゃないかって、言わなかったろ? だからもし変な目で見られるような事があっても、それはお前だけのせいじゃないから。旅行に浮かれて思わずダブルの部屋取ったってなら、俺は、それが嬉しい」
大丈夫だよと言いたげに、そっと伸ばされた手がふわりと頬に当てられて、それからゆっくりと、何かを伺うように顔が近づいてくる。了承を告げるように瞼を下ろして、軽く触れるだけのキスを受け取ってから、自分も勇気を出して相手に手を伸ばした。
ぎゅっと抱きつけば、すぐさま相手もしっかり抱き返してくれる。
「好き。大好き。すぐ不安になってごめん。なのにいっぱい慰めてくれてありがとう。そういうとこ、ホント、好き。旅行も本当に楽しみで、浮かれすぎてこんな部屋取っちゃったけど、ホントに嫌じゃない? 俺に気を遣ってダブル嫌だって言わなかっただけじゃないよね?」
「嫌じゃないよ。旅行中毎晩一緒に寝れるなんて、最高だろ?」
「うん。最高。だから、もし誰かにちょっとくらい変な目で見られたって、全然平気」
こんな風にギュッと抱きしめられながら寝たり出来るのかなって考えると、気持ちがフワフワしてしまう。でも、抱きしめて寝てくれる? なんて聞くのはさすがに出来なくて、代わりに手を繋いで寝て欲しいなと、少し控えめに言ってみた。
「えっ、手?」
しかし、あまりに驚かれて焦る。
「え、えっと、ダメだった?」
「いやいやいや。ダメじゃないけど、手繋ぐだけでいいの、っつーか」
「あ、ああ、あと、抱っこ? 抱っこして寝てくれたりも、したり、するの?」
慌てすぎて何やら口から零す単語がオカシイ。オカシイのは単語だけじゃないけど。
それは相手も思ったようで、抱っことか可愛すぎかよなんて呟きを拾ってしまったものだから、顔が熱くなっていく。
「あ、のさ。あちこち行きたいとこあるのわかってるし、無理させるつもりないけど、一応、もうちょいエロいこともする想定で準備してきてるから。その、どの程度までならしていいか、少し、考えてみて欲しい、かも」
「あ、ああああ、うん、あー、うん。そう、だね。だよね」
男同士でダブルの部屋を予約する意味に、チェックイン直前まで思い至らないようなポンコツな頭は、恋人との初めての旅行で、自分からダブルベッドの部屋を予約するって意味も、どうやら全くわかっていなかったようだ。
とはいえ、相手がそういうことを期待して準備してきたなんて聞いてしまったら、しないなんて選択肢はないに等しいけれど。
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