ツイッタ分(2018)

ツイッターに書いてきた短いネタを纏めてみました。

有坂レイへのお題は「爪痕」、ぬるいBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。

爪痕とか残してくれても良いんだよと君は言う。まだ僕らがただの友人だった頃、君は彼女の残した爪痕を誇らしげに見せつけてくれたっけ。つまり君にとっては、恋人から貰う爪痕は愛の証なんだろう。ねぇ、でも、男の握力でその背に縋ったらどうなると思う?
だからこの手に握るのはシーツでいいんだ。


有坂レイへの3つの恋のお題:可愛いにも程がある/試してみる?/ありふれた言葉だけど
https://shindanmaker.com/125562

好きだと言ったら俺もと返った。友情じゃなくて恋愛感情でと訂正すれば、やっぱり俺もと返ってくる。本当にわかってんのか。なら俺とセックス出来るっての?と聞けば、なら試してみる?と言って相手が笑った。近づいてくる彼に、心臓が跳ねる。

ありふれた言葉だなと思いながらも、なら試してみる?と笑いかければ、目の前の男の顔が赤く染まった。距離を詰めるように踏み出せば、逃げるように後退る。逃がすわけない。腕を掴んで引き寄せてその顔を覗き込む。少し怯えるみたいに揺れる瞳。自分で誘ったくせに可愛いにも程があるだろ。


有坂レイのクリスマスへのお題は『背中越しに感じるぬくもり・やわらかい唇・カラフルな世界』です。

ぼんやりと電車の中の釣り広告を見ていたら、今から行こうか、と隣に立つ男が言った。嫌だよ、と言えば、なんでと返される。いくら恋人という関係だって、男二人でクリスマスイルミネーションを見に行くのはなんとなく抵抗がある。けれど気にする必要ないって返ってくるのはわかっていたから、理由は言わなかった。言わなかったのに、誰も気にしないって、と返ってくる。
結果、抵抗しきれず連れて行かれたカラフルな世界に圧倒されて、やっぱりぼんやりと立ち尽くしてしまえば、ふいに背中に暖かなぬくもりと重みが掛かる。ビックリして肩を跳ねたけれど、やっぱり誰も気にしないって、という優しい声音と共に、耳にやわらかな唇がそっと触れたのがわかった。

年下攻めにカウントダウンされ追い詰められてく年上受け見たい、というたまたまTLに流れてきた人様のツイートに反応してしまった結果

 目の前の青年とは、親子ほども年が離れている。なんせ同い年の友人の息子なので。
 数年前のあの日、幼いながらも友人と良く似た真剣な顔で、好きだと言われ、付き合って欲しいと請われて魔が差した。
 遥か昔、まだこの彼が生まれるよりも前、友人の結婚報告を聞いた時に枯れたはずの想いが、胸の奥で疼くのを感じてしまった。もとより告げる気などなかった癖に、枯らしきって捨てる事すら出来ないまま見ないふりを続けてきた、どうしようもなく臆病で卑しい自分を知っている。
 十年後も同じ事が言えたら付き合ってやるだなんて、言うべきじゃなかった。きっと友人そっくりに育つのだろう目の前の少年に、少しだけ夢を見てしまったのだ。
 昔、叶うことのなかった想いを掬い取られ、大好きだった男の顔と声が、自分に好きだと告げてくれるかも知れない、なんて。  
 年々、出会った頃の友人に似ていく彼に、年々、あと何年だと嬉しげにカウントダウンされるたび、追い詰められていくのがわかる。このまま彼の想いが続いてしまったらどうするんだと、今更ながら焦りが募る。子供の想いを甘くみて、続くはずがないと思ったからこそ、そこにチラリと夢を見ただけだった。
 いつか友人にこの約束を知られて失望されるのは怖くて、なのに約束をなかったことにして目の前の彼に失望されるのも嫌で、身動きが取れないまま、またひとつ、カウントダウンの数字が減った。


BLサイコロ「来年のカレンダー記念日にこっそり印をつける」

 弟の部屋に早々と来年のカレンダーが飾られているのを知ったのは偶然だ。先日、夕飯だと呼んでいるのにちっとも降りてこないから、直接呼んで来いと母に言われて部屋まで行った。
 ドアを叩けばすぐにチョット待ってと返ってきたから、寝ていて気づいていないとかではないらしい。一応、開けるぞと宣言してから、内鍵などない部屋のドアを開けたら、弟は腕組みの仁王立ちで壁を睨んでいるようだった。正確には、壁ではなく、壁にかかったカレンダーをだ。
「何してんの?」
「んー、カレンダーの位置、決めてるだけ」
「いやまだ早くない?」
「そうなんだけど。でもせっかく届いたし、早く飾りたいなって」
 表紙もいいから、1月になっていきなり表紙を破って捨ててしまうのが勿体無いらしい。そもそも自分の部屋には壁掛けのカレンダーなど置いていない身としては、わざわざ好みのカレンダーを通販してまで部屋に飾る、という弟の嗜好が今ひとつわからない。でも相当真剣にカレンダーを飾る位置を悩んでいるのはわかった。わかったが、夕飯の時間だということも分かって欲しい。
「それはわかったけど、でも先に夕飯食っちゃってよ」
 夕飯後にゆっくり決めてといえば、確かにと苦笑してやっとこちらに振り向いた。
 そして今現在、弟は外出中で家に居ない。鍵の掛からないドアを開けて、ペンを片手に弟の部屋に忍び込む。カレンダーの記念日に書き込みしてやれという小さなサプライズだ。
 だって今年の夏の終わり、ふと気づいて一年経ったなって言ったら、めちゃくちゃ慌てた様子でケーキを買いに走っていった。別に記念日を祝いたいなんて気持ちで言ったわけではなかったのだけれど、それでも、兄弟で恋人だなんて関係になったことを欠片も悔いていないどころか、一周年を共に祝おうとしてくれる態度にホッとしてしまったのも事実だった。
 来年は絶対に忘れないから、また一緒にお祝いしようと言い切る弟が、頼もしくて大好きだ。でも記念日をしっかり覚えていて祝う、というのにあまり向かない性格なのも知っている。なんせ、自分の誕生日すら忘れきっている年がある。
 だからこそ、カレンダーに書き込んでおいてやろうと思った。その月になったらちゃんと気づけるように。
 けれど、目的の月の頁をめくれば、そこにはすでに印が付いていた。日付の端に付けられた小さな赤いハートに違和感はあるものの、意味がわかっていれば照れくささが半端ない。
 しばしそれを見つめてひとしきり一人で照れたあと、別の月のページを捲った。そこには何も印がない。だから用意してきたペンで、目当ての日付のマスにHappy Birthdayと書き込んだ。


これで今年の更新は最後になります。
一年間お付き合い下さりどうもありがとうございました〜
連載中の「兄は疲れ切っている」が年内にエンド付かなかったので、今の所、2日から通常通り更新していく予定でいます。

 
 
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ときめく呪い

 あれなんかおかしいぞ、という事に気づいたのは、ダンジョンの中腹あたりだったろうか。少数精鋭が行き過ぎて二人パーティーになってから数ヶ月経つが、それなりの人数で動いていた頃も含めて、彼の隣に居てこんなわけがわからない気持ちになったことなんて無い。
 少ない食料を分け合うことも、同じ水筒から水を飲むことも、ダンジョン攻略中なら当たり前だし、モンスターは当然一緒に倒すし、そこらに張り巡らされている罠だって、お互い協力しあって躱していくのが基本だ。じゃなければなんのための組んでいるのかわからない。
 なのに、彼の一挙手一投足に意識が引っ張られるような気がして、彼が自分に向かって話しかけてくれるだけでも、胸がざわついて切なくなるような不思議な気持ちになる。
「うーん……」
 人の額にでかい手を押し当てながら相手が唸る。こちらは彼の手が額に触れているというそれだけで、ドクンと鼓動が跳ねて、元々いささかぼんやりしていた頭に、更に血がのぼる感覚を自覚していた。
「顔赤い割に、熱ありそうって感じではねぇんだなぁ」
 よくわからんと言いながら額の手が外れて、長身の体が屈んで相手の顔が近づいてくる。
「ひょぇっ」
 おでこ同士がぶつかって、慌てて一歩を下がろうとしてよろめけば、おっとあぶねの呟きと共に背を支えられてしまう。それを、抱きとめられたと認識するあたり、やっぱり何かがオカシイと思うし、抱きとめられたからなんだってんだと頭では思えるのに、胸がきゅうきゅうと締め付けられる気がする。
「んー……で、お前の実感としてどうなんだよ。体調悪ぃの?」
「いやだから、最初っから体調は別に悪くないんだって。ただ、なんつーか、お前に、必要以上にひたすらトキメク」
「なんかの罠に引っかかった記憶、ねえよな?」
「うん、ないね。得体の知れないアイテムも拾ってない」
「でも症状的に魔法か呪いかってとこじゃねぇの?」
「んな症状の魔法も呪いも聞いたこと無いんだけど」
「世の中にはまだまだ俺らの知らんことはいっぱいあるだろ。あと、新しく作られたものって可能性もあるし。とすると、得体の知れない症状放置しとくのもマズいよな」
 面倒だけど一回帰るかという提案に待ったをかける。
「俺がお前にトキメイてたら気が散って戦えない、ってなら諦めるけど、そうじゃないならもーちょい進んじまおうぜ」
「お前こそ、いちいち俺にトキメイてたらきつくねぇの?」
「違和感はめちゃくちゃあるけど、まぁ別に大丈夫だとは思う」
 街に戻ってなんらかの対処をしてもう一度ここまで戻ってくる、ということを考えた時の時間的ロスも金銭的ロスもそれなりにでかい。利益重視の少数精鋭二人旅なのだから、引き時を間違ってはいけない。命の危険はなさそうだし、この症状の様子見かねてもう少し先へ進んでみたいと思った。
 症状の軽さというかアホらしさに、油断していたのだと思う。結局、その後も些細なことでトキメキまくった結果、相手の方がさすがにもう耐えきれないと言い出して、そのダンジョンを出ることになった。
 どうやら呪いだったそれは、街へ戻って解呪屋に駆け込めばあっという間に払ってもらえたけれど、問題はその後だ。
「お前、もっかいあの呪いに掛かるか、俺に惚れるかしろよ」
「バカジャネーノ」
 呪いのせいで意識されまくっていた相手が、彼にトキメキまくっていた時の姿に、どうやら相当絆されてしまったらしい。
 呪いでトキメキまくってたから、ダンジョンの中という劣悪環境で手を出されてもあの時は普通に嬉しかったんだけれど、呪いが解けた今となっては、なんてバカなことをしたんだろうの一言に尽きる。
 相手側まで引っ張るような強力な呪いではなかったから、こちらだけ気持ちが冷めたのは正直かわいそうだと思わなくもないけれど。
「バカで結構。頼むからもっかいヤラせて。すげー良かったんだって、お前の体」
 いや、かわいそうとか全然嘘だった。
「お前が、もう耐えきれないっつって戻ってきたんだろ。今更だ今更」
 こんなことを言い出すのなら、あのままトキメカせて置けばよかったのに。
「しょーがねぇだろーが。お前が掛かった何かに引きずられてお前が可愛いのか、あの時は俺自身の感情に全く自信持てなかったんだよ。あの呪いが俺の感情にまで左右してないのはわかったから、俺に惚れるの無理ならもっかい呪われろ」
 でもって可愛がらせろと本気な顔で言われて、トクンと心臓が跳ねてしまったことを、いつまで隠し通せるだろうか。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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昔と違うくすぐり合戦

 自分は脇が、幼稚園からの付き合いのそいつは足の裏が特に弱くて、昔から時々、何かの拍子にくすぐり合戦のような事は起きていた。互いにゲラゲラ笑いあうと、喧嘩だったり不機嫌だったりが、なんとも些細なものに思えてどうでも良くなる感じがするからだ。
 けれど中学に入学以降はそんな戯れはグッと減った。相手の体の成長が早くて、体格差が出来てしまったせいだ。
 力で勝てない圧倒的な不利さに、自分から手を出すことは当然無くなったし、押さえ込まれて泣くほど笑わされるのが数回あって本気で怒ったら、相手からも手を出されることがなくなった。
 しかしとうとう自分にも成長期が来た。ぐんぐんと背が伸び、既に殆ど成長の終わっている相手との身長差が、目に見えて縮んでいくのは嬉しくてたまらない。
 嬉しいついでに、相手の部屋に上がり込んで一緒に借りてきた映画を見ている時、隣で胡座をかいて座る相手の足の裏を指先でツツツとなぞってやった。ビクッと大きく体を跳ねて、驚いた顔で勢いよくこちらに振り向いた相手に、ひひっと笑ってみせる。少しムッとした顔で相手の指先が脇腹を突いて、やっぱりツツッとその指先が脇を撫で下ろしていく。
 ゾワゾワっと肌が粟立って、身を竦めながらも、やっぱりひひっと笑いが溢れた。後はもう、懐かしむみたいに互いに相手の弱い場所を狙ってくすぐり合う。
 しかしやはり体の小さかった子供の頃とは違う。ぎゃはぎゃはゲラゲラ全身で笑って、部屋をのたうち回るようなスペースはもうないのだ。バタバタと暴れれば部屋のアチコチに体を打ってしまう。
「あいたっ、ちょ、ひゃっ、待っ、ひゃうっ、おいぃっっ」
 早々に懐かしさのあまり自分から仕掛けたことを後悔し、相手をくすぐる手を緩めて待ったを掛けたのに、相手の手は容赦がなく、こちらの脇を揉むのを止めない。
「ば、っか、も、あふぁ、や、アハっ」
 バカもう止めろと訴えたいのに、まともに言葉なんて出せないし、体格差はかなり縮んだもののやっぱり相手の方が力は強いしでなかなか逃げ出せない。
 またぐったりするまで泣くほど笑わされるのかもと思いながら、それでも必死に身をよじれば、自分を見つめる相手の顔が目に映ってドキリとした。
 こちらもつい先ほどまでは彼をくすぐりまくって居たのだから、上気して赤らむ頬は笑ったせいだとは思う。思うけど、でもなんか、妙に色気があるというか、エロいというか。え、なんだこれ。
 その顔がゆっくりと近づいてきて、音もなく軽く口を塞がれれた後、またゆっくり顔が離れていく。それをぼんやり眺めながら、あ、くすぐり終わってる、という事に気付いて大きく安堵の息を吐いた。
「お前さぁ」
「あ、うん、何?」
「何、じゃなくて。つか、今、何されたか理解出来てる?」
 キスしたんだけど、と言われて、ああ、あれはキスされたのかと理解した途端、ボッと顔が熱くなる気がした。
「なななな、なんで?」
「反応おっそ!」
 つーかさーと呆れた声音の相手が、ぽすんともたれ掛かってくる。
「お前がひゃんひゃん可愛く喘ぐから勃った」
「喘いでねぇよ」
「後お前、自分で気付いてないかもだけど、お前も勃ってっから。ちんぽおっ勃ててひゃんひゃん喘いでクネクネされんの目の前にして、勃起すんなってのは無理」
「はあああああ??」
 何を言っているんだと盛大に驚けば、無言のまま伸びてきた手に、ふにっと股間を揉まれてしまう。
「ひゃぅんっ」
「ほら、今、ぜったい、ひゃんて言ったろ」
 エロ過ぎなんだよと不貞腐れたように言いながら、股間をグニグニ遠慮なく揉みだす手のがよっぽどエロいと思った。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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雨が降ってる間だけ

 ふと隣に気配を感じて集中が途切れる。気配に向かって振り向けば、長めの髪をひと結びに後ろに垂らした浴衣姿の青年が、そわそわもじもじ落ち着きのない様子でこちらを窺っていた。
「ああ、雨、降り出したんだね」
 コクンと頷く彼に、じゃあ寝室に行こうかと言って立ち上がる。予報では、降り出したらしばらく強めの雨が続くようだから、前回みたいに途中でお預けなんてことにはならないだろう。
 おとなしく数歩後ろをついてくる彼を寝室に招き入れ、ベッドの上に押し倒せば、先程よりも更に落ち着きをなくした男が、期待に顔を赤く染めている。
「雨が降るの、待ち遠しかった?」
 可愛いなぁと思いながら赤くなった頬をゆるりと撫でてやれば、やっぱりコクリと頭が縦に揺れた。
「前回、イキそびれたまま雨上がったもんな。今回は雨長引きそうだし、いっぱい気持ちよくなろうな」
 告げれば嬉しそうに笑って、早くと言わんばかりに両腕が首に回される。引かれるまま顔を寄せて、初っ端から相手の口内を貪るみたいな深いキスを仕掛けていく。
 慣れた様子で絡められる相手の舌を吸い上げながら、浴衣の合わせを広げて露出させた肌に手を這わした。弄り回した胸の突起が硬さを増したら、指先で摘んで押しつぶすように転がしてやる。
「んんぅっ……」
 ビクビクと体を震わせ、苦しげに、けれど甘ったるく、鼻に掛かった息が口端から漏れた。彼の体はすっかり自分に慣らされきっている。
 血走った目でこちらを睨み、部屋の中の物をあれこれ投げつけてきていた男が、まさかこんな変貌を遂げるとは思わなかったが、彼は長年抱えている何かが癒やされているようだし、こちらも充分に楽しんでいるし、ヤバイと噂の格安物件を問題なく利用できているしで、いい事づくしだと思う。
 つまり彼は、人の形をしているが、いわゆるこの家に憑いた、人ではない何かだった。言葉は通じるし会話も出来なくはないが、彼は彼自身のことを語らないので、幽霊のたぐいなのか妖怪と呼ばれるようなものなのか今ひとつわからない。
 ポルターガイスト現象の頻繁に起こる格安の一軒家を借りたのは、仕事柄金があまりなかったのと広めの作業スペースが欲しかったからだ。
 舐めて掛かっていたと後悔するのは早かった。なんせ、皿でも飛ぶのかと思っていたら、狙ったように仕事中に仕事道具ばかりが舞った。
 相手はこちらが心底苦痛に思う嫌がらせを心得ていると思ったが、いかんせん、引っ越しにも金が掛かるし、同じ規模の別の家を借り続けられる財力だって無い。
 そんなわけで、とある雨の日、仕事場で仕事道具をアチコチに移動させている不機嫌で不健康そうな和装の男を見つけた瞬間に、何だお前ふざけんなと喧嘩を売っていた。その姿を見た瞬間から、相手が人でないことも、ポルターガイストを起こしているのがコイツだともわかっていたが、得体の知れないものへの恐怖はなかった。和装だったり髪が長かったりはあるものの、見た目はごくごく普通の人の姿をしていたからかもしれない。
 まさか見えていると思わなかったらしい相手は心底驚いて、それから手の中のものをこちらへ投げつけてきた。額の端をかすめていったそれに、こちらの怒りのボルテージは上がっていったし、触発されるように相手もどんどんと険しい顔付きになった。
 手当たり次第、手に触れたものをこちらに向かって投げてくる相手に、飛んでくるものを避けたり払ったりしながら近づいていったのだが、だんだん怯えたような表情になっていくのが印象的ではあった。
 相手に触れられるほど近づいた後は取っ組み合いへと発展したが、なんというか、相手は思いの外非力だった。仕事場の床に押さえ込んで、仕事道具に二度と触るなと脅せば、なんだか透けるみたいに青い顔をして必死にイヤイヤと首を振っていた。なぜかそれに劣情を催し、気づけば男を犯していたのだが、さんざん仕事の邪魔をされたという思いがあったからか、相手が泣いて嫌がるほどに、胸がスッとするようだった。
 数度相手の中に射精したところで、色々と冷静になり、さすがにやり過ぎたと身を離す。息も絶え絶えに横たわる体は、人ならざるものとわかっていても、罪悪感が芽生える程度に人とそう変わらなかった。つまり、見知らぬ男をいきなり犯しぬいたような気持ちになって、内心慌てながら洗面所へ向かって走ったのだが、タオルやらを持って戻った時には彼の姿は消えていた。
 それからパタリと仕事道具が舞うような現象がなくなり、なんだかやらかした感はあるが一安心と思っていたのだが、代わりとばかりに何かの気配を感じるようになった。見えないが、彼がそばにいる。見張られている。そんな日々になんとも居心地の悪い気分を味わいながらも、やっぱり引っ越しはできずに居たら、ある日またふと彼の姿が目に入った。手を伸ばしたら普通に触れたのだが、触れられた彼はこちらに見えていることに気づいていなかったのか、やはり相当驚いた顔をした。その後、こちらの手を振り払って彼は逃げた。
 雨が降ると彼が見える、と気づくまでにも彼との攻防は色々とあったが、初回に犯したことをほぼ土下座で謝り、お詫びに優しくさせて欲しいと頼み込んでどうにか再度彼に触れるチャンスを手に入れた。その頃にはもうすっかり情がわいていたから、言葉通り思いっきりその体を甘やかしてやったのだが、結果的にはそれで彼に懐かれた。のだと思う。
 それ以来、雨が降ったら彼を抱いている。たまに最中に雨が上がってしまうアクシデントも起こるが、彼との関係は概ね良好だと思う。
「ぁ、っぁ、ぁん」
 控えめながらも連続的に気持ち良さげな声が漏れている。
「ここ、気持ちぃ?」
 聞けば素直に首が縦に揺れた。聞き漏らしそうなほど小さな声ではあるが、きもちぃと教えてもくれる。抱くほどに彼は可愛くなる。
 だんだんと仕事が軌道に乗り始め、多少金銭的な余裕も出てきたのだけれど、この格安物件生活を手放す気にはなれそうにない。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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兄が俺に抱かれたいのかも知れない

 両親共働きで一番先に帰宅する自分が、帰宅時に郵便物を確認することになっている。両親宛のものやチラシ類はダイニングのテーブルに、兄宛のものは兄の部屋の机の上に、自分宛てはもちろん自室に持ち帰るのだが、兄宛のDMを届けた時にふと、兄の勉強机の棚に並んだ参考書の中に漫画本が紛れていることに気づいた。しかもなぜか背表紙が見えないように前後ろに突っ込まれている。
 なんだこれ、と思った時にはそれを引っ張り出していた。
「うわっ」
 肌色の多い表紙に、あ、これ、エロ本隠してたのかということに気づいて慌てたが、すぐに違和感に気づいてマジマジとその表紙を見つめてしまう。
 あれ、これ、もしかしなくても男同士なんじゃ……?
 うわーうわーと思いながらも、手は勝手に表紙を捲り始めてしまう。そして当然の流れとして、そのままそれを読み始めてしまった。しかもしっかり椅子に腰を下ろして。
 読んでいる間にも、脳内にはうわーとかひえーとかの言葉にならない驚きが渦巻いていて、読み終えた後は心臓がバクバクと痛いくらいに脈を打つ。
 知らなかった。兄にこんな趣味があったなんて。というか、他にも隠してたりするのかな?
 部屋を漁ったなんて知られたら絶対に怒られるけど、好奇心には勝てなかった。そんなわけで定番のベッドの下から、数冊新たに発見した漫画を兄の勉強机に積み上げ、黙々と読み耽る。
 やっぱりうわーひえーうわーと思いながらページを捲ってどれくらいの時間が過ぎただろう。
「おい、何してる」
 カチャッとドアノブを捻る音、ドアが開く気配、そして兄の慌てた声が続いた。振り向き兄を見つめる顔は、間違いなく赤くなっているだろう。羞恥でってよりは、興奮で。
「兄ちゃんさ、これオカズに抜いてんの?」
 手にしたままの漫画を掲げれば、多分羞恥で顔を赤くしている兄が、怒ったみたいな険しい顔でドスドスと荒い足取りで近づいてきて、手の中からそれを取り上げてしまう。バンッと音が立つくらい勢いよく漫画を閉じて、それをベッドの方に向かって放り投げる。しかもその後も無言で、机の上に積み上げた漫画を、取り敢えずみたいな感じにベッドへ向かって全部投げてしまう。
 動揺しすぎ。いや、気持ちはわかるけど。
 弟に兄弟ものの、しかもことごとく兄が弟に抱かれてるような描写が入ったエロ本見つかって読まれるってどんな気分? って聞きたい気持ちをどうにか堪える。だって他に聞きたいことがたくさんある。
「ゲイなの?」
「ち、がう……」
「んじゃ腐男子とかいうやつ?」
「は? お前、何言って?」
「あれ? 違った? BLって言うんだろ、ああいう漫画。で、それを楽しむ女子が腐女子で男なら腐男子」
「いや、違ってない、けど。えっ、お前、気持ち悪くねぇの?」
「ビックリはしたけど、気持ち悪かったら部屋漁ってまでして何冊も読まないって」
「いやでも、だって、」
「んでさ、ゲイじゃないなら、あれはそういう漫画のいちジャンルとして楽しんでます、みたいな感じなの?」
「そ……だよ」
 困ったように視線が泳ぐから、これはきっと期待していい。
「なーんだ。残念」
「残念?」
「俺、読んでて結構興奮したけど。兄ちゃんが、あの漫画みたいなこと、俺にされたいのかと思って」
 椅子に座ったままなので、見上げる兄の既に赤い顔が、更にぶわっと赤味を増していく。
「ね、正直にいいなよ。そしたら兄さんのこと、俺がうんと可愛がってあげる」
 さっき読んでた漫画の中のセリフを投げかければ、兄はすぐに気づいたようだった。
「おまっ、それっ」
「あはは。さすがにすぐわかるね。読み込んでるね」
「からかうなよっ。つかもうお前、部屋出てけ。でもって忘れろ。全部忘れろ」
「いやですー。てか、からかってないし」
 もう一度正直にいいなと促せば、うっと言葉に詰まった後、なぜかゲンコツを落とされた。
「暴力反対!」
「お前が悪いっ」
「なんでよ」
「勝手に部屋漁んなバカヤロウ」
「漁ってすぐ出てくるとこに置いとくとか、俺に見つけて欲しかったってことじゃないの」
「違うったら違うっ」
「えーもー漫画と違って全然すんなりいなかいじゃん」
「当たり前だろ。あれはフィクション」
「でもさ、兄ちゃん気づいてる?」
「何を?」
 そんなの、漫画みたいなことをされたいのかという質問に、顔を赤らめただけで否定はしてないってことをだ。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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友人の友人の友人からの恋人2(終)

1話戻る→

 どうにか彼とキスできる関係になれないかと考えた結果、彼を合コンに誘ってみた。ファーストキスを男なんかにと思っているなら、女の子相手にファーストキスを済ませてもらえばいいのだ。こっちはキスどころかセックスだって経験済みなのだから、貰えたら嬉しいだろうとは思うが、なにがなんでも彼のファーストキスが欲しいと思っているわけじゃない。
 ただ、女の子の扱いを学んだところで実践と行こう。という言葉をまるっと信じて、あっさり参加を了承したあたり、本当にチョロくて不安になる。こちらの思惑通りにすんなり進むから楽でいいんだけど。
 そしてベタだけれども仕込み有りの王様ゲームをして、女の子相手のキスを経験してもらった。ファーストキスに夢見てるらしいからちょっと可愛そうかなとは思ったけれど、女の子とってのは叶えてあげたのだから許して欲しい。
 なお、照れまくって動揺して挙動不審になってた姿はたいへん可愛らしかった。けれど、ゲーム終了後、逃げるようにトイレに立った彼の顔はなんだか泣きそうだ。
 慌てて追いかけたトイレで、彼はゴシゴシと唇を擦り洗っていたから、さすがに罪悪感で胸が痛む。
「えっと、ごめん、ね」
「なんで謝るの」
「合コン連れてきたの俺だし、王様ゲーム提案したのも俺だし、あの命令した王様は俺じゃないけど、一緒になって囃し立てはしたから」
 そしてこれは言えないけど、そのキスを仕組んだのが自分だからだ。
「こんなのでもなきゃ、女の子とキスできる機会なんてないんだから、むしろラッキーだったよ」
 どうにか笑ってみせる顔が痛々しくて、ますます胸が締め付けられる。いやこれホントに、結構失敗しかもしれない。こんなショックを与えるつもりじゃなかった。
「本気でそう思ってないでしょ。ファーストキス、好きな子としたかったよね。ごめんね。止められなくて」
 言えば瞳にぶわっと涙が盛り上がる。ああ、とうとう泣かせてしまった。
「悪いのお前じゃない。自業自得、なんだ」
 全く意味がわからない。俯き涙を拭う相手に、どういう意味かと尋ねてしまうのは仕方がない。
「キス、好きな子と、しとけばよかった」
「は? え? 好きな子いたの?」
 初耳なんだけどと続いた声は、嫉妬と焦燥にまみれて、自分でも驚くくらい低く重く響いてしまった。
「ファーストキス、もったいぶらずに、さっさとお前にあげとけば、良かった」
「はぁああ? えっ、ちょっ、俺ぇ!?」
 あまりの衝撃に素っ頓狂な声を上げてしまったが、相手は俯いたまま肯定を示すように頷いている。
 ああこれ、本当に、失敗した。いつから彼の気持ちは自分に向かって居たんだろう。それに気付けず、貰えたかも知れない彼のファーストキスを、自らそこらの女に渡してしまった。あまりの自業自得さに、一緒に泣きたいくらいだ。
「ねぇそれ、本気にするけど。俺と、恋人になってくれるの?」
 確かめるように告げた言葉にもやはり頷かれたから、少し開いていた距離を詰めて相手の手を取った。
「なら、一緒に抜け出しちゃおうか」
 さすがにこんなトイレで彼との初キスを済ます気はない。というか王様ゲームのキスなんてノーカンってことに出来そうなくらい、ちょっとロマンチックな演出決めつつキスしたい。
 どこに連れていけば可能かと必死で脳内フル回転しながらも引いた腕に、彼はおとなしくついてくる。チラリと伺う背後の彼は、泣いた目も目元も頬も、耳までもが赤い。
 ようやく捕まえた恋人が、可愛すぎてたまらない。

 
 
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