夜の橋/髪を撫でる/ゲームの続き

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 数歩さがって距離を置くと、彼はポケットから携帯を取り出し何かを操作した後、こちらに画面を向けてくる。時計のような03:00の表示を見て、タイマー機能なのだとすぐにわかった。
「きっちり3分。じゃあスタートするよ」
 画面タッチでカウントが1つずつ下がっていく。携帯画面が気になって自分の視線は携帯に向いてしまうが、彼の視線がしっかりこちらを捉えているのはわかっていた。下がって距離を置いたのは、こちらの全身を見るためだったようだ。
 じっと見られる恥ずかしさの中、残された時間はどんどんと減っていく。迷っている時間などなくて、二重留め式なコートのボタンをまずはすべて外した。
 丈の長いベンチコートなので、下の方は軽く持ち上げながら外したが、裾から入り込む冷えた空気にゾワリと肌が粟立っていく。中が素肌だということを否応なく思い出させる冷たさに、続いてファスナーに伸ばした手は、やはり躊躇い止まってしまう。
 チラリと見返す彼は黙ってこちらを見つめるままで、きっとそのタイマーが鳴るまでは口を開く気がない。決めるのはこちらなのだと突きつけられている。
 どうせならお仕置きよりはご褒美が欲しいと思う。良く出来ましたと笑って欲しい。
 なのにそう思う気持ちと裏腹に、体の動きは緩慢だ。指先が震えてしまって、ファスナーを何度も取り落とす。
 携帯が3分経過を告げて小さく鳴ったのは、ファスナーを腹の辺りまで下ろした時だった。どうしてもその先には進めずに、時間切れになってしまった。
 間に合わなかったと泣きたいような気持ちと、時間切れをホッとする気持ちとが混ざり合う。ファスナーを摘んだまま立ち尽くしていたら、携帯をしまった彼が数歩の距離を詰めてくる。
「時間切れだけど、まずは頑張ったご褒美を少しだけ」
 言いながら伸びてきた手が頭に触れて、また撫でられるのかと思ったら引き寄せられてキスされた。
 ただ触れて、最後にチュッと軽く吸われただけなのに、じわりと広がるシビレのようなもの。自分自身の性癖を確かめるためと、同性に惹かれる性癖を隠すために、何度か女の子と付き合ったこともあるから、キス程度は経験済みだけれど、キスだけで感じるなんてことはもちろん初めての経験だ。
 驚きで呆然としていたら、またしても可愛いねと笑われた。
「残りのご褒美はホテル戻ってから。でもってこっからのは出来なかった分のお仕置き」
「えっ……」
「そう。ここで」
 まさかこの場所で何かされるのかという焦りの気持ちは伝わったようで、言葉にはしなかったのに肯定の言葉が返されてしまった。
「お仕置きだから、動かずじっとしてなさい」
 少し厳しく響いた声音に、緊張と戸惑いが走る。
「返事は?」
「は、はいっ」
「うん、いい子」
 きつく問われて慌てて返事をすれば、そう言って柔らかに笑ってみせる。先ほどの雰囲気に戻って少しだけホッとする。
「まずはファスナー下ろすよ」
 こちらの返事は待たず、残りのファスナーが腿の辺りまで下ろされてしまった。
「下着、ちゃんと着けずに来たんだね」
「はい」
「見せれなかったのは、勃っちゃってるのが恥ずかしかった?」
「……はい」
「じゃあ、触れてもないのにおっきくなっちゃったココに、お仕置きをあげようね」
「なに、を……」
 さすがに不安すぎて逃げたくなる。股間に伸ばされた手に思わず腰を引いてしまったけれど、躊躇いの混じる抵抗などなんの意味もなく、ペニスは彼の手に掴まれてしまった。
「ううっ……」
 触れられても感じるなんて余裕はまるでなく、ただひたすら恐怖で呻く。何も言わずに見つめてくる彼が怖くて、けれど彼の手を振りきってこの場から逃げ出すような真似はできっこない。
「お仕置きが怖いんだね」
 ふふっと笑ったのは、彼の手の中のペニスがあからさまに固さを失くしてしまったからだろう。
「だっ、て……」
「怯える君も可愛いけど、そろそろホテルにも戻りたいし、手早く済ませちゃおう」
 これを付けるだけだからと、ペニスを掴むのとは逆の手に握ったものを見せてくる。短めのゴム紐を輪にしたようなそれが何かわからずにいたら、ペニスリングの一種だよと教えてくれた。
 コックタイと呼ぶようで、留め具で強さを調節できるのが特徴らしい。
「別に痛いようなものじゃないから大丈夫」
 言いながら輪になった部分に玉袋と竿部分とを通して、根本をキュッと締められた。そうしてから、ファスナーを首まで上げて、丁寧にボタンも全部留めてくれる。
「さて、じゃあ行こうか。人も居ないし、手、つなぐ?」
 恋人っぽくと笑われて頷けば、暖かな手が繋がれた。ギュッと握ってくる手の力に、股間の違和感は拭えないものの、なんだか少し安心した。

 
 
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夜の橋/髪を撫でる/ゲーム

 家の比較的近くに、一応観光場所として名を連ねる大きな橋がある。
 観光地とは言っても、さして有名ではないその場所に、観光に来ている人なんてほとんどいない。地元民だって歩いてそこを渡ろうという人間はほとんど居ないし、それどころか時間帯によっては車通りでさえまばらな田舎だ。
 土曜の夜、その橋の中央で。というのが待ち合わせの場所だった。
 昔、とあるゲームの中で知り合ったその人と、直接会うのは初めてになる。
 初めて彼と出会ったゲームはすでにサービスを終了しているが、別の似たようなゲームの中で再開してから、ぐっとその人との距離は縮んだと思う。ゲーム内の問題に限らず、リアルの相談にも色々と乗ってもらっていたから、こちらの状況はかなり彼に知られている。
 その彼が、ネット越しに付き合ってみないかと持ちかけてきたのは、大学入試が終わって希望大学への合格を報告した時だった。付き合うというのはもちろん恋愛的な意味でのことだ。
 自分の恋愛対象が同性だということは、もうずっと前に知られている。親友への恋心やどうしようもない自分の性癖への悩みを、彼に吐露し続けた時期があったからだ。彼自身、女性がダメということはないけれど、どちらかというと男性の方が好きだと言っていたからでもある。
 リアルでの距離はあるものの、自分の身近で、同性に惹かれるという性癖を持つ人を彼以外知らない。狭い世界しか知らない子供にとって、当時の彼は唯一の救いだった。
 けれど、その彼の恋愛対象に、自分が入るということは考えたこともなかった。彼は自分よりも一回り近く大人で、ずっと可愛がって貰ってはいるものの、それはやはり子供扱いでしかない。そして自分にとっても、彼は頼りになる兄のような存在だった。
 もしも彼を恋愛対象にしていたら、あんなに自分を曝け出しての相談なんて、きっと出来なかっただろうと思う。
 だから、おめでとうの後にもう言っても良いよねと前置いて、ずっと前から好きだったと言われた時は心底驚いた。驚き反応できずに居る自分に、大人になるのを待っていたとも、君の望みを叶えてあげるとも彼は続けた。
 画面越しの言葉に、体の熱が上がっていくのを自覚する。
 最後の言葉が決め手になって、直接会ったことのない彼の申し出を受け入れたのは、まだ1週間ほど前のことだ。嬉しいよと言った彼の行動は早かった。
 とりあえずは観光地ということで、一応近くに建っているホテルに、さっそく宿をとったとのことだ。午前中に外せない用事があるそうで、到着が夜になってしまうことを謝られたが、遠方からわざわざ来てくれるというだけでもかなり驚いていて、到着時間など些細な問題でしかなかった。
 泊まれるかという問いに大丈夫と即答すれば、画面の向こうで相手が笑う気配がした。少しは警戒しなさいと怒られたけれど、さすがにそれはちょっと理不尽だなと思う。
 会ったことのない相手でも信頼しきっていたし、恋愛的な意味を置いても、ずっと彼に会ってみたいと思っていたのだ。
 もう随分と長い付き合いになるけれど、子供だった自分には、遠方の都会で行われるオフ会やらに参加出来たことは一度もない。だからリアルの彼については人伝に聞くばかりだったけれど、そこからも彼の人としての魅力は伝わってきていた。
 もちろん、恋人としてお付き合いを開始した相手と、一つ同じ部屋に泊まることの意味がわからないほど、子供なわけでもない。そう言ったら、まずは会うだけでも構わないんだよと返されてしまった。
 そういうものなのかと納得する気持ちや、彼の気遣いをありがたく思う気持ちもある。けれどせっかく会えるのに、それだけでお終いだなんてと残念に思う気持ちも大きかった。
 だから、恋人になろうってのに会っていきなりはどうかと思ってたけど、そのつもりがあるなら、と言って出された指示にも従う旨を返した。そう返すだけで、ドキドキが加速していく。
 今も、人通りも車通りもなく静かな橋の上で、ずっとドキドキしっぱなしだった。
 やがて橋の入口に人影が見えて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。地元民が散歩という可能性もないわけではないから、あまり不審な態度にならないようにしつつも、やはり緊張しつつその姿を目で追ってしまう。
 小柄で童顔でとてもじゃないが歳相応には見えないとは聞いていたが、それが確かなら多分彼本人だろう。
「こんばんは」
 近づいてきた男は、そう挨拶した後で、ハンドルネームを呼んで柔らかに笑って見せた。長いこと使っているハンドルネームだから、字面は馴染んでいるが、音で呼ばれるのは初めてに近く、それだけでなんだか照れくさい。
「ごめんね。思ったよりホテルから距離があって遅くなっちゃった」
「歩いて、来たんですね」
「この距離がわかってたら車でも良かったかな。でも、やっぱり君と歩いて戻りたいじゃない?」
 ずっと待ってて寒くない? と言いながら手を取られて、ギュッと握られる。彼の手は驚くほど熱かったが、こちらの驚きに気付いた様子で、ホッカイロ握ってたんだよという種明かしが続いた。
「寒く、ない、です」
「本当に? 随分手が冷えてるけど、じゃあこれは緊張かな?」
「はい」
「初めましてだもんね。実際会ってみて、どう?」
「どう、……って?」
「俺にエッチなこと、されても平気?」
「そんなの……そっちこそ、俺相手に、そういうことしたいって、思えるんですか?」
「うん。想像以上に魅力的」
 可愛いよと言いながら、頭に伸びてきた手がそっと髪を撫でていく。
「部活で鍛えた筋肉を見せてもらうのも、楽しみにして来たんだよ」
 見せてくれるよねと言われて頷けば、嬉しそうに笑った後で、じゃあチャックおろしてと返されさすがに戸惑う。なぜなら、コートの下は裸でという指示に従って、チャックを下ろした中は何も着ていないからだ。
「こ、ここで?」
「そうだよ。ちゃんと言われたとおりに出来てるか、ここで見せて」
「でも、」
「露出の趣味はないんだっけ。でもイヤラシイ命令はされたいんだよね?」
「そ、です。けど……」
「うーん……まぁ、初めましてじゃハードル高いか。じゃあ後3分あげる。3分でチャック下ろせたら後でご褒美。無理だったらお仕置きね」
 その言葉に体の熱が急速に上がっていき、その興奮を指摘されつつ、再度本当に可愛いという言葉と共に頭を撫でられた。
 
  
有坂レイさんは、「夜の橋」で登場人物が「髪を撫でる」、「ゲーム」という単語を使ったお話を考えて下さい。shindanmaker.com/28927
 
 
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雄っぱいでもイケる気になる自称ノンケ2(終)

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 訪れた部屋の中は筋トレグッズと思しきものがアチコチに置かれていた。なんとなくイメージ通りの部屋と言えないこともない。あのムキムキした筋肉は彼の努力の賜物だ。
 しかし、喜々としてそれらのグッズ説明が始まってしまったのは、正直苦痛でしかなかった。だって筋トレになんてまるで興味が無い。
 なのにあまりに楽しそうに語る顔がなんだか可愛くて、結局遮れずにうんうん頷きながら聞いてしまう。
「先輩が興味あるのは胸筋ですよね」
「あー、まぁ、そうだね」
 おっぱい星人ですもんねと笑われて苦笑を返すしかない。
「一般家庭にあるもので鍛えるとすると、やっぱり椅子とか使うのがいいと思うんですよね。背もたれ付きでしっかりしたのが2個あると便利ですよ」
 どうやら壁際に不自然に並んだ頑丈そうな2つの椅子も、筋トレグッズの一つだったらしい。それらを部屋の中央へと移動させて、椅子に手を乗せるのと椅子に足を乗せる二通りのやり方で、何度か腕立て伏せをしてみせた。
「もっと高負荷なやり方もありますけど、最初はこれでいいと思います。ちょっとやってみます?」
「は? や、ちょっと待って。俺は別に自分に筋肉つけたいわけじゃないから」
「ええっ!?」
 あまりに驚かれて、むしろこっちが驚きだ。お互いに驚愕顔で見つめ合うこと数秒、先に口を開いたのは相手の方だった。
「え、あの、筋トレのやり方が聞きたいって話じゃ……?」
「はぁあ? 俺は一言もんなこと言った覚えねぇけど?」
「おっぱい星人、なんですよね?」
「それは否定しないけど、それと俺が筋トレすることの繋がりがまったくわからん」
「自分に筋肉付ければ、いつでもおっぱい触りたい放題ですよ?」
「待て待て待て。自分の胸筋鍛えて、おっぱい触った気分漫喫とかねぇよ。てか鍛えた筋肉とおっぱいじゃ全然違うだろ!?」
「あ、そういや触って貰ってなかったですね。やっぱり直に揉んでみる方がいいですか?」
「は?」
 こちらの返答を待たず、相手はさっさと着ている物を脱ぎ捨てて、上半身裸になってしまう。
「どうぞ。触ってみてください」
 自信満々の笑顔が眩しい。そんな堂々とした態度に気圧されつつも、待たれて仕方なく手を伸ばす。
「え……っ」
 手の平に触れる相手の胸の柔らかさに、思わず戸惑いの声が漏れた。日々想像していた女の子のおっぱいと遜色ないどころか、あまりに気持ちの良い手触りと弾力に、すぐさま夢中になる。
「どうですか?」
「なにこれ、……マジでこれ、筋肉?」
「そうですよ」
「ええええ嘘だろ。なんだこれ。柔けぇ~」
 そこにあるのは自分の知る筋肉とはまるで別物だったが、なんだかそんなことはどうでもいい気になってくる。たまらずもう片手も相手の胸に伸ばして、両手の平でむにゅむにゅと揉みしだいた。
「ちょ、先輩……揉みすぎですって!」
「待って。もうちょっと揉ませて」
「さすがおっぱい星人、見境ないっすね」
「わかってんならちょっと黙って」
 ふわふわ柔らかな肉の塊を堪能する中、男の声で邪魔されたくなかった。諦めたような溜息の後静かになったので、思う存分モミモミし続けていたら、やがて胸の先が小さく尖って手の平にかするようになる。
「んっ……」
 その小さな突起を手の平で揉み込むと、鼻にかかった甘い吐息が聞こえてきた。
 胸を揉み込む自分の手ばかり見ていた視線をあげれば、頬を上気させた男が、戸惑いを色濃く乗せながら見つめ返してくる。
「ひゃあっ、んんっ」
 その顔を見ながら、今度は突起を指先で摘んで転がしてみたら、随分と高い声が上がってビックリした。驚いたのと同時に、興奮が増すのを自覚する。
 自分の上げた声にやはり驚いたらしい相手が、慌てて自らの口を手で抑える様が可愛らしいとすら思う。
「なぁ、舐めてみていい?」
 首を横に振られたけれど、構わず突起にむしゃぶりついた。
「ちょ、ダメダメやめてっ」
 大きく体を跳ねた後、そんな言葉とともに、相手の手が肩にかかって思い切り引き剥がされる。もちろん筋力に差がありすぎて、相手の力を無視して続けるような真似はできっこない。
 さすがにもっととは言えず、気持ちを落ち着けるように一度深く息を吐き出した。しかし興奮はなかなか冷めていかない。
「なんか……色々凄かった……」
 感触を思い出しながら、恍惚の境地で言葉を漏らせば、何故か相手が俺もですよと返してくる。
「雄っぱい揉ませてってのは結構あるけど、ここまでしてきた人って、先輩くらいですよ。おっぱい星人なめてました」
「いやだって、お前の雄っぱい凄すぎ」
「じゃあ、先輩も筋トレ始める気になりました?」
「なんでそうなる」
「女性のおっぱい並に柔らかい筋肉が作れるなら、筋トレしてみたいって話でしたよね?」
「だから、そんなの一言足りとも言ってないって。俺は、俺相手にもおっぱい揉ませてくれる新入生が居る、って聞いて来ただけだ。男だなんてことも、お前が来るまで知らなかったよ」
 なんとも微妙な顔をされて、さすがに可哀想になってきた。勝手にビッチと思い込んでいたのも申し訳ない。彼は人の良い筋トレマニアなだけだった。
「まぁ、お互い良いように騙されたってことで。でも悪かったな。俺のダチが妙なこと頼んで。アイツのことは俺がきっちりシメとくからさ」
 厚意を踏みにじってしまう形になって、なんとも後味が悪い。それでも彼との関係は、その日限りで終わるはずだった。
 けれどあの柔らかな雄っぱいの感触が忘れられなくて、うっかりそれをネタに抜いてしまってからは、どうにも気になってたまらない。その結果、お近づきになるには自分が筋トレを始めるのが手っ取り早く、人の良い彼の厚意に甘えまくって、一緒に筋トレをする仲になるのは早かった。
 たまに揉ませてもらう雄っぱいはやはり最高で、なんだかもう男でも全然良い気がしているのだけれど、相手の純粋な厚意を思うと告白は未だ出来ずに居る。

お題提供:pic.twitter.com/W8Xk4zsnzH

 
 
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雄っぱいでもイケる気になる自称ノンケ1

 自他ともに認めるおっぱい星人な自分は、常日頃男同士の猥談でおっぱいの魅力について語りまくっていたが、それと同時に、彼女居ない歴を着々と更新しつつある童貞だということも周りに知られまくっている。
 自分のモテ期は第二次性徴が来る以前の小学校半ばくらいまでで、当時どころか幼児期からおっぱい星人を自覚していた自分は、胸の膨らみのない女子になどまるで興味がなかった。子供の自分に、将来胸が大きくなるだろう女子と取り敢えず懇意にしておくなどという社交性はなく、それどころか女の価値はおっぱいにあるだとか、胸がでかくなってから出なおせだとかの直球をぶつけてお断りしたせいで、女子から総スカンを食らう結果になった。
 マズイことをしたと認識したのは、まわりの女子の胸が立派に育ちだした中学入学以降で、遠方の私立校に逃げられるような経済的余裕など我が家にあるはずもなく、そのまま近くの公立高校へ大半の同級生と共に進学するしかなかった結果、最低男の烙印は剥がれることなく今も付いてまわっている。
 後悔はしてもしきれないが、開き直る気持ちもあって、おっぱい星人としての道を邁進中だ。
 そんな中、友人の一人が、お前におっぱい揉まれてもいいってヤツが居るけどと言い出した。今年の新入生らしい。
 なんせ小学校時代からの悪評で、同級生どころか上級生や下級生にも要注意おっぱい星人として知られているから、そんな奇特な子が居るなんて驚きだ。というか、取り敢えずお試しでお付き合いしてくれるとかではなく、いきなりおっぱい揉み放題だなんて、どんなビッチだ。
 しかしビッチだろうがなんだろうが、そんなチャンスを逃せるわけがない。
 ぜひ会いたいと食らいついた自分に、友人は満面の笑みを見せたが、その笑みの意味を知るのは早かった。
 相手の新入生は自分を知っているようで、友人が指定したファミレスで待つこと15分。現れたのはやや小柄の、ただし筋肉をムキムキつけた男だった。
 迷うことなく、初めましてと挨拶してから、向かいの席に相手が座る。
 コミュニケーション能力が異様に高いのか、単に空気が読めないバカなのか、意気消沈しまくりの自分に怯むことなく、相手はニコニコと自己紹介を始めた。
 野球部と聞いて、なるほど友人の部活の後輩かとは思ったが、きっと野球部でもこの後輩を持て余しているのだと納得する。男におっぱいを揉ませたがる変態が、男だらけの部活に入ってきたら、そりゃ自分たちの身に害が及ぶ前に誰かに押し付けたくもなるだろう。
 男になんて興味ねーよ、せめて女になってから出なおせ。などと直球をぶつける愚弄を繰り返す気はさらさらないが、さてどうしたものか。にこにこと悪意のかけらもなさそうに笑う新入生の男を前に、なるべく傷つけずにお帰り願う方法を考える。
 しかしどれだけ考えた所で、良い案が浮かぶわけもなかった。
「あー……じゃあまぁ、取り敢えず、胸揉ませてくれ」
 考えるのも面倒になって、おっぱい星人ならおっぱい星人らしく、相手が男だろうと揉まれたい奴の胸は揉んでやろうと口にする。
「すごいっすね。本当におっぱい星人だ」
 何がツボだったのか、新入生は楽しげに笑った後、いいですよと言って更に続ける。
「場所はどうせならウチの部室か、後はやっぱ俺の部屋ですかね」
「お前の部屋だな」
 どうせならで部室という選択肢が出るところが怖すぎる。そう思いながら即答すれば、新入生はわかりましたと答えて立ち上がる。気が早いと思いながらも、抵抗する気もなく後を追った。

続きました→

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草むらでキス/戸惑った表情/抱きしめる/自分からしようと思ったら奪われた

 中学生になる前は、毎年夏休みに半月ほど、母方の田舎に遊びに行っていた。毎年通っていたから、祖父母の家の近所の子供たちとも顔見知りで、滞在中は色々と遊びに誘って貰っていた。
 その子は確か自分が小学3年頃から見かけるようになったと思う。自分と同じように、夏の間だけその地へ遊びに来ていたようだった。
 すぐに自分とも周りの子供達とも打ち解けて、一緒に遊ぶようなったその子は1つか2つ年下だったせいもあってかとても小柄で、柔らかくどこか照れくさそうに笑う顔がなんとも可愛く、守ってあげたくなるような雰囲気を持っていた。
 間違いなく男の子ではあったけれど、彼に惹かれていた男子は自分の他にもたくさん居たはずだ。誰にでも優しく聡明だった彼は、もちろん女子からの受けも良かった。
 たった2週間でお別れになってしまうのが本当に悲しくて、彼が滞在する期間中ずっと遊べる地元の子たちがとても羨ましかったのを覚えている。
 あれは彼と出会って3回目の夏で、そこで夏休みを過ごした最後の年だった。
 どういう状況で彼と二人きりになったのかはもう思い出せない。
 天気の良い日で、ギラギラと輝く太陽が照りつける中、彼と二人で草原を歩いていた。暑さに加えて二人きりという状況に、テンションが上がりすぎて少しおかしくなっていたのかも知れない。
 唐突に、告白しなければという気持ちが沸き上がった。言うなら今しかないという焦燥にかられて立ち止まったものの、好きだという単語はなかなか口に出せなかった。
 突然立ち止まって黙りこくったまま動かない自分に、相手は戸惑いの表情でどうしたのと問いかける。言葉は出ないのに、焦るあまり体が動いて、気づけば相手を抱きしめていた。
 抱き返してくれたのは、具合が悪いと思ったからだろう。こちらを心配する言葉をいくつも掛けられたが、違うと首を振るので精一杯で、やはり好きだとは言えない。
 結局しばらくそうして抱き合った後、どうにも出来なくて体を離した。色濃い戸惑いに興奮と羞恥とを混ぜた様子で、頬を上気させる彼の顔はいつもと違う色気のようなものがあって、頭の中がクラクラと揺れる気がする。
 引き寄せられるように顔を近づけたら、彼の腕がスルリと首に掛かって、伸び上がってきた彼の顔がグッと近づき唇が触れた。彼から触れてこなくても、あのままなら自分から触れていただろう。
 それが自分のファーストキスであり、彼が自分にとっての初恋相手だ。
「ってこんな話、面白いか?」
「ええ。とても興味深いです。結局自分から告白できず、キスも出来ず、奪われたってあたり、先輩、あまり成長がないですよね」
「うるせぇっ。お前がバリタチってのが詐欺なんだよ」
 バイト先の後輩に、貴方が好きなんですと言われてOKしたのは、その後輩と初恋の男の子がどことなく似ていたからでもあった。男にしてはやや小柄で、笑うと可愛くて、なんとなく世話を焼きたくなる感じが似ている。
 初恋が男だったせいか、恋愛に男女のこだわりがあまりなく、男とも女とも付き合って来た。けれど基本的には可愛くて守ってやりたいタイプが好きだったので、男が相手でも抱いた経験しかなかった。だから当然、後輩のことも自分が抱く気まんまんで部屋に誘ったのに、気づいたら自分が押し倒された挙句、にっこり笑って「ごめんなさい。バリタチなんです」と来たもんだ。
 まぁ流されて抱かれてみれば、それなりに良くされてしまったというか、バリタチを公言するだけあって多分自分よりも上手いと思う。やり終えた後に、ファーストキスがいつだったかなんて事をしつこく聞いてくる、情緒のなさはどうかとも思うけれど。
「昔も今も、まごうことなく狙われてるのに、自分が食われる方だって意識がないって方がどうかと思いますけど」
「あの子が俺を食おうとしてたみたいな言い方すんな」
「当時から隙あらば食おうとしてましたよ。というか分かってないみたいですけど、その子、俺ですからね?」
「はあああっっ!?」
「うわっ、声でかいですって」
「でかくもなるわ。てかマジなのか?」
「本当ですよ。先輩、その子の名前すら覚えてないでしょ。こっちは名前ですぐわかったのに」
「あー……すまん。なんとなく似てるような気はしてた」
 言えば、調子いいこと言っちゃってと呆れた声が返された。

有坂さんにオススメのキス題。シチュ:草むら、表情:「戸惑った表情」、ポイント:「抱き締める」、「自分からしようと思ったら奪われた」です。
https://shindanmaker.com/19329

 
 
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好きなひとの指 / 連続絶頂 / 癖になってしまいそう

 自分がどちらかと言えば女性よりも、同性である男性を好きになる性癖持ちだということは自覚していたが、同性の恋人を持ったこともなければ、男と体だけの関係を結んだこともない。興味はあったが好奇心よりも不安が大きかったせいだ。
 女性とはできないというわけではないが、それも若さで持て余し気味の性欲のなせるわざだったのか、就職して数年、仕事に慣れ面白く感じるようになるにつれ、とんとそんな気にはなれなくなった。
 自慰で充分と思う気持ちと、年齢的にそれはちょっと寂しいのではと思う気持ちとの間で揺れる。そんな状態だったので、相手が男ならまた違った気持ちが湧くのだろうかと、きっと不安よりも好奇心が若干勝っていたのだろう。
 都内への出張が決まった時、その好奇心が爆発した。それで何をしたかといえば、ゲイ専門の性感マッサージへ、意を決して予約を入れた。
 お金を払いこちらが客としてサービスされる側というのも、口でのサービスも、当然本番行為もないというのが、安心に繋がったというのもあるかもしれない。
 サイトのプロフィールからたまたま目についた同じ年のスタッフを指定し、当日、予約時間より少し早めに店に着けば、そのスタッフが自分を迎えてくれた。
 サイトでは顔にモザイクのかかっていたが、実際に会った瞬間、思わず息を呑んだ。今現在、ほんのりと好意を抱いている自覚がある直属上司に、顔や雰囲気がよく似ていると思った。
 知り合いに凄く似ててと言いながら動揺を滲ませてしまったせいか、急にスタッフの変更は出来ないと、随分と申し訳無さそうに言わせてしまった。キャンセルするかと問われて慌てて首を振る。指名したスタッフが思った以上に好みだったから、なんて理由で帰るはずがない。
 こういった店どころか男との経験皆無というのは予約時に伝えてあったが、再度、通された個室でそれを伝えれば、今日は是非楽しんでリラックスしていって下さいと柔らかに笑われホッとした。
 促されるままシャワーを浴びてから施術用のベッドに横になる。
 似ていると思ったのは顔や雰囲気だけではなく、特に指がすっと綺麗に伸びた手の形がそっくりなのだと気づいていた。この手に今からマッサージを、それも性感を煽る気持ちよさを与えられるのだと考えただけで、恥ずかしいような嬉しいような興奮に襲われる。
 まずは普通のマッサージからで、緊張を解すようにアチコチを揉まれながらの軽い世間話に、緊張やら警戒心やらはあっという間に霧散していた。こんな仕事を選ぶくらいだから、相手の話術は相当だったし、自分も別段人見知りするタイプでもない。
 気づけば気になる上司の事までペラペラと話していて、似ている知り合いがその上司だということも言っていた。
「じゃあ俺、好みドンピシャってことじゃないですか」
 嬉しそうな声が降ってきて、そうだよと返す。
「嬉しいなぁ。あ、でも、そこまで似てるなら、その上司の方の手と思ってくださってもいいですよ?」
「ええっ、さすがにそれは君に失礼でしょ」
 なんてことを言っていたのに、初めて男のツボを知り尽くした同性の手で性感を煽られまくった結果、何度も繰り返す絶頂の中でその上司の名を呼んでしまった。
「ご、ごめん」
「良いって言ったの俺だよ。ほら、気にしないで、もっと気持ちよくなってご覧」
 ハッとして謝ったが丁寧語を捨ててそう返され、オマケとばかりに、上司が自分を呼ぶ時と同じように苗字に君付けで呼ばれて、錯覚が加速する。
 どちらかと言えば自分は性に淡白な方だと思っていたのに、短時間に驚くほど何度も絶頂に導かれてしまった。
 帰り際、また指名しても良いかなと躊躇いがちに問えば、笑顔でぜひと返される。
 これは癖になりそうでヤバイかもしれないと思う気持ちと、週明けに上司の顔がまともに見れるだろうかという不安に揺れながら帰ったけれど、出張も何もないのに次の予約を入れてしまったのはそれから一ヶ月ほどの事だった。

有坂レイへの今夜のお題は『好きなひとの指 / 連続絶頂 / 癖になってしまいそう』です。
shindanmaker.com/464476

 
 
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