二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった20

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 双方共に、相手の態度は自分に都合が良すぎるだとか、割に合わないはずだと思っているとは。しかもその認識のズレの最大の原因は、相手が想定外にこちらを好きすぎるせいだろう。
 どんだけ俺を好きなんだ。そう思ってしまうのを、いい加減止められない。
「お前、俺のこと好きすぎ」
 とうとう音にして口からこぼした。相手だって、理想だと思ってた相手だの、初恋相手だの言わずに、今回は好きな人がという言い方をしていたのもある。まぁそこに意味があるとは思っていないし、初恋で理想の男の具現化なのだから好きな気持ちがあって当然だとも思うけれど。
「あ……」
「あのっ」
「ごめん、ちょっと黙って」
 何かが引っかかって声を漏らせば相手が何かを言いかけたけれど、それを強めに遮って思考に耽る。
 そういや、恋愛対象ではないとか、好きと言われたら嬉しいより困ると明言されているが、恋情を抱いてないとは、はっきり言われていないのでは?
 だとしたら合点が行くのだけれど、でも初恋だの言われた最初の段階で、好きを否定されたような気もする。もっと近づきたい、あなたを知りたい、という気持ちは確実にあって、意識はしてたけど恋愛したいわけじゃない、と言われたやつだ。
 好きっていうか、から始まって、恋愛したいとは思っていないと続いたせいで、そこに恋情はないのだと思い込んだ可能性もあるだろうか?
 だって、恋愛感情じゃない好きなのかと言う問いにも、明確にそうだとは返されていない。おっさん相手に恋愛とか無理、という意味に捉えてしまったけれど、年の差を理由にはぐらかされたのかも知れない。
 おとなしく口を閉じている相手の顔をじっと見つめる。随分と不安そうな顔をしていると思った。
 いつからこの不安そうな顔だっただろう。少なくとも、好きすぎという指摘をする前はこんな表情は見せていなかったと思う。ただ、俺を好きすぎという指摘のせいか、黙ってと強めに言ったせいかの判別がつかない。
「なぁ、俺のこと、好きなの? 俺と恋愛したいわけじゃなくても、恋はしてたりする?」
「そ、れはっ」
「初恋のようなもので、理想イメージが想定外に育ってた相手が俺、なんだろ」
「そ、です。だから、」
「好きすぎって思われるような態度になってても仕方ない?」
「はい」
 そこでホッとされると、そういうことにしておきたいんだな、という確信を持ってしまうわけだが。溢れそうになる苦笑を飲み込んで、先程の問いを繰り返した。
「じゃあ改めてもう一度聞くけど。恋愛する気はなくても、俺に恋愛感情、ある?」
 グッと言葉に詰まった段階で、答えは見えてしまった。そういうことはもっと早く言え。とは思ったが、多分意図的にはぐらかされていたのも事実で、恋愛したいわけじゃないのもきっと本気で、だから知られたくなかったんだろうとも思う。
 その気持ちがわからないとは言わないが。
「お前さぁ……」
「ごめんなさい」
 どうしたって呆れが強くにじみ出てしまう声に、相手はあっさり白旗を揚げる。
「いや、別に謝らなくていいんだけど。つか俺を体差し出せば嬉々として抱くだろうクズと思ってた最初はともかく、途中で自分から教える気にもならなかった? 隠し通したまま抱かれたかった?」
「そんなの、言えるわけ、ないでしょ」
「なんで?」
「あなたが、俺が思ってたより全然クズじゃなかったから、ですけど」
「全くわからん。てか俺がわかるように説明してくれ」
「恋愛感情あるって知られたら、更にあなたに負担掛けちゃうじゃないですか。気にしないでって言ったって、どうせ気にするでしょ、俺の気持ち。それに面倒くさいやつって思われて避けられるようになるのも嫌だし、自分のこと恋愛感情で好きだと思ってる相手が周りうろつくのを、あなたが素知らぬ顔で受け入れてくれるとまでは思えなかったし」
「そりゃまぁそうなんだけど。てか俺が、お前が俺に恋してようと一切気にしないっつったら、お前、まだ俺と一緒に酒飲み歩き行くの?」
「行っていいなら」
「そうか。でも気にしないって言えないわ」
「そういうぬか喜び、したくないんですけど」
 確かに出来もしないことを口にして、相手に期待をさせるべきではない。だって肯定が返るのだろうこともわかっていた。それでもわざわざ聞いて確かめたのは、肯定を聞いてから確かめたいことがあったからだ。

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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった19

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「それに、確かに会える時間増えたらいいな、くらいの気持ちでしたし、好きにしていいって言ったら嫌われてく、とか、飽きられやすい、なんてことは考えたりしませんでしたけど。でも、本当に好き勝手されて都合よく使われ続けるのは別にいいって、思ってると言うか、俺、そう言いませんでした?」
 やはり少し苛立たしげに告げられたそれを、覚えていないわけじゃないけれど。
「聞いた。本気かって確かめて、本気だって言われたのだって忘れたわけじゃないけど、でも、聞いてもわかんないって返した通り、今もなんでそんな風に思えるのかわかんないままだな」
「いや、だから、会える時間が増えたらいいな、って気持ちですけど」
 だってまた一緒に飲んでくれるとは言ったけど、たまにならって言われたし、次がいつかも決まってないし、と拗ねた様子で不満げに続いた言葉に、まぁ確かに明確に次の約束はしなかったなと、飲み屋でのやり取りを思い出す。今回は誕生日プレゼント代わりで奢ったが、じゃあ次回は割り勘となるかというときっとそんなことはなく、どうせ大半こちらが出すことになるのだろうと思ったせいだ。
 当初相手は自分の飲み代を出す気でいたから、次は割り勘なと言えばあっさり了承するだろうし、ケチだから奢りたくないだなんて言えば率先して金を出そうとするだろう事はわかっていたけれど、一回り以上も年下の、しかも従兄弟という間柄なら、こちらが金を出して当然という常識の中で生きている。少なくとも、双方の親や職場の同僚などはなんの疑問も持たないだろうし、逆に、一回り以上も年下の従兄弟と割り勘で安居酒屋を飲み歩くなんて事象は、軽蔑対象だと思う。
 相手に奢られたい気持ちが一切なかったと言うか、年上の従兄弟にたかってやろうという下心が見えなかった上に、純粋にまた一緒に飲み歩きたいと思っているようだったというか、安居酒屋のはしごを一緒に楽しんでくれたように見えたから、ケチのクズという話をした後ではあったが金の話は出さなかった。たまになら奢ってやってもいいな、と思ったのも事実だ。
 もし、夏休みで暇ならじゃあまた次の休みに付き合えよ、とでも言っていたら、ホテルに誘われるなんて展開はなかったのだろうか。だってまさか、そこまで自分と過ごす時間を欲しがっているなんて、思いもしなかった。
「うん、だから、そこは一応わかったつもりだけど。でも全然割に合わないだろっつうか、お前が差し出すものが多すぎだろって言ってんだけど」
「そんなことは、ない、です」
「なんでよ。俺とのセックス、気持ちよくして貰える前提でもなかったよな?」
 未経験者がセックスに夢見ていて、好き勝手抱かれても気持ちよくなれると思っている、とかならまだしも、自分は気持ちよくなくていいみたいな事を言ってもいるのだ。
「気持ちよくなんかならなくても、好きな人が抱いてくれて、その、俺で気持ちよくなってくれたらそれで充分、なんです、よ。そりゃ好きにしていいって言っても、そんな酷いことはされないだろう、とは思ったし、それはやっぱり信頼でしかないんですけど。でもその信頼は裏切られなかったし、それどころか、むしろ一緒に気持ちよくとか、初めてだから優しくとか、そんなのこっちが貰いすぎだし、もし俺のためにしてくれてるなら、割りに合わないのそっちだと思うんですけど」
 楽しくてやってるのか俺のためにやってるのか違いがよくわからなくて、と続いた言葉に、こちらが楽しいならいいという彼の訴えの意味が、少しだけ分かったような気がした。まぁそれがわかったことよりも、もっと根本的なところで、互いの認識が大きくずれてることが判明したことのほうが、どう考えても重要そうだけれど。

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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった18

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 彼が泣いている間に色々と考えすぎた。
 二十歳をこえて恋愛経験ほぼゼロらしいのは、実在しないと思っていた理想の男が、ある日突然、年を取った姿で現れたせいだ。一回り以上も年上のおっさんを意識し続けて、恋愛ができるような相手を見つけられないんじゃマズいと考えた可能性はある。
 クズだと聞いて誘う真似をしたのも、やたら献身的に抱かれようとするのも、理想を崩したい思惑があるんじゃないかと思い至った。
 好き勝手させた結果、本気で都合よく利用しようとするなら、理想イメージなんて早々に砕け散って丁度いいと考えたかも知れないし、自分勝手に抱かれるセックスを経験したら早々に飽きられても諦めが付くと思ったかも知れない。
 とはいえ、一番優先されているのが、今後もたまに一緒に飲みに行ったり出来る関係でいたい、という事を考えると、理想を崩したいだとか早く他の相手と恋愛が出来るようになりたい的な欲求があったとしても、そう強いものではないんだろう。一緒に過ごす時間を増やすことで、ゆっくりと自分の中で育てた理想と現実とに折り合いをつけて、初恋にケリを付ける気でいるならそれもいいと思う。
 だから正直に言えば、好き勝手させたら幻滅できそうだとか言われた方が、納得もするし安心もすると思う。献身的なのはわざとなのだと、言って欲しい気持ちがある。
 けれど、危なっかしいと口にした通り、そんな事は全く考えていない可能性だってあった。なんせ彼自身が告げた言葉からは、もっと会える時間が欲しいだけ、という結論にたどり着いてしまうからだ。
「それは、考えてなかった、です」
 ああほらやっぱり。
「けど、好き勝手する気、ないじゃないですか」
「え?」
「つけあがって好き勝手しないし、俺を都合よく利用する気もなければ、飽きてポイ捨てする気もないでしょ? あったら危なっかしいだの言って俺の心配してないで、とっくに好き勝手してますよ」
「それは、そうかもだけど。でも相手が俺じゃなかったらどうなってたか」
「俺が今、相手にしてるのはあなたで、あなた以外に好きにしていいとか言う予定、今の所カケラだってないんですけど」
 腕の中におとなしく収まり続けていた体が身動いで、少し距離を開けたあとで顔をあげる。少し下から見上げてくる顔は不満げと言うよりは、若干怒っているようだった。
「初恋相手に優しく抱かれようって時に、嫌われたくないと思うのなんて当たり前じゃないんですか。しかも相手は凄い年上で、準備の手伝いだって平気でしてくれるくらい色々経験してて、だからそんな相手に、どうしていいかわからないから好きにして下さいって言うは、多分相手への信頼です」
 実際その信頼は裏切られてないから愚行だなんて思わないと言い切られてしまって、どうにも面映い。そしてやっぱり、俺のこと好きすぎだろ、と思ってしまう。恋愛したいわけじゃないと、はっきり言い切られているのに。好きだと言われたら嬉しいより困ると、言われているのに。
 初恋相手というのだって、そのベースになっているのは確かに高校生ぐらいの自分かもしれないけれど、結局は相手が想像で作り上げた理想への想いだとわかっている。それを自分に向けられた想いだなどと、思ってはいけないのに。あまりに真っ直ぐで、勘違いしたくなる。

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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった17

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 相手だって最初から抱かれる気で押し掛けてきたはずがなく、どうせ酔ったついでの思いつきで誘っただけなんだろうし、気持ちの整理に時間がかかっても仕方がない。相手の想像した流れにはならなかったようだし、想定外の対応をされて困惑しても居るだろう。
 という気遣いは、どうやら伝わらなかった。
「このまま寝るって、抱かなくて、いいんですか?」
 気にするのそこ!? という驚きに、まだ抱かれたい気持ちでいるのかという驚きが重なって、すぐには言葉が出てこない。
「えと、セックス中断中だから、抱っこされてるわけじゃ……?」
「うん、ごめん。何を言われてるかさっぱりわからない」
「その、だから、このまま抱かないで終わったら、ホテル代も、俺の準備手伝ったのも、無駄になるし、中断する前、何聞いても抱くのやめるとは言わないって言ってたし、だから、腕の中で泣けっていうのも、セックス中断中だから、なんだろうって思ったっていうか、俺が、あなたがセックス楽しむためにしたい事はしていいみたいに言ったから、そんなのされたら俺が余計に泣いちゃうってわかってても、止めてくれなかった、のかと思って」
 どうやら彼の中では、セックスを続けるつもりでいたから抱っこで泣かせた、という認識になっているらしい。
「あーまぁ、確かにここで眠って終わりにしたら、無駄金に無駄手間掛けまくってヤれなかったって話にはなるけど、抱っこで泣かせたのはその方がセックス楽しいとかじゃなくて、目の前で泣かれて放っておけなかったのと、お前が、優しくされて嬉しくないわけないとか言ったせい」
「でも俺、俺が嬉しいかどうかなんて気にしなくていいって、言いました、よ」
「でもその後、自分勝手なセックスがしたいタイプのクズじゃねーぞって、教えたろーが」
「そ、ですけど。あんまり優しいのは困るっていうか、俺きっとまた泣いちゃうし、抱きながら泣かれるのが楽しいとかじゃなければ、止めて欲しい、です」
「俺が、抱いてる相手泣かせるのが好きだ、っつったら、諦めて泣くってこと?」
「諦めて、ではない、ですけど。多分」
 次から次へと、口を開くたびにわけがわからない事を言われている気しかしない。聞きたいのは泣いた原因で、今、優しくされたらまた泣くと言っていたから、そこをもうちょっと詳しく聞きたいとも思うのに。それでも気になりすぎて聞かずに居られなかった。
「諦めてじゃない、ってのは?」
「えー……と、泣いても楽しいって思われるだけで、面倒くさいなとか思われないならいいかなと」
「ああ。なんつうか、お前、ホント……」
 俺のこと好きすぎない、と言い掛けて口を閉じる。違った。好きなのは想像の中で育てた理想の男だった。
 だとしても、相変わらず献身的過ぎだとは思ってしまう。
「ほんと、なんですか?」
「危なっかしい」
 代わりに、彼が泣いている間考えていたことの一つを告げてみた。
「え?」
「嫌われたくないから相手の好きにしていい、なんてのは、俺はかなりの愚行だと思うって話」
「愚行?」
「何してもいいから嫌わないで、みたいなのが透けすぎてて、いっそ怖いっつうの」
「怖い……」
「お前がやってることは相手をつけあがらせるぞ。本当に好き勝手されて、都合よく使われ続けるか、飽きられて捨てられるか、少なくとも相手からの好意は確実に減っていくだろうから、言い換えれば確実に嫌われていく。お前、どこまで先のこと考えて好きにしていいって言ってんの」
「どこまで、って」
「だって相手の好きにさせたらまた誘って貰えるかもってのがお前の狙いだったんだろ。でもお前が一番優先してるの、俺と時々会える時間を持つことで、それって、俺がお前とのセックスを楽しめたら俺と会える時間増えるかもぐらいの感覚じゃないの? 好き勝手させたら、お前の相手しなくなるの早まるかもとか考えて無くない?」
 相手をしなくなるってのは一緒に飲み行ったりも全部含めて、お前に興味なくすって意味だぞと付け加える。彼が告げた色々から考えて、そんな事は望んでなさそうに思えるが確信はない。

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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった16

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 考えたってわかるわけがなかったし、どう行動するのが正解なのかも検討がつかない。そもそも正解なんてものがあるかも疑わしいが。
 まいったなと思いながらも、小さく身を丸めながら泣いているらしい相手に手をのばす。優しくされたら誤解するだの、優しくされたいわけじゃないだのなんだの言ってはいたけれど、優しくされたら嬉しくないわけがないなら、優しさを見せることを躊躇うのはなんだか馬鹿らしい。
 目の前で泣かれて放っておけるほど無関心でいられるなら、とっくに手を引いている。少なくとも、経験がないと知った段階で抱く気なんて失せているはずだ。洗腸を手伝うなどという真似までして、抱かれたいと訴える相手に応じようとはしないだろう。
「別に泣くなとは言わないけど、落ち着いたら理由、聞かせろよ」
 くしゃくしゃっと頭を撫でた後。
「あと、どうせ泣くなら、俺の腕の中で泣きな。せっかく一緒に居るんだから」
 ほらこっちと、膝を抱えている腕を引けば、驚いた様子で頭を上げた。赤く潤む目に笑いかけてやって、おいでと声を掛けながらも、こちらから腕を広げて抱きかかえてに行く。
「体勢キツイから体倒すよ」
 一応言葉にして伝えながらも、そこそこ強引に抱えた体ごとベッドの上に倒れ込んだ。
「なっ、ちょっ」
 慌てた様子ではあるが、痛いなどの声は上がってないので大丈夫だろう。慌てて身を起こそうとする様子もないから、驚きはしても、嫌がったり抵抗したりする気持ちもやはりないんだろう。
 体勢を整えるようにもぞりと動いて、改めて相手の頭を胸の中に抱え込んだ。横になったのは、身長差があまりないので身を起こしたままだとなかなかこういった体勢になるのが難しい、というのもある。
「いい子だからこのまま抱っこされとけ。で、放して欲しかったら、まず泣き止んで、それから理由な」
「こんな、の、っ、され、たらっ」
 苦しげに吐き出されてくる声ははっきりと泣き声で、続く涙をしゃくりあげるような息遣いからも、膝を抱えていた時より酷く泣いているのがわかる。間違いなく余計に泣かせてしまった。
 多少の罪悪感はあるが、慌てる気持ちも驚きもないので、想定内の反応とも言えそうだけれど。
「文句も後で聞いてやる。まず泣き止んでが難しいなら、まずは好きなだけ泣いていい」
「ず、るいっっ」
「またそれか。俺からすりゃお前も相当ズルいからお互い様だな」
 泣きながら喋ったら苦しいだろうに。
「いいからほら、少し黙って。泣くのに集中して、まずは泣ききれって」
 いい子だからと宥めるように背を軽く叩いてやれば、さすがに諦めたように口を閉ざす。とはいっても、言葉を発するのをやめただけで、泣き声は耳に届いている。
 どれくらいそうして抱きしめていただろう。時間とともにその泣き声が落ち着いていき、やがて静かになったけれど、こちらから話を促すことはしなかった。泣きつかれて寝てしまうなら、それでもいいと思っていた。
「起きて、ます?」
 やがて囁くような小さな声が聞こえてきた。泣き止んでも話しかけなかったから、逆にこちらが寝落ちたと思ったのかも知れない。
「起きてるよ」
「そ、ですか……」
「がっかりすんなよ。寝てて欲しかった?」
 落胆の滲む声に思わず苦笑する。
「泣いた理由、話す気になったなら聞くし、まだ話せないってなら待つつもりだけど、日を改めてくれってなら、このままお前抱っこして眠るのもありだな」
 こちらと定期的に会う時間を持つことが一番優先されているなら、気持ちの整理がついたら呼び出せと言っておけば、ちゃんと連絡してくるんじゃないかと思う。

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二十歳になった従兄弟を連れて酒を飲みに行くことになった15

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 しかし口に出さなくとも、そう思ってしまったことを隠せてはいなかったらしい。
「面倒くさいこと言ってるの、わかってますよ。でも俺だって、こんな面倒なことになるって思ってなかったというか、こんないろいろ追求されると思ってなかった。だって恋人居ないのも、風俗利用しないのも、枯れたからじゃなくてセックスにお金かけたくないだけなんですよね? やりたいだけのクズって、自分で言ってましたよね?」
 つまりやりたいだけのクズなら、余計なことは聞かずにさっさと突っ込めってことだろうか。なんてことを考えていたら。
「ちっともクズっぽくないし、結局なんかいろいろ優しいし、こんなの聞いてないです。ズルい」
 拗ねたみたいな口調でそんなことを言い出すので、どう考えても笑っていい場面ではなさそうなのに、思わず笑いそうになる。ズルいってなんだ。
「もしかして、クズ相手に好きにしていいですよ。都合のいい穴扱いしていいですよ。って体差し出したら、前戯もそこそこに突っ込まれて、相手だけ気持ちよくなって終わりになって、またやらせてくれって言われる、みたいな流れになるだろって思ってた?」
「まぁ、そうです。なのになんか、俺が抱かれたがってるから抱いてあげる、みたいになってるし。俺が経験ないせいなんでしょうけど、時間かけてゆっくり抱いてくれようとするし。こんなの、思ってたのとぜんぜん違う」
「まぁやりたいってだけの理由で恋人作ってたとか、やりたい時だけ会えればいいしなるべく金も使いたくないクズだとは言ったけど、自分勝手なセックスするクズだなんてことは言ってないしな」
「それは……まぁ、たしかに」
「もひとつ言っておくと、俺は恋人か恋人になる予定の相手しか抱いたことないぞ」
「えっ?」
「まぁ、恋人になれるつもりで抱いたけどそのまま疎遠になったって経験がないとは言わないが、少なくとも、やらせてくれんならやっとくかーってだけでホテル入ったのは初めてだし、それだって、相手が男だったのと、抱かれ慣れてんだろなって誤解してたせいだからな」
 あんな誘い方してきた相手が初めてだとか、そのくせ都合の良い穴になりたいだとか、こっちだってそんなの聞いてないとか、ホテル入ってからそんなこと言い出すのはズルいとか、ちょっと言ってやりたくはある。
「なのに、じゃあやるぞってなってから初めてだって知らされて、初恋だの理想イメージだの言われて、恋愛対象外だけど抱かれてみたいとか言われたら、やらせてくれんならやっとくかーのまま抱けるわけないっつーか、そんなに抱かれたいなら抱いてやるかってなるし、処女相手の優しいセックス心がけるだろ」
「ごめんなさい……」
 呟くみたいにそう告げた後、とうとう抱えた膝に顔を埋めてしまう。
「いや、別に謝らなくっていいけどさ。ってか泣いてんの?」
 さっき一度泣きそうだなとは思ったけれど、そのまま泣き出すことはなかったのに、このタイミングで泣き出すのかと驚いてしまう。拗ねたような口調でズルいとか言っていたから、気持ちはある程度持ち直したのだと思っていた。
 何が原因だろう。
 さすがにズルいとは言わなかったけれど、もしかしなくても、そんな気持ちが言葉ににじみ出ていただろうか。それを感じ取って泣いているんだろうか。それとも、こちらが考えも及ばない何かが理由で、泣き出したのだろうか。

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