昔と違うくすぐり合戦

 自分は脇が、幼稚園からの付き合いのそいつは足の裏が特に弱くて、昔から時々、何かの拍子にくすぐり合戦のような事は起きていた。互いにゲラゲラ笑いあうと、喧嘩だったり不機嫌だったりが、なんとも些細なものに思えてどうでも良くなる感じがするからだ。
 けれど中学に入学以降はそんな戯れはグッと減った。相手の体の成長が早くて、体格差が出来てしまったせいだ。
 力で勝てない圧倒的な不利さに、自分から手を出すことは当然無くなったし、押さえ込まれて泣くほど笑わされるのが数回あって本気で怒ったら、相手からも手を出されることがなくなった。
 しかしとうとう自分にも成長期が来た。ぐんぐんと背が伸び、既に殆ど成長の終わっている相手との身長差が、目に見えて縮んでいくのは嬉しくてたまらない。
 嬉しいついでに、相手の部屋に上がり込んで一緒に借りてきた映画を見ている時、隣で胡座をかいて座る相手の足の裏を指先でツツツとなぞってやった。ビクッと大きく体を跳ねて、驚いた顔で勢いよくこちらに振り向いた相手に、ひひっと笑ってみせる。少しムッとした顔で相手の指先が脇腹を突いて、やっぱりツツッとその指先が脇を撫で下ろしていく。
 ゾワゾワっと肌が粟立って、身を竦めながらも、やっぱりひひっと笑いが溢れた。後はもう、懐かしむみたいに互いに相手の弱い場所を狙ってくすぐり合う。
 しかしやはり体の小さかった子供の頃とは違う。ぎゃはぎゃはゲラゲラ全身で笑って、部屋をのたうち回るようなスペースはもうないのだ。バタバタと暴れれば部屋のアチコチに体を打ってしまう。
「あいたっ、ちょ、ひゃっ、待っ、ひゃうっ、おいぃっっ」
 早々に懐かしさのあまり自分から仕掛けたことを後悔し、相手をくすぐる手を緩めて待ったを掛けたのに、相手の手は容赦がなく、こちらの脇を揉むのを止めない。
「ば、っか、も、あふぁ、や、アハっ」
 バカもう止めろと訴えたいのに、まともに言葉なんて出せないし、体格差はかなり縮んだもののやっぱり相手の方が力は強いしでなかなか逃げ出せない。
 またぐったりするまで泣くほど笑わされるのかもと思いながら、それでも必死に身をよじれば、自分を見つめる相手の顔が目に映ってドキリとした。
 こちらもつい先ほどまでは彼をくすぐりまくって居たのだから、上気して赤らむ頬は笑ったせいだとは思う。思うけど、でもなんか、妙に色気があるというか、エロいというか。え、なんだこれ。
 その顔がゆっくりと近づいてきて、音もなく軽く口を塞がれれた後、またゆっくり顔が離れていく。それをぼんやり眺めながら、あ、くすぐり終わってる、という事に気付いて大きく安堵の息を吐いた。
「お前さぁ」
「あ、うん、何?」
「何、じゃなくて。つか、今、何されたか理解出来てる?」
 キスしたんだけど、と言われて、ああ、あれはキスされたのかと理解した途端、ボッと顔が熱くなる気がした。
「なななな、なんで?」
「反応おっそ!」
 つーかさーと呆れた声音の相手が、ぽすんともたれ掛かってくる。
「お前がひゃんひゃん可愛く喘ぐから勃った」
「喘いでねぇよ」
「後お前、自分で気付いてないかもだけど、お前も勃ってっから。ちんぽおっ勃ててひゃんひゃん喘いでクネクネされんの目の前にして、勃起すんなってのは無理」
「はあああああ??」
 何を言っているんだと盛大に驚けば、無言のまま伸びてきた手に、ふにっと股間を揉まれてしまう。
「ひゃぅんっ」
「ほら、今、ぜったい、ひゃんて言ったろ」
 エロ過ぎなんだよと不貞腐れたように言いながら、股間をグニグニ遠慮なく揉みだす手のがよっぽどエロいと思った。

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雨が降ってる間だけ

 ふと隣に気配を感じて集中が途切れる。気配に向かって振り向けば、長めの髪をひと結びに後ろに垂らした浴衣姿の青年が、そわそわもじもじ落ち着きのない様子でこちらを窺っていた。
「ああ、雨、降り出したんだね」
 コクンと頷く彼に、じゃあ寝室に行こうかと言って立ち上がる。予報では、降り出したらしばらく強めの雨が続くようだから、前回みたいに途中でお預けなんてことにはならないだろう。
 おとなしく数歩後ろをついてくる彼を寝室に招き入れ、ベッドの上に押し倒せば、先程よりも更に落ち着きをなくした男が、期待に顔を赤く染めている。
「雨が降るの、待ち遠しかった?」
 可愛いなぁと思いながら赤くなった頬をゆるりと撫でてやれば、やっぱりコクリと頭が縦に揺れた。
「前回、イキそびれたまま雨上がったもんな。今回は雨長引きそうだし、いっぱい気持ちよくなろうな」
 告げれば嬉しそうに笑って、早くと言わんばかりに両腕が首に回される。引かれるまま顔を寄せて、初っ端から相手の口内を貪るみたいな深いキスを仕掛けていく。
 慣れた様子で絡められる相手の舌を吸い上げながら、浴衣の合わせを広げて露出させた肌に手を這わした。弄り回した胸の突起が硬さを増したら、指先で摘んで押しつぶすように転がしてやる。
「んんぅっ……」
 ビクビクと体を震わせ、苦しげに、けれど甘ったるく、鼻に掛かった息が口端から漏れた。彼の体はすっかり自分に慣らされきっている。
 血走った目でこちらを睨み、部屋の中の物をあれこれ投げつけてきていた男が、まさかこんな変貌を遂げるとは思わなかったが、彼は長年抱えている何かが癒やされているようだし、こちらも充分に楽しんでいるし、ヤバイと噂の格安物件を問題なく利用できているしで、いい事づくしだと思う。
 つまり彼は、人の形をしているが、いわゆるこの家に憑いた、人ではない何かだった。言葉は通じるし会話も出来なくはないが、彼は彼自身のことを語らないので、幽霊のたぐいなのか妖怪と呼ばれるようなものなのか今ひとつわからない。
 ポルターガイスト現象の頻繁に起こる格安の一軒家を借りたのは、仕事柄金があまりなかったのと広めの作業スペースが欲しかったからだ。
 舐めて掛かっていたと後悔するのは早かった。なんせ、皿でも飛ぶのかと思っていたら、狙ったように仕事中に仕事道具ばかりが舞った。
 相手はこちらが心底苦痛に思う嫌がらせを心得ていると思ったが、いかんせん、引っ越しにも金が掛かるし、同じ規模の別の家を借り続けられる財力だって無い。
 そんなわけで、とある雨の日、仕事場で仕事道具をアチコチに移動させている不機嫌で不健康そうな和装の男を見つけた瞬間に、何だお前ふざけんなと喧嘩を売っていた。その姿を見た瞬間から、相手が人でないことも、ポルターガイストを起こしているのがコイツだともわかっていたが、得体の知れないものへの恐怖はなかった。和装だったり髪が長かったりはあるものの、見た目はごくごく普通の人の姿をしていたからかもしれない。
 まさか見えていると思わなかったらしい相手は心底驚いて、それから手の中のものをこちらへ投げつけてきた。額の端をかすめていったそれに、こちらの怒りのボルテージは上がっていったし、触発されるように相手もどんどんと険しい顔付きになった。
 手当たり次第、手に触れたものをこちらに向かって投げてくる相手に、飛んでくるものを避けたり払ったりしながら近づいていったのだが、だんだん怯えたような表情になっていくのが印象的ではあった。
 相手に触れられるほど近づいた後は取っ組み合いへと発展したが、なんというか、相手は思いの外非力だった。仕事場の床に押さえ込んで、仕事道具に二度と触るなと脅せば、なんだか透けるみたいに青い顔をして必死にイヤイヤと首を振っていた。なぜかそれに劣情を催し、気づけば男を犯していたのだが、さんざん仕事の邪魔をされたという思いがあったからか、相手が泣いて嫌がるほどに、胸がスッとするようだった。
 数度相手の中に射精したところで、色々と冷静になり、さすがにやり過ぎたと身を離す。息も絶え絶えに横たわる体は、人ならざるものとわかっていても、罪悪感が芽生える程度に人とそう変わらなかった。つまり、見知らぬ男をいきなり犯しぬいたような気持ちになって、内心慌てながら洗面所へ向かって走ったのだが、タオルやらを持って戻った時には彼の姿は消えていた。
 それからパタリと仕事道具が舞うような現象がなくなり、なんだかやらかした感はあるが一安心と思っていたのだが、代わりとばかりに何かの気配を感じるようになった。見えないが、彼がそばにいる。見張られている。そんな日々になんとも居心地の悪い気分を味わいながらも、やっぱり引っ越しはできずに居たら、ある日またふと彼の姿が目に入った。手を伸ばしたら普通に触れたのだが、触れられた彼はこちらに見えていることに気づいていなかったのか、やはり相当驚いた顔をした。その後、こちらの手を振り払って彼は逃げた。
 雨が降ると彼が見える、と気づくまでにも彼との攻防は色々とあったが、初回に犯したことをほぼ土下座で謝り、お詫びに優しくさせて欲しいと頼み込んでどうにか再度彼に触れるチャンスを手に入れた。その頃にはもうすっかり情がわいていたから、言葉通り思いっきりその体を甘やかしてやったのだが、結果的にはそれで彼に懐かれた。のだと思う。
 それ以来、雨が降ったら彼を抱いている。たまに最中に雨が上がってしまうアクシデントも起こるが、彼との関係は概ね良好だと思う。
「ぁ、っぁ、ぁん」
 控えめながらも連続的に気持ち良さげな声が漏れている。
「ここ、気持ちぃ?」
 聞けば素直に首が縦に揺れた。聞き漏らしそうなほど小さな声ではあるが、きもちぃと教えてもくれる。抱くほどに彼は可愛くなる。
 だんだんと仕事が軌道に乗り始め、多少金銭的な余裕も出てきたのだけれど、この格安物件生活を手放す気にはなれそうにない。

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兄が俺に抱かれたいのかも知れない

 両親共働きで一番先に帰宅する自分が、帰宅時に郵便物を確認することになっている。両親宛のものやチラシ類はダイニングのテーブルに、兄宛のものは兄の部屋の机の上に、自分宛てはもちろん自室に持ち帰るのだが、兄宛のDMを届けた時にふと、兄の勉強机の棚に並んだ参考書の中に漫画本が紛れていることに気づいた。しかもなぜか背表紙が見えないように前後ろに突っ込まれている。
 なんだこれ、と思った時にはそれを引っ張り出していた。
「うわっ」
 肌色の多い表紙に、あ、これ、エロ本隠してたのかということに気づいて慌てたが、すぐに違和感に気づいてマジマジとその表紙を見つめてしまう。
 あれ、これ、もしかしなくても男同士なんじゃ……?
 うわーうわーと思いながらも、手は勝手に表紙を捲り始めてしまう。そして当然の流れとして、そのままそれを読み始めてしまった。しかもしっかり椅子に腰を下ろして。
 読んでいる間にも、脳内にはうわーとかひえーとかの言葉にならない驚きが渦巻いていて、読み終えた後は心臓がバクバクと痛いくらいに脈を打つ。
 知らなかった。兄にこんな趣味があったなんて。というか、他にも隠してたりするのかな?
 部屋を漁ったなんて知られたら絶対に怒られるけど、好奇心には勝てなかった。そんなわけで定番のベッドの下から、数冊新たに発見した漫画を兄の勉強机に積み上げ、黙々と読み耽る。
 やっぱりうわーひえーうわーと思いながらページを捲ってどれくらいの時間が過ぎただろう。
「おい、何してる」
 カチャッとドアノブを捻る音、ドアが開く気配、そして兄の慌てた声が続いた。振り向き兄を見つめる顔は、間違いなく赤くなっているだろう。羞恥でってよりは、興奮で。
「兄ちゃんさ、これオカズに抜いてんの?」
 手にしたままの漫画を掲げれば、多分羞恥で顔を赤くしている兄が、怒ったみたいな険しい顔でドスドスと荒い足取りで近づいてきて、手の中からそれを取り上げてしまう。バンッと音が立つくらい勢いよく漫画を閉じて、それをベッドの方に向かって放り投げる。しかもその後も無言で、机の上に積み上げた漫画を、取り敢えずみたいな感じにベッドへ向かって全部投げてしまう。
 動揺しすぎ。いや、気持ちはわかるけど。
 弟に兄弟ものの、しかもことごとく兄が弟に抱かれてるような描写が入ったエロ本見つかって読まれるってどんな気分? って聞きたい気持ちをどうにか堪える。だって他に聞きたいことがたくさんある。
「ゲイなの?」
「ち、がう……」
「んじゃ腐男子とかいうやつ?」
「は? お前、何言って?」
「あれ? 違った? BLって言うんだろ、ああいう漫画。で、それを楽しむ女子が腐女子で男なら腐男子」
「いや、違ってない、けど。えっ、お前、気持ち悪くねぇの?」
「ビックリはしたけど、気持ち悪かったら部屋漁ってまでして何冊も読まないって」
「いやでも、だって、」
「んでさ、ゲイじゃないなら、あれはそういう漫画のいちジャンルとして楽しんでます、みたいな感じなの?」
「そ……だよ」
 困ったように視線が泳ぐから、これはきっと期待していい。
「なーんだ。残念」
「残念?」
「俺、読んでて結構興奮したけど。兄ちゃんが、あの漫画みたいなこと、俺にされたいのかと思って」
 椅子に座ったままなので、見上げる兄の既に赤い顔が、更にぶわっと赤味を増していく。
「ね、正直にいいなよ。そしたら兄さんのこと、俺がうんと可愛がってあげる」
 さっき読んでた漫画の中のセリフを投げかければ、兄はすぐに気づいたようだった。
「おまっ、それっ」
「あはは。さすがにすぐわかるね。読み込んでるね」
「からかうなよっ。つかもうお前、部屋出てけ。でもって忘れろ。全部忘れろ」
「いやですー。てか、からかってないし」
 もう一度正直にいいなと促せば、うっと言葉に詰まった後、なぜかゲンコツを落とされた。
「暴力反対!」
「お前が悪いっ」
「なんでよ」
「勝手に部屋漁んなバカヤロウ」
「漁ってすぐ出てくるとこに置いとくとか、俺に見つけて欲しかったってことじゃないの」
「違うったら違うっ」
「えーもー漫画と違って全然すんなりいなかいじゃん」
「当たり前だろ。あれはフィクション」
「でもさ、兄ちゃん気づいてる?」
「何を?」
 そんなの、漫画みたいなことをされたいのかという質問に、顔を赤らめただけで否定はしてないってことをだ。

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友人の友人の友人からの恋人2(終)

1話戻る→

 どうにか彼とキスできる関係になれないかと考えた結果、彼を合コンに誘ってみた。ファーストキスを男なんかにと思っているなら、女の子相手にファーストキスを済ませてもらえばいいのだ。こっちはキスどころかセックスだって経験済みなのだから、貰えたら嬉しいだろうとは思うが、なにがなんでも彼のファーストキスが欲しいと思っているわけじゃない。
 ただ、女の子の扱いを学んだところで実践と行こう。という言葉をまるっと信じて、あっさり参加を了承したあたり、本当にチョロくて不安になる。こちらの思惑通りにすんなり進むから楽でいいんだけど。
 そしてベタだけれども仕込み有りの王様ゲームをして、女の子相手のキスを経験してもらった。ファーストキスに夢見てるらしいからちょっと可愛そうかなとは思ったけれど、女の子とってのは叶えてあげたのだから許して欲しい。
 なお、照れまくって動揺して挙動不審になってた姿はたいへん可愛らしかった。けれど、ゲーム終了後、逃げるようにトイレに立った彼の顔はなんだか泣きそうだ。
 慌てて追いかけたトイレで、彼はゴシゴシと唇を擦り洗っていたから、さすがに罪悪感で胸が痛む。
「えっと、ごめん、ね」
「なんで謝るの」
「合コン連れてきたの俺だし、王様ゲーム提案したのも俺だし、あの命令した王様は俺じゃないけど、一緒になって囃し立てはしたから」
 そしてこれは言えないけど、そのキスを仕組んだのが自分だからだ。
「こんなのでもなきゃ、女の子とキスできる機会なんてないんだから、むしろラッキーだったよ」
 どうにか笑ってみせる顔が痛々しくて、ますます胸が締め付けられる。いやこれホントに、結構失敗しかもしれない。こんなショックを与えるつもりじゃなかった。
「本気でそう思ってないでしょ。ファーストキス、好きな子としたかったよね。ごめんね。止められなくて」
 言えば瞳にぶわっと涙が盛り上がる。ああ、とうとう泣かせてしまった。
「悪いのお前じゃない。自業自得、なんだ」
 全く意味がわからない。俯き涙を拭う相手に、どういう意味かと尋ねてしまうのは仕方がない。
「キス、好きな子と、しとけばよかった」
「は? え? 好きな子いたの?」
 初耳なんだけどと続いた声は、嫉妬と焦燥にまみれて、自分でも驚くくらい低く重く響いてしまった。
「ファーストキス、もったいぶらずに、さっさとお前にあげとけば、良かった」
「はぁああ? えっ、ちょっ、俺ぇ!?」
 あまりの衝撃に素っ頓狂な声を上げてしまったが、相手は俯いたまま肯定を示すように頷いている。
 ああこれ、本当に、失敗した。いつから彼の気持ちは自分に向かって居たんだろう。それに気付けず、貰えたかも知れない彼のファーストキスを、自らそこらの女に渡してしまった。あまりの自業自得さに、一緒に泣きたいくらいだ。
「ねぇそれ、本気にするけど。俺と、恋人になってくれるの?」
 確かめるように告げた言葉にもやはり頷かれたから、少し開いていた距離を詰めて相手の手を取った。
「なら、一緒に抜け出しちゃおうか」
 さすがにこんなトイレで彼との初キスを済ます気はない。というか王様ゲームのキスなんてノーカンってことに出来そうなくらい、ちょっとロマンチックな演出決めつつキスしたい。
 どこに連れていけば可能かと必死で脳内フル回転しながらも引いた腕に、彼はおとなしくついてくる。チラリと伺う背後の彼は、泣いた目も目元も頬も、耳までもが赤い。
 ようやく捕まえた恋人が、可愛すぎてたまらない。

 
 
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友人の友人の友人からの恋人1

女装して出歩いたら知り合いにホテルに連れ込まれたの続きです。視点は相手側。

 知り合った当初、その子は友人の友人の友人、くらいの距離に居た。見た目がかなり好みだったから、距離を詰めて友人になるか、男も行けそうなら口説いて恋人にしたいと、かなり初期段階で思っていた。しかし人見知りなのかシャイなのか、元々の友人には笑顔だって見せるのに、なかなか打ち解けてくれる気配がなかった。
 そんな子と偶然街中で出会って、チャンスとばかりに声を掛けたら、特に嫌がることなくお茶を一緒してくれた。彼はその時、大変可愛らしい女装姿だったから、ここぞとばかりに可愛いと繰り返した。男に可愛いは禁句というか嫌がられることも多いけれど、女装子なら可愛いは間違いなく褒め言葉になるだろう。
 ただの女装子で男は対象外という可能性もあったが、もしかしたらの可能性にかけて口説きまくれば、少々躊躇いを見せつつもラブホテルにまでついてくる。これはもう、よほど体の相性が悪くない限りこのままお付き合い開始もありえるというか、ぶっちゃけその時点で、交際スタートしたな、くらいの気持ちになっていた。さすがに、男も有りの子だとこんな形で知ることになるとは思っていなかったが、今日の出会いに乾杯、ってくらい浮かれていたし、なんてラッキーなんだろうと思っていた。なのに。
 ラブホの部屋に入ってから、キスも未経験の童貞を拗らせまくった結果の女装で、好奇心でラブホについてきていて、つまり男の自分相手にセックスなんて欠片も考えていなくて、それどころかキスすら嫌だと思われている事実が発覚した。完全に騙されていた。
 正直、未経験の真っ更な体に突っ込むのは無理にしても、言いくるめて手コキかフェラくらいは行けるのでは、と思う気持ちもなくはなかった。だって既にラブホの部屋の中にいたのだ。でも、ファーストキスが男なんてマジ勘弁と、必死に言い募る半泣きの顔に、ラブホまで付いてきて今更何言ってるのとは言えなかった。
 だから代わりに、連絡先を交換しあって、友人の友人の友人って関係から友人になった。
 それ以降、たまに女装姿の彼とデートをしている。彼女いない歴=年齢の非モテ童貞と自分を卑下する彼に、じゃあ女性のスマートな扱い方を教えてあげるから、自分の身でもって体感すればいいよと言った結果だ。まさかそれで本当に女装姿でデートしてくれるようになるとは思わなかった。
 ちなみに、女装子とそういう仲だったことはあるにはあるし、女性の友人だってそれなりにいるが、彼女が居たという過去はない。性愛対象はずっと男だけだからだ。でも聞かれてないから、その事実は告げてない。
 割とはっきり君狙いだよって言ってる男を、そんな簡単に信じちゃダメだよ。なんてことも、もちろん思うだけで口に出して言ったことはない。
 ちょっとチョロすぎて心配になるし、彼のことを知るほどに見た目だけじゃない素直な可愛さに気付かされる。ああもう、ほんと、早く落としたい。
 ただ、一度ラブホまで連れ込んで押し倒しかけたからか、ガードはそれなりに固かった。手を握ったり腰を抱き寄せたりを拒むことはないが、雰囲気を作って顔を覗き込むと途端に警戒されてしまう。ファーストキスを奪われてたまるか、みたいな気持ちが透けて見えるのが、これまた結構可愛いかったりする。
 ガードは固くとも隙だらけだからキスなんて奪おうと思えば簡単に奪えてしまうんだけど、その結果、彼に悲しまれたり嫌われたりするのが嫌で手が出せない。でもそろそろキスくらいは出来るようになりたい。

続きました→

 
 
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親友に彼女が出来た結果

 長いこと彼女のカの字も気配がなかった幼馴染の親友が、ある日突然、興奮気味に彼女が出来たと報告してきた時は驚いたが安心もした。だって長いことずっと、親友である自分にべったりな男だったから。
 べったりだったとはいえ、自分たちの間にあるのは友情だったし、彼女を作らない彼と違ってこちらは何度か彼女を作った。それを嫌がられたことはない。普通に祝福されたし、彼女がいる間は気を遣ってか少し距離を置いてくれたし、つまり、彼の中に自分へ向かう恋愛感情やら独占欲やらは別段ありはしないのだ。
 彼女を作らないのだって、そんな気になれないとか、好きって思える女子が居ないとか、出会いを待ってるだけだとか、なんとも曖昧な感じではあったが、彼女を作らない理由を濁して躱しているのではなく、至って真面目に本気でそう思っているのもわかっていた。
 だからそんな彼に彼女が出来たというのは、確信を持って彼が好きだと言える女性に出会えたことを意味しているし、本当に喜ばしいことで、ちゃんと祝福してやるべきなんだって頭ではわかっている。わかっているが、興奮気味に彼女の素晴らしさやらを捲し立てている親友に、おめでとうも良かったなも言ってやれそうにない。
 彼に彼女が出来たことで、自分の中に彼への恋愛感情や独占欲やらが潜んでいたことに、いまさらながら気づいてしまったのだ。などという話ではない。問題は、彼が一目惚れして口説き落としたというその女性の特徴が、どう控えめに聞いたってあちこち自分と被っている事だ。
 なんでそんな相手を選んだと、文句の一つも言いたい気持ちになる。だってまるで、自分の性を否定されたみたいな感じがする。彼の想いが友情止まりだったのは、自分の性別が男だったせいなんだと突きつけられたも同然だ。自分の中に、彼へ向かう恋愛感情や独占欲やらがあるわけではないけれど、もしもいつか、そういう感情を向けられたらきっと受け入れてしまうんだろう、程度のことは考えていたというのも大きいかも知れない。
 せめて、お前が女だったら付き合いたかった、程度のことは言ってくれてても良かったんじゃないのか。男だから対象外なんだって、はっきり言っといてくれればよかったのに。そう言われていたなら、自分に似た女を見つけたから付き合うことにした、みたいな現実を苦笑しながらももっと祝福できたと思うのに。
 そんなこちらの微妙にもやもやした感情に気づかないくらい、理想そのものという彼女を手に入れた相手の興奮には逆に感謝するべきかもしれないけれど。

 結局、彼女が出来た報告を受けたその時におめでとうは言えなかったけれど、その日の夜にはちゃんともやもやを飲み込んで、翌日からは長年の親友として祝福もしたし応援もした。だって彼に彼女が出来た、という事象そのものは間違いなく喜ばしいことなのだ。
 自分たちが築き上げてきた、親友という関係が変わるわけでもない。だから自分に彼女が出来たときのように、少しだけ気を遣って距離を置きながらも、基本的にはなんら変わらない日々を過ごしていた。
 なのにある日、突然、深刻な顔で彼が告げた。
「俺さ、もしかして、お前のことが好きなのかな」
「は?」
「いや、もちろん好きは好きなんだけど、その好きじゃないっていうか」
「んん? ごめん。全く話が見えない」
 いつになく歯切れが悪く、もたもたと言い募るのを聞いていれば、確信を持って好きだと言える彼女が出来たことで、逆に、無自覚なまま抱え続けていた本当の想いとやらに気づいてしまったかも知れない。みたいな話だった。
 本当の想いというのはつまり、幼馴染の親友に恋している可能性で、彼の言う幼馴染の親友というのは自分だ。
 あっけに取られながら、なんでそんなものに気づいたのだと聞けば、原因は彼のスマホのロック画面らしい。バカみたいな話だが、彼のロック画面は自分の写真だ。彼女ができたんだから彼女にしないのかと指摘したことが一度だけあるが、この写真が気に入っているんだと譲らないので放っておいた。
 いやでも考えてみれば彼女だって、なんで彼氏のスマホのロック画面がその彼氏の親友だという男の写真なんだって思うだろうし、彼女相手にも同じように、この写真が気に入ってるからと変えることを拒んだのだとしたら、本当はその男が好きなんだろうと疑いたくなっても仕方がないかも知れない。どうせこの男は悪気もなにもなく、彼女相手に自分の話をペラペラと喋っているだろうし、よほど鈍くなければ、彼女として選ばれた理由の中に親友と似ているからというのが入っていることに気付いているだろう。
「いやいやいや。彼女にそう指摘されたって、そこは、そんなわけないって否定しないとダメだろ」
「それは、だって、否定出来ないような気も、しちゃって。あいつが、お前に似てるって思ってる部分は、俺だって言われるまでもなく、わかってたし」
「お前ね。そこ自覚あって選んだ彼女なら、もっと大事にしろって。俺はどう頑張ったって、女にはなれないんだから」
「男同士でも、あり、ってことはないのか?」
「は?」
「彼女に言われるまで、考えたこともなかったんだよ。お前と付き合う、なんてこと」
 バカじゃないのと言えば、しょんぼりと項垂れごめんと返された。
「で、結局どうしたいんだよ。俺を好きかもしれないから、俺と付き合ってみたいの?」
「お前が、付き合ってくれるなら」
「その場合、彼女は? お試し交際だからって、二股なんか許さないけど。せっかく見つけた理想の彼女、手放したら二度と女となんて付き合えないかも知れないぞ」
 不思議そうな顔で、でもお前が居ると返してくるこの無自覚さってなんなんだろう。友人として最高だって、恋人として付き合ったら上手くいかない可能性なんて、一切考えていないみたいだ。
「本気で言ってんなら、まずは彼女と別れて、それから改めてちゃんと告白して」
「え、俺と付き合うのか!?」
 この流れで、なんでそんな風に驚くのかさっぱり分からない。そう思いながらも、ちゃんと告白してくれたらねと返して置いた。

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