エイプリルフールの攻防・エンド直後2

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「だってお前、泣く俺よしよししながら、ずっと、好きだとか可愛かったとか感じてくれて嬉しかったとか、繰り返し言ってくれてたろ。だから最後まで抱いてって言ったら、そういうのいっぱい言いなら抱いて貰えるのかなって」
 たとえそれがエイプリルフールだから言える嘘でもいいから、そんな風に抱いて貰ったって思い出が欲しかった。という部分まで晒すかは迷ったけれど、結局それも言ってしまえば、嘘じゃないと少し強めに否定される。
「エイプリルフールだからお前に好きだって言えたのは事実だけど、俺、一度だってホントの嘘は吐いてない」
「うん。俺の一方的な片思いで、嘘で優しく抱かれるんじゃないの、ホント、嬉しい。だからさ、俺としては早く早くって期待する気持ちが抑えられないんだけど、でももしお前が、泣いて嫌がる俺を無理やり感じさせる、みたいなのに興奮するってなら、」
「待て待て待て」
「遠慮なく強引に進めてくれれば、泣けるかはともかく、待ってぇとかヤダぁとか恥ずかしぃ、みたいな反応くらいは返せるかも?」
「言い切んなくていいっつうの! てか変な演技とかしようとすんなよ。頼むから」
 泣かせたり無理やり感じさせたい性癖とか持ってないから! と否定されてしまったが、最初からずっと好きだったと聞いた後だからか、強引にされるのもそれはそれで悪くなさそうだなって思ってる、とか言ったら逆に引かれてしまうだろうか。
 うんもう、ホント、どう考えても自分ばっかりガッツイてる。
「お前が喜ぶならちょっと演技頑張るくらいはしてみてもいいんだけど」
「喜ばないからやめろ。むしろ素のお前見せてくれる方が絶対興奮するから、お前は何も頑張るな」
「でも素の俺だと、早く早くってガッツイちゃってお前ビビらせちゃうじゃん?」
「ビビってる言うな」
「だってさぁ。つか、お前がやりやすいように協力するから、早く抱いて。って、だけなん……んっ」
 これ以上喋るなとでも言いたげに口を塞がれてしまった。
 今度はすぐに口の中に舌を差し込まれて、同時に、下着の上から形を確かめるように膨らんだペニスを撫でられる。
「んふ、ぅ……っっ、んっ、……んんっ……」
 布の上から何度も擦られてじれったさに腰を揺すってしまえば、下着の中に手が突っ込まれて、直接握って扱かれだす。
「ふぁ……あ……」
 腰が重く痺れるみたいな気持ちよさにうっとり身を任せかけて、そうじゃないだろと慌てて意識を引き戻した。
 さっき、触られるのが嫌だとも、余計なことはするなとも、言われなかったのだから、自分だって相手のペニスに手を伸ばしていいはずだ。
「おいっ」
 確かめるように相手の股間に手を這わせば、少し焦ったようにキスが中断されてしまった。手はまだ動いているが、そちらも随分とゆっくりだ。
「触っちゃダメとも、余計なことすんなとも、言われて、ない」
「そ、だけど。でも言ったろ。優しく出来なくなるかもしれないのは、困るって。俺が暴走して無理やり突っ込んだら怪我すんの、お前だぞ」
「情けなく即イキ、の方にして」
「無茶言うな。つかコラ、イジんな。煽んな」
 手つきがエロいってなんだそれ。エロいことしてんだから当然だし、相手の手つきだって充分にエロいと思う。
「やだぁ。はやく、続き。キス、も」
 だって深いキスといっしょに扱かれるのが、めちゃくちゃ気持ちいい。それを相手にだって教えてやりたい。
 顎を突き出しキスをねだりながら、こちらも直接触れてやろうと、相手の下着を摺り下ろしてやった。
 ボロンと出てきた、既に充分な質量を持つペニスの濡れた先端に指を這わせて、カウパーを漏らす小さな穴を指先で抉ってやれば、相手の腰がビクッと震える。
「くっ、……そ」
 息を呑んだのか悪態をついたのわかりにくい音を漏らしながら、再度口を塞がれて、ゆるゆるとペニスを扱いていた相手の手のスピードが上がっていく。
「ん、んっ、んんっっ」
 先にイッてたまるか、とでも思っているのか、容赦なく扱かれて目眩に似た感覚に陥りながら、こちらも負けじと相手のペニスを擦った。

続きました→

 
 
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エイプリルフールの攻防・エンド直後1

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 軽く触れ合うキスの合間に何度も好きだと囁かれて、何度かは俺もと応じた後、やっと相手の舌が口の中に伸びてくる。早く早くと急く気持ちはあるが、好きと繰り返してくれるのが嬉しくて、今回は自分から舌を伸ばしてはいなかった。
「んっ……んっ……」
 口内を探られるゾワゾワとした擽ったいような気持ちよさに、甘えるみたいに鼻を鳴らす。気持ちがいいのを教えたいのもあるけれど、穏やかに受け入れるこのキスがめちゃくちゃ嬉しいってことが、相手に少しでも伝わればいい。
「ふ、ぁあ……」
 確かめるみたいに股間を撫でる手に口を開いてしまえば、顔を離した相手が直接触っていいかと聞いてくる。昨年はキスでこちらの言葉を封じながら、否応もなく勝手に手を突っ込んできたくせに。
 まぁ、結果派手に泣いて困らせたわけだけど。
「いい、よ。てかズボン脱ごっか?」
 お前も脱ぎなよと促しながら、寝転がったままごそごそとズボンを脱いでいく。どうせ最後は裸になるのだからと、ついでに上に着ていたシャツも脱いでしまったが、一人でさっと全裸というのも流石にためらわれて、下着だけは残していた。
 そんなこちらに相手はやっぱり少し戸惑っているようだけれど、それでも黙って脱ぎ始めたので、積極的すぎるという指摘はされないらしい。
 早くお前に抱かれたいからだって、わかってくれてるからだといいなと思う。でももし、積極的すぎて引いてるとかだったらどうしよう。
「あ、良かった。お前もちゃんと勃ってるんだな」
 ひとあし遅れて下着を残して衣類を脱ぎ捨てた相手の、股間の盛り上がりにホッと息を吐いた。
「当たり前だ」
「俺も触っていい?」
「えっ?」
「俺の触っていいから、俺にも触らせてよ」
 嫌かと聞けば、嫌ってわけではと即答されたけれど、でもその口調は随分と躊躇いが滲んでいる。
「余計なことしないで大人しく抱かれとけ、みたいな感じ?」
「違っ」
「あ、そこは否定してくれんだ。今までのお詫びで、いっぱい好きって言いながら優しく抱いてくれる。っての本当に実践してくれそうだから、余計なちょっかい出さないでお前は大人しくしとけ、とか言われるなら、それはそれで有りな気もしないこともないんだけど」
 積極的すぎて引くわ、ってなら、ちゃんとそう言って欲しい。じゃないと、早く早くと急く気持ちを抑えられない。
「お前……」
 なにか言いたげで、でもやっぱり躊躇っているのがわかるから、思ってること言っていいよと促してみる。
「あ、でも、やっぱ抱けないとかはなしで。いっぱい好きって言いながら優しく抱くのは、全力でやり切ってから帰れよ」
 何でもしてくれるって言ってたろと告げる自身の声は、固くてぎこちないものになってしまった。だって、自分ばっかりガッツイてる現状に気づいたら、なんだか不安になってしまった。
「抱けないなんて言うわけないだろ。お前が俺を好きになってくれて、抱かれたいってこんなに積極的に求めてくれてんのが、嬉しくないわけない。ただ、正直気持ちが追いついてないとこはある」
 なじられて罵倒されて最悪殴られたりで落とし前つける覚悟で来たのに、いっぱい好きって言いながら優しく抱いて、なんてので許されると思ってなかった。らしい。
「俺が積極的なの、引いてるとかではない?」
「驚きはするけど、普通に嬉しい。てか俺がいちいち驚いてんのが、もしお前を不安にさせてんなら、ほんと、ごめん」
「だって、驚いてるだけじゃないだろ。俺が積極的なの、困ってんじゃないの?」
「困る、っていうか、お前に触られたらどうなるかわかんなくて怖いっつうか、自分が何かされる方向の想像って、そういえばしたことなかったなと思って」
 触られて即イキとか情けないことになるだけならまだしも、触られて我慢きかなくなって、お前に優しくできなくなるのは困るといえば困る。なんて言われたら、さすがに笑うしかなかった。
「俺に触られて即イキするお前とか超見たい」
 情けなく項垂れても悔しそうに涙浮かべてくれてもいいよと笑ったら、その場合はお前が笑ってる余裕なんか持てないように、お前をイかせるのに全力出すに決まってるだろ。なんて真顔で返されたせいで、あっさり笑いは引っ込んだけど。
「なぁ、俺に何かされる想像したことないってことは、俺にエロいことする想像はしてたの?」
「してた」
「俺のこと、想像の中では既に抱いてる?」
「抱いてる。てかこの1年、俺のおかずは去年俺にイカされてグズグズに泣いてたお前だっつうの。泣いて嫌がるお前を無理やり感じさせて抱く想像ばっかしてたのに、こんな積極的に求めて貰えるとか、そんなの戸惑うに決まってるわ」
「そ、っか。俺もね、去年のお前おかずにしながら、お前に抱かれる準備してたよ」
「え゛っ???」
 驚きすぎ。と思ったらやっぱり少し笑ってしまった。

続きました→

 
 
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エイプリルフール禁止

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 就職先は実家から通える範囲で探したので、大学を卒業後は一旦実家へ戻っているが、元々実家住まいだった恋人は、逆に実家を出ることにしたらしい。同じように実家から通える範囲で就職先を探したと言っていた相手が、実家からそう遠くはない場所でわざわざ一人暮らしを始める目的なんて、致す場所が欲しいからに違いない。
 恋人になってからの1年は遠距離ながらも相手がそこそこの頻度でこちらのアパートに通ってくれたし、長期休暇中はほとんど一緒に住んでるような状況だったので、誰の目を気にすることもなく部屋の中でイチャつけたけれど、双方実家住まいとなるとそうはいかない。
 実家に戻ったらどうしようかな、とは思っていたけれど、まさか相手がさっさと一人暮らしを開始するとは思わなかった。相変わらず、無駄に行動力だけはある男だ。
「これ、お前の分の合鍵な」
 実家に戻った翌日の夜に呼び出されて、初めてお邪魔した彼の部屋で、真っ先に差し出されたのが銀色に光る1本の鍵だった。
「え、いきなり合鍵渡すとかある?」
 そこそこの頻度で通ってはくれたし長期休暇中は同居に近かったが、さすがにアパートの合鍵を渡したりはしなかったので、受け取ってよいのかを迷ってしまう。
 すると、こちらの躊躇いを感じ取った相手に手を取られて、開かされた手のひらの上に鍵を落とされた。しかもそれを握り込ませるようにして、相手の両手で自身の拳が包まれる。
「お前のが早く帰れる日もあるはずだから持ってて」
「早く帰れる日?」
「週末だけじゃなくて、平日も、気が向いたら会いに来てくれたら、嬉しいなって」
 さすがにルームシェアを持ちかけるのは早すぎるかと思ったけど、やっぱりできれば一緒に住みたいし、お前がいる家にただいまって帰ってくるのとかめちゃくちゃ憧れる。なんて言われて嬉しくないわけがない。
 就職先は実家から通える範囲で探してると伝えたとき、ホッとした様子で、じゃあ俺もそうすると言われたし、その時に、お前がこっちで就職先探すなら俺もこっちで探そうと思ってたと言われたから、卒業後にルームシェアという可能性も一応は考えていたのだ。
 でもそんな話は一切ないまま、事後報告で一人暮らしを始めたことを聞いたので、これはヤるための部屋の確保だなと思い込んでいたけれど。でも相手も一緒に暮らすことを考えてくれていたらしい。
「わかった。じゃあ、預かっとく」
「預かるだけじゃなくて使って欲しいんだけど」
「わかったわかった。ちゃんと、使うよ」
「あと確認しておきたいんだけど、入社式って4月1日?」
「そうだけど」
「何時に家出る予定?」
 なんでそんなのを気にするんだ。と思ったところで気づいてしまった。
「待て。まさか早朝から俺の出社待ちする気じゃないだろうな」
「いやぁだって、なぁ」
「なぁ、じゃない」
「お前待ってたら俺が遅刻しそう、とかならさすがに諦めるけど」
「エイプリルフールに会うのは禁止で」
「え?」
「そもそも俺に、これ以上どんな嘘仕掛けたいわけ?」
 好きって言われても今更嘘とは思わないけど、嘘と思って辛かったことを思い出すし、嘘でも嫌いとか言われたらそれはそれで辛い。そう訴えれば、相手はとたんに申し訳無さそうな顔になる。
「あー……そこまで深く考えてなかった。わるい。ずっと続けてたイベントだし、しつこくお前に会いに通ったおかげで今があるわけだから、と思ったら、今年もなにかやらないとって思っただけというか」
「じゃあ尚更、4月1日には会いたくないし、来て欲しくないな」
「なら2日は?」
「え、2日の朝に俺の出社待ちすんの?」
「お前が嫌じゃなければ、朝一でお前に好きって言いに行く」
 4月1日ならこいつが家の前で好きだとか言ってても、未だにやってるの? と笑われるだけかもしれないけれど。
 エイプリルフールでもない平日の朝、社会人になった男が家に押しかけてきて好きだと告げられる。というシチュエーションを想像して、それもちょっとないなぁと思ってしまう。嫌ではないけど、親とかご近所にどう思われるかまで考えると、色々と面倒くさい。
 さすがにまだ、毎年エイプリルフールに好きだと言いに来ていた男とガチで恋人になった、なんて話を親には出来ていない。
「なら朝一で好きってメセ送ってよ。夜は俺が会いに来るから」
「え?」
 これ使っていいんだろ、と言いながら手の中の鍵を見せれば、相手はその案に満足したらしく、嬉しそうに笑ってみせた。

 
 
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エイプリルフールの攻防4(終)

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 どんな覚悟を決めてきたのか、深刻な顔で玄関前に立つ相手を迎え入れたら、靴を脱いだ矢先に土下座が始まり唖然とする。
 慌てて立ち上がらせて、たくさん好きって言いながら優しく抱いてくれたらそれでいいよと言ったら、相手は随分と呆気にとられた顔をした。追撃で、泣いた分いっぱい優しくされたいと言えば、グッと体を引かれて抱き締められる。
「ごめん。本当に、お前のこと、ずっと好きだった。なのに泣かせてごめん。甘ったれたことばっかしてて、本当にごめん」
 繰り返されるゴメンの言葉を聞きながら、背中に腕を回して、その背をポンポンと軽く叩いてやった。
「も、いいから。それより早く、お前としたい」
 昨日から待たされてるんだからと言ったら、抱きしめる腕を解いた相手が、困惑を混ぜながらも何かを探るような顔で見つめてくる。
「何?」
「本気で、俺に抱かれる気でいるのか?」
「俺のこと、抱けそうにない?」
「そんなこと言ってないだろ。だってお前、去年俺にイかされて泣いたし、その、受け入れる側をするっていうのは、かなり体にも負担が掛かると思うし」
「昨日も言ったけど、今年、お前に抱かれておしまいにするつもりだったから、結構前から体は慣らしてる。だから多分、体は平気」
 慣らしてたという部分で、相手はまた随分と驚いているようだった。さすがに少し恥ずかしいなと思いながらも、相手の驚きを無視して続ける。
「もしお前が頷いて抱いてくれたとしても、それは俺ばっかり好きなセックスできっと辛いんだろうなって思ってたから、ちゃんと両想いで、好きって言われながらするセックスになるかもって思ったら、正直、早く早くって急かす気持ちばっかり強くなってる」
 正直な気持ちを告げて、お前が俺を好きだったって言ってくれたの本当に嬉しいと言いながら、驚いた顔のまま固まる相手へ自ら口付けた。そしてもちろん、自分から深いキスを仕掛けていく。
 すぐに応じてくる相手と舌を絡ませあっていたら、ふいに体が少し浮いて、慌てて口を離した。
「えっ、ちょっ…」
「ベッドまで運ぶだけだ」
「え、この状態で?」
「なら横抱きで運ぶか?」
 イエスもノーも返さないうちにさっさと姫抱きされて、照れるより先にあわあわと慌てているうちに、あっさりベッドの上におろされる。狭いアパートなので、運ばれる距離はめちゃくちゃ短かった。
「好きだ」
「俺も、好き」
 見下ろす真剣な顔にニコリと笑いかけて、早く来てという想いを乗せながら腕を伸ばす。
「お前が、好きだよ」
 唇が触れる直前、もう一度柔らかに囁かれた。きっと本気で、たくさんの好きと優しさを示しながら、抱いてくれる気で居るのだろう。
 胸の中に甘い何かが流れ込んできて、幸せだなと思った。

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エイプリルフールの攻防3

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 彼の住まいとは片道三時間以上の距離があるとわかっていながら、一度帰って出直すという彼を引き止めることはしなかった。
 引き止めたところで、どう接していいのかわからないというのももちろんある。でも一番はやはり、彼の言葉を信じたい気持ちとともに、またエイプリルフールだと言って手のひら返されるのを恐れる気持ちがあったからだ。もし彼の言葉がまたしてもエイプリルフールの嘘なら、明日彼が来ないというだけで済む。彼の前に、これ以上傷つく姿を晒さなくて済む。
 もちろん、自分だけの片想いじゃないのかもという期待と、全ての本当とやらに対する不安もあった。
 それらを抱えながら気がかりで憂鬱な時間を過ごし、だったらさっさと眠って明日にしてしまえと部屋の明かりを落として布団に潜ってみたものの、結局眠れずに何度も寝返りを繰り返す。
 そんな中で携帯電話が鳴ったものだから、心底驚き布団の中で体が跳ねた。
 発信者は登録されていない。表示されている見覚えのない電話番号に、出るかどうかを迷ったものの、もしかしたら彼なのではという期待で恐る恐る通話ボタンを押した。
「もしもし」
『出てくれてよかった』
 耳に届く心底ホッとした声は、やはり彼のものだった。
「何か、あった?」
『日付越えたから、好きって言っておこうと思って』
 朝まで待てなかったと言いながら、電話の先では相手が苦笑している気配がする。
「え?」
『ずっと、お前が好きだった。子供の頃から、お前が好きだったんだ。そう言ったら、信じるか?』
 驚いてすぐには言葉が出なかったけれど、相手がこちらの言葉を待って黙っているので、考えながらゆっくりと口を開く。
「ちょっと信じがたいけど、でも、だからこそ、嘘じゃないのかなとも思う」
 もうエイプリルフールは過ぎたわけだしと言ったら、すぐにずっとごめんと返ってきた。
『会ってからゆっくり話すつもりだったけど、今、話しても平気か? それともやっぱりそっち行ってからのがいいか?』
「電話のが、いいかな」
 どうせ眠れる気もしないと思いつつ言えば、じゃあ聞いてくれと言って話しだす。
『好きだって気持ちはあるのに、その気持ちがあるからか、お前とは友人のようにすらなれなくて、イライラしておかしな態度ばっかり見せてきた』
 小学生の頃だったが初めて好きだといった日を覚えているかと聞かれて、覚えていると返した。
『思った通りビックリされたのに、バカみたいに腹が立ったんだ。お前が俺をなんとも思ってないどころか、むしろ嫌われてるって知ってたのに、でも、突きつけられる現実にやっぱりいっちょ前に傷ついてた。最初からエイプリルフールを選んで告白したくせに、嘘に出来たこともそれにお前が怒るのも、凄くホッとした』
「あれも、偶然会ったから揶揄ったってわけじゃなかったのか……」
『そう、違う。でも自業自得でショック受けて、その後数年はもう二度とやらないって思ってた。お前との関係も、なんとかせめてすぐ険悪にならない程度にはしたくて頑張ってたけど、その甲斐あってか中学の頃は比較的穏やかだったよな?』
「確かに。でもそれをやめたってことは、気が変わったって事なんだろ?」
『だってお前に好きな女が出来たから』
「えっ?」
『お前に好きな子が出来たって知って、なんか居てもたっても居られない気分になって、どうしてもお前に好きだって言いたくなった。だからまた、嘘に出来るようにエイプリルフールを選んだんだよ』
 とにかく好きって言いたいだけだったはずなんだけどな、と相手の続ける言葉に、ただただ耳を傾ける。
『お前は驚きながらも、ちゃんと俺の話を聞いてゴメンとまで言って振ってくれたのに、逆にその対応で諦められないなと思ったんだ。というか、お前の優しい対応に味しめたというか、エイプリルフールにならお前に好きって言えるんだって、思っちまったんだよな』
 たとえ嘘としか思われなくても、年に一度だけでも、お前に好きって言っていいんだって事実が魅力的すぎたと、相手の声が申し訳無さそうに響いた。
『お前を好きって気持ちがどうにも出来ないのは、もうとっくに気付いてたからな。年に一回くらいバカバカしい遊びに付きあわせたって許されるだろって思ってた。何もかも自分勝手なのは自覚してる。でもな、だんだん欲深くなっていくんだ』
 自意識過剰かもしれないけど、高校三年頃からお前に意識されてるかもって思うようになったと言われて、思わず正解とこぼしそうになった言葉を慌てて飲み込んだ。
『お前が進学してそのアパートに住むようになってすぐ、押しかけた俺をあっさり部屋に上げただろ。しかもお前からの好きって嘘を待ってるって言ったら、やっぱりあっさり好きって言うから、あの時実はかなり驚いた。嘘でも言えるかって返ってくると思ってたから。もしかして少しは俺を好きって気持ちがあって、お前も俺同様、嘘ってことにして好きって言ってるんじゃないかって頭をよぎった』
 答えたくなきゃ答えなくてもいいが、当たってるかという問いに、少し迷ってから当たってると返した。相手はそうかと言って少し黙った後、また話し始める。
『でも今までが今まで過ぎだし、もし実は本当に好きなんだなんて話をしてふざけんなって振られてしまったら、もうこんな遊びすらできなくなる。それくらいなら嘘ってままにして、お前が好きって言ってくれる事を楽しもうと思った。これが俺の、全ての真実だ』
 年に一度だけの遊びってことに色々甘えすぎてたんだと言って、もう一度彼は本当にゴメンと謝罪の言葉をくれた。
 呆れるだろうと聞かれたので、呆れてるよと正直に返す。
「俺、お前を好きって思い始めてから先、この遊びのせいで結構泣いたからね?」
『すまん。俺に出来ることがあれば何でもする』
 じゃあ今から考えとくから、朝になったら覚悟決めてこっち来いよと言ったら、神妙な声がわかったと告げた。

続きました→

 
 
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エイプリルフールの攻防2

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 大学2年目の春は、やはりわざわざ始発でアパートまでやってきた相手を部屋に上げて、好きだの言葉に好きを返し、舌を触れ合わせる深いキスを自分から仕掛けて行った。相手の驚く顔が見れて、少しだけ溜飲が下がった。
 お前も懲りないよなとフフンと笑い、今までの鬱憤を晴らすべく嘘に驚くなよと嘲って、ざまーみろと付け加えれば、相手が嫌そうに眉を寄せたのでますます気分が良かった。しかも自主的にさっさと帰ってくれたので、初めて勝ったような気がして嬉しかった。
 でも同時に、仕掛けたキスに丁寧に応じてきた相手を、そのキスに感じてしまった自分を、しばらく忘れられなくて苦しかった。
 3年目の春も懲りずに訪れた相手を、同じように部屋に上げてキスを仕掛けていったら、押し倒されて撫で回された挙句、手で握られ擦られ相手の手の中に吐精してしまった。やめてとか嫌だとかの言葉はキスで封じられていたし、力は明らかに相手の方が強い。でも本気で抵抗しきれなかったせいだという事もわかっている。
 大学進学で物理的な距離が大きく開き、年に一度エイプリルフールに会うだけの相手なのに、他の誰かを好きになる事は出来なかった。そして4月1日の朝にドアを開けて相手の顔を見ると、やはり好きなのだと思い知るのだ。
 強引にされた事よりも、その手を拒否出来なかった事が辛くて涙が抑えられず、相手を相当驚かせた上に随分と気まずそうな顔をさせたから、結果的に相手に一矢報いる事は出来たらしい。
 ただ、泣いてしまったショックもあり、無理矢理追い出すタイミングを逸したせいで、気まずそうな相手に優しく宥められたのは、その後もかなり引きずる事になった。
 ぐずぐずと泣く自分を緩く抱きしめそっと背を撫でてくれながら、しかし決して謝る事はせず、代わりとばかりに可愛いかったとか感じて貰えて嬉しいだとか好きだとか繰り返されて、嬉しいのに苦しくて辛くて涙はなかなか止まらなかった。だってエイプリルフールであるこの日に彼の吐き出す言葉が、嘘だという事を自分は知ってしまっている。
 そして大学4年の今年も、よくまあ顔を出せると思いながらも部屋の中へ迎え入れ、今年も来てくれて嬉しいと笑う。嬉しいのは嘘じゃないけど、見せる笑顔は嘘だった。全く笑えるような気分じゃないのに笑えるのだから、この数年で随分と嘘が上手くなってしまった。
「喜んで貰えて俺も嬉しい」
 柔らかに笑い返されながら、腰に回った腕に引き寄せられる。ドキドキを隠して、慣れたフリで自分から顔を寄せ唇に触れた。
 軽く何度か触れた後で舌を伸ばせば、簡単に迎え入れられ舌先をチュウと吸われて甘噛みされる。ぞわっと肌が粟立って、腰に何かが集まり重くなる。
「あっさり感じて、相変わらず可愛いな」
 ふふっと笑われながら押し倒してくる相手の背を、腕を伸ばして抱いてみた。昨年同様触れられる覚悟も、それどころか抱かれるつもりまである。
 自分の意思で受け入れるのだから、少なくとも、彼がこの部屋にいるうちは泣き顔を見せずに過ごせるはずだ。
「今年は、最後まで、抱いてくれる?」
 相手の顔を直視しながら口にする勇気はなかったから、引き寄せた彼が覆いかぶさって来た後に、そっとその耳に吹き込んでみた。
 腕の中でギクリと小さくはねる体。しかし相手の驚きに、してやったりと笑える余裕はない。
「ねぇ、好きだよ」
「ああ。俺も好きだ」
 好きの言葉に反応して、すぐさま好きが返された。
「ほら、せっかく両思いなんだから、最後まで、しよ?」
 相手の躊躇いを感じながら、それでさと言葉を続けていく。
「でさ、もう、終わりにしてよ。お前は楽しいのかも知れないけど、俺はやっぱり嘘吐くの向いてないし、年一回の遊びってわかってても、遊びと割り切って今日だけの事に出来ないんだよ。お前が好きだよ。今日は嘘で良いけど、今日が終わったら無くなる訳でも、反転して嫌いになれるわけでもないからさ。だから、終わりにさせて」
 なんせ今日はエイプリルフールなので、これすら嘘と思われるかも知れない。だから一応、エイプリルフールだけど今日は全部本当の事しか言ってないよと言ってみた。
「わかった。終わりにする」
 これ本当なと耳元に囁かれた言葉に、ホッとし過ぎて体の力が抜けていく。
「でも、今日このままお前を抱くのは無理」
「ああ、うん。いいよ」
 言われて、確かにそうなるよなと、内心苦笑するしかなかった。
「本気で好きとか言ってる男に、好きだの可愛いだのの嘘言ったって面白くないよな。本気で抱かれたがってる相手なんて抱けないってならそれでいい。お前、俺が喜んだら悔しいもんな」
 抱かれるつもりでそれなりに体を慣らしてあったから、少し残念でもあったけれど、でも自分ばかりが好きなセックスなんて、しなくて済むならしない方が良いと思う気持ちもある。
「違う。そうじゃなくて、お前を抱くのは明日にさせてくれ」
「は? 明日?」
「今日が終わったら、もう一度、お前に好きって言う。今日のうちに俺も本気でお前が好きだって言っても、どうせお前、信じられないだろ。まぁそれも全部俺のせいだけどな」
 明日、全ての本当を話すよと、柔らかで優しい声が鼓膜を震わせた。

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