昔好きだった男が酔い潰れた話4

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 結局洗濯を自分が、カップ味噌汁を相手が用意するという事になり、洗濯物を簡単に仕分けた後スイッチを入れて戻れば、座卓の上には湯気を立てるカップみそ汁とおにぎり数個とが並んでいた。
「そういやお前、俺に何も聞かないの?」
 黙々とそれらを食べていたら、同じように黙々と朝食を消費していた相手が、ふと手を止めて口を開く。
「正直なんかお前の話聞くの怖い。……気もしてる」
 本音だった。
「でも何か困ってるなら、もし力になれることがあるなら、協力はしたいと思ってる」
 よっぽどのことがあったんだろと続けたら、相手ははじめ驚きに目を瞠り、それから困ったような照れくさそうな顔になって、ほんの少し俯き視線を落とす。
「あー……やっぱ好きなんだなぁ……」
 彼自身に言い聞かせてでも居るような小さな声ではあったが、聞き取れないほどの声量でもない。ただ、何が好きなのかはわからなかった。
「何が好きだって?」
「何って、そりゃ、お前のことがだよ」
「は?」
「うんまぁ、ものすごく今更な事言ってる自覚はちゃんとある」
 顔を上げた彼はとても真剣な表情をしていて、その言葉が嘘でも冗談でもないのだということは、否が応にもはっきりと伝わってくる。
「ところでお前、今、付き合ってる奴、いる?」
「い、ない……」
 好きだと言われて恋人の有無を聞かれるということは、つまり恋人になりたいという話なのだろうか。高校を卒業してそろそろ2桁年という今になって、あの時叶わなかった想いが叶うのか。
 そんなことを思ってドキドキと胸が高鳴ったのは一瞬だった。
「っそ。じゃ、ちょっと俺とセックスしてくんない?」
「はああああ?」
 なんでそうなる。意味がわからなすぎて声を張り上げてしまった。
「声でかいって」
「いやだってオカシイだろ。何がちょっとセックスだ。自分が何言ってるか、お前わかってんのか?」
「わかってるよ。当たり前だろ」
「お前、まだ昨日の酒残ってるだろう」
「いやいやいや。酔ってないって」
「お前がなんか色々オカシくなってるのは充分伝わってるけど、酔ってないなら、せめて俺がわかるように順序良く話してくれ」
「お前が好きな事に気づいたので、お前とセックスがしたいです」
「おいこら。それは話す気ないって事でいいのか?」
 少し低めの声で威圧的に告げれば、相手は観念したように小さく息を吐き出した。
「酔いつぶれたの失敗だったって言ったろ。本当は、酔った振りでお前のキス奪えたらくらいのつもりだった。さすがにあの店でそこまで出来る雰囲気なかったし、定番なら誰か潰れたらカラオケかファミレス行きだろ。どうにかカラオケに持ち込んで、人数減るから今度こそお前の隣キープしようって計画だったんだよ」
「その計画にも色々突っ込みどころはあるが、取り敢えず、それで本気で潰れて俺の家に泊まりになった結果、色々すっとばしてセックスしようになる理由を聞いてるんだが?」
「色々すっとばしてはいないよね。酒のせいにして、お前にベタベタ絡んで甘えて、キスして」
「ちょっとまて。キスしたのか?」
「え? したよね?」
「知らん」
「ああ、そう。もう寝た後だったかな。じゃあ勝手に奪ってゴメン?」
「軽いな」
「そこそんなに重要な話じゃないから」
 寝てる間にキスされたかどうかなど、今現在の話の内容的には確かに瑣末な事ではある。知らない間にキスされていただなんて事実に、もやもやとする気持ちの解明も持って行き場もないまま、そこにこだわり続けるわけにもいかずに話の先を促すしかなかった。
「まぁそんなわけで、場所が違うけどやろうと思ってたことは全部した。お前が好きだって気持ちも確信した。セックスに関しては、お前に俺への気持ちは残ってないって思ってたけど、もしかしてそうでもないのかなって思ったら、ちょっと欲が出ただけ」
 無理ならいいよとあっさり今までの言葉を翻して、彼は朝食の残りを口にする。釣られて自分も朝食の続きへ戻ったが、頭のなかは彼の言葉をぐるぐると反芻していた。
「なぁ」
 結局全てを食べきってから、どうしても納得がいかずに声をかける。
「何?」
「セックスしようじゃなく、恋人になろう、という選択肢はなかったのか?」
「ないね」
「どうして」
「今更過ぎる自覚はあるって言ったろ。お前の恋人になりたいなんて言える立場にない」
「いきなりセックスしようと言われるより、恋人になってくれと言われたほうが、まだ受け入れやすいんだが?」
「そうだね。でも言わない」
「なぜ?」
 問いかけを繰り返せば、困った様子で言いよどむ。
「本当は、何があった?」
 確信があったわけではない。けれどそう告げた時の驚いた様子と、なんだか泣きそうに歪んだ顔に、すぐさまそれは確信に変わった。

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昔好きだった男が酔い潰れた話3

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 目覚めると隣りにいたはずの男の姿は既になかった。さして広くもない1K間取りのこの家の中で、完全に気配を消すのは難しい。シンと静まり返った部屋の空気に、どうやら帰ったらしいと結論づけた。
 まさか連れ帰ったことそのものが夢だなんてことはないはずだ。夢うつつに何やら返事をした記憶は朧げにあるから、多分、それが帰るという相手へ返した言葉だったのだろう。
 本当に、あれは一体何だったのか。彼に一体何があったのか。
 気にはなるが、改めて呼び出して問いただすかというと、そんな真似はきっとしない。
 昨夜は自分自身もそれなりに酔っていたから、感覚全てが鈍っていたと思う。それで良かったと思うのは、目覚めてスッキリとした思考の中、昨夜のいろいろを思い返して今更ドキドキしているからだ。
 どうせまた最低でも半年は会う機会なんてないのだから、自分から彼に近づいて、せっかく鎮火した想いにわざわざ燃料を投下してやる必要はない。むしろ次に会う時までに、ざわついてしまった気持ちを鎮める事が重要だ。
 昨日のことはシャワーでも浴びてさっぱりして忘れてしまおう。
 なのに、シャワーを浴びて部屋に戻ったら、先程まで居なかったはずの、というか帰宅したはずの男が、何故かベッドに腰掛けていた。
「あ、……ええぇっっ!?」
「なにそんな驚いてんだ」
「いやだって、お前、帰ったんじゃ……?」
「コンビニ行ってただけだって」
 苦笑とともに指さされた先を視線でたどれば、座卓の上に見慣れたコンビニの袋が置かれている。中身はどうやらおにぎりとカップ味噌汁らしく、これは多分、朝食を買ってきたということなんだろう。
「声かけたし、お前はちゃんと返事もしたけど、……どうやら覚えてないっぽいな」
「なんか返事したのは、なんとなく、覚えてる」
「まぁいいや。俺もシャワー借りていいよな? タオル貸して。後お前、今日の予定は?」
「タオルは脱衣所の脇の棚に重ねてあるの使っていい。後、今日は特に予定ない。あえて言うなら部屋の掃除と洗濯と買い出し」
「おっけ。わかった。朝飯は俺がシャワー出たら一緒に食おう」
 先に食うなよと釘を差して、相手は今しがた自分が使用していたバスルームへと消えていく。ガサゴソと動き回る気配の後、カタンと風呂場の戸が閉まりシャワーの流れる水音が聞こえてから、ようやく金縛りが解けたようにその場にへたりこんだ。
「ええええぇぇ…………」
 思わず漏らす吐息のような声は、自分でもわかるほど戸惑いに満ちている。
 反射的に対応してしまったが、よく会話が成立したなと思うくらいには動揺していた。
 そうこうしているうちに、あっさりシャワーを終えて戻ってきた相手は、部屋の中で座り込んでいる自分に怪訝な顔をしてみせたが、こちらはそれ以上にオカシナ顔を見せただろう。なぜなら相手は、下着一枚という出で立ちだったからだ。
「ちょ、おまっ、服っ」
「あーうん。下着はあるんだけどさ、なんか着るもの貸して?」
 ようするにコンビニには朝飯を買いに行ったというより、替えの下着を買いに行っていたということなのかもしれない。
「な、なんで……?」
「洗濯すんなら俺の服も一緒に洗っちゃおうと思って? 天気いいし夕方には乾くだろ」
 夕方まで居続ける気かとか、洗濯までさせる気かとも思いつつ、それでも嫌だとは口に出来なかった。昨日着てた服を着てさっさと帰ってしまえと思う気持ちはゼロではないが、やはり彼をこのまま帰したくない気持ちの方が強いらしいのだから、なんだかんだ一度は男であることをこえて告白するほどに惚れこんだ想いは根が深い。
「なんかズボン落ちそう」
 ラフな上下セットの部屋着を渡せば、小柄な彼にはやはり大きすぎるようだった。袖と裾とはまくればいいが、ウエストの差はどうしようもない。
「仕方ないだろ。不安なら自分のベルトでも巻いとけよ」
「あとお前の匂いがする」
「やめろ」
「まぁいいや。取り敢えず朝飯食おう。味噌汁用にお湯沸かしていい?」
「俺がやるからお前座っとけ」
 その格好で部屋の中をウロウロされる方がなんだか色々と心臓に悪い気配が濃厚だ。なのに、じゃあ洗濯機回してくると言って、結局じっとおとなしく座っててはくれないらしい。

続きました→

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話2

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 正直自分も疲れきっている。できればこのまま、その隣に横になって眠ってしまいたい。
 しかしいくら相手が小柄でも、シングルベッドに男二人で身を寄せあって眠るというのはどうなんだ。しかもそこに寝ているのは、過去に言い逃れできないほど明確に告白した相手でもある。
 そんなことをぐるぐると考えたまま、結局ベッド脇でベッドを見下ろし動けずにいたら、相手が呻いてどうやら「みず」と呟いた。のどが渇いているんだろう。
「水道水か炭酸水、どっちがいい?」
 聞いても無駄かと思いつつ一応声をかけてみた。返事がないようなら、水道水にせめて氷くらいは落としてやろう。なんてことを思いつつ少し待ってみたが、やはり返事は唸るような声だけだ。
 水をくんで戻ってみれば、水を頼んだことすら意識の外でどうせ寝ているんだろうと思っていた相手が、起き上がりベッドに腰をかけていたから驚いた。
「ほら、水。持ってきたぞ」
「ん、ああ、ありがと」
 内心の驚きを隠して手にしたグラスを差し出せば、すぐに一息に飲みきって、氷だけになったグラスを返される。
「もっと飲むか?」
「いや、いい」
「珍しいな。お前が潰れるのは」
「半分くらいは、わざとだけどな」
「は?」
「部長だったお前は、なんだかんだの責任感を今も引きずって、潰れた酔っぱらいに付き合って残るだろ。まさか、家に連れ帰るとまでは思わなかったけど」
「成り行きで仕方なくだ。てか、俺に何かあるのか?」
「うん。ただ、少し酔いすぎた。酔いつぶれる振りのつもりが、本当に潰れたのは失敗だな」
「俺にもわかるように話してくれ」
「うん、ムリ。眠い」
 クソ酔っぱらいが。とは思ったけれど、それを口に出したりはしない。代わりに眠いなら寝ろよと促した。
 わけのわからない話で混乱させられるより、さっさと眠ってくれたほうがありがたい。
「お前は? どーすんの?」
「どーするって?」
「だってこれ、お前のベッドだろ?」
 そう言いながらも、相手はさっさとベッドに横になり、今度はしっかり布団の中に潜り込んでいる。
「客用の布団とか、なさそうな暮らしっぽい」
「俺がないよっつったら、お前、俺と一緒に寝ることになるぞ?」
 そんなの嫌だろというつもりで口にした言葉に、けれど相手はおかしそうに笑い出す。
「酔っぱらいが。俺はいいからさっさと寝ろって」
「一緒に寝よう。って誘ったつもりなんだけど?」
「はぁ?」
「おいでよ。ていうか来て」
「お前やっぱなんか今日だいぶオカシイぞ?」
「知ってる。オカシイんだ、俺。だからお前に甘えたいみたい」
 優しくしてよと臆面もなく口にして、ほら早くと言いたげに布団の端を持ち上げて誘う。
「このクソ酔っぱらい。少し待っとけ」
 今度は躊躇いなく口にしてから回れ右で背を向けた。
 手の中のグラスを流し台に置き、簡単に寝る支度を済ませてから戻れば、相手は予想通り目を閉じて、どうやら眠っているらしい。
 どこか安堵しつつ明かりを落とし、自分が眠れるようにと空けられたスペースへと横になった。当たり前にめちゃくちゃ狭いが、硬い床に転がって震えながら眠るよりは断然マシだ。
 さっさと眠ってしまおうと目を閉じたが、やはりそう簡単には眠らせてもらえないらしい。こちらの気配に気づいて意識が浮上したらしく、相手の腕が身体に回され、ぐっと力が入ったかと思うと相手の身体が密着してくる。
「うわ、よせって」
 引き剥がそうと相手の体を押してみるものの、意外と強い力でしがみつかれて、早々に抵抗するのは諦めた。なんだかもう、本当に疲れていた。
「ズルイ」
「何がだよ。てかお前は寝てろ」
「自分だけ着替えて歯磨きまでしてる」
「ここは俺んちだからな」
「俺もシャワーとかしたいのに」
「俺だってシャワーまではしてねぇよ。明日でいいだろ。眠いんだよ。寝かせろって」
「うん。寝ていいよ」
 お前に抱きつかれたままで? と言いたい気持ちをどうにかこらえた。どうせ言ったって肯定が返るだろうとしか思えない。
「そうかよ。じゃあ、おやすみ」
 会話は終わりとばかりに告げれば、おやすみと思いのほか柔らかな声が返り、やっと静かになったと思った時にはどうやら眠りに落ちていた。

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昔好きだった男が酔い潰れた話1

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 高校卒業後、頻度も人数も徐々に減りつつあったが、それでも年に1回か2回、部活の仲間と飲みに行く。互いの近況報告がメインのようでいて、単に気心が知れた奴らと気楽に飲みたいだけでもあった。
 参加メンバーはほぼ固定ではあったが、取り敢えず連絡先がわかっている奴らにまとめて日程を送り、参加できそうならどうぞというスタイルがもう長いこと続いている。だからその日、彼の姿がそこにあってもなんらオカシナ事はなかった。
 どきりと心臓がはねたのは一瞬で、こっそり深呼吸一つで落ち着ける程度には、想いはもう過去のものになっている。会わずにいた数年という年月は偉大だった。
 珍しいねと声を掛けつつ会話の和の中に入っていけば、今回彼を誘うことに成功したのだろう奴が、まるで自分の功績とでも言いたげに胸を張った。忙しくてと最近は滅多に参加しなくなってしまったが、毎度それを惜しむ声がちょこちょこと上がるくらい、影の部長と呼ばれていた彼を慕う部員は多かった。
 自分ももちろんその一人だったし、部長職に就きながらも頼りなく、そうして影の部長などと呼ばれるほど彼が色々な場面で、雑多な面倒事を引き受けてくれていたことは本当に感謝していた。感謝の気持ちが暴走して、彼が部に尽くしてくれていたのを勘違いして、別の大学進学が寂しくて、卒業式後に告白なんて真似をしてしまったのは相当の黒歴史ではあったけれど、その後自分たちの関係が大きく変わる事もなかった。
 たまたまというか必然的にと言うか、何人かが同じ大学に進学したというのも大きくて、卒業直後数年はやはり頻繁に集まっていたし、参加人数も多かったから、部長と影の部長とがギクシャクしていたら、周りに気を使わせていただろうことはわかる。だから注意深く、彼がそう誘導していたのかもしれないとは今になって思うけれど、それに気づいたとしてもそこにあるのは感謝だけで、それが暴走することも勘違いすることも、もうさすがになかった。
 今でも告白した直後の呆然とした顔も、それが困ったように歪む様も、それから意を決したようにゴメン無理と告げた時の顔も、若干美化してる可能性もなくはないが覚えている。けれどそれを思い出しても、恥ずかしさにのたうち回ることも、胸が痛くて泣きそうになることもなくなった。
 何かあったのかな、というのは飲み会終盤になってから気づいた。久々に顔を出した彼の隣は入れ代わり立ち代わりでコロコロと人が変わっていたが、最初に少し話した後は別の場所で別の相手と話していたから気づかなかった。こうして同じ空間にいても、以前より相手を意識しないでいられる事が嬉しかったというのもあって、別の相手との話題にあえて集中していたともいう。
 何気ない風を装うことに慣れてしまって、気持ちが十分に消化された今も、なんとなく距離を置いてしまうのは仕方がない。それが今の自分達の距離感なのだと納得してもいた。
 ふっと湧いてしまった違和感に、隣で話していた相手の話題への返答を忘れて、ほぼ対角線上に座っている彼を見つめる。
「どうした?」
「いや……てかアイツ、今日どんだけ飲んでる?」
「アイツ?」
 言いながら視線の先を追った隣の相手は、すぐにそれが誰を指しているかわかったようだった。
「何? なんかオカシイ?」
 ということは、隣の相手にはこの違和感はないのだろう。だとしたら勘違いということも大いにあるだろう。なんせ自分もそこそこ酔っている。
「どうかな。気のせいかもしれん」
「気になるなら向こう行って大丈夫か聞いてくれば? むしろこっからでも聞いちゃえば?」
「こっから?」
 どういう意味かと思ったその瞬間には、隣の相手が「おーい」と彼の名を呼んでいた。
「お前今日、どんくらい飲んだ~? けっこ酔ってるぅ~?」
「うわばかっ。声デカイ。てかお前が酔っ払ってんだろ」
 慌てて隣の相手の口を、横から抱き寄せるように腕を回して塞いでしまった。
「んっんーんむーっ」
「何言ってるかわからん」
「だってー酔ってるしー?」
 肘でこづかれ手を離してやれば、相手はケラケラと笑う。
「わかってる。でも煩いからでかい声出すなよ」
 さーせーんと言いながらも更に酒の入ったグラスに口をつける様子に呆れつつ、そんな彼と自分自身に烏龍茶を注文したりしていたせいで、結局彼の反応は見逃してしまった。
 そうこうしているうちに飲み会はお開きとなったが、その中で珍しく潰れている奴が居る。彼だった。
 さすがにこの歳になるとそうそう潰れる奴は出ないけれど、若い頃は気心知れた気の緩みからか、酷いことになる場合もそこそこの頻度であった。自分ももちろん飲み過ぎて潰れた経験があるし、持ちつ持たれつの関係の中、それは自分の許容量を知る上でいい経験にもなっていた。
 だから昔みたいに、カラオケかファミレスにでも連れ込んで寝かせて置くかという話にはなったのだが、やはりそろそろ徹夜は堪える年齢だ。いい年したおっさん連中が、ファミレスやらカラオケやらで夜明かしするのも恥ずかしいという意見もあった。
 そんな中、一駅隣に部屋を借りている自分が、タクシーで連れ帰ってやればという話になり、タクシー代のカンパまで始まってしまった。しっかり集まったタクシー代を渡されてしまえば、さすがに嫌だとは言いがたい。
 彼は男としては小柄な方ではあったし、逆に自分は180近い体格だったので、一人でも大丈夫だと思われたようだ。いくら気持ちが消化済みとはいえ、いろいろな意味で大丈夫じゃなさそうだったけれど、大丈夫じゃない理由なんて言えるはずもない。
 結果、どうにか連れ帰った彼を取り敢えずベッドの上に転がして、途方に暮れることになった。

続きました→

 
 
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兄に欲情しています

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 少し年の離れた姉が家を出ると言い出したのは、高校1年の夏休みに差し掛かる頃だった。2つ上の兄が大学を受験するにあたって、2人の弟をいつまでも同じ部屋で生活させるのは可哀想だという配慮らしい。
 余計なことをと思ってしまうのは、もう何年も前から、兄と同じ部屋で過ごすことに喜びを見出していたからだ。
 もちろん、不便なことだってたくさんある。姉だけ一人部屋なのがずるいと言って騒いだことも何度だってある。
 転機は中学に上がった頃だったと思う。夜中にふと目を覚ましたら、二段ベッドの下の段から荒い息遣いが聞こえてきた。最初熱でも出して魘されているのかと思ったが、寝ぼけ半分に「どーしたアニキ?」と声をかけたら、その息がピタリと止まった。
 オカシイと思いつつも眠さに負けてまたすぐ寝入ってしまったが、次にその状況に出くわした時にはわかってしまった。自分が眠る下の空間で、兄がオナニーしている。
 それからは注意深く、寝たふりをしつつ兄の様子を探るようになった。おかげで随分と寝不足にもなったが、自分よりも相当キッチリとした性格の兄は、オナるスケジュールも割合わかりやすかった。なぜそんなものを探ってしまうのか、当時はもちろんわからなかったが、今は納得できている。
 盗み聞いている罪悪感と背徳感の中、自分自身もイヤラシイ気分になってしまって、最初は随分と戸惑いもした。兄はイッた後でだいたい一度部屋を抜けだすので、その間に自分も抜くようになったのは、兄が時折、弟である自分の名を呼んでいることに気づいてからだろうか。オナる兄をオカズにするなんてと、必死になって耐えることも、翌朝シャワーでごまかしつつ別のオカズで抜くことも、なんだか馬鹿らしくなってしまった。
 自分は兄に欲情している。兄の抑えた息遣いに合わせるように、自分自身もひっそりとナニを扱く。それはたまらない快感だった。
 兄に気づかれたって構わないと思いつつも、知っていると告げずに続けるのは、その背徳感が快感の一部であることを知っているからでもある。
 兄が既に気づいている可能性だってないわけじゃない。兄のように証拠隠滅なんて図る気もなく、精液を吸ったティッシュは丸めてベッドの隅に置きっぱなしだし、翌朝普通にゴミ箱に捨てている。
 兄は何も言わない。気づいていて咎めることもせず、オナニー中にこちらの名前を呼び続けているというなら、これはもうどう考えたって同罪だ。
 姉が家を出ることと、それによって自分たち一人一人に部屋が与えられる事。それはそんな夜の終わりを意味している。
 迷ったのは数日だった。このまま何もせず、何も言わずに部屋を分けてしまえば、本当に何もなかったことになるだろう。
 兄がどうしたいのかは正直わからなったけれど、兄から何か行動を起こすことは、兄の性格的に考えられない。だとしたら、動くのは自分だ。
 決行日は姉が家を出てしまう前日の夜にした。明日姉の引っ越しが終わると同時に、空いた部屋に自分の荷物を移すことになっているから、実質2人で過ごす最後の夜だ。
 多分きっと、兄は今夜もオナるだろう。いつも通りあっさり寝入ったふりで暫く待てば、ゴソゴソと動く気配の後、小さく息を飲む声が聞こえてくる。やがて飲み込みきれずに熱い息が吐き出されてくるのだが、その前にベッドから身を乗り出して思いっきり下段を覗き込んだ。
 ギシリとベッドの柵がきしみ、暗闇に慣れた目にも、兄がぎくりと強張るのがわかる。
「なぁアニキ、そっち行っていい?」
「……えっ?」
 戸惑いの音が漏れる頃には、既にハシゴを降りていた。
「え、ちょっと、なに……」
「わかんねぇの?」
 言いながら兄のベッドに乗り上げる。慌ててずりずりと後ずさるが、そこにあるのは部屋の壁で、逃げ場なんてどこにもないのは兄だってわかりきっているだろう。
 手を伸ばして兄の股間を握った。正確には、パジャマのズボンに突っ込まれたままの兄の手を握った。
「んぁっ」
 兄の手の上から、ぐいぐいと力強く揉み込んでやれば、予想以上に可愛い声が上がる。
「一緒にきもちぃことしよ。って言ってんの」
 ぐっと顔を近づけて、間近に兄の顔を見つめた。
「俺が知ってるって、アニキも知ってたよね? このまま部屋分けて、それで終わりにしたかった?」
「それは……」
 言いながらもそっと顔をそむけようとするから、許さないとばかりにその顎を掴んで固定する。
「言葉にごしたアニキの負けね。もうわかっちゃったから、逃さないよ」
 にっこり笑ってから唇を塞いだ。閉じられた唇の間を舌先でつつけば、諦めの吐息とともに緩く開かれていく。遠慮無く口内を舐ってやれば、んっ、んっと甘く鼻を鳴らす。
 待たれていた。兄はずっと自分にこうされたかったのだ。触れ合う舌にそう確信する。そして自分も、ずっとこうしたかったのだと、改めて感じて胸が熱くなった。

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ショタ/弟に欲情しています

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 悶々として眠れない夜、何度も寝返りを打っていたら、上方でドカッと壁を殴るような音がした。二段ベッドの上側で眠る弟が、どうやらまた側面の壁に腕か足かをぶち当てたようだ。
 痛っ、という短い悲鳴一つ漏れてこないので、きっとぐっすり眠っている。それでも暫く息を潜めて、上の様子を探った。
 自分が眠れない原因を、まだ幼い弟に知られてはならない。
 耳を澄ますとイビキとまではいかない寝息が聞こえてくる。それを確認してから、ゆっくりとパジャマのズボンの中に手を入れた。
「……は、ぁ」
 パンツの上から股間を撫でただけで、熱い息がこぼれ出す。そこは既に硬さを持ち始めているが、撫で続けるともっとオチンチンが熱く硬くなっていくのだ。
 初めての射精を精通と呼ぶそうだが、学校で習った後だったので、先日初めて吐き出したもので手を汚してしまった時も、そこまで驚きはしなかった。自分のしている事が、オナニーと呼ばれる行為だということも、もちろん知っている。
 身体が大人になっていく過程で、それはおかしなことじゃない。当たり前に皆している。実際、どうやるとキモチイイかなんて話を平気で口に出すクラスメイトだっている。
 ただ、自分が普通じゃないと思うのは、オチンチンを弄りながら、弟の事を考えてしまうからだ。
 2つ下の弟は、まだ精通もオナニーも単語すら知らないだろう。なのにその弟に、オチンチンを弄られる事を想像している。硬くなったものを握らせて、上下に擦らせ、時には舐めさせ、最後吐き出したものが好奇心で興奮しているだろう弟の顔に掛かる一連のイメージが、自分にとってのオカズだった。
 なんでそんな事を考えてしまうのかわからない。なんとなく聞こえてしまったり、たまに引き込まれてガッツリ聞かされてしまうクラスメイトの猥談では、オカズとして使われるのはちょっとエッチな漫画だったりグラビアだったりが主で、対象は必ず女性だった。
 性の対象が同姓であってもおかしくはない。というような事は授業で聞いたが、少なくとも自分の周りに男をオカズにしたと口にするヤツはいない。ましてやそれが実の弟だなんて、自分はきっと普通じゃない。
 これは絶対に誰にも知られてはいけない、自分だけの秘密だった。
「ん、……んっ……」
 声が漏れてしまわないように、引き寄せた布団の端を噛み締めながら、必死で手を動かした。パジャマのズボンの中で、くちゅくちゅと小さな音が響いていて、もし弟が起きていて、耳を澄ませていたら聞こえてしまうのではないかと思ってドキドキする。
 絶対に知られてはいけないと思うのに、何も知らずに眠っている弟が、いつか気づいて上から覗き込むように顔を出さないかと思ってしまうこともある。
 何やってんだよアニキ、なんて言いながらベッドを降りてきて、想像の中の弟のように、好奇心で触れてくれるんじゃないか、握って扱いてトロトロと溢れる液を舐めてくれるんじゃないか。という想像の中で射精した。
 耳を澄ませば相変わらず弟の寝息が響いていて安堵する。大きく一つ息を吐いて、それから後始末にかかる。
 さっさと済ませようと、手の中にとぷとぷと吐き出されたものを零さないよう握っていた拳を、ゆっくりとパジャマから引き出した。取り敢えずティッシュで手を拭いて、それから下腹部も軽く拭っておく。部屋の明かりは落としたままの暗闇の中、汚れの飛び散り具合がよくわからないからだ。手の隙間から溢れたもので汚れているかもしれない。
 このまま眠ってしまえたらと思いながらも、だるい体を起こして汚れを拭いたティッシュのゴミを握って部屋を出た。
 ティッシュはトイレに流して証拠隠滅。後は手を洗って戻ればいい。
 悶々とした気持ちは精子と共に吐き出したようで随分と頭はスッキリとしているのに、ベッドに戻って横になり目を閉じると、今度はなんだか泣きたいような気持ちになる。それをグッと堪えていると、次には適度な疲労から眠くなるのもいつもの事だった。

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