秘密の手紙

 朝学校へ行ったら、下駄箱の中の上履きの上に一通の手紙が置かれていた。
 超簡素な茶封筒という不穏な気配しか無いそれの中には、ペラっと一枚のメモが入っていて、そこには「お前の想い人を知っている」と短な一文が印刷されていた。
 ザッと血の気が引く思いをしたのは、脅迫されているのだと察したせいだ。
 いつか誰かに気づかれるかも知れない不安は、自身の中に湧いた恋情を認めた瞬間から常に付きまとっていたが、それが現実になったのだと思った。
 この手紙の差出人は誰だ。相手の要求は何だ。
 そんなことばかりを考えながらなんとかその日の授業を終え、大半の生徒が下校した後に、自身の下駄箱に封筒を置いた。朝受け取った茶封筒からメモを抜き、お前は誰だ、要求は何だ、という短なメモを書き綴ったノートの切れ端を入れている。
 蓋のない下駄箱なので、こんな場所でメモのやり取りをしたいとは到底思えないのだが、相手が誰かもわからない状況ではこうするしかない。
 果たして、翌日の朝にはその封筒は消えていた。
 さらにその翌日、また上履きの上に茶封筒が乗っている。中には、「告白すればいいのに」というメモが入っていて首を傾げる。
 誰だ、という問いに答えがないのは想定内だったが、要求は何だという問いへの答えがこれ、というのが良くわからない。
「何かあった? 一昨日もずっと変な顔してたけど、今日もなんか悩んでるよね?」
 休み時間にそう声をかけてきたのはまさに想い人その人で、さすがに詳細を話せるわけがない。
「あー、まぁ、ちょっと」
 色々あってと濁してみたが、相手はそう簡単に引き下がってはくれなかった。
「俺にも話せないようなこと? それとも教室じゃ無理って話?」
「両方」
 正直に答えてしまったのは多分失敗だった。
「え、マジに俺には話せない何か抱えてんの?」
 余計気になると言われても、話せないものは話せない。追求をどうにか誤魔化して、帰りがけには「無理」の二文字だけ書いたメモを入れた封筒を自身の下駄箱に置いた。
 返信は翌々日ではなく翌朝には届いていて、しかも今回の中身は短な一文ではなく、しっかり手紙と呼べるような長い文章が綴られている。まぁ、コピー用紙への印字に茶封筒、というところは変わらないんだけど。
 いわく、二人は両思いだから早く告白してくっつくべきだとか、相手はこちらの告白を待っているだとか、今どき男同士での恋愛はそこまで禁忌ではないだとか。
 なんだか随分と熱心に、告白するよう促されている。
 なんだこれ。と思うと同時に、さすがに差出人の正体を知りたくなってきた。だって随分と相手の心情に対して断定的だ。
「何? 俺の顔に何かついてる?」
 昼休みに一緒に昼飯を食べながら、想い人の顔をマジマジと見つめまくったら、さすがに居心地が悪そうに聞いてくる。
「昨日、お前には話せないって言った悩みについてちょっと考えてて」
「お、やっぱ俺に相談しようかなって思った?」
「そうだな。近日中には、話せるかもな」
「なにそれ?」
「今すぐは話せないってこと」
「は? 勿体ぶってないでさっさと話せよぉ」
 放課後残ろうかと言うので、今日は早く帰るからと断って、その言葉通りに大半の生徒が下校するのを待ったりせず、けれど返信の茶封筒は上履きの上にしっかり乗せて学校を出た。といっても、そのまま学校をくるっと半周して、裏門からこっそり現場へ戻ったのだけれど。
 自身の下駄箱が見える位置に身を潜めて、封筒を手に取る「誰か」を待つ。今日中に現れなかったら、明日は早朝から張り込みだと意気込んでいたけれど、下駄箱周辺の人気がなくなった途端にその「誰か」はあっさり現れた。
 やっぱりと思いながらも、しっかり封筒を手に取るのを待ってから声をかける。
「やっぱお前だったんだ」
「えっ……なん、で」
「なんでもなにも、お前以外にお前の気持ちそこまで断定できるやつに心当たりがなかった」
 これは、少なくとも共通の友人の中には、という意味でしかなく、こちらの知らない友人に相談していたという可能性はある。頼まれて取りに来ただけと言い逃れることだって可能だろう。でも彼からの反論はなく、どうやらあっさり認めてしまうらしい。
 そっか、と力なく返した相手の手の中で、クシャッと茶封筒が握り込まれている。ちなみに、差出人を捕獲する気満々だったのでその封筒に中身はない。
「両想いだってわかってんなら、こんな回りくどいことしてないで、お前から告白するんでも良かったんじゃねぇの?」
「できるわけ、ないだろ」
「なんで?」
「そんなの、お前が俺を本当にそういう意味で好きなのか、なんて、わかんないし」
「はぁ?」
「だって、お前の言動にもしかして? って思うの、俺がそうだったらいいのにって思うせいかも知れないじゃん」
 最後の方は声が震えていて、なんだか虐めてでも居るみたいだ。というか目には涙も滲んでいて、こんな場面なのになんだかドキドキしてしまう。
「で、どうなの?」
「どうなの、って?」
「俺、……ふられる?」
 視線が合ったのは声をかけた最初だけで、ずっと僅かにそらされていたのだけれど、とうとう逃げるように俯かれてしまった。良い返答が貰える自信がないと言わんばかりだ。
「ぜひお付き合いしたいけど」
「マジで!?」
 バッと勢いよく頭を上げた相手の顔は信じられないと言いたげで、でも、泣きそうだった目だけは希望に満ちてキラキラと輝いている。
 その様子の愛らしさに、思わずプッと吹き出してしまったら、からかわれていると思われたようだ。酷くショックを受けた顔をされ、また俯くように頭を下げかける相手に、慌てて謝罪の言葉を投げた。
「ごめん。からかってない。まじで、付き合いたいって思ってる」
 下げかけた頭をグッと上げた相手は、さすがに疑惑の眼差しだ。
「ほんと。本気。さっき笑ったのは、嬉しそうなお前が可愛かっただけ」
 言い募れば、可愛いに反応してか少し照れくさそうにしながらも、信じるぞと脅すみたいな言い方で告げてくるから、やっぱりまた笑いそうだった。

相手側の話を読む→

ChatGTPに出してもらったお題  ”秘密の手紙” – 1人の主人公がもう1人の主人公に秘密の手紙を送ることから始まる物語。を使用しました。

更新再開します。結局小ネタ期間になりましたので、更新期間は1ヶ月ほどになりますがまたよろしくお願いします。

 
 
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捨て猫の世話する不良にギャップ萌え、なんだろうか

 早起きは三文の徳とは言うが、たまの休日は思う存分眠って置きたい。とは思うものの、妙にスッキリとした目覚めによりどうにも二度寝出来そうにはなく、仕方がないので諦めて起き上がる。
 早いと言っても早朝と呼べるほど早い時間ではないが、それでもこんな休日はめったに無いので、いっそ朝の散歩にでも出かけようかと思いたち適当にあちこち歩いてみた後、ファミレスに寄ってモーニングメニューを堪能した。
 睡眠時間確保には失敗したが、なかなか良い出だしだ。などと自己満足で帰路についた途中、珍しい人物が珍しい店舗へと入っていくのを見かけて、とっさにその後を追って同じ店舗へと踏み入ってしまった。
 ご近所さんのその男とは小学生の頃に何度か遊んだことがある。といっても確か5つほど年齢が離れていて、中学も高校も同時期に在籍したことがない。小学生の時に遊んだと言ったって、遊び相手のメインは彼の兄であって、幼い彼はオマケでしかなかった。
 その兄とも、中学くらいまではそれなりに交流があったが、別の高校に進学してからはわざわざ連絡を取り合って遊んだりはしなくなっている。そもそも高校卒業後に実家を出たと聞いた気がするから、弟以上に顔を合わせる機会がない。
 まぁ弟の方だって、姿を見かけることなどなかなかないのだけれど。なんせ母が仕入れてくるしょうもない噂通りなら、せっかく入れた高校を早々に退学になりかけるような、荒れた生活をしているようなので。
 そんな男が、開店まもない書店に入っていくだなんて、ちょっと良からぬ想像が働いてしまうってものだろう。万引の現場を目撃するようなことがあったら、さすがに止めてやろうと思っていた。
 兄とだってさして仲が良かったわけではないが、彼の家庭環境や生活が荒れるに至った事情を漏れ聞いてしまう立場として、同情めいた気持ちがあるのは認める。一緒に遊んでいたころは、素直な一生懸命さで、兄の背を追いかけてくるような子だったのを覚えているせいもある。
 しかし、周りを気にする素振りを見せながら彼が向かった先は、はやりの漫画やらが並んだ棚ではなく、ペット関連の書籍が並んだ一角だった。そのままこっそり盗み見ていれば、どうやら猫の飼い方についてを立ち読みしているらしい。
 随分と真剣な表情で読み進めていく姿を見ていたら、思わず名前を呼びかけていた。
「ひっ……」
 相当驚かせたようで、大きく肩を揺らしながら小さな悲鳴を漏らした相手は、それでもすぐに振り向いて、怖いくらいにこちらを睨みつけてくる。
「誰だ、お前」
 そう聞かれるのも仕方がない。なので名前を告げて、兄の友人だったと伝え、小学生の頃に一緒に遊んでいた話と共に当時のあだ名を教えてみた。どうやら記憶の片隅に引っかかるものがあったようで、一応は名前を知られていることには納得できたらしい。
「で、何の用だよ」
「用、っていうか、気になっちゃって。猫、飼うのか?」
「んなわけねぇだろ」
「じゃあ猫好きなの?」
「うっせ」
 手にしていた本を思い切り平台の上に叩きつけると、早足にその場を去っていく。
「あ、こらっ、売り物だぞ」
 慌ててその本を手に取り、破損がないことを確かめてから元の場所と思しきところへ戻している間に、相手の姿はすっかり見えなくなってしまった。
 そんなことがあってから数日、母親が仕入れてきたしょうもない噂話で、彼が虐待していた子猫が保護された、という話を聞いた。
 あんなに熱心に猫の飼い方を立ち読みしていた男と虐待とが結びつかない。どうせ、猫にかまっている姿を誰かに見られて、あの調子で対応した結果虐待と思われた、とかじゃないのか。
 ありえそうすぎて苦笑するしかない。
 それからなんとなく、猫が保護されたという場所を気にかけるようになって更に数日、ぼんやりと立ち尽くす彼の姿を見つけて、我ながら懲りないなと思いながら名前を呼んでみた。
「またあんたかよ」
 少しうんざりした顔は以前に比べて明らかに元気がない。というよりもなんだか疲れた顔をしている。
「で、今日は何?」
「ここに居た子猫は保護されたって聞いたけど、お前、虐待なんかしてないよな?」
「そ、っか……」
 一瞬驚いた顔をしたけれど、でも何かに思い当たったのか、一つ息を吐き出すとくるりと向きを変えて歩き出す。その腕を思わず掴んで引き止めた。
「あー……虐待したつもりはねぇけど、まぁ、あいつらが無事保護されたってなら、俺が虐待してたんでも別にいーわ」
「もしかして、居なくなった子猫心配して、探してた?」
「うっせ。てか放せよ、腕」
 強引に振りほどくことも出来そうなのに、おとなしく立ち止まっている彼をこのまま放したくないと思ってしまった。
「えっと、……あ、じゃあ、飯でも食いに行く?」
 我ながら、何を言っているんだと思ったけれど、呆れられて仕方がない場面で、なぜか相手はふはっと笑いをこぼす。
「じゃあ、ってなんだよ。てかそれって当然奢りだよな? 金ねーし、奢りなら行ってやってもいいけど?」
「もちろん奢る」
 食い気味に肯定すれば、相手はますますおかしそうに笑い出してしまったが、笑う顔に昔の面影が重なって、なんとも言えない気持ちになった。
 頭の片隅では、これ以上深入りしないほうが良いとわかっているのに、その反面、いっそもっと深く関わってしまいたい気持ちが湧いている。

有坂レイさんは、「朝の書店」で登場人物が「夢中になる」、「猫」という単語を使ったお話を考えて下さい。https://shindanmaker.com/28927

描写ないけど視点の主は高校卒業後就職している社会人です。

 
 
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酔っ払いの戯言と笑い飛ばせなかった

感謝しかないのでの父側の話です。少し未来。

 好きになった女性は片手の指で足りないくらいには年上のバツイチで子供も居たから、結婚する時にはけっこう揉めた。特に自分の親には相当難色を示されていたから、絶縁上等という気持ちで婚姻届を提出してしまった。
 だから妻となった女性が結婚からほんの数年足らずで他界してしまった後、血の繋がらない息子をどうするか、という話になった時に、愛する妻の忘れ形見なのだから当然このまま自分が育てると啖呵を切ってしまったのも、結婚に反対していた奴らのそれみたことかという顔や態度に腹がたって仕方がなかったから、というのが大きい。
 意地を張っていた、という自覚はある。
 幸いにして彼女の残した一人息子は少年ではあったが幼児というほど幼くはなかったし、母子家庭だった時期に彼女によってある程度鍛えられていた家事能力もあり、少々いびつな父子家庭を維持することにも協力的だった。
 そうして気付けば息子も酒が飲める年齢を超えて数年経過し、そろそろ自分が結婚した年齢に近づいている。
 そう気づいてしまえば、いつ、結婚相手を連れてきてもおかしくないのだ、ということにも思い至った。
 どんな女性を連れてくるんだろう、と楽しみ半分寂しさ半分心待ちにしているのだけれど、そっち方面の話題をふるといつの間にやら過去の自分の話をしていて、肝心の彼の恋愛事情や結婚感が聞けていない。親の惚気話なんて聞いて楽しいのかとも思うが、彼にとっては貴重な母親の話、という意味で楽しまれているのかも知れない。
 そんな中、いつもより酔いが回っているらしい相手からようやく聞き出せたのは、今現在お付き合いをしている女性はいない、という話で、更には今のところ結婚願望も全くないという。
「なんで!?」
「なんで、って、言われても」
 驚きで声が大きくなってしまったのを苦笑されながら、今の生活に満足しきってるからかなぁ、などと言われてますます驚いた。
「満足って、お前、こんなおっさんとの生活に満足してちゃダメだろ」
 二人の生活が上手に回せるように互いが努力してきた結果、という意味では誇らしく思う気持ちもないわけではないが、それでは生活に華がなさすぎじゃないのか。というよりも、自分は彼女との結婚生活が楽しくて仕方がなかったし、愛する女性と一緒に暮らす幸せを、彼にも存分に堪能して欲しいと思う。
「もしかして、俺みたいに愛する女に先立たれたら、みたいな心配でもしてる?」
 一緒に酒を飲むようになってからは、酔った勢いで、妻に先立たれて寂しい気持ちを吐露することもあった。
 まぁ、だからお前が居てくれて良かった、的な感謝も告げているのだけど。どちらかというと、酔った勢いで彼と父子として暮らしてきた日々への喜びが溢れてしまうのをごまかすみたいに、彼女との思い出をあれこれ語っている節もあったりするんだけど。
「でも俺は、あのとき強引にでも結婚に踏み切ってよかったって、胸張って言えるぞ?」
 もちろん自分と同じ様に愛する相手に先立たれる可能性もあるけれど、それに怯えて結婚そのものを忌避するのは馬鹿げている。なのに。
「わかってるよ。わかってるから、結婚しなくていっかな、って話」
「いやそれわかってないだろ」
「あー、じゃあ、父さん以上に愛せる誰かを見つけたら、考える」
「え?」
「俺は愛する人と一緒に暮らす生活するなら、相手は父さんがいいから、結婚はしなくていいし、今の生活に満足しきってる」
 ニコリと笑って見せた後、へにゃっと笑み崩れて、そのままヘラヘラと笑い続けている相手を見る限り、冗談だった……
 そう思えたら良かったのだけど。酔っ払いの戯言だと、一蹴するべきなんだろうけれど。
「まぁだから、孫は諦めて貰うしかないけど、一人にはさせないから安心して」
 バカ言ってんなと笑い飛ばすことは出来なくて、頭の片隅にはホッとしている自分も居て、そんな言葉を喜んでしまう自分が情けなくて、なんだか泣きたい気分になった。

有坂レイへのお題は『笑い飛ばしてしまいたかったのに』です。https://shindanmaker.com/392860

 
 
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感謝しかないので

 寝る前に水分を取りすぎたせいか、尿意によって起こされてしまった深夜。トイレ側の和室にまだ明かりがついていることに気づいて、薄く開いた隙間から中を覗き見る。
 ローテーブルの上には晩酌のあとが残っていて、その机につっぷすようにして父親が寝落ちていた。
 数時間前、そこで一緒に酒を飲んでいたのは自分だ。
 席を立つとき早めに寝るよう促しはしたが、ある意味特別な日でもあったから強制はしなかったし、正直に言えば、この光景じたいが想定内とも言える。
 別に寒い時期じゃないし、明日は休みだし、このまま放っておいてもいいのかも知れない。
 でも見つけてしまったからには、やはり放ってはおけなかった。あんな体勢で長時間寝てしまったら、どこか痛めそうな気がする。
 せめて横にならせて、何か上に掛けてやろう。
 部屋の中に入って、机に伏した体をそっと引き起こしてそのまま後ろに倒した。そうしてから、ローテーブルの方を移動させて、足元のスペースを開ける。
 崩れた足をのばしてやって、後は何か掛けるものを持ってこようと立ち上がりかけたところで、服の裾を掴まれた。
 寝ぼけて呼ばれた名前は不明瞭だったけれど、どう間違っても自分のものではない。そして不明瞭ながらも、誰を呼んだかはわかっていた。
 もう随分と前に亡くなっているのに、この人は未だに母を愛し続けている。母よりだいぶ年下のこの男に、次の人を探すよう勧める人は多かったと思う。
 自分自身、連れ子だった自分の世話なんて、母方の親戚に放り投げれば良かったと思っているのに。20代半ばで小学生の子持ちとなったこの男は、愛する女性の忘れ形見だからと、血の繋がりもないのにそのままずっと育ててくれた。
 もちろん感謝はしている。この人が居てくれたおかげで、母と暮らしていた家も、友人たちも失うことなく生活を続けられた。
 けれどそのおかげで、自分もこの家から離れられない。結婚したいと思えるような相手だって作れない。別にそれでいいとも、思ってるけど。
 だって、この人が母を愛するのと同じくらいに愛せる女性となんて、きっと一生出会えない。だったら母を愛し続けるこの人の残りの人生に、このままずっと寄り添っていたかった。
 母の血を継ぐ自分は、きっと母の好みも受け継いでいる。もし娘として生まれていたら、母の代わりになれていただろうか、なんてことを考えてしまうくらいには、この男のことを好きだった。
 必死で父親をしてくれたこの人への、裏切りだと思う気持ちももちろんある。けれど、自分から今の距離を手放す気にはどうしたってなれそうにない。
 一緒に酒が飲める年齢になってからは、なおさら強くそう思うようになった。
 実はかなりの寂しがり屋で、息子が結婚して家を出ていき、この家に一人残されてしまうことを恐れている。なんてことを知ってしまったら、結婚を急かされようが気にならない。
 まぁ、結婚式で語りたい内容だとか、孫との楽しい触れ合いだとか、酔ったついでに色々と未来の夢を語られてもいるので、結婚はして欲しいのだろうとは思うけれど。
 寂しがり屋の彼のために、同居OKの嫁を探そうなんて気は全くないので、結婚式も孫との触れ合いも諦めて貰うしかない。
 そんなことをぼんやり考えながら、棚の上に置かれた小さな仏壇を見上げた。仏壇の横には、二人の思い出の品だというかわいらしいこけし人形が二体、仲良さげに並んでいる。
 昨日は母の命日だったから、夢の中で、母と会えているのかもしれない。あの二体のように、仲良く並んでおしゃべりでも楽しんでいたら良い。
 そんな想像に、二人のじゃまをしたくなくて服の裾を握られたまま動けずにいれば、自分の名前を呼ばれた気がした。
 まじまじと相手の顔を覗き見れば、次にはゴメンと謝られてしまう。
 どんな夢を見ているかわからないし、もし母と会っているのなら、その謝罪は自分へ向けられたものではないだろう。そうは思いはしたものの、うっすら滲んできた涙を放っておけない。
「謝んないでよ。ずっと、感謝しかしてないんだから」
 そっと目元を拭いながら、思わず口からこぼれた言葉に反応してか、相手の瞼が持ち上がる。
 ぼんやりとした目と視線が合ってしまって、慌てて体を離せば、相手は数度瞬きした後でまた瞳を閉じてしまった。
 暫く息をつめて相手の様子を窺ってしまったが、静かに寝息を立てていて、どうやらまた夢の中に戻ったらしい。けれど今はうっすらと口元が笑んでいるから、少しばかりホッとした。

父側視点の少し未来の話はこちら→

有坂レイさんは、「深夜(または夜)の畳の上」で登場人物が「離れる」、「人形」という単語を使ったお話を考えて下さい。https://shindanmaker.com/28927

 
 
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ツイッタ分(2020年-2)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2020年分その2です。
その1はこちら→

有坂レイへのお題は「君がいる日常」、アンハッピーなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

この気持ちに気づく前は、当たり前に君がいる日常はただただ幸せだった。でも気づいてから先は違う。一緒に過ごす時間の幸せが、少しずつ恐怖の感情に塗り替わっていく。結局嫌われるなら、気持ちを知られての嫌悪より、勝手に消えたことへの怒りがいい。だから君がいる日常を捨てる俺を追いかけないで

有坂レイへのお題は「実らなくても恋は恋」、あからさまなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

これはもう恋なのだと思う。相手は実の弟で、自分は兄で、つまり血が繋がっている上に同性だ。実るはずがないどころか、そもそも実らせる気など欠片もない。だからせめて、この好きって気持ちが恋だってことを、自分だけでも認めてあげたい。


クリスマス(ツイッタ分2019年「一次創作BL版深夜の真剣一本勝負 第287回」の二人です)

 随分疲れた顔をしてるから、なんて理由で差し出された袋の中にはカップケーキとか言うらしいものが入っていて、明らかに手作りとわかる見た目と包装だったけれど、めちゃくちゃに美味しかった。もっと食べたくてまた持ってこいよと言ってみたら、渡されたのはカップケーキではなくクッキーだったけれど、それもやっぱりすごく美味しくて更に次をねだった。
 お菓子作りが得意な彼女持ちなんだと思っていたし、羨ましさと妬ましさも含んでのタカリだった自覚はある。くれと言えばそう強い抵抗もなく渡されるから、こんな不義理な男がなぜモテるのだと不思議に思うこともあった。まぁそれに関しては、結局顔かと、一応は納得していたのだけれど。
 それがまさかそいつ本人の手作りで、菓子作りが趣味と知ったのは数ヶ月ほど前だ。その時に、彼女の手作り菓子を巻き上げてるつもりだったのを知られてドン引かれ、菓子のおすそ分けを停止されそうになったけれど、食い下がって謝って止めないでくれと頼み込んでなんとか事なきを得た。
 既に彼の作る菓子の虜なのだと、彼自身に伝わったせいだろう。頻度も量も変わらず、いろいろな菓子を渡してくれる。
 しかも、貰った菓子はだいたいすぐにその場で食べるのだけど、美味いと言って食べる姿を見る目は、以前よりもはっきりと嬉しそうだ。
 作った相手が目の前にいるということで、こちらも前よりは詳細に味の感想を言うようになったせいか、得意げにこだわりの部分を話してきたりもするし、リクエストに応じてくれることもある。
 キラキラと目を輝かせて楽しげに語ってくれる様子から、本当に菓子作りが好きなことは伝わってくるのだけれど、顔の良さでモテてるんだろうと思っていたような美形の、キラキラな笑顔を直視するはめになったのだけはどうにも対応に困っている。
 好きなのはお前が作る菓子だけと断言した際に、対抗するように、好きなのは菓子を作ることだけだからご心配なくと断言されているのに。最近は菓子を食べながらドキドキしてしまうことがあって怖い。美味い菓子が好きなだけのはずが、美味い菓子を作ってくれる相手のことまで好きになっている可能性を、そろそろ否定しきれない気がするからだ。
「メリークリスマス」
 そう言って差し出された透明な袋の中には、いかにもクリスマスな感じの型で抜かれたクッキーが数枚入っていて、やっぱりクリスマスを意識したらしい赤と緑のリボンが掛かっている。ただ、思っていたよりはシンプルだ。もっと気合の入りまくったものを作ってくるかと思っていた。
「まぁそれはオマケみたいなものだからね」
「は? オマケ?」
「ガッツリデコレーションしたケーキとか、学校持ってこれないし」
「つまりこれの他にデコレーションケーキを作ったって事か?」
「だけじゃなくて、ほかも色々。だってクリスマスだし、僕の趣味家族公認だし」
 彼が自宅で作る菓子の大半は、家族が消費しているというのは聞いたことがある。
「ああ、なるほど。家でパーティーとかするタイプか」
「しないの?」
「しない」
 大昔はそんなこともしていたような記憶があるが、両親は共働きで一人っ子となると、家族揃ってクリスマスパーティーなどもう何年も記憶にない。イベントという認識はあるようで、少しばかり渡される小遣いが増える程度だ。
「じゃあ来る?」
「は?」
「うちの家族に混ざってパーティーする?」
「え、なんで?」
「いやだって、なんか、食べたそうな顔したから」
「そりゃ興味はあるけど」
 彼が作る、学校には持ってこれないという菓子を食べてみたい気持ちはある。それを食すなら、彼の家に行かねばならないのもわかる。わかるけど。
「無理にとは言わないけどさ。でも実は、お前に予定ないなら誘おうと思って、お前の分のゼリーとかも用意してある」
「……行く」
 そこまで言われて、行かないという選択肢は選べないだろう。
 自分の分が既に用意されていると聞いた上で、楽しみだとキラキラな笑顔を振りまかれたら、なにやら期待しそうになる。でも相手は、作った菓子を美味しいと絶賛する人物に食べさせたいだけなのだとわかっているから、零れそうになる溜め息を隠すように、貰ったクッキーを口に詰め込んだ。


今年は6月の5周年を機に不定期更新となり、結果、殆ど更新のない状態ですが、それでも覗きに来て下さっている皆さんにはとても感謝しています。本当にどうも有難うございます。
結局、不定期更新になってから先に書けたものは少ないですが、最悪1年の長期休暇になる覚悟もしての隔日更新停止だったので、チャット小説という新しいことにチャレンジできたり、名前を呼び合うカップルが書けているという点では結構満足してたりです。
CHAT NOVELさんに納品済みの残り2作品の後日談はすでに書き上げてあり、年明け6日と8日にそれぞれ公開されるそうなので、それを待っての投稿となります。これは年明けのご挨拶でもう少し詳しく色々お知らせ予定です。
今年は新型コロナの影響で生活が大きく変わりましたし、この年末年始も色々と制限がありますが、感染対策を取りつつ少しでも楽しく過ごせればと思っています。
今年もあと残り数時間となりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

 
 
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ツイッタ分(2020年-1)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2020年分その1です。
その2は今夜22時頃に挨拶を添えて投稿予定です。

有坂レイの元旦へのお題は『不器用な独占欲・「あなたの匂いがする」・片恋連鎖』です。
#ふわあま #shindanmaker https://shindanmaker.com/276636

 帰省しない一人暮らし連中で年越しパーティーをしようと誘えば、相手は誰が来るのと聞いた。参加決定メンバーの名前を挙げていけば、あっさり彼も参加を決めたけれど、その理由はわかっている。彼が密かに想いを寄せる男が参加するからだ。
 なぜ彼が想う相手を知っているかと言えば、彼が自分の想い人だからだ。想う相手を見続けていたら、その相手が見ているのが誰かもわかってしまった。
 男ばかりの不毛な一方通行片想いに、気づいているのは自分だけだと思う。

 当日は一番広い部屋を持つ自分の家に総勢7名ほど集まった。
 想い人の隣席を無事ゲットした彼の、反対隣の席に腰を下ろして、彼を挟んで彼の想い人と話をする。だって彼との会話を弾ませるには、彼の想い人を巻き込むのが一番いい。彼の想い人に、彼へ返る想いなんて欠片もないとわかっているから、胸が痛む瞬間はあるけれど、割り切って利用させて貰っている。
 年明け前からいい感じに酒が回っていたが、年明けの挨拶を交わした後もダラダラと飲み続けて、気づけば大半が寝潰れていた。そして隣の彼もとうとう眠りに落ちるらしい。
 先に寝潰れた連中同様、寝るなら掛けとけと傍らに出しておいた毛布を渡してやれば、広げて被るのではなくそれにぼふっと顔を埋めてしまう。酔っ払いめ。
 そうじゃないと毛布の端を引っ張れば、顔を上げた彼がふふっと笑って、お前の匂いがする、なんて事を言うからドキリと心臓が跳ねた。
 そんな顔を見せられると、男が好きになれるなら俺でも良くない? って気持ちが膨らんでしまう。いつか、言葉にしてしまう日が来そうだと思った。


バレンタイン

 金曜だからと誘われて飲みに行った帰り、ほろ酔いで駅までの道を歩いていたら、隣を歩いていた同僚の男が前方に見えたコンビニに寄りたいと言う。急いで帰る理由もないので二つ返事で了承を返し、一緒にそのコンビニに入店すれば、その男は入口近くに設置されたイベントコーナーで足を止める。
 並べられているのはどう見たってバレンタイン用のチョコレートで、バレンタイン当日の夜というのもあってか、さすがに種類も数も残りが少ない。
「なに? まさか買うのか?」
「なぁ、どれが一番美味そうに見える?」
 それらをジッと見つめている相手に問えば、問いの答えではなく、全く別の質問が返される。それでも聞かれるがまま、一番気になる商品を指差した。
「美味そうっていうか、気になるのはこれかなぁ」
「ふーん。じゃ、これでいいか」
「え、マジで買うの」
 驚くこちらに構うことなく、その商品を手に取ると真っ直ぐにレジへ向かっていくから、頭の中に疑問符が溢れ出す。まさかコンビニに寄った理由がバレンタインチョコの購入だとは考えにくいが、相手の行動には一切の躊躇いがなく、他商品には目もくれなかった。
 すぐに会計を終えて戻ってきた相手に促されるまま外に出れば、ズイと差し出されるコンビニの袋。またしても脳内は疑問符でいっぱいだ。
「は? え? どういうこと?」
「さっき、」
「さっき?」
「言ってたじゃん。チョコ欲しい、って」
「あー……ああ、まぁ、言ったけど、でも」
 バレンタインの夜に男二人で飲みに来ている虚しさを嘆いて、ここ何年もご無沙汰だって言う話は確かにした。ただ、ご無沙汰なのは本命チョコ、って言ったはずなんだけど。確実に義理で渡されるチョコは、今年も数個は貰ってる。
「うん、だから、本命チョコ」
 グッと袋を押し付けて、くるりと踵を返すと、なんと相手は走り出す。
「あ、おいっ」
 慌てて声を掛けたが、相手の背中はどんどんと遠ざかって行く。今更追いかけたところで、多分きっと捕まえられない。
 大きく息を吐いて、押し付けられたチョコを取り敢えず鞄にしまったけれど、さて、本当にどうしよう。


SM=SiroMesiというツイを見て

 同窓会に参加して数時間。そろそろお開きも近そうだという頃合いに、少し離れた席から「SM同好会に入ってた」などという単語が飛んできて、思わず飲みかけだったビールを思い切り吹き出した挙げ句に盛大にむせてしまった。すぐさま隣から何やってんだの声と共に布巾が差し出され、わたわたと後処理に追われている間に、SM同好会についての話題は終わってしまったようだが、チラと視線が合った発言者が悪戯が成功したみたいなちょっと悪い顔で笑ったから、どうやらわざと聞かせたらしいと思う。

 二次会には参加せず、地元の同窓会だったにも関わらず自宅へも戻らず、わざわざ少し離れた駅に取っていたホテルに戻ったのは、結構遅い時間だった。隣には、先程SM同好会なる爆弾発言を投げ落とした男がいるが、もちろん偶然でも誘ったわけでもなく、元々、二人でこの部屋に泊まる予定だっただけである。
 高校時代そこまで仲が良かったわけでもなく、大学なんて飛行機移動が必要な遠さだった自分たちが、同窓会に合わせて一緒に帰省したり、同じホテルの同じ部屋に泊まるような関係になったのは数ヶ月前だ。連絡を取り合うような関係ではなかったから、まさか相手も同じ地域に就職していたとは知らなかったし、仕事絡みで顔を合わせたのは本当にただの偶然だった。
 懐かしさから意気投合し、そこから何度か飲みに出かけ、あれよあれよと恋人なんて関係に収まってしまったのは、間違いなく相手の手管にしてやられたせいだと思う。気楽に出会いを探す勇気など持たないゲイの自分には、一生恋人なんて出来ないと思っていたし、無駄に清らかなまま終わる人生だろうと思っていたのに。
 なんとなくそんな気がした、などという理由から、なぜかあっさりゲイバレした上に、バイで男とも経験があると言った相手に口説き落とされた形だけれど、今の所後悔はない。既に2度ほど抱かれたけれど、めちゃくちゃ気を遣ってくれたのは感じたし、出会いを求めたことはなくとも自己処理では多少アナルも弄っていたのが功を奏して、ちゃんと気持ちがいい思いも出来た。
 そして今夜、3度目があるんだろうという、期待は間違いなくあるんだけど……
「やっぱSM同好会、気になってる?」
 部屋に入るなりスッと距離を縮めてきた相手に、含み笑いと共に耳元で囁かれて、ビクリと体が跳ねてしまう。
「そりゃ、だって、てか、事実?」
「事実だよ。って言ったら、期待、する?」
 ピシリと体を硬直させて黙ってしまえば、可笑しそうなクスクス笑いが聞こえてくる。
「あれね、シロメシ同好会の略。白飯て白米ね。美味しい炊き方とか、白飯に合うおかず探しとか」
 吹いたビールの片付けで全然聞こえてなかっただろと続いたから、きっとあの後も、そんな説明をしていたんだろう。なるほど。あの悪い顔の意味がやっとわかった。
 ホッとしたら体から力が抜けて、咄嗟に隣に立つ男に縋ってしまう。ジム通いもしている相手の体は逞しく、よろける事なく支えてくれる。
「あんま脅かすなよ」
「んー、残念。これ、脅しになるのかぁ」
「え、残念て?」
 思わず聞き返せば。
「白飯も好きだけど、プレイ的なSMも、好きなんだよね。っつったら、どーする?」
 再度身を固めてしまえば、元々耳元に近かった相手の顔が更に寄せられ、チュッと食まれた耳朶にチリとした痛みが走った。

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