おっさんの蔵書(目次)

キャラ名ありません。全7話。
半放置子だった視点の主が、雑多な蔵書目当てで近所宅に出入りしているうちに、家主でゲイだということを隠していない、一回り以上年上のおじさん相手に興味を持ってしまう話。
セックス描写は視点の主 ✕ おっさんのみですが、視点の主が抱かれる側になった事もあるとわかる描写が含まれています。
視点の主がおっさんへの恋愛感情を認める所までで、恋人という関係にはなっていません。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 大学卒業前に
2話 えっちな蔵書を読みに通う
3話 感想を言い合う楽しさ
4話 煽られて
5話 寝室で押し倒される(R-18)
6話 抱かれるのだと思ってた
7話 恋人になりたい

 
 
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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書6(終)

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 互いのオススメ本を読みあって、ランチタイムに感想を言い合って、時々セックスする。という関係に、どうやら落ち着いてしまった気配がする。
 彼は自分を抱く相手を見てみたいという好奇心にも応じてくれたので、時々セックスの内の二回ほどは自分が抱かれる側だった。もちろん事前に自分である程度慣らす事はしたし、はっきり言えばそれなりにキモチイイ思いもした。多分おっさん本人が言うほど下手ではなかったのだと思う。
 ただ、気持ちよくはしてもらったけれど、気持ちよくはさせられなかった。もっと端的に言えば、その二回とも、相手がイくことはなかった。
 一番キツかったのは、相手は本当に好奇心を満たしてくれるだけなのだと、抱かれることでよりはっきりと突きつけられた事だった。言うなれば、たんたんと体が気持ちの良くなれる場所を的確に刺激されて、その刺激に正しく体が反応しただけだったからだ。
 酷いことなどされなかったし、むしろ優しく気遣ってくれたとは思うのだけど、でも愛されているとも好かれているとも一切感じることが出来ないままただ抱かれるという行為は、元来アナルを男の性器で擦られたいなんて欲求が一切なかった人間にはなんとも虚しいばかりだった。
 本当に、自分を抱いている彼の姿を見てみたいだけだったらしい。出来れば、自分を抱きながら欲情して気持ちよくなってくれる彼を見たかったが、それが見れるまでにどれだけこの虚しい行為を重ねなければならないのかと考えたら、さすがにこれ以上を求める気は失せた。
 そんなわけで抱かれる側は二回で懲りたのだが、抱く側にしたって実のところそう行為の内容に大差はない。
 せいぜい中を刺激されることに慣れた相手がイッてくれる場合もあるというだけで、疲れたからもう終わってと頼まれて自分だけが達して終わることも多かったし、そこに愛や恋があるわけでもない。抱かれるよりは相当マシと言うだけで、行為の後に虚しさがないわけでもなかった。
「今日は、抱かせてくれるんですか?」
 午前中に読んでいた本の感想に一区切り付いたところで、午後はどうするのか聞いたら、相手はうーんと渋る声を上げる。気分じゃなければ今日はなしと即答してくる相手なので、この反応は珍しい。
「別に、無理にしたいとは言いませんけど」
「いや。抱かれるのが嫌ってことはないんだけど、でもまだ飽きないのかと思って? お前の好奇心を満たしてやるとは言ったけど、そろそろただの性欲処理になってないか? そうだってなら、さすがに他当たって欲しいんだけど」
 善がってる顔どころか前回中イキまでしてみせたんだし、これ以上何を見たいのと言われて言葉に詰まった。こちらの技巧も上達しているのか、疲れたから終わってと頼まれる回数は減ってきているし、たしかに前回、後ろだけの刺激で相手をイかせる事に成功もした。
 彼のそんな姿を見れたことに若干の驚きや多大な興奮はしたものの、でもそれは相手の体がこちらの与える刺激に反応した結果であることもわかっている。
「性欲処理のつもりは、ない、です」
「じゃあどんなつもり? 好奇心や探究心だってなら、これ以上の何が見たいのかはっきり言って。協力するから」
 これ以上何が見たいのかの自覚はある。こんなただ体の快楽を追うだけの殺伐としたセックスではなく、もっと想いを分け合うような、互いに想いあった、心ごと愛し合うようなセックスを彼としてみたい。
 そうは思うが、それを好奇心で試してしまうのはさすがに怖すぎた。そもそも本当には愛し合ってなど居ない状態で、そんなセックスが可能なのかわからない。そして多分間違いなく、今以上に彼への情が湧く。
 そうだ、こんな殺伐としたセックスだって、結局情は湧いている。一回り以上年上のおっさんが自分の腕の中で善がる姿に、可愛いかもだなんて感情が欠片でも湧いてくること自体が、終わってるとしか言いようがない。認めないわけにいかない。
 かといって、彼と本気で恋人の関係になりたいのかと言えば、正直無理だとしか思えなかった。主に、彼の感情面が。
 この人はきっと、自分に恋なんてしてくれない。体はくれても心はくれない。それはセックスを重ねるごとに、強くなっていった思いだった。
 でも言ってしまったほうがいいんだろうか。彼とどうなりたいかの結論は、彼の予想を裏切って、どうやら恋人になりたいだとか特別な一人になりたいだとか、そういったものになってしまった。
「もし俺が、恋人として付き合って下さい。って言ったら、どうします?」
「そういう試すような聞き方は気に入らない。この流れだと、一々説明するの面倒だから恋人になればセックスし放題。って思ってるように感じるぞ」
「違いますよ。ただ、俺がこれ以上に見たいものは、きっと恋人にならないと見れないだろうと思っただけで」
「ああ、恋人ごっこがしてみたいって話?」
「違います。ごっこじゃないです。恋人になりたい、という結論です」
「は?」
 何の結論? と言いたげな顔に、あなたとどうなりたいかの結論が出たって話ですよと教えてあげれば、今度は呆然と嘘だろとこぼしている。
「嘘じゃないです。こんな結果になって残念でしたね」
「本当にな。好奇心だけにしときゃ良かったのに」
「恋人になるのは無理だって振りますか?」
「取り敢えずお前とのセックスはもうしない」
「未来永劫?」
「そこまでは言ってない。というかまず、もしお前がこんな俺相手でも恋人になりたいって言い出したら、言うつもりだった言葉が最初っからあるんだけど、それ、言っていいか?」
「どうぞ」
「ここに通うの止めろとは言わないし、俺を口説くなとも言わないけど、でもお前をそういう意味で好きになれる自信はあまりない」
「それは今も変わらない気持ちってことでいいんですよね?」
 聞けば苦笑とともにそうだと返された。
「でも通い続けていいし、口説いてもいいし、自信がないだけで可能性がないわけではないと。口説き落とせたら、次は恋人らしいセックスもさせてくれるって事でいいですか?」
「そりゃそうなるけど、お前の俺への好奇心と探究心ってそこまでのもんなの?」
「好奇心舐めないで下さいって言いましたよね」
「ごめん、舐めてたわ。じゃあ期待させても悪いから先に言っとくけど、お前、俺の好みから相当外れてる」
「それ今言います? てかそういや教えてもらってませんでしたよね。あなたの好みのタイプってどんな男なんですか」
「年上」
「ちょっ! 一回り以上年下の相手に中イキまでさせられてて、今更、本当は年上が好きとか酷すぎません?」
 年齢などという、どうあがいても変えられない部分の好みを、どうしろと言うのか。つまりさっさと諦めろと、当回しに言われているだけなんだろうか。
「好きって気持ちなんかなくてもセックスで善くなれるってのは散々実証してやったろ」
「ええ、ホント、そうですね」
「人の心なんてなかなかどうこう出来るもんじゃないんだよ。俺は俺で色々抱えてる。セックスする相手ってんじゃなく、恋人になるってのは心の話だからさ、しんどくなりすぎる前に、適当なところで自分から諦めろよ」
 ああやっぱり諦めろということらしい。
 一応わかりましたとは返したけれど、でも当分は諦められそうにない。さてまずは、どう口説いて行くのがいいだろうか。
 午後は彼のオススメ本を読むのではなく、今の自分の助けになるような本を探してみようと思った。

<終>

 
 
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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書5

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 自分の上に跨り、なんとも苦しそうに喘ぐ相手に、なんで、と思う。
 すっかり自分の方が抱かれるのだと思っていたのに、いざ始めて見れば彼が抱かれる側だった。とはいっても、行為の主導権はずっと彼が握っている。今も、どうしてと思いながら何も出来ず、ただ苦しそうな顔を見上げているだけだった。
 ローションを垂らした手を彼自身の股間に差し込んだのを見た最初、あまりにビックリして何してるのと聞いたら、全く経験がないだろう男の子をいきなり抱いたり出来るわけないと返された。ローションが使いかけなのはオナニーに使用してたからとは言っていたが、まさか本当にアナニーしていたとは思わなかった。
 でもアナニーしていた割に、苦しそうなばっかりで、ちっとも気持ちよさそうじゃない。
 あまり躊躇いなく進められて、騎乗位で腰を落とす時も、キツそうにはしても怯んで受け入れられずに止まってしまうなんて瞬間はなく、ゆっくりとだが確実にずぶずぶと入ってしまったから、きっと未経験ではない。もしくは自己開発が相当進んでいる。けれど、決して慣れては居ないのだと思った。
「ねぇ……ホントは、タチなんじゃ、ないの?」
 不安になって聞いてしまった。
 確かに抱かれている彼も抱いている彼も両方見てみたいとは言ったし、実際どっちがいいという強い希望なんてなかったけれど、なんで自分が抱く側になっているのか正直良くわからない。こちらの好奇心に応じて気軽にいいよなんて言われたら、相手は行為を楽しむだけの余裕があると思うだろう。まさか、苦しそうに受け入れてくれる姿を見せられる羽目になるなんて思ってなかった。
 もし本当に、初めての相手をいきなり抱けないというのが理由だと言うなら、セックスはしたいとはっきり言ったあの時、したいならアナニーして慣らしてこいとでも言えば良かったのに。そんな言葉を掛けられたらきっと期待から、頑張って自己開発を進めるくらいは平気でしてしまうのに。
「ハハッ、どっちの経験が多いかって言ったら、これでも抱かれる方、なんだよ。ゲイだからってのと、セックスやり慣れてるのはイコールじゃ、ない」
「じゃあなんで、セックスさせてくれるなんて言ったの。俺を煽ったりしたの。したいとははっきり言ったけど、した後あなたとどうなりたいかの結論は出てないのに」
「お前の好奇心、少し満たしてやろうと思っただけかな。抱いても抱かれてもどうせそこまで良くしてはやれそうにないし、だから体が良くてズルズル離れられなくてなんて事にはならんだろうし、むしろやってみて幻滅すりゃそれはそれで好都合だとも思ったし?」
「あなたに幻滅してあなたへの興味が失せたら、確かにお互い良かったかもですよね。でも残念。あなたの苦しそうな顔ばっか見せられてる今の俺の気持ち、教えましょうか?」
 教えたいなら言っていいよと返されたので、少々ムッとしつつ、善がってる顔が見てみたくなりましたと言ってやる。
「なるほどね。好奇心もだけど探究心も強いっぽいのは厄介だな」
「厄介ですみませんねぇ」
 ムッとしたまま棒読みで返せば、なるべく好奇心満たしてやりたいけど、その好奇心と探求心の強さだと、次から次へとなりそうだと苦しげな顔のまま小さく笑われた。
「一回セックスしたら、それで引き下がるとでも思ってたんですか? 俺の好奇心舐めないで下さい。好奇心を満たしてやりたいなんて思ったこと、後悔しますよ」
「確かに、下手なのは即バレするだろうから、セックスへの興味を無くす可能性は考えてた。でも好奇心を舐めたりしてないし、後悔はしないよ」
「好奇心が満たされきるまで散々セックスしまくって、その結果、もう満足したからいいですってやり捨てされてもいいんですか?」
 そんな可能性があることを、下衆な好奇心を持っていることを、自覚している。セックスに限定はしないが、知りたいことを知ってしまったら、見たいものを見てしまったら、一回り以上も年上のおっさん相手に興味が続くかなんて自信がない。
「散々やりまくってから捨てられるって事への心配はないな」
「好奇心で始めた肉体関係でも、セックスしてればお互い情が湧きますか?」
 さっき読んでいた本にはそんな描写が入っていた。ただ彼らはヘタで気持ちよくないセックスではなく、ドロドロに感じてアンアン言いまくるセックスをしていたけれど。
「そうじゃなくて。やり捨てされても別にいいって事だよ」
「何、言ってんですか」
「お前の好奇心が満たされきって、未練なく俺から離れていくなら、それでいいと思ってる。ただセックスで善い思いしたことって殆ど無いし、善がり顔なんていつになったら見せてやれるかわからないんだよな。久々すぎて今日は思った以上にキツいから、慣れればもうちょい俺も感じるかもしれないけど」
 下手でゴメンなと言いながら止めていた動きを再開しようと腰を上げていくのを、腰を掴んでやめさせる。
「あの、自分で動きたいんですけど、ダメですか?」
「若さでガツガツやられたらさすがにシンドイんだけど。でも下手すぎてこんな動きじゃイケないってなら、好きにして、いいよ」
 どこかホッとした様子を見せるから、自分で動くのはやはり相当キツイのだろうと思った。
 ちゃんと優しくしますよとか、あんまり苦しくて辛そうだから見てられないだけですよとか、一人で頑張らないでくださいとか、そう言った言葉を掛けてあげれたら良かったのかもしれない。想いあった相手との行為なら、そう言った言葉が吐けるのかもしれない。
 でもこれは好奇心を満たすためと言明されていて、しかも先程の会話内容から察するに、相手は自分が彼の元を去ること前提で居るようだ。どうなりたいかの結論はまだ出てないと何度も言っているのに。恋人になりたいとかいっそ家族になりたいとか、それに近い結論は出ないものと思われていそうだった。
 結論が出ずに迷っていることが、彼からすれば既に結論なんだろうか?
「じゃあ、好きにさせて、貰います」
 吐き出した言葉のどこか冷たい響きを後悔しながら上体を起こし、逆に彼をベッドに押し倒す形に体位を変えた。

続きました→

 
 
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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書4

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 でも先に飯なと言われて、食べながら当初の望みどおり彼が読んでいた方の感想を言い合う。白熱したそれは食べ終わった後も暫く続いたけれど、意見も出尽くしたあたりでじゃあそろそろしようかと言われて、最初は意味がわからなかった。
「寝室移動する? それともそこのソファでいい?」
 重ねられた言葉に、すっかり意識の外へ追いやっていた先程の会話を思い出す。そうだ。さっき彼は、セックスさせてくれると言った。
 行為への期待からか心拍数はあがっていくのに、同じくらい不安が広がってもいる。
「怖気づいたならやんなくたっていいけど、次にいつ、その気になるかはわからないぞ?」
 本当にどっちでも良さそうな若干投げやりな態度と言葉に、ここで断ったら多分二度目はないと察知する。少なくとも、好奇心でやってみたいが通じるのは今日この時だけ、なんだろう。
「やります、よ」
 やった後、気持ちや関係がどうなるのかはわからないが、少なくとも今の段階では今後も通う気でいるので、リビングで致すのは気が引ける。というか今後ランチの度に意識する羽目になるのが目に見えている。
 それを口にはしなかったが、寝室に移動したいと言えば、あっさりじゃあおいでと席を立つ。
 連れて行かれた寝室には、シングルサイズのごくごく普通のベッドと、小さな本棚だけが置かれていた。本棚にはガラス扉が付いていて、そこに並んでいるのはきっととても大切にしている本たちなのだろうと思う。
 一冊一冊柄の違うブックカバーが掛けられていることなども、本部屋や仕事部屋に置かれた本との扱いの違いがあからさまだった。
「ここの本は触っちゃダメだよ」
 どうしたって気になってしまう本棚をジッと見つめていたら、クローゼットを開いて何やらごそごそやっていた相手が、本棚と自分との間に割って入りながら言った。
「あんな大事そうな本、許可もなく触りませんよ」
「知ってる。じゃなきゃ寝室に入れたりしない。でも一応な」
「それより、それ」
 すっごい食いつきだったからと苦笑する相手の手には、ローションとゴムの箱らしきものが握られている。しかもどちらも間違いなく使いかけだ。
「ああ、初めて見る?」
「最近は薬局にも平気で置いてますよ、ローション。ゴムはコンビニでだって買えます。じゃなくて、思いっきり使いかけですけど、まさか恋人居たり、するんですか?」
「恋人なんか居るはずないって思ってたか?」
「居るならダメでしょ、こんなの」
「真面目だね。あと目ざといな。使いかけなんか出して悪かったよ。気遣いが足らなかった。大丈夫。居ないよ、恋人なんて」
 一人でするのに使ってたと平然と続いた言葉に、カッと体が熱くなる。ただローションをペニスに垂らして擦るオナニーという可能性だってあるのに、目の前の男がベッドの上で自ら尻穴を弄っているアナニー姿を想像してしまった。
「当然そんなことを言うお前にも恋人は居ないって事でいいんだよな?」
「いません、よ」
「さすがに後ろは処女だと思うけど、童貞? 彼女いた事あったよな。高校生の頃」
「そんなの、覚えてたんですか」
「まぁ、あの頃既に、お前以外はほとんど本読みになんか来てなかったからな。お前もこのまま来なくなるのかなって思ってたところに、頻繁に顔出すようになったから印象に残ってる」
 最近立て続けに来るねと声をかけられて、彼女に振られたからだと答えたのを覚えている。
「あの時、ああそう、って随分軽く流されたから、そんなの忘れてるとばかり」
「あまり積極的に関わってなくても、うちに通ってた子どもたちが俺に報告してくれた事は、それなりに覚えてるよ」
「そう、なんだ」
「そう。で、俺の問いに関する返事はないの?」
「問い?」
「お前、童貞? 俺で童貞捨てさせてって思ってる?」
「童貞じゃない、です」
「そ、なら良かった」
 何が良いのか聞き返す前に腕を引かれてベッドに押し倒された。
「抱くんでも抱かれるんでも、どっちでもいいんだよな?」
 ああこれ、自分が抱かれる側になるのか。
 そう思いながら、見下ろしてくる相手を見つめ返して、はいと短く返した。

続きました→

 
 
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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書3

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 感想を聞いてみたい本を数冊持って訪れた翌週末、仕事部屋にはおっさんオススメのエロ本が数冊用意されていた。
 かつておっさんの本部屋には何人も子供が出入りしていたし、本を読まずに騒いでいれば容赦なく追い出されたけれど、それでもおとなしく本を読み続ける子供は少なく、多少のざわめきがあるのは普通だった。おっさんの本部屋以外でだって本は読むし、つまり、一人静かな環境でなければ本が読めない、なんてことは決して無い。
 なのに今、一緒に読むの言葉通り、自分の持ってきた本を同じ部屋の中で読んでいる相手が、先程から気になってたまらない。ただそこに居て、静かに本を読んでいるだけなのに。
 チラチラと盗み見ていたら、ふいに目があって、フッと小さく笑われた。それは意識されている事をわかっている顔だった。
 なんだか悔しいような気持ちで、手元の本にむりやり意識を集中する。時折見られているような気配もあったが、同じように顔を上げて確かめて、フッと笑ってやるような真似は出来なかった。
 どうにも気が散って仕方なく、一冊読み終えたところで二冊目に手を出すのは諦めて、まだ読み終えていない相手を存分に眺め見てやる。
「リビング行って、勝手にお茶でも飲んで待っててもいいけど?」
 暫く見ていたらやはり気づいたらしく、手元の本から視線も上げず、そんな言葉だけが飛んできた。
「見てたいです」
「ん、そう。じゃもうちょっと待ってて」
 気が散るから出て行けと言われるのかと思えば、あっさり見つめ続けることに許可が出る。驚きながらも、その言葉に甘えて眺め続けることおよそ十五分。読み終えたと言って本を閉じた相手が、リビング行こうと立ち上がった。
 昼には少し早いけどまぁいいかと言って出された本日のランチは、サンドイッチ用の薄切りパンと皿に乗った具材だった。それとお湯で溶くだけのスープ。
 食事はテレビ前のソファではなく、二人がけのテーブルセットの方で食べる事が多いのだが、小さな机の上はバターやジャムやマヨネーズなども並んでギチギチだ。
 どうやら今日の昼食は、パンに好きなものを挟んで食べろということらしい。
「手抜きが増してませんか?」
「文句あるなら家帰って食ってくれば?」
「すみません。頂きます」
「というか、こういう飯のがお前が楽しいかと思ったんだけど」
「え、なんでです?」
 彼が作ってくれる手料理を食べるという部分への楽しみが大幅に削られた状態だというのに、いったい何を楽しめばいいというのか。
「いつも暇そうにこっち気にしてるから、作る時間の短縮って意味が一つ。もう一つは、こういう食べ方にすると、相手の好みが見えてくるかと思って。お前の好奇心を刺激するかと思ったけど、そうでもないってなら、俺だけお前見て楽しむことになって悪ぃな」
「は? 俺見て楽しむんですか?」
「お前ほどあからさまじゃないけど、俺だってそれなりにお前を観察してるよ?」
「そ、なんです、か……?」
「うんそう。お前、自分に向かう好奇心には意外と鈍いのな」
 さっき本読んでるお前のこともかなり見てたよと言われたので、やっぱり見てたんだと思いながら、気配は感じてたと返す。
「顔上げないから、よっぽど真剣に本の世界入ってるのかと思ってた。で、どうだった?」
「どうだった、……ってのは」
「感想聞いてる」
「食いながらエロ本の感想を言えと?」
「さっきお前が読んでた本の中に、食欲減退するようなエグいエロシーンはなかったろ。あれ? ない、よな?」
 確かにごくごく普通のセックスをちょっと濃厚に描写していた程度の内容ではあったけれど、食事を開始する前に感想を聞かれるのは想定外だ。出来れば先に、彼の読んでいた本について互いの感想を存分に言い合いたい。ランチタイムをそれで過ごして、エロ本の方の感想は、食後にサラッとスルッと終わらせるつもりでいたのに。
「先に、あれをオススメにした理由、聞いかせてください」
「それ聞くってことは、気づいてんじゃないの?」
「じゃあやっぱり、他のオススメも好奇心でやっちゃう系?」
「まぁそうだね」
「煽ってんですか?」
 好きって気持ちもセックスしたいという欲求も、好奇心からだと前回はっきり認めてしまった。その上で、あえて好奇心から体の関係を持ってしまう話ばかり選んだというのなら、それはもうどう考えてもこちらを煽っているとしか言えないだろう。
「煽ってるよ」
 けれど平然と肯定を返されれば、一瞬次の言葉に詰まってしまう。
「で、も……好奇心でセックスした先、どんな結論になるか、わかりませんよ。スッキリして興味失って、それで終わるかも、しれないのに」
「まぁ現実なんてそんなもんかもだよな」
「じゃあ変に煽ってくんの止めて下さいよ」
「なんで?」
「俺の結論出るの、待ってんじゃなかったんですか?」
 こちらの気持ちがはっきりしないと彼だって動けない。というような事を、前回言っていたくせに。
「まぁ結論は出てなかったけど、でも色々はっきりしてただろ。好奇心で俺とセックスしたいってさ」
「じゃあさせてくれるんですか、好奇心で、セックス」
「いいよ」
 まっすぐに見つめてくる視線に、本気で数秒、体はもちろん思考すらも固まった。

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ゲイを公言するおっさんのエッチな蔵書2

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 レトルトソースを掛けただけっぽいパスタと、インスタントをお湯で溶いただけっぽいスープと、野菜もしっかり食えと言わんばかりに多目に盛られたサラダという昼食を食べながらの本日の話題は、さっきまで読んでいた大人向けじゃない方の本の感想だった。
 以前は本を追加したところでわざわざ教えてくれることはなかったけれど、最近は仕事部屋の方ばかりお邪魔しているせいか、今日は玄関先で顔を合わせた最初に、一応言っておくと言って普通の本部屋に本を追加したことを教えてくれた。
 だったらと向かった本部屋には、追加された本が五冊ほど、わかりやすく他の本とはわけるようにして入口付近の棚に並べられていた。前はこんなわかりやすく置いてはくれず、いつの間にか増えていたのに。
 たくさん並んだ本の中から、今まではなかった本を見つけだした時の嬉しさや楽しさを思うと少し残念ではあるけれど、すぐに新しい本が読めるようにとわけておいてくれた彼の気遣いをありがたいとも思った。
 二冊ほどを読み終えたところでほぼ昼時だったので、次の本へは手を出さずに彼をランチに誘ったのだが、そういう経緯だったので、読んでいた本とそれについての互いの感想を言い合う形になったのはごくごく自然の流れだろう。
 同じように感じた事に嬉しくなったり、全く違う感想や視点に驚いたり感心したり、感想を言い合うというのはあまりに楽しい時間だった。
「こういうの、もっと、したいかも」
「感想の出し合い?」
「うん、そう」
「別に構わないけど、昔読んだ本だとすぐには内容思い出せないからなぁ。しかもお前が最近読んでるのって仕事部屋に置いてるエロ本がメインだろーが。あーでもまぁ、エロ本挟んで互いのセックス感やら語っておくのも悪かねぇか?」
「ちょっ、待って。エロ本の感想を言いあいたいなんて言ってない」
「そうか? 俺はお前のエロ本への感想、気になるけど」
「ええっ!?」
 さらりと言われて驚いたら、なんでお前にあの部屋開放したかわかってる? と問われて、ぐっと言葉に詰まってしまった。
「別にうちの本が読みたいなら、社会人になったならもう来るなとか言うつもりなんて最初からなかったし、好きなだけ通い続けりゃいいと思ってるよ。でもそれは普通の本部屋の話な」
「あの部屋に入れてくれたのは、俺が、あなたを好き、みたいな話をしたから、でしょ」
「きっかけはまぁそれだけど、あの部屋を開放したのは、お前の気持ちがふわっふわしててはっきりしてないからだ。お前の気持ちがはっきりしないと、こっちも動きようがない。大人向けったって完全ヌキ目的なのもあれば、恋愛ベースなものもあるし、そういうの読んで俺とどういう関係になりたいのか、セックス含めて考えろって意味だよ」
 急かす気はないけど待ってないわけじゃないからなと言われて、気持ちを聞かずに居てくれる相手に甘えすぎていたと反省する。
「すみません。考えてないわけじゃ、ない、です」
「ならいいよ。待ってないわけじゃないとは言ったけど、正直、お前がこのままはっきりさせず、ダラダラと俺にボッタクられながら週末に一緒に昼飯食う関係に落ち着くなら、それはそれでありだとも思ってる」
 確かに、このままだとそんな関係に落ち着いてしまいそうな気配はある。しかし膨らむばかりの好奇心が、セックスを含む関係を提示された状態で、相手に触れないという選択をさせないだろうとも思う。
「今の関係に落ち着くつもりはないです。セックスは、したいです」
 言い切ったら少しばかり目を瞠られた。
「そうなんだ。そこはもうはっきりしてるんだ?」
「はい」
「それでその場合って、俺を抱きたいの? 俺に抱かれたいの?」
「そ、れは……」
 言い淀んでしまったら、ますます驚いたらしい。
「セックスしたいって気持ちははっきりしてるのに、抱きたいか抱かれたいかの自覚はまだなんだ?」
「いえ。正確には、どっちもしてみたい、です」
 正直に言ってみたら、あー……となんとも間延びした声を返された。
「好奇心旺盛だねぇ」
「知ってます」
「じゃあ、俺を好きって好奇心はどの辺がメインか自覚ある?」
「あなたを好きって気持ちが好奇心からだって、知ってたんですか?」
「ああ、やっぱそうなの。で、俺の何がお前の興味引くの? 俺がゲイだって隠してないから、男相手のセックス試してみたいって思った?」
「男相手のセックスを試したいというより、セックス中のあなたを見てみたいという好奇心ですかね。だから、抱かれてるあなたも、抱いてるあなたも、両方見たい。みたいな。でもって、その好奇心のメインがどこかを説明するのは、ちょっと、難しいです」
 好奇心からの好意だと自覚してからは、その好奇心の出処についてもそれなりに考えたけれど、この家に通い続けて積み重なったものが色々としか言いようがない。平気で家の中に他人を受け入れるのに、その間その相手を放置して仕事部屋に篭ってしまうという彼の態度がまず普通じゃない。というかこの家には普通じゃないことが溢れている。
「そんなにおかしなこと言いました?」
 わずかな動揺が見て取れるのと、ほんのりと赤くなったような気がする頬を見ながら、もしかして照れてます? とは聞けなかった。
「いや。でもちょっと想定外の返事が来た。そこまで色々はっきり自覚あって、でもまだ俺とどうなりたいかの結論はでてねぇの?」
「ないです。好奇心が満たされてしまった後、あなたとどうなりたいのかわかりません」
「頭でっかち。もしくは真面目バカ」
「は?」
「お前、ここ以外でも本は読む?」
 唐突に話が変わってわけがわからないと思いながら、そりゃ読みますよと返した。
「じゃ、今度お前のオススメだって本持ってきて。俺もお前と一緒に本読むわ。でもって昼飯食べながらそれぞれ読んだ本の感想出し合いしよう。あ、お前が読むのは仕事部屋の本な」
「ちょ、俺だけエロ本の感想言わせるんですか」
「そう思うならお前のオススメエロ本持ってこいよ」
 楽しみにしてると笑われたその笑顔が珍しくて、気づけばわかりましたと了承を返していた。

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