目隠ししようか

気がつけばお前のことばかり考えてるの続きです。

 さすがにそのままはいどうぞという気にはなれず、シャワーを借りる事にしたら、なぜか一緒に入ることになった。
 体を洗ってやるついでに触って終わりにするというから、ベッドの上であれこれされるよりはマシな気がしてOKした。体を洗ってもらうという理由があったほうが、気分的に受け入れやすいような気がしたからだ。
 もちろん、一人で風呂に入れる年齢になってからは、他人に体を洗われたことはない。
 まずは背中から、たっぷりとボディソープを含ませ泡立てたボディタオルでゴシゴシと擦られるのは、単純に気持ちが良かった。肩から腕にかけてや腿から脛へかけてもも同様に気持ちが良かったが、胸や腹はさすがに擽ったくて笑いを堪えるのが大変だ。手の平や指は全然平気だったが、足の裏や足の指となってくると、もう笑いがこらえられない。
「ちょっ、くすぐってぇ! やめっ、ぅアハっ、あははっおいっっ!」
「もうちょっと」
 風呂椅子に腰掛けた自分の斜め前脇にしゃがみこんだ相手は、片足首をがっちり掴んで持ち上げていて、泡立つタオルをくるくると足裏にすべらせる。
「よーせーって、うはぁっ、……こ、んの、しまいにゃ蹴んぞ」
 風呂の縁にすがりつく格好で締りがないにも程があるが、言いながら掴まれた足をバタバタと振れば、さすがに諦めた様子で手を離された。しかしすぐにもう片足を掴まれる。
「じゃ、反対側」
「えー、もう、足はいいだろ」
「やだよ。めっちゃ楽しい」
 最初で最後なんだからそこは譲れないなと言われれば、今度はこちらが諦めるしかない。ため息を吐いて足を差し出し、さっさと終えろと言ってはみたが、無駄なことは相手を見ればわかる。結局また散々笑わせられる結果になった。
 しかも最後の方はタオルを放り出し、手の平でスルスルと擦られた。ここからが『触る』のメインだなどと言われて、足の指の間に手の指を突っ込んで前後に擦られた日には、笑いとは違った妙な声がこぼれ出た。
「うあッ、…ッん」
「感じた?」
「何言って、ああっ、あっ、っちょっダメ」
 くすぐったさの中に、ぞわりと背筋を這い登るしびれのようなものが混じって、変な声が押さえられない。混乱している間に反対の足も同じように指の間を擦られ、ダメともやめろとも言えなくなって、あッあッと漏れる声だけが風呂場に響く。
「めっちゃチンポ勃ってる」
 ようやく足裏攻撃から開放されると同時に、含み笑いで指摘されたが、言われるまでもなくわかっている。足の裏やら指の間やらを洗われて、こんな状態になるとは正直思っていなかった。
「触っていい?」
 少し上ずった声に相手の興奮を感じて、ゴクリとつばを飲み込んだ。
「い、いーよ」
「目隠し、する?」
「へ? なんで?」
「見えなかったら、女にされてる想像もしやすくね? 俺、しゃべんねーようにするし」
 手のデカさとゴツさは仕方ないにしても、男にされてるとこ見るよりマシじゃないかと提案されたけれど、じゃあ目隠ししようとは思えなかった。
「あー……てか別にいーって。お前に触られる覚悟でここ居るんだし」
「マジか」
「成り行きでいいよって言ったとでも?」
「違うのかよ」
「いや、半分は当たってるけど。でもここまでさせて今更なしも言わねぇって。いいよ。触れよ」
「いや、でも、見られる俺も恥ずかしいっつーか……」
「結局そっちかよ。俺だって握られて擦られたら興奮した恥ずかしい顔晒すんだから、お互い様だろ」
「握られて興奮すんのと、男のナニ握って興奮してんのは違うだろ。つか俺やっぱキモいな」
 眉尻を下げてゴメンと情けない顔を晒すので、仕方ないなと相手の股間に手を伸ばす。互いに裸なので、相手の性器も興奮を示して勃ち上がっていることはわかっていた。
「ったくしょーがねーから俺もお前の握ってしごいてやるわ」
「っえ、っちょっ」
「お互い、握られて興奮してる。ってことでいーだろ」
 ほら早くお前もと急き立てつつ、握った手を軽く上下に動かしてやれば、負けじと伸びてきた手が性器を包む。
 後はもう、衝動のままに手を動かした。
「あっ、ああっ、きもちぃっ」
 さっき笑いながらアンアンしてしまったせいか、握られ擦られ喘ぐことにもあまり抵抗がない。それに比べて、相手はやはり声を上げることに抵抗があるのか、必死でこぼれる息を噛んでいる。
「おまぇ、は? きもちーの?」
 見てわかんだろと言いたげな視線を躱してしつこく繰り返していたら、ぐっと相手の顔が近づいて口を塞がれた。
 触っていいとは言ったがキスしていいとは言ってない。
 なんて野暮なことを言うつもりはなく、自ら舌を差し出した。

続きました→

レイへの3つの恋のお題:気がつけばお前のことばかり考えてる/目隠ししようか/ずっと忘れない

 
 
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気がつけばお前のことばかり考えてる

 また今年も同じクラスになったなと喜んだ4月からほんの数ヶ月。最近なんとなく避けられている。
 いっそはっきりきっぱりと、何が嫌なのか言ってくれればいい。けれどその実、わかってもいた。
 言ってどうにかなることなら、彼は躊躇わずに告げるはずだ。互いを親友と呼び合うことすらある自分たちの関係において、そんな遠慮は必要がない。
 要するに彼が何も言わないということは、きっと言われても気をつけてどうこう出来るようなことじゃないんだろう。だからそれを聞いてしまったら、前のように仲の良い友人には戻れないかもしれない。なんてことを考えてしまったら、問い詰めることは出来なかった。
 のらりくらりと中途半端に続ける友情は、やはり周りにも違和感を与えるらしい。喧嘩でもしたのかと問われる回数が増えて、どう返していいか躊躇い濁すように笑って逃げていたら、とうとう相手の覚悟が決まってしまったらしい。随分と緊張のにじむ声で、帰り付き合えなんていうから、笑ってわかったと返したものの、内心ショックで泣きそうだった。
 今までなら、何を話していても相手とならすぐに爆笑へと変わっていたのに、ぽつりぽつりと思い出したように交わす会話は上滑りで、道すがら何を話していたのかなどさっぱり思い出せない。
 そんな状態で連れて行かれた先は、彼の自宅だった。既に何度も訪れたことがある彼の部屋は、どうやら片付けをしたばかりのようで、見慣れたものよりだいぶスッキリとしている。
 散らかっている方が居心地がいいなんていうのは明らかにおかしいので、この居心地の悪さはやはり彼の雰囲気なのだとわかっていたが、それでも腰を下ろすのが躊躇われて立ち尽くす。
「お前に頼みがある」
 そんな中、やはり腰は降ろさず立ったままだった彼が振り向き、少し掠れた声でそう言った。
「いいよ。何?」
 自分に出来ることならなんだってしてやろうという気持ちで告げたのに、彼は気に食わない様子で眉を寄せる。
「そんな簡単に了承していいのかよ」
「だってお前が俺に、俺が絶対出来ないようなこと頼むと思えねぇもん」
 で、何よ? と尋ねれば、この期に及んで口にするのを躊躇っている。
「言えって。そのために連れてきたんだろ?」
「最近、気が付くとお前のことばっか考えてる」
「それ、悪い意味で、ってことだよな?」
「良い意味とか悪い意味とかわかんねーよ」
「だってお前、避けてたじゃん。俺の嫌なとこが目について、って話と違うの?」
「違う。あー……その、恋愛的な意味で?」
「は? 恋愛? 何お前、俺のこと好きになったの?」
「いやーそれも微妙っつーかなんつーか」
「はっきりしねぇな。結局お前のお願いって何? まさか恋人になってとかそういうの?」
「恋人になってって言っても了承すんのかよ」
「あーまぁ確かに、軽率なこと言った。ちょっと考えさせて」
「いや待て。恋人になってくれが頼みじゃない」
 紛らわしいと強めの口調で言ったら、悪いついと苦笑されて、なんだかこの会話のテンポが懐かしい。内容はちょっと確かに今までにないものではあるけれど。
「恋人になってくれとは言わない。けど、一回だけでいいからさ、お前に触らせて欲しいんだけど」
「触るって?」
「端的にいうとエロいことしたい。お前に」
「い、今から?」
「そう。今日親、遅いんだ」
 やっぱ気持ち悪いか? と聞かれて、反射的に首を横に振って否定した。それだけで随分と安堵した様子を見せるから、嫌だ無理だと帰る気にはなれそうになかった。
「一回だけで満足すんの? それで元の俺らに戻れんの?」
「わかんね。けど、お前にエロいことすることばっか考えながら、このまま友達の振りなんてできねーし。けど無理なら無理で、それもしゃーねぇって思うし。言うだけ言ったら少しすっきりしたから、お前がオッケーでもノーでも、元の俺らに戻る努力はするよ」
 変なコト言ってゴメンなと後ろ頭を掻きながら照れ笑う顔が、良くしった親友のあいつだったから。
「触っていいよ」
 言葉はするりとこぼれ落ちた。

続きました→

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優しい笑顔が好きだった

 丁寧に慣らされたアナルは広がりきって、彼の大きなモノを飲み込み、時折グチュリチュプリと湿った音を響かせている。
「あっんアッ、んぃっ、いい、あぁっ」
 焦らすようにゆっくり腰を引かれると、ぞわりと背筋を駆け抜ける快楽に声が押さえられない。
「あっ……はっぁ……」
 ぎりぎりまで引きぬかれて一度動きが止まると、次の衝撃を待って息を整える。もちろん、相手は息が整うのを待ってくれるわけではない。
「ひああぁぁぁっ」
 突き抜ける快感。こちらのタイミングをわざと外して、抜かれる時の焦れったさとは逆に勢い良く突かれれば、漏れ出るのはもはや悲鳴に近い。
 何度か繰り返されてこちらがイきたくてたまらなくなる頃、彼はわざと全ての動きを止める。どうしようもなく刺激を求め、こちらが腰を揺すってしまうのを眺めるためだ。
 わかっていても、自ら腰を揺すって快楽を追うのは躊躇われて、無駄と知りつつ「お願い」と口にする。
「お願い、ね、もう、…いか、せて。動い、て」
 優しい笑みは残酷だ。もう少し楽しもうよなんて言われながら額に張り付く髪をそっと払われただけで、ビクビクと体が跳ねるほどの快感が走る。その痙攣で咥え込んだ彼を意識させられ、そうなるともうダメだった。抑えよう耐えようと思う気持ちを裏切って、体は刺激を求めて動き出してしまう。
「いやらしい体になったね」
 凄く可愛いよと満足気に笑う顔はひどく優しいのに、じわりと視界がぼやけていく。
「どうして泣くの?」
「だって」
「うんと焦らされる方が、ずっと気持良くなれるの知ってるよね?」
 意地悪してるわけじゃないんだよ。と苦笑される気配に、そうじゃないとは言えなかった。
 意地悪だなんて思ったことはない。関係をねだったのは自分で、彼は最初からずっと優しい。男に抱かれて感じられる体になりたい。そんなバカみたいなお願いを、断りきれなかったくらいに優しい人だ。
 彼にとって自分が恋愛対象外なことはわかっていて、それでもどうにか自分に目を向けて欲しくて無茶をした、という自覚はある。誤算は、ここまで自分の体が変わってしまうとは思わなかった点だ。
 一度だけのつもりが、彼の優しさに甘えてずるずると関係を続けてしまった結果がこれだ。
「今日…で、やめる」
 とうとう言った。ボロリと落ちていく涙は、やはり彼の指がやさしく拭っていく。
「それで泣いてるの?」
「だって、好きなんだ」
「だから最初に言ったのに。そんなことしたら情がわくよって」
 情なんて最初から持っている。むしろ、情が湧いてくれたらいいのにと思ってさえいた。
「そっか。でも良かったよ。一緒になって楽しんでた自分が言うのもなんだけど、このままズルズル続けるのも問題だなと思ってた所だし」
 知ってる。なんてことは悔しすぎて言えない。
 数回前から、わかりやすく散らされ始めた所有印。恋人ができたのかどうかは聞いていないが、少なくとも自分には許されていないし、この体に痕を残されたこともないのだから、答えは明白だ。
「ああ、でも、これが最後なら、うんと気持ちよくならないとね」
 泣いたせいで若干散っていた快感を思い出させるように、彼がまたゆっくりと腰を使い出す。
「あっぁアッ」
 すぐにたまらず溢れる声を、いい声だねと褒められる。
 イヤラシイ行為の真っ最中にも、優しく笑っている顔が本当に大好きだった。
 これで最後なのだと思うとやはり胸がキュウと痛んだけれど、それでも精一杯、彼を真似て笑ってみせた。

 

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戸惑った表情/拘束具/同意のキス

 本日のデートの目的地はSMプレイが可能なラブホテルで、部屋に入った瞬間から、相手はやはり戸惑いの表情が隠せていない。
「やめる? 無理強いする気はないけど」
 相手は緊張を滲ませながら、それでも否定を示すように首を横に振った。
「嫌だ。お前は俺のもんだ」
「それを否定する気はボクにだってないよ。でも、大事な子に酷い真似をしたいわけでもない」
 恋愛感情と性癖は必ずしも一致しない。
 拘束されて逃げられない男を相手に、鞭打って苦痛にゆがむ顔を見ることも、野太い悲鳴の声を聞くことも。イかせないギリギリの所で弄りまわして、イかせてくれと涙混じりに懇願させることも。そのまま吐精は許さず空イきさたり、吐き出すものが無くなるまでイかせ続けることも。
 それらのことで最高に興奮するという事実は確かにあるが、今目の前にいる男に対しても同じようにしたいのかと言えば、正直否定の気持ちのほうが強い。彼は大切に慈しみたい大事な恋人で、性的な興奮を満たすためだけの行為に利用するのは、性癖が性癖だけに躊躇われた。
 自分の異常性には気づいていたから、ずっと隠して、彼の前では常に優しい恋人を演じていたのに、先日とうとう彼にも知られる運びとなってしまった。
 彼の体に無体なことをしないために、他で発散させている。という事への理解は辛うじて得られたように思う。けれど今後もそれを見逃してくれる気は一切ないようで、彼は自分が相手をすると言って譲らない。どうしても別の誰かでなければダメなら、恋人関係を解消するとまで言われてしまえば、それはもう頷かざるをえない。
「俺だけで満足できないなら、恋人やめるって言ったよな?」
 これはもはや脅迫でしかない。
「わかってるよ。だからこうして連れてきたでしょ。そっちこそちゃんと覚悟できてるの?」
「しつっこいな。お前の話はちゃんと聞いたし、自分でもそれなりに調べてみた。ちゃんと覚悟もしてるし、何されたってそれでお前をふったりしない」
 俺が信じられないか、などと真っ直ぐな目で見つめられながら言われれば、否定の言葉など返せるはずもなかった。
 もちろん、いくら大丈夫と言われた所で彼はまったくの未経験者なのだから、彼で自分の性癖を満たした結果、お前の嗜好についていけないと言われて、振られてしまう不安がないわけではないのだけれど。それでも。
「それならまずは簡単な拘束から始めようか」
 視線で促す先にはX字の磔台がある。ゴクリとかすかに喉の鳴る音が聞こえてきたが、気づかなかったふりをした。
「おいで」
「服は?」
「脱がなくていいよ」
 初心者には服のままでという方が抵抗感が薄いことを知っている。もちろん、プレイ中にその服が汚れる可能性が高いことを教える気などないし、替えの服を用意してきていることも知らせるつもりはなかった。
「さて、これで簡単には逃げ出せなくなったけど、どうしようか?」
 両手足を磔台に括り付けた後で問いかける。
「どうでも、お前がやりたいように」
「本当に?」
「ああ」
「服越しにずっと焦らされ続けて下着の中を先走りでドロドロにするのと、利尿作用強いお茶を飲んでもらってお漏らしか、どっちの方がいい?」
 想像したのかうっすらと頬を染め、迷うように視線が彷徨った。
「ねぇ、本当に覚悟してきたの?」
「して、る」
 もう一度やめておくかと尋ねる前に、肯定の言葉が返される。
「どっちでも、いい」
「お漏らしで濡れたジーンズ履いて帰ることになっても?」
「着替えは、持ってきてる」
「そうか。それは残念」
「ゴメン」
「いや謝られるような事じゃないけどね」
「けど、服を汚すかもって不安になる姿が見たかったのかと思って」
「うんまぁ、それはあるけど……」
 彼に自分の性嗜好を推察されるとは思わなかった。なんとも不思議な気分で眉を寄せたら、もう一度ゴメンという言葉が聞こえてきた。
「お前がどんなことに興奮するのか、調べながら色々考えた。お前のことが好きだよ。お前のことをもっと知りたい。他の誰かに俺の知らないお前を知られてるのは許せない。何をしたっていい。だから、俺だけのもので居てくれ」
 真摯な言葉に胸が熱くなる。その気持のまま、両手足を桀られ動けない相手の顔を両手で包み込み、そっと唇を寄せる。
 何度も軽く触れ合わせ、やがて深く触れ合おうと舌が伸ばされてきた所で顔を離す。相手を焦らすというよりも、自分自身を焦らす目的で。
「じゃあ、お茶を飲んでから、おしっこ我慢しつつ下着の中をドロドロにしてみよっか」
 愛しくて愛しくて大切な彼を、めいいっぱい辱めて可愛がって、そしてそんな彼にめちゃくちゃ興奮する自分の姿を見せてあげたいと思った。

 

 

レイさんにオススメのキス題。シチュ:デート先、表情:「戸惑った表情」、ポイント:「拘束具」、「お互いに同意の上でのキス」です。
#kissodai http://shindanmaker.com/19329

 
 
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夕方の廃ビルで

 逢瀬の場所は相続で揉めてるだかなんだかで、ずっと放置されている廃ビルの中のとある一室だ。
 廃ビルとは言っても、あちこちの窓やドアやらが破壊されているような崩壊ぶりはなく、簡単に外部の人間が入り込めるような状態ではない。
 そんな場所へやすやすと入り込めているのは、今現在、何の収入にもならず、売ることも建てなおすことも出来ず、けれど固定資産税は払わなければならないという、やっかいなこのビルの管理者が自分の親だからだ。もちろん親の許可など取ってはいないけれど。
 時刻は夕方の5時。合鍵を渡してある恋人がひっそりと訪れる。
 なぜこんな廃ビルを逢瀬の場所に利用しているのかといえば、自分たちの関係が公に出来ないものだからだ。
「なんだよその花」
「ビルの入り口近くに置いてあった」
 お前は気づかなかったのかと問われ、知らないと答えた。
「そっか。まぁちょっと影になってたしな」
「で、なんで持ってきてんの?」
「お前宛だと思ったから?」
「は? なんで俺宛?」
 さっぱりわからないと首を傾げれば、含み笑いで近づいてくる。
 差し出された花束を思わず受け取れば、その花束越しに最初のキスが落とされた。
「知ってるか? 最近このビル、幽霊出るらしいぞ」
 キスの合間に楽しげに囁かれて、上がる息に乗せて知らないと返す。
「事故死だか自殺だかした男の霊らしい。だからな、この花はその幽霊のための献花じゃねーかと思ってな」
「んで、それがどうして俺宛?」
「わからないか?」
「全然わかんねぇよ」
 ぽつりぽつりと会話を重ねながらも、着々と服は剥かれていて、顕になった肌の上を手がすべっていく。それは的確に快楽を引き出していくから、アッアッと小さな吐息が漏れだした。
「ほら、お前のその声」
「なんだよ。声は殺すなって言ったのアンタだろ」
「そうそう。俺はお前の喘ぎ泣く声大好きだからな」
 けどな、と話は続いていく。
「お前が感極まってすすり泣く声が、外に漏れてんじゃないかと思うんだよなぁ」
「えっ?」
「まぁかなりのボロビルだからな。というわけでな、幽霊の正体って多分お前なんじゃないか?」
 そんなことを聞かされて、のんきに喘いでる場合じゃない。けれど必死で声を抑えようとしても、普段と真逆の状態がそう簡単に続くわけがないのだ。結局、本日も盛大に喘ぎ泣いたことは言うまでもない。

レイさんは、「夕方の廃ビル」で登場人物が「結ばれる」、「花」という単語を使ったお話を考えて下さい。
#rendai http://shindanmaker.com/28927
 
 
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はっかの味を舌でころがして

目次へ→

 生まれた時から同じマンションのお隣さんとして育って15年。
 生まれ月の関係で自分より1学年上の幼なじみは、この春から通学時間1時間弱の私立高校へ通っている。
 幼稚園に入る時は親が3年保育というのに入れてくれたので入園が同時だったが、幼なじみが小学校に上がる時はそりゃあもう盛大に泣いて怒った記憶がある。
 中学の時も、さすがに泣きはしなかったがやはり納得は行かなかった。だって3ヶ月だ。3ヶ月しか違わないのに離れ離れだなんて。小学校と中学校は隣り合っていたけれど、そこには簡単には越えられない、見えない壁が確実に存在している。
 しかも中学へ入学したら部活動なんてものが始まって、帰宅が随分と遅くなった。追いかけるように1年後に同じ部活に入部したら、規律がどうだの示しがつかないだので先輩と呼ばなければならなくなった。
 部活なんてやめてしまおうかとも思ったが、少しでも長く放課後一緒に居たい気持ちから続けてしまった部活は、3年が引退した昨年秋から部長を任された。同じく部長だった彼から引き継ぐのだと思えば、誇らしくはあったのだけれど、やはり先を行かれる悔しさと寂しさと腹立たしさは変わらない。
 滑り止めで近所の公立高校を受験したことも当然知っていて、本命の遠い私立高校なんて落ちてしまえと本気で願っていた数ヶ月前の自分があまりに腹黒く思えて、それからなんだか少しおかしい。彼を真っ直ぐに見れなくなって、なんとなく避けてしまうようになった。といっても、どうせ通学に1時間掛ける彼との接点は、この春からほぼないに等しいのだけれど。

 午前中だけの部活を終えて帰宅した休日の午後、ベッドの上に寝転がりながらイヤホンで音楽を聞いているうちに、どうやらウトウトと寝落ちしていた。
 ぼんやりと意識が浮上して、目を開けた先に見えた頭髪に心臓が跳ねる。自分が彼を見間違うはずもない。
 一気に覚醒してガバリと起き上がれば、ベッドに寄りかかるようにして本を読んでいた彼が振り向き、柔らかに笑って、多分おはようと言った。
「なんで居んだよっ!」
 装着しっぱなしだったイヤホンを毟り取りながら叫ぶように告げれば、柔らかな笑顔が少し困ったような苦笑に変わる。
「今日うち、母さん出かけててさ。夕飯、こっちで食べさせてくれるって言うからお邪魔してる。お前とも久々にゆっくり話でもと思って早めに来たけど、寝てるの起こすのも悪いと思って。でも却って驚かせたよな」
 ゴメンなと謝られても、どう返していいかわからなかった。わからないから無言のまま、ただ見つめ合うのすら居た堪れなくて、そっと視線をそらす。
「なぁ、……」
「なんだよ」
「何でもない。やっぱいい」
 呼びかけの声までは無視できずに返事をすれば、躊躇う様子の後で撤回された。
「なんだよ。気になるだろ。言えよ」
「あー……と、そう、飴食べない?」
 絶対に最初の話題とは違うと思ったが、更に食い下がるのも面倒になってその話題に乗ることにする。
「何味?」
「ミント」
「貰う」
「じゃあ、はい」
 言いながら差し出された舌の上には、半透明の小さな丸い固体が乗っていた。
「は? ふざけんな」
「冗談だって」
「で? 俺の分は?」
「ごめん。ない」
「なんなんだよお前」
「うん。本当、ゴメン」
 ちょうど暮れてゆく空に、この短い時間で部屋の中もだんだんと薄暗くなっていく中、困り顔の笑みを貼り付けたままの彼が泣いているようにも見えてドキリとする。
「なんか、あったんかよ」
「やっぱりわかる?」
「だってお前おかしいもん」
「お前もここんとこ十分おかしいけどな」
 長い溜息を吐きながら、彼は上半身ごと振り向いていた体を戻して、疲れたようにベッドの縁により掛かった。仕方なく、自分もベッドを降りてその隣に座り込み、同じようにベッドの縁に背を預けた。
「で、何があったって?」
 高校馴染めてないのかと聞いたら、そういうんじゃなくてと言いながらもう一つ溜息が落ちる。
「ずっと好きな子が居るんだけどさぁ、なんかちょっと最近避けられちゃってて。何が原因なのか、思い当たることありすぎてわかんないんだよね」
 まさかの恋愛相談に、呆気にとられつつその横顔をまじまじと眺めみてしまう。見られていることに気づいてか、それとも初めてともいえる恋愛相談が気恥ずかしいのか、その頬にうっすらと赤みがさしていくのがわかった。
「見てないでなんか言えよ」
 視線から逃げるようにフイと顔を逸らされる。
「いやだって、恋愛相談とか無理だって。好きとかわかんねーもん俺」
「好きな子、いないの?」
 驚いた様子で逸らしていた顔を向けられたが、そこまで驚かれることに驚いた。彼の恋愛相談を受けるのも初めてだが、自分が恋愛相談を持ちかけたことだって一度たりともないのだから。
「女と遊び行きたいとか思ったことねぇよ」
 アイドルの誰がいいとか、何組の誰それが可愛いとか、適当に話を合わせる程度のことはしても、本気で誰かと交際をしたいと思ったことなんてない。楽しそうだなんて欠片も思わないどころか、面倒そうだとしか思えないのだ。
「俺のことは?」
「は?」
「お前、俺にはけっこう執着してたじゃん」
「執着っつーか、だって悔しいだろ。たった3ヶ月しか違わねぇのに、なんで学年違ってんだよ。家じゃ普通にタメ口聞いてんのに、学校じゃ後輩としての立場わきまえろとか言われんの最悪」
「学年の違いは仕方ないだろ。てかさっきの質問の答えは?」
「さっきのって?」
「俺のことは好きか嫌いか」
「嫌いな奴の親友なんかやるかよ」
「でもお前、俺のこと避けてんじゃん。親友とか言うなら避ける前にやることあるだろ。俺に気に入らないことがあるならちゃんと言えよ」
「いや、それは、別にお前が気に入らないとかじゃなくて」
「高校もさ、またしばらく拗ねてむくれて暇を見つけては押しかけてくるみたいな事になるのかなって思ってたんだよ。俺が中学あがった最初の頃、お前、俺が学校帰ってくるの家の前で待ってたりしたよな」
「3年経てば成長もすんだよ。てかちょっと待て。お前好きな子に避けられてって、それ、まさか俺のことじゃ……」
「うん」
「えっ、てかええっ??」
 驚きすぎて続く言葉が浮かばないまま、結局相手を凝視する。彼はゴメンと言いながら引き寄せた膝に顔を埋めてしまった。
「じゃあなんで、遠い私立とか受験したんだよ。すぐそこの公立で良かったろ」
「先のこととか親の期待とか、こっちだって色々あんだよ。それでお前に避けられる事になるなんて思ってなかったし。てかこうなるのわかってたら、もっと真剣に近くの公立に通うことだって考えたよ。というか、お前が俺を避ける原因は、やっぱり俺の進学先ってことでいいのか?」
 お前がおかしくなったの俺が今の高校合格した時からだもんな、と続いた言葉に、慌てて違うと否定する。
「いやぜんぜん違うってわけでもねぇけど。でも原因はお前じゃなくて俺にあるっつーか」
「じゃあ、それって何?」
 お前が受験勉強していた頃、毎日落ちろと願ってた。などという黒い過去を晒せというのか。
 言えずに口ごもっていたら深い溜息が聞こえてきた。相変わらず顔は膝に埋まっていて、その表情はわからない。
 同じように深い溜息を吐き出して、それから仕方がないなと口を開いた。
「私立高校なんか落ちて、滑り止めだっつー近所の公立通うことになりゃいいのに。ってずっと思ってたんだよ。なんつーか、そりゃもう、呪いってレベルで。でも本命受かって喜んでるお前見てたら、お前の不幸をずっと望んでた自分が嫌になったっつーか、お前に合わせる顔がないっつーか、まぁ、そんな理由」
 やはり呆れただろうか。反応がなく黙り込まれてしまうと、気まずさでなんだか気持ちが焦る。
「悪かったとは思ってる。あー……その、今更だけど、高校合格おめでとう。いやむしろありがとう?」
「なんだそれ」
 小さく吹き出す気配にあからさまにホッとした。
「いやもしあれでお前が本当に落ちてたら、俺の罪悪感今の比じゃねぇだろなぁって」
「お前は単純に喜びそうな気もするけど」
 ようやく顔を上げた彼はよく知る穏やかな笑みを見せている。
「いやいやいや。俺が呪ったせいでお前の人生狂わせた。って気づいた時がヤバいんだって」
「ああ、なるほど。じゃあこれからがヤバいな、お前」
「なんでだよ」
 ヤバくならなくてよかった、という話をしていたはずだ。なのに酷く真剣に見つめられながらそんなことを言われると不安になる。
「俺の人生、お前に呪われてとっくに狂ってるんだけど。って事」
「はあああ?」
「ずっと好きな子が居るって言ったろ。それがお前って事も。お前に呪われた結果じゃないのか、これは」
「呪ってねぇし!」
「学年の違うお前が、俺と同じじゃないって泣いて暴れて拗ねるあれは、呪いみたいなもんだったって」
「泣いて暴れたのはお前が小学校あがった時くらいだろ!」
「でも春になるとだいたいお前は機嫌が悪い」
「それは、だって」
 学年が上がるたびに思い知らされるようで、確かに4月は好きじゃない。
「お前のせいでお前好きになったんだから責任取れよ」
「責任、って?」
「俺を、好きになって」
「嫌ってねぇって」
「そうじゃなくて。恋愛対象として」
「だからそういうの良くわかんねぇんだって」
「わかんねぇじゃなくて自覚しろって言ってんの。お前の俺への執着、それもうホント、普通の友情と違うから。考えてみろよ。俺以外にだって普通に仲の良い友達居るだろ?」
「そりゃいるけど、お前は特別で、だから親友なんだろ」
「もしお前が今後も親友だって言い張るなら、俺はお前を諦めて、彼女か彼氏かわからないけど恋人作るよ?」
 言われて初めて、彼に恋人という存在がいる状態を想像した。確かに嫌だ。絶対に嫌だ。彼と隣り合って歩くただの友人にすら、学年が同じならその場所は絶対に俺のものなのにと思うくらいなのだから、我が物顔で彼を自分のものと主張する恋人が出現したら自分がどうなるかわからない。
「えー……ええー」
 けれどだからといって、即、彼を恋愛対象として好きだと思えるかは別だ。というか本当に、恋をするという気持ちが良くわからない。
「本当はさ、いつかお前から告ってくるだろって思ってたんだよね。なのになにこれ。大誤算もいいとこだよ」
 あーあと嘆きながらも、先程までの悲壮感は欠片もない。彼が穏やかに笑っていると、それだけで安心するのは、きっと長い時間をかけてそう学習してきたからだ。この顔の時は平気、という根拠のあまり無い自信のようなもの。
「それ、俺が悪いのか?」
「どうだろ。まぁきっかけにはなったよな」
 避けられなきゃ待つつもりだったと彼は続けた。
「ならもう少し待ってくれよ」
「いつまで?」
「俺が好きって気持ちをわかるまで?」
「いやだから、そこが想定外だったんだよ。自覚ないとか思ってなかった」
「待てねぇの?」
「自信揺らいだからあんま待ちたくない」
「俺がお前を好きなはずだって?」
「そーだよ。でも揺らいだ。このままのんびり余裕かまして待ってたら、お前が自覚した時、その好きって気持ちの向かう先が俺じゃない可能性高そうでやだ」
「だってなぁ~……」
 好きって気持ちはいつかこれはって女に対して湧いてくるのだろうと、漠然と思っていた節はある。それに彼とはずっと親友で居たいという気持ちも根強く残っている気もする。彼に恋人ができるくらいなら自分が恋人になってもいいという気持ちもないわけではないが、恋人なんかになってしまってその後破局したらどうするんだ。
 今までの関係を変えるというのはやはり勇気と覚悟が必要で、そのどちらも自分は所持していない。
「お前さ、俺とキスできそう?」
 グダグダと迷っていたら唐突な質問で面食らう。
「キスできたら、もう少しお前信じて待ってもいい。無理だっつーならやっぱりお前を諦めることも考えるよ」
 人生の修正がききそうなうちに。なんて続けられて、先程、お前の呪いで人生狂ったと言われたことを思い出す。
「人生修正きくってなら、キスなんてしてる場合じゃねぇんじゃね?」
「ああうんそうだな。わかった。お前のことは諦める」
 怒らせた。というのがわかって焦る。
「待って。待って。ゴメン。今のは俺が悪かったから、俺のこと諦めないで。てか恋人作ったりしないで」
「俺に好きとも言えないくせに? キス一つ出来ないくせに?」
 冷たく響く声に、ああこれは本当に猶予がないと知らされる。だから相手の体を引き寄せて、ままよとその唇に自らの唇を押し付けた。
 これしか現状を維持する方法がわからない。触れてしまったら現状維持と呼べるのかはともかくとして、少なくとも彼への答えは少しだけ先延ばしにできるだろう。
「これで、もう少しは待ってくれんだよな?」
「そうだね。お前はもうちょっと色々しっかり考えた方がいい。でも俺だって俺の人生があるんだから、そんなに気長に待ってられないってのは覚えとけよ」
 わかった。とは言えなかった。
 お返しとばかりに引き寄せられて唇を塞がれたからだ。しかも先ほどのように一瞬の接触ではなく、吸われて甘噛まれてこじ開けられた口の中、小さな小さなミントキャンディーの欠片が転がり込んできた。それはほどなくして、口の中で溶けて消えていった。

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レイへの3つの恋のお題:はっかの味を舌でころがして/薄暗い部屋で二人きり/なぁ、……何でもない。
http://shindanmaker.com/125562

 
 
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