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互いのオススメ本を読みあって、ランチタイムに感想を言い合って、時々セックスする。という関係に、どうやら落ち着いてしまった気配がする。
彼は自分を抱く相手を見てみたいという好奇心にも応じてくれたので、時々セックスの内の二回ほどは自分が抱かれる側だった。もちろん事前に自分である程度慣らす事はしたし、はっきり言えばそれなりにキモチイイ思いもした。多分おっさん本人が言うほど下手ではなかったのだと思う。
ただ、気持ちよくはしてもらったけれど、気持ちよくはさせられなかった。もっと端的に言えば、その二回とも、相手がイくことはなかった。
一番キツかったのは、相手は本当に好奇心を満たしてくれるだけなのだと、抱かれることでよりはっきりと突きつけられた事だった。言うなれば、たんたんと体が気持ちの良くなれる場所を的確に刺激されて、その刺激に正しく体が反応しただけだったからだ。
酷いことなどされなかったし、むしろ優しく気遣ってくれたとは思うのだけど、でも愛されているとも好かれているとも一切感じることが出来ないままただ抱かれるという行為は、元来アナルを男の性器で擦られたいなんて欲求が一切なかった人間にはなんとも虚しいばかりだった。
本当に、自分を抱いている彼の姿を見てみたいだけだったらしい。出来れば、自分を抱きながら欲情して気持ちよくなってくれる彼を見たかったが、それが見れるまでにどれだけこの虚しい行為を重ねなければならないのかと考えたら、さすがにこれ以上を求める気は失せた。
そんなわけで抱かれる側は二回で懲りたのだが、抱く側にしたって実のところそう行為の内容に大差はない。
せいぜい中を刺激されることに慣れた相手がイッてくれる場合もあるというだけで、疲れたからもう終わってと頼まれて自分だけが達して終わることも多かったし、そこに愛や恋があるわけでもない。抱かれるよりは相当マシと言うだけで、行為の後に虚しさがないわけでもなかった。
「今日は、抱かせてくれるんですか?」
午前中に読んでいた本の感想に一区切り付いたところで、午後はどうするのか聞いたら、相手はうーんと渋る声を上げる。気分じゃなければ今日はなしと即答してくる相手なので、この反応は珍しい。
「別に、無理にしたいとは言いませんけど」
「いや。抱かれるのが嫌ってことはないんだけど、でもまだ飽きないのかと思って? お前の好奇心を満たしてやるとは言ったけど、そろそろただの性欲処理になってないか? そうだってなら、さすがに他当たって欲しいんだけど」
善がってる顔どころか前回中イキまでしてみせたんだし、これ以上何を見たいのと言われて言葉に詰まった。こちらの技巧も上達しているのか、疲れたから終わってと頼まれる回数は減ってきているし、たしかに前回、後ろだけの刺激で相手をイかせる事に成功もした。
彼のそんな姿を見れたことに若干の驚きや多大な興奮はしたものの、でもそれは相手の体がこちらの与える刺激に反応した結果であることもわかっている。
「性欲処理のつもりは、ない、です」
「じゃあどんなつもり? 好奇心や探究心だってなら、これ以上の何が見たいのかはっきり言って。協力するから」
これ以上何が見たいのかの自覚はある。こんなただ体の快楽を追うだけの殺伐としたセックスではなく、もっと想いを分け合うような、互いに想いあった、心ごと愛し合うようなセックスを彼としてみたい。
そうは思うが、それを好奇心で試してしまうのはさすがに怖すぎた。そもそも本当には愛し合ってなど居ない状態で、そんなセックスが可能なのかわからない。そして多分間違いなく、今以上に彼への情が湧く。
そうだ、こんな殺伐としたセックスだって、結局情は湧いている。一回り以上年上のおっさんが自分の腕の中で善がる姿に、可愛いかもだなんて感情が欠片でも湧いてくること自体が、終わってるとしか言いようがない。認めないわけにいかない。
かといって、彼と本気で恋人の関係になりたいのかと言えば、正直無理だとしか思えなかった。主に、彼の感情面が。
この人はきっと、自分に恋なんてしてくれない。体はくれても心はくれない。それはセックスを重ねるごとに、強くなっていった思いだった。
でも言ってしまったほうがいいんだろうか。彼とどうなりたいかの結論は、彼の予想を裏切って、どうやら恋人になりたいだとか特別な一人になりたいだとか、そういったものになってしまった。
「もし俺が、恋人として付き合って下さい。って言ったら、どうします?」
「そういう試すような聞き方は気に入らない。この流れだと、一々説明するの面倒だから恋人になればセックスし放題。って思ってるように感じるぞ」
「違いますよ。ただ、俺がこれ以上に見たいものは、きっと恋人にならないと見れないだろうと思っただけで」
「ああ、恋人ごっこがしてみたいって話?」
「違います。ごっこじゃないです。恋人になりたい、という結論です」
「は?」
何の結論? と言いたげな顔に、あなたとどうなりたいかの結論が出たって話ですよと教えてあげれば、今度は呆然と嘘だろとこぼしている。
「嘘じゃないです。こんな結果になって残念でしたね」
「本当にな。好奇心だけにしときゃ良かったのに」
「恋人になるのは無理だって振りますか?」
「取り敢えずお前とのセックスはもうしない」
「未来永劫?」
「そこまでは言ってない。というかまず、もしお前がこんな俺相手でも恋人になりたいって言い出したら、言うつもりだった言葉が最初っからあるんだけど、それ、言っていいか?」
「どうぞ」
「ここに通うの止めろとは言わないし、俺を口説くなとも言わないけど、でもお前をそういう意味で好きになれる自信はあまりない」
「それは今も変わらない気持ちってことでいいんですよね?」
聞けば苦笑とともにそうだと返された。
「でも通い続けていいし、口説いてもいいし、自信がないだけで可能性がないわけではないと。口説き落とせたら、次は恋人らしいセックスもさせてくれるって事でいいですか?」
「そりゃそうなるけど、お前の俺への好奇心と探究心ってそこまでのもんなの?」
「好奇心舐めないで下さいって言いましたよね」
「ごめん、舐めてたわ。じゃあ期待させても悪いから先に言っとくけど、お前、俺の好みから相当外れてる」
「それ今言います? てかそういや教えてもらってませんでしたよね。あなたの好みのタイプってどんな男なんですか」
「年上」
「ちょっ! 一回り以上年下の相手に中イキまでさせられてて、今更、本当は年上が好きとか酷すぎません?」
年齢などという、どうあがいても変えられない部分の好みを、どうしろと言うのか。つまりさっさと諦めろと、当回しに言われているだけなんだろうか。
「好きって気持ちなんかなくてもセックスで善くなれるってのは散々実証してやったろ」
「ええ、ホント、そうですね」
「人の心なんてなかなかどうこう出来るもんじゃないんだよ。俺は俺で色々抱えてる。セックスする相手ってんじゃなく、恋人になるってのは心の話だからさ、しんどくなりすぎる前に、適当なところで自分から諦めろよ」
ああやっぱり諦めろということらしい。
一応わかりましたとは返したけれど、でも当分は諦められそうにない。さてまずは、どう口説いて行くのがいいだろうか。
午後は彼のオススメ本を読むのではなく、今の自分の助けになるような本を探してみようと思った。
<終>
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